【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第五十二章+第五十三章+第五十四章

Side三人称

 

 

さて、久々の登場と・・・ごほん。

とにかく久々の仲間との再開を予期せぬタイミングで果たしたアバリス。

そのブリッジではどんな会話が為されていたかというと―――

 

 

「戦闘準備だ!ガトリングレーザー砲スタンバイ!」

 

「ププロネン隊も発進させろ!装備はB-1!そうだ対艦装備だ!」

 

「エンジン臨界まで20秒、今日もエンジンは絶好調だよ!トーロ艦長」

 

「う~ん。なぜかしら~?さっき一瞬天頂方面のレーダーレンジに揺らぎがあったんだけど~?」

 

「気のせいじゃないのか?」

 

 

―――実は目の前の艦隊がユーリ達である事に気が付いていなかった。

 

元はと言えば彼らがカルバライヤについたのも、別に大層な理由があったとか何てことは無い。彼らが偶々カルバライヤに居たからであった。お仲間探して三千里、一応マゼラニックストリームにまで足を延ばした後、彼らは補給の為に寄ったカルバライヤの宙域に係留していたのだ。そこでいきなりの戦争勃発である。

渡航は制限され、海賊も星間戦争ともなると唐突に息を潜め始める為、貴重な収入源である海賊が中々見つけられないという事態に、とりあえず金を稼げればいいんじゃね?って感じでカルバライヤサイドが募集していた義勇兵に参加したのだ。

 

 彼らは離ればなれになったユーリ達の生存を疑ってはいなかったが、小マゼランの中を探すには色々と費用が嵩んでしまうというのもあり、資金はいくらでも欲しかったのだ。序でにもしユーリ達が生き残り、こちらと同じく探し廻ってくれているのなら、この騒ぎに参加するかもという期待もあった。そしてソレは謀らずとも実現していたのだが、トーロ達はまだソレに気が付いていない。

 ともあれこうしてカルバライヤサイドに参戦したアバリスであったが、ここで予想外な事が起きる。それはどういう訳かネージリンスとのキルレシオがアバリス単艦に対し10隻を超えていたということであった。しかもその中には正規軍でも手を焼くネージリンスの空母が含まれた艦隊を相手にしてである。

 

 何故空母に対応できたのかと言うと、ププロネン隊の活躍が大きい。ププロネン隊はあのグランヘイムとの戦闘の時に、軸線反重力砲の影響で一時的にシステムダウンを起し宇宙空間に放り出された彼らだったが、少ししてなんとか復帰した後ボイドゲートを越えた先にある近隣惑星に停泊していたアバリスに合流出来たのである。

 これが一般の航宙機であるビトンやフィオリアであったならそのまま宇宙の藻屑となって死んでいたかもしれなかったが、ソレもこれも漢の浪漫と科学者の魂を惜しみなく導入したVF-0という機体が短距離ながらも恒星間飛行が可能な設計がなされていた事が彼らの生命をすくったと言えた。こうして彼らはアバリスと合流し、ユーリ達を見つける為に行動を共にしていたのである。

 

またアバリスには簡易ながらもカタパルトが備え付けられている為、VF-0をなんとか収容で来たという事も大きいだろう。アバリスにはユピテルから脱出した整備班の人間が多数乗り込んでいた。それはVF-0というカスタム機を扱うププロネン達にとっては整備のノウハウを持った人間が乗りこんでいるという事と同義である。

VF-0は一応フィオリアが原型となっており、少なからずパーツを流用してあるのだが、やはり見知らぬステーションの整備ドロイドに任せるよりかはキチンと整備できる人間に任せたいというのが宇宙戦闘機パイロットの感情だったのだろう。閑話休題。

 

こうしてカルバライヤ側に付くことになったトーロ達であったが、その戦闘力は同じ遊撃艦隊のフネの中でも群を抜いて高かったということがあげられる。旗艦を退き内装もファクトリーベースという感じに変えられたアバリスであったが、その火力は当時のユピテルとほぼ同じくらいであり、特に何度が改修をうけて連射性が向上したガトリングレーザー砲と船体両側面に取り付けられている固定兵装のリフレクションレーザー砲もマッドの手によって改修を受けてアウトレンジからの砲撃能力が増しているという。

アバリスの元となったバゼルナイツ級の設計元が聞いたら驚きで口が開きっぱなしになりかねない程の大改造を加えられた兵装により、アバリスは今だに前線で活躍できる砲戦能力を持ったフネとなっていた。特にガトリングレーザー砲は様々な固有周波数をもつビームを連射でき、固有周波数に干渉して防御を行うAPFSの干渉枠から外れるビームが装甲に直撃したり、その多様な固有周波数をもつビームによりAPFS制御装置に多大な負荷をかけて自滅させられる光学兵器となっていた。

またこの砲は一発一発の威力こそ小さいが、散布界が広くて命中しやすいガトリングレーザー砲は戦争の様な多数の敵を相手にするのに最適な兵装であり、遠距離で探知出来たなら対空兵装として使用出来る万能兵器であると言えた。超長距離はリフレクションレーザーで、遠距離は艦載機で、中~近距離はガトリングレーザーで固めたアバリスはどの距離でも対応できるマルチロール戦艦と言っても良く、短期決戦にしたいカルバライヤ側にとってはありがたい存在であった。

 

それもこれも元より人員もフネもすくなった当時の艦隊運用の影響なのだが、それが良い方に働いた結果と言える。結果的に単艦での戦闘力が群を抜いて高かった上、もとより大マゼラン製の船体は小マゼランのフネと比べるとウン倍も耐久力が高かった為、指揮経験の少ないトーロの蛮行に耐えられたというのもあるのだろう。

 結果的にそれによって様々な局面において、彼らは有利に戦闘を進められた。まずププロネン隊のVF-0、この機体は可変機能により三形態への変形が可能となっている。速度が一番早いファイター、四肢を得たことによる能動的質量移動姿勢制御システムを活用出来る人型形態バトロイド、両者の中間としてトリッキーな機動が可能になるガウォークの三つだ。

 

 VF隊はこの機能を駆使し、自分たちよりも数が多い敵を相手に互角以上に戦った。この世界にも人型兵器は確かに存在しているのだが、ソレは小マゼラン銀河では普及はおろか知られていない。おまけにマッドの暴走が起したこの奇跡の様な機体は人型のみならず変形してしまえるのである。通常の戦闘機乗りにとって宙戦中にいきなり相手が変形してしまうことほど驚くことはないであろう。事実、この変形機構によって驚愕したパイロットが動きを止めたことから撃墜されると言った事態が多かったのである。

 飛行機が人型に可変するとかないわー、とププロネン隊と交戦したネージリンス側の生き残りのパイロットたちは口ぐちにそう言ったという。当然VF隊の技量が非常に高いと言う点も考慮に入れねばならない。只でさえ航宙機は扱いが難しいのに、それに加えて変形機構である。ソレを乗りこなせるだけでも十分他の所ではエースであると腕前を誇っても良いのである。

 

 そしてガザンのVB-6G、コレもかなり凶悪であった。既存の航宙機よりも大型なその機体には、艦砲と同等のレールキャノンが4連装で収納されているのである。対艦攻撃以外にも弾種を変更する事である程度の対空戦闘もこなせる彼女の機体は、戦場においてその圧倒的火力をもってして敵を蹂躙していった。

 高機動でトリッキーなVF隊が戦場を掻きまわし、それに鉄槌を下すかのような絶対的火力をもつVB-6Gケーニッヒモンスター・ガザン仕様機が様々な弾種を用いて敵をアウトレンジから粉砕するという構図が一度形成されてしまえば、ネージリンス側の戦闘機隊にとってその戦闘宙域が地獄と化す。VB-6Gを落したくてもそれぞれがエース級の腕前を持つ分厚いVF隊の壁を突破できる程の物量はネージリンスも流石に持っていなかった。

 

 

 こうして単艦でありながらも凄まじい打撃力を持つ戦力としてカルバライヤ側に認識されたアバリスは、同じく単艦で成果を上げていた大海賊シルグファーンと組まされて戦争に従事させられる事となった。比較的需要なポイントに戦力を集中して配備し、それ以外はトーロ達の様な少数先鋭の遊撃艦隊に強襲させるというカルバライヤ側の思惑によって編成されたのだった。

 この作戦本部からの通達は、元々海賊狩りを生業としていた白鯨に所属しているアバリス側と無益な殺生は好まないが貨物船を狙う海賊であるシルグファーン側との間に戦慄をもたらしたのであるが、とりあえず酒盛りで親睦会をしてみたところ何故か馬があってしまい意気投合。もとより細かいことは気にしない連中であったからかもしれないが、とりあえず特に何かトラブルを起すことも無く、戦時下での協力体制をとる運びとなったのだった。

 

 尚、シルグファーンはこれまでのカルバライヤへの貢献によって新型戦艦を受領し、トーロ達も少なくない額の金を手に入れている。今回も戦艦が多数撃破されているという情報と、新型艦がその宙域でテストを行っており、ソレを敵から守ってほしいというカルバライヤ軍作戦本部からの連絡を受けた彼らはこの宙域に参上したと言う訳であった。

 

 

「ふーむ、トーロ。今回はちょっと厳しいかもしれないよ」

 

 

 アバリスでは副長兼参謀役を買って出ているイネスが観測機器からのデータを眺めつつトーロにそう進言していた。

 

 

「そりゃどういうことだイネス?何時ものようにププロネン隊で撹乱してやれば・・・」

 

「この間のネージリンス軍の30隻規模艦隊に比べれば少数に見えるけど、この艦隊を構成しているフネは大マゼラン系だという解析結果が出てるんだ」

 

「ゲッ、マジかよ」

 

 

イネスの報告にトーロは苦い顔をする。

これまで連戦出来ていたのはやはりフネや装備の性能差によるところが大きい。 

小マゼランならまだしも、敵は大マゼラン製のフネであると言うことは、同じく元は大マゼラン製のフネであるアバリスにとっても苦戦を強いられるという意味でもあった。

 

 

「でも、艦載機は今の所確認出来ねぇんだろ?」

 

