ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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夏は麦茶一筋!


違わなくない

同日

 

現在、ボイドクエスト(上のフロア)

 

「洸夜さん! 洸夜さーーーんっ!」

 

古いゲームの様にチカチカと光りながら古城の様に姿を映す床。

その床の上で気絶していた洸夜は自分を呼ぶ声、近距離からメガホンでも使っているのではないか と思わせる程の大声で目を覚ました。

 

「此処は……」

 

目を覚ました洸夜は現状を理解する為に、上半身だけ起き上がらせ完全に目覚めていない頭で有りながらも首を動かし辺りを見回した。

だが、一番最初に洸夜の目に入ったのは傷付いた通路でも無ければシャドウの残骸でも無く、満面な笑顔の千枝と、何故か顔面に靴後らしき後がある陽介の姿だった。

洸夜は思わず目を大きく開いて陽介を見た。

 

「花村……!? 俺が気絶している間に何があったんだ! シャドウに襲われたのか!?」

 

「いえ……別にシャドウは関係ないんすよ。主な元凶は……」

 

洸夜の言葉に陽介はそう答えながら千枝の方をジト目で見る。

それに対し千枝は少し冷や汗をかき、苦笑しながら口を開いた。

 

「いや……ハハ、って目開けたら私の上にいたからつい反射的に……」

 

「だからっていきなり蹴るのはおかしいだろ!」

 

「仕方ないじゃん!あんな状況だから襲われてると思ったんだもん!」

 

千枝は出来るだけ状況を詳しく話し、自分はわざと蹴った訳では無い事を説明する?

だが、千枝の話を聞いた陽介は鼻で笑った。

 

「いや、あり得ねえから。里中襲うんだったら頑張って天城を襲う!」

 

「何をぉぉぉ! 私の青龍伝説まだ弁償してない癖にその口はなんだぁぁ!」

 

陽介の言葉に怒った千枝は、陽介目掛けて蹴りを放つが陽介はそれをギリギリでかわした。

 

「あ、危なっ!? な、なにしやがる!?」

 

「うっさい! 謝ってるのにぶつくさ言ってさ!」

 

「おいおい……今は争っている場合じゃないだろ? まずは現状把握……ん? 」

 

陽介と千枝の仲裁に入ろうとして洸夜が立ち上がると、何かが足にぶつかった事に洸夜は気付いた。

それは、洸夜が少し前にエリザベスに預けたペルソナ白書だった。

洸夜はペルソナ白書を広い上げるとページを数ページめくった。

 

「俺のペルソナ白書だ……。(これが此処に有ると言う事はエリザベスが此処に来たのか? そう言えば身体に痛みや疲れがない。治してくれたのか……彼女には助けられてばっかりだな)」

 

洸夜はエリザベスが此処に来て、自分達を治してくれた事に気付く。

そして、この頃彼女に助けられてばかりな気がした洸夜は、短い間に色々あった為に気分が暗く成っていた自分を一喝して気を引き締め直しすと現状を把握する為にワイトを召喚しようと試みた。

 

「ワイト!」

 

ワイトが召喚されたのを肉眼で確認すると、洸夜はその場に膝をついてしゃがむと目を閉じた。

それに気付き、陽介と千枝も洸夜に近付いた。

 

「洸夜さん、一体なにしてるんですか?」

 

「……ワイトの力を使って総司達と連絡をとる」

 

「れ、連絡……出来るんですか!?」

千枝の驚きの声に、洸夜はただ小さくそして短く ああ……とだけ言って返した。

それだけこの探知タイプのペルソナ特有の離れた相手に連絡を取る力をしようするには、それなり集中力がいる。

ましてや、今の洸夜は弱体化の影響もあって通常よりも集中力を要する。

また、ワイト自身が持ち、りせのシャドウのマハナライズをも無効化するジャミング能力だが今回ばかりはそれが邪魔をする。

弱体化しているにも関わらず、上級シャドウをも惑わすジャミング能力。

其ほどままでの力だ、他者に連絡する時に限ってはそのジャミングによって上手く互いの言葉が聞こえず、ジャミング能力を解除しなければならないのだが、それは洸夜が無防備に成ると言う意味でもある。

 

「……すまないが、俺が総司達に連絡をとっている間の護衛を頼む。この時だけはジャミング能力が使えない。だから今だけはシャドウから身を隠せないんだ」

 

「わ、分かりました」

 

