ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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今回は戦闘場面が無いので、すぐに投稿出来ました。


戯れの終わり

同日

 

現在、ボイドクエスト (最上階)

 

ミツオの影を倒した後のコロッセオは既に見る影も無かった。

辺りはほぼ全壊し、まるで廃墟か遺跡の様だ。

だが、それと同時に既に辺りにシャドウの気配は無く、ミツオの影の消滅に伴いボイドクエストのシャドウは逃げ出した様だ。

 

「………ベンケイ」

 

洸夜は自分の願い通り、ミツオの影を倒すまでは自分に従ってくれたベンケイに感謝しようと手を触れようとした時だった。

ベンケイの全身にヒビが入った。

 

「! ベンケイ………!」

 

洸夜は驚いてベンケイに触れるが、ベンケイのひび割れ止まらず武器と鎧全てにヒビが入ってしまう。

洸夜は頭でこうなる事は多少は予想していたが、実際に目にしてみると言葉が出なかった。

洸夜がそんな風に驚く中、美津雄を陽介達に任せた総司が洸夜を呼びに駆け寄って来た。

 

「兄さん! 久保 美津雄が目を覚ました。これから話を聞こうとーーー」

 

総司がそこまで言った時だ。

 

「「っ!?」」

 

ベンケイは崩れ落ちる様に消えていった。

その姿は燃え尽きた何かの様に儚かった。

そして、明らかにペルソナの普通の戻し方では無い様に見えた総司は、そんなベンケイの消え方に驚きながらも洸夜に問い掛けた。

 

「に、兄さん……今の、ペルソナを只戻しただけなの?」

 

「……」

 

総司の問いに、洸夜はすぐに答えなかった。

洸夜は少し黙ると、フロアの天井を眺めながら総司の問いに答えた。

 

「ああ……当たり前だ。戦いが終わったならペルソナを戻さないとな。周辺にシャドウの気配も無い様だし」

 

「兄さん……。(嘘だ……)」

 

洸夜の言葉に総司は咄嗟にそう思った。

何故かと聞かれれば、それらしい理由は言えないが強いて言えば弟の勘としか言えない。

 

「センセーイ! 大センセーイ! 早く来てクマ!」

 

「おっと……今行く。兄さん……」

 

「そうだな……また逃げられても厄介だし、行くか」

 

総司の言葉に洸夜は頷き、美津雄を見張る皆の下へ向かった。

 

「………。(お前も消えるのか……ベンケイ……!)」

 

内心でそう思いながら……。

 

「答えて! どうして私や他の人を狙ったの!」

 

洸夜と総司が皆の下へ行くと、陽介達が久保を囲んで逃げられない様にしており今は、雪子が自分や他の人を狙った理由を問いただしていた。

しかし、シャドウに呑み込まれていたにも関わらず久保は、雪子達の質問にニヤニヤと笑い、自分達を小馬鹿にした態度でいた。

 

「はは……! お前、雪子じゃん……なに? 今更、俺と話したいって事かよ?」

 

「……。(よくも、そんな事が言えるものだ)」

 

洸夜は状況を理解していないのか久保の未だにヘラヘラと笑い、雪子の言葉にも自分に都合の言いように解釈する態度に呆れを通り越して言葉が出なかった。

だが、久保は額に汗をかいている事から多少は現状を理解しているとも思いたかった。

しかし、久保の態度が気に入らないのは洸夜だけでは無く、ヘラヘラとした久保の態度に千枝が前に出た。

 

「いい加減にしなさいよ! さっさと答えろ! あんたは何で雪子や他の人達を狙ったの!」

 

「それだけじゃねえ。警察だってモロキンの殺人とかでお前を追ってんだ。 その点もどうなのかハッキリしやがれ!」

 

千枝は友を危険に、陽介は大切な人を失った。

目の前に元凶かも知れない男がいるにも関わらず、千枝と陽介がまだ冷静な対応が出来るのは二人とも心が成長したからだ。

だが、千枝達とは違い久保はそうでは無かった。

 

「…………くく。ハハハハ……! そうだ! 俺が殺したんだ! この手で全員を! モロキンも女子アナも発見者も全員俺がこの手でぶっ殺したんだよ! 」

 

「!……。(こいつ……!)」

 

「今の……。」

 

少し感情的に成った久保の言葉で、ある事に気付いた洸夜と総司だったが、気付いたのは洸夜と総司だけで他のメンバーは気付いておらず、久保の話の続きを聞いていた。

 

「誰でも良かったんだよ! どいつもこいつもムカつくんだよっ! だから殺したんだ! 文句あんのかよ!!」

 

