【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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旧版【妄想戦記】多分十五話から十八話まで

 

 

「兵士も人間…一日くらい休みもあるさ」

 

 

 

 

 

―――――妄想戦記――――――

 

 

 

 

*セスル基地・隊長室*

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

――――ええっと、確かこの任務の時は第3機甲魔導師部隊《サイクロプス》と一緒だったから掛かった経費は~…折半でいいか。っておいおい、何故その後の祝勝会の経費の書類が廻ってやがる?これは事務の仕事だろうが…ったく。

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

――――ん?新規装備品の概算目録か、どれどれ?………………誰だコレ書いたヤツ?何でチョコバーが必需品の欄に記載されてやが…ん?【長時間の任務中における効率的なカロリーの摂取法方として、チョコバーは最適であり―――――】……むしろココまで書いた奴の顔がみたいな。

 

 

――――およ?やあ皆さんお久しぶりおはようコンニチワこんばんは。

今日は久しぶりに任務も無く、お外は晴れ渡って良い天気でピクニック日和だ。

おまけに我が隊は働きぶりを認められ、一日だけではあるモノの特別休暇が認められたのだ!

………そして俺は書類作業に追われている。うん、実に休日らしいね…………。

 

「なんか…違う!」

『マスター、手と頭を休めないで』

「………アイマム」

 

 

カタカタカタカタ……

 

 

え?俺がなにしてるかって?見ればわかるでしょ?

事務作業ですよ事務作業。大事な事なので二回言った。

 

ココ最近外で出張る仕事が多かったからさぁ、書類たまっちゃってさ?

お陰で休日潰して作業中って訳よ―――っとデバイス整備関連の資料はどこだっけ?

 

「検索魔法…アタラクシア…起動っと」

 

目の前に空間ディスプレイが投影される…えーと、あった!コレコレ。

結構こういった資料って数があるから、魔法でも使わんとやってらんねぇや。

 

「はぁ…デバイスショップめぐり…したかったなぁ」

『マルチタスクに割いている思考リソースを、此方に回せば午後にはいけますよ?』

 

そう言われ、ジッと山(書類の)見る、休日よ……ってな。

はぁーーー、エベレストとは言わないが、富士山クラスは無いだろうマジで…。

 

「秘書官でも居ればなぁ…」

『この人手不足に、一介の部隊長に秘書官をつける余裕なんて軍には無いでしょう。それよりも手を動かす!』

「うう…デバイスが厳しい…」

 

隊長職なんて…ていの良い事務員じゃ無いかぁッ!!

―――――と、心の中で叫んだ俺だった。

 

***

 

頑張った甲斐あって、何とかお昼(と言ってもすでに1時を回っている)には半分仕事を終えた俺。

頑張った…マジで頑張ったんだぜ俺。マルチタスクと思考制御タイプライターに感謝だよホント。

 

あ、思考制御タイプライターっていうのは、その名の通り頭で考えた文章をタイプする機械の事だ。

マルチタスクと併用する事で、通常の十数倍の速度で事務事後とが出来る優れモノなのである!

 

ただ難点として、頭の中で考えた事が全部文章にされちまうからかなりの集中力がいるけど…

その弱点を補って余りあるほどの便利ツールなのだ!お値段は大特価の300US$で~す!

・・・大分精神的に来てるなぁ。早いとこ終わらせて外に行って気分転換でもしよう。

 

 

―――――で、ぶつくさ言いながら書類をドンドン消化した俺だったけど…途中で気が付いた。

 

 

「これ…他の部署の書類が紛れ込んでないか?」

 

どう考えても、俺がやるべき書類はコレの3分の1なのだ。

でも、ココにあるのはその三倍…残り3分の2は一体……??

 

『あ、コレ第6強襲魔導師部隊のデバイス修理の請求書ですね?』

「はぁッ?!」

 

ちょっ!そんなの経費では落とせないし!というか俺じゃなくて事務の仕事だってソレ!!

 

『こっちは第4陸戦砲撃魔導師部隊のですね。これはどうやら事務の人が間違えたっぽいですが』

「…………事務の方に行くぞ…流石にコレはおかしい」

 

どうなってんだよ!こちとら休日返上して仕事してるんだぞ?

なのに、書類の半分以上が、本来事務がやるべき筈の書類だなんて!

 

以前からおかしいとは思っていたが、コレはあんまりだ!

そう思った俺は、基地にある事務課に向かう事にした。

 

 

 

 

~セスル基地・事務課~

 

 

事務課…ソレは軍内の庶務を一手に引き受けている部署の総称である。

魔導師というのはとにかく色々と書類が多い。

 

――――消耗品であるデバイスの発注

――――新魔法の登録

――――飛行魔法使用の哨戒任務

――――その他色々

 

こういった雑務を引き受けて、俺達魔導師の戦争活動をサポートしているのが彼らなのだ。

人員は攻撃魔法が使えない人間ばかりだが、その事務処理能力は魔法を併用する事で群を抜く。

―――――筈なんだが……。

 

「おい…しっかりしろ…」

「……………」

「へんじがない、ただのしかばねのようだ」

 

死屍累々というか…死体の山?

 

「―――い、いきてるよぉ…」

「お、生存者発見」

 

死体の山(だから死んでないって)から這い出て来た、事務課所属のまだ若い兵隊君。

何が何でこうなったのか、理由を聞く事にしますか。

 

………………………

 

……………………

 

…………………

 

「はぁ?ワーカーホリック?」

「ええ、そうなんです」

 

なんだそりゃと思い、詳しい話を聞くと、大体こんな感じらしい。

 

事務課仕事する → 普段でも手一杯 → 戦争始まり仕事増える → 頑張って仕事した → 仕事減らない → 事務課長の大尉がワーカーホリックに → 事務員にそれが伝染 → 頑張り過ぎで全員ダウン → 現在に至る。 

 

――――――――本当はもうチョイ複雑ながら、ざっと簡単にすると大体こんなもんなんだそうな。

あーえと、なんて言うか…。

 

「自業自得…じゃないかソレ」

『ですね。というか止める人いなかったのでしょうか?』

 

普通はそうなる前に、病院に行くなり有給取るなりするもんだがなぁ?