「うん、今のところはね。見た所艦載機の運用設備は無いみたいだし」

 

「おう、なら安心だ。ププロネンさん率いるトランプ隊を戦闘艦が落せる訳が無いからな」

 

「・・・だと、良いんだけどね」

 

 

 イネスはそう言ってデータボードに目を落した。

 

 

(まだ遠目だから良く解らないけど、艦の種類や装備が統一されている。只の0Gでは無さそうだし大マゼラン製だから性能も侮れない。・・・しっかりと敵を見極めなきゃ)

 

 

 統率が取れた艦隊機動を取る敵艦隊を見て、イネスはどこか不安を覚えつつも戦闘に参加する事になる。こうして両者戦闘態勢が整えられていった。

 

 

『おい、小僧。聞こえるか。とりあえずいつも通りに頼むぞ』

 

「おう、艦載機を前に出して俺達はアウトレンジからの砲撃だな。まかせとけ」

 

『・・・気をつけろよ。向うはかなりの手練(てだれ)かも知れんからな』

 

「心配すんな。こちとら白鯨だ。そん所そこらの相手にやられはしねぇさ」

 

 

 これまでよく作戦を共にしてきたからか、シルグファーンとトーロ達の戦い方もある種のセオリーが生まれていた。基本的に20機編隊であるトランプ隊が敵を撹乱して足を止め、シルグファーンとトーロ達が砲撃を加えると言うオーソドックスなスタイルである。

 味方のフネの射界に入らない様にする為に戦闘機パイロットの技量が試されるスタイルであるが、もとよりエース級の腕前を持つトランプ隊にとっては造作も無い戦闘法であり、これによって様々な作戦において勝利を収めてきた彼らにとって一番扱いやすい戦術でもあった。

 

 

「艦長~、敵艦がうごくわ~。駆逐艦を前衛に出すつもりみたい~」

 

「ほう、あちらさんもまた王道で来たな」

 

「ソレだけ戦い方に自信があるのかもしれない。気を付けた方が良いだろう」

 

 

 一方の敵艦隊――この場合はユーリ指揮下のブルゴ司令の無人艦隊であるが――が艦隊を輪形陣を動かして単横陣の陣形を形成していた。これは単純に横一列に並ぶと言う陣形であり、一見すると単純な陣形に見えるかもしれないが、実際は前方の空間に対しそれぞれのフネに射界が重ならない為、戦い安くまた指揮統制の簡略化が容易で様々な戦況に臨機応変に対応出来る利点があった。

 

 

『こちらトランプ隊、発艦準備完了です』

 

「了解、ハッチを開くぜ。トランプ隊はいつも通りにR(レール)G(ガトリング)P(ポッド)を持った機体と対艦ミサイルを持つ機体とでエレメントを組んで戦ってくれ」

 

『了解です。ソレでは失礼します』

 

 

 トーロが攻撃命令を出す。次々と格納庫から飛び出したトランプ隊はそのまま編隊を組んで命令に従い無人艦隊へと突入していく。遅まきに発進したガザンのVB-6GはVFに比べると速力に劣る為、丁度VFの編隊とアバリスとの中間地点に留まり、ココでレールキャノンによる砲撃を行うつもりのようであった。

 

 

『こちらトランプ隊、敵艦を補足、攻撃を開始します!』

 

 

そしてププロネン率いるトランプ隊が敵艦隊を射程にとらえ攻撃しようとしたその瞬間。

 

 

「敵艦発砲!――ッ!?敵艦の兵装はガトリングレーザー砲とHLです!」

 

「「な、なんだってーっ!?」」

 

 

 アバリスのブリッジではオペレーターの報告にイネスとトーロがあんぐりと口をあけて驚愕の声を上げていた。このガトリングレーザー砲とHLは白鯨艦隊の誇るマッド陣営が作り上げたオリジナルの兵器であり、ほかの艦隊が持ち合わせている筈が無い兵装であったからだ。(ちなみにこれらの兵装はケセイヤによって既にパテントを抑えているので勝手に複製も出来ない。)

 

 

「おいおい!あれはウチが独自に持つ武器だろ!?勝手に複製しやがったのか!?」

 

「わからんっ!けど向うがソレを使っているのは確定的に明らかだ!」

 

「ト、トランプ隊通信途絶・・・シグナル消えました。VB-6GもHLの直撃を喰らったようで通信途絶!」

 

 

 オペレーターが悲鳴をあげるように報告してくる。流石の事態にブリッジが静まり返った。トランプ隊が落されるなんて予想外も良いところである。それよりも予想外な事は敵の艦が装備しているあの兵装。

 

 

「くそっ!何処の誰だか知らねぇが勝手に真似するとか汚いぞ!」

 

「・・・ふと思ったんだが、普通にパテント料を払ったんじゃ?」

 

「・・・その手もあったか―――いや!でもそれでもこっちに一言あっても良い筈だ!」

 

「どんな理屈だよソレ!?」

 

 

 Σ(゚Д゚;≡;゚д゚) ブリッジは混乱している。

どういう理由(わけ)で向うがこれらの兵装を用いているのかが判らない。

 おまけに序盤でいきなりのトランプ隊からのシグナルロスト。

艦内の混乱は今だ収まらない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【敵艦載機の機能停止を確認しました】

 

「落した機体にはマーカーをつけておけ。何処に流されるか判らんからな」

 

【アイサー、コマンダー】

 

 

 一方こちらはアバリスと対峙しているヴルゴ艦隊。旗艦であるネビュラス/DC級戦艦リシテアの中では、逐一変化する戦況をCICにてヴルゴが戦術モニターと睨めっこしつつ指示を出していた。

 

 

「予想よりも時間が掛ったな」

 

【こちらの予測を4分39秒上回りました。データの補正が必要の様です】

 

「ふむ。駆逐艦アーケに連中の回収を急がせろ。艦隊はもう少し前に出るぞ」

 

 

 CICにあるモニターにはフネを表す大きめのグリッドの他にかなり小さなグリッドが表示されていた。その小さなグリッドが意味しているのはデブリなどでは無く、先程戦闘を行ったトランプ隊のVF-0達である。無線封鎖をアバリスがしていた所為で此方からの連絡手段が無かったユーリはヴルゴにある命令を下していた。ソレは元々味方であるアバリスやソレに所属しているトランプ隊を破壊しないと言う命令である。

 最初はなんて無茶な命令かと彼は思ったのだが、艦載機については破壊しない方法がデメテールに乗っているサナダからのデータが送られてきた為ソレを実行に移した。ソレは演習レベルの出力にまで抑えた艦砲で撃ち落とすと言ったモノである。艦載機のシール程度だと例え演習レベルの出力でも命中してしまうとシステムダウンを引き起こしてしまう。その現象を利用したのだ。

 

 勿論通常のフネのレーザーや艦砲では宇宙空間を高速で飛来する航宙機を捉えることは難しい。的が小さすぎて当て辛いというのが主な理由である。だが、これまでの戦闘を経て蓄積したデータや改良に改良を加えられたガトリングレーザー砲により、ある程度の距離と砲の数をそろえておくことで対空と呼べるかはあやしいが非常に濃い弾幕を空間に形成出来ることが判っていた。

 計14隻いる無人艦隊を単横陣にしたのも、挟撃を想定して弾幕密度を上げるために火線をある距離で重なる様に計算して配置したからであった。横一列に並んだ事により散布界が広く、また何より弾幕密度が高いという空間を作り出すことに成功したのである。トランプ隊はヴルゴ艦隊がガトリングレーザー砲や簡易式HLを搭載していることを知らなかった為、流石のププロネンもこの攻撃を予測しきれずに弾幕に突っ込んでしまったと言う訳である。

 

まぁ、まさかガトリングレーザー砲を駆逐艦から戦艦まで全てのフネが搭載しており、ソレで濃密な弾幕を形成してくる何て普通は思えない事だろう。むしろソレを予見できたらジェ○イだとかNTだとか俗に言うエスパーなんて呼ばれてしまう。

 

 

【コマンダー、ボギー1が前進を開始。距離を詰めてくるようです】

 

「駆逐艦を下がらせろ。連中の砲撃は精度が高い。無駄に前に出しておけば撃沈される可能性がある。そんなことしたらユーリ艦長から大目玉だ」

 

【アイサー。・・・コマンダー、ボギー2も移動を開始しました。ボギー1と同調するつもりの様です。火線の自動追尾を行いますか?】

 

「必要ない。近づく様なら威嚇して撃沈はするなとの命令だ」

 

【アイサーコマンダー。各艦のビーム出力を対空演習から対艦戦レベルに移行。適度に散布界を狭めた“威嚇射撃”を開始します】

 

 

さてこのヴルゴともう片方の台詞から判る様に、ヴルゴ艦隊の特筆すべき点として、このフネに乗船している人間はヴルゴを含めて僅かに数人しかいないと言うことだろう。現在ヴルゴと会話しているのはこのフネに搭載された準統合統括AIである。ちなみに名前はまだない。本家ユピのコピーであるこの準AI達はそれぞれの無人艦に搭載されており、人材が足りない白鯨においてフネの運用を一手に引き受けている。

対ヒューマンインターフェイスをかなり学習したユピのコピーだけあり、AIに命令を下すヴルゴ司令とのやり取りも非常にスムーズに行うことが出来るようにセットアップされている。まだ経験値が足りないからか若干やり取りに拙さがあるが、それは今後の成長次第であろう。

 

 

【駆逐艦を下げ、巡洋艦を前に出します。敵艦警戒ラインに接触まで10秒、コマンダー、主砲による攻撃の許可を】

 

「発砲を許可する。照準は敵武装及び粒子ダクトなどのバイタルエリアとは関係が無い区画だ」

 

【アイサー、各砲自動照準、データリンク開始、上方に2度修正】

 

 

 上甲板にある二基の連装ホールドキャノンのロックが外れオートで照準が合わせられる。細かな微調整を繰り返し行い、主砲の矛先は完全に標的であるボギー1(シルグファーンのフネ)とボギー2(アバリス)をその射程に捉えた。

 

 

【砲撃を開始します】

 

