ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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何かしらの罪への罰は、忘れた頃にやって来る。


黒の悪夢

同日

 

現在、???

 

『……また、この悪夢か』

 

洸夜は周りが真っ黒な世界に立っていた。

いつもと同じ、二年前から見ていた悪夢の世界。

この頃は見なかったが、美鶴達との接触が関係しているのか、自分はまたこの悪夢を見なければ成らないんだと洸夜は悟った。

そして、いつもなら此処で過去の友人達からの罵倒等なのだが……。

 

"悪夢を見るのがそんなに恐いか……?"

 

『ッ!? お前は……俺?』

 

突如、洸夜の前に現れたのは目がシャドウの様に光り輝いている洸夜?だった。

いつもならば、こんな奴は出てこない。

また、その雰囲気はタナトスを凌駕する程の力を感じさせ、その迫力に洸夜は、夢の中の出来事にも関わらず、余りの雰囲気に恐怖を覚えた。

 

『……!(な、なんなんだコイツは……! 良く分からないが、ただ言える事……コイツはーーー)』

 

"危険か?"

 

『っ!?』

 

何故自分の考えが読まれたのか理解出来ない洸夜は、パニックに成りかける頭を強制的に直すと同時に、無意識に洸夜?から目を逸らしてしまった。

そして、洸夜のその姿に洸夜?は人とは思えない程歪んだ笑みで洸夜を捉える。

 

"何を驚いている? 俺はお前なんだ……お前の考えが分かって当たり前だろ?"

 

『何を言っている? お前が俺……?』

 

"ああ、そうだ。だが別に可笑しく無いだろ?……お前は“黒”なんだから"

 

『黒……?(そう言えば……三年程前に、イゴールから其らしい事を言われた覚えが……)』

 

"『彼』が白ならば、貴方様はまさに黒と言うべきですな……"

 

嘗てのイゴール言葉が洸夜の頭の中に響き渡る。

『彼』が白。

自分は黒。

答えを目の前にして、それを一枚の薄い扉に遮られている様な感覚が洸夜を包んだ。

また、それと同時に洸夜は、相手に呑まれまいと睨みつける。

これは只の夢では無い。

そんな不安だけが、この悪夢の中で唯一洸夜の心を支えていた。

そんな時だ。

 

"……"黒"は一色であって、一色では無い……"

 

『!』

 

突然、洸夜?はまるで詞でも読むかの様に語り出した。

その表情は、まるで何かを悟っているかの様に無表情だ。

 

"白もまた同じ……一色であって、一色では無い。黒は一色では生まれない……多数の色が混ざり合わなければ生まれない……多数の色を持ちながらも、その色達は黒だ。白は逆に……どれだけ色を混ぜようとも生まれる事は無い……まさに無だ……故に、白と黒は一色であって、一色では無いもの……そして、だからこそ……白と黒は互いに求め会う"

 

「……?」

 

まるで哲学。

そう感じさせる洸夜?の言葉。

そんな洸夜?の言っている事が今一理解出来ない洸夜は、下手に喋らずに相手の言葉を待つ。

 

"黒と白……この二色が己の存在を確認出来るのは黒には白が……白には黒がいる時のみ……他の色では、この二色の存在を完全に現すのは無理だ……だから……『(アイツ)』に対する罪を人一倍感じているんだろ?"

 

『なんだと……? どういう事だ……!』

 

先程から洸夜?の言葉一つ一つが何故か堪にさわる。

何故、ここで『彼』の事が出るのか。

どれもこれもいちいち洸夜を不快にさせる言葉だった。

そんな事を知ってか知らずか、洸夜?は洸夜の言葉に返すかの様に後ろを指刺し、洸夜は後ろを振り向いた。

すると、そこには……。

 

『なッ! ……俺………?』

 

"……"

 

そこにいたのは洸夜だった。

しかし、よく見ると服装は疎ら……と言うよりも年齢や大きさも全く違う洸夜達がいた。

ある者は只座り、ある者は只突っ立ていた。

色々な洸夜。

例え姿形が自分とは言え、何処か気味が悪いし、思わず目を背けてしまう。

そんな洸夜の姿に洸夜?は、やれやれと言った様子で洸夜が見ていた幼い姿の洸夜に指を差した。

 

