ペルソナ4~迷いの先に光あれ~   作:四季の夢

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現実で色々とあって若干ブルーになっていて少し執筆が遅れました。
ジアビスの方も登録数が爆発的に増えていて驚きです。
前は、100人前後しかいなかったのに(;・∀・)


直斗の覚悟。そして合流

 同日

 

 現在、堂島宅【洸夜の部屋】

 

 深夜、洸夜は自分の部屋で机で執筆作業をしていた。

 執筆していたのは白と黒のノート。洸夜が今回の事件の事を詳しく記して来た物だ。

 今回の自分の一件での事も記し終え、洸夜は伸びをした後、忘れない内にそのノートをしまう。誤って堂島の目に入るものならば、面倒事になるのは分かっている。

 

「……終わってみれば、なんか呆気ないな」

 

 机の電気スタンドしか明かりがない部屋で一人、二年前から今に至るまでの事を思い出しながら呟く洸夜の視線の先には、机の上にある写真立てにちゃんと入れられた『彼』と美鶴達との写真があった。

 前に総司達が勝手に出してしまった写真だが、一度は忌々しくしまった写真も今ではそんな感情もなく、ちゃんと思い出として存在する。

 そんな写真を楽しそうに見る洸夜、そんな洸夜は机に置いてあった一つの資料を手に取る。それは、大学の資料であった。

 両親が洸夜に行ってもらいたい大学らしく、堂島宅に暫く前に届いた物だ。中々に多種な分野に精通している大学で、堂島からの勧めもあって洸夜は受けるつもりだった。

 両親とは自由にさせてもらう約束だったが、別に大学に行きながらでも可能な事。なにより、美鶴達の出会いと和解が洸夜の中に新たな可能性を生んでいた。

 

(シャドウワーカー……か)

 

 アイギスに最初に聞かされた時は頭に血が昇っており、冷静に考える事は出来なかった。しかし、今となっては冷静に考えられる。

 美鶴の話では、未だにそう言う事件が数多くあると言う。それは洸夜も稲羽の事件で分かっている為、納得している。

 だが、シャドウワーカーの話を再度聞いた時、洸夜は美鶴から聞かされている事があった。

 

『確かにお前が参加して貰えると助かる。だが、だからと言って強制でもない。ゆかり達の様にこちらの要請のみの参加も可能だ』

 

 つまりは、洸夜の自由を尊重する事を言いたかったらしい。だが、その事をきっかけに洸夜も深く考える様になった。

 

(ペルソナ能力。――この力は本来、使われない方が良いのかも知れない。けど、この力でしか解決できない事件も今、目の前の様にある)

 

 この力で誰かの為に使う・要請の時のにのみ活動し普段は日常に住む・非現実から表面上は完全に抜け出す。

 色々と考えはあるが、どうも逃げ出す気には洸夜はなれなかった。

 

(両親の望む様に就職への道か……それともシャドウワーカーか……どちらにしろ、先ずは念の為に大学には行くか)

 

 既に大学には申請している為、後は近々ある試験を受けに行く。先ずは自分の目の前の課題を終わらせる事を考えながら、洸夜はジャージに着替えて布団の中へ入った。

 

(もう、過剰な悪夢を見る事はないからな……)

 

 洸夜は電気を消し、布団の中で静かに眠り付いた。

 もう、ありもしない悪夢に苦しめられる事はない。そう思っていたのだが……。

 

▼▼▼

 

 曖昧な感覚、おぼろげな意識。

 そんな世界に洸夜はいた。――と言うよりも、夢を見ていた。

 曖昧感がありながら、これが夢だと分かる程にハッキリとしながらも、洸夜は夢の中で声が聞こえて来るのに気付いた。

 

『――が、ま―――だ。テレ――中は――ぜ―――。もう、あ――――は繰りか――――い』

 

 声はまるで通信状態が悪いラジオの様に雑音が入り混じった感じであり、全てをしっかりと聞く事は叶わなかった。

 なんとか分かったのは、その声が男性の物であったと言う事ぐらいのものだ。

 耳障りな雑音が強い言葉の中、今度は別の声が洸夜の中に届いた。

 

『アイ――また、た――――ったな。ほん―――ガキ――めざ――――。そ――ろ、だま―す――』

 

 先程と同じ様に聞き取りずらい声。

 しかし、先程とは別の男の声だと分かる。

 先程の男の声は生気が感じ取りずらかったが、この声は明らかに何らかの感情が読み取れる。

 

(……なんなんだ。この夢は?)