洸夜の言葉に答える陽介と頷く千枝。

その二人の様子に洸夜は安心して背中を任せ、再び精神集中を始めた。

 

「……。(……りせの奴、ちゃんと通信能力に気付くと良いんだが)」

 

少しの心配を内心で思いながら……。

 

=================

 

現在、ボイドクエスト(下層エリア)

 

『ーーーせ! ーーりーーーーせ!』

 

「えっ! (洸夜さん……?)」

 

早く上に向かう為に走っていた総司達。

だが、りせは一瞬だが洸夜の声が聞こえた様な気がして走っていたその足を止めた。

耳から聞こえた訳では無く、直接頭に流れているかの様な感じだが空耳の様に僅かにしか聞こえなかった。

何かの拍子に聞こえなく成ってしまうのでは無いかと思わせる程に小さな声。

幻聴かもしれないが、それにしては妙にリアル。

それでも常人ならば気のせいと思い、無視したかもしれない。

しかし、りせは違った。

りせは、僅かな声から感じるこれまた僅かな力に気付いた。

 

「これって……。 (この力……ヒミコの力に似てる。なんだろう、もう少しで分かる様な……)」

 

りせは微かな力を感じる為にその場で目を閉じ、更にヒミコを召喚した。

その姿はまるで、その場に溶け込み身体全体で周りから感じる力を読み取っているかの様に見えた。

そして、ヒミコを通して先程の洸夜の声が更に強く聞き取れるのにりせは気付いた。

 

「この力……やっぱりそうだ。 (この力からワイトを感じる。多分、探知タイプのペルソナ特有の力なのかも知れない)」

 

洸夜の感じた不安は心配要らなかった。

りせは、洸夜の送った通信から感じる微かに残るワイトの力に気付いた。

これは探知タイプのペルソナを通しての通信能力。

そうと分かれば話は早かった。

りせは先程よりも深く集中力を研ぎ澄ませた。

 

『り……せ……えるか? き……たら、へ……じしろ!』

 

「もう少し。あとちょっと……!」

 

徐々に聞こえ始めた洸夜の声。

先程よりも雑音は無く、段々と通信能力のコツも掴んできた。

もう少しで完璧に受信出来る。

りせは針の穴に糸を通すかの様に洸夜からの通信を受信する一つの事に精神を使う。

 

「りせ……?」

 

りせが足を止めた事に総司達も気付き、足を止めてりせに近付いた。

 

「どうしたのりせちゃん? 何かあったの?」

 

「疲れたなら休憩すっか?」

 

雪子と完二が心配してりせに声を掛けた。

先程の大量のシャドウとの戦いで、一番神経を削っていたのは探知タイプのりせなのは二人は分かっていた。

だから心配して雪子と完二は声を掛けたのだが、りせは集中力を乱れさせない為に二人の言葉に振り向かず、そのままの状態で皆に現状を説明した。

 

「……ごめん。少しだけ静かにしてて、今洸夜さんからワイトを通して連絡が来てるの」

 

りせの言葉に総司達は顔を見合わせた。

 

「連絡つったて何も聞こえねえぞ。ここ、携帯だって繋がんねえし……ああ! めんどくせえっ!」

 

りせにそう言いながら片手で自分の携帯を弄る完二。

既に分かりきっている事だが、やはり携帯には圏外の文字が示されていた。

振っても特に変わると言う訳では無いが、完二はジッとする事が出来ず携帯を振りまくった。

そんな完二に対し、今一言葉が思い付かなかった総司達は特に何か言う事も無くりせを見守る為に黙ってりせを見た。

 

「…………っ!」

 

総司達が見守って程なくりせの目が開き、ヒミコの頭部でもあるアンテナが先程まで左右に動いていたが今は安定して受信している様に一定の方向から動かなく成った。

そして、ヒミコの持つ王冠の様な物を被っていたりせは洸夜からのメッセージを聞き直した。

 

『りせ! りせ!………やっぱり駄目か。 全然返答が無い……そうだ、いっそのこと悪口みたいに言えば気付くかも知れないな。 良し……りせの勉強嫌い! せめてローマ字は理解しろッ!!!』

 

「……洸夜さん。聞こえてますよ」

 

『りせの…………ぴ、ぴーーががーーー』

 

りせに気付かせる為、りせ自身の事を叫ぶ洸夜。

だが、りせからの言葉を聞いた瞬間に洸夜はわざとらしく雑音を口から出し始めた。

明らかに雑音の音に洸夜の声が混ざっているのは分かりきっている。

りせは、そんな洸夜に対し頬を膨らませるとヒミコを通じて講義した。

 

