【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第十三章+番外編2+第十四章

Side三人称

 

 スカーバレル海賊団本拠地、ファズ・マティから距離にして5000宇宙マイル以上離れた空間に、1000mクラスと2000mクラスの巨大なフネが2隻、突如として現れた。

 

 監視衛星を破壊しながら迫る1000m級のフネは、大マゼランのバゼルナイツ級戦艦。

そして正面からゆっくりと白く美しい船体を隠しもせず迫るそのフネは、データには無いフネであり、そしてまた海賊たちの中でうわさとして囁かれているフネだった。

 

 

―――曰く“白鯨”―――白色に輝く船体から付いた名前である。

 

 

 黒い宇宙空間を悠々と航行するその姿は、まさに白鯨の名にふさわしい。

 だが問題はそこでは無い。海賊たちで流れる噂とは“白鯨に出会ったモノは逃れられない”と言うモノ。

 

 かのフネに勇猛に立ち向かった血気盛んな者たちは、ことごとくデブリに変えられ、抵抗しなかったモノは、根こそぎ奪われて近くの星に降ろされる。

 海賊よりも恐ろしい追剥集団・・・と自分たちの事を棚に上げて恐れているほどなのだ。

 

 そして、その白鯨が現れた事で、ファズ・マティの周辺を監視していた海賊たちが、大慌てで自分たちの首領(ドン)であるアルゴンへと伝えに走ったのだった。

 

「ホーホーイ!来おった来おった!何をしとる、艦隊を出して数で踏みつぶしてしまえ」

 

「へ、ヘイ!」

 

 アルゴンは自分の眼鏡を拭きながら、配下の報告を聞き、艦隊に発進命令を下す。

 首領(ドン)の指示により、ファズ・マティに係留している海賊船の艦隊が、次々とファズ・マティを発進し白鯨へと進行を開始した。

 相手は海賊たちが恐れる白鯨、だが前衛艦隊は25隻の駆逐艦、15隻の巡洋艦、5隻のミサイル巡洋艦5隻の大艦隊である。

 

 50対2の戦力差、幾ら巨大で強力なフネでもこの差は覆せまい。

 また、この後ろには更なる防衛線が引かれているのだ。

それに相手は巨大だから撃てば当たる。海賊たちは自信をもっていた。

 

 

「まもなく敵艦と接敵!交戦宙域に入りますぜ!」

 

「交戦準備!各艦、シールド展開!エネルギーの残量に注意しろ!」

 

「交戦準備アイアイサー!」

 

 

 距離は離れているモノの、相手は幾たの海賊船を沈めて来た“白鯨”。油断は出来ない。

 前衛艦隊を預かる幹部は、すぐさま交戦準備を行うよう各艦に通達した。

 そしてすぐに海賊船達はAPFSを張り始める。

 

 

「敵1番艦!エネルギー量が増大!」

 

「ふん、この距離で当たる訳がない。ただのブラフだ」

 

「お頭!なんか変なのが敵の甲板に出てきてますぜ?」

 

 

 だが海賊たちのフネがシールドを張ると同時に、まるでそれに呼応するかの如く、前衛を務めるバゼルナイツ級の甲板上に、拡散速射レーザー砲・ガトリングキャノンがせり出してきた。

 

「なんじゃありゃ?大砲か?」

 

「なんか寄せ集めみてぇだな」

 

「見た事もない兵器だな」

 

 大小様々な砲身が束ねられたその砲は、真っ直ぐと前衛艦隊へと照準を合わせていた。

砲にエネルギーが回され、余剰分が光を放ち、その内に臨界に達したのだろう。

そこから大小様々なレーザーが海賊艦隊にむけて放たれた。

 

 

≪ズズーン!≫

 

「うわぁ!」

 

「当たったぁぁ!しずむぅぅ!」

 

「騒ぐな!この距離じゃレーザーは減衰してシールドを突破何ぞ出来ん!それよりも各艦分散隊形を急がせろ!」

 

 

 艦隊を任された海賊幹部は、艦隊に指示を出し各艦の距離を取らせる。

 拡散型である為、かなりの弾幕だが、密集していなければ落される事は無い。

むしろ減衰しているので装甲板にかすり傷程度しか付いていなかった。

 

「こちらも撃て!反撃だ!」

 

 そして海賊艦隊も砲撃を開始する。

 駆逐艦や巡洋艦が一定のインターバルを置きながら砲撃を行い、辺りの空間には交差する光で明るくなっていた。

 

そして放たれたレーザーの幾つかは、白鯨の前衛艦に当たっているようで、シールドが光を放っているのが見て取れる。

 撃ちあいを行っていると、突然二隻が後退を始め、海賊いたちから距離を取り始めた。 

 

 

「後退していきますぜ!」

 

「へ、へへ!流石にこの数にはかなわねぇってかぁ?」

 

「よし!追い詰めてやるぞお前ら!全艦全速前進!」

 

「「「よっしゃぁぁぁ!」」」

 

 

 その姿を見て、海賊たちの士気が上昇する。

 自分たちが圧倒的有利であり、あの恐怖の白鯨を追い詰めているのだ。

 士気が自然と上昇するのも頷ける。

 

 

「・・・・だが、白鯨は今の所沈黙、むしろ何もして無い方が怖いな」

 

「そこ!無駄口叩いてる暇あったら手を動かせ!ミサイル発射よぉいっ!」

 

 

 駆逐艦達を盾にして、後続艦であるゲル・ドーネ級ミサイル巡洋艦が対艦ミサイルの発射準備を整えていく。

ガトリングキャノンは強力だが、あれだけ連射していればすぐにエネルギーが付いて、再チャージまで時間が掛かる事であろう。

 

「弾幕が尽きた時、それがお前らの最後だ。たったの2隻で俺達を相手にしたことを後悔させてやる」

 

 艦隊指揮を執っている幹部はそう言って唇を歪ませた。

ミサイルによる飽和攻撃、幾ら強力なフネでも、そのダメージは防ぎきることはできまい。

 

 

「お頭、発射準備完了しました」

 

「おし!後は弾幕が尽きるのを待つだけだ」

 

 

 すでに最初よりも弾幕が薄くなってきている。エネルギーが切れかけている証拠だ。

 そして幹部の予想どおり、ガトリングキャノンはエネルギーを使いきったのか、弾幕を張るのを停止し、強制冷却をおこなっている。

 

 

「今だ!全艦ミサイル発射!」

 

≪ドシュシュシュシュシュッ!!!≫

 

 

自艦も含め数百に及ぶミサイル達が、目の前の二隻の艦隊に向けて放たれる。

視界を埋め尽くすかのようなミサイル達の群、弾幕が途絶えた暗い空間に白い尾を靡かせながら、

ミサイル達は付き進んでいく。

 

 

「ミサイル、目標に到達まで、後90秒」

 

「ふん、あれだけのミサイルを防ぐ手段何ぞない。祈る時間くらいはある見たいだがな」

 

「ちげぇねぇッス!流石はお頭!頭良いッス」

 

 

 ガハハハと笑う幹部、そして勝利を確信している海賊たち。

 だが、結果は彼らの予想を越えて、違う展開を見せた――――

 

 

「お、お頭!ミサイルがっ!」

 

「な、なんだとぉっ!」

 

 

見れば、あれだけあったミサイルが、次々撃ち落ちされている映像が、戦術スクリーンに映し出されていた。

 

「バ、バケモンだ・・・アレだけのミサイルを落すなんて・・・」

 

 得体が知れないモノに対する恐怖が、海賊たちのフネに伝染していく。

 放たれたミサイル達は、白鯨が放つ光によってすべて影響圏に到達する前に撃ち落とされていたのだ。

 

 恐らく光学兵器だと思われるが、その光はまるで生き物のように何も無い空間で曲がってから目標に向かう。その姿がどこか古の怪物の蛇の髪を思い起こさせ、海賊たちは更に恐怖した。

 

「ひ、ひるむなぁ!たかが第一弾のミサイルが落されただけだ!第二弾よう――――」

 

海賊幹部は部下たちを鼓舞し、もう一度攻撃命令を出そうとする。

だがその命令は届く事は無かった。

 

 

≪―――――キュゴォォォォォンッ!!!!!!≫

 

 

何故なら、艦隊の上空や下方から未確認の黒い戦闘機達が、突如として出現したからだ。

その中でも、守られるかのように編隊の中心にいた人型の一機が、2発の反陽子魚雷を艦隊目がけて発射した。

それによって、スカーバレル前衛艦隊を指揮艦ごと滅却してしまったのだ。

艦隊の中心部に放たれた反陽子魚雷は、艦隊の殆どを巻き込んで焼きつくし、全てをデブリに変えてしまった。

 

運よく影響圏から外れていたお陰で生き残った海賊たちもいたが、あれだけいた艦隊が焼きつくされたことに驚いている内に、黒い戦闘機達の対艦ミサイルによって、反陽子魚雷をくらった者たちと同じ運命をたどることになる。

 

 こうして、白鯨は何事も無かったのように、海賊たちの残骸を蹴散らして、真っ直ぐとファズ・マティの最終防衛ラインへと接近していったのであった。

 

Sideout

 

***

 

 

「敵前衛艦隊突破!ファズ・マティ最終防衛ラインまで後50分!」

【VF-0Aw/Ghost編隊、撃墜機0。全機、弾薬補給の為、一時帰還します】

『こちら整備班、補給作業の為、飛行甲板にて待機する』

 

 ふぃー、何とか前衛艦隊を突破出来たぜ。

 やった事は超簡単、俺達を囮にして艦隊を引きつけて後退、待ち伏せのVF達に襲わせただけさ。

 まぁ、もっとも―――――

 

『反陽子魚雷の換装作業いそげー!』

 

――――-強力な花火を持たせたヤツを、一機紛れ込ませておいたんだがね。

 

まぁアレですよ?VFは人型に変形可能だからさ?ある程度換装には自由度がある訳なんだ。

ちょーっと大きいからパイロンに取り付けられない武装でも、ちょこっと改造して手に持たせれば発射可能だったりするのである。

しかし、まさか既にそういった時用の、手持ち式パイロン作ってあったとは・・・ゲに恐ろしきは技術者の血よのぉ。

 

 

「さて、最終防衛ラインも突破しましょうかね。所で反陽子魚雷の残弾は?」

 

「えーとリストにあるのは・・・オリジナルが後一つにケセイヤ手製のコピーが20発ほどかね」

 

「・・・・・あの人、また人に断りもなく」

 

「もう病気の段階だから、気にしたら負けさ。ちなみにさっきの反陽子魚雷、コピーのほうだよ?」

 

「マジッスか?おいおい・・・」

 

 

 そう言えばオリジナルは一本しか無かったのに、何で複数あるのか不思議だったんだよな。

 俺が頼みに行った時も、突然「こんな事もあろうかとぉっ!」とか叫んでたのはその所為か?

 なんか心配なので、格納庫の様子見てみっか・・・。

 

 

『班長ー、次はどれにします?』

 

『おっし!多弾頭を試そうぜ!ギリギリ積めるだろう』

 

『でっけぇ花火を上げてやりますよ!』

 

『ソレと艦長の行ってた“トイボックス”の準備できてるお!もっと面白いことができるお!』

 

『ヨッシャ!とっとと射出スンぞー!』

 

『『『おー!』』』

 

「・・・・・」≪ピッ≫

 

 

 俺は無言でコンソールを操作して、画面を消した。え?僕はなにも見ていませんよ?