 

 違和感しかなく、胸に不快な感覚が溜まるのを洸夜は感じた。

 ただの夢とは思わず、何らかの異常があると思われる夢。だが、その正体は全く掴めない。

 そして、不完全燃焼と言うよりも、燃え始める前に洸夜の意識は覚醒し始めて行くのだった。

 

▼▼▼

 

 9月12日(月)晴れ⇒曇り

 

 カーテンから朝日が差し込み、小鳥が飛び回りながら鳴いていた。

 静寂な部屋の中で洸夜は一人、目を開けながら上半身を起き上がらせた。

 

「……変な夢だ」

 

 そう一人で呟いた洸夜。既に夢の詳細も思い出しずらくなっていたが、ロクな夢ではなかった事だけは印象に残っていた。

 

(……顔洗って、朝食と弁当作ろう)

 

 夢の事は隅に置き、洸夜は立ち上がっていつもの日常へと入って行くが、携帯のランプが点滅している事に気付いて中を開くとメールが”9件”来ていた。

 中身を除くと案の定、美鶴達からだった。別れた途端に不安にでもなったのか、メールを送ってくるメンバー達。

 その内、忙しくなり送って来なくはなるだろうが、当分はモーニングメールを覚悟した方が良い。そう洸夜は思うのだった。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在、堂島宅【居間】

 

 既に日は暮れ、家事・バイト・学校・仕事。それぞれのやる事を済ませ、夕飯を皆で食べようと堂島や菜々子、総司と洸夜は居間へと集まっていた。

 

「今日は鰻丼にしたよ」

 

 お盆に四人分の丼を乗せながら洸夜はテーブルまで運び、それぞれの人の前に並べて菜々子が丼の蓋を開けると、湯気とと共に丼一杯に乗せられた鰻が姿を現した。

 

「あっきい~!」

 

 甘いタレ、鰻の風味が湯気に混ざって漂いながら、菜々子は鰻のボリュームに目を輝かせた。

 また、それは堂島も同じであり、菜々子ほどではないにしろ驚いていた。

 

「おぉ……今日は豪勢だな」

 

「いや、今年はまだ食べてなかったなと思ってさ。自分の金出して鰻にしたんだ」

 

 洸夜はそう説明しながらテーブルにお吸い物・りせの祖母の漬物・山椒の瓶をテーブルへと並べる。

 そして総司が全員に箸を渡すと、全員が席に着いた。

 

「んじゃあ、食べるか」

 

「いただきます!」

 

 菜々子の元気一杯のいただきますを始まりとし、洸夜達もそれぞれが言って食べ始める。

 山椒をかけ、途中でお吸い物を口に運びながらタレの甘い空気が漂う空間での食事を楽しんでいた時だった。

 テレビのニュース、その内容が耳に入った瞬間、洸夜達はそれに意識を奪われてしまう。

 

『次は、話題の”探偵王子”こと白鐘直斗君の特集です。――直斗くんは先日解決した稲羽での”連続怪奇殺人事件”で警察に捜査協力をし、事件を解決まで導き――』

 

「直斗……!」

 

 洸夜の目に入ったのは、テレビにアナウンサーの説明と共に映る白鐘直斗だった。

 メディアはあまり好きではないと言っていた直斗、それがテレビに映るのも驚きだが、色々と知っている者からすれば驚きは普通より大きかった。

 しかし、そんな反応など意味などは既になく、直斗はアナウンサーからのインタビューに応え始めた。

 

『先日の事件解決お疲れ様でした』 

 

『いえ、確かに諸岡さんの事件の犯人は先日逮捕した人物です。――ですが、僕は他の二件と今回の一件に違和感を感じています。――同時に、事件もまだ完全に終わってはいないとも思っています』

 

「ッ!――アイツ……!」

 

 直斗のインタビューを聞いていた堂島の表情が変わった。

 警察は先日、久保の逮捕でこの事件は完全に解決したと会見したばかり。しかし、直斗の言葉はそれを否定する様な内容だ。

 刑事である堂島がなにか思うのは無理はないが、堂島の表情は怒りよりも心配している様に見えた。

 

「アイツ、またこんな事を黙ってしやがって。……本当に敵しかいなくなるぞ」

 

 箸を一旦その場に置き、溜息を吐く堂島だったが、何かを思い出す様に顔を上げて総司へ語り掛けた。

 