尻餅をついているにも関わらず、久保は叫びながらその場で足をバタバタと激しく蹴る様に動かし最早、駄々っ子の様な行動をしていた。

その行動を見ている洸夜達は、先程の戦いや近所の噂等で久保の人間性を多少は理解しているからか、それ程驚きはしないが胸の淵から沸き上がる様な苛立ちを覚えていた。

人を殺しておきながら、この男は何処まで自分勝手な事を言えば気が済むのか。

この場にいる久保を除くメンバー全員が怒りを覚える中、ずっと我慢していた完二に限界が来た。

 

「さっきから舐めた口聞いてんじゃねえぞゴラァッ!!」

 

「完二!?」

 

「完二君!?」

 

完二が久保の首筋掴み、持ち上げる光景に総司と雪子が止めようとしたが、今の完二を止められないと判断したのか口を閉じて状況を見守る。

 

「テメェ……覚悟は出来てんだろうな!」

 

片手で久保を持ち上げ、そのままサングラス越しに久保を睨み付けながらいい放つ完二。

その完二の姿に久保も恐怖したのか、口調を震わせながらも完二に向かってヘラヘラしていた。

 

「な、なんだよ……俺を殺すのか? はは……やって見ろよ!」

 

半分自棄なのか、挑発した様に完二にいい放つ久保だったが、完二は久保がそんな事を言うのを予想していたのか対してその事では怒らず、久保の言葉に怒りを覚えた。

 

「殺すだ? ふざけんな! テメェは取り返しのつかねえ事をしたんだよ! その事の重さや償いする前に楽に成ろうとしてんじゃねえ!」

 

「……ハハハハ。だったらなんだよ、殴るのか俺を? 殴れば良いじゃねえかよ! その代わりお前は退学に成るぞ! 俺の親にだって言い付けるぞ!」

 

本当に今の状況と、現在の自分の立場が分かっているのか疑問に思う程に低レベルな返答をする久保に雪子やりせ、クマすらも絶句しており、その言葉に完二は遂にぶちキレた。

 

「いい加減にしやがれ!!」

 

「待て完二!」

 

今にも本当に顔面から殴り飛ばしそうな勢いの完二に、洸夜は止めに入った。

完二の心を知っている洸夜は、久保の為に完二の拳を汚したくは無かった。

洸夜の言葉に完二も又、渋々と言った完二だが手を離し、久保は苦しそうに咳をしながら再び尻餅を付くが自分の目の前に立つ洸夜を見た瞬間、再びニヤニヤと笑いだした。

 

「なんだよ……お前、りせのバイトじゃん。ハハ……そいつの代わりに、その刀で俺を斬るのかよ?」

 

「! テメェ……まだ分かってねえのか!」

 

「待て完二! 良いんだ……」

 

「なっ! でも洸夜さん……!」

 

久保のこれ以上の挑発に完二は拳を握り絞めたが、洸夜がそれを正した。

完二は何か言いたそうだったが、洸夜の優しい表情に何も言えなかった。

そして、完二を大人しくした洸夜は口を開きながら今度は、腰を下げて久保と同じ目線に成るようにした。

 

「この刀で斬る物は決めている。 それに、なんで俺が名前も知らない見ず知らずのお前を斬らないと行けないんだ?」

 

「はあ? なに言ってんだよお前! ニュース見たんだろ! だったら俺を知ってるだろうが!」

 

洸夜の発言に久保はシャドウの言葉を思い出したのか、酷く怒り、総司達ですら洸夜の言葉の意味が分からなかった。

だが、洸夜はそんな久保の言葉に首を振った。

 

「いや、知らない。俺が知っているのは久保 美津雄と言う少年だ」

 

「だからそれが俺だって言ってんだろ! 馬鹿にすんじゃねえーーー!?」

 

久保が怒りの言葉を言葉にぶつけようとしたが、それは叶わなかった。

久保が言う前に、洸夜が久保の頭を右手で掴んで固定し、自分の眼と久保の眼を合わせたからだ。

明らかに怒りが見てとれる洸夜の目に、久保はようやく恐怖し先程の完二からの恐怖も今更だがやって来て言葉が出なかった。

しかし、洸夜は話を続けた。

 

「いや違う。お前はもう、久保 美津雄ですら無い。今、ニュースで報道して皆が見ているのは殺人犯の久保 美津雄だ。俺の言っている意味が分かるか?」

 

「……」

 

洸夜の言葉に美津雄は震えながら首を横へと振った。

 

「……。(そういう事か)」

 

だが、それを見ていた総司は洸夜が何を言おうとしているのかが分かったが、口には出さず

兄が話すのを待っている事にした。

 