 しばらく目頭を押さえたのは、別にあいつ等の無茶ぶりを見て、俺の心がもう諦めの境地に入ったからじゃないさ・・・きっとな。

 

さて、前衛艦隊との接触から20分程度経過した。既にVF達は発進させてある。

更にケセイヤさん謹製の素敵な“トイボックス”も用意させてもらったぜ。

 ソレを開けることになる海賊連中には同情すら覚えるな。

 

 さて、ココからは敵と接触するまでまだ少し時間がある。

 半舷休息が取れる程では無いモノの、ぶっちゃけるとヒマだ。

 

「しっかし、今回は派手に撃てネェからイライラするぜ」

 

 んで、あまりにヒマだったので、俺は艦長席からブリッジの様子を見ていたら、ストールがそうこぼしたのを聞いた。それを隣にいたリーフが律儀に突っ込みを入れている。

 

「おいおいストール、トリガーハッピーの禁断症状か?」

 

「人聞きの悪ぃこと言うなリーフ。俺はバーンと派手に出来ないのが嫌なだけだ」

 

「良く言うぜ、休暇中は殆ど射撃訓練室にこもってるくせによ」

 

 そういやこの間シップショップ“いおん”で随分と型の古い銃を予約してたな。

 何でもマゼラン銀河文明発足よりも前の時代の復興モデルだとかなんとか。

 カタログ見たら、普通にM24 シリーズのレミントンライフルそっくしだったけどな。

 

 しかし火薬式のボルトライフルなんてまだ有ったんだなぁ。

 宇宙空間じゃ改造しないと使えないから、持っているのは一部の愛好家くらいらしいし。

 ・・・・ストールって、ガンマニア?

 

「ユピー、最終防衛ラインまでまだッスか?」

 

【概算で後27分34秒01です。艦長】

 

「・・・・的確な時間ありがとよユピ」

 

休憩には長く、かと言って持ち場を離れられるほどの長さじゃ無い。

 とりあえず喉が渇いたので、コンソールを操作し近くの自販機から飲み物を取り出した。

 

 コレはケセイヤさんが設置した自販機で、ブリッジクルーが好きな時好きなモノを飲めるようにしてあるのだ。

 おまけに戦闘の事も考えて、吸わないと中身が出てこないストロー付きのボトルが出てくる超高性能自販機という素敵な便利アイテムである。

 

 コレのお陰で当直の時でも飲み物が飲める上、サンドウィッチとかのような簡単な軽食も出てくるのだ。食堂行くのが面倒臭い時に結構使わせてもらっている。

 

「・・・お、見えて来た、見えて来た」

 

 適当に選んだ飲み物を飲んでたら、光学映像に敵さんの艦隊がようやく見えて来た。

 惑星ファズマティを後方に、およそ20以上の艦隊が星を守る布陣をしているようだ。

 流石に前衛艦隊とは規模が違う、駐留していた艦隊を全て防衛に回したと見て良いだろう。

 

「ユピ、“トイボックス”はどこらへんッスかね?」

 

【そうですね。もうそろそろ“開く”ころでは?】

 

「“トイボックス”ねぇ?結局は只の爆弾みたいなもんだろ?」

 

 隣の副長席に座っていたトスカ姐さんが、俺とユピとの会話に割り込んできた。

 そんな!ただの爆弾だなんて身も蓋もない!華もロマンも薄らいでしまうではないか!

 

「ふぅ、トスカさんダメっすよ~。せっかくカッコよくコードネームで呼んでるのに」

 

【そうですよ】

 

 やれやれだゼって感じで肩をすくめる俺。それを見たトスカ姐さんからピキって音が・・・。

 あれれれれ?額に青い筋が見えますよートスカさん?怒るとストレスがたまりますよ?ストレスはお肌の大敵です。

 ・・・・・そして何故俺の頬に手を伸ばしてるんですか?

 

「生意気を言うのはこの口かぁぁぁ!!」

 

「いひゃい!いひゃいッスゥッ!!」

 

【ああ!艦長!今度はチーズ張りに頬が伸びてます!!】

 

 みょーんと伸びる俺のモチ肌・・・。

 

「艦長、副長。もうそろそろ戦闘空域に入るんですけど・・・」

 

「さて、各艦戦闘準備!直衛機発進!」

 

「“トイボックス”が“開いた”時、アバリスのガトリングキャノンの一斉射を行う!エネルギーをチャージしておきな!」

 

 んで、そんな事やっている俺らを白い目で見ながら、ミドリさんが事態の収拾の為に動く。

 俺達は直ちにパッと元の位置にもどり、各部署へと指示を飛ばしていた。

 

「・・・・変わり身早」

 

 そしてミドリさんのつぶやきは聞えなかった。

 ええ、聞えませんでしたとも、ぜんぜん聞えなかったさ。

 まぁこんなコントはいつもの事なので気にしない、気にしないったら気にしない。

 

【まもなく“トイボックス”が“開きます”】

 

「予想爆破時間まで、あと10秒」

 

「さぁ、アレが見つからずに壊されて無ければ良いんだが・・・」

 

 そこら辺は運に任せるしかないな。

一応偽装してあるからそう簡単には見破られないだろうが・・・。

 

―――――と、その時。

 

【“トイボックス”起動しました!】

 

艦隊の前方空間から、何乗ものミサイルが虚空より出現し敵の直前で分裂する。多弾頭ミサイルだ。何百にも分かれたミサイル達は、海賊たちが対処する間もなく着弾、起爆する。

 

≪ゴゴゴゴゴ――――≫

 

 そして前方に蒼い光を放つ太陽の様な火球が幾つもあがる。

 その火球は他の海賊船達をも飲み込み、更なる爆発の連鎖を起し、宇宙に華を咲かせていた。

 

「やぁ、見事に引っかかったな。たーまやーってとこか」

 

 思わずそう漏らす俺、しかし随分と上手くいったなぁ。

 やったことは超簡単、さっき交戦した敵の半壊して機能停止した駆逐艦の中に、いくつものミサイルポッドを忍ばせておく、弾頭は多弾頭ミサイルだ。

 

 そしてソレをファズ・マティ方面に向けて流しただけ、後はタイマーによってポッドが起動し、周辺の情報から海賊船がいたらミサイルが全弾発射されるってワケ。ね?簡単でしょう?

 

「VF隊、敵残存艦隊と接触、交戦に入ります」

 

【残存艦隊からミサイルが射出されました】

 

「ストール」

 

「任せろ、全部撃ち落としてやるぜ」

 

 前方では多弾頭ミサイルで艦隊に開けられた穴にVF達が入り込み、接近戦を開始していた。

 駆逐艦は対空装備が無い為、あっけなく沈められてしまい。対空戦闘能力が高い巡洋艦の近辺で密集隊形を取っていた。だが、ソレはブービーだ。

 

「VF、反陽子魚雷を発射」

 

【対光ブラインド降ろします】

 

≪―――――カッ―――――!!!≫

 

密集した艦隊へと、一発の反陽子魚雷が撃ちこまれる。

 当然密集していた訳だから、大半の艦艇が巻き込まれて火球と化してしまった。

 ソレを見た海賊たちに動揺が走っているのが見て取れる。

 

「機関出力最大!今の内に突破する!」

 

 そしてこの隙に、俺達は最終防衛ラインを突破。

 アバリスが突破するドサクサにガトリングキャノンを撃ちまくって、更に敵を混乱させた後、ファズ・マティの軌道エレベーターにある宇宙港へと向けて、俺達は飛びこんだ。

 

 

***

 

 

 基本的にこの宇宙で航海する者たちは、バイオハザードの様な、余程特別な理由がない限り宇宙港を攻撃する様な事は基本的には絶対有り得ない。何故なら宇宙港は惑星に降りる為の唯一の出入り口な訳で、そこを使いモノにならなくしたら、自分たちは惑星に降りる事もままならないからだ。

 

 そしてこの時代、フネの整備や補給を引き受けてくれている絶対中立の空間通商管理局に、宇宙航海者の大半は依存している為、その空間通商管理局が管理運営している宇宙港がある軌道上のステーションを攻撃しないのだ。

 

 故に、一度軌道ステーションの中に入りこめば、そこでの艦隊戦はほぼできなくなる。

 此方からはつるべ撃ちで撃ち放題何だけどな!アバリスを港のすぐ近くに置き、ガトリングキャノンで射程内に入り込む敵だけ、弾幕を浴びせかける。

こうして事が終わるまで、敵を近づけさせない様にするのだ。邪魔されるのは嫌だからな。

 

「保安員!軌道エレベーターから降下し周辺施設を制圧しろ!トーロ!頼むぞ!」

 

「任せときな!」

 

 そしてトーロ率いる保安員達が次々軌道エレベーターに乗り込み、地上へと降下していく。

 俺は俺で違うルートから侵入する為、格納庫へと向かっていた。

 

「ケセイヤさん!準備で来てるッスか?」

 

「おう来たか艦長!艦長専用VF-0Sw/Ghost、通称ぶっこみ使用なら準備で来てるぜ」

 

 ぶっこみって・・・まぁ良いか。俺はすでにアイドリング状態になっている愛機を眺める。

 流石はケセイヤさんの整備だ、今日も愛機は絶好調だぜ。

 

「そいやケセイヤさん、アレの開発はどうなってるッスか?」

 

「ん?白兵戦用強化装甲宇宙服と強襲艦の事か?強襲艦は目途は立ったぞ」

 

「装甲宇宙服は難しいッスか?」

 

「一応メーザーブラスターに耐えられる装甲を開発はしたが、重たすぎて動かせやしねぇ。今はどれだけ強度を落さずに軽量化出来るかと、快適性の両立、序でに電子機能の搭載を目安に開発続行中だ。現在の完成度はおよそ76%ってとこだな。少し見て見るか?」

 

 そう言うとケセイヤさんは近くの端末を操作して、画像を見せてくれた。

 そこに映し出されたのはズングリとした形状の、カメラアイのついた宇宙服・・・つーか。

 

「・・・・脚が付いて無いな」

 

「脚なんて飾りです。偉い人にはそれが解らんのです。実際は別所で開発中なだけだがな」

 

 どこかで聞いたことがあるような台詞を流しつつ、俺は自分の愛機に乗り込んだ。

 機器を操作し、機能を確認、システムに問題無いかを調べて問題が無いと感じた俺は、パイロットスーツのヘルメットをかぶった。

 

「そいじゃ、ちょっくら行って来るッス」

 

「おう、気をつけてな。俺の大事な機体を壊すんじゃねぇぞ?」

 

「あいあい、壊さないよう努力するッス。そいじゃ」

 

 キャノピーが降り、コックピットが閉鎖される。

気密を確認しカタパルトに機体が乗るのを待った。

 

「ユピ、サポートとフネの防衛、任せても良いッスか?」

【お任せください】

『カタパルト準備よし、針路クリア、準備はいいか?』

 

 無線にそう聞こえて来たので、俺は問題無いと返事を返す。

 

『よし、暴れて来いよ!』

 

≪ドン≫

 

 重力調整されていても感じるくらいのGを身体に受けつつ、俺はカタパルトから宇宙に飛び出した。そのままユピテルの前を大きく円を描きながら飛行し、僚機(ウィングマン)である無人機が来るのを待つ。

 

「お、来た来た。ん?なんだあの機体?」

 

 しばらくして僚機が来た訳だが、その後方の編隊の中に見たことがない機体が紛れ込んでいる。

その機体の背中には巨大なレドームを積まれバリエーション機のRVF-0(P)と酷似していた。

 

だがRVF-0(P)は違い、武装が施されている所を見ると、強行偵察機と言ったところだろうか?良く見ればブースターも増設されている。

 

「ケセイヤさん、あの機体は何なんスか?」

 

『おう!よく聞いてくれた!あれこそ無線誘導のVF達と遠くでも動かせる打開策よ』

 

【あの機体が中継ブースターになって、更に広範囲に誘導信号を送れるようになります。一応30%程の通信範囲の向上が見られました】

 

 つまりは、アレが幾つかあれば、人手不足でも戦闘機隊の運用が可能って訳だ。

 だがそれよりも――――

 

「ところでケセイヤさん、アレいつ作ったの?」

 

『あ?つい一昨日だが?』

 

「ほう、一応現在戦闘機関連についての開発はストップをかけておいたと思うんスけど?」

 

『ギク』

 

 ほう、ギクとな?この間から戦闘機の開発費がドンドン膨らむから、少しストップしておけと命令を下して置いた筈なんだが?