"……分かる筈だ……アイツは、保育園の時のお前だ……"

 

『幼稚園の時の……俺……?』

 

"……そうだ。あれもお前にとって、一つの色でもある。一応、アイツはお前が一番最初に誕生させた色でも有るがな……"

 

『……俺が誕生させた? 一体、どういう意味だ?』

 

洸夜?の言葉に洸夜は、ずっと座りっぱなしのままで何処か暗い雰囲気の幼い自分に視線を外さなかった。

幼稚園の時の自分。

暗い表情の幼い子供。

何かが欠けている様な子供らしくない子供。

そんな幼い自分の姿は確かに見覚えは有ったが、はっきり言って、何故かこの自分を見ていると洸夜は何処か不安になり、ザワザワと胸の中が苛々としてきた。

何よりも、一体、この自分が今の状況と何が関係が有るのか分からなかった。

そんな風に洸夜が悩んでいる時だった。

 

"……"

 

『!?』

 

突如、目の前にいた幼い洸夜が、まるで泥の様に形が崩れて消えてしまった。

幼い洸夜だけでは無い。

先程まで周りにいた、色んな洸夜達も同じ様にドロドロと溶けていった。

そんな光景に洸夜は、思わず吐き気が込み上げた。

理由は今一分からないが、自分と同じ姿の者があの様な形で消えるのを見れば、良い気分に成れと言うのが無理に近い。

一体、何が起こったのか分からない洸夜は振り向き、己と同じ姿の洸夜?に視線を合わせた。

 

“この光景を見て、まだ“黒”の意味が分からないのか? ……お前が何故、一度に多数のペルソナを召喚し操れるのか、それさえも理解出来ないか?……お前はそうやって、俺達から目を逸らすのか……”

 

『一体……何が起こっているんだ? ペルソナの暴走とお前達は何か関係が有るのか?』

 

“気付かないならばそれでも良いさ……だが覚えておけ、他者に影響を与え、一色にして多色を持つ黒と……無色にして、数多の色から可能性という力を貰う白……このどちらも無限の可能性を秘めている事を……"

 

『待てッ! ……お前、もしかして……オシリスなのか?』

 

この何処かシャドウに似ており、何故か自分の事を詳しく知る目の前に佇むもう一人の自分。

そう思うと洸夜は、この目の前の自分が己のペルソナであるオシリスであると思えて成らなかった。

だが、洸夜の考えとは裏腹に、洸夜?は何事も無い様に口を開く。

 

"……お前がそう思うならそうなんだろうな。だが、忘れては成らない……オシリスもまた、可能性の内の一つであると言う事に……"

 

洸夜?は、一切目線を逸らさずに、そう洸夜に告げた。

しかし、それだけを言われても、理解しろと言うのが無理に近い。

 

『どういう意味だ……? お前はオシリスじゃあ無いのか?』

 

"……オシリスは可能性の内の一つだ。あの時のお前の生き方が、偶然オシリスに転生させたに過ぎない"

 

『……』

 

洸夜は言葉の意味が分からなかった。

いや……理解しようとしても、頭の思考回路が動かなかった。

己自身が警告しているのか?

それとも、只単に考える事を拒絶しているのか?

只言える事は、まるで、その場で固定されているかの様、そして、それ以上は進ませないと言っているかの様に思えると言う事……。

そんな洸夜の様子に、洸夜?は再び目線を洸夜へと移した。

 

"……お前、弱くなったな。三年前のお前の方が強かった……まあ、ピークだったのはニュクスとの戦いの時のお前だがな……"

 

『言いたい放題だな……』

 

洸夜?の言葉に思う事がある洸夜は、徐に目線を下にへと逸らした。

全てを見据えられている様な感覚に耐えきれなかったのだ。

そんな姿に、洸夜?はやれやれと一体感じで、その場から少しだけ移動し、ある場所を手で翳しながら口を開いた。

 

"まあ良い……だが、お前が全てから目を逸らし続けるならばペルソナ能力は疎か、全てを失う事に成る……こんな風にな”

 

洸夜?が手を翳した先に在ったのは血まみれに倒れた総司達、そして美鶴達と『彼』の姿だった。

そして、倒れている『彼』と総司の首にそれぞれ刀を突き付ける洸夜?