「お前は皆に自分の存在を見せたかったらしいが、今、皆が見ているのは久保 美津雄としてでは無い。………殺人犯として見ているんだ!」

 

「!……だから……なんなんだよ!」

 

「もう、分かっている筈だ。お前が諸岡さんを殺害した瞬間、お前は"お前自身"も殺害したって事を!」

 

「!? (俺が? 俺を殺した……?)」

 

洸夜の言葉に久保は眼を大きく開き、驚いたショックで頭が真っ白に成った。

人を殺めた瞬間から、その人の事を今までのその人として見る事は無い。

ニュース等で報道された瞬間にも、それを見た人はその人物を殺人犯としてしか見ない。

友人だった者も、多少は困惑するだろうが直ぐに現状を理解しようとして、その人の見方も変わるかも知れない。

只、言える事は……今、この瞬間でも久保の事を純粋に久保 美津雄、個人として見る者は誰もいないだろう。

そして、洸夜の言葉を理解したのか久保は 大きく発狂したように天井へ向けて叫んだ。

 

「ウワアァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 

全てを吐き出すかの如く叫び散らす久保。

その姿に、陽介は全て終わったと言う達成感と同時に虚しさを感じた。

 

「………。(終わったのか? 本当に……? だけど……なんで、こんな奴に小西先輩が……! 誰でも良いなら……なんで先輩だったんだよ!)」

 

今まで我慢してたが、陽介は我慢が出来ず眼から涙が溢れだした。

そんな陽介の姿に、総司達、そして洸夜も敢えて何も言わず陽介の中の物を吐き出せようとした。

だが、いつまでも此処にいる訳にも行かない。

そう思ったのか、完二はショックで動けない久保に肩を貸す様にし立ち上がった。

 

「帰りましょう。こいつを警察に引き渡さねえと……」

 

「そう……だね」

 

完二の言葉に賛同し雪子達も入り口へ向かって歩き出す。

今日は今までの戦いで一番疲れたかも知れない。

誰もがそう思っていた。

だが、洸夜はある疑問が頭に残っており、皆よりも少し後ろを歩いていたが、そんな洸夜に総司が話し掛けた。

 

「兄さん……」

 

「……どうした?」

 

「さっきの久保の言葉だけど……」

 

総司のその言葉に洸夜は、総司も自分と同じ答えを考えた事を察した。

 

「……テレビに入れただけなのに、俺がこの手でぶっ殺した……って普通言うのか?」

 

「! ……やっぱり、兄さんもそう思ってたんだ」

 

洸夜と総司は、他のメンバーに聞こえない様に互いに眼を合わせながら話を纏めた。

諸岡を殺害したのは確実に久保だが、他の二人はテレビに入れられその中でシャドウに殺された。

だが、それにも関わらず久保は、まるで三人とも自分が直接手を下した様な事を言っていた。

只の言葉のあやならそれで片付くが、少なくとも洸夜と総司は何処か腑に落ちなかった。

 

「考えても仕方ない……今は戻るか」

 

「そうだね、外ではどうなってるか分からないし」

 

互いにそう会話しながら洸夜と総司達は現実の世界へ戻って行った。

 

===============

 

現在、ジュネス (特別捜査本部)

 

久保を現実に戻した洸夜と総司達だったが、久保がいる事で周りが騒がしく成ると思ったがそう言う事は無く、特別捜査本部まで来る事が出来た。

そして、久保を特別捜査本部の椅子に座らせ、皆で久保を囲む様に見張りながら陽介が警察に電話しようとした時だった。

洸夜がそれに待ったをかけた。

 

「ちょっと待て。少なくとも総司や俺が居るのはマズイかも知れない」

 

「え? 大センセイなんで?」

 

現実に来たのが遅いクマには洸夜の言葉の意味が分からなかった。

そんなクマに洸夜は説明に入る。

 

「クマは分からないと思うが、叔父さんが総司達が事件に関わっているんじゃないかと疑っている。警察が今来たら、確実に叔父さんにも情報が届く。言い訳もそろそろ通用しないぞ」

 

「あ! そうだった……叔父さんに色々言われてたんだ」

 

「そう言えば……お店に来た時も私が色々言っちゃてたし……」

 

「って言うよりも、なんか大センセイの台詞が悪役っぽいよ」

 

「心外だな。少なくとも軽率だった総司達の責任だ。だから、あれほど自分達を中心に考えるなと遠回しに言ったんだ……」

 

「ちょ! 洸夜さん! そう言う話しは後で……今はこいつを何とかしねえと」

 

このままでは洸夜の説教大会が開幕してしまうと思った陽介は、目的を久保へと戻した。

そして、目的を戻した事で洸夜達は再び考える。

 