「そういや、白鐘はお前と同じ学校だったな。――前に家に来た時は話していたが、学校でもよく話すのか?」

 

「ん~……多い方だと思う」

 

 どちらかと言えば総司達から話す事はない。話したい事があっても直斗の詳細は掴めず、向こうからやって来て話して行く事が殆どである。

 総司の言葉を聞いた堂島は、再び溜息を吐いた。

 

「洸夜は知っていると思うが、アイツは総司と一個下なんだ。勝手な話だが、警察内には白鐘の味方は殆どいない。――お前達が仲良くしてやってくれ」

 

「俺はそのつもりだけど、事件の方はまだ解決してない?」

 

「っ!?――いや、それはお前が気にする事じゃない。……丼が冷めるな。早く食べよう」

 

 そう言って再び食べ始める堂島。その様子から少し気分がブルーになったと総司と菜々子は察し、特にはそれ以上は言わず、食事に戻った。

 しかし、洸夜はだけは黙ってテレビをジッと眺めていたのだった。

 

▼▼▼

 

 9月13日(火)曇り⇒雨

 

 厚い雲が町を覆っていた。天気予報ではそのうち雨になると言っており、行く人々の殆どが傘を持っていた。

 朝にも関わらず薄暗い町並み。そんな中、土手にて二人の人物が対峙していた。

 

「俺が何を言いたいのかは、流石に分かるな?――直斗」

 

「昨日の特集の事ですか?」

 

 対峙する二人、洸夜と直斗はお互いに短い言葉で会話をする。

 本来、直斗は登校中なのだが、直斗の登校ルートを知っていた洸夜が待っていたのだ。

 直斗自身も無視する事はなく、寧ろ学校に遅刻する事には何とも思っていない様子。

 

「昨日の番組。……お前、自分を”囮”にするつもりだな」

 

 メディアをそれほど好きではない直斗が進んで出演した意味、それはよく考えれば一つしかない。

 犯人の誘拐する標的の共通点、それはテレビに写る事だ。

 事件解決に納得していない直斗は、そうする事で真犯人を捉える気なのだと洸夜は思い、直斗に会いに来た。

 

「……こうでもしないと、真実には近づけませんのでね」

 

「……何が真実に近付く為だ?――只の無謀だろ!」

 

 洸夜は少し怒っていた。らしくない作戦。直斗の行動は手段を択ばないと言えば聞こえは良いが、悪く言えば自棄にしか見えないからだ。

 

「初めて会った時、不意だったとはいえお前は俺に簡単に引っ張られた。そんな奴が、犯人を捕まえられる訳がないだろ。族を壊滅させた完二ですらやられたんだぞ!」

 

「……そうですね。確かにそうだとすれば、僕の身体能力では圧倒的に不利です。――でも、僕も見す見すやられる気はありませんよ」

 

 完二がやられた事実は既に直斗の中では分かっていたらしく、その事には特に反応はせず、囮作戦を止める気は全くない様にしか見えない。

 そんな直斗に、洸夜は肩の力を抜いて説得を始めた。

 

「もう止めろ直斗。ここから先はお前には無理な領域……”非現実”の世界だ」

 

「だからなんですか? 先に現実(こちら側)に仕掛けて来たのは非現実(あっち)ですよ? 現実側も無力なだけではありません」

 

「踏み込めない世界。そういう世界もある……それを学べ」

 

 非現実。それは決して今の直斗が踏み込む事が出来ない世界。

 現実の常識・摂理・ルール。その全てが通じない別次元の問題。根本的に異なる領域。

 これ以上、非現実に干渉しようとする直斗の行動はただ己を危険に晒し、立場を危うくして守りたかった”白鐘”その物を壊してしまかも知れない。

 

「……お前は、俺が他人事だからそう言っていると思っているだろう。――けどな、非現実(この世界)に踏み込まないで済むならそれが最善だ。お前に見せた力も、誰かを守る事に使える。だが同時に一生誰かや己を苦しませてしまう程の力にもなる」

 

 洸夜は命の危機に晒されてペルソナ能力が目覚めた事を思い出していた。

 タルタロスでシャドウに襲われて目覚めた力。しかし、本当に覚醒した原因は桐条の研究施設での事故が原因だった。

 運が悪かったと言えばそれで終わりだが、この世界は進んで入って良い領域ではない。

 『彼』や真次郎。色んな人が悲しみを生んでしまい、それが枝分かれの様に悲しみを新たなに生み出してしまった。

 その事実を見ている事から、洸夜は直斗をここまでして止めるのだ。

 