 

「・・・・・給料から引いておきますね?」

 

『お、おい艦長!そんな殺生な・・・』

 

「良いですね?」

 

『・・・・はい』

 

 おや?何をガクガク震えているんだろう?別に僕は哂っているだけなのになぁ。

 

「はぁ、ユピ、進入ルートをナビしてくれッス」

 

【了解、艦長】

 

 通信画面の向こうで若干灰になっているケセイヤさんを放置し、俺はアフターバーナーを点火、無人機隊を引き連れて人工惑星ファズ・マティへと突入した。

 

 

 

「く!給料減らされた程度じゃ俺はくじけんぞぉぉぉぉ!!」

 

 

 

――――なんか変な声が聞こえた気がするが、気のせいだろう。

 

 

 

 

 

 

さて、海賊の本拠地であるファズ・マティだったが、思っていたよりも対空火器は少ない。

 むしろ見つける方が一苦労なのだから、ここでの対空火器がどれほど少ないのかが解るだろう。

 

「此方フェニックスゴースト。戦闘空域に到達した」

 

『お!ユーリじゃねぇか!ついに戦闘機に乗れるようになったか?』

 

「おいおい、俺は最初から乗れてたッスよ?最近ようやくコイツのGになれたけど」

 

 この機体の加速度は殺人レベルまで出せるもんなぁ。

 空いた時間は訓練に当てたけど、それでも全速出したら数分持てばいい方だ。

 

「で?対空支援は必要ッスか?」

 

『おう、ちょうどいい――≪ドゴーンッ!!≫「「ぎゃぁぁぁ!」」――あっ!このヤロウッ!≪バシュバシュ!!≫――おいユーリ!何処でも良いから俺達の目の前に陣取っている連中をなんとかしてくれ!バリケード組まれて突破できん!』

 

「あいよ、少し待ってな。Fox1」

 

 ユピの情報サポートによりHUDに表示されたマーカーに合わせて、積んできた対地上用ミサイルを出し惜しみすることなく発射する。

 どうせこんな海賊の本拠地でも無い限り、地上での戦闘なんて無いんだから、出し惜しみした所で倉庫でほこり被るからな。

 それなら派手にぶっ放しちまった方が良いだろう。

 

≪バシューー…―――――ドドドドドォン!!≫

 

「効果確認、全弾着弾!どうだ特殊弾のお味は?」

 

 そしてここでも、俺はまたネタ兵器を使う。

 バリケードを組んでいた連中は、何か白い粘々に巻きつかれ、最初はうごめいていたが徐々に固まって動かなくなった。ナニ撃ってんだって?いいえケフィアです。

 

「おお、流石は戦車のキャタピラすら固めちまう接着剤。張りついたらそう簡単に取れないな」

 

 まぁ撃ちこんだのは超強力瞬間接着剤を弾頭に込めた無力化兵器なんだがな。

 空中で溶液がばらまかれ、効果範囲に居る連中は瞬時に接着されて動けなくなる。

 稀に窒息するヤツもいるが、俺ぁそこまで責任取れねぇだ。

 

「ちゃんと付いて来てるか?ブービー?」

 

『・・・・・・』

 

「・・・・まぁ無人機が返事出来る訳無いか」

 

 うう、速いとこ人間のパイロットでも雇おう。

 コレが終わったら、俺ギルドに行って人身売買・・・もとい人材確保するんだ。

 うわ、死亡フラグっぽい。

 

「でもそしたら俺が戦闘機で出れる機会がぐっと減るなぁ」

 

『こちらトーロ、軌道エレベーター周辺は制圧、後は海賊の親玉の所に行くだけだがどうするよ?』

 

「あん?なら親玉のとこ行く班と、お宝探す連中を護衛する班に分けて探索を開始してくれッス」

 

『了解艦長、もう対空支援いらねぇから降りてきたらどうだ?』

 

「あーあ、出た意味が無かったッスねぇ」

 

 地上に降りてガウォークにして、戦車みたいな事でもさせようかな?

 

『ん、なんだ?・・・・おいユーリ、捕まえた海賊からの情報だが、ミィヤ・サキが本拠地の方に捕まっているらしいぜ?しかもまだ“手”は出されていないそうだ』

 

「間一髪ってとこだった。かな?」

 

『そうらしい。で、どうするよ?』

 

 んなこたぁ言わんでも解るだろ?当然助けるに決まってるでしょうが。

 可愛い女の子は助ける。コレ男の子の義務ってヤツね。

 

「艦長命令だ。助けろッス。やる気出させる為に適当に“吊り橋効果”の噂でも流しておけッス」

 

『おう、わかった。まぁ助けたからと言って惚れられるとは限らねぇとは思うが』

 

「そこら辺は運ッスからねぇ~。ま、頑張り次第じゃ無い?」

 

『ちげぇねぇ。それじゃミィヤさん救出に人員を割くぜ?』

 

 コレでウチのクルー達は士気が異常に増すことだろう。

 勿論暴走したとしても女性に対して乱暴する様なバカはいない。

 みんな変態と言う名の紳士たちだからな!・・・・バカしかいねぇ。

 

 

【艦長、この星のコンピュータにアクセスして、海賊の長アルゴンの居場所を突き止めました】

 

「お、流石はユピ、お手柄お手柄!」

 

【HUDにマーカーとして居場所を表示しておきますね?】

 

「あいあい、すぐ向かうッスよ。さて、行くぞ無人機達!」

 

『・・・・・・・』

 

「・・・・返事してほしいなぁ」

 

 なんだか少し落ち込んだら、ユピがおーっと掛け声を出してくれた。

 ほんと良い子に育っちゃって・・・ミドリさんの教育に感謝だなぁ。

 

 

 

***

 

 

 

 さて、VFでアルゴンがいる建物周辺を制圧し、トーロやトスカ姉さん達と合流後、建物内に入ったのだが、中に居た海賊たちと現在戦闘中だ。やっぱ本拠地だけあって、ワラワラと大軍で湧いてくるぜ。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!!!」

 

「ガトチュ!エロスタイル!」

 

「フタエノキワミ!アッー!」

 

 もっとも俺達の方が数が多い上、士気が異常に高くて色々と濃い連中ばかりだ。

 なので現れる海賊たちは為すすべもなく制圧されていく。

 なんか若干変な掛け声が混じっていた様な気がするが、きっと時代を越えて愛されている戦い方なんだろう。

 

 

「コレが俺の全力全開!トリ餅バスタァァァ!!!」

≪ブッチャァァンッ!!!≫

 

 

 俺もまた不屈の精神を持つ相棒(バズーカの事)を肩に担いで、狭い室内でトリ餅弾を撃ちまくる。

 おかげで壁に白い滲みが沢山・・・・ええ、ケフィアです。いやトリ餅です。

 

「一階は制圧が完了したよ?ユーリ」

 

「奥の方には上行きのエレベーターがあった。ミィヤさんについては発見出来ていない」

 

「なら上に行くしかないッスね。トスカさんとイネスは付いて来てくれッス。トーロは殿を頼むッスよ?」

 

 こうして本拠地の一階を制圧したんだが、2階には誰もおらず、3階では道なりに進んでたらマネーカード手に入れて、中に300G程度入っていたくらいだった。

 

 

 ――――んでエレベーターにのって4階に到達した訳だが・・・。

 

 

「おーい、そこのしょうね~ん!」

 

「ん?だれだ?」

 

 これまた踏ん張っていた海賊たちを蹴散らして進んでいると、何処からともなく声が聞こえたのだ。どうやら女性の声らしいが、ミィヤではない。もっと年上の女性の声である。

 

「そこの君、そうきょろきょろとしている少年、君の事だよ。ひょろひょろとしたもや―――」

 

「・・・あ゛あ゛!?」

 

「・・・・すまない訂正だ。線が細い美少年よ。私を助けてはくれないか?」

 

 NGワードを言われかけて少しキレかけたが、ソレを抑える。

 というか一体どこから声が聞こえてくるんだか正直解らんのだが?

 

「・・・・助けたいのは山々何スが、何処に居るッスか?」

 

「ここだ少年、君の上だ。天井の板をはずしてくれないか?」

 

「上?しかも天井の板って、うわぁっ!?」

 

 あ、ありのままに起こったことを(ry

 

 ちょっち混乱しちまったが、とにかく言いたいことはだな?

一体何がどうなればこうなるのかは解らないんだが、天井の中を走るケーブルとかの配線の束が、天井を開けると入っている訳なんだが、そこに白衣を来た女性が絡まっているというある意味ホラー映画みたいな光景が見えたんだ。

 ホントに、何がどうしたらこうなるんだ・・・・。

 

「あー、その・・・・」

 

「ふっ、笑ってくれても良いぞ少年」

 

「いや、笑う前に怖いの感情の方が強いッス」

 

 というか何でコッチ見てないのに、俺の事解るんだよ?

 あれか?エスパー何ですか?

 

「私はナージャ、ナージャ・ミユという。アルデスタの大学に勤めている研究者なのだが、偶々大学に帰る際に乗っていたフネが海賊に捕まってしまったのだ。科学者なんだから違法なドラッグの生成に手を貸せとか言われたのは良いが、私の専門はレアメタルでな?何もできないとバレと殺されると思い、適当に研究に手を貸すフリをしていた。そして先ほど君達が戦闘を開始したので、私はチャンスだと思い逃げだした訳だ。どうだ?解ったか?」

 

「スゲェ肺活量だって事は解りました」

 

 あと説明乙。ふーん、ナージャ・ミユさんねぇ?どっかで聞いたことがあるような無い様な・・・・・う~ん?思い出せんわい。無限航路は結構やったけど、そんなサブキャラを全部覚えている訳じゃないからなぁ。

 でもこの出で立ちは、やっぱり研究者であっていると見て良いだろうな。白衣だし。なんか研究者っぽいし、でもそれより気になるのは・・・・・。

 

「ところで何で天井の配線に絡まってるんスか?」

 

「ふむ、それには海よりも深く、空よりも高い理由があってだな?」

 

「大方通風口かと思って入ったら、配線の点検ハッチで、辺りに海賊が来たからソコから出られなくなって、それでも無理に移動しようとしたらそうなったってとこッスかねぇ?」

 

「ほう、良く解ったな少年」

 

「マジッスか。マジなんスか」

 

 おk、実は結構ドジっ子だったという事実。見た目しっかりした人っぽいのに、なんか可愛えなオイ。とりあえず海賊の仲間という可能性は低そうだな。と言うか海賊だったらこんな堂々とした登場?をしないで、普通に銃撃してくるだろうし。

 

 んで俺の脳内会議の結果、俺一人では救出出来ないと思ったので、他のクルーを何人か連れて来て助け出すことに成功した。ケーブルに電気配線が混じってたのか、助ける時に配線を切った所為で停電して、4階は現在非常用電源になっているのは気にしない。

 

「ふむ、少年よ助かった」

 

「ソレは良かったッスね。それじゃやることがあるんで俺はコレで」

 

「ああ、後で会おう」

 

 そう言うと彼女はつかつかと廊下を歩き消えて行った。一体彼女は何だったのだろうか?良く解らないな。そんな事よりも先を急ぐことにした。

 

***

 

 

 5階行きのエレベーターを発見し、それに乗りこむ俺ら。 

 ふと思ったんだが、なんでエレベーター止めてないんだろうな?

 普通なら侵入者対策の為に、エレベーター何ぞ止めるもんだと俺は思うんだが・・・。

 

「そこんとこどう思います?トスカさん」

 

「しらん」

 

 トスカ姐さんに聞いたら、一言で返された。

 いや、まぁ解らないだろうけどさ。もうちょっと考える仕草くらいしてよ。

 コレじゃつまらんのでイネスに振ってみた。

 

「で、どう思うッス?」

 

「ええと、多分・・・ゴメン僕にもわかんない」

 

 どうやらイネスにも解らないらしい。

 なんだよ使えねぇなみたいな目で見てたら、何故か視線を逸らされた。

 はて?俺コイツに怒らせるような何かしたこと有ったかな?