 

『っ!? 総司……! 『■■■』……! や、止めろっ!?』

 

“遅ぇよ……”

 

洸夜の叫びも虚しく、洸夜?は刀を振り上げ、二人に振り下ろそうとした。

そんな時だった……。

 

『ヴォォォォォォォォォォォォォォッ!!』

 

『ッ!? この咆哮は……タナトス?』

 

この黒だけの世界に響き渡る咆哮。

それはまさに、死を司る者の名を持つペルソナである、タナトスのものであった。

そして、その咆哮によって生まれた振動はその世界を揺らし、辺り一面に衝撃を与える。

だが、警戒する洸夜とは違い、洸夜?は慣れた感じだが、気に食わない者を見るような様子でタナトスの咆哮を聞いていた。

 

"……チッ! "不純物"が……まあ良いさ……だが、気を付けろ……仮面達は日々日々、お前の下から離れていっている……"

 

そう言いながら、身体が消え始める洸夜?

その姿に、洸夜はまだ聞きたい事があり、手を伸ばそうとした。

だが、それよりも先に洸夜? が手を翳した瞬間

世界が割れ、頭に直接的に力を流した様な衝撃が洸夜を襲った。

 

『ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!』

 

========================

 

現在、ホテル(洸夜・総司の部屋)

 

「ぐわあぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」

 

「っ! 兄さんっ!?」

 

「……ハァ……ハァ……総……司? 此処は……? 俺は一体……?」

 

見覚えの無い部屋だと思ったが、此処が自分と総司のホテルの部屋だと気付いた洸夜。

しかし、大量の汗にボ~っとした頭、そしてとてつもない怠さ。

現在の自分の場所を把握するだけでもやっとの思いだった。

 

「兄さんはお見合い会場で倒れたんだ、それで美鶴さんがすぐに医者を呼んでくれて、現在に至る」

 

「……そうか……医者はなんて言っていた? 病院では無いなら、大した事は無かったんじゃないのか? (下手に入院させられたく無いしな……)」

 

「良く分からないけど、身体に異常が見当たら無かったから、何か精神的なモノじゃないかってさ……」

 

「……成る程、それと叔父さん達と美鶴達は?」

 

「叔父さんと菜々子はさっき、美鶴さん達と一緒に夕飯を食べて今は部屋にいるよ。……美鶴さん達も此処のホテルに泊まってて、菜々子と仲良く成ったから……ちなみにお見合いは美鶴さんからの提案で保留にして貰ってる」

 

「アイツ等も此処に……それに保留か」

 

洸夜はこの際、お見合い自体を無かった事にして欲しかった。

別に自分が倒れたからでは無いが、互いにもう会わない事がお互いにとって一番ベストな事では無いかと洸夜は思ったていたのだ。

良いかどうかは分からない。

だが、会わなければ、もうどちらも傷付く事は無い。

 

「それに実は結構大変だったんだ。兄さんが倒れた事で菜々子が大泣きしちゃって……。兄さんの側を離れなくて、叔父さんが説得してやっと夕飯に言ったんだ」

 

「……菜々子がそこまで(もしかして、叔母さんの事と重ねてしまったのか……)」

 

総司の話を大体聞き、菜々子達に余計な心配をさせてしまった事に罪悪感をいだく洸夜。

まだ一緒に住んで短いが、あんなにも強く、優しい菜々子を悲しませたく無かった。

そして、洸夜はゆっくりとベッドから身体を起こす。

 

「兄さん……余り無理はしない方が良い。ただでさえ、兄さんは自分の事を二の三の次にするし」

 

「そんなつもりは無いんだがな……だが、別に大丈夫だ。……それに、少しでも何か口にしていた方が良いからな……」

 