「洸夜さんっ! なに子供みたいにしてるんですかっ!!」

 

『す、すまない……返事が無かったからつい……』

 

言葉しか聞こえないが、その口調から洸夜が反省しているのは確かな様子。

言葉が終わりに向かえば向かう程に申し訳無さそうな口調に成っているのが分かった。

りせはやれやれと言った感じで口を開く。

 

「もう……それで、洸夜さん達は無事なんですか?」

 

『ああ、花村も千枝ちゃんも無事だ。花村は少し負傷してるがな』

 

「負傷……?」

 

負傷と言う言葉に心配するりせだが、何故か洸夜の口調はどこか笑いを堪えている感じに思えた。

込み上げてくる笑いを抑えるかの様に楽しそうに明るく話す洸夜。

すると、洸夜の後ろ辺りから聞こえる声がりせの耳に届いた。

 

『ちょっ!? 洸夜さん! その話は良いですから!』

 

『いや良くねーよ! こうなったら相棒達にも俺の身に何があったか教えてやるんだ!』

 

りせの耳に届く陽介と千枝のいつも通りの会話。

怒った感じの口調だが、二人の声からは怒気は感じない。

非現実の世界にいるとは言え、現実の世界と変わらない物もある。

陽介と千枝の二人の会話に、りせは自らの心が安心していくのを感じていた。

 

「……りせ。兄さんとは本当に連絡がついているのか?」

 

先程からりせだけが一人で勝手に盛り上がっている様にしか見えなかった総司は、いったい現状がどうなっているのかを聞く為にりせに声を掛けたのだ。

 

「あ……危うく忘れるところだった。洸夜さん、総司先輩達にも声を聞かせてあげたいんですけど?」

 

いきなりの通信や洸夜の暴露に、思わず総司達を意識の外に出していたりせは思い出した様に洸夜に質問する。

自分一人が聞いた所で、重要な会話等があったら全てを完全に覚えきる自信はりせには無かった。

だからと言って、どうやって皆にも洸夜達の声を聞かせれるのかが分からない。

そんなりせからの問いに、洸夜は少しだけ間を空けるとりせに説明した。

 

『…………りせ。まず、自分を中心とした円上のサークルをイメージしてみろ』

 

「え? は、はい……。(自分を中心とした円上のサークル……円上……円上……)」

 

りせは洸夜の言葉の通りに頭の中で自分を中心とした円上のサークルをイメージした。

それによって現在のりせのイメージでサークルの中にいるのはりせだけと成った。

 

『イメージしたか? なら次は、そのサークルを徐々に広げて行きそのまま総司達をサークルの中にいれるんだ』

 

「はい……。(サークルを拡大……拡大……)」

 

先程と同じ様に洸夜に言われた通りのイメージをするりせ。

先程のイメージではりせ一人しかサークルの中にはいなかったが、徐々に広げて行ったサークルの中に総司達も入った。

そして、イメージが完成した事でりせは額を流れる汗を右手で拭うと洸夜に報告する。

 

「出来ましたよ洸夜さん!」

 

『良し、上手くいってれば聞こえる筈だが……総司、皆、聞こえてるか!』

 

『雪子!』

 

「おい! 完二! クマ!」

 

総司達に呼び掛ける洸夜と、洸夜を通じて語り掛ける陽介と千枝。

そんな三人の呼び声は総司達に届き、耳からの様な頭に直接の様な何とも不思議な感覚の声が総司達にも聞こえた。

 

「! 兄さんの声が頭に……」

 

「聞こえるよ千枝!」

 

「ヨースケ~!」

 

「そっちの方も無事みたいッスね」

 

『ああ……そっちに連絡をしながら自分の現在地を調べたが驚いた。まさか、落ちたのに上の階に移動したとはーーー』

 

洸夜が皆に現状説明をしようとしていたが、後方から千枝が洸夜の言葉を遮って叫んだ。

 

『雪子! ホントに大丈夫!? 皆も本当にケガとかしてない!』

 

「さ、里中先輩……声を抑えてくれよ! 心配してくれるのは嬉しいんスけど、この通信俺ら全員に聞こえてるんスよ」

 

『あっ……ごめんごめん』

 

「私達は大丈夫だから。それよりも千枝達の方が心配だよ……」

 