≪―――ズォォォォォォンッ!!≫

 

 

 連装砲二基から放たれた薄緑色のビームは、ほぼ同時にシルグファーンとトーロのフネを貫いていた。シルグファーンのフネには左舷のブロックにビームが直撃し、APFSで減衰させられたものの貫通力の高いソレはそのままシールドジェネレーターを貫通してしまった。シルグファーンは通常の兵器ではないソレに戦慄を覚え、すぐさまデフレクターの出力を最大に設定すると一時的にアバリスの近くにまで艦を下がらせた。

一方、右舷前方から船体右舷側後方にあるウィングブロックまでを、ほぼ直線状にかすめたビームによって、装甲板を焼かれウィングブロックを貫通されたアバリスは煙を拭きだしつつバランスを崩し、姿勢制御に大わらわであった。ウィングブロックがほぼ丸ごと吹き飛ばされたその衝撃でブリッジに居たトーロ達はコンソールにしこたま顔を叩きつけられた。

 

 

「――ッ・・右舷のガントリーアーム及びウィングブロック大破!強制パージします!」

 

 

 アバリスはダメージコントロールの為に大破したウィングブロックを急いで切り離していた。無人とはいえ補助エンジンが搭載されている区画である。幸いなことにエンジン自体が先の砲撃で消滅している為、誘爆する危険は低いが先の攻撃で崩されたバランスを回復させるのが難しくなるのですぐさまパージしたのだ。機能を失った部分をつけていてもデッドウェイトにしかならないという判断からである。

 

 

「アイタタタ・・・ここまでアバリスがやられたのはエルメッツァ以来だぞ」

 

「まったくだ。これは外れ籤を引かされてしまったようだな。どうする、逃げる?」

 

「・・・逃げられれば、おんの字だろうなぁ」

 

 

 イネスが呟くが実際は逃げられるかも怪しい。航空戦力は最初の一斉射で失ってしまい、反転して逃げたくても補助エンジンを貫かれたアバリスは通常より2割程推力が低下してしまう。ある意味でピンチな状況であった。

 

 

「どうするトーロ?このままだと全滅だ」

 

「・・・仕方ねぇ。俺達はユーリ達と合流するまで全滅する訳にはいかないモンな」

 

「それじゃあ・・・降伏する?」

 

「そうしたいけど、あのおっさんがゆるしてくれるかなぁ?」

 

 

 トーロは自艦の右舷にて、こちらと同じく損傷してガスを噴出させているシルグファーンのフネを恨めしそうに見つめる。実はシルグファーンはネージリンスにかなりの恨みを持っているらしく、カルバライヤ側に付いたのも合法的にネージリンスを攻撃出来ると言う理由からだった。

しかもそれを邪魔する人間に対しても容赦がないという噂もあり、ココで下手に逃げだそうとするともしかしたら背後から撃たれるという懸念があったのだ。だが、その懸念は件のシルグファーンからの通信であっさりと覆される事になる。

 

 

『小僧!聞こえるか!俺のフネはシールドジェネレーターをやられた!一時後退するぞ!ついて来い!』

 

 

 なんと自分から引くと言うことを明言したのである。どうやら噂は所詮噂であり、実際今回相手にしたのも恐らく0Gである事からそれ程執着しなかっ――

 

 

『――覚えていろよ。ネージリンスを叩くのを邪魔するヤツは絶対に叩き潰してやるッ』

 

 

―――前言撤回、やはりかなり恨みを持っている。それも通信越しで判る程に。

 

 

「シルグファーン、こっちは補助エンジンをやられた。時間を稼ぐからその間に撤退してくれ」

 

『何っ!?―――すまん小僧!』

 

「え?そこは普通俺も残るとか・・」

 

『俺はこんな所ではてる訳にいかない!ネージリンスの連中に地獄を見せなければッ』

 

「あ、あ~、そうだなー。そっちはソレが目的だったよなぁ」

 

 

 トーロは通信越しに伝わるシルグファーンの執念に何処か辟易しながらも適当に答える。なまじ恨みから復讐心をたぎらせた人間というのは同じく復讐心を持つ人間でも無い限り理解出来ない。

 

 

「ま、こっちは時間稼ぎしたら適当なところで降伏でも何でもするさ」

 

 

 そう言うとシルグファーンは何とも言えない表情になった。ソレはまるで生贄を見るかの様な表情であり、トーロをすこし苛立たせたが、彼はそれを顔には出さずに通信を続けた。

 

 

「とにかく、とっとと後退してくれ。じゃねぇと持たねぇぞ」

 

『・・・すまん』

 

 

 シルグファーンは本当に悔しそうに顔を顰めて通信を切った。そして彼のフネは反転すると全速力で宙域を離脱していく。ある意味トーロ達にとってそれはありがたいことだった。一応敵はネージリンス正規軍ではなく只の0Gの様であるし、同じ0Gであるこっちが降伏すればそれ以上攻撃はして来ないだろう。

 勿論撃沈してこようとするのであれば全力で抵抗するし、そうなるのは相手も好まない筈だ。主にソレに掛かる手間ともしも損傷した際の修理費などの関係で・・・。

 

 

「イネス。無線封鎖を解いて向うに通信を入れてくれ。俺達は降伏するってな」

 

「ああ、判った」

 

 

 シルグファーンも逃げたし、さっさと降伏してしまおう。ユーリ達と合流したいが、命あってのものダネだ。そんな空気がブリッジに漂っていた。最悪生きていれば無効と合流できるけど、死んでしまえばそれで終わりなのだから、ドライな考えながらも合理的と呼べるかもしれない。ここら辺の切り替えが早いヤツは0Gにおいても死ににくいのである。

 

 

「さて――コホン。・・・こちら白鯨所属の戦艦アバリス、僕たちはそちらに降伏する」

 

 

イネスが通信を送り音声だけの返信で降伏を受諾された彼らはすぐに武装を解除した。

アレだけの力を持つ連中に逆らうのも気が引ける。誰だって死にたくは無い。

それぞれ、これからどうなるのかという不安に思う空気がクルー達に蔓延していく。

 

 

 

しかし、ソレもすぐに霧散する事になる事だろう。

 

 

 

アバリスの隣にステルスを解除したデメテールが現れて接舷するまで――後120秒。

 

 

 

***

 

 

Sideトーロ

 

 

「なぁイネス?」

 

「なんだい艦長どの」

 

「さっきまでこんな所に壁なんてあったか?」

 

「艦長、宇宙に壁なんて無いさ。だけど見えている全てが現実さ」

 

「ぜ、全長~36km~!?なにこれ~!?」

 

 

俺は夢を見ているのだろうか?もしそうなら悪夢と言っても良いんじゃないか?

今、降参して停船しているアバリスのすぐ隣に突如として巨大な船が現れたのである。

サナダさんによってセンサー類も強化されていた筈のアバリスでも見抜けない程のステルス艦が、しかもこれ程の巨大艦がすぐ近くに居たなんて・・・。

 

 

「は、はは・・・なんだよ。俺達は最初からシャカの掌の上だったのかよ・・・」

 

 

ブリッジの誰かがそう漏らした後、ブリッジの中はとても静かになった。

というかシャカって誰だ?と思わず現実逃避を起してしまいそうになり、すぐに頭を振った。

指揮官を任されているモノが真っ先に混乱してどうすりゅよ落ちちゅけ俺。

そう深呼吸~深呼吸~・・・・こんな時ユーリだったら・・・。

 

 

『はは!Be Koolさ!Be Kool!!兎に角素数を数えるんだ。素数は孤独な数字、僕に勇気を与えてくれる・・・1って素数だっけ?』

 

 

・・・・ダメだ、参考になりゃしねぇ。と言うかまずはお前が落ちつけ。

記憶の中のユーリは頼りにならない事を実感してしまい更に落ち込んだぜ。

そうこうしているウチにアバリスは何時の間にかこの巨大艦の出したトラクタービームに捕らわれていた。

こっちは機関の火を落した為、すぐには動けないから相手にされるがまま。

そして誘導された大きなハッチの中にアバリスがまるで巨大な生物に食われるかのように入っていくのを見て、絶望が俺達に広がった。

全く、とんだ相手にケンカを売ったもんだぜ。

 

ハッチから中に入ったアバリスはそのままトラクタービームに牽引され奥へ奥へと進んだ。

俺達アバリスのクルーは何時向うが気まぐれを起してアバリスをぶっ壊すのではと内心ビクビクしていた。

そしてようやく進むのが止まり、アバリスは六角形状の空間にてガントリーアームに捕らわれて停泊した。

両サイドの壁から乗り入れ用の空間チューブが伸びてくるのを見て、ああもうすぐ臭い飯を食う生活に入るんだろうなぁと思ったモンだ。

 

 

「艦長、向うから通信が入ってます」

 

「大方とっとと出てこいの催促だろう?・・・出たくねぇなぁ」

 

「もうココは敵の腹の中だ。じたばたしても始まらないよトーロ」

 

「けどよぉ。このまま降伏とか癪じゃない?」

 

 

アバリスは負けた。そいつは判っちゃいる。

だけどせっかくここまで仲間を探して来たと言うのに、ここで負けを認めるのがなんだかユーリ達を裏切るんじゃないかと思えてしまってならなかった。

だが、イネスはやれやれと溜息をつくと何時ものように冷静に返してきた。

 

 

「なら自爆とかでもするかい?エンジンをオーバーロードでもさせればすぐさ」

 

「おお!何か一矢報いたっぽいなそれ!」

 

「だけど態々自分たちのフネの中に入れたって事は、ココはそう言う事も想定した空間何だろうさ。案外自爆しても被害は無いかもね」

 

「・・・あげといて落すなよ」

 

「またまた、自爆する気なんてないんだろ?」

 

「ま、そうなんだけどな」

 

 

そりゃそうだ。死にたくないしな。ユーリ達と合流してないのに死ねるかってんだ。

こうなりゃままよ。臭い飯でもなんでも来やがれってんだ!

・・・銃殺だけは簡便な!