特に事務課の人間は俺達と違って、職務規定に有給を取れる権利が盛り込まれている筈だし。

 

「さ、最初は…ドリンク剤のんで頑張ったのですが…一人倒れ二人倒れ…最後は俺だけに」

 

―――――なんかもう唖然とするしかない状況だねコレ。

 

しばらくすると、最後の生存者(!?)だった彼も、安らかな眠りに落ちた(死んだわけじゃないよ?)。

仕方ないので、とりあえず彼らは俺が通報して人を呼び、医療室へ直行する事になった。

全く、少しは自分の身体の事も考えろ―――――――

 

 

 

 

「―――――って…どうして俺のところに書類が来たか…聞いて無い」

『事態が事態でしたから忘れてましたね』

 

まぁ、後で聞いた話なんだが、彼らは以前から少しでも仕事を減らそうとしていたらしい。

で、事務処理が早い部隊長の順に、あまり重要ではない書類を紛れ込ませていたんだそうな。

しかもそれに気が付かず、おまけに早い人には優先的に紛れ込ませていたんだそうで……。

 

つまり、俺が頑張って仕事減らそうと頑張った行為が裏目に出ていたって事なのか?

……………………はぁ、でもアノ人達の現状見てたら、文句の一つも出ないわ。

 

 

とりあえず、遊びに行こう…うん。

 

 

***

 

 

何だかウチの基地の酷い現状に溜息をつきながら、俺は基地内の散歩に出る事にした。

なんかもうね、一連のアレで外に出かける気力もうせちまったよ。

 

しっかし、あれだね。

訓練学校を卒業してから1カ月ちょいしか経って無いのに、随分と慣れたね…この生活にさ。

本当は少々マズイんだが、人殺しに関しての抵抗感が、殆ど無くなっちまったよ。

 

一応戦争協定には捕虜の扱いも載ってるんだが…いかせん戦争中は金がない。

だから非殺傷設定なんて使うバカはいないんだわ。

 

え、解らん?簡単に言えば…そうだな…“生かすよか、殺した方が早い”ってもんでさ?

協定じゃ捕虜の扱いってあるんだが、ぶっちゃけ捕虜とる余裕なんてない。

だから、戦争状態なんだしKIA(戦闘中死亡者)とかにした方が都合が良いんだわ。

 

それに魔法弾一つで人は死ぬ…戦場での生身の人間の命なんてさ?

魔導師の力をもってすれば紙クズみたいなモンなんだよ。

 

後、相手も魔導師だから、気を抜けないってのもある。

気絶したかと思っていたら、実は気絶した振りで、隙突かれて殲滅魔法で一部隊全滅。

そういった風に全滅した事例が、過去に幾度となくあったんだそうだ。

 

故に現代における魔法戦は“見敵必殺”……見つけ次第即排除が基本戦術となっている。

コレが銃とか使っている戦争なら、そう言ったことしなくても済むんだけど…。

魔導師は一人でも爆弾みたいなモノだから仕方ないちゃ仕方ないんだよねコレが。

 

しかしまぁ…実質、魔力刃で斬り殺すなんて事は少なくて、大抵砲撃魔法や狙撃魔法で殲滅しちゃうから、あんまし人殺しの実感わかないんだ、ほんの1カ月ちょいは胃の中身戻してたのにな。

人間ってのは状況に“慣れちまう”んだよなぁ・・・適応とでも言うんだろうかね?

 

なんにしてもアレだ……改めて魔法ってのは恐ろしい技術だよなぁ。

ソレを扱う魔導師も含めて、もはや“兵器”だぜ。

扱うヤツ次第で世界も簡単に終わらせられるよ。

 

でもまぁ…多分この世界も、もうすぐ終わりだろうなぁ…。

次元航行技術は秘匿研究されているらしいけど、

こんな血まみれの世界の住人を外に出そうだなんて、時空管理局が黙っていねぇだろうよ。

 

恐らく戦争が終わっても30年くらいは、次元世界間の渡航だなんて夢のまた夢だろうな。

はぁ、原作の世界に行ってはみたかったけど、俺の死ぬ世界は恐らく“ココ”だ。

何の因果か転生して兵士になっちまった…ま、コレも運命ってやつだろう。

 

ココで転生系に良くありそうな俺tueeeee!!!系のオリ主だったら―――――

 

『運命?そんなもん努力しない負け犬のセリフだろ?』とか

『どんな事態になっても俺は諦めない!絶対なのはに会うんだぁぁ!!』とか

『フッ、こんなこともあろうかと、次元転送用魔法を習得しておいた』とか

『ハァ…ハァ…フェイトたん…』

 

―――――とか何とか云いそうだけどさ。あ、最後のは無しで…。

 

ぶっちゃけ、俺チート性能持ってるけど、どう考えてもこの箱庭から出る事は敵わないと思うぜ?

なんでかって言うと、どんなに強い力があっても、ソレは所詮一個人の力でしか無い。

俺達は幾らチートでも、神さまって訳じゃ無い。飯も食うし休息もいる。

あ、ジョブが神さまだって言うヤツのは除外な?話が進まなくなっちまうからよ。

 

まぁ話を戻すが、俺達は人間、それこそ24時間以上、数万を超える魔導師と戦闘出来るなら話は別だけど、そんな力はあいにく流石に持ってはいない。

あるのは、あくまでもで遺伝的…もしくは先天的に優れた魔導師資質でしか無いんだ。

 

そんな俺達が努力しても数の暴力に敵う訳がない。

死ぬ気ならまた違うだろうが、俺は正直巻き込まれない限り死にたくは無い。

逃げられるなら逃げるし、倒せるのなら倒す主義だ…っと話がまたそれたな、失敬。

 

ま、ともかくだ…人生には、努力しようが、諦めないだろうが、

こんな事もあろうかと!と、準備しようが関係無しに、

出来ない事…越えられない壁は存在するって事なのさ。

 

コレはあくまでも俺個人が考えた事だろうから、真実は実は全く違うのかもしれない。

それこそ俺が今言ったことの反対が真実なのかもしれない。

 

 

だが、現状においては―――――――俺が言った事が真実だ。

 

 

この状況が変わるにはそれこそ……奇跡でも起こらないとだめだろうなぁ。

 

「そんなご都合主義…あったら良いんだがなぁ…」

『マスター?』

「ん…何でも無い…」

 

俺達は、この“箱庭の世界”からは逃れられない…か。

あかん、どう考えても厨二病臭いやん!俺も働き過ぎで思考がヤバいわぁ~。

こういう時は、自主訓練にでも励んで汗かいて、嫌な事は忘れる事にしようウン。

 

―――――――そう思い、俺は訓練場へと向かった。

 

***

 

魔導師が使う訓練場は、この基地内には主に二カ所存在する。

一つ目は、出力リミッターをデバイスに設けた上で、障壁内に囲まれた部屋を使う屋内型。

二つ目は、出力リミッター無しで、思う存分動き回り訓練が出来る屋外型だ。

 

どちらにも一長一短が存在し、一概にどちらが良いとはいえないが、基本的に思いっきりヤル時。

俺達魔導師は屋外型を選択する…まぁ勿論許可がいるんだけどね。

必要書類はすでに出しておいたから、問題は無い――――あの事務課が稼働すればだけどな。

 

話を戻すが、屋外では出力リミッター無しで出来るというメリットがあるモノの、代償もある。

――――――ソレは実際に怪我をしてしまうという事だ。

 

まぁバーチャルじゃないんだから、当然魔法は痛いし、飛行魔法が途切れて落下すれば怪我もする。

ある意味現実を肌で感じられるから、勘を鈍らせない為には最適だけど、怪我は痛いぜ。

 

そういう意味だと屋内型の方が安心してできるし、ホログラム投影の敵も出るから、戦術的バリエーションは豊富だ。

だけど、やっぱり思いっきりやるのなら、外に限るんだなぁコレが!

