ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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大学のレポート……それは、面倒だが必ずしなければ成らないもの。


りせと洸夜の苦しみ

現在、堂島宅(洸夜自室)

 

りせを送った日の夜、洸夜はこの所エリザベスやりせと言った女性にからかわれている事に、多少悩みながらもマヨナカテレビを見ていた。

そして、いつもの様に砂嵐と異様な電波音と共に、マヨナカテレビに映った人物を見て洸夜は、もしかしたらと思った自分の勘の良さに恨んだ。

 

「アイドルだから、もしかしたらと思ったんだが……やはり、“久慈川りせ”か」

 

そう呟きながら洸夜は顔は映っていないが、マヨナカテレビに水着姿の少女を見て、この少女が久慈川りせと核心した。

 

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6月22日(水)晴

 

現在、豆腐屋

 

昨夜のマヨナカテレビの一件も有り、洸夜はりせに注意を払いながらバイトを頑張ろうと思っていたのだが……。

 

「ねーねー本当はいるんでしょ? りせちーに会わせてよ」

 

「お客さん。オススメはオカラのドーナツです」

 

「いや、そう言うのは良いからりせちーは?」

 

「いるって目撃情報が有るんだよ!」

 

「ねえねえ、お兄さんさ……りせちゃんに会わせてくれよ。じゃないと僕、暴れるよ?」

 

「……あぁ?(ギロ」

 

「「「ひ、ひぃ……す、すいませんでした!!」」」

 

洸夜が一睨みすると、そう叫びながら豆腐屋から走って逃げて行くカメラ等を所持したりせのファン達。

ちなみに先程から洸夜がやっているのは、りせ目当ての豆腐も買わずに営業妨害をするファンの対応。

本音を言えば、りせの人気を甘く見ていた洸夜。

酷い奴は、店の前に車を止めようとする始末。

そんな奴等の対応を先程からしていた洸夜は一旦、店内に戻る。

 

「しつこい奴等だ……さっきので13人目だぞ(と言うより、睨まれただけで逃げるなら最初から来るな)」

 

「ありがとうね、洸夜さん」

 

椅子に座りながらお礼を言うが、その隣ではりせが申し訳なさそうな表情をしている。

 

「洸夜さん……やっぱり、私が出て対応した方がいいんじゃあ? あしらうのも馴れてるし」

 

「君が良いならばそれで良いんだが……大丈夫なのか、君は休養中なんだろ?」

 

「でも、私のせいでおばあちゃんや洸夜さんに迷惑を掛けたく無いし……」

 

そう呟くりせの姿は、口では強い感じにしているが、無理をしているのは誰の目から見ても明らかだ。

実は洸夜もりせが無理をしている事を早くから理解した為、自分が誘拐される可能性が有るとは本人に伝えられ無い。

実際、アイドルにいきなりそんな事を言う人等はいないとは思うのだが、そう言う事も有り、洸夜はりせのメンタル面に気を配っている。

 

「りせ、貴女がそんな事を気にしなくて良いのよ。こう言う時ぐらいは、おばあちゃん達を頼りなさい」

 

「俺もお婆さんと同じだ。それに、誰かに頼る事は悪い事じゃない。こう言う時ぐらいは甘えて良いんだよ」

 

「おばあちゃん……洸夜さん……」

 

そう呟くりせに背を向けると洸夜は、再び店の外に向かおうとした時……。

 

「すいません! 稲羽署の者何ですが……って洸夜か?」

 

「叔父さん……? どうしたの、バイト先に来るなんて珍しいね」

 

「まあ、お前のバイトの様子を見たかったと言うのも有るし、こんな状況だからな……」

 

「はいはーい。こんな所で車を止めない! 行って、行って!」

 

店の中に入って来たのは堂島だった。

そして、外では足立が交通整理をしている様だ。

 

「私が呼んだのよ洸夜さん……流石に何か有ると大変だから」

 

そう言ってお婆さんは、何事もない様に入口を眺めていた。

 

「成る程……でも、何でわざわざ叔父さんと足立さんが此処に? 交通整理とかなら交通課とかだと思うんだけど?」

 

「ん? まあ、こっちにも色々有ってな……」

 

そう言って堂島が一瞬だけ目を逸らしたのを、洸夜は見逃さなかった。

 

