ブラック・ブレットー白き少女ー   作:虚無龍

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 間違って消してしまったので、再投稿します。


準備

「と言うわけで、数日位帰れないから」

 

 えーっ、と文句を言う『呪われた子供達』をアリスは諭していた。

 

 アリスは影胤に言い渡された仕事を遂行するために、外周区の寝床に戻り、得物を持った。

 

 数日は帰れないため、外周区のマンホールチルドレンの『呪われた子供達』に一言言ってから出発しようとしたのだが、予想よりも遥かに反対する声が多かったので宥めるのに時間がかかってしまっていたのだ。

 

 そんなカオスな状況にあてられたのか、ずっと奥の方で寝ていた影が起きた。

 

「ぅん? アリス?」

 

「? なんで延珠がここに居るの?」

 

 

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 延珠から聞いた話によると、学校でどこからともなく延珠が『呪われた子供達』であるという噂が流れ、それを延珠自身が否定しなかったため、嫌がらせを受け、早退したものの、家に帰る気になれずにここに来てしまったらしい。

 

 アリスは延珠から話を聞きながら皆が居るところから少し離れた所に二人で行き、腰を下ろした。

 

「アリス…………妾はどうすれば良いのだ?」

 

 延珠は泣きそうな目で…………正確には既に泣き腫らした目で聞いてきた。

 

「そうだねぇ…………じゃあ、延珠はどうして自分が『呪われた子供達』だって噂が流れた時に否定しなかったの?」

 

「だって、妾達は何も悪い事なんてしていない!」

 

「それそれ」

 

「? どういう意味だ?」

 

 アリスはしょうがないなぁとでも言いたげな顔で話始めた。

 

「延珠は自分が悪いから嫌がらせを受けたと思ってる?」

 

「そんなこと思ってない!」

 

「じゃあ、気にする必要なんかないんだよ」

 

「え?」

 

「延珠は延珠なんだから。延珠には『呪われた子供達』なんかじゃなくて、立派な藍原延珠っていう名前があるじゃないか。延珠を『呪われた子供達』なんて風にひとくくりにするやつなんか気にすることないんだよ」

 

「…………でも、そんなことしたら、もう妾の味方をしてくれる人なんていない」

 

「…………延珠はそんなことをされても、まだ他の子供達と仲よくしたいの?」

 

「もちろんしたい」

 

「…………私には理解出来ないな」

 

「えっ?」

 

 アリスから出た唐突な否定的な発言に延珠は聞き返した。

 

「私はこことかに居る『呪われた子供達』以外で、同年代の知り合いなんて一人たりとも出来た事すらなかったからね」

 

 ーー前世も含めて

 

 心の中でアリスはそう付け加えた。

 

「…………アリスは妾とは違う考えなのかも知れない。でも、妾は普通の子供達も『呪われた子供達』も関係なく仲よくしたいんだ!」

 

 そう力強く断言した延珠を見てアリスは、少しの間きょとんとした顔をし、そのあと微笑みながら言った。

 

「なら延珠がそういう人達の手本の様な存在になれるように頑張ればいい。私は止めないから」

 

 アリスはそう言ってから、それよりも、と言い、

 

「私なんかよりも先に相談するべき人がいるんじゃない?」

 

 延珠はそう言われると、ばつが悪そうに俯いた。

 

「延珠の家は蓮太郎と同じ家なんだから。何にも言わずに出てきたんでしょ? 蓮太郎も今頃心配してるよ?」

 

「…………うん」

 

「まあ、ここも延珠の家なんだからいつでも来てくれていいんだよ。ここの皆にとっては、皆が皆家族みたいなものなんだから」

 

 そう言ってアリスは延珠を後ろから膝の上に乗せて抱き締めた。

 

「…………ありがとう」

 

 延珠がそう言うとアリスはとても満足げな笑顔で延珠の頭をなで続けた。

 

 

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 アリスがようやく皆を納得させて出発しようとしていたところを、松崎が話かけて来たのだった。

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

「…………何度経験しても、君がどこかに行くのを見送るのは嫌なものですねぇ」

 

「大丈夫だって松崎さん。全然安全だから!」

 

「その格好で言われても全然説得力がありませんよ」

 

 松崎は苦笑しながら言った。

 

 松崎が言った通り、今のアリスは左手に二メートル近い長さをもつ太刀を持っていた。

 

 松崎は気づいていないが、ばれていないが、白いロングコートの内側に特注で作らせた様々な武器が複数など、かなり物々しい装備となっている。

 

「ははは、確かにね」

 

 アリスはそう言って松崎に背を向けて歩き出した。

 

「無事に帰って来てくださいよ! あなたに何かあれば皆悲しみますからね!」

 

 松崎が叫ぶとアリスは振り向かずに手だけを振った。

 

 アリスは服の中から狐のお面を出してかぶり、走り出したのだった。

 

 

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「で? なんで悠河がいるのかな?」

 

 アリスがモノリスにかなり近づいた時、そう言うと、暗闇から悠河が現れた。

 

「…………グリューネワルト教授と五翔会からの遣いですよ」

 

 悠河は何故か、少し不機嫌そうな感じだった。

 

「アリス、君は今、何をしているんだい?」

 

「仮面殺人狂のお手伝い」

 

 アリスはノータイムで包み隠さず即答した。

 

「っ! 何故?」

 

「う~ん、ちょっとした気紛れ?」

 

 今度は少し考えてから、何故か疑問系で言った。

 

「…………なんでだ」

 

「?」

 

「なんでだよ!」

 

 突然大声を出した悠河にアリスは驚いた。

 

「なんで自分から危険な事に首を突っ込むんだよ! 君に何かあったら、困る人はたくさんいるじゃないか!」

 

「えーと、心配してくれてるのかな?」

 

 悠河の勢いに気圧されたアリスは控えめにそう言うと、

 

「なっ! そ、そんな訳ないだろ!」

 

 と、本人は否定したものの、

 

(なんで顔赤くなってんだろ?)

 

 アリスが考えた通り、悠河は頬の当りが少し紅潮していた。

 

 だが、アリスはその理由には気付かなかった。

 

「と、とにかく、五翔会の不利益になることはするなって、伝えて置けだそうだ」

 

「ふーん。ま、どうでもいいけど。それで? もう一つの方は?」

 

 そう言うと悠河は、腰にぶら下げていた拳銃と呼ぶには少し長い物を二丁渡した。

 

 その銃はリボルバー式の銃なのだが、リボルバー部分と銃身がやけに長く、特にリボルバー部分は通常の三倍近かった。

 

「おっ、整備と調整終わったんだ」

 

 この銃はアリスが『四賢人』の内の一人、グリューネワルトに特注で作って貰ったもので、アリス以外には物理的(・・・)に扱えない物である。

 

「じゃ、私は行くからー」

 

 そう言うとアリスは引き留めようとする悠河を後目に走り出したのだった。


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