「……なんでそこまでして止めるんですか? 確かにあなたとはこの町の人達の中では親しい方です。けど、だからと言ってそこまで僕を守ろうとする理由にはならない」

 

 直斗は疑問だと言った表情で洸夜を見た。

 

「『親友』との約束なんだ。目の前にいない命まで守るなんて無責任な事は言わない。――けどな、目の前にある命は守る。そう約束したんだ」

 

 洸夜は思い出す様に呟いた。

 結局、守れたのかどうか分からない約束。しかし、諦める事も決してしない約束でもあった。

 そして、そんな反応の洸夜の姿に直斗の反応が変わった。

 

「そうですか。――その人は今は?」

 

「……遠くに行ったよ」

 

 下手な誤解や感情を与えない様に洸夜は平常心で呟いた。

 しかし、それが逆に仇になってしまい、直斗は何かを察したように様に洸夜の隣を横切りながら言った。

 

「洸夜さん。貴方の想い信念、あの力にも色々と思う所があるのは分かりました。今の僕には、その世界がどれ程に危険なのかも」

 

「……だがその様子じゃあ、分かってはくれたが止める気はないんだな」

 

 直斗の口調から、洸夜は想いは分かってくれたが止める気はないと判断した。

 やはり、興味本位ではなく、固い意志を持って事件に取り組んでいる直斗を止める事は出来なかった。

 そして直斗は、その洸夜の言葉に静かに頷いた。

 

「僕はまだ、自分に出来る事があると思っています。諦めるにはまだ早いのに捜査を諦める。……それは、探偵であった祖父の背中を見て育った僕にとっては”死”に近い事なんです」

 

「なら、せめて少しの間、稲羽を離れろ! 近いどころか、本当の意味で死ぬぞ!」

 

 洸夜は叱る様に若干、強い口調で直斗へ言った。

 本当の意味で死ねば、その祖父が悲しまない訳がない。

 それは直斗も分かっていない筈もなく、せめて少しの間は離れて欲しいと洸夜は直斗へ分かって欲しかった。

 しかし、そんな洸夜の言葉に対して直斗は、何故か安心する様に笑顔であった。

 

「その時は……洸夜さんが”守って”くれるんですよね。その『親友』の方との約束なんですから。――信じてますよ?」

 

「お前って奴は……」

 

 洸夜はそれ以上、言葉が出なかった。

 あれやこれやと手を打ち、恨めとまで言ったにも関わらず直斗は自分を未だに信じていた。

 それだけ言って学校へと向かう直斗の後姿を、洸夜はもう呼び止める術はなかった。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在、天城旅館

 

 事実は小説より奇なり。作り話よりも、現実の方が実際に変な事が起こる。

 直斗と別れて数時間後、洸夜はそれを体験する事となった。

 とある”人物”からの突然の連絡を受け、洸夜は天城旅館のとある客室を訪れた。

 

「……で、なにしてんだお前等?」

 

 洸夜が訪れた部屋にいたのは三人の人物。しかも、よく見知った顔であった。

 

「言わなかったか? 私も稲羽へ向かうと」

 

「援軍見参であります!」

 

「……まあ、そういう事になるか」

 

 洸夜の言葉に、美鶴・アイギス・真次郎の三名は備え付けの菓子やお茶を飲みながら応えた。

 部屋にある大きなキャリーバッグが5つはあり、美鶴の服装もボディースーツからジーンズや秋物の服へと変わっていた。

 一目見れば完全に旅行客にしか見えない三人だが、洸夜が聞きたいのはそこではない。

 

「そうじゃない。あれからまだ数日しか経ってないんだぞ? よくこんなに早く来れたな」

 

「……お前の話を聞く限りでは、事態は軽視できる様なものではないと分かっていた。事件が本当に終わっていないのならば、行動は早い方が良い」

 

「と言うのは建前で、本当は洸夜さんが無茶してないか美鶴さんはずっと心配していました。――鈴を握りながら時折、洸夜さんの名前を呟く美鶴さんは健気であります!」

 

「アイギス!!?」

 