『話を戻して良いか?』

 

このままではいつまで経っても話が前に進まない。

それに、なんだかんだ言っても今回のこのダンジョンは何処かがおかしい。

早く久保を見付けて脱出するのが一番の得策だ。

洸夜は内心で今回のダンジョンから感じる気味の悪い雰囲気を汲み取り、そう思いながら千枝達の話を中断させて話を戻した。

 

『でだ……結局、今俺達が出来る最善の策だが……』

 

「普通に考えれば合流だと思うけど?」

 

『総司、確かに俺も最初はそう考えた……だが、無理だ』

 

「ええっ!? どうしてクマ!」

 

洸夜の言葉に戸惑いを隠せないクマは思わず叫んだ。

この状況下と先程のシャドウの奇襲の件もある。

ここはどうにかしても合流をした方が良いと思うのは誰でも一緒だ。

勿論、洸夜もその事は理解している。

一網打尽の罠等が無い限りは下手に戦力を分散させる理由は無い。

だが、其なのにも関わらず、洸夜が合流を断念した訳はこのダンジョンの造りにあった。

 

『……先程からダンジョンのマップをワイトを使って見てたんだが、どうも色々な仕掛けが施されて合流は難しいと考えた方が良い』

 

ワイトを通じてダンジョンのマップを見ている洸夜は自分の言っている事が分かるのだが、マップを見れない総司達からすれば説明不足だ。

雪子が洸夜に口を開いた。

 

「どういう意味ですか洸夜さん。色々な仕掛けって……?」

 

『このダンジョンはフロアは今までのダンジョンの様に階段で繋がっている。だが、そのフロアの中に壁と言うか、空間が歪んでいると言うか、まあ簡単に言えばこのままお前等が階段を上って来たとしても俺達と合流は出来ない』

 

「ええっ! じゃあ、一体どうするんスか!」

 

完二の言う事は的を得ている。

このままでは合流が出来ない。

しかし、洸夜は既に合流手段を見付けていた。

洸夜は最上階のマップを頭の中で見ながら、完二の問いに答えた。

 

『慌てるな……他のフロアでは合流出来ないが最上階には殆ど仕掛けが無い。だから合流するならーーー」

 

洸夜がそこまで言った時だった。

 

『洸夜さんっ!!』

 

洸夜の言葉を遮る陽介の叫び声。

そして、それに反応するかの様に同じように叫ぶ千枝。

 

『ちょっ! コイツら!?』

 

『シャドウか! いつのーーー』

 

「えっ!? 洸夜さん? 花村先輩! 里中先輩!! 」

 

突然の事に叫ぶりせだが、洸夜達の言葉はそこで途切れた。

総司達は先程聞こえた洸夜達の言葉を聞き、三人がシャドウに襲われたのだと分かった。

だからと言って自分達に今出来る事は一つしかなかった。

総司は皆の方を向き、これからの行動を説明した。

 

「最上階へ行こう。兄さんの話だとまともに合流出来る場所はそこしかない」

 

総司の言葉に小さく頷く雪子達。

この場にいる全員が、洸夜達がこの程度でやられるとは最初から思ってはいない。

だが、やはり人間だからか頭で分かっていても心配してしまう。

そして総司達は、まるでその心配から来る不安を振り払うかの様に階段へと走って行った。

 

「コーン!」

 

「ぬおっ! お前いつの間に!?」

 

先程まで気配を消し、忘れ去られていたキツネに驚きながら。

 

=================

 

 

現在、ボイドクエスト(上フロア)

 

「邪魔すんじゃねえっ!!」

 

『小剣の心得』

 

洸夜は自分に向かって来たシャドウをオシリスによって強化した刀で斬り付けた。

そして斬り付けられたシャドウはそのまま胴体が二つに割れながら消滅する。

シャドウが消滅した事を、洸夜は直ぐに振り向いて確認して現状を把握した。

 

「一、二、三、四……残り四匹か」

 

通信中に襲われたにも関わらず、洸夜達は咄嗟に反応して迎撃を開始した。

この位の奇襲ならば嘗ての戦場であるタルタロスのシャドウや、満月の大型シャドウの方が達が悪い。

この様な状況でも洸夜が冷静に要られるのは前の戦いでの経験のお陰だ。

そして、洸夜が周りを警戒している間にも陽介と千枝も奮闘していた。

 

「「スサノオ!/スズカゴンゲン!」」

『『ソニックパンチ / 暴れまくり』』

 