「そう言うと思って、叔父さんがルームサービスを頼んでくれてたんだ……一応、部屋に届いてから20分は経って無いから、まだ温かいと思う……それじゃあ、俺は叔父さん達に兄さんが目を覚ましたって教えてくるよ」

 

「……。(起きた後に頼んで欲しかったな……)」

 

そんな事を思いながらも、自分がいつ目を覚ますのか分からないのだから文句は言えない。

そんな事を胸にしまい、洸夜は自分のベッドの隣に有るテーブルにおいて有る食器に手を伸ばし、閉じてる蓋を開くとチーズが乗っているハンバーグが鉄板に置かれていた。

 

「病み上がりで寝起きにはヘビーだな……」

 

そう言って思わずナイフとフォークを置いてしまう洸夜。

……すると、ドアノブを掴んでいた総司がその場で止まり、洸夜に背を向けたままで口を開いた。

 

「兄さん、一つ聞いて良い?」

 

「……どうした?」

 

「兄さんと美鶴さん達……昔、何か有ったんだろ?」

 

「……何の事だ?」

 

総司の言葉にシラを切る洸夜。

自分達のごたごたに弟である総司まで巻き込みたくは無い。

そう思っていた洸夜だが、総司はその場で軽く微笑んだ。

 

「フッ……隠さなくても良いよ。お見合いの時の兄さん達を見れば、兄さん達の間に何か有ったのかぐらい分かる」

 

「ハハ、だよな……」

 

やはり隠し通す事は出来なかったと、洸夜は総司の言葉に思わず笑ってしまう。それに伊達に長年兄弟をやってはいない、洸夜と総司はなんだかんだでお互いの隠し事ぐらいは分かる。

 

「……これは俺の勝手な推測だけど、二年前に兄さんが家に帰って来た時の抜け殻の様な感じ、そして兄さんのペルソナ能力……コレ全部、美鶴さん達と関係しているんじゃーーー」

 

「総司……お前にはまだ話せない」

 

「っ! 兄さん……!」

 

兄の言葉に総司は思わずを睨むが、洸夜はその様子に軽く笑う。

 

「フッ……そう睨むな、意地悪で言っても無ければ、お前を信用していない訳でも無い」

 

「なら何で?」

 

「重いんだよ……」

 

「えっ!?」

 

洸夜の言葉に総司は意味が分からず、キョトンとした表情をする。

また、洸夜自身の言葉にも嘘は無い。

ただ、『タルタロス』、『デス』、『ニュクス』、『影時間』『桐条の罪』これ以上に言葉を上げろと言われれば、まだいくらでも上げられるが、コレ等の言葉の意味の重さを知る者からすればもう十分。

はっきり言ってしまうと、洸夜からすれば現在起きている『稲羽の事件』は二年前の事件に比べれば軽いモノと言える。

『タルタロス』と『影時間』を徘徊していたシャドウに比べれば、いくら死者が出ているとは言え凶暴性・知的性、共に前者の方が遥かに上。

テレビの中のシャドウも全く凶暴じゃないとは言えないが、霧が晴れると凶暴に成ると言う条件付き及び、自分達からは外の世界の人達に危害を加えない。

その為、総司達にとってのシャドウの事件の基準が『稲羽の事件』だとすれば、二年前の事件は重い話に成る。

何より、総司を自分達のごたごたに巻き込みたく無いのが一番の理由だ。

 

「……総司、この話はただ話して、はい終わり……と言う訳には行かないんだ。……時が来たら、いつか話してやる。だから今は察してくれ……」

 

「……分かった。でも、辛く成ったらいつでも話してくれよ、俺は兄さんの弟なんだから……」

 

そう言って、総司は部屋から出て行った。

そして、洸夜は総司を見送り再びフォークとナイフに手を伸ばした。

 

「……悪いな総司、こればっかりはお前に言う事は出来ない。(巻き込む訳には行かないんだ……)」

 

そう言って洸夜は、微妙な温度に成ったハンバーグを切ると、中からもチーズが流れ出て来た。

 

「……本当に重いな」

 

そう言って洸夜は静かに口に運び、微妙な温かさのチーズとハンバーグの味を楽しんだ。

 

END


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