 冷静に言った瞬間にアイギスからバラされ、顔を赤くして怒る美鶴。

 そこも冷静に返せば良い物を、そんな反応をするからそれが真実だと自らも認めていると同じだ。

 アイギスも、実際に考えなしに喋る様な事はせず、ロボットの様に自覚がない様にしているが、実際は自覚もあるからこそたちが悪い。

 洸夜はそんな友人たちの姿に溜息を吐きながら、自分がここに来た原因であるメールを見せた。

 

「どちらにしろ、こんな物を突然送ってくるな。悪戯メールの類にしか見えなかったぞ」

 

 洸夜が見せたメールにはこう書かれていた。

 

『稲羽に先程入った。天城旅館にいる』

 

 まるで推理ゲームの後半に落ちているメモ紙の様な内容のメール。

 因みに送り主は真次郎だ。

 

「ただ連絡しただけだ」

 

「普通、連絡は来る前にするだろ」

 

 真次郎の言葉に冷静に反論する洸夜だったが、彼の疑問はまだあった。

 

「それと、お前等は忙しくないのか? いくらシャドウ関連とは言え、美鶴は今はグループのトップだろ」

 

 洸夜の疑問は最もだ。

 美鶴は大学生であると同時に桐条のトップであり、シャドウワーカーの代表でもある。シャドウ関係とは言え、そうそう空けていられる立場ではない。

 勿論、美鶴自身がそれを一番理解している。

 

「大学に関してはどうとでもなるが、グループに関しては周囲に任せて、必要な事もメールや直接私に連絡する様に言っている。……まあ、それでも時折ここを離れる時はあるだろう」

 

「私もメンテナンスの時には稲羽を離れます」

 

 予想通りとは言え、やはり美鶴とアイギスはいつも稲羽にいられる訳ではない様だ。

 だが、今回の事件上、やはりいつでもいてくれる人物が洸夜的には心強く、洸夜は最後の一人である真次郎へ視線を向けた。

 

「……安心しろ。俺は基本的に稲羽に滞在できる」

 

「良く来てくれた真次郎! 頼りにしてる!」

 

 洸夜は真次郎の肩に手を置き、彼の到着に快く喜んだ。

 美鶴達への対応とは偉い差だ。

 

「おい! なんだその態度の違いは!」

 

「男女差別です!」

 

「お前等の方こそ忙しいなら無理してくるな! もっと暇な奴がいただろう!」

 

「この人員にも訳はある!」

 

 美鶴は今回の人員の説明を始めた。

 

 順平:本来、一番乗り気であったがコーチしている野球チームが急に多忙になり断念。

 ゆかり:乗り気ではあったが、期間が分からない為、勉学とモデルの事もあって断念。

 風花:乗り気ではあったが期間が分からない以上、大学の事もあって断念。

 乾&コロマル:元々、乾には普通の生活に戻る様に言っていた為に断念。

 チドリ:不安定な要素もあり、無理に彼女に負担を与える事を避けさせた為に断念。

 

 そこまで話を聞いていると、洸夜はある事に気付いた。

 

「明彦はどうした? あいつは絶対に暇だろ」

 

 親友に対して酷い言い草だが、半裸で武者修行をする明彦を庇う者は誰もおらず、美鶴がそれに対して説明しようとした。

 

「いや、明彦も本来は来る予定だったのだが……」

 

 そう口ごもる美鶴の視線は何故か真次郎へ向けられており、今度は真次郎が口を開いた。

 

「俺が止めた」

 

「……どう言う意味だ?」

 

 事態が分からない洸夜に、真次郎は説明した。

 実は今回の同行メンバーに真っ先に入っていた明彦であったが、明彦が武者修行ばかりに集中して大学に全く行っていないと知った真次郎が待ったを掛けたとの事。

 もう単位は取れないだろうが、行っている以上は顔出しぐらいしとけと明彦は無理やり説得したらしい。

 

「行きたくても行けねえ奴もいるんだ。行っている以上、少しでも顔を出すべきだろ」

 

「そう言えば、お前ってなんだかんだで一番の常識人だったな」

 

 見た目や行動のせいで一件、常識人とはかけ離れた存在にしか見えない真次郎だが、実は家事などを完璧にこなす事が出来る数少ない人物。

 S.E.E.Sオカン大賞があったならば、確実に受賞していただろう。

 

「話がずれ始めてるぞ。――洸夜、事件はどうなっているんだ?」

 