スサノオが放った拳は吸い込まれる様に一体のシャドウを捉え、そのまま壁に叩き付けた。

壁にぶつかった瞬間に聞こえたメリっと言う音がシャドウが消滅する事を教えている様だった。

また、その隣ではスズカゴンゲンが武器である両刃剣を上に向けて我を失っているかの如く大きく振りました。

力強く回された両刃剣から生まれる螺旋の斬撃に巻き込まれた二体は、そのままブロック状に斬られ消滅する。

 

「よっしゃあっ!」

 

「残り一匹……どこ!?」

 

三匹のシャドウを倒した事で残りのシャドウは一匹。

陽介と千枝は辺りを見回すが見付からない。

だが、辺りを警戒していた洸夜が気付いた。

 

「後ろだ二人とも!」

 

「「なっ!? / しまっ!」」

 

洸夜の言葉に反射的に背後を振り返る陽介と千枝。

そこには、身体に白く赤いラインが入った巨大なシャドウ"獣神のギガス"が今まさに陽介達に向かって低くゴツい声を発しながら拳を降り下ろそうとしていた。

しかし、洸夜の方が速かった。

 

「キングフロスト!」

 

洸夜はシャドウの真上にキングフロストを召喚し、そのままシャドウの上に落下した。

キングフロスト程の重量を持つペルソナに押し潰されたのだ、シャドウはキングフロストの下で足掻くがキングフロストが退く筈もなかった。

 

『ヒホ~~!』

 

キングフロストがそう声を発すると同時に、潰されていたシャドウの身体が氷付けに去れていく。

そして、最終的には全身が氷付けにされ、そのまま砕け散った。

洸夜は陽介達の下へと走った。

 

「無事か二人?」

 

「一応生きてます~」

 

「はは……また油断しちゃいました」

 

「自分で対応出来ないなら、ペルソナは周囲が安全だと分かるまで消すな。再召喚をしている間は隙だらけだからな」

 

洸夜のその言葉に頷く陽介と千枝。

洸夜とは違い、陽介と千枝のペルソナ召喚はペルソナカードを使用しての召喚をする。

癖でたまに召喚器を使用してしまうが、本来は直ぐにペルソナ召喚が可能な洸夜とは違い陽介達の召喚方法には隙が出来る。

只でさえ隙が出来る召喚方法なのだが、陽介達の美学なのかわざわざクナイで斬ったり、足で砕いたり等してペルソナカードから召喚する陽介達。

そして、洸夜はそんな事を思っていると、ふと、嘗ての仲間の事が頭に過った。

 

「……。(そう言えば、順平の奴も最初は召喚器を格好付けながら使用していたな。変にポーズを決めるから隙が出来て、結局シャドウに攻撃されて美鶴やゆかりに怒られていた)」

 

馬鹿な事を言ってよく周囲を和ませていた順平。

入部当初は、S.E.E.Sの活動をヒーローごっこか何かと思いながら活動していた為、メンバーの加入が頻繁だった当時、洸夜からすれば心配の対象だった。

だが、なんだかんだ言って順平も成長はした。

チドリとの事が順平にとっての分岐点だったのだろう。

洸夜は順平とチドリについて考えた。

 

「……。(順平もそうだが、チドリ……彼女もちゃんと生きているだろうか? 問題とかに巻き込まれていないと良いが……)」

 

そこまで洸夜は思ったが、冷静になると直ぐにその思いを消した。

 

「……くっ! (……何を考えている俺は? もう全ては昔の事だ。アイツ等がどんな生き方をしてようが俺にはもう関係無い)」

 

もうあのメンバーとも会う事も無い。

この間のお見合いの様な事は奇跡みたいなものだ。

洸夜は昔の事を思い出し、胸の中が不快に成るのを隠すかの様に腕に着いている腕輪を握ると陽介達と共に階段へと登っていく。

 

================

 

数十分後……。

 

洸夜達は階段を登り、フロアの上へ上へと進んでいた。

あれからフロアを二つ程進んでいたが最上階にはもう少し掛かる。

陽介達は疲れが出てきたらしく、少し息が乱れていた。

ワイトのジャミングでシャドウの目を誤魔化してはいたが、長時間のジャミングは洸夜にも大きな負担と成る。

その為、ここまでの間にもシャドウと戦っている。

息が乱れている陽介達だが、洸夜も疲れていた。

勿論、表にはだしていないがさっきの戦い等がその原因だ。

文字通りRPGの様なダンジョンの様なこの世界。

フロアを移動してもなに一つとして変わらない風景が精神的に洸夜達を襲い、このダンジョンから流れる何処から流れているのか分からない風までも、今の洸夜にはなんの癒しにも成っていなかった。