 

≪ぽーん≫

 

 とか何とかしている内に5階に到着した。敵さんが待ち構えていたが、バズの一撃で沈黙したので、とりあえずまだ下に居る連中をエレベーターでピストン輸送して戦力を整えた。

 そして各部屋を制圧しながら、どう考えてもボスの部屋ッポイ扉の前に到着した。

 

「さてと、それじゃドカンと一発!」

 

 そしてそのまま俺は入口を蹴り破り、なかにトリ餅弾頭のバズを連射しました。

 アルゴンと恐らく待ち伏せさせていた海賊たちを、全部もろとも壁に張り付けてやった。

 そして俺は、腰に付けたスークリフブレードを抜き、アルゴンの首に当てた。

 

「ホヒィ-!ま、参った!降参だよー!い、いや停戦だ!もうお互いてをださないことにしようじゃない」

 

「おいおい、何言ってるッスか?」

 

「ほひ?」

 

 俺はアルゴンの言葉を途中で遮った。

そしてとてもいい笑顔をむけながら、こう言ってやった。

 

「俺達に負けた金ヅルが、対等な立場だと本気で考えてるんスか?」

 

「ホ、ホヒィィィィ!!??そ、そんな!余生はのんびりと静かに――」

 

「あきらめな。ココまで暴れておまけにウチのクルーを誘拐したんだ」

 

「クルーは仲間であり、家族。それに手を出したお前らを、俺は許すことなんてしないッスよ・・・・さぁ祈れ、今お前に出来ることはそれだけだ」

 

「そ、そんな!し、知らなかった!部下たちが勝手に――」

 

「下の不始末は上がつける。当たり前のことだろう?」

 

「ど、土下座でも何でもするっ!どうか命だけは!!」

 

 トリ餅に捕まって動けないのに、何とかして逃れようと身体をよじるアルゴン。

 その姿はあまりにも滑稽で、また情けなさすぎる。コレで本当に海賊の長かよ。

 

「・・・・それじゃ、ある質問に答えてくれたら、考えてやるッス」

 

「な、何でもする!早く質問を!!」

 

「あんたはそうやって命乞いをした相手を、許したことはあるんスか?」

 

「ホァッ!?」

 

「ちなみに答える時は、このケセイヤさん特製のウソ発見機つけるッスよ~。ウソついたら・・・クスクスクス」

 

「ホヒィィィィィ!!・・・ブクブクブク」

 

 あ、コイツ白目向けて気絶しやがった。ご丁寧に泡まで吹いてやがる。

 おかしいなぁ、ただ目元が見えない様にしてチラ見しながら笑っただけなんだがなぁ、耳元で。

 

「「「「・・・・・艦長、やり過ぎ」」」」

 

 というかクルーの連中の目が痛い!

なにそのご愁傷さまな目をアルゴンに向けてるんスか!? 俺に味方はいないのかー!

 まぁとりあえずアルゴンは捕まえた。しかしミィヤはどこに居るんだっけ?うーむ、思い出せん。

 

「おい、起きろッス」

 

「ほひぃ、もう食えな―――」

 

≪バコン!≫

 

 とりあえず気絶していたアルゴンを起すことにする。 

 と言うか気絶した分際でそのまま眠るとか、コイツ結構大物なのか?

 それにしては随分と小者臭が漂っていた気がしないでもないんだが?

 

「ホヒィッ!?なんじゃ?なにが!?」

 

「良いから質問に答えろッス。じゃないと男のシンボルをバズで撃ち抜くッスよ?」

 

≪ガチャ≫

 

 俺はアルゴンの股に、ゼロ距離でバズの砲口を向けながらそう迫る。後ろで何人かの着崩れ音がした所を見ると、どうやら何人かが前かがみになったっぽい。

 つか、「絶対艦長ならやるよな」とか聞こえてるんだけど?

 

「ゴッゾでイネスと一緒に捕まえた女はどこに収監したッスか?」

 

「ゴッゾ?・・・・ああ、それならこの上の階―――」

 

「はい情報御苦労さん、もう一回気絶してて」

 

≪ゴイン!≫

 

 俺はバズの砲身でアルゴンをぶんなぐり気絶させた。 

 今度は白目向いて舌までだして痙攣している。だけどギャグキャラっぽいから死なんだろう。

 

「ふぅ、良い仕事したッスー!」

 

 コレで大将倒したから、後はこのファズ・マティに居る海賊連中に降伏勧告でもすれば良いだろう。ああ、疲れた。

 

「・・・・ユーリ、アンタ相変わらず酷いねぇ」

 

「僕は君の身内で良かったと心底思うよ」

 

「俺もだぜ、絶対的対したくないなオイ」

 

 うるせぇ!悪人には人権無しなんだよ!つーか女性ならともかく、こんな小者臭漂うヤロウ、しかも爺ぃ相手に情けなんて駆けねぇゼ!まさに外道?上等じゃい!

 

「さてと、取りえず撤収!降伏した海賊たちは分散して拘束しておくッス。後は恒例のお宝探しでもしに行くッスよー!早い者勝ちじゃー!」

 

「「「「あ!艦長ズリィー!」」」」

 

 そして俺はこの星にあるお宝を探しにエレベーターへと駆けて行く。

 コレだけの人工惑星何だから、なにか面白いモノの一つや二つあるかもね!

 後ろから聞こえるずるいだの待ちやがれ等の声をBGMに、俺はお宝探しへと向かったのであった。

 

 

「・・・で、コイツはどうするんだろうね?」

 

 

 ちなみにアルゴンはトリ餅の中で気絶したまますっかり忘れられていた。

 そしてその事にユーリが気がついたのは、数日後だった為、栄養不足とショックで認知症を発症し、そのまま近くのボイドゲートにいたメディックのフネに引き渡されたのであった。

 

***

 

 

さて、ファズ・マティでの戦闘から、3週間の歳月が流れた。

 現在俺達がどこにいるかと言うと――――

 

「15番艦、竣工完了したぜ!」

「流石海賊の本拠地、材料だけは腐るほどあるぜ!」

 

――――今だファズ・マティに駐留して居たりする。

 

流石ここら一体に縄張りはってた海賊団だけあるってことだ。

 いやー、お宝があるとは思ってたけど、まさかこれほど大量にあるとはね。

 金目の物を売り払っても、俺達0Gドックにとってはまだまだお宝と呼べるものたちが残されていたくらいだ。

 

 簡単に言えば、造船を行うのに十分な量な資材と設計図達である。

アレだけの規模の艦隊があった訳だし、メンテナンス用の資材とかあるだろうと思ってたら、本当に大量に溜めこんでいた。

 巡洋艦クラスでも、軽く30隻近く造れそうなくらいの量が倉庫に保管されていたのである。

 

 当然のことながら、それに狂喜乱舞した連中がいる。

そう、ウチの愛すべきマッドな科学班と整備班たちで、彼らは倉庫に保管されていた資材を見てすぐに俺に企画書を立案したのだ。

 

 それこそ“空母を中心とした機動艦隊運用立案”である、簡単に言えば今のユピを帰艦にして艦隊を作り、他にもアバリスとかを中心とした工作艦隊、駆逐艦のみで編成された突撃艦隊などの男のロマンを作ろうというある意味無茶である意味壮大な計画だ。

 

 ちなみにウチの連中は紳士なので、ちゃんと女性にも配慮して自然公園モジュールやショップモジュールなどの娯楽系も充実させていくのは余談である。だがそれよりもだ―――

 

「さて、少年新しく造る艦隊へ使う装甲の改良案なのだが―――」

「・・・・とりあえず、突っ込んでも良いッスか?」

「何かな少年、こう見えて私はそれなりに忙しい」

「なんでミユさんファズ・マティに居るんスか?捕まってた民間人たちはとっくの昔に近くの惑星に介抱した筈何スけど?」

 

俺は今現在、俺のすぐ横でプレゼンをしている女性、ナージャ・ミユさんを見てそう言った。と言うかアンタ学者だろ?こんなとこ良いのかよ。大学止めさせられるぞ?

 

「なんだそんな事か。それなら心配は無い。何故なら既に私は少年の軍門に下っている。だから問題無い」

「ああ、そうなんすかーはははー!」

「その通りさ。ソレはさて置き「って!俺そんな報告受けてねぇ!」っ・・少しは静かに出来ないのかね?少年」

 

 あれ?なんで俺の方が怒られてるんですか?

 ミユさんはやれやれと言った感じで肩をすくめていらっしゃるし、え?何?俺が悪いの?

と言うかココ最近見たことが無い連中が増えていた様な気がするけど・・・・。

 

「ト、トスカさん!?ちょっとっ!?」

『あー?なんだよ?今ちょうどイネスを♀化させる算段をだな―――』

「ソレは大いにやってかまわんスけど、なんか知らん間に人員が増えてるんスけどどういう事ッスか!?」

 

 俺は慌てて手元の端末からトスカ姐さんに連絡を取る。

 なんか女性陣で集まっての会合みたいで、ものすごく重要な事を言っていた様な気がするけど、僕はそれを聞き流して本題を繰り出した!

 

『人員が増えてるぅ?そらアンタ、ウチは万年人手不足だから、毎回港に寄った時は人員募集してたじゃないか?もっともある程度マナーを守れる良識があって、どんなことでも動じない柔軟な意識の持ち主って採用基準だから、恐ろしく集まらないけどさ』

 

 艦長である俺が知らなかった衝撃の事実。

 道理でこの間から操艦とか発進とかがスムーズだと思ったよ!

 知らぬ間に人員が増えてりゃ楽にもならーな!

 

『え?まさかアンタ・・・知らなかった?』

 

 ええ、そりゃもう・・・今初めて知りました。

 

『おかしいねぇ?私はちゃんと許可とったよ?』

「そりゃ何時の話ッスか?」

『んー?確かルーのじっさまが乗った後で、策略してたあの時だったかな?』

 

 それは確か、ルーのじっさまが策謀を巡らしている間、俺達が海賊狩りとかして時間つぶしてた時か?

 でもあの時そんな許可を・・・・あ。

 

「もしかして、宴会開いたときじゃないッスか?」

『ああ、確かその時だね』

 

 そう言えば丸ごと海賊船を拿捕して金が出来たから、クルー全員で大宴会を開いたっけな。

 飲めや歌えのどんちゃん騒ぎなんか目じゃなくて、飲めや歌えや脱げやブチ殺すぞヒューマンなくらいの騒ぎだったなぁ。

 ケセイヤさんが持ち込んだアルコール度数が96度もあるお酒が何故か引火して、火を噴いたのに全員無事だったのはいい思い出だ。

 

「・・・・覚えてねぇワケッスよ。俺そん時トスカさんに付きあって潰されたじゃないッスか?」

『あり?そうだったかね?まぁそん時に許可は貰ったよ?』

 

 酔ってる時に出した許可なんて覚えてない。

 でも今更不許可とかなんて効かないし、大体既に乗っちまったクルーになんて説明すりゃいい?

 とりあえず手元のコンソールから、ココ最近に入ったクルーの名簿を見てみる。

 幸い判断基準が高いお陰か、全員が全員それなりの技能を有しているようだ。

 もっともこのフネのどんちゃん騒ぎに順応できる程柔軟な思考回路の持ち主たちだから、全員一癖も二癖もありそうだ。

 今現在俺の目の前に居らっしゃる彼女も・・・・。

 

「どうした少年?まだ話はつかんのか?」

「・・・・もう少し待ってくれッス、まだ混乱中で」

「いいぞ、大いに悩みたまえ。悩むのは若いモノの特権だ」

「・・・・ミユさんも若いじゃないッスか?」

 

 手元の資料には26歳ってあるが、それよりももっと若く見えるんだけど?