「……陽介、店員を呼べるか? ここはジュネスだから、居ても違和感ないのは陽介とクマだけだ。 陽介とクマが見付けて店員が警察に通報が一番良いと思う 」

 

「相棒……簡単に言うが、店員を呼ぶにしたって俺とクマだけじゃ不安だぜ」

 

「だったら俺も一緒に居ますよ。堂島のオッサンは豆腐屋で俺が花村先輩達と一緒に居る所を見てるから大丈夫でしょうよ」

 

「それ良いじゃん! 完二くんが居てくれるなら、こっちも安心出来るし」

 

「……まあ、そうだな。少なくともクマよりは頼りになる」

 

「ムキー! ヨースケ、クマに冷たい!」

 

「冷たくねえよ!」

 

騒がしくなる中、完二の言葉になんだかんだで納得する陽介。

そしてその後、完二とクマが久保を見張り陽介が店員を呼びに行ったが、やはり総司達は不安だったらしく、店員が来るまで離れて確認したいと言ったのだ。

その事で洸夜は余り口は挟まず、総司達の好きにさせた。

そして暫くして、陽介が店員を三人に呼んで来て、店員が驚きながらも二人が久保を左右から掴み、もう一人が警察へ電話をする。

すぐに警察に引き渡す為か、その場で警察を待つらしく店から店員に紛れ陽介の父親である店長も出てくると、店長は陽介とクマ、完二に事情を聞き始めた。

このまま居ても後は大丈夫だろうと、洸夜と総司達はそう思い、離れた所から陽介達に合図を送り、陽介達がその合図を返したのを確認すると洸夜と総司達はジュネスを後にした。

 

「……それじゃあ、私と千枝は此方だから」

 

「瀬多君、りせちゃん、洸夜さん、バイバイ!」

 

「分かった。それじゃあ」

 

「雪子先輩! 里中先輩! じゃあね!」

 

「二人とも気を付けて帰れよ」

 

帰り道が分かれる雪子と千枝の言葉に、洸夜達は別れの挨拶をし、洸夜、総司、りせは今度は商店街へ歩いて行く。

 

「……」

 

夕日が商店街を染める中、洸夜、総司、りせの三人は互いに何も言わず、達成感と言うよりも解放感に近い感覚でいた。

色々と疑問はあるが、少なくとも一つの事件は終わった。

この町に来て、まだほんの二、三ヶ月しか経っていないが色々とあった。

堂島家、ベルベットルーム、エリザベスとの再会、過去の問題に弱体化。

洸夜はこの町に来て、色々と起こった事を思い出してしまう。

そんな事を思っている内に洸夜達は豆腐屋に着いていた。

りせは洸夜と総司に手を振りながら店へと入る。

 

「それじゃあ、総司先輩! 洸夜さん! バイバ~イ♪」

 

「うん、それじゃあ」

 

「ゆっくり休めよ」

 

互いに挨拶し最終的に洸夜と総司の二人だけと成った。

互いに疲れているのか、夕日で黄昏たいのか、やはりお互い口を開く事は無かった。

そんな状態で暫く歩き惣菜屋を通り掛かった時だ、惣菜屋の前に置いてあるラジオからニュースが聴こえてくる。

洸夜と総司は歩きながら其を聞いた。

 

『速報です。稲羽市連続怪奇殺人の容疑者と思われる少年がつい先程、稲羽市の大型スーパーで発見され、警察に身柄を確保されたとーーーー』

 

「……」

 

「……」

 

情報が伝わるのが速いものだ。

洸夜と総司は互いに口は開かないものの、互いにそう思っていた。

今まで追いかけていた事件は既に過去と成り掛けているのだから、複雑な気分でそう思わない訳がない。

やっている内は未来だが、終わってしまえばそれは過去。

洸夜と総司は静かにその事を受け止めようとする。

その時、二人の前に一人の人物が現れた。

洸夜も総司も知る人物に、二人は足を止め洸夜はその者の名を口にした。

 

「……直斗」

 

「……」

 

洸夜の言葉に直斗は帽子の鍔を掴みながら二人に一礼し、静かに口を開いた。

 

「……先程、久保 美津雄の身柄を確保したと連絡が来ました」

 

「……そうか、それは良かったな」

 

洸夜は至って冷静に答えた。

しかし、その解答の態度が気に食わなかったのか、直斗は眼を細めて言い放った。

 

「あんまり驚いていませんね。まるで、最初から知っていたかの様だ」

 

「それは考え過ぎだ。感じ方は人それぞれなんだ。これが俺の感じ方だったと言うだけだ」

 