そんな事を感じながら洸夜達が歩いていた時だった。

洸夜の後ろを歩いていた千枝が話し掛けてきた。

 

「あの……洸夜さん。少し聞きたい事があるんですけど……」

 

「ん? 突然だが……何を聞きたいんだ?」

 

話し掛けてきた割には、千枝は珍しく真剣な雰囲気を漂わせていた。

洸夜はその雰囲気から察するに、暇潰しの雑談ではすまないと思った。

その隣では花村も思わず黙って状況を見守っている。

一体、千枝は何を自分に伝えたいのか洸夜には分からず、無意識のうちに目付きが鋭く成ってしまい、千枝は少し慌てた感じに話した。

 

「いや……その……こ、洸夜さんが体験したシャドウ事件の時の仲間の人達ってどんな人達がいたのかな……って」

 

「……」

 

千枝の言葉に洸夜は少し黙ってしまった。

別にこの質問が聞かれないとは思った事は無く、寧ろいつか聞かれるだろうとは思っていたぐらいだ。

だが、まさかこのタイミングで来るとは思ってはいなかった。

やはり、性格が真っ直ぐな千枝の考えは予測出来ないと洸夜は内心で笑っていた。

陽介もそう思ったのか、千枝に呆れた感じで話し掛けた。

 

「珍しく真剣な雰囲気だと思ったら、やっぱりこんなオチか。里中さ……それって今聞く事じゃ無くないか?」

 

「……だって気になってたし。花村、あんたは気になんない? 少なくとも私達にとってはペルソナ使いの先輩に当たるんだよ? それに、洸夜さんと戦ってシャドウ事件を解決してるって事はその人達って凄く強いんだと思うんだよね!」

 

「確かに気には成ってたけどよ……洸夜さんが……」

 

少し軽い感じで話す千枝とは違い、陽介は何処か洸夜の様子を見ていると言った感じだ。

そんな様子に洸夜は一息いれながら返答した。

 

「どんな人物かと言われてもな……君達は俺の部屋で写真を見たろ? あれに写っている奴ら全員が仲間だったメンバーだ」

 

「え……と言う事は、あの赤い髪のお姉様、金髪美人、緑髪の幸薄そうな娘、一見おしとやかに見えて実は活発そうな茶髪の娘。天城やりせちーと比べても見劣りしない全員が仲間だったんですか!?」

 

「あ、ああ……そうだ 。 (よく女子メンバーだけそんなに覚えていたな……)」

 

先程とはうって変わってテンションを上昇させ、少し興奮気味に話す陽介に洸夜も思わず迫力に押されてしまい苦笑する。

そんな中、千枝がある提案を出した。

そして、その言葉に洸夜は一瞬だが、思考が停止する事に成った。

 

「洸夜さん。その仲間の人達に協力ってして貰えないんですか?」

 

「っ!」

 

洸夜は一瞬だが思考が停止した。

洸夜はこの質問も先程の質問同様にいつか聞かれるのでは無いかと予測はしていたが、聞きたくなかった質問でもあった。

そして、千枝の言葉にリアクションをしたのは洸夜ではなく陽介だ。

 

「確かに色々と心強そうだけどよ、里中なら今回の事件は俺達だけで解決したいって言うと思ったぜ俺は」

 

「私だってそう思ってるよ……でも、万が一の事が有ったらどうしようも無いじゃん。私達の下手なプライドで事件解決が延びて、犯人の犯行が止まらないで被害者が増えるのは嫌。だったら、もっと協力者を増やしたら良くない?」

 

「……。 (まさか、そこまで考えていたとはな……)」

 

千枝の言葉を聞き、洸夜は少なからず感心した。

ここまで自分達は事件を追ってきた。

本来ならば自分達が解決したいと思うのは当然の思いと言える。

だが、千枝はそんな思いを普通に思いとどませた。

それだけで、千枝達の行動が既にヒーローごっこでは無いと証明した様なものだった。

ならば、そんな彼女達の思いに自分も答えるべきだと洸夜は思ったが、それは無理なことだと洸夜は分かっている為、千枝の言葉に首を横へと振った。

 