「(まさか、警察もりせが誘拐される事に気付いたのか? 警察側には直斗がいるから有り得ない話では無いが、まだ判断するには早いか……)」

 

別に警察に誘拐される人物を特定されても洸夜は別に困りはしないが、少し動きずらくなる。

誘拐を阻止するには最低でも、誘拐される人物には接触しといた方が良い為下手な行動をとり、警察に怪しまれたり、堂島に迷惑を掛ける事は避けたいと洸夜は考えている。

だが、警察が狙われている人物を護衛し犯人を捕まえてくれるならば苦労は無いのだが……。

 

「それはさておき、久慈川りせはどうしてる?」

 

堂島が外の野次馬に聞こえ無い様に、洸夜に耳打ちしてくる。

 

「いくら叔父さんでも言える訳無いでしょ。それとも何か訳あり?」

 

洸夜の言葉に堂島は頭を抑えながら「あー……」と呟いていが、洸夜に顔を近付けると静かに口を開く。

 

「余り詳しくは言えないが訳ありだ……それで、久慈川りせはどうしてる?」

 

「……今は奥にいるが、話を聞くなら後にした方が良いよ。少なくとも、野次馬がいる内は我慢してくれ叔父さん。彼女は態度には出して無いけど、かなり無理をしている」

 

「そうか、なら一旦戻るか……洸夜、何も言わずに黙って聞いてくれ……久慈川りせから目を放すな」

 

「……どう言う意味?」

 

堂島の言葉に洸夜は、意味は理解しているが和えて知らない振りを決め込んだ。

また、仕事とプライベートをきちんと分ける堂島が洸夜に対してこの様な事を言ったのは、現在りせの一番近くにいるのと、洸夜がこの事件の事と一切関係無いと思っているからである。

そして、堂島は洸夜の質問には答えずに店を出て行ってしまった。

 

「(警察は完全に気付いているな。流石だ、直斗……)」

 

警察に上手く情報を伝えている直斗の動きの早さに、洸夜が純粋に感心していた時だった。

 

「何だよ……りせちーいないじゃん」

 

「いるのは、いつもの婆さんとバイトだけ……」

 

「ガセネタだったか……」

 

そう言って店の前にいた野次馬達が去って行く。

どうやら、りせが全く姿を見せない為ガセネタと判断した様だ。

 

「……ふぅー やっと一段落付ける」

 

「ご苦労様、洸夜さん。奥に入って休憩して下さい」

 

「ありがとうございます……」

 

そう言って洸夜はお婆さんからの許可を貰い、洸夜は休憩の為に奥に入る。

するとそこでは、りせが下を見ながら座っていたが、洸夜に気付き顔を上げる。

 

「洸夜さん……」

 

「ファンと野次馬は帰ったから安心しろ……あと、すまないが少し休ませて貰うよ」

 

そう言って洸夜は、りせの隣の空いているスペースに座り一息整える。

そしてりせは、その疲れた様子の洸夜を見ると、再び申し訳なさそうな表情に成る。

 

「ごめんなさい……」

 

「何がだ?」

 

「だって、私がいるから、おばあちゃんや洸夜さんに迷惑掛けて……」

 

そう言って顔を下の方に見続けるりせ。

その様子を見ていた洸夜は、少し気に成った事が有った為りせに聞く事にした。

 

「……りせ。一つ聞いて良いか?」

 

「?…… 別に良いですけど、なんですか?」

 

「……君は何でアイドルに成ったんだ?」

 

「えっ……?」

 

洸夜の言葉にりせは予想外の事だったらしく、面喰らった様な表情をする。

 

「深く考え無くて良い。ただ、気に成っただけだ」

 

洸夜は口ではそう言っているが、内心では別の目的が有った。

それは、りせがここまで本当の自分に付いて強く意識しているのはアイドルの仕事だけでは無く。

根本的な部分、つまりはアイドルに成った時に何か有ったのでは無いかと思ったのだ。

そして洸夜の言葉に、りせは暗い表情をする。

 

「……私、アイドルに成る前イジメられてたんです」

 

「何だと……!」

 

りせの言葉に洸夜は、表情は冷静を保っているが、内心では憤怒していた。

基本的に洸夜はイジメが嫌いだが、イジメられている者にも多少成りとも問題が有る場合がある。

しかし、洸夜はりせに問題が有るとは思え無かった。

恐らくは、風花の時と同じパターンと洸夜は考えた。

 