「………そうですか。因みに確保されたのはジュネスらしいですよ。……ちょうど、御二人が来た方向にもジュネスがありますね」

 

微かに微笑みながら直斗はそう言った。

どうも直斗の言い方には違和感がある。

そう感じた洸夜はやれやれと言った表情で返答した。

 

「……回りくどい言い方だな。 一体、何が言いたい?」

 

「洸夜さん……貴方は一体何者なんですか?」

 

「……」

 

直斗の言葉に洸夜は眼を細め、総司は黙って状況を見守る。

直斗が名指しで洸夜を指名したのなら、今回は総司達はの件ではない。

だが、一体何者なんですか? と言われても、内容が分からなければいくら洸夜でも、一体どう返せば良いのか分からない。

 

「どう言う意味で言っているんだ?」

 

「……久保 美津雄が確保された時、側に店員以外に花村陽介、巽完二、そして熊田と言う少年がいたそうです。……そして、天城雪子、巽完二、久慈川りせ、行方不明に成ったメンバーもそうですが、今回の久保 美津雄にもあなた方が関係している」

 

「……そう言う事か」

 

洸夜は面倒だと思った。

別に直斗は総司達の件を無視した訳では無く、一緒に行動しているであろう自分に標的を絞ったに過ぎなかったのだと、洸夜は分かったのだ。

二兎追う者は一兎も得ずと言うが、その二兎が同じ巣穴に帰るならば一兎に狙いを定めた方が良い。

そう判断した直斗が選んだ一兎が、どうやら洸夜だったと言う事。

 

「偶然って怖いな……」

 

洸夜はそう言いながら再び足を前に進め始め、総司も追う様に洸夜の後を追う。

だが、洸夜が直斗の隣を横切って言ったその言葉を聞き、直斗は怒りで眼を鋭くする反面、洸夜らしいと思い深く溜め息を吐いた。

 

「はぁ……。(言う気は無いって事ですか……全く、この人が一体何を考えているのか本当に分からない) 久保 美津雄は模倣犯です。僕のこの推理は変わらない」

 

「……直斗。言いたく無いが、もうこの事件はーーー」

 

「話は以上です。僕は行く所が有るので……それでは」

 

「………」

 

洸夜の言葉を最後まで聞かずに、直斗はそのまま洸夜達とは反対側へ歩いて行った。

洸夜も直斗の質問にあやふやに返したのだから、こう成っても仕方ない。

 

「兄さん。なんで直斗に事件の事を教えないの?」

 

そんな洸夜に総司が問い掛けた。

 

「……お前なら言えるのか総司?」

 

「………いや、直斗は信じられるけど何て言えば言いか良く分からない」

 

「……俺もだよ」

 

総司の言葉に、言葉は軽く笑いながらそう言った。

 

=============

 

現在、堂島宅 (洸夜の部屋)

 

あれから数十分。

洸夜と総司は堂島宅に帰宅し、居間でテレビを見ていた菜々子から笑顔で向かえられてそれぞれの部屋へ戻った所だった。

 

「……」

 

今日は忙しく布団を部屋に引きっぱなしだった洸夜だが、部屋に入った瞬間、刀を入れた袋を背負ったまま布団に倒れ込んだ。

額から汗は流れており、エアコンがついている事からどうやら、暑さでの汗では無いようだった。

 

「はぁ……はぁ……。(さっきまで格好つけてた癖に、気が抜けた瞬間にこれだ。身体に力が入らねえ……)」

 

洸夜は疲れていた、肉体もそうだが、何より心が……。

 

「……」

 

洸夜は腰に掛けていたペルソナ白書を目の前に運び、ページを捲った。

そこには、殆どが白紙でたまに文字が書かれているだけだった。

この時既に、洸夜のペルソナ白書は全体の70%が消えていたのだ。

そして、今日も又、洸夜は嘗ての戦いを共に乗り越えた仮面を失った。

戦車の仮面『ベンケイ』

この仮面を失ったショックは大きかった。

暴走しかけたが、ちゃんと自分に従ってくれた。

弟達を守らせてくれた。

もしかしたら、弱体化が無くなり始めたのでは無いかと内心でも少し思ったが、そうでも無かった。

 

「………。(……結局、俺はこの町に来ても何も変わらないのか)」

 

洸夜はそう思い、ふと左手を見た。

少し前までは付いていた物が無くなっている。

洸夜はまたペルソナの暴走が始まるのかと、内心で苦笑しながら眠りに入った。

 

Buuuuu! Buuuuu!