「千枝ちゃん……すまないが、それは無理なんだ」

 

「えっ……どうしてですか? 洸夜さんの仲間で友達なんですよね? だったら今回の事を言えばきっと……」

 

「ああ、洸夜さんがシャドウの事を言えば来てくれるんじゃ無いんですか? 少なくとも俺だったら、もし相棒の奴が今の洸夜さんみたいな状況で俺を呼んでくれたら地球の裏側でも行くぜ」

 

一切迷いが無い陽介の明るい顔。

それを見ただけで、洸夜は陽介の言葉が口だけじゃないと思った。

花村陽介は必ず行く。

総司が今の洸夜と同じ状態に成ったならば本当に地球の裏側だろうとは行くだろう。

いや、陽介だけではなく千枝も、雪子も、完二も、りせも、クマだって今の陽介の様な表情で総司を助けに行くのが分かった。

何故なら、彼等は総司の仲間であり、友だからだ……。

洸夜は思わず陽介の言葉を聞いて二人に背を向けた。

 

「……それは君達と総司に深い絆が有るからだろ? だからこそ、俺では駄目なんだ……」

 

「えっ……それって、どういう意味ですか?」

 

「言葉通りの意味さ……俺とアイツ等の中に絆はもう無いんだ」

 

千枝の言葉にそう答え、思わずそのまま目を閉じる洸夜。

その姿はまるで、今だけでも目の前の現実から目を背けたいと思っての行動に見えた。

また、洸夜の言葉を聞いた陽介と千枝は互いに顔を見合せた。

二人からは洸夜の後ろ姿しか見えない。

だが、それでも洸夜が悲しんでいる様にしか見えなかったのだ。

二人は互いに頷くと、陽介がそのまま口を開いた。

 

「……その人達と何か有ったんですか?」

 

洸夜は陽介からの言葉に特に目立ったリアクションをせず、二人に背を向けたまま答えた。

 

「……すまん。自分から言っといて難だが、この事は総司にも言っていない事なんだ」

 

「あ……」

 

洸夜の言葉に、その意味を察した陽介。

総司にも伝えていない。

それはつまり、なにかしらの深い事情があると言う事。

そして、そう軽々しく聞いてはいけないもの。

少なくとも陽介はそう感じとり、それと同時に洸夜から伝わる悲しさの原因もそこに有ると分かった。

しかし、陽介は言葉の意味が分かった為に聞けない。

だが、千枝は理解していなかった。

 

「大丈夫ですって! 瀬多君には言いませんから! こう見えて私も花村も口は固いです!」

 

「「…………」」

 

千枝の言葉に、洸夜と陽介は思わず言葉が出なかった。

千枝は何か勘違いをしている。

別に洸夜は総司に口止めをしてほしい訳では無いのだから、そうとしか思えなかった。

 

「ち、千枝ちゃん……俺はそう意味で言った訳じゃあ……」

 

「えっ? じゃあ、一体どうゆう意味で……?」

 

「里中……実の弟である相棒にすら話してない内容だぞ? 普通に考えれば、かなり訳ありの話……つまりは、俺達にも話せない程の事なんだよ」

 

洸夜の言葉の意味を、肩を落としながらやれやれと言った感じで千枝に通訳してくれた陽介。

過去の自分の罪と苦しみ。

話してしまえば総司も苦しめてしまい、聞かせた者にも辛い想いをさせてしまうだろう。

ましてや、陽介達は二年前の戦いの関係者でも無い。

あの事件は悲しみを生みすぎた。

それ故に、関係無い者にあの事件を知って欲しく無いのが洸夜の心情でもあった。

そして、洸夜は陽介の説明を聞き、千枝が理解してくれると思っていた。

だが、陽介の言葉を聞いた千枝のとった行動に洸夜は驚いた。

何故ならば、陽介の話を聞いた千枝は黙ったまま歩く速度を上げ、そのまま洸夜を抜くと正面で止まり洸夜の顔をジッと見てきたのだ。

その表情から少し怒っている様にも見えた。

 

「洸夜さん……。洸夜さんは雪子にこう言いましたよね? 話さなければ伝わらないって、なのになんで洸夜さん自身は何も話してくれないんですか? それじゃあ何も伝わらない!」

 

「……」

 

千枝の言葉を聞いた洸夜だが、それとこれとは話が違う。

そう思わざる得なかった。

雪子の時とは違い、洸夜は最初から誰にも伝える気など無いのだから。

洸夜は首を横へと振った。

 