 先程と変わり、美鶴の表情が真剣なモノとなり、洸夜も流石にここでふざける程空気が読めない訳がない。 

 洸夜はテーブルに二冊のノートを取り出して置き、美鶴達へと渡した。

 

「まずは見てくれ。……俺が見てきた事件、その今までの全貌を書き記した物だ」

 

 洸夜のノートを美鶴達はそれぞれ見始めた。

 それは数分もあれば重要な点は把握でき、美鶴達も事前に収集していた独自の資料も手伝って短時間で理解出来た。

 

「表に出たのは『山野真由美』と『小西早紀』の二人だが、実際は『天城雪子』・『巽完二』・『久慈川りせ』の三名も誘拐されているのか」

 

「――手口に関してもテレビ以外はこれと言って不明。目撃者も全く無しか」

 

 美鶴と真次郎はそれぞれの資料を見ながらそう呟いていた。

 やはり、被害者二名とは違って雪子達の事は事件になっていない為、新鮮な情報には色々と考えられる様だ。

 

「そして、皆さんは全員テレビの世界に入れられたのですね」

 

「ああ、俺の時の様に抑圧された内面のシャドウが出て後は前に話したとおりだ」

 

 洸夜はアイギスからの言葉に応えると、今度は真次郎が口を開いた。

 

「……で? 今の状況はどうなってんだ。一旦は沈静化してんのか?」

 

「分からない。……だが最悪の場合、近々起こるかも知れん」

 

「……何かあるのか?」

 

 気になる事があるとでも言わんばかりの反応をする洸夜に、美鶴は聞き返した。

 

「白鐘直斗は知ってるな? あいつが真犯人を炙り出す為にわざとメディアに出た。――自分を囮にする為に」

 

「自分を誘拐させるつもりなのでしょうか?」

 

「いや、白鐘ならばその場で犯人の確保。または顔を確認するのが目的だろう」

 

 流石は美鶴と言うべきか、白鐘について詳しい感じに言いながらアイギスに言った。

 だが、実際は女性とはいえ大人、そして族を潰した完二ですらまんまと捕まってしまっている。

 洸夜はその事実や、自分が直斗に接触して説得を試みた事をメンバーに伝えると、真次郎が腕を組みながら口を開いた。

 

「……なら今はほっとくしかねえ。洸夜(こっち)が事情も全て話してそこまでしてんだ。聞かない以上、後は自己責任だ」

 

「だが、真次郎。……俺は」

 

「……分かってる。誘拐されれば自己責任だ。だが、シャドウが出てくんなら俺達も動く。――それだけだ」

 

 回りくどく言っているが、結局は何かあれば助けてやると言っているだけだ。

 素直ではない真次郎の言葉に洸夜は小さく笑い、美鶴も手元の資料を見ながら話を続けた。

 

「先の事件だけが模倣犯である以上、今までの犯行から考えて犯人は、犯行でテレビに入れる事に終着している。……若干、期間が空いてはいるが、犯行を繰り返すならばテレビを利用する可能性が大きい」

 

「ですが、犯人の方は御自身はテレビには入らないのですよね?」

 

「ああ。……俺も何回もテレビに行ったが、それらしい人物とは全く出会わなかった」

 

 犯人からすれば、テレビに入れた時点で目標達成なのだろう。

 自分は機会に材料を投入しているだけなのだから、後はシャドウ任せにしているのが現状。

 

「実際、二人も死んでんだ。――証拠も全く出ないとは言え、リスクしかない世界に自分が行く理由はねえからな」

 

 真次郎は茶を飲みながら呟いた。

 裏町で行動していただけあり、そういう犯行をする者の考え方が多少なりとも理解出来てしまう様だ。

 

「まあ、どうなるにしろ。今日は雨だ。……今日の午前零時に『マヨナカテレビ』が映る筈だ。確認しといてくれ」

 

 洸夜の言葉に全員が頷き、今日はここで解散する形となった。

 何事もなければそれで良い。ここにいるメンバー全員がそう思っている。

 しかしその日。洸夜から直斗に連絡が届く事は何故かなかった。

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在、堂島宅【洸夜の部屋】

 

 雨。音がハッキリとする程の雨。時計は間もなく午前零時になろうとしていた。

 マヨナカテレビの条件が揃う中、洸夜は自室で総司と共にテレビを見ていた。

 そして、テレビの砂嵐が不意に乱れると、テレビに白衣を着た人物が姿を現した。

 