 

「さて…」

 

俺は訓練場に置いてある、とある機械の電源を入れる。

この機械は一人用の訓練の時に使うモノの一つで、クレー射撃のようにディスクを射出する機能が付けられている。

とりあえず射出するディスクは300枚にセット、射出間隔は一番短めにセットし訓練を開始した。

 

……………………

 

…………………

 

………………

 

ガシュンという音と共に、一度に3~4枚のディスクが射出される。

アルアッソーモードで展開したヴィズから放たれる魔力弾が、それらを撃ち落としていった。

 

一つ、二つ、三つ…最後の四つ目は、連射して跡形もなく粉砕する。

続いて機動させたのはM82A1、大型対物狙撃銃の姿をしている兵装デバイスの一つだ。

 

M82A1を構え、先ほどと同じようにディスクを射出するが、先ほどとは違う方向に向かっている。

スコープからの映像がヘルメットの中のHUDに投影され、すさまじい速さのディスクを捕えた。

そして、ドシンと肩に来るような衝撃と共に放たれた魔力弾は、ディスクを粉々に粉砕していた。

 

――――ソレを繰り返す、何度も何度も……一心不乱に、無我の境地で……。

 

こうして射撃を続けている内に、ディスクが無くなってしまい、そこで射撃は終了した。

仕方ないので、こんどは別の訓練をしようと思ったその時、訓練場に誰かが来た気配を感じた。

 

 

「あれ?隊長、今日は休みじゃなかったんですかい?」

「ソレはこちらのセリフだ…外に行ったのでは無かったのか?ケイン曹長」

 

そこに居たのは、俺がこの隊に来た当初、一番最初に反抗心を示したケイン曹長だった。

つーか相変わらず良いガタイしてるぜぇ……残念ながら俺はウホでは無いけどな!

 

ちなみにこの人、最初の出会いがアレだっただけで、中身は結構良い人でした。

言葉づかいがチト悪いが、普通に会話してもかなり博識で常識人だし、アメちゃんくれるし……。

べ、べつに御菓子につられてる訳じゃないぞ?本当だぞ!?

 

「いやまぁ…最初はそうだったんですがね…」

 

ケイン曹長は苦笑いを浮かべる、どうしたんやろか?

 

「なんかこう…落ちつかねぇっていいますかね?シャバじゃ休めねぇんですよ」

「しっかり休むのも…兵士の仕事だと思うが?」

「ジョーダン、休めねぇところで休めだなんて。俺はとんちはきらいですよ?」

「くく、違いない…」

 

ソレもそうだな、俺達みたいな人間なら特にな。

 

「なら、俺の訓練に付き合わんか?」

「いえ、自分はまだ死にたくないので、回れ右をしたい所存でありまーす!!」

「不許可だ…なに模擬戦じゃ無いから安心しろ」

「ソレを先に言って欲しかったぜ、隊長さんよぉ?」

 

刹那睨みあう俺達、そうしてお互い苦笑する。

 

「まぁ…アレだ?魔導計測機と魔力霧散化装置の制御をしてほしいんだ…一人じゃ無理だし」

「アイサー隊長、付き合いますぜ?」

 

 

―――――そして、別のエリヤに移動する。

俺の休日は結局訓練と事務で消えたけど、まぁコレもタマには良いか。

 

 

 

 

 

 

「まぁ、いつかはこうなると思ってたさ…」

 

 

 

 

 

――――妄想戦記――――

 

 

 

 

―――――戦場に偶然ってのはつきものだ。

 

大軍を前に奮闘して偶然にも生き残れる事もあるし、その逆もしかり。

いくら気を付けていても、一度戦闘に入れば無事でいられる保証は無い。

 

そしてその日は、いつものように警戒ラインを突破した敵さんの迎撃任務の筈だった。

これまで何度もあったし、正直1日に4度のペースもあった。

だからある意味、俺達もソレらの対応に慣れていた。

 

油断とかは無い、只どうやれば上手く相手が倒せるかに慣れただけ。

そう、丸でお決まりのパターンがあるみたいな感じ……。

だけど―――――

 

「嘘だ…うそだろう…」

 

俺達は忘れていた――――

 

「傷は…浅いんだろう!…おいッ!」

 

戦場に置いて――――

 

「逝くな!…おい!ふざけるな!…目を開けろ!」

 

絶対に…お決まりのパターンなんてものは…存在しないって事を…。

 

***

 

『敵が警戒ラインを突破、第七魔導師部隊に出動要請』

「お、定期便の連中か?」

「全く懲りないねぇ」

「こっちが殺そうとしても死なないから、かなり腕がいい連中なのは解るんだけど…」

「毎回誰か怪我すると逃げるモンな?」

「所詮腰ぬけなのさ。OCUの連中なんてさ?」

 

部隊の連中がそんな事を言っている。

まぁ解らなくもないかな?連中すぐ逃げちゃうしさ。

 

正直、きちんと戦えやッ!って言いたい連中が出るのも予想できる。

俺は嫌だけどね。このまま、あまり戦う事も無く終戦になってほしい。

 

「お前らッ!無駄口叩いてないで準備しろ!」

「「「イエッサー!ジェニス少尉殿!」」」

「そういうのは良いからジャケット付けろ!スクランブルなんだぞ?一応…」

 

おーい、副官のあんたがそんなんでどうすんだよー?