 

携帯の着信音が成っている事に気付かずに……。

 

=================

 

現在、堂島宅 (総司の部屋)

 

「………」

 

部屋に戻った総司は考えていた。

それは、ミツオの影との戦いでりせが自分に言った言葉であり、内容は洸夜の着けていた腕輪の件であった。

 

『え? ペルソナ能力の制限……?』

 

『うん……洸夜さんの着けていた腕輪から、ペルソナ能力を抑える様な感じがしてたんです。多分あれは、一定の力を超えたら強制的に力を制限してペルソナが、一定の力しか使えなくさせるペルソナ能力専用の道具 』

 

『………じゃあ、兄さんは本気で戦えていないのか?』

 

総司は考えた。

何故、洸夜はわざわざ自分に得の成らない事をしているのか? 普通に考えれば自分の力を制限すればいつもの様な戦いが出来ず、本調子に動く事が出来なくなる。

だが、よくよく思い出せば あの腕輪を渡したのはお見合いで会った桐条美鶴だ。

彼女が洸夜に腕輪を自分を通して渡した理由は分からないが、総司は何か良からぬ事が洸夜に起きているのでは無いかと思えて成らなかった。

しかし、いくらそう思っても洸夜は総司にはそう言う事は言わない。

お見合いの時もそうだった事から、総司はどうしようも無いと思い、溜め息を吐いてしまう。

総司はそんな感じで話は終わると思っていたが、りせの話はまだ終わっていなかった。

 

『あと、これは関係あるか分からないんですけど……さっき、あのペルソナに洸夜さんが指示を出した時、一瞬なんだか様子がおかしかった様に見えたんです』

 

『ペルソナの様子が……? 具体的にはどんな?』

 

総司の言葉にりせは考え込む様に頭に指をつけた。

 

『………なんて言うか、あのペルソナ……"悲しそう"だった』

 

りせの言葉をそこまで思い出すと、総司は我に帰った。

兄の異変、ペルソナの異変。

どれもこれも良く分からないし、久保の件も良く分からない。

自分だけならば気のせいで片付いたが、洸夜も自分と同じ意見ならば気のせいで片付ける訳には行かない。

久保の言葉。

久保は本当に三人を殺害したのか? それとも、兄や直斗が言った通り模倣犯なのか?

 

「………今、こんなに考え込んでも仕方ない。 今日はもう休もう」

 

なんだかんだ言って総司もそんな心身共に体力が余っている訳では無く、総司は疑問を一旦保留にして洸夜同様に引きっぱなしの布団に横に成ろうとした時だった。

 

~~♪ ~♪ ~♪ ~~~~♪

 

「……電話だ」

 

着信音が成っている携帯を総司は手に取った。

疲れているとは言え、メールでは無く電話ならば出るのが総司だ。

もし、イタズラ電話の類いなら激怒するが……。

そう思っていた総司だが、ディスプレイに写る名前を見てその考えを消した。

 

「(これって……) ……もしもーーー」

 

『ちょっと総司! 聞いたわよ!! あんたと洸夜がいる稲羽で怪奇殺害起きてるんだって!? 遼太郎からは何も聞いてないし! 菜々子ちゃん大丈夫なの!!?』

 

「………母さん。(耳が痛い……)」

 

電話を掛けてきた人物。

それは、この家の主である堂島 遼太郎の実の姉であり、洸夜と総司の実母その人であった。

突然の大音量的な声に総司は、電話を耳から放すが、まるでまだ耳に付けているかの如く声が響いていた。

息子達、弟、姪を心配する母、姉、叔母心だとは思うが出来れば聞く方の身にも成って欲しいと思う総司だったが、そんな総司の想いも虚しく母親から声はまだ途切れない。

 

『もう、あんた達と来たら……普通だったら連絡するでしょ! 海外(こっち)でも報道されるレベルよ? 尋常じゃないんでしょ! 全く……なんでお見合いの時の電話言わなかったのよ……』

 

「言いそびれただけだって……それに、容疑者はもう逮捕されたし………。(あれ? お見合い? そうか……! 兄さんにお見合いの話を持ってきたのは母さんだ。 母さんに聞けば、あの美鶴って人達と兄さんの関係が分かるかも知れない)」

 

母親に言い訳する総司だったが、洸夜にお見合いの話を持ってきた張本人である事も思い出した。

母親がお見合いに関与しているならば、少なからず兄である洸夜とお見合いで会った美鶴達との関係性が分かるかも知れない。

そう思った総司は、すぐに母親に聞くことにした。

 

「ところで母さん。お見合いの件で聞きたい事があるんだけど?」

 

『お見合い? あ~お見合いね、そう言えば洸夜が倒れて保留に成ったのよね? 相手の方から連絡来たわよ。 やっぱり、馴れない環境とかで洸夜に無理させたかしら……元々、休養を兼ねて行かせたんだけど………』