 だが俺がそう言うと彼女はいきなりにやりと艶やかな笑みを浮かべ俺の方を向き。

 

「おや?少年はまた随分と誑しこむのが好きなのだな?まぁ私は構わない。何なら相手をしてあげようか?」

 

 ――――とまぁ、トンでも無いことをおっしゃられました。

 

「え、えんりょしとくッス」

「そうか?残念」

 

 そういうとすぐに普段の雰囲気に戻られるミユさん。

 どうやら俺は遊ばれただけらしい。

ですよねー。俺みたいなガキに美人さんがそんな事仰る筈ないもんねー。

 ・・・・・自分でおもって悲しくなった。鬱だ死のう。

 

「ま、ソレはさて置き、装甲に使うレアメタル等を入手したいのだが?」

「もう適当にやってくれッス。財源内だったら何してももう良いッス」

「了解した。ではな少年、たまには相手してやるぞ?」

「・・・・・頼むッスから俺で遊ばないでくれッス」

「ふふ、それじゃあな」

 

 彼女は最後までごーいんぐまいうぇいだった。

 とりあえずその日は寝た、不貞寝ってヤツだ。

 ストレスを感じたら眠るに限るわい。

 

***

 

 さて、それから数日が経過し、そろそろファズ・マティから出港する事になった。

 別に急ぎの仕事とかはないんだけど、もうファズ・マティに物資無いんだよね。

 まぁアレだけ湯水のごとく使えばそうなるよなぁ。

 ベクサ星系で手にれたレアメタル達もとっくの昔に使われちゃったらしいし。

 

「しっかし、これまた壮観だね」

「・・・・戦艦持つのは夢だったッスけど、まさかこれ程の船団になるとは」

 

 さて、とりあえずだ。

 いまブリッジのスクリーンには、俺の艦隊達が映し出されている。

 そう“艦隊”だ。船団とも言っていい。

 ファズ・マティにある資材を殆ど余すことなく使い造られた艦隊である。

 もっとも相変わらずの人手不足の為、ユピをコピーしユピ´を搭載した半無人艦仕様だ。

 ちなみに造ったのはどれかと言うと―――

 

・ガラーナK級 防衛駆逐艦10隻

・ゼラーナS級 航空駆逐艦10隻

 

―――ってとこ。巡洋艦はあえて造らなかった。必要ないし。

 

 なおガラーナK級とかのKとはケセイヤさんのK、ゼラーナのSはサナダさんのSである。

 つまりあのフネ達はマッドどもが改修を加えた外見同じ中身別物のフネなのである。

ガラーナはアバリスについて前衛を担い、ゼラーナはユピテルの近接防御を行って貰うという設計な為、中身の方がだいぶことなるのだ。

 

 K級の方は前衛艦として、機動力と防御力の上昇、武装の前部集中、デフレクターの同調展開などの機能を有している。

 デフレクターの同調展開とは、読んで字のごとく、複数のデフレクターを同調させる事で、防御力を上げるというシステムだ。

 

 複数の艦艇を前に出させる為、防御力を上げるという発想が出たが駆逐艦では限界があった。

 その為デフレクターを搭載させたがいかんせん出力が低い。

 そこで考えられたのがこの方法であり、複数の駆逐艦が集結する事で、大型艦クラスに負けない程の防御を可能としたのである。

 このバカみたいにな防御力を盾に、前衛艦隊旗艦たるアバリスを守るのだ。

 勿論アバリスやユピテルとも同調可能な為、全部で防御に徹するとどうなる事か・・・。

 

 そしてサナダさんが手がけたS級は、近接の防衛を担うフネであり、なんと駆逐艦の癖に艦載機を乗せられるという不思議なフネなのである。んで、その艦載機に選ばれたのは、なんと以前トライアルで落ちた人型機動兵器エステバリスだった。

 

アレは紐付きというヤツさえなければ、恐ろしく汎用性の高い機動兵器である。

 アサルトピットと機体を入れ替えるだけで、どんな戦況にも対応可能なのが売りなのだ。

 こと近距離における対空防衛においてはかなりの力を発揮できるだろう。

 おまけに脳波スキャニングシンクロシステムによる制御方法。

 どんなバカでも考えただけで運転できるのが凄い。 

 反射神経に優れたヤツを乗せたなら、それだけで迎撃能力が上昇する事間違い無しである。

 

またS級本体にはエステバリスへのエネルギー供給の為の重力波照射ユニットを搭載。

 武装面は対空火器しかないが、基本近接対空をする艦なので必要がない。

低かったペイロードは若干胴長にする事で艦載機の搭載数は倍の6機、それよりも小さいエステバリスは10機搭載出来たらしい。

 

 そしてこの駆逐艦達には、ナージャ・ミユというレアメタル研究の大一人者が加わり、装甲板の強度も元のソレと比べ物にならない程の軽さと強度と柔軟性を与えられているという。

 被弾した際も、普通なら真っ二つに折れて爆沈してしまう様な攻撃を受けても、中破で済むそうな・・・・どれだけ改造したのかは、あまりに専門的すぎて俺には解らん。

 

 まぁそう言う訳で、現在我々は総数22隻からなる艦隊な訳だ。

 凄くおかみに目をつけられそうだが、おかみの目がある所で犯罪はしてないから大丈夫。

 それに犯罪も精々盗掘した程度だしね。

 

「それじゃ、出港しますかね」

「あいよ“提督”さん」

「・・・・何スかそれ?」

「艦隊規模の頂点に居るんだろう?アバリスの艦長はトーロがする訳だし、もう艦長じゃないさ。位的にはそれがだとうだと私は思うが?」

 

 いやまぁ、そうなんですが、俺はユピテルの艦長な訳でして、そんな提督とかの様な大層な名前で呼ばれる様な男じゃないですよ?

 

「・・・・はぁ、自分を卑下してたのしいかい?」

「・・・・いいえ、全然。だけど自分は艦長がにあってるッス」

「はぁ~、じゃそれでいいんじゃないかい?艦長兼提督って役職になるだろうけどさ」

 

 まぁそれでもいいか。

 俺達はファズ・マティの宇宙港を発進し、俺達は一路ツィーズロンドへと針路を取った。

 とりあえずコレだけの艦隊になってしまったんだ。

 政府からの許可とか色々と貰わんと活動に支障が出る。

 ・・・・あーでもまた厄介な仕事回されそうな予感がぷんぷんするぜ。

 

「はぁ」

【艦長、どう為されました?】

「いや、人生ままならねぇなって思って・・・」

【世界は何時だってこんな事じゃ無い事ばかりです】

 

 おま、何処でそんな言葉覚えた?作品ちげぇ?だろ。

 そして大きくなった俺の艦隊は宇宙を進んでいった。

 

***

 

さて、ファズ・マティのある宙域からツィーズロンドまでは、どんな最短ルートでも1週間はかかる。

途中にあるメテオストームはまだ沈静化していない為、そこを迂回せなならんからだ。

といっても沈静化するのは何十年という周期だから待つつもりもない。

 

「ふん♪フン♪ふふ~ん♪」

 

 まぁ当然のことながら、この周辺の最大勢力であったスカーバレル海賊団を駆逐した我らは、敵に襲われる事なく悠々と静かな宇宙を航行している訳だ。

 そしてコレも何度目だか解らんがぶっちゃけ俺暇である。

 いや、実際は暇では無く、色々とすることはあるんだが、そんなのずーっとやってたら死んでしまうので息抜きに遊びに出ているって訳なのだ。

 

≪ズズーン≫

「ん?」

【振動を感知、場所はマッドの巣です】

「まーたあいつ等なんかしたな?」

【一応人的被害は出ていませんが・・・】

「放っておけ、どうせ止めても聞かないんだからさ・・・でも修理費給料から引いておいて」

【了解です艦長】

 

相変わらずマッド達は得体のしれない研究にいそしんでいるので、連中は楽しそうだが下手に近づくと何されるかわからんので近寄らない。

 君子危うしに近づからずってヤツである・・・・字、合ってるよな?

 

「ハァ!ハァ!ハァ!――――か、艦長!た、たすけて」

 

 ん?なんだ?この苦しそうな息使い。

 声からするとイネスだな。なん・・・だ?ゲッ!?

 俺は後ろを向いて硬直した。

 

「お、お願いだ!た、助けてくれ!なんかトスカさんたちが僕を・・・ぼくをぉ!」

 

 そこには、どこぞの瀟洒なメイドの様な姿をさせられたイネスの姿が・・・。

 どうやらまたもやトスカ姐さんのおもちゃにされたようである。

 原因については、この間つい適当にかまわんとか言っちゃった記憶が無きにしも非ず。

勿論彼女のバックには、ユピテルの女性陣達の筆頭が居るから俺ではどうしようもない。

 

 問題はだ。おいおい、銀髪の髪質にエクステンションとPADか?

コレは冗談抜きに某瀟洒なメイドに異常に似ているぞオイ。

 おk、落ちつけ俺、コイツは男だから、問題無い、だから高なるな心臓!

 というか何故コイツはココまで女装が似合うんだよ!

 

「頼む艦長!かくまってくれ!ぼくは、ぼくは・・・」

「た、頼むから涙目でこっち来るなッス!」

「な、なんでさ艦長!僕を助けるとおもって!」

「だから!抱きつくなッス!やめろぉ!」

「いやだ!離さない!絶対に!」

 

 あろうことかこのバカは、公共の場で俺に抱きついてきた。

 第三者の目線から見れば、俺は今現在可愛いメイドに抱きつかれているリア充に見える事だろう。

 コレが女性だったなら、俺はもう狂喜乱舞したが、残念ながら男なのだコイツは。

 

「わ、わかった!かくまうから!だから離れろ!」

「ほ、本当だな!?助けてくれるんだな!?」

「・・・・・あ、トスカさん」

「え!?ってあ!艦長!」

 

 俺がフッと漏らした一言で後方に飛び退くバカ一人。

 その隙に俺は自分の部屋へと駆けだした。

 とりあえず俺の部屋には、艦長権限でしか開けられない様にセキュリティが強化されている。

 だからそこに逃げ込めば、コイツから振り切ることも可能って訳だ!

 

「つきあってられっかよ!俺は男に興味は無い!」

「何訳解らない事叫んでるんだ!ええい!」

「な!おま!こっちくんな!」

「いやだよ!艦長じゃないとアノ人達を止められないだろう!?」

「どう考えても団結した女性陣をとどめるのは俺には無理ッスー!!だからこっちくんな!!」

 

 ギャース!とケンカしながら通路をひた走る俺達。

 そして曲がり角を同時に曲がろうとして、ソレは起きた。

 

「あ、ユーリ・・・へ!?」

「チェルシーどいてー!!」

「うわっ!ぶつかる!」

 

 こんな漫画みたいな事が起こるだなんて誰が想像できようか?

 

 ・チェルシーが曲がり角から現れる。

 ・僕等はほぼ並行して走っていた。

 ・走っている人間は急に止まれない。

 

――――さて、この要素が重なるとどうなるかは想像が付くだろう。

 

「あいたた、ユーリ、イネス、大丈・・・夫?」

≪ずきゅぅぅぅん!≫

「「!!??」」

 

 この時の前後は全く覚えていない。

 ただ、絶対に思い出してはいけないと本能が警鐘を鳴らしまくっている。

只一つ覚えているのは、膨大な量の瘴気に包まれたこと。

それとチェルシーは絶対に怒らせてはいけないという記憶くらいだった。

 

 

***

 

 

 さーて、今日はどこに行こうかな?

 え?イネス?チェルシー?何のことですか?

 ぼ く は な に も お ぼ え て い ま せ ん よ?

 

「そう言えば、人工自然公園みたいなモジュール積んであったっけ?」

 

 気を取り直して、今日は新しく入れた福祉厚生モジュールの自然公園に向かう事にした。

 人間と言うのは、大地とは切っても切れない関係であると言っていい。

 フネに重力を発生させ、昼と夜の時間帯を設けるのもそれだ。 

そして自然公園モジュールは、地上にある自然をパッキングして宇宙に運びだした様なモノである。

 

「ユピ、自然公園モジュールってどこにあるッスか?」

【艦長・・・先ほどのは―――】

「ユピ、自然公園モジュールってどこにあるッスか?」

【いえあの・・・】

「・・・・ユピ、俺の中でその話題については思い出してはいけないと警鐘が鳴っている。だから話題にするな。いやしないでくださいお願いします」

【・・・・・この先のマッドの巣の先です】

「おお!了解、それじゃいくかね」

 

 さてと、とっとと行きますかねぇ。

 

(イネス!何処に逃げた!・・・って案外すぐに見つかったねぇ?)

(げ!トスカさん!?それとそのほか大勢で・・・)

(さぁイネスちゃん?もっと可愛らしくしましょうか?)

(ひぃぃぃぃ!や、止めろぉぉぉぉ!!)

(所でなんでチェルシーさんがココで気絶してるのかしら?)

 

 なんか後ろの曲がり角の向こうから変な会話が聞こえたけど。

俺は関係ないな・・・・うん。

 

 

……………………

 

………………

 

…………

 

 

 さて、先ほど話題に上げたマッドの巣とは何か? 