とりあえず、今日も今日とて追い返す事になるだろうなぁとか思いながら基地を出た俺達だった。

 

…………

 

……………

 

………………

 

「各分隊、報告を…」

『こちらA分隊、敵の姿発見できず』

『こちらB分隊、同じく敵の姿発見できず』

『C分隊も同じです』

「……どういう事なんでしょうか?敵の姿が影も形も無いなんて」

 

さて、俺にも解らん。

ただ言える事は、“いつもとは違う”ってことだ。

 

「何かあるかも知れん…各員に注意を「な、何だッ!?」」

「アレは敵の強装結界かッ!」

 

しくじった。どうやら罠にかけられたらしい。

この辺一帯を覆い隠すくらいの規模の結界が、俺達の部隊ごと閉じ込めてしまった。

 

「チッ各員散開ッ!一カ所に固待ってると、バラバラにされるぞッ!」

「結界魔導師は強装結界の解析を急げ!それ以外は結界魔導師の援護だ!」

 

俺の指示と、それを補佐するジェニスの指示が飛び、俺達は急いでこの場からの離脱を開始する。

結界さえ突破すれば、最悪一人でも転移魔法を使わせて基地に戻せば援軍が呼べる。

だが、そうは問屋が下さなかったらしい。

 

≪ドゴォォォォンッ!≫

「な…」

 

見れば巨大な爆発が起こり、白煙を上げていた。

しかし問題はそこでは無かった…。

 

「C分隊…通信途絶…」

「何ぃ?!」

『バイタルデータ…受信できません』

 

ヤード達とはすぐに連絡が取れる様に、回線は常時繋げてあった。

それが途絶したと言う事は……。

 

「敵は…高ランク魔導師…」

「もしくはそれに準ずるスキルの持ち主…か。ヤード…」

 

まさか一撃でC分隊が倒されるだなんて…いた仕方ない。

 

「結界魔導師は魔力隠蔽をしつつ後退、俺はこれより陽動を仕掛ける」

「では隊長、自分も…」

「ジェニスは残って指揮を取れ…どうも嫌な予感がする」

「しかしッ!……いえ解りました」

 

A分隊の面々が後退していくのを確認し、俺は陽動を行う為、敵のところへと向かう。

しかし、連中は自信でもあるのか、はたまたジャミングが出来る奴がいないのか?

先ほどから、全然探知妨害をしていない、レーダーに丸映りだ。

 

「……出来ないのか…もしくは罠…か?」

 

だとしても、陽動をかける以上、俺は連中に近づかないといけない。

BA(バリアアーマー)や防御魔法の強度を上げておくことにするか。

とりあえず、死なない程度に頑張らねぇと…皆で一緒に帰りたいから。

 

***

 

Side三人称

 

「クソが…どうなってやがるッ!」

 

フェンが移動を開始したころ、C分隊の唯一の生き残りが、逃げ回りながらそう呟いていた。

いきなりの奇襲によって、小隊は崩壊し、唯一生き残ったのは自分だけ。

 

しかも運の悪い事に、先の攻撃でデバイスが損傷し、バイタルデータの送信が出来なくなった。

辺りはジャミングされていて通信もできない。

 

お陰で自分が無事だという事を仲間に伝えられないと言う、絶望的状況。

だが彼は、一人になったものの、諦めずに仲間の元に戻ろうと必死だった。

 

「大体なんなんだアレは…」

 

そんな中、彼は駆け続けながら呟いていた。

敵からの殲滅攻撃を受けた際、彼は見ていたのだ。

こちらを攻撃してきた敵の…その異常性を…。

 

「なんでタイムラグ無しで、魔法使えるんだよ!!」

 

そう、魔法と言うモノは発動までに必ずタイムラグが発生する。

それは魔力を込める時間だったり、詠唱している最中の時間だったりと色々だ。

デバイスによって大幅に短縮されては居るが、ソレらのタイムラグはいまだに存在するのである。

 

「まるで、手を動かすみたいに、自然に発動させるなんて…」

 

魔法と己は一心同体とでも言うのだろうか?

そんな技術をOCUの野郎どもは何時開発したのか?

そんな事を考えるヒマも無く、彼はひたすら逃げようとしていた……だが。

 

≪ドス≫

「ひゅ…が…」

 

仲間の元にたどりつく前に、彼の胸から光輝く魔力刃が生えていた。

心臓からやや外れた位置、一瞬で命を狩り取られることなく、彼は死にたくても死ねない。

焼かれるかの様な痛み、苦しみ、もうろうとした意識の中で、彼がいだいたのは絶望。

 

最初こそ手足を動かし抵抗していたが、ソレも段々弱くなり、ピクンと痙攣するだけになった。

ソレは、男が絶命したことを悟ると、ゴミを払うかの如く死体を投げ捨てる。

 

 

「ククク…クククククッ」

 

 

ソレは哂う、いとも簡単に魔導師を殺せることに歓喜しているかの如く。

己の手に付着した血を舐め取り、ソレはひたすら哂っていた。

 

その目には何も映っていない、焦点の定まらないソレは、次の獲物を探しに戦場を走る。

その顔は、苦痛と快楽が入り混じったかのような色で染まり、傍から見れば狂気に映るだろう。

 

だが何よりおかしく映るのは、それは見た目にはデバイスを所持していなかった。

確かにデバイスを用いずに闘う魔導師は存在する。

だが、ソレはとてもわずかであり、特にこの戦時下に置いてソレを行うバカはいない。

だれしもが生存率を上げる為に、デバイスを所持しているのは当たり前だからだ。

 

だが、それはデバイスらしきものは所持していない。

かわりに耳の後ろに何か光る板のようなモノが付いているだけである。

 

 

 

―――――それは一通り走ったかと思った途端、脚を止める。

 

 

 

“み~つけた”

 

 

 

近くに新たな魔力を感知したソレは、ニヤァと口角を歪ませる。

そして新たなる獲物に向かって瓦礫の中を駆けて行った。

 

 

 

 

ちょうどその頃、フェンは敵部隊と感知した反応に向かっている最中であった。

もうそろそろ、目視で確認できるはずなのだが、どうにもおかしい。

普通なら感じる筈の、人の気配を感じないのである。

 

気配遮断に優れた人間は、確かにいない事は無い。

だが、こちらとも気配は消しているし、何より集団で気配を全て消す事は難しい。

しかも、魔力が微弱に漏れ出して感知されているのに、気配を消すと言うチグハグさ。

 

「………まさか」

 

とある予想が頭をよぎったフェンは、隠れていた遮蔽物から跳び出した。

ソレは普通なら敵に見つかってしまう行為である。

しかし、敵からは何のアクションも無かった。

 

 

何故なら―――――

 

 

「くッやられた!」

 

敵がいると踏んでいた場所には、何かの機械が転がっている。

恐らくは魔導機械で、微弱な魔力を発生させる機械なのだろう。

 

「レッドクリフ1から各隊へ!聞こえるか?」

『(ザ…ザザ…)』

『ダメです。ジャミングフィールドの力が強すぎて、ココからでは念話は届きません』

「ダメか…」

 

コレは明らかな囮である。

罠かと思ったが、ソレらしきモノは感知出来ない。

まさか囮である自分が囮にハマるとは滑稽だ。

 

「クソ…対人警戒レベル5で移動すr≪ズガァァン!!≫何だ?!」

 