 

 

「向うと通信を繋いでくれ!さぁ潔く行こうじゃねぇか!」

 

「では回線を繋ぎます」

 

 

そして俺は覚悟を決めて、向うと通信回線を繋ぐ様に指示を出した。

潔く降伏してやろうじゃないか!・・・そう思っていた俺であったが―――

 

 

『う~すっ!久しぶりトーロ!』

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」×アバリスブリッジクルー

 

『あ、あれ?なにこの沈黙「なにぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!??!!!??!?!」うわっうるせ』

 

 

俺達は一斉に大声で絶叫していた。

何故なら通信回線に映し出されたのは、俺達の仲間である懐かしのユーリの姿だったのだから。

・・・・・・だ、だれか胃薬を頼む、もう俺ダメだぁ・・・ガクッ。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

「あるぇ~?なんであんなに驚いてるんスか?」

 

「そりゃアンタ、今まで戦ってた相手が味方だったとか判ったら驚くだろ?」

 

「いやてっきりヴルゴさんが伝えてるもんだとばかり思ってたッス」

 

 

そう話題を振ると、別の空間パネルに映っていたヴルゴは首を振った。

 

 

『いえ、伝えておりませんぞ?』

 

「え?!そう何スか?!」

 

『私は元々敵であった訳ですし、気を利かせたのですが・・・』

 

 

どうやらヴルゴ司令のご配慮があった御様子。

ま、まぁ結果的にスゲェサプライズ決められたから良いんだヨ!グリーンだヨ!

 

 

「艦長、トリップ中に申し訳ないのですがそろそろ戻ってください」

 

「・・・ハッ!また脳みそが違う世界に!」

 

「ハイハイ~、いい加減真面目に行くよー」

 

 

わ、判りました、真面目に行きます。だからハンマー降ろしてトスカ姐さん。

兎に角、復活した俺は通信でトーロ達に外に出てくるように指示を出した。

向うも余りの事態に困惑して空気が凍りついていたからか、こちらの指示ににべもなく従って下船準備を始めた。

 

 

「ほいじゃ、迎えに行くッス」

 

「お供します艦長」

 

「私も行くよ」

 

 

こちらも迎えに行くと言う事になりトスカ姐さんとユピ、更にはブリッジクルー達の殆どが出迎えに行くと言い出した。

流石に全員でいってブリッジを開ける訳にもいかないので困ってしまったが、その時にミドリさんだけはクールに自分は残ると言って辞退していた。

後でどうせ会えるのだし、すぐに行かなくても問題無いんだそうだ。う~んクール。

 

そんな訳で俺達はアバリスと繋がっているチューブがある部屋へと向かった。

こちらも移動に手間取ったのだが、向うもこのサプライズの混乱から抜け切っていなかったらしく、準備に手間取ったのだろう。

丁度俺達が着いた時、アバリスの主要クルー達が降りて来るところだった。

 

 

「オッス!久しぶりッス!トーロ!イネス!」

 

「久しぶりだなユーリ!元気してたかって聞く必要もねぇな!」

 

「久しぶり艦長・・・若干やつれてないかい?」

 

 

トーロはすぐさま順応し、イネスも相変わらずズレた眼鏡を直しながらも冷静な感じで返事を返してきた。

ああ、懐かしきこの空気。仲間と合流出来たってのはいいねぇ。

 

 

「はは、ここまで来るのに苦労の連続だったッスからねぇ~。そう言う二人も疲れた顔してるじゃないッスか」

 

「だって・・・なぁ?」

 

「こんなフネを見せつけられたら誰だってこうなるよ」

 

 

デメテールを見た時の驚きが許容のメーターをぶっちぎったと彼らは言う。

どうりで苦笑の様な変な笑いをしていると思ったぜ。

 

 

「どこでこんなフネを?」

 

「いやぁ、語るとすっごく長くなるんスけど――拾ったッス」

 

「「短っ!?」」

 

 

だって実際そうだし。そう答えたら凄まじく呆れられてしまった。

冗談だろうと聞かれたけど純然たる事実なのでそれ以外に言い様も無い。

 

 

「ユーリは前から変なヤツだと思っていたが・・・」

 

「ああ、コレで艦長は変人から変態へランクアップだな。おめでとう」

 

「酷!二人とも酷いッス!・・・まぁソレは兎も角、お帰り二人とも」

 

「「ただいまだ(ぜ)」」

 

 

そして俺達は再開を祝して肩を抱き合ったのだった。

さて、他にも顔見知り達がいたのでとりあえずお疲れの二人と別れて再開の言葉を交わすしていると何やらゾクッとした何かを感じた。

悪寒ではないが、なんだろう?すごく覚えのある様な気h―――

 

 

「―――ユーーーーーーーリィーーーーーーー!!!!!!!!!!」

 

≪グワシ!≫

 

「ヒデブッ!?」

 

 

その時、ユーリに電流走る。

では無く、腰の周辺に下手したら大ダメージを与えかねない程の衝撃が襲い掛かった。

そして腹の方は万力の如き力で締めあげられていくので息が出来ない。

何が起きたと後ろを見ると、そこには懐かしき緑色の髪の毛が―――

 

 

「ちぇ、ちぇる・・しー・・ぎ、ギブ・・」

 

「うわーんっ!沢山探して回ったんだよぉ!ゆーりぃー!!!」

 

「そ、そこしめたららめぇ~!!!」

 

「チェルシー、再開して嬉しいのはいいがそこまでにしときな。死んじまうよ」

 

「そ、そうです!艦長をはなしてくだしゃい!あう・・・噛んじゃった」

 

 

危うく先程食べた飯と前日に食べた飯が上と下両方から出て劇的な再開を果たす直前に、トスカ姐さんとユピがこの状況を見て止めてくれた。

お陰でなんとか解放されたので事なきを得たが、あと一歩遅かったと思うと絶句モンだぜ。

後ユピ、可愛いぞ、GJ

 

 

「ご、ごめんねユーリ!久しぶりに会えたのがうれしくて」

 

「こ、今度から気をつければ良いと思うよ?」

 

「う、うん。本当にゴメンね?」

 

 

うぐ、そうシュンとされると沸々と罪悪感が・・・。

なんだかんだでチェルシーは美人だから、こういった時悪いのは俺になるのかよ。

美人は得だネ!そして俺は大ダメージだネ!

 

 

「でもホントよく再開出来たと思う。コレもちゃんと探しまわっていた成果かな?」

 

「そう何スか。こっちも探してたんスけど、今まで生き残るに必死で中々ねぇ~・・・」

 

 

ふと此処まで来るまでの道のりを考えて眼頭が熱くなる。

ヴァランタインと交戦した挙句になんとか生き残ったのはいいが宇宙を漂流した。

そして偶然にもこの遺跡船であるデメテールを発見出来たのだ。

とはいえ遺跡だったから足りないモノだらけで色々と使えるようになるまでに苦労したっけ。

 

特に書類整理がなぁ・・・殺人的な量だったもんなぁ。

マゼラニックストリームで専門家をを見つけられたのは僥倖―――

 

 

―――とんとん。

 

 

うん?なんだ?

 

 

「ねぇねぇユーリ。さっきさ。ちょっとおかしなことが聞えた様な気がするんだけど・・」

 

「おかしなことッスか?」

 

「うん。私たちは必死でそっちを探してたんだけどさ。ユーリ達はアバリスを探さなかったの?」

 

「いやー、物事には順序ってのがあってですねぇ」

 

「嘘だっ!」

 

「ばっさり切り捨てられた?!」

 

 

あ、あれ?なんかチェルシーのようすが・・・・

 

 

「私たちが必死で探したのに、そっちは能天気に・・・ダメだよね?ソレってダメだよね?ね?」

 

「お、落ちつけッス。マジでモチツケ・・・じゃなくて落ちつけ≪――ジャカ≫って何処から出したそのごっつい拳銃!!??」

 

「これぇ?これはねぇ?カルバライヤに寄った時に偶々手にれた古い銃なんだぁ」

 

 

ワーニン!ワーニン!チェルシーは黒様化した!

ユーリへの攻撃力が無限大に!スキル暗黒の気配発動により相手をスタンさせるぞ!

 

―――って今そんな電波いらねぇッスーー!!!

 

 

「む!あの銃は!」

 

「知っているのかストール!」

 

「アレはF98 ガウスガンだ。半世紀以上前に生産停止になった筈の絶版が何故!?」

 

 

ご解説ありがとう!だけど俺の寿命がマッハでピンチ!誰かボスケテ!

 

 

「ねぇユーリィ?すこし・・・お仕置きしようか?」

 

 

止めてください!というかなんで某魔王さんの「頭冷やそうか」みたく言うんですか!

まじでガクブルが止まらない俺を無視し、彼女は俺にその銃口を―――

 

 

「き、緊急回避ッス!」

 

「な!艦長なにを――≪ズガーン!≫クぺッ!?」

 

「さ、サナダさ~ん!だ、だれがこんな酷いことを!」

 

「「「お前が盾にしたんだろうが!」」」

 

「アレ?弾入れ忘れて一発しか入って無いや。とって来なきゃ」

 

「か、艦長・・・あ、あの銃は、どうやら暴徒鎮圧レベルにされている様だ・・・だから撃たれても・・・安心――ガクッ」

 

 

カオスが巻き起こった。既に黒様として覚醒を果たしている彼女は誰にも止められない。

つーか普通はフネの中で銃撃騒ぎがあれば大変な事態だから保安部が出てくるはずだ。

そして当然のことながらすぐに保安部が駆けつけ―――

 

 

「全員動くなぁ!騒ぎを起したヤツを逮捕する!大人しく縛につけぇい!」

 

 

―――コレで大丈夫なのかと思ったのだが・・・甘かった。

 

 

≪ズガガガガガガン!!≫

 

「ぬうぉぉぉぉぉぉぉッ!!あ、あぶねぇ!!??」

 

「た、隊長ぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

「あ、これ連射も効くんだ。後、次に邪魔したらどうなるか・・・解るよね?」

 

「ハッ!了解いたしました!!」

 

「うふ、うふふふふふ」

 

 

チェルシーは躊躇なく撃ちました。幸いに誰にも当たってはいない。

いや、ワザとギリギリの辺りを撃ったらしい。つーか怖ぇよ!目が座ってるよ!