『どうも皆さん。こんばんわ……皆さんの”探偵王子”こと白鐘直斗です。――世紀の大実験へようこそ!!』

 

 白鐘直斗。白衣を着ていたがそれ以外の者は彼と全く同じであり、彼その者だった。ただ一つ、瞳が金色でなかったのならば。

 

「直斗のシャドウ……!」

 

「やはり、こうなったか……」

 

 総司はテレビに映る直斗の姿に多少の驚きを見せ、洸夜は薄々は分かっていた事であったが、こうなってしまった事実にショックを覚えていた。

 

 

▼▼▼

 

 現在、天城旅館【美鶴・アイギスの部屋】

 

 洸夜と総司がマヨナカテレビを見ていた同時間。共に確認する為に美鶴とアイギスの部屋に真次郎は訪れており、テレビに映る現実を眺めていた。

 

『行われるのは人類の夢! ”人体改造手術”!! あなた方もお楽しみに……!』

 

 こちらにお辞儀する直斗。正確には直斗のシャドウ。

 こうなってしまえば、直斗は既にテレビの世界にいる事になる。

 マヨナカテレビと言う非現実をこの目で確認した美鶴達だったが、全員冷静な様子であり、美鶴は静かに口を開いた。

 

「これが洸夜や”君達”の言っていたマヨナカテレビか……」

 

 美鶴はそう言って、この部屋にいる四人目の人物である天城雪子へと顔を向けた。

 雪子はその言葉にゆっくりと頷いた。

 

「……はい。そして、マヨナカテレビに映っている以上、直斗君はもうテレビの中にいる事になります」

 

 雪子との説明に美鶴達は頷き、真次郎が雪子へ話し掛けた。

 

「悪かったな……こんな時間に呼んじまって」

 

「いえ。どんな時にもお客様の御要望に応えるのも、うちの旅館の魅力ですので」

 

 流石は雪子と言うべきか。真次郎からの謝罪も優しく返した。

 これは雪子にとっても他人事ではなく、真次郎から謝罪して貰う事はなかった。

 遅かれ早かれ、自分も見る事になっただけだ。

 

 

▼▼▼

 

 同日

 

 現在、巽宅【完二の部屋】

 

 皆が見ているであろう時間帯、完二もマヨナカテレビを見ていた。

 久保が捕まったにも関わらず再び犯行は繰り返された。

 それが示す事は一つ。洸夜が言っていた久保の模倣犯説が当たった事を意味する。

 そして、マヨナカテレビが消えると完二は暫く黙っていたと思いきや、突然畳を力任せにぶん殴った。

 

「あの大馬鹿野郎……!」

 

 昨日の番組、そして今日学校で起こった直斗の覚悟の言葉。

 だが実際は直斗は返り討ちにあった様な物であった。

 その事実に、完二は直斗への何とも言えない怒りが溢れていた時、完二の携帯が鳴り響いた。

 完二は電話に出ると、相手は陽介からだった。

 

「もしもし!」 

 

『完二!? マヨナカテレビ見たか!!?』

 

 陽介が掛けてきた理由、やはりマヨナカテレビであった。

 

「見ましたよ……あんの野郎、返り討ちにあいやがったんだ!」

 

『ああ……そうなるよな。けど、同時に洸夜さんが言っていた久保の模倣犯の事も確定しちまったよな?』

 

「久保が殺ったのはモロキンだけ。――そうっすよね?」

 

 そうでなかったら直斗誘拐の説明が出来ない。

 

『そうなるよな。……あっ! あと、お前聞いたか? 美鶴さん達、稲羽に来てるんだってよ!』

 

「みつる……? ああ! 洸夜さん時にいた連中ッスか!」

 

 若干、名前だけ言われれば分からなかった完二だったが、印象が強すぎた外見によって記憶が蘇った。

 

『そうそう! 今、天城んとこの旅館にいるんだってよ!』

 

「へぇ~そうなんスか。だけど、それが――」

 

 それがどうした? そう言おうとした完二だったが、何かに気付いた様に黙り込んでしまう。

 突然、途切れてしまった後輩に陽介は心配そうに声を出した。

 

『お、おい! 完二!? 大丈夫か?』

 

「花村先輩……ありがとうございます」

 

『は? おい、なんの話――』

 

 完二はそれだけ言うと、そのまま陽介からの電話を切ってしまう。

 後に残ったのは、”覚悟”を決めた様に険しい表情をした完二だけが存在するのだった。

 

 

End


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