閉じられた世界である結界内で、遠くの方から破砕音が響き渡る。

辺りを見渡せば、煙が上がっている場所が見て取れた。だがソコは――――

 

『レッドクリフ隊のバイタルデータが、ドンドン消失していきます!?』

「なッ…」

 

ヴィズが悲鳴の様に声を荒げ、HUD上に部隊員のバイタルデータが投影された。

特別な信号を使っているソレは、余程の事が無い限り途切れる事が無い。

そして、その事がHUDの故障などでは無く、次々と隊員の命が消えていると言う証しであった。

 

「くそ、B分隊か…急ぐぞ、ヴィズ!」

『ローラーダッシュとジェットパック展開!』

 

俺は襲われている隊員たちの元に急行する為、ジェットパックを起動する。

魔導エンジンに組み込まれたターボファンから蒼い火が上がり、一気に加速した。

来た道を戻り、B分隊の元へ着くまで後数十秒もかからないところまで来た時。

 

『B分隊…バイタルデータ消失…全滅しました』

 

***

 

Sideフェン

 

『B分隊…バイタルデータ消失…全滅しました』

「なん…だと…」

 

バカな!ケイン曹長だぞ?!

あの腕っ節だけなら副長にすら勝つあの曹長が死んだだって!?

 

『動的物の反応を感知、ココからの離脱を推奨します』

「だ、だが…」

『バイタルを送ってくるデバイスが破壊されたんです!人間が無事だとは思えません』

「……解った……A分隊と合流すr」

 

 

 

――――ズクン!

 

 

 

「……ッ……」

≪バッ!≫

 

頭上からの殺気に身体が勝手に反応し、回避行動を取った。

その途端、俺が今の今まで立っていた場所に、銀色に光る何かが落下し、砂埃が辺りに舞う。

今だ舞う砂埃を見て、俺の中の危険を訴える警鐘が鳴りやまない。

 

「…くっ!」

≪ビュッ!≫

 

そして跳び出してきた鈍い銀色のナニカ。

ソレは展開した多重プロテクションに阻まれて、辺りに落下する。

俺に向かって投摘されたのは、ナイフだった。

 

「チッ!フォックス2!」

『レールブラスター』

 

砂埃が収まらない中、俺はナイフが投げられた所に魔法を撃つ。

手応えは当然・・・・無い。

 

「ッ!後退するぞ!」

『了解!』

 

更なる悪寒、お返しとばかりに飛来する魔力弾を避けながら、一気に後退した。

射出された紺色の魔力弾は、誘導性は無かったが、まるでショットガンの如く、効果範囲が広い。

着弾した際に爆発していた事から、至近距離で喰らえばかなりヤバい…というかエグイだろう。

 

「(ヴィズ、設置術式スタンバイ。コイツは危険すぎる)」

『(了解)』

 

そして、ようやく砂埃が晴れて、相手の全体が見えるようになる。

 

(?…デバイスを持っていない?そんな馬鹿な。アレだけの魔法をあんなに早く…)

 

砂埃が晴れた所、クレーターの真ん中に居たのは、一人の男。

帽子付きのOCU軍純正デザインのバリヤジャケットを纏っているが……

 

(コイツ…階級章が無い…)

 

考えられるのは特殊部隊か…はたまたこの世界の裏か…。

どっちにしろ、俺はこいつを倒さなければならない。

 

「返り血…C分隊のか…」

『敵討ちも兼ねますか?』

 

それが出来たらどれだけ良いか…。

コイツのバリヤジャケットに飛び散っている、尋常じゃ無い程のアカイもの。

C分隊の全員、至近距離で魔力刃にやられたのか…クッ。

 

しかもバリヤジャケットなのに、返り血が落ちていない。

つい先ほどやり合ったって所か?なのに全然疲れた顔してねぇぞコイツ。

 

「くかかか…」

 

・・・おまけに正気じゃないみたいだな。厄介すぎる。

正気だったなら、まだ付け居る隙はある。だが、死に対する恐怖が無い奴ほど、怖いもんはねぇ。

杖を向けられようが、魔法を撃たれようが構わず、死兵になるタイプだなコレは…。

 

「コイツから生き残れれば…良いんだけど…」

「くくくく…」

 

おまけに、感知出来る魔力量はSランククラス。

簡易測定だから正確には解んないけど、感覚からすれば大体ソレ位か。

 

「とりあえず…実力を持って排除する!」

「!!かかかカッ!!」

 

得体のしれない魔導師と対峙する俺。

男は哂いながら、何故かこちらに手を向けて来た。

その途端、敵魔導師の周辺に数百を超えるであろうスフィアが瞬時に形成された。

 

「なッ?!」

≪ドガガガガッ!!≫

「…ウグァ!」

『シールド展開効率63%に低下!』 

 

何だこの出鱈目な詠唱の速さは!?明らかにデバイスなしの魔導師のレベルじゃネェぞ?

簡単な魔法ならともかく、さっきのは誘導弾、しかもかなりのスフィアの数だった。

まさかそれを同時展開したあげくに操りやがっただと?……デバイス使っても普通は無理だぜ。

 

一つの威力はそれほどじゃない。だけど数が尋常じゃ無いから、あまりの負荷に術式が持たん。

緊急展開タイプのプロテクションシールドでは、数回受けただけで破られる。

俺はそう判断し、キーンセイバーを即座に展開して斬りかかった…だが。

 

≪ガギンッ!!≫

 

相手も同じく魔力刃を展開、此方の斬撃は防がれる。

しかしそれじゃあ…甘いッ!

 

「ハッ!」

「!!?」

 

もう一本あるキーンセイバーが、塞がっている胴へとせまる。

鋭い一閃、しかし手ごたえは無かった。

 

「ぐるるる」

「どんな反射神経…してる?」

 

身のこなしがまるで獣じみている。

斬り付ける直前に、いきなり後方へと一気にジャンプしやがった。

掠らせた程度で、ほんの少し血が滲んでいる程度だ。

 

「がぁぁぁぁ!!!」

 

響き渡る咆哮、獲物と認識された俺目掛けて刃を構え突進。

設置術式を強引に食いちぎり、放つ弾幕をモノともせずに喰らいつこうとする。

 

「チィッ!」

『術式1番2番3番、強制解除!5,6,7番作動前に魔力干渉で機能不全!作動しません!』

「術式は破棄する!チッ、コイツを…喰らっとけ!!」

≪バラララララ―――!!≫

 

アルアッソーモードのヴィズから放たれる火線が、目の前の敵に襲い掛かる!