 

 

「か、艦長!なんとかしろ!」

 

「お、俺にはムリッス~!!!」

 

 

クルーが怖さに耐えきれずに俺にそう叫んだが、俺だって怖すぎて立ち向かえない。

だから思いっきり未来へと前進する事にした。

 

 

「せ、戦術的撤退ッス~~~!!!」

 

「「「「ば、ばか!こっちくんな!ぎゃーーー!!」」」」

 

「にがさないよぉ!ゆーりぃ!!」

 

「き、きぃやぁぁぁぁ!!!ヴァランタインよりも怖いッス~~~!!!」

 

 

そして俺対義妹の【ドキ☆実弾だらけの追跡劇!巻き込みもあるよ!】がスタートしたのだった。

 

 

「ユピ、助けないのかい?」

 

「う、う~ん。艦長を助けたいのは山々何ですけど・・えと色々と仕事がありマシて」

 

「そうだネ。アタシ等には仕事があるからね。一緒にやろうか?」

 

「あ、お願いしまーす」

 

 

そして賢い副長とAIはとっとと逃げだしていたのであった。

どうなる!どうなるの俺!続きはウェブで!!!

 

 

Sideout

 

 

 

***

 

 

Sideナージャ・ミユ

 

 

この要塞戦艦デメテールが宇宙の海に再び漕ぎだしてから早数カ月。

ようやく我々の仲間のアバリスと合流する事に成功したのが、今からおよそ1時間前だ。

コレはある意味とても喜ばしいことであり、特にアバリスと別れる前から白鯨に所属している古参クルー達はそれぞれが喜びを露わにしていた。

当然のことながら宴会の準備が部署という垣根を越えて準備中である。

大居住区の中心に大櫓を立ててほぼ全部のクルーが集まる宴会・・・もはや祭りだな。

再開記念の祭りを行うらしく、その陣頭指揮を整備班の長でありこう言った事が大好きなケセイヤが取り仕切っている。

私は彼が色々とヤル事に勘付き、いち早く自分の研究棟に避難した訳だが、彼の近くに居たクルー達は災難だ。今頃祭りの準備の為にこき使われているところだろう。

根っからの研究者である私はそれ程体力がある訳ではない。

祭りは嫌いでは無いが、出来れば準備が完了してから読んで欲しいのが本音だ。

手伝うのが面倒臭いと言う訳ではない。体力が無い身体だから仕方ないのだ。本当だ。

 

 

「・・・ふん、さてさて」

 

 

私は分析に掛けている希土類(レアアース)のを眺めながら、これを如何し様か考えている。

このフネは大きい、故に様々なデブリとよく接触する訳だが、そのデブリや小惑星を回収して資源に当てているのだ。

そして今分析を終えたのもその例に入る。分析をしていたのはボール大の氷だ。

偶に只の氷塊が取れる事があり、所詮氷と思う素人はがっかりする様だが私は違う。

鉱物を専門にしている私にとって、宇宙に漂う氷には大抵の場合少量ながらも希少な鉱物が入り込んでいる事を知っているのだ。

 

氷・・・か。そう言えば私は前の職場では氷の女とか呼ばれていた。

私が持つ雰囲気、態度、感情のあり方、そのすべてが冷たい氷を連想させたらしい。

ソレもこれも自分の興味が無い事には全くと言っていいほど関心を示さない態度の所為だろう。

とはいえ、こればっかりは己の性質なのだから変更が効かない。

私をそんな気にさせる世界が悪いのだと小さな頃に既に諦めていたと言うのもある。

ある意味で恥ずかしい事を幼いころは平気で考えていたモノだ。

今それを口に出せたら赤面出来る自信がある。

 

そう、赤面。今では私は感情を表にある程度だせるのだ。

昔の同僚が見たらどんな表情をするか考えると自然に口がつり上がるのを感じる。

きっと唖然とした表情で「嘘だっ!」と叫ぶ事だろう。ある意味失礼なことだが。

 

 

≪―――ドドーン・・・≫

 

「ん?ケセイヤめ。花火を使う気か?」

 

 

遠くで爆発音が聞こえた。恐らくは祭り用の花火だろう。

全く騒がしい、だが嫌いでは無いと思う自分がいる。

人は環境に合わせて変わるというが、この私も人類のはしくれであったようだ。

ま、精々楽しませてもらう事にしよう。

 

 

≪―――ドドーン・・・≫

 

「・・・・」

 

≪――ドドドドーーーンッ≫

 

「・・・・」

 

≪――ドガンッ!ズガガガガガンッ!!ひゅるるるる・・・ドババババンッ!!!!≫

 

 

・・・・まて、花火にしては物々し過ぎるし音がおかしい。

花火保管庫を間違えて爆破してしまったのだろうか?あの男なら有り得る話だ。

だが直接的な被害はなさそうだ。そう思い研究に戻ろうとした、その時――

 

 

≪カシュー≫

 

「ちょっ!ミユさん!かくまって!!」

 

「え!?な!!?」

 

 

いきなりドアが開いたかと思えば、焦った様な少年が飛びこんできた。

いきなり過ぎた為か私は唖然として動きを止めてしまう。

 

 

「ど、どうした少年?そんなに慌てて」

 

 

くっ、動揺が強かったからか少し口が回らん。

 

 

「何でも良いッスから匿っ・・不味いッス!ミユさんこっち!」

 

「あ!ちょっ少年!?」

 

 

私は腕を彼に引かれるがままに、そのまま何時もなら解析待ちの素材が放り込んであるロッカーに入れられてしまった。

なんと間が悪い事に丁度氷の分析を終えて、ロッカーに入れておいた鉱石を取り出し解析中だった為、ロッカーの中には何も入っていなかった。

その所為であれよあれよというまに少年に引きずられ共にロッカーに閉じ込められる私。

あまりにいきなりであった為、私は今だ混乱している。

 

 

「少年、いきなりこれは―――ムグっ」

 

「(し、しー!静かにするッス!死にたいんスか!)」

 

 

い、いきなり口を手で覆われて喋れなくされてしまう。

只でさえ狭いロッカーに人間が2人も入り、体は密着状態だ・・・密着?

 

 

「―――ッ!!!???」

 

「(ちょっ!マジで静かにしてくれッス!!)」

 

 

いやそれどころではないのだよ。シンパクスウガジョウショウシテイル。

か、顔が火照るのが判る・・・。

あ、生憎私は研究一筋であったからこういうのは知らないんだッ

 

 

「む、むーっ」

 

「(し、しーっ!!き、来たッス)」

 

 

何が来たと言うのだろうか?そう思い耳を澄ませてみると・・・。

 

 

 

 

――――カツン、カツン、カツン・・・。

 

 

 

 

小さいながらも良く響く足音が、此方へと近づいてくる音が聞こえた。

 

 

 

 

――――カツン、カツン、カツ・・・。

 

 

 

 

やがてその音が突然止まる。何故だ?何故こんなにも心臓が痛いのだ。

その理解できない何かに私が困惑していると、突然私の研究室の戸が開く。

 

 

 

 

「ゆーりぃ??ここぉ??」

 

 

 

 

・・・・正直に言おう。

この時ほど恐ろしい体験は私が今まで生きてきた中では無かった。

どこか猫を撫でる時の様な甘い声なのに、背筋が凍りつきそうな程に身体が寒い。

だと言うのに額から汗が止まらないのだ。背中まで汗が噴き出している。

コレが冷や汗だと言うことに私が気が付くのに、それほど時間はかからなかった。

 

 

「あれぇ?おっかしいなぁ?確かにこっちに来たんだけど?」

 

 

ロッカーにあるほんの僅かな隙間から、外の光景が入ってくる。

緑色の髪をした少女がキョロキョロ辺りを見回している光景が目に入った。

だが、その視界にはもう一つあるモノが浮かんでいた。

ソレは彼女の手に握られている鈍い金属の光りを放つソレ。

旧式であるがその分威力は高いと噂で聞いた事があるソレ。

ソレは、ガウスガンと呼ばれる小型の電磁投射銃の一種であった。

簡単に言えば強力な電磁力で磁性体の弾丸を発射する銃である。

威力は非常に高く、電圧さえあれば鉄板程度軽く貫通出来る威力がある。

だが外壁に穴が開く事がタブーである宇宙船では非常にナンセンスな武器である。

その為、半世紀前には既に使われなくなったと聞いた事があったが・・・。

 

 

「おっかしぃなぁ。どこいっちゃったのかし、らッ!」

 

≪ドガンッ!!≫

 

「「――ッ!!」」

 

 

彼女が思いっきり手をロッカーに叩きつけた。

思わず声を出しそうになったが、生憎私の口は少年の手で塞がれており声を出せない。

だが、この時はそれに感謝した。どう考えてもアレは普通じゃない。

どうも彼女はこの少年を探している様だが、一体何があったと言うのだろうか?