 なぁに、どうってことは無い。簡単に言えば通称みたいなモノだ。

 整備班、技術班、科学班、その他開発関係を全部ひとまとめにして、一ブロックに押し込んだだけって事。

 

「っておいおい、どうなってるんスか?」

【今朝の爆発の名残でしょう】

 

 さて、俺はここに到達するまで、そう言えばマッドの巣でなんか爆発みたいなことが起こっていたと言う事をてんで忘れていた。

 目の前には所々に黒煤が付着し、亀裂の走った壁が目立つ空間が広がっている。

 下手すると幽霊船みたいな感じに見えなくもない。

 と言うか何をどうすればココまでの被害を起せるのだろうか?

 しかもこれ程すさまじい爆発があったのに人的損失がゼロとか、世界にケンカ売ってるとしか思えん。

 

 とりあえずこの区画を抜けないと目的の場所には辿りつけない為、俺は区画の中に入った。

 既にこう言った事態にはなれたのか、整備班と整備ドロイド達が頑張って修復している。

 俺はすれ違う時には挨拶を交わし、奥へと進んでいたのだが・・・。

 

「ケセイヤさん、どうしたんスか?その真っ白に燃え尽きたボクサーみたいに白くなっちゃって」

「・・・・・・」

 

 何故か通路の隅にうずくまり、もうほんと灰になっちゃったんじゃないかって言うくらいに落ち込んでいるケセイヤさんとその他マッドの方々と遭遇した。

 とりあえずマッド二号のサナダさんに、何があったのか訪ねてみた。

 

「なに、簡単なことだ。ケセイヤが落ち込んでいるのは」

「先の爆発で、試作パーツが全部オシャカになったからさ。少年」

「あ、マッド三号」

「だれがマッド三号だ。誰が・・・まぁいい。とにかく落ち込んでいるからそっとしといてやれ」

 

 そうミユさんに言われた。

 お世話になっている人物を放置するのも、心苦しいものがあると言えばあるのだが。

 ・・・・しかたないか、当分こっちに戻って来そうに無いしな。

 

「しかしこの惨状、何が起こったんスか?」

「なんでも完全に人間に近い人型アンドロイドの製作に失敗したんだそうな」

「人型アンドロイド?そんなの通商管理局が使ってるじゃないッスか」

「違う違う、もっと複雑で色々と高性能なヤツを作ろうとしたらしい」

「で、エネルギー源になるレアメタルについては私が助言したのだが・・・」

「我々が居る時に起動実験をすると言うのをすっぽかし、勝手に起動させてこの体たらくだ」

「あー、自業自得か・・・でもなんで又アンドロイド?」

「なんかロマンだって言ってたぞ?宇宙船には人型アンドロイドが付きモノである!だそうだ」

 

 ・・・・・本当にマッドのすることは、時々理解できないぜ。

 

「コレでまた修繕費はケセイヤさんからさっ引くとして・・・」

【これで修繕費累計額がタダ働きで20年働いてもらわないと返せない額になりました】

「・・・・修繕費の方が、収入を上回るのは何時頃かなぁ」

 

 とりあえず何度目かになるかは解らないため息を吐き、俺はこの場を後にした。

 流石は俺のフネ、毎日色んな事が起こりやがる。

 

【・・・・・】

「ん?どうしたユピ?急に黙って?」

【いえ、なんでも・・・身体か】

「???」

 

 なんかぼそりって言った様な気がするけど、気のせいかな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おお、すげぇ。池まである」

 

 自然公園モジュール、広さはおおよそ300m四方に広がるドームだ。

その中に入ったんだが、これは確かに凄いと言わざるを得なかった。

 まず入口から入った途端空気が違った。

 艦内の空気と違い、ちゃんとした植物が造り出す空気って感じ。

 木林浴に丁度良いかもしれない。

 

 人工的に造られたとはいえ、緑が見えると言うのは人を安心させてくれる。

 長い航海においてこのモジュールは、結構貴重な癒し空間になる事だろうな。

 こりゃ、酒でも持ってくるんだった。

 

「まいっかぁ・・・」

 

 とりあえず池の周辺を歩いてみる。

 池の中には生物が放たれてある種の生態系を再現していると言う。

 感じ的には俺の世界で昔流行ったビオトープに近いのかもしれない。

 ビオトープ+屋内庭園+果樹園・・・・ってアレ?

 

「アレは・・・リンゴの木か?」

 

 ふと目に写る赤い実のなる木。

 良く見ればそんな感じの木や、どう見ても畑って感じの個所がいくつか見える。

 近づいて良く見てみたが、どう見てもリンゴです。本当に(ry

 

「・・・・自然公園ってよりかは畑だな」

 

 自給自足の生活でもしようってのか?それにしては数が空くない。

 ・・・・・って事は誰かの趣味か何かか。

 しかし、このリンゴ、上手そうに実ってるなぁ。

 

「一個くらい、食べちゃダメかなぁ?」

「食べても良いですよ「おわっ」どうしました艦長?」

「ふえ?タ、タムラさん!?」

「はい、料理長のタムラですよ」

 

 お、驚いたじゃねぇか!いきなり話しかけんなよ!

 話を聞くと、どうやらこの畑は、タムラ料理長が作った畑だったらしい。

 忙しい料理長だが、普段はドロイドを数体借りて畑を耕し、たまの休みにこうやって訪れているらしい。

てことは、もしかしてこのモジュール内にある畑って・・・。

 

「ええ、私が造りました。もともとは部屋でプランターを使ってた趣味でしたがね」

「・・・・俺何も言ってないッスけど、顔に出てました?」

 

 思いっきり頷かれた。俺は顔に出やすいらしい。

 でもプランターで育ててたにしては、随分と大きな実がなっているのもあるぞ?

 それとこのモジュールが組まれたのは3週間くらい前だった筈だ。

 それにしては、随分と成長していると言うか量が多い様な・・・。

 

「元々空き部屋で育てていた野菜たちですが、自然公園モジュールが入ってくれて本当によかった」

 

 あーそう言えば、まだまだ人手不足で空き部屋はあるもんな。

 でもリンゴの木なんてどうやって育ててたんだ?・・・・わからん。

 しかし空き部屋を使って育ててたのかー。・・・・・俺に断りなく。

 

「・・・・・はぁ、まぁ良いッス。一個貰うッスよ」

「どうぞどうぞ」

 

 なんかもう皆結構好き勝手してるなぁと思いつつ。 

 鍛え上げた身体能力でリンゴの木からリンゴをもぎ取ってみた。

 紅玉見たいな種類なのか、ホントルビーみたいに赤い。

 ほのかに漂うリンゴの甘い香りが食欲を誘う。

 

「・・・・んが」

≪しゃり≫

 

 俺は大口あけて、リンゴにかぶりついてみた。

 良く熟したリンゴで、口いっぱいに甘さと程良い酸味、そして芳醇な香りが広がって行く。

 かなり美味しいリンゴで、あっという間に一個食べ終えてしまった。

 俺のいた世界でもこんな上手いリンゴはそうそう食べないな。 

 スーパーで通常の三倍の値段がしそうな感じだった。

・・・なんだかもう一個食べたくなるような味だった。

 

「上手いッスね。このリンゴ」

「はは、品種はテレンス産のリンゴと同じ品種ですからな」

 

 テレンス産とは聞いたことがないが、恐らくリンゴの名産地なのだろう。

 だが確かにコレは美味いな・・・これでパイとか食べてみたい。

 

「しかしちゃんと育って良かった。科学班の薬のお陰ですなぁ」

 

 しかし、その考えはタムラ料理長の漏らした一言で霧散した。

 おい!まさかここにある植物の成長が早いのって!!??

 

「あの薬をまいたら2倍は成長が早い。美味しさもそのままだから料理に使えますな」

「・・・・・あー、一応しばらく様子見てからの方が良いと思うよぉ?」

 

 なんか薬を使って成長を早めたとか・・・・ヤバそうな感じがするぜ。

 だけど楽しそうに収穫しているタムラさんを見て俺は何も言う事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 その日以来、稀にタムラさん特製、自家製野菜のサラダやらスープやらデザートがメニューに上がるようになった。

 

 もっとも今の所身体に変調は来ていない所を見ると、特に問題のある薬では無かったらしい。

 なので時折、自家製野菜のデザートを注文するようになったのは余談である。

 

 

***

 

 

 はい、今我々は調査船が消えたという宙域にきて――え?なに?唐突過ぎ?

 あ、ゴメン、時間間違えてた。詳しくはこちらからどうぞ。

 

 

 

 

 

 相変わらず(俺からすれば)ご立派なに見える軍施設。

 とりあえず紛争及び海賊退治を終えたことを報告する為、俺はトスカさん達を連れてアポをとり、あの野心あふれる中佐どのと面会しに来たのである。

 

「・・・・・」

「ユーリ、アンタまだあの中佐が苦手なのかい?」

「・・・・・いや、まぁいい加減諦めたッスけどね」

 

 どうもあのねっちょり感って言うの?

 纏わりつくかの様な視線と雰囲気が嫌なんだよね。

 今回はさらにこちらからある事を承認して貰いに行くから余計に・・・はぁ。

 

「艦長、そんな事よりも早く建物の中に入ろう?」

「イネス・・・何でそんなに興奮してるんスか?」

「別に艦長が尻込みしようがどうでも良いんだが「酷ッ!」ココは玄関だから目立つんだ!」

 

 そういや殺気からもといさっきから、ニコニコとした守衛さんに青筋が出てるね。

 うん、ここで騒いでたら怒るよね?・・・・俺達は急いで受付に歩いていく。

 別に守衛さんが怖かった訳じゃないぞ?ほんとうだぞ?!

 

「・・・すみません。アポをとってあるユーリです」

「あ、はい。話しは通ってます。ただ、中佐は現在こちらでは無く士官宿舎にいらっしゃるので、其方に向かった方が早いかと思います」

「そうですか。情報感謝です」

 

 さて、何回も来てたからいい加減顔見知りになった受付の人にお礼を言いつつ、俺らは士官宿舎へと足を向けた。

 

 

 

 

 士官宿舎へ着き、受付さんに知らされていた部屋番のインターフォンを鳴らす。

 部屋の奥にでもいたのか、少し待たされてからやっとインターフォンがつながった。

 

≪おお、ユーリ君来たかね?ロックは解除したから入っても大丈夫だ≫

 

 適当にへーイと返事を返し、オムス中佐の部屋へと向かった。

 流石に佐官だけあり、宿舎はかなり豪華な部屋なんだよなぁ。

 俺の世界で言う所の六本木ヒルズ?的な位かね?

 んで、現在オムス中佐の部屋へとやってきたのである。

 

「君の活躍は聞いている。大分頑張ったそうではないか?海賊の被害も一気に減った」

「はは、それ程じゃないですよ。皆が頑張ったから出来た事ッス」

「それでも、彼らは君の元に集まった者たちだ。それを率いている君も誇っても良いだろう」

 

 ――――とまぁ、こんな感じで社交辞令のあいさつを行って行く。

 

 正直俺はこういう真面目なのは苦手である。

 うぅ~肩が、肩が五十肩みたいに凝って来たでヤンス。

 

「・・・・さて、挨拶はその辺にして、何か私に用があって来たのだろう?」

 

 オムス中佐はそう言うと、真面目な表情でこちらを見る。

 というか、用が無い限りこんなとこ来ねぇよ。

 

「ええ、ウチの艦隊も大きくなりましたので、一応しかるべき所に報告に来ました」

「やはりか、今ステーションに居るあの≪白船艦隊≫には君達の持つIFF信号が出ていたから、もしやと思ってはいた。しかしまた随分と勢力が増えたな」

「海賊退治の為に頑張りましたので」

 

 性格にはマッド達が趣味と実益の為に頑張ったのだが、別に言わなくても良いだろう。

 

「でまぁ、お上との誤解とかを避ける為に、エルメッツァから公認して欲しいんですよ」

「ふむ成程、そう言えば君達の目的は宇宙を巡る事だったな。確かに誤解を避ける為に国家の様な公式な船団として認めてもらいさえすれば、犯罪を起さない限りは色々と便利だろう。名声という意味でもな」

「解っていただけたようで何よりです」

「君達は非公式ながら紛争解決に尽力し、更にはこの宇宙島にはびこる海賊も一掃してくれたから、その貢献度ですぐに君たちは公認されることだろう。とりあえず何と言う団体名にするかね?一応呼び名を決められるのだが」

 

 呼び名ねぇ?