 

お見合いの話で少し母親の声のトーンが下がるのを総司は感じた。

自分達といても洸夜は休養させる事は出来ない。

そう思って両親は稲羽へ洸夜を行かせたのだが、別に洸夜の体調不良は稲羽の町が原因では無く、お見合いでの昔の友との再会が原因である事は両親は知らない。

だが、それでも息子達に苦労を掛けているのを両親は分かっていた。

だからこそ、今回の自分達の選択が大事な息子達を傷付けていないか心配なのだ。

総司はそれを知っている為、特に言葉は言わずにお見合いの件を聞いた。

 

「その件だけど……何で相手が桐条なの? 三年位前に決まったとか聞いたけど?」

 

『ん? あ~それね、実は三年位前に今の桐条のトップのお父様、つまり先代のトップの桐条 武治さんから直接連絡が来たのよ。 お宅の息子さんと娘をお見合いさせたいって』

 

「え? なにそれ? なんでそう成ったの?」

 

総司は訳が分からなかった。

桐条と言えば、殆どのシェアに参加し成功を収めている言わば名家だ。

何故、そんな所からわざわざ兄である洸夜を指定して来たのか、総司に理解に苦しむ。

しかし、それは自分だけでは無かった様だ。

総司の問いに母親も困惑した感じで答えて来たのだ。

 

『私もお父さんも良く分からないのよ……なんか、あっちで勝手にテストして洸夜は合格だとか色々と理屈っぽい事を言われたんだけど、勝手にテストしていきなりお見合いって言われても此方も困ったわよ』

 

少し冗談混じりの感じで話す母親だったが、突然、声のトーンを少し下げた。

 

『 ……それに、あの時に始まった事じゃ無いけど、桐条の悪い噂は有名だったし、下手にお見合いして自分の息子が何かに利用されて切り捨てられる可能性も踏まえれば、家とそちらでは釣り合えないって言って何とか断ろうと思ったのよ……」

 

「思った……?」

 

母親の言葉に総司は疑問に思った。

母と父は少なからず最悪のパターンも考え、お見合いを断ろうとしていたらしいが母の口調と実際にお見合いが行われた事を考えれば何かが両親の考えを変えたと言う事だ。

総司の言葉に、母親が電話越しから頷いているのが分かった。

 

『うん。でも、相手の方が諦めなかったのよ。許嫁までも取り消したって言うし、それが本当だったら尋常じゃないでしょ? だから堂々と聞いたの、確かに私達の仕事は他国との繋がりが強いですが、なんでそこまでして家の洸夜なんですか?って……そしたら』

 

「……そしたら?」

 

『………"せめて、これぐらいは娘の好きにさせてあげたい" って言われたのよ。多分、娘さんの事だと思うんだけど……まあ、結局は 桐条の当主直々の電話に あんなに思い詰めた感じで話されたら、 もう無視は出来ないわよ。 それに、その人とも面識有ったから多分、大丈夫だと思ったし』

 

「……母さん、なんか軽くない? それに、(写真を見る限り) 家と桐条さんの接点って兄さんが高校同じってだけでしょ?」

総司が母の言葉にそう言った時だった。

総司の言葉に、電話の向こうから "あ~そうかそうか……あんたも洸夜も覚えてる訳無いか" と言う母の声が聞こえた。

まるで、洸夜の高校以前にも接点がある様な感じだ。

 

「どういう意味?」

 

『さっき、私……桐条 武治さんと面識有るみたいな事を言ったでしょ? その時なんだけど、あんたも洸夜も"一緒"にその場にいたのよ』

 

「えっ!?」

 

総司は母の言葉に今日一番の驚きを見せた。

まさか、そんな所に接点が有るとは……しかし、自分にはそんな記憶が一切無いの何故だろう?

総司のその疑問は、次に発せられる母の言葉によって解決した。

 

『総司がまだヨチヨチしてて危なっかしくって、洸夜もまだ小さかった時にね、仕事の都合上で桐条 武治さんと会わないといけない時が有ったのよ。 でも、当時は引っ越して来たばかりで総司と洸夜だけを置いていく訳には行かなかったの……お父さんもその時は別の所にいたし』

 

母の言葉に総司は何か思い出しそうな気がした。

今は殆ど無いが、昔は父と母両方が揃っていない時期も有った気がしたのだ。

 

『近所も良く分からない。でも、商談の時間は迫ってる。どうしようかと思った時よ、桐条の人から電話が来たのよ。商談前に一回だけ念のために連絡するって約束だったんだけど……忘れてて、それでどうしようも無かったから桐条の人に事情を話したの……そしたら』