すこしして此処にはいないと判断したのか彼女は研究室から出て行った。

足音が遠ざかり、やがて聞こえなくなるまで私は少年と共にロッカーの中に・・・。

 

 

≪――バンッ!!≫

 

「ぷはっ!」

 

「ひ~んっ怖かったッス~」

 

 

慌ててロッカーから飛び出した私の耳に入ったのはそんな情けない声。

だが、何だと言うのだろうか?私の動悸が止まらない。

コレは・・・そう、きっとあの少女に恐怖を感じたからだろう。

よくわからないがきっとそうなのだ。うう、冷静にならねば・・・深呼吸。

 

 

「ふぅ~・・・で、説明して貰えるのだろうな?少年」

 

「いや、巻き込んですまんこってす」

 

 

全くだ。今まさに目の前で土下座をしている少年を恨めしく睨みながらそう思う。

 

 

「本当に何があった?彼女があんな状態になるなんて、少年、君は一体何をしたのだね?」

 

「うぐ、俺が悪い前提ッスか?」

 

「そうとしか考えられんだろう?それとも身に覚えが全く無いとでも?」

 

「そう言われると辛いッス」

 

 

ポリポリと後頭部を掻いている少年・・・このフネの総司令たる若き艦長。

ユーリの姿を眺めながら私は溜息を吐いていた。

 

 

「ちなみに何をしたんだ?三行で頼む」

 

「再開した。ふと探すの忘れてたと伝えた。ああなった」

 

「・・・一言で事足りたな」

 

「ですよねー」

 

「つまり、いままで彼女たちは必死に此方を探していたのに、こっちはそれ程でも無かった事にチェルシーは激怒したと言うことだな?」

 

「いや、別に忘れていた訳じゃ・・・」

 

「本当に?」

 

「・・・すんません。艦長の仕事が忙しすぎて中々そっちに手を回せませんでした」

 

 

そう言って私に本日二度目の土下座を披露するこのフネの総司令の少年。

まぁ確かに彼の言いたいことは理解できる。

我々が此処まで来るのに彼がどれだけ尽力していたか私たちは知っているのだ。

居なくなった人員の分まで眠らずに仕事を行い、それでいて戦闘指揮やフネの運航まで手を出していた。

サドにワーカーホリックじゃのうと言われても栄養剤片手に頑張り続けたのだ。

よく此処まで倒れなかったと思う。見た目に寄らずかなり頑丈な身体なのだろう。

一度解剖してみたいものだ。医学的に。ソレはさて置き。

 

 

「どうする?さっきの騒音も恐らく彼女の仕業なのだろう?」

 

「まさかいきなり銃取り出して撃ってくるとは思わなかったッス」

 

「・・・良く誰も死んで無いな」

 

「ああ見えてまだ理性は残ってるッス。撃ってる弾は暴徒鎮圧レベルにまで電圧を落してると弾の直撃を受けて気絶する寸前にサナダさんがそう言ってました」

 

「むしろよくそこまで説明できたな」

 

 

流石はサナダ、その執念には感服出来る。だが馬鹿だろうお前。

 

 

「でも黒様化しちまったッスから、しばらくは逃げ回らないと不味いッス。少なくても俺の姿を見なければ撃たないみたいッスから」

 

「(・・・黒様?)そうか、まぁ兎に角、あまり被害を出さない様にな。ケセイヤの負担が増えてヤツがストレスの所為で変な研究に走られても困る」

 

「うわ、確かにソレは勘弁ッス・・・コレ以上書類とか増えたら誰か殺しかねない」

 

「そう言った独裁者の元に居る気は無いからな?気をつけろ少年」

 

 

まぁ、研究できるスペースと資金さえくれれば実の所誰でもいい。

でもこの少年にだけはそう言った歪んだ人間になって欲しく無かったのかもしれない。

・・・って何を言っているんだ私は・・・。

 

 

「独裁者・・・意外といい響き・・・」

 

「恍惚の顔がとても気持ち悪いぞ?」

 

「ガガーン!ティウン、ティウン、ティウン――パタ」

 

「立て」

 

「イエッサー!」

 

 

ガバッちょと起きあがる少年に思わず顔が綻んだ。

ホントに彼と居ると退屈と言う言葉が無い。

 

 

「とにかく、そのチェルシーが元に戻るまで逃げ続けろ。あと被害は出すなよ」

 

「判ってるッス。俺帰ったら皆とお祭りするッス」

 

「お、おい待て、それは―――」

 

「それじゃあバイならッス~」

 

 

なんとなく彼の最後に言った言葉に不吉なモノを覚えたのだが、彼はそのまま研究棟を出て行った。まぁ引きとめても仕方ないし、死にはしないだろう。異常かもしれないがコレがこのフネでは日常なのだから。

 

 

 

 

 

「みぃーつけたっ!」

 

「「「「「「「「「「見つけたぞ!艦長ッ!!大人しく縛につけい!!!」」」」」」」」」」

 

「ゲぇッ!チェルシー!しまった!これはチェルシーの罠ッスか!?」

 

 

―――そしてしばらくして、遠くの方から大きな爆音が聞こえたのは言うまでも無い。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

俺がチェルシーに粛清された後、お祭り騒ぎは三日三晩続いた。

ちなみにチェルシーだが、俺を粛清した後は非常にすっきりとして仲間の輪に加わり酒を飲んでいる。

トーロ曰くこの手の暴走は結構あったらしく、彼が何処か遠い目をしていたのに涙した。

というか、チェルシーの暴走が起こるたびに彼の胃薬の消費量がハネ上がったとか・・。

うん、もう同志と呼んでも良いかもしれない。主に胃薬関係の。

いやホント最近のトーロは不運続きだと思う。

今回こんな事態になる時だって暴走したチェルシーの凶弾に真っ先にやられてたもんな。

でもすぐにティータに看病されてたし、ある意味役得じゃね?

・・・そう思ったら何故か手元に藁人形と釘がある。どうしようコレ?

とりあえず俺は他の皆を盾にして逃げ回った訳だが、それで怒りを買ったらしく、何故か他の連中もチェルシー側に回り追い詰められた。

最終的にはかなりの人間が追いかけてきたので、少々怖かった。

ちなみにどれくらいかと言うとこんな風に見えた位↓

 

((;;;;゜;;:::(;;:    井'';:;;;):;:::))゜))  ::)))

  (((; ;;:: ;:::;;⊂( ゜ω゜ )  ;:;;;,,))...)))))) ::::)

   ((;;;:;;;:,,,." ヽ ⊂ ) ;:;;))):...,),)):;:::::))))

     ("((;:;;;  (⌒) |どどどどど・・・・・

             三 `J

 

ソレはともかく、細かいことは気にしない質とはいえ、流石にチェルシーのアレにすら動揺しないとかウチのクルーはどんだけ肝が据わってるんだろうか?

まぁこの程度に驚いていたら、大海賊ヴァランタインと対決した際にスタコラサッサと勝手に逃げだしているだろう。

改めて人材集めの時にトスカ姐さんが選んでくれていてよかったと思う。

ただお陰で酒の消費量が非常に高いが・・・その程度許容範囲だろう。

もうすぐ酒造プラントも稼働するらしいし、少しは酒の消費量も抑えられるだろうさ。

ちなみに酒造プラントについて俺が知ったのはつい先日の事で、直前まで全然知らなかったことを此処に記しておく。

俺はハンコを押したダケ・・・ちょっち寂しい。

 

 

「艦長、久しぶりだネ」

 

「教授も息災のようで」

 

「なぁ~に今更そんなカタッ苦しい言葉を使ってるのかネ」

 

「ソレもソッスね」

 

 

さて、現在俺の前には漸く合流を果たしたジェロウ教授が立っていた。

再開してすぐで恐縮だったが、あの新造艦の調査を依頼したのである。

でも彼は嬉々として調査を行ってくれた辺り流石はマッドだと思う。

 

 

「あのフネはかなり強力なデフレクターユニットを搭載しておったよ。あのサイズじゃジェネレーター出力はほとんど喰われてしまっとっただろネ」

 

「成程、そんで見た目より反撃が弱くて硬かったと・・・」

 

 

あのアンノウン艦の名称は向うではゼーガ級という銘を与えられているらしい。

ちなみにネームシップだから一番艦だ。

 

 

「ウン、しかしあれじゃ、戦闘艦としてバランスが悪すぎる。一体何のつもりなのか・・・」

 

「第一線に出して艦隊の盾にするとかじゃないッスか?」

 

「それだったらあんな戦艦の形は要らないヨ。もっと盾としてふさわしい形状にする筈だ」

 

 

言われてみればそうかもしれない。

う~ん、だとすれば連中は何を思ってあんなフネを作ったんだ?

そう言えば教授たちはカルバライヤ側に味方してたんだよな?何か知らないの?

 

 

「カルバライヤに味方していたと言っても、飽く迄も義勇軍というか傭兵だったヨ。それに研究と関係無いことだったから興味なかったからよくわからないネ」

 

「そっスかぁ・・・この分じゃトーロ達も・・・」

 

「多分知らないだろう。新造艦の機密情報を一介の0Gに教えるなんて酔狂を正規軍がする訳が無いヨ」

 

「・・・使えねぇの」

 

「何かいったかネ?」

 

「いえいえ、何にも言ってないッスよ。何にも」

 

 

でも実際情報が無い。大型のデフレクターを搭載してアホみたいな防御力を持つフネ。

しかしその所為で火力は貧弱、これでは戦闘艦の意味が無い。

だと言うのにデフレクターユニットとエンジンに出力を回されているのだ。

速力があって硬いダケのフネなんて何に使うつもりなのだろうか?

・・・なんか忘れている様な気がするが・・・ダメだ、既に原作知識に穴があいてる。

流石に数カ月以上も間が空いたらなぁ、細かい部分は忘れちまうよ。

一応大筋程度は日本語で手書きしてあるけど、ソレ書いたのも随分経ってからで結構虫食いである。

今更ながらこの世界に来た当初に書かなかったことが悔やまれるぜ。

 

 

「ま、考えても判らんッス。とりあえず報酬だけでも貰いに一路ナヴァラに帰還するッス」

 

 

そんな訳でデメテールは進路を一路ナヴァラに向けて帰還を開始した。

この時、もう少しこのフネの事に疑問を持ち合わせてさえいれば・・・。

もしくはもう少し原作知識を思い出してさえいれば・・・。

少なくてももう少し事態は・・・まぁどうにもなんなかったろうなウン。

 

 

***

 

 

さて、ナヴァラに戻ってきた俺達はそのまま軍基地に向かった。

基地の中は相変わらず民間人が犇く喧騒に包まれている。

以前入った司令室には俺達に命令を渡してきたあのミューラと言う女性が待っていた。

とりあえず戦闘記録(バトル・ログ)をミューラに渡し、内容をじっくりと検分して貰った。

まぁ確実に戦艦クラスは数隻撃破しているし、特に問題がある訳じゃない。

トーロ達と合流した件もこちらの個人的な事だし、報告の義務とかはないのだ。

そしてしばらく無言でログを見続けるミューラ。少しするとログから顔を上げて此方を見た。

 

 

「確認終了しました。素晴らしい戦果ですね」

 

「だろう!僕がみ込んだ通りユーリ君は素晴らしい艦長だよ!」

 

「ま、仕事ですから」

 

 

エルイット少尉が何故か手放しで褒めているのだが、エルイット少尉自身がウチを見込んでフネに乗りこんだ訳じゃなくて、エルイット少尉の上司がお目付け役としてアンタをこっちによこしたダケなんだが?