「俺のと雪子ちゃんのでは話が違ーーー 」

 

「違わなくないっ!!」

 

「っ!?」

 

洸夜の否定の言葉は千枝からの否定の言葉にかきけされ、洸夜は今度は完璧に驚いた。

一体、何故千枝がここまで怒るのか洸夜は分からないし、見た事も無い。

隣で陽介が驚いている事から、陽介もあまり千枝が怒る所を見た事が無いのかも知れない。

だが、今洸夜の目の前で怒った表情と目をして洸夜を見る千枝の姿から、それが事実なのは間違いない。

 

「雪子は自分の中の苦しみをどうすれば良かったのか分からなかった。 だけど、そんな時に洸夜さんが雪子に話さないと自分の気持ちが伝わらないって教えたんじゃないですか! 雪子……その後で自分のシャドウと向き合って、最後におばさんとも話した。それから私にだって嫌な事があったら話してくれる様にも成ったし、私も話してる。 ……そうやって互いの苦しみを減らせてあげられるし、背負っても上げられる……のに」

 

千枝の話はまだ終わらず、それどころか先程より更に表情を険しくし、洸夜は息を呑んだ。

 

「今の洸夜さん見ていられない! 苦しい、 誰かに聞いてほしい。そんな風にしか見えない! 苦しかったら言って良いんですよ……私達と洸夜さんは仲間なんですから」

 

「千枝ちゃん……」

 

洸夜は理解した。

これは怒っている訳では無く……いや、怒ってはいるがこれが彼女の優しさなのだと。

単純な考えが多く、少し軽率な行動をしでがち。

だが……それ故にこれ程までに他者に優しいのだ。

里中千枝は……。

 

「あの……洸夜さん。里中に便乗する訳じゃねえけど、俺も里中と同じ気持ちですから! それとも、やっぱりまだ俺達の事は信用出来ないですか?」

 

「いや、そう言う訳じゃない。お前達の事はあの時の戦いで理解したし、総司を……仲間を身をもって守ったんだ。お前達は信用出来る人間だよ。だが……あの事は……」

 

千枝と陽介の言葉は洸夜にとって嬉しいものだった。

そして懐かしかった。

嘗て、自分が普通に感じていた温かさ。

絆を築き上げた者同士で感じていたものだった。

久しく忘れていた友との会話。

洸夜はそれを確かに今感じていた。

そして、だからこそ洸夜は言うのを躊躇った。

のだが……洸夜の考えはまたしても千枝に封じられた。

 

「もう! 男ならうじうじしてないでハッキリするっ!」

 

「痛てぇっ!?」

 

迷っている洸夜に千枝は背中を強く叩いた。

こうなった千枝は目上だとか関係無く、誰であろうと意見する。

陽介もその事に覚えがあるのか、何処か納得した表情をしていた。

 

「いや……だが……」

 

「んん?」

 

「あ……だから……」

 

千枝の険しい表情に、洸夜はまたしても言葉が詰まった。

まさか、自分がここまで押されるとは思っても見なかった洸夜。

今思えば、千枝はS.E.E.S時代にはいなかったタイプだ。

どうも考えが読めず、謎の迫力に負けてしまう。

そして、悩む洸夜に陽介が小さく耳元で囁いた。

 

「洸夜さん……里中がこうなったら言うまで無理だって。俺は良く知ってますから……」

 

「……! (花村……お前に何があった!?)」

 

洸夜にそう言いながら何処か遠くを見る陽介に、洸夜は息を呑むと千枝の方をチラ見したが、やはり千枝は納得した表情をしておらず、洸夜の言葉を待っている。

このままでは最上階に行くのが遅れる。

そう思った洸夜は覚悟を決めると同時に、この頃は見なくなった悪夢、弱体化、ペルソナの暴走等の自分に降りかかっている異変がどれか一つでも変化がおきるか願いながら……。

 

「少し……長くなる。だから、歩きながら話すが……気持ち良い話ではないし、総司には……絶対に言わないでくれ」

 

「「勿論! / 分かってます!」」

 

少し嬉しそうな表情をする陽介と千枝。

そんな二人を見ながら洸夜は歩き出し、二人もそれについていく形で歩き出す。

そして……それと同時に洸夜は語り出した。

童話の様に楽しむのか、詞の様に聞き惚れるのか、この話を聞いた二人がどのような反応を示すのかは、まだ誰にも分からない。

 

End


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