 

「そしたら?」

 

先程と同じ様なパターンだが、総司はそんな細かい事は気にせずに耳に集中する。

 

『息子さん達を連れて来ても構わないって言うのよ……。此方からはありがたい事だったんだけどね。自分にも子供がいるから気持ちが分かる……そう言ってたわ』

 

「……じゃあ、その商談に俺と兄さんは……一緒に行ったんだよね?」

 

総司の言葉に、電話越しから母が頷くのが分かった。

 

『……そう言う事。商談場所は特別な所だったから桐条の方が迎えに来たわ。どんな場所だったかは思い出せないけど、話によると破棄する予定の建物だったみたい。時間の都合でそこで商談せざる得なかったみたいな事を言ってたし』

 

「……そんな事があったんだ。でも、俺はともかくなんで兄さんは覚えてないの? 兄さんは俺より大きかったんだよね」

 

総司は何気無い事を言ったつもりだった。

だが、少し母から感じる雰囲気が暗く成るのを感じ取った。

何かマズイ事でも言っただろうか?

総司は疑問に感じたが、母はすぐにその訳を答えてくれた。

 

『実は、その事なんだけど……その時ね、その建物で問題があったのよ』

 

「問題……!」

 

総司は嫌な予感がした。

先程の会話から察するに、その問題に兄が関わっていると言う事が分かったからだ。

総司は無意識の内に背中から冷や汗をかき、息を呑んで母の言葉の続きを待った。

 

『……私が小さかった総司を抱きながら桐条さんと商談してる間、洸夜がいなくなったの。それに桐条さんが気付いて部下の人に頼んで探してくれたのよ。最初は桐条さんも冷静な表情をしてたんだけど……その時に"警報"みたいなのが鳴ったのよ』

 

「警報? 火事か地震?」

 

『多分、違うと思うわ。サイレン音じゃなく、音声で何か言ってたから……確か……"時間"がどうたらとか、そんな感じ………そしたら、桐条さんの表情が変わったのよ……』

 

そう言って母は少し間を空け、息継ぎするかの様に呼吸をして続き話した。

 

『……"まさか、疑似装置か……!" とか言ってた気もするし……でも、あの時は不安だったわ。桐条の悪い噂が頭に過ったの……話してみれば桐条さんは良い人だったわ。でも、組織だと全員が同じな訳ないし……そう思ってた時に、桐条さんが部下数名を残して、私に商談の部屋から絶対出ない様に行って何処かへ行ったわ。……それから数分後に洸夜は見付かったの』

 

「兄さんは何処にいたの?」

 

『それが、分からないのよ。警報に怖がって気絶してたらしくて、その時の事を洸夜は覚えて無いらしいの。桐条さんは廊下にいたって言ってたけど……』

 

「………でも、兄さんの身体に問題は無かったの?」

 

警報の一件には驚いたが、一番の問題は洸夜に何も問題は無かったのかと言う事だ。

まあ、今の洸夜を見れば大丈夫だとは思うが、総司の言葉に母は明るい感じに話して来たので心配は無用だったのがすぐに分かった。

 

『その件は大丈夫! 桐条さんの方が手配して洸夜を検査してくれたけど、特に問題は無かったわ。ただ……』

 

「え? やっぱり何かあるの?」

 

『そんな心配しなくても大丈夫だから………気になった事があっただけよ。 ……その後に、何度か桐条さんご本人から連絡があったのよ。息子さんに異常は無いかとかね』

 

「本人って……桐条の偉い人でしょ? なのに、なんでそんなに……」

 

『……今と成っては分からないわよ。お見合いの件も、予定を決めようとした時に桐条さんが亡くなってしまったから……お見合いもそのまま消えたと思ったんだけど、部下らしき人から連絡が来てね……そして、総司の知る今に至るって事かしら』

 

「……そうなんだ。(結局、分からないままか……)」

 

母の話は驚く内容だったが、総司の望む物では無かった。

自分達と桐条に接点はあったが、洸夜と美鶴達の事では無い。

 

『……さて、そろそろ切るわね。息子と色々と話せて楽しかったわ~。洸夜にも宜しくね!』

 

そう言って母は、掛けてきた時と一緒で一方的に切ってしまった。

だが、そう感じながらも総司も久々の母との会話を楽しんでいたのは此処だけ秘密。

 

「……目が覚めちゃったな。 (夕飯何を作ろう……)」

 

母との会話で総司はすっかり目が覚めてしまった為、下に降りて夕飯の仕度をする事にした。

そして、冷蔵庫を開けて食材を買い忘れており、インスタントで済ませたのは余談である。

 

End

 

 

 

 


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