 

「決めないとどうなるんですか?」

「認識番号で呼ばれるだろう。今なら第8千番艦隊か船団という事になる」

 

 ふむ、ソレは味気ない。

 せっかくの船団なのに、呼び名が第8千番艦隊とか・・・なんかカッコ悪い。

 とりあえず後ろにいるイネスとトスカさんに聞いてみた。

 

「ねぇ、どんな名前が良いと思う?」

「そうだねぇ・・・・ユーリがきめな」

「僕もそう思う。この船団を率いるのはユーリだからね」

「・・・・じつは考えるのがメンドイとかじゃ?」

「「ギク」」

 

 ギクってあーた・・・まぁ良いけど。

 

「ほいだば、俺が勝手に決めるッスね」

 

 そういや、俺達海賊たちから何かスゲェあだ名で呼ばれてたっけ。

 確か―――お、カッコいいじゃないか・・・良し。

 

「決めたかね?」

「はい中佐、≪白鯨艦隊≫でお願いします」

 

 ウチの旗艦ユピテルは白い船体だし、それに合わせた護衛駆逐艦艦隊も全部白い。

 漆黒の宇宙でも目立つであろうその姿は、確かに白鯨と銘打つにふさわしいと思った。

 ようはユピテルが美人さんなのである。なんちゃって。

 

「成程、白色の艦で構成されているからか・・・なかなかしゃれている」

「それはどうも」

「ではとりあえずソレで登録しておこう。空間通商管理局にも手続きをしておくぞ?」

「お願いします」

 

 はぁ、これで国家から認められた0Gか・・・。

国家の犬とか言われそうだけど、自由に好き勝手するから犬ではないぞ。

 

「まぁ手続き云々は、そちらからのアドバイザーと共に私がしておくとしてだ。ちょっと以前の君からの報酬として、エピタフについての情報をくれと言った事があったな?」

「?・・・・・え、ええ確かに―――」

 

 やべ、すっかり忘れてた。元々嫌がらせ用に言った報酬だったんだけど何かあった?

 もしかして、エピタフが見つかったとか?うわいらね―――

 

「調査に出ていた調査船がとある宙域で行方不明になってしまった」

 

 ・・・・神さま、また面倒臭い事に巻き込まれそうです。

 

***

 

―――――まぁそう言った訳で、冒頭に戻るって訳だ。

 

 調査船が行方不明になったのは、辺境惑星ボラーレ近辺らしい。

 とりあえず広域探査を行う為、個々はレーダー班のエコーさんにお仕事して貰おう。

 そう思いつつ、俺はコンソールを見ながらエコーさんに声をかけた。

 

「エコーさん、調査船の軌跡とか見つからないッスか?」

「・・・・・・」

 

 だが返事が返って来ない。あれ?イジメか?

 

「あれ、エコーさん?おーい!っと、通信パネルのスイッチが切れてたッス」

 

 俺は手元のコンソールから、直接エコーさんの居るレーダー席に通信を繋げてみた。

 

「あらー?艦長、なんか用ー?」

「うん、調査船の軌跡って調べられるッスか?」

「ちょっとまってー・・・・うん、大丈夫、できるよー」

「それじゃ、ちょっと探し物して貰っても良いッスか?」

「まかせてー、久々の出番だからもえるわ~」

 

 なんかメタな発現だった気がするが、俺はそれを華麗にスルーし通信パネルを閉じる。

 ふぅ、大型艦になってブリッジがでかくなった事の弊害ってやつだな。

 駆逐艦だと離れても凡そ3m程度なんだけど、このフネクラスになると、艦長席から下の席まで6mはある上、一番離れた席だと20mを越えてたりする。

 

 だから普段だと、座席の通信パネルのスイッチをオンにしているんだけど、偶に一人で考えたい時などに切ってしまったりするとこうなる訳だ。このフネになってからは、常時携帯端末とかが手放せないと言う訳である。

 

 フネもデカイから、マジで携帯端末が無いと、一々デパートの迷子センターみたいにアナウンスしないといけない。それはある意味非常に恥ずかしいのである。

 俺も何度か呼び出しを喰らった時は恥ずかしかったのなんの・・・話がそれたな。

 

「正直、エピタフ何ぞどうでも良いスけどねぇ~」

【そうなのですか?艦長】

「あや?ユピいたッスか?」

【私はこのフネそのモノですから】

 

 そういやそうだった。

 

「あー、まぁとりあえず今のはオフレコで頼むッスよ」

【何故ですか?】

「バレるとメンドイから」

 

 俺が悪戯っぽくそう言うと【はぁ、そう、ですか・・・】と、微妙に納得してなさげではあったが、一応理解はしてくれたようだ。

 正直エピタフ関連はあっても良いけど無くても良いのが内心なんだよね。

 手に入るなら有っても良いし、無いなら別に無理して欲しいとは思わない。

 

 だってエピタフ関連って明らかに鬼門じゃん?

 下手に手を出して、ウチのクルーが欠ける様なことになったら耐えられんよ。

 なんじゃかんじゃいっても愛着湧いてるしな。

 

 でも探さない訳にもいかないから、現在惑星オズロンドを経由して、惑星ボラーレへと向かっているって訳なのだ。さてさて、適当に探して次の宇宙島にでも――――

 

「艦長ーあのねー、なんか資源探査装置がオズロンドの近くで資源衛星帯をみつけちゃったー。どうするー?」

「行くに決まってるじゃないッスか?イネス、航路変更、リーフはそれに合わせて針路変更ッス」

「ま、何をするにもお金は居るもんな」

「針路変更アイサー」

 

 

――――とりあえず小遣い位稼いでも、怒られはしないだろう。

 

 

***

 

 

 さて、適当に掘り終えて、おおよそ300G程度の資源を手に入れた。その後、目的地である惑星ボラーレへと針路を向けた我ら白鯨艦隊であったが――――

 

「先行して前方を警戒していた無人のK級前衛艦が、この先で航海灯を切っている艦船を複数確認しました。現在照会中・・・出ました。エルメッツァ地方軍の艦艇の様です」

 

 ―――と、オペ子ミドリさんからの報告が入った。

 それを聞いたトスカ姐さんが考え込むように顎に手を当てて考えている。

 

「地方軍・・・それにしちゃ、妙なとこをうろついてるねぇ」

「そう何スか?トスカさん」

「ああ、いくら地方軍でもこんな辺境までは普通は来ない筈だからねぇ――」

 

 そこまでトスカ姐さんが説明してくれたその時。

 

≪ドドーン!≫

【前方地方軍艦、砲撃を開始しました。速射した砲撃な為、我が艦隊にダメージ無し】

 

 いきなり砲撃を仕掛けて来た。K級のデフレクターにミサイルが辺り花火が上がっている。

 もっとも、全然ダメージになっておらず、レーザーも艦隊AIがユピ´の所為か当たる気配が無い。まぁ戦闘機動にはリーフのヤツを模したヤツが入ってるからな。当てる方が難しいだろう。

 

「敵艦隊、さらに砲撃を開始」

【デフレクターの出力が3%程低下、正常値内】

「・・・・何がしたいんだろうか?」

 

というか、連中は戦力差を見ていないのだろうか?

 明らかに勝てる訳無いと言うのに・・・。

 

「海賊避けに現在ユピテルはEP全開にしてるから、こちらの方は見えてないのかもね」

「・・・哀れだな。敵の事を良く知らず仕掛けるとは、指揮官が無能なのか?」

 

 サナダさんが呟いた言葉に、ブリッジ全員が内心同じ思いだった。

 恐らく無人艦の影がレーダーに映った途端、攻撃命令を下したのだろう。

 

「とりあえず降伏勧告くらいしてやりますか・・・ユピ」

【了解、敵旗艦への回線開きます】

 

んで、とりあえず敵旗艦へと回線を開いてもらった。

 通信にでたのは、エルメッツァでの将官の服装をしているおっさん。

 ・・・・?あれ?どこかで見たことがある様な・・・はて?

 

「ふははは。待っていたぞユーリ君!」

「あれ?お会いした事あったッスか?」

 

 なぜか高らかに笑う男に俺がそう返すと、画面の向こうでズッコケた。

 というか本当にだれだっけ?

 

「貴様!私を覚えていないだと!?」

「いや、マジで誰何スか?」

 

 ウェーブした髪を七三分けにしたおっさんなんて、別にどこにでもいるしなぁ。

 

「ラッツィオ軍基地の司令だったテラー・ムンスだ!忘れたとは言わさ――」

「忘れたも何も全然覚えて無かったッス。ねぇトスカさん」

「ああ、そういや中佐の後ろに何人か立っていたウチの一人だっけね?」

「・・・・そこまで忘れられる私って一体」

 

 なんか画面の向こうでリアルにorzしてるんですけど?

 部下も慰めるべきかほっとくべきか悩んでる姿がリアルタイムで写ってるし。

 いや、そこは慰めておこうぜ?こういうタイプって面倒臭いだろうから。

 

「・・・ええい!とにかく貴様らわ忘れても!私はわすれん!」

「いやだから忘れるとかの問題じゃなくて、覚えてないんだってば」

「黙れ黙れ!貴様等のお陰で私は職を追われ、軍から逃げ回るはめになったのだからな!」

「いや、そんな事言われても・・・俺達アンタに何かした記憶は無いんスが?」

 

 今の此方の心情を表すならまさに???の状態が当てはまる事だろう。

 だって全然こちらとしては身に覚えがないんだもん。

 

「なら一言で応えてやろう!私は海賊とつるんでいた!」

「自業自得じゃないッスか!」

「煩い!だまれ!しゃべるな!行くぞ!」

 

 そしてまたもや一方的に切られる通信。

 つまり今起きようとしている戦闘は、このおっさんのヤツ当たりな訳だ。

 

「・・・・はぁ、とりあえずEP解除、あとK級駆逐艦を前衛に」

「あいよ」

 

 とりあえず戦闘指示、恐らくユピテルが前に出なくても問題無いだろう。

 そして、駆逐艦隊10隻VS元地方軍艦隊が激突した。

 尚、地方軍の艦隊は全部で五隻、巡洋艦が一隻いるとはいえ。

魔改造駆逐艦10隻の相手は、奴さんらには少々煮が重かった様である。

 

【敵艦に反射収束光線砲、挟撃開始】

「リフレクションレーザーカノン直撃、敵駆逐艦インフラトン反応消失、撃沈です」

 

 開始からわずか数分もしない内に、敵の前衛駆逐艦が撃沈される。

 一気に戦力の半分を持って行かれたのに、敵は逃げようとしない。

 というか、逃げようとしているんだが、慌ててしまって余計に動けない様だ。

 

【ユピ´に砲撃要請、小型レーザー、インターバル1で速射射撃開始】

「弾幕の形成を確認、敵艦に全弾命中、巡洋艦も大破」

 

 んで、少しは奮戦するのかと思いきや、あっさりとこっちが勝った。

 それもまぁ当然である、だってEP解除した途端一気に艦隊挙動が乱れていたからな。

 レーダーに映っていなかった所に、いきなり超大型艦が出現したらそうなるわ。

 しかも動揺している内に艦隊全滅とか、どんだけ可哀相なんだろうな。

 

「撃ち方止め、一応生存者を救出するッス!EVA要員はスタンバイ」

「了解、生存者の探索を行います」

「・・・あの様子じゃ生き残りはおらんかもしれんのぅ」

「仕方ねぇよトクガワのじっちゃん、宇宙に出てるんだから死ぬ覚悟位あんだろ」

「とは言うモノの、俺達は全然戦ってないな・・・腕が鈍っちまう」

「俺もだぜストール、このリーフ様の華麗な戦闘機動も拝めないとは、連中も哀れだぜ」

「そこ!話してないで仕事する!」

「「アイマム姐さん!」」

 