だが俺の体質上、誘導が出来ない為、どうしても火力が直線となってしまう。

その所為で、射線を見切られてしまい、殆ど当らない。

 

「ガァァァァァ!!」

≪ドガッ!!≫

 

恐ろしい速さで接近され、防御魔法を使う暇も無く、一撃をくらってしまった。

左肩への衝撃、吹き飛ぶ装甲、貫通はしなかったものの、この感覚……

 

「脱臼したか…クソ!」

「アァァァァ!!!」

 

味方がいる状況ならば、ハメ込めるが今の状況では無理だ。

そんな隙を与えてくれる程の精神…というか理性が相手には残って無さそうだしな。

幾ら治癒魔法でも、脱臼した状態で使えば、癒着したよりもひどい事になる。

 

「ク…ソ…たれがぁぁ!!」

『M82A1起動!』

 

片腕で、ガシャンと魔力が充填された兵装デバイスを向ける。

だが――――

 

「がぁぁぁぁ!!」

≪バキン!≫

「折られた…だと、だが!」

 

ライフルタイプのM82A1は接近戦では使えない。

敵はそれを両手で持ち、力でへし折ってしまった…だが、ソレはあくまで布石。

 

「デバイス無しは…お前だけじゃ無い!」

 

手に一発だけ、ガルヴァドスの術式を展開させる。

ソレを至近距離にいる目の前のアイツに、殴りつけながら喰らわせてやった!!

 

敵の両手がふさがっているという、一瞬の隙をついた攻撃。

異常な反射神経をもつ敵も、さすがに対応しきれなかった様だ。

 

≪バガンッ!!≫

「ギャァァァッ!!!」

 

魔力で強化した拳が、敵の顔にまるで吸い込まれるかの如く放たれた。

 

(っ!痺れが…!)

 

だが、固い装甲を持っているとはいえ、こっちも無傷で済むはずが無い。

脱臼こそしなかったが、残った方の腕も魔法発動の際の衝撃で痺れている。

コレはマズイぞ…と、一瞬思考を逸らしてしまったのがいけなかった。

 

 

「くくく…“アクセル”」

「ぐがっ!!」

 

 

敵は今まで使ってこなかった高速術式を突如起動。

いきなりで対処のしようがない俺は、そのままタックルまがいの攻撃を喰らってしまう。

 

比重が軽い俺の身体は、そのまま背後の廃墟に叩きつけられ、そのまま壁を突き抜けていた。

おまけに運の悪い事にぶつかった衝撃で、建物に止めを刺したのかそのまま崩れてしまった。

そして、俺は崩れて来たその瓦礫の下に生き埋めとなり、意識を失った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まぁ、いつかはこうなると思ってたさ…後篇」

 

 

 

 

――――妄想戦記――――

 

 

あらすじ

 

・敵部隊接近中でスクランブル。

 

・敵の罠にハマり、結界に閉じ込められた。

 

・何時もの様に、部隊を分けたのが仇となり、各個撃破される。

 

・囮となる為に単騎前に出たが、敵を捕捉できずC分隊が餌食に…。

 

・謎の敵と交戦、戦闘中に瓦礫に埋まる。 ← 今ココ。

 

***

 

 

 

とくん・・・とくん・・・

 

 

 

頭がぼーっとする。

 

 

 

とくん・・・とくん・・・

 

 

 

なにが、おこったんだっけ?

 

 

 

とくん・・・とくん・・・

 

 

 

ああ、そう――――敵に攻撃を受けて。

 

 

 

とくんとくんとくん・・・

 

 

 

瓦礫に埋まった。ってことはコレは夢か?

 

 

 

とくんとくんとくんとくん・・・!!

 

 

 

くそ、他の連中が戦っているのに、俺だけ寝てらんねぇだろうが!

 

 

 

とくんとくんドクンドクン!!

 

 

 

起きろ、俺!有給休暇はまだ先だッ!!!

 

 

 

――――――ドグン!!

 

 

 

「ハッ?!」

 

か、身体が動かない?!ってそう言えばあいつの攻撃喰らって瓦礫の下敷きになったんだっけ?

くそ、道理で目の前の映像が、コンクリートな訳だよ!BAが壊れなくて良かったぜ。

 

「(ヴィズ!!)」

『(マスター!気が付かれましたか!?よかった・・)』

 

ヴィズが安堵の声を出しているけど、そんなところじゃ無い!

 

「(ヴィズ・・・俺はどれだけ眠ってた?)」

『(およそ10秒ほどです。先ほどの敵は現在交戦中)』

「(交戦中?・・・一体だれと、まさか)」

『(・・・交戦しているのはA分隊。ジェニス少尉が指揮をとっています)』

 

なん・・・だと・・・?

 

「(くっ・・俺も出る・・あいつらだけじゃ・・ぐっ!)」

『(その前に治癒魔法をかけてください!肋骨が折れて内臓を圧迫してるんですよ?)』

「(そのようだ・・・な。今の痛みで・・少し冷静になれた)」

 

俺は自分に治癒魔法をかける。その場しのぎの応急処置。だが、しないよかまし。

 

「(まったく、ココまでされたのなら・・・アレには是非とも多重弾核弾をプレゼントしないと・・・)」

『(同感です)』

 

さぁ、第2戦の始まりだ。

 

俺は多重プロテクションを展開。

 

そして――――――

 

 

 

「シールド・・・バースト!!」

≪バッガァァァァンン!!!!!!≫

 

 

 

第一層目のプロテクションを爆破、瓦礫を吹き飛ばした。

 

「(ジェニス・・・ガルヴァドスを使う。退避しろ)」

 

そして、ガルヴァドスを起動し、敵さんに弾幕の雨を降らせてやった。

 

***

 

Sideジェニス

 

――――しくじった。

 

まず、脳裏に浮かんだ言葉はソレだ。

 

「レッドクリフ4が奴に喰われました!」

「チッ、7をそっちに回せ!弾幕を張ってヤツを寄せ付けるな!!」

 

この強装結界を抜けるには、結界を崩さなければならない。

その為に、先ほどから結界魔導師が頑張っては居る。

だがまだ時間が掛かる。

 

「速い!速すぎる!!」

「泣きごと言ってねぇで撃ちまくれ!当らなくても寄せ付けなければ良いんだ!!」

 

既に部隊の8割が戦死、コレはもう事実上の全滅と言っていいだろう。

どうやら俺達は、あの小さな隊長にまた重荷を背負わせちまうようだ。

 

「こっちへ来る・・ヒッ!」

「気を抜くんじゃ≪グシャッ≫」

「クソが!また一人魔力弾にやられた!!」

 

A分隊もすでに戦力は半分になりつつある。

俺を含めて、陸戦魔導師が後2人、空戦出来るのが1人、結界が1人。

唯一の救いは、敵は弾幕を張れば近寄ろうとしない事だろうか?