ソレは兎も角、何故かミューラの表情は硬いモノがある。

職務に忠実なのだろうか?

 

 

「・・・こちらが報酬の3000Gです。お受け取りください」

 

 

―――3000Gを受け取った!―――

 

 

なぜかテロップが流れた様な・・・気のせいか?

実を言うと輸送船拿捕して売り払ったから数万単位で貰ってるんだけどね。

報告義務ないから言わないけど―――あ、そう言えば。

 

 

「そう言えば、敵の新造艦を倒したって事になってるけど、かなり不自然なフネだったからレポートつけ解きましたよ」

 

「はぁ・・・?それが何か?」

 

「まぁ余りに不自然だったから・・・気になったら上層部に申告しておけば良いかと・・・」

 

「そうですね。必要ならそうさせていただきます」

 

 

うーん、戦局が詰まっているのかしらん?なんか対応が非常に硬い気がする。

別にそういう態度で来るならこっちも事務的な対応で済むから楽でいいんだけど・・・。

何でだろう?何か引っかかる様な気がするぜ。

 

とはいえ、軍相手に何か言えると言う訳でも無い。

とりあえずこれからどうなるかは見続けるしかなさそうだ。

そして俺はナヴァラ基地を後にしたのであった。

 

***

 

Sideユーリ

 

「・・・・・」

 

 

ここはナヴァラの酒場。

0Gドッグ御用達の軌道エレベーター施設内に存在する酒場である。

普段ならならず者たちでにぎわうはずの店内も、戦時中とあっては―――

 

 

「ひゃっはー!我慢できねぇ!おかわりだー!」

 

「マスター、スピリタスをジョッキでくれ・・・なに、俺にとっては水みたいなものさ」

 

 

―――普段のにぎわいと全然変わんねぇ。この世界の人間はタフだね。

 

 

「さて・・・どうしたもんスかねぇ・・・」

 

 

仲間と離れ態々酒場に訪れていたのは一人で考えたいことがあったからだ。

それもこれもこの間から消えないモヤモヤ感である。

このナヴァラについてから特にその感じを覚えるのだ。

恐らく何かしらの事態がこのナヴァラに降り注ぐのではと思う。

だが生憎俺が覚えている原作知識は既に色々と変わってしまい宛てに出来るか判らない。

特にチェルシーが酷過ぎると思う。本来はもっとおしとやかな筈だ。

何をどう間違えればあんなヤンデレが混じるのだろうか?

まぁ元々素養はあったみたいだが・・・っと話がズレた。

 

 

「う~あ~う~・・・思い出せないッス~~」

 

 

頭を抱えてカウンターに突っ伏す姿は、酒場の喧騒に混じって消える。

何かあるということは思い出せるのに、その“なにか”が何なのか思い出せない。

アルツハイマー・・・な訳が無い。一応健康診断では問題ないのだ。

純粋に此処まで色々あり過ぎて、原作知識を思い出す暇が無かったのだ。

思い出さなければ、ドンドンと消えていくのが記憶と言うものだろう。

一応この世界に元からあったデータベースを見て連鎖的に記憶を思い出すこともある。

だがそれもやはり全てを思い出すには至らないのだ。

所詮はゲームの知識であると何処か無意識で思っているからかもしれない。

大本からして、俺の当初の宇宙に出る為の目的は俺の好奇心から来るモノだった。

そして初めて宇宙遊泳した時の感動は今でも覚えている。

スラスターの扱い方が良く解らなくて、ミキサーの如く乱回転したのはいい思い出。

 

 

「ああ!いかんいかん!思考が変な方に流れるッス!もっと集中ッス!」

 

 

酒場で集中と言うのも変な話だが、ナヴァラは居住区が地下にある所為か狭い。

だから公園の様なスペースをとるモノは殆どが有料だった。

ついどうせ金とられるなら飲み物付きという庶民感情に流されて酒場に入った俺の自業自得という側面があるが気にしてはいけない。

とにかく何処まで考えたんだっけ?

ああそうそう、原作知識と俺の旅の目的に付いてだ。

う~ん、そう、最初は―――

 

 

「・・・ああ、そういえば・・・」

 

 

ふと思いだした。

デイジーリップの凄まじい加速に耐え・・・切れず気絶し、気が付けば大気圏外。

真空の宇宙空間は遮る物質が無いからかとてつもなく透明に見えた。

こいつはロウズから脱出した直後に見た惑星ロウズを見た時の事だ。

そう、俺は“来たかったから”宇宙に飛び出したんだ。

観測者とか追跡者だとか戦争だとか、そんなことは全く考えて無かった。

この人を魅了する宇宙を飛んでいきたい、只漠然とそう思っていたんだ。

 

 

「はは、そんな初心まで忘れてやがった・・・忙しいのも考えもんスね」

 

 

何か一気につっかえが取れた気がする。よくわからんがすっきりした。

いやまぁ原作知識を思い出したりした訳ではないので、何かしら問題が起きるんだと思う。

・・・だけど、ソレがどうかしたか?少なくても“今はまだ起こってない”のだ。

あえて言うならこの世界の人間はそんなことお構いなしに生きている。

原作知識という“道標”がなくても立派に生きているのだ。

 

 

「はは、ここにきてようやくッスか・・・能天気にも程があんだろ俺」

 

 

ははついさっきまで陥っていたことを思うとホント笑えてくる。

たかがゲームの知識を持っている程度でなに天狗になってんだか。

大体俺は別に原作知識で世界を救おうとか、それがこの世界に来た者としての義務だなんて考えちゃいない。

そりゃチェルシーやトスカ姐さん、その他にもこの世界で散っていく人間を俺は知っている。

だが、態々それを精を出して助けようだなんて思っちゃいないのだ。

手に届く範囲でなら助けるし、それに余るのなら知ったこっちゃねぇ。

 

 

此処まで色々とあったが、結局の所俺が此処まで来た理由はたった一つ。

飽く迄も“宇宙を旅したかった”という酷く個人的で我が儘な理由に過ぎないからだ。

大体、なんで来たかったということに、そんな明確な境目を造らなくっちゃいけないんだ?

 

そりゃさ?物ごとの本筋や明確な決心や覚悟・・・。

言葉にするなら疑いようも無い柱の様なモノを持っていることは素晴らしいことだと思う。

だけど、世の中の物ごとはそんなハッキリと決められるモンじゃねえ。

“これこれこうでしたからこうせねば”という価値観は思考の狭窄を起す。

確かに“今は”あのゲームとほぼ同じ様に物ごとは進行しているかもしれない。

これから先も大筋がほぼ変わらなく、あのゲーム・・・無限航路と同じ物語りを歩むのかもしれない。

だが、そんなこと俺に言わせれば「だから?」って話しだ。

この先、星間戦争によって云十万人が死ぬだろう。

ほかにも伝染病が起こるし、上位存在を名乗る生命体に生息圏を破壊されるだろう。

だが物ごとはなるようにしかならんのだ。

原作知識という“道標”に従うのもまぁ別に問題は無い。

だがもし、それから話が逸れてしまったらどうする?

途端にソレに合わせて考えていたコテコテの計画は泡沫へと帰し消滅するぞ?

そうなれば待っているのは手も足も出ないという状況からくる身の破滅しか無い。

だってそれまで道標を頼って生きて来て、それ以外で生きる方法を知らないということだからだ。

此処まで幾つか原作知識を応用した俺が言うことじゃないかもしれないが・・・。

あんまし宛てにしない方が良いのかもしれないな。こうなってくると。

てゆーか、人類がどうとか重くてヤだね。

 

 

「・・・なんかココまで冷静に己を振り返ってみると、俺って最強の我が儘だな」

 

 

ま、それで良いのかもしれないな。

俺は俺のやりたいように、面白いことをしに宇宙(ここ)へきた。

ならば、面白いことが無くなるまで、楽しいことが無くなるまで宇宙に居よう。

そうした上で起こったことに躊躇わずにブツかって行こうじゃないか。

ヤッハバッハの事もある。他にも色々と死亡フラグ満載の世界だ。

だけど何のコネも無い俺が策を巡らすなんて出来るわきゃない。

だからってソレに怖がって尻尾巻いて引き籠るのは論外だ。

行き当たりばったりで対処していくしかねぇんだよな。結局の所。

大体俺は頭が悪いのだ。精々艦隊を率いる程度の俺が何するよ?

ことわざでもこう言うだろう?バカの考え休むに似たりってな。

・・・あれ?下手の考え休むに似たりだったっけな?