「(風花の時もそうだったが、聞いていて良い感じはしないな)」

 

「……イジメが続いて何度も嫌に成ったけど。私、それでも自分を変えたいと思ったんです。そんな時にアイドルのオーディションの合格……イジメは無くなって、知らない子からも話掛けられる様にも成りました」

 

「(成る程、そう言う事か。この子もまた、不器用な子の様だ)」

 

ここまで聞いた時点で、洸夜はりせが本当の自分について深く考える様に成った理由を理解した。

しかし、理解はしたが洸夜はりせ自身からの言葉が聞きたかった為、黙ってそのまま話を聞く。

 

「でも、そんな時に気付いちゃったんです。皆が好きで、ちやほやするのは本当の私じゃない……売る為だけに作られたアイドルの“りせちー”何だって」

 

「……りせ、一つ言わ「すんませーん!」……」

 

りせに何かを伝え様とした洸夜の言葉は、店の方から響き渡る声によって遮られる。

そして、その後の洸夜の間が面白かったのか、りせは思わず吹いてしまった。

 

「クスッ……! また私の為に何か言ってくれようとしてくれたんですよね? ふふふ、また今度聞かせてね洸夜さん」

 

そう言って、りせは店の方へと歩いて行く。

 

「もう、大丈夫なのか?」

 

「……うん。気持ちの整理が付いたから。それに、お客さんも高校生見たいだし、ファンとかなら上手く聞き流すから大丈夫だよ洸夜さん」

 

そう言ってりせは、顔を引き締め直して店へ向かった。

 

「……ハァ。全く、不器用な子が多い町だな。(それに、何でこうもアイツ等と被るんだ。花村は順平、完二は明彦、りせは風花、雪子ちゃんと千枝ちゃんは……ゆかりとアイギスとは似てないな。だが、ワイルドに、異常な程早いペルソナ能力の成長……総司と『アイツ』の姿が重なってしまうか)」

 

それぞれが心に悩み等を持つ、この町のペルソナ使い達(りせは例外)を洸夜は、かつての仲間達と被って見えてしまった。

そして何と無くだが、洸夜は冷静に昔と今の自分の事を考えてみると、自分は普通の人とは明らかに違く、また、色んなモノを失った事に気付く。

 

「……(五年前まで、ただの学生だった俺が、今ではペルソナと言う力でこんな事をしているとは……これが俺の運命ならば、自ら切り開くには障害が多過ぎる……)」

 

全ては偶然なのかどうかは今では確かめる術も無く、それについて苦しんでも、支えてくれる仲間は洸夜にはいない。

全ての始まりは夢で見たイゴールと、忘れ物をして学校に忍び込んだ時に偶然巻き込まれた影時間とタルタロス。

何故自分は高校を決める時に学園都市を選んだのか……。

そして何故、自分は友や大切な人を失ったのにも関わらず、仲間だった者達から罵声を浴びせられ、そして本来ならばSEESのメンバー全員が背負う筈の罪を自分だけが背負う事に成ったのか……。

そう思っている内に、洸夜の心の中に色々な感情が生まれて始めた。

 

「何で俺と『アイツ』だけが……!(基本的に俺と『アイツ』に守らるだけで、『アイツ』の中にデスが居る事が分かった時の態度……今思えば、アイツ等に守る価値は最初から無かった……! 桐条の罪……! ストレガの者達への罪悪感……! 何故、俺だけにそれ程の罪を押し付ける……! 今も何処かでアイツ等が笑っていると思うと憎くて堪らない!……だが、俺が誰も守れなかったのも事実。俺はどうしたらよかったんだ……)」

 

自分に押し付けられた理不尽な程の罪。

それに対し、自分は一人でどう向き合えば良いか悩みながら目を血走らせる洸夜。

そんな時だった……。

 

「ーーー!」

 

「ーーー。ーーーー!」

 

「騒がしいな……」

 

何やら店の方が騒がしく感じた洸夜は、休憩を終わらせると店の方へと足を進めた。

だが、この時洸夜は気付かなかった。

テレビの世界から出られる力が宿っている腕が、一瞬だけマガマガしく光った事を……。

そして、堂島宅の自室に置いていたペルソナ白書が光り出し、その中に記されていたペルソナ数体の名が消えた事を……洸夜は知るよしも無かった。

 

End


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