 

「・・・だがこのままじゃ、ジリ貧か」

「・・・隊長はどこに行った?まさか逃げたのか?」

「・・・それが出来る人間だったら」

 

―――――まだマシ・・そう言い終わる前に、俺は防御魔法を発動させた。

 

≪ギュォォォォッ!!!≫

「グッ!重たい・・」

 

それは閃光、敵の放った砲撃魔法だった。

 

「デバイスも無しにこの速度、バケモンだ・・な!!」

 

防御魔法の壁はドンドンひび割れて行く。

一体どんな仕組みで、コレ程の威力を引き出しているんだろうか?

そんな事を考えさせてくれる余裕も、与えてもらえそうにない。

 

「ッ!砲撃が途切れたら、弾幕急げ!」

「りょ、了解!!」

 

こっちはストレージデバイスだから、タイムラグは少ない。

だが、敵さんはデバイスも無しに・・・“手をかざした”だけで魔法をつかう。

敵は一人、数の上じゃこっちが圧倒的有利だ。

 

≪バキ・・バキ・・≫

(くそう、俺は防御魔法は不得意なんだぞ!!)

 

心の中でそう叫ぶ。

背後では仲間の結界魔導師が、結界に少しだけ穴をあけて、救援要請を出していた。

だが問題は、救援が来るまで俺達が生き残っていられるか・・・かな?

 

「隊長・・・」

 

今はこの場に居ない、あの小さな隊長の事を思う。

あの隊長なら死ぬはずはない・・・とは思う。

 

女の子の様な顔をして、それでいて凶悪な戦闘能力とサバイバル能力の持ち主だ。

滅多な事じゃ死なないだろう。デバイスも秀逸だしな。

だが、その時―――――

 

「(ジェニ・・・)」

(隊長?!生きていたのか!!)

 

ノイズが入っているが、確かに通信から隊長の声が聞こえた。

 

 

だが――――――

 

 

「(ガ・・・ヴァドス・・・使)」

 

 

この言葉が聞こえた瞬間、あたまからサーっと血の気が引いて行くのがわかった。

ガルヴァドス、それはラーダー隊長がもつ広域殲滅魔法の一つ。

 

 

「おい!“ガルヴァドス”だ!隊長が“ガルヴァドス”を使うぞ!!」

 

 

俺のその言葉だけで、生き残りの連中も、顔色が真っ青に変わった。

そしてその後の行動は速かった。敵さんの砲撃が止んだ瞬間。

先ほどまで救援通信を送っていた結界魔導師が、全力で結界を張った。

 

 

 

そして―――――――

 

 

 

≪ズガガガガガがガガガガガガガガガガガガガガガガッ!!!!!!≫

 

 

 

敵の周辺が、爆炎と業火に包まれた。

・・・俺達も巻き込んで。

 

***

 

Sideフェン

 

ガルヴァドスを射出するのと同時に、俺はジェットパックを用いて一気にA分隊の元へと跳んだ。

放物線を描きながら、射出したガルヴァドスと一緒になって落ちて行く。

若干俺よりも先に、ガルヴァドスが敵を巻き込みつつ着弾し、辺り一帯は火の海に包まれた。

 

味方も巻きこんでいたが、彼らはこういった事に慣れている。

きちんと結界を張っているのも確認しているので、大丈夫だ。

 

「策敵」

『魔力残照が多くて、センサーがまだ効きません。キャンセラーレベル最大』

 

そこらにある障害物等は一掃され、開けた大地が広がっている。

だが、俺にはまだ敵を“殺った”とは思えなかった。

 

「…ッ!!」

≪ガギン!≫

 

とっさに、左腕にデフォで装備されているW-シールドを構えた途端、走る衝撃。

 

「くっ!」

『左腕部、盾使用不能』

 

見れば敵があの魔力刃を振り抜いたところだった。

そして壊れる俺の盾。

 

盾が壊れたのは仕方が無い、元々碌な機能をつけていない只の飾りの盾だ。

精々左手の防御がやや上がった程度の防御力しかない。

 

だがそれでも―――――

 

「・・・砕け散れッ!!」

『ファイア!』

 

至近距離での隙を作りだす程度の役目は出来た様だ。

 

「!!??」

≪ゴガガガガガ!!!!≫

 

まさか敵も、右手に持つアルアッソーからでは無く、突如出現したスフィアから攻撃されるとは、

思わなかった事だろう。しかも放たれる弾はガルヴァドスのモノだ。

 

「ぐぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

――――その威力は、普通の魔力弾の比じゃ無い。ミラージュハイドで隠しておいてよかった。

 

「教官の技・・覚えておいてよかった・・ぐっ」

『損傷度B・・・無茶しましたね』

 

しかし、こっちも無事って訳じゃ無い。

至近距離でガルヴァドスを起動させたのだ。

当然こちらも爆風を受ける事になる。

 

「B(バリア)A(アーマー)で・・よかった」

『そうでないと、今頃跡形もありませんよ』

 

完璧自爆技だわコレ。防御力が高いから出来る芸当だな。

あーもう節々が痛い。

 

「・・・ぐぐぐ」

「まだ・・生きてるのか」

 

しぶとすぎる。

殺傷設定のガルヴァドスを至近距離で喰らわせたのにも関わらずだ。

 

「げひゃひゃひゃ!!」

「・・・ッ・・・」

 

だが、無傷って訳でも無い。

敵は俺と違い、通常のバリアジャケットよりも薄いヤツしか身に付けていないのだ。

 

右腕は根元から吹き飛び、左手もひじから先が無い。

それどころか、わき腹が大きく抉れ、腸の一部がはみ出しかけている。

出血もかなり酷く、放っておいても自滅する事だろう。

 

だが、この時はコイツを殺さなければならないと、俺の本能が警鐘を鳴らしていた。

どう見ても死に体、風が吹いただけで消えてしまいそうな命の火。

コレ以上の攻撃は必要無さそうに見える。

 

「ひゃひ≪ごぽ≫・・げひゃ♪」

「・・・哂ってる?」

『!!?オートプロテクション!!』

 

突然ヴィズが俺を囲むかのように、障壁を展開させていた。

そして衝撃が襲う。見れば足元から複数の杭が伸びている。

ソレらは全て人間を貫くのにちょうどいい大きさで、しかも全て殺傷設定だった。

 

「けけ・・」

≪ヴォン≫

 

そして、血液で水たまりが出来ているにも関わらず、目の前の敵は魔力刃を作り上げる。

先が無くなった、左腕の肘から・・・。

 

「・・・痛覚を外したのか・・・いや、コレは」

 

意図的に外された・・・恐らく以前の『実験体』とおんなじ。

魔導師の兵器化・・・やっぱり、まだ続いてたんだ。

 