 まぁリーフとストールの言い分も解らんでもないなぁ。

 とりあえず生存者を捜す為に、ユピテルは元地方軍艦隊の残がいへと近寄っていった。

 

………………………

 

…………………

 

……………

 

さて、戦闘終了後に一応生存者を捜して残がいの整理をしていた処。

 

『こちらEVA班長のルーイン。巡洋艦の残がいを調べていたら、なんとか生きてる区画があって生存者がいるみたいなんだが?』

「あいあい、なら救出お願いするッス」

 

まぁ敵対したからって、無暗やたらに殺す必要はないからな。

俺はルーインのおっさんに、生存者の救出をお願いした。

アバリスから小型のランチが発進し、生存者を回収しに、巡洋艦の残がいへと近寄って行く。

 

そして、生き残りたちを収容したとの報告が入った。

これがテレビなら、某丸見え系で放送が可能な位の事になるんだろう。

かなりの弾幕を受けて、運良く生き残れたのだから、かなりの幸運と言える。

もっとも、その弾幕を張ったのは俺達だけど、まぁ気にしない方向でお願いします。

 

 

 

 

しかし、残念なことにその生存者というのが―――

 

「・・・・こういう時悪人って生き残るんスよね」

「い、いたた、そう手荒にしないでくれたまえ」

 

―――何故かテラー・ムンスその人だった。

 

既に敵陣の中に居ると言うのに実に偉そうなのは、大物なのか愚かなのか・・・後者だろうな。

 だって大物だったら、俺達の艦隊の全貌が見えたら絶対逃げる筈だし・・・。

 

「贅沢言いなさんな。なんなら今すぐタンホイザに叩きこんでもいいんだよ?」

「う・・・」

「はぁ、とりあえずアンタの身柄はツィーズロンドのオムス中佐に引き渡すッス。まぁそれまで大人しくしてるッスね。ちなみに我がフネの中では常にAIが監視してるッスから、何か起そうとしても無駄ッスよ?」

【なにかしようとしたら、備え付けの電気銃(テイザー)で焼き殺しますね♪】

 

 さらりと怖い事を言うユピが、常にコイツを監視するだろうから、テロを起そうとしても何もできんだろ。まぁ、たった一人で何かする訳は無いだろうとは思うけど・・・。

 んで、そのままとりあえずの監禁部屋に連れて行かれるのかと思いきや―――

 

「そういやアンタ、エピタフの調査船に手をかけたかい?」

 

――――そうトスカ姐さんがテラーに聞いていた。

 

「な、なんのことだ?私は軍の目を隠れてここに隠れていただけだが・・」

「・・・ふぅん、ウソついてる訳でもなさそうだね」

「ま、知らんなら知らんで良いッス。とりあえず部屋にでも入ってろッス」

 

 そのまま保安要員に連れられて、テラーは監禁室へと向かった。

 さてと、とんだ一騒ぎだったけど、まぁ此方への損害が無くて良かったな。

 

「そいじゃ、当初の予定通りに惑星ボラーレへと針路を取るッス」

「「「アイアイサー」」」

 

 そして、俺達は惑星ボラーレへと針路を取った。

 どうでも良いが、あのおっさん何時頃軍に引き渡せばいいだろうか?

 

***

 

 数日後、惑星ボラーレの小さなステーションへと到着した、我が白鯨艦隊。

 艦船ドックの一区画を占領しつつ、ステーションへと停泊した。

 とりあえず、この近くの宙域で沈んだ事だし、もしかしたら生き残りが救出されているかもしれないと踏んで、この星へと寄港したのである。

 

「んじゃ、毎度おなじみの通り、ここには3日ほど停泊するッス」

「まさか忘れるとは思わないが、全員もしこの惑星へ降りる時は携帯端末を所持する事。予定が変更になって、この星から離れるって時に連絡が付かないのは困るからね」

「とりあえずブリッジ要員とそのた班長さんは、この事を各班に通達しておいてくれッス。耳にタコでも重要事項だからちゃんとやるッスよー」

「「「「アイサー艦長!」」」」

「それじゃ、自由時間開始」

 

 まぁ特に何かある惑星では無いから、適当に3日程いると目星をつけての・・・まぁ休暇だな。

 幾ら小さい惑星とは言っても惑星は惑星である。

温泉の様なレジャー施設の一つや二つくらいあるのだ。

 

「んじゃ、俺達もとりあえず酒場へと行きますかね」

「行くのは私とチェルシーとミユ、それとトーロと・・・あとはイネスとかだね」

「あれ?ルーのじっさまは?あとウォル少年」

「じっさまは適当に惑星を見て回るらしい。少年はその御供だ」

「あー、成程。趣味の散歩ッスか」

「ま、そんなとこだろうね」

 

 何気にあの爺さんアグレッシブだからなぁ。

 御供のウォル少年も大変だこりゃ。

 

「それじゃユピ、留守番頼むッスよ」

【・・・いいなぁ、皆さん惑星に降りられるなんて】

「はは、ユピは身体が大きすぎるッスからね。その身体じゃ降りれないッスよ」

 

 ユピも色んな感情を覚え始めたな。

 今度は羨ましいという感情か・・・スゲェなこの時代のAIって。

 

「ま、携帯端末から行動を見てもらうしかないッスよ」

【・・・はーい、“今は”ソレで我慢します。行ってらっしゃいませ皆さん】

 

 こうして俺達はユピに留守番を頼むと、惑星ボラーレへと降りて行った。

 

【ええ、そうですとも、今はね・・・ケセイヤさんの研究費水増ししておこうかな?】

 

 まぁユピがそんな事考えてる事は、この時の俺は知らなかったりする。

 これがまさかあんな事になろうとは、神さまでも予測付かなかったんじゃねぇかな?

 

***

 

とりあえず酒場についた俺達は、各個に分かれて情報を集める事にした。

俺の場合は適当に飲み物を頼みつつ、マスターに話しかけてみた。

 

「ここいらはエルメッツァの辺境ですからね。政府の干渉も無く、静かなもんですよ」

「へぇ、静かなとこか」

「ええ、偶に冒険者が来る程度で、フネの行き来も殆ど無いです」

「・・・・そか、情報あんがと」

 

 今ので解るが、静かなもん。つまりこの近辺では何も起こっていない。

 調査船が沈没したのは確かだが、この周辺には来ていないと言う事なのだろう。

 

「こりゃ無駄足だったかな?」

「かも知れないねぇ。まぁ静かなところだし、休暇だと思えば良いじゃないさ」

「そッスね。ところでチェルシーは?」

「ん?なんかミユに手を掴まれて買い物に付き合わされてるみたいだったよ」

 

 ミユさんか・・・あの人結構強引だからなぁ。

 まぁ悪い人じゃないし、問題は無いかな。

 

「一応念のためにトーロとかを護衛に付けて置いたけど」

「GJだトスカさん」

 

 既にトーロも魔改造済みだからなぁ。重力制御室での訓練はバカにできない。

 単騎での身体能力は、俺よか上である。俺も鍛えてはいるが、あそこまで出来ん。

つーか1G下で普通に10mもジャンプ出来る人間ってどうなのよ?

 流石は未来で別の星系、人間も進化してらっしゃる。

 

「んじゃ、のんびりとするッスかね。なんか飲み物でも飲むッスか?」

「んー、そうだね・・・ん?」

「どうしたんスか?トスカさん」

 

 なんかトスカ姐さんが、俺の背後に目を向けている。

 俺も其方に目を向けてみたところ、ナイスミドルという言葉が似合いそうな男が座っていた。

 トスカ姐さんは、立ちあがるとその男の方へと近寄って行く。

 

「アンタ・・・もしかしてシュベインじゃないか?」

「ん?・・・おお!コレはトスカ様!お久しゅうございます!」

 

 ん?シュベイン?・・・ああ、なんかそんなキャラも居たなぁ。

 それなりに能力も高くて癖が無くて使いやすいキャラだった様な気がする。

 

「トスカさん、このヒトと知り合いッスか?」

「ん?あ、ああ・・・まぁ昔からのなじみでね」

 

 ・・・・トスカ姐さんの歯切れが悪い。

 成程、ヤッハバッハ関連の人だっけなこのヒト。

 原作ゲームじゃそこら辺の説明が無かったから、ある意味謎なんだよね。

 それにしても、記憶が結構ヤバいなぁ・・・まぁなんとか成るか。

 

「シュベイン・アルセゲイナ、所謂何でもやでございます。以後お見知り置きを」

「俺はユーリッス。ある艦隊の頭はらせてもらってるッス。よろしく」

「ユーリ様ですね?よろしくお願いいたします」

 

 どこかセールストークだが、多分これ自前だな。あまりにも自然過ぎて演技だとは思えない。

 もっとも演技の可能性もあるが、人間初対面になら演技位するわな。

 一流はまずは相手を疑ってかかるモノなのである。

 

 さて、この後は再開した事を喜ぶ会的な感じで、一緒に呑む事にした俺達。

 適当にその昔、トスカ姐さんが駆けだしだった頃の話で盛り上がったところで、トスカさんが本題に入る事にした。

 

「ところで、アンタなんだってこんな所に居るんだい?」

「その事でございますが。私もちょうどトスカ様にお会いせねばと思っていたところでございます」

「あん?」

 

 シュベインのその言葉に怪訝そうに眉を狭めるトスカ姐さん。

 彼は一杯酒を飲んで喉を潤した後、口を開いた。

 

「実は・・・アルゼナイア宙域につながるボイドゲートの復活を確認いたしまして―――」

「何だって!?」

 

 トスカ姐さんはいきなり大声を出すと、イスがひっくり返った事んい気が付かずにそのまま立ちあがった。彼女の声は酒場のけん騒に混じって消えたが、いきなりの事なので俺は驚いていた。

 

「そんな・・・一体なんでそんなこと・・・」

「トスカさん・・・」

 

 とりあえずショックを受けている様だったので、俺は黙ってイスを直して置いた。

 まぁ大体原因は解っているけどね。それを言わないのがK(空気)Y(読める)男なのだ。

 ・・・・・あれ?イニシャルKYじゃね?

 

「アレは・・・デッドゲートだった筈だろう!?」

 

 それはさて置き、先程ではないものの、テーブルをドンと叩きながらそう言うトスカ姐さん。

 うう、なんかマスターからの視線が痛い・・・。

 

「その通り。しかし復活し、機能を取り戻したのも厳然たる事実でございます」

 

 シュベインのその言葉に、彼女は苦虫をかみつぶしたような顔をした。

 

「く、それで連中は―――」

「その確認の為、私もゲート付近まで行ってまいりましたが・・・」

「どうだった!?」

「・・・すでに侵入が始まっておりました」

「ッ!なんてこった!―――シュベイン」

「ええ、解っております。その為に少しばかりお時間を頂きたいのですが・・・」

 

 その時、シュベインが俺の方をちらりと見た。

 ああ、成程。俺にはまだ聞かれたくない話なのねー。

 

「あーユーリ?悪いんだけど・・・」

「解ってるッスよトスカさん。俺は席を外すッス」

「すまない」

「構わんスよ。俺とトスカさんの仲じゃないッスか?・・・ま、ちと寂しいけど我慢するッス」

「ごめん・・・んじゃ、ちょっとの間頼むわ」

 

 俺は席から離れながら、了解~と手を振りつつ席を去ろうとした。

 ―――っと、忘れてた。

 

「そうだったトスカさん、内緒話ししたいなら、端末の電源をOFFにしとかないとユピに筒抜けになるッスよ?」

「え?あ!そうか!・・・済まないユーリ」

「いえいえ、それじゃまた後で。シュベインさんもまたッスね」

「ユーリ様、心遣い感謝します」

 

 何故かおじぎされたが、俺はそれに手を振ってこたえる程度にして、その場から離れるのであった。やれやれ、もうそんな時期だったかね?面倒臭い事になりそうだなぁ。

 まぁユピとか居るから、死ぬ可能性は低いだろうけどね。

 

「とりあえず、イネスとか探してみんなと合流するッスかね」

 

 俺はそう呟くとユピを呼び出し、みんなの居場所を教えて貰って、酒場を後にした。

 

 

 


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