「≪ごぷ≫・・まだまだ」

 

一応言語は言えるが、現状認識は出来ない。

爆発で折れてしまった脚を引き摺り、目の前の標的(俺)に対して攻撃しようとしている。

 

どう考えても失敗作・・・いや、この場合死兵として考えれば、これ程の兵はいない。

何せ、コイツの所為で、俺の部隊は全滅だ。

 

「・・ハッ!」

≪ヒュン≫

 

魔力刃が振われるが、ソレはどう考えても先ほどよりもずっと遅い。

身体の損傷がひどく、もう殆ど動かせない様だ。

流れ出る血を止めないので、既に顔は青を通り過ぎて白くなり始めている。

 

「ひひ・・」

≪ヒュン≫

 

俺は出される、もはや斬撃とも呼べない攻撃を避け続ける。

本当なら、止めを刺してやればいい・・・。

部下を殺された・・だがココは戦場・・私怨をはさむなんて・・。

 

「・・・アルアッソーモード」

『・・・了解』

 

俺はマシンガン形態になったヴィズを敵に向ける。

 

 

 

―――――――――――バシュン・・・ドサ。

 

 

 

一発の魔力弾を、心臓に撃ちこんだ。

とたん、糸が切れたマリオネットのように崩れ落ちる。

たった一人で、俺の部隊を壊滅させてくれた男の骸が、静かに転がった。

 

「・・・あっけない」

『マスター・・』

 

たった一人・・・コイツ一人に俺の部隊は全滅させられたって言うのか?

目の前であっけなく死んで転がっているこの男に?

 

「・・・ッ!!」

 

思わず目の前の死体に手を振り上げそうになる。

それをなけなしの理性と自制心で抑え込む。

 

 

こんな・・・こんな。

 

 

「・・・はは」

『・・マスター?』

「アレだけ部下が死んだんだ・・・哀しいんだよ」

 

 

おかしいよなぁ・・・一粒くらい、涙を流してくれよ。俺は人間・・だろ?

 

 

『マスター、生き残りを集めて離脱しなくては・・・』

「わかっている・・・」

 

徐々に強装結界も解除されつつある。

大本の基点は、やはりコイツが動かしていた様だ。

上の方から解除されていってるから、もうしばらくすれば全解除されるだろう。

 

「・・・ジェニス達、反応ある?」

『一応、生きてます』

「そう・・・何人生きてる?」

『全員で四人です』

「よかった」

 

よかった・・俺一人残されなくて・・。

 

***

 

俺はガルヴァドスの所為で、付近に埋まってしまった部下達を掘り起こした。

皆ちょっと疲れてはいるが、あの敵を相手にしたのに、擦り傷程度とは運が良い。

 

「・・・はぁ、隊長?ガルヴァドス使う際は、周りのことをよく見て使ってくださいよ」

「ああ、ええと・・・すまん」

「すまんじゃないです!お陰でこっちは生き埋めだったんですよ!!」

 

生き残り連中は首を揃えて縦に振る。

いやだって―――――

 

「・・・あ、あのタイミングが・・ちょうどよかった」

「ほう?それで私たちごと吹き飛ばしたと?」

「あう・・・ごめんなさい」

 

うう、確かに俺が悪かったような気がするから、強く言えん。

 

「そ、そんなことより、ココから離脱する」

「ええ、何時敵さんの増援が来るか解りませんからね。お前ら、撤収だ!」

「「「了解」」」

 

皆声を出す。仲間が死んだけど、ココでそれを悔やむ事は出来ない。

悔やむだけなら後で出来る。今すべきことは生きて帰る事だから・・・。

俺達は仲間の遺体の回収は後回しにして、この場から去ろうとした。

 

 

 

だが――――

 

 

 

「!!――隊長!!」

「え?!」

≪グシャ――≫

 

 

 

          なにがおきた――――

 

 

 

「「ふ、副長!!」」

「あ、あの野郎!!まだ生きてやがった!!ええい死ね!!」

 

 

 

貫かれた・・ジェニスが?誰に?――――――

 

 

 

「クソ!俺は治癒魔法が使えない!」

「俺もだ・・・隊長!!」

 

 

 

あの敵に?俺が止めを刺し忘れたから?――――――

 

 

 

「隊長!すまん!」

≪バシッ!≫

「!?」

 

なんだ?ほほがいたい・・・?

 

「隊長!アンタしか治癒魔法使えねぇんだよ!しっかりしてくれ!!」

「!!すまない!ヴィズ、リペアパック展開!リペア起動!」

 

ええい、少しばかり放心していたようだ。

くそ、傷が深い・・・。

 

『リペアパック展開!治癒魔法作動開始!!』

 

傷は・・・なんてこった寄りにもよって心臓の近く。

幸い心臓は外れてるけど・・・ココには――――

 

「リンカーコアが・・・」

『ぐ、脳波がどんどんフラットに・・治癒が追い付かない』

 

くそ、リンカーコアも傷つけてる可能性が高いぞ!

おまけに今の治癒魔法だけじゃ回復が追い付かない!・・・だったら。

 

「MTS-40内の残存を全て使え・・」

『ですがソレではマスターの身体に』

「いいから!・・・使うんだ」

『・・・了解』

 

ガシャンという音と共に、残った魔力が全てリペアに回される。

 

「・・・ッ!」

 

途端全身に負荷が掛かる。

まるで大きな岩に乗られているかのような、ジワジワとした苦しみ。

戦闘で酷使されていた俺のリンカーコアが悲鳴を上げている。

 

「隊長!くそ、俺たちじゃ何もできねぇ」

「あいつに止め刺した所為で、もう魔力は空っぽだ」

 

周りの連中が見守る中、俺は負傷してしまったジェニスの傷を癒し続ける。

5分以上かけ傷を塞ごうとしたが、ヤツの魔力残照の影響か傷の直り方が遅い。

 

 

「嘘だ…うそだ…!」

 

 

俺は呼びかける。

 

 

「傷は…浅いんだろう!…おいッ!」

 

 

もうこれ以上、死なせたくない。

 

 

「逝くな!…おい!ふざけるな!・・・目を開けろ!命令だ!」

「隊長揺さぶっちゃダメです!!副長が死んじまいます!!」

 

 

ましてや、目の前で助けられるのに・・・コレ以上死なれてたまるか!!

 

 

 

 

「目を開けろ!ジェニス!!」

「・・・・聞こえてますよ。全くおちおち寝てもいられない」

 

 

 

 

俺は神に祈った事は無いが、この時ばかりは祈ってもいい。

顔をしかめているジェニスを見て、俺はそうおもった。

 

 

 

 


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