とにかく、今更じたばたしてもしょうがない。

何か起きたら俺の手に収まる事態なら頑張って納めるし、ダメなら正規軍とかも頼ろう。

俺たちだけで全てを解決させる為に動く必要なんて全然ないんだ。

他の人間に任せられるところは任せないとな。過労死の趣味は無いしね。

 

 

「マスター!エールくれッス~!!」

 

 

こうして、俺は己の行く道を再確認出来た。我が儘を押し通そう。

他人が聞けば賛否両論になりそうな答えだが、俺はコレで良いのだ。

大体我が儘になるのが怖いヤツが宇宙に出るなんて、おこがましいにもほどがある。

だから俺は我が儘なヤツでいよう。少なくても皆が楽しめるようなヤツでな。

これまでのモヤモヤ感にそう決着をつけると、俺は手渡されたエールを飲み干したのだった。

 

Sideout

 

***

 

Side三人称

 

さて、ユーリが酒を煽っているのとほぼ同時刻―――。

ネージリンスの防衛線がある惑星アーマインにおいて防衛艦隊に動きがあった。

主力艦隊の旗艦ブリッジでは、歴戦の老提督であるフュリアス・マッセフ提督がリアルタイムで更新される戦術モニターを前に眉間にしわを寄せていた。

 

 

「敵が動きだした様だな。ややタイミングが早いようだが・・・」

 

 

情報部が統合して予想していたカルバライヤ軍の侵攻予定よりも少しだけ早い侵攻だ。

それがマッセフには気がかりであった。完全に予測できるという訳ではないが、何か目的があるのではと考えたからである。

ソレを聞いていた統合参謀本部長のレイピル・オリスンは提督の呟きに対して、いつも通り顔色一つ変えずに返事を返した。

 

 

「これ以上の増援を待つより、現有戦力で決戦を挑むのが得策と判断したのでしょう。正面に展開する敵艦隊、ほぼ全軍でくるようです」

 

「こちらの後方撹乱が功を奏したか。いずれにせよ、この戦闘の勝敗で流れは決まるな」

 

 

そう提督は呟き、戦術モニターに視線を戻した。実はすでに両者とも後が無い。

鉱物資源は潤沢であるカルバライヤであるが、その反面食料の生産に適しておらず、度重なる後方撹乱で物資の食糧の備蓄が乏しくなるという事態になりかけていたのだ。

対するネージリンスも後方撹乱で地道に潰す選択をしたはいいが、元々難民であった彼らは人的資源が乏しかった。

また後方撹乱であっても、カルバライヤが対空戦が出来るフネをそれなりに導入した所為でかなりの被害を出してしまったのである。

その為、多くの優秀な人材が失われる事態が起こし、人的資源に乏しいネージリンスにとっては致命的とも言える損害を受けていた。

両者とも早期戦争終結の為に早い段階で決戦に移行するのはごく自然な流れだったのである。

 

―――そして数時間後、ついにカルバライヤ主力艦隊が警戒ラインにまで到達した。

 

 

「敵艦隊警戒ラインを突破!第一防衛ラインへと接近中!」

 

「作戦通り、艦載機隊による最初の打撃で敵の戦意をくじく。艦載機の航続範囲に敵が入り次第、各部隊を順次発進させろ!」

 

 

老提督の指示は瞬く間に主力艦隊へと伝わり、各機動部隊は慌しく艦載機を射出していく。

既に警戒ラインを突破したカルバライヤの前衛艦隊が第一次攻撃隊と接触した。

前衛の駆逐艦は急造で乗せた対空火器でネージリンス艦載機隊を落そうとするが、カルバライヤは如何せんそれまでの対空戦闘のデータ蓄積やアビオニクスを持っていなかった。

特に対空戦に有効なFCSを駆逐艦用に開発しきれなかった為、駆逐艦は対艦ミサイル数十発の集中攻撃を受けて爆沈するフネが続出していた。

だが、カルバライヤとてただ黙って落されてはいなかった。

ディゴマ装甲と呼ばれる強靭な装甲板を持つフネは巡洋艦クラスとなると艦載機の対艦ミサイルの直撃を受けても撃沈しずらかった。

また、重力子防御装置デフレクターに開発費をつぎ込んだからか、実体弾系の攻撃に対しての耐性が向上していた。

その為、最初の打撃で一瞬怯んだモノの、カルバライヤ艦隊は徐々に砲撃可能ラインにまで迫っていた。

 

 

「敵艦隊、砲撃を開始!」

 

「ふん、この距離では当たらんよ」

 

 

宇宙を突っ切る光明が艦隊の至近距離を通過する中、マッセフはそう呟いていた。

事実、まだ距離がある所為か運悪く命中しない限り直撃弾は無い。

 

 

「各艦迎撃ミサイル発射後は駆逐艦を下がらせろ!艦砲射撃の邪魔だ。戦艦を前に出して艦隊の盾にしろ。それと巡洋艦は機動艦隊の近衛にまわせ」

 

 

老提督の指示が飛び、機動力に優れたネージリンス艦隊はすぐにその陣容を変化させる。

カルバライヤとの戦いに備え、S・G社が融和政策を隠れ蓑に開発を続けていたネージリンス側唯一の戦艦であるオルジアール級が機動艦隊を追い抜いて前に出る。

 

粒子拡散システム(パーティクル・リデューサー)を搭載しているオルジアール級の砲口から、文字通り拡散され散布界が広がり命中率が向上した弾幕が張られた。

距離がある所為で命中しても撃沈にまでは至らないようだが、確実に相手のデフレクターとAPFSに負荷をかけている。

マセッフはそれを見て予想通りであることを確信し、更に指示を飛ばした。

 

 

「各艦は対艦ミサイルを順次発射!弾幕を途切らせるな!対艦ミサイルの残弾が少なくなった艦は一度下がって補給を受けさせろ!艦載機は今のうちに補給をすませろ。敵をこれ以上近寄らせるな!」

 

 

老提督の指示が前防衛主力艦隊に伝わり、対艦ミサイル発射筒を持つ艦からは絶えずミサイルが発射される。

オルジアール級の砲撃によりデフレクターに負荷が掛っていたカルバライヤのフネは、対空銃座による迎撃を行う。

だが飛来する対艦ミサイルが薄くなったデフレクターを突破した為、何隻かの駆逐艦がミサイルの直撃を受けて轟沈してしまっていた。

 

オルジアール級が前に出たことでカルバライヤ艦隊の侵攻が一時的に停止する。

その間に攻撃隊として出ていた艦載機隊が帰還し、弾薬の補給を受けた。

ネージリンスがカルバライヤの侵攻を止めたので、戦線は拮抗状態へ突入した。

だがその時、レイピルが部下の報告を聞き、少し慌てたように提督に近づいてきた。

 

 

「て、提督!ベータ象限に展開している哨戒艦から緊急入電です!」

 

「読め」

 

「はっ!・・・“敵の新型艦船の大多数がナヴァラに向けて進軍中”と・・・」

 

「ナヴァラに!?『アルカンシエル計画』が気付かれたか!?」

 

 

思わず声を大にする提督の元に送られたデータには、かなりの規模の別動隊であろう艦隊がナヴァラへと向かっているというデータが入っていた。

遠すぎて正確な数は判らなかったが、カルバライヤの侵攻軍の内3分の1に匹敵する艦隊が動いている所を見ればどれだけ多いのかが分かることだろう。

 

 

「まだわかりませんが、その可能性は高いかと」

 

 

参謀長がそう述べ、否定する材料も無かった。

その為、歴戦を生き抜いてきた老提督も“そうなのでは?”と口には出さないモノの、内心で参謀の言葉を肯定していた。

だが実際の所彼らの予想は大きく外れており、カルバの別動隊には別の目的があり、数が多いのは“もしもの時”に備えてありったけの戦力を分けたからである。

その“もしも”とは何のことであるかは、ココで言わなくても察しがつくであろう。

アレだけ暴れればいやでも目立つのだ。

そのことに気がつかずにクジラはナヴァラに居た。

 

 

「くっ、まだ未完成だというのに・・・迎撃に回せる艦隊は?」

 

「ありません。どの艦隊も現在カルバライヤ主力艦隊の迎撃に当たっています。今、この宙域から引き抜けば総崩れになる可能性があります。後方の遊撃艦隊を使うしかないかと」

 

「しかたないか・・・。グランティノを呼び出せ!」

 

 

マッセフは後方で出撃準備をしていたワレンプスの空母グランティノへと通信を繋げた。

ついに決戦が始まり、双方のフネが脱落していくさなか、マッセフからの命令を受けたグランティノは一路ナヴァラへと向かう。

決戦の勝敗を決めることが出来る『アルカンシエル計画』を守るために・・・。

 

 

Sideout

 

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

さて、アーマイン近辺が決戦の舞台になっている頃。

そんなこと露ほども知らない俺は艦橋の艦長席でダレていた。

ホンの数時間前に自分のココに居る理由を再確認したのだが―――

 

 

「あ~、暇ッス~」

 

「ヒマならお仕事してください」

 

「ごめんなさいマジでもうじむさぎょうはかんべんしてくださいはんこおしたくない」

 

「もうっ・・・しょうがないですね」

 

 

―――再確認したからと言って、別段何か変わると言う訳でもなかった。

ただ単に難しく考えただけで俺の行動理念は変わってはいないのだから当然と言える。

ここで熱血気取ってヤッハバッハの艦隊へと特攻したらカッコいいのだろう。

だが、少なくても1万はいるであろう艦隊にフルもっこされるビジョンしかうかばん。

 

 

「あ~う~」

 

「・・・艦長、顔がなんか垂れてます。だらしないですよ?」

 

「大丈夫だユピ。これはまだ○れパンダレベル。この先はダリの絵みたくなるぜ」

 

「よくわからないですけど、凄まじいことになりそうですね」

 

 

仕方ないだろう?仕事をしてないと暇なんだヨ。

だったら仕事しろって言われそうだが、これ以上やったら死ぬよ俺?

あーでもヒマ、なんかしようかなぁ・・・。

 

 

「そう言えば、マッド四天王とかが合流したんだよね~。」

 

 

・・・・・・何故だろう?いま研究室を覗いたら凄いことしてそうな気がするぜ。

だけど俺は覗かないぜ!こんなこともあろうかとというマッド達の楽しみを奪ってはいけないのだ!というか邪魔したら己が研究材料にされちまう!

あ、四天王と言えば・・・。

 

 

「そういえば、アバリスの改装案が幾つか出されてたっけ」

 

 

この先の戦いに備えてアバリスを準工作艦からまた戦闘艦に戻そうという案が出ていた。

まぁ元々戦闘能力が非常に高く、工作艦の癖に前線に出せた訳だが気にしてはいけない。

デメテールの艦内工廠は優秀だし、修理ドロイドも作業用エステまでいるからな。

それよりも劣るファクトリーベースしか持たないアバリスに頼る必要は無いのである。

そんな訳で複数出されたアイディアの中から選ぶのである。

 

 

「これかっ!」

 

―――防御特化タイプ

 

「これかっ☆」

 

―――対艦強化タイプ

 

「これもいいなぁ☆」

 

―――対空強化タイプ

 

「やっぱりこうかな☆」

 

―――機動特化タイプ

 

「こっちの方がいいかな☆」

 

―――艦載機運用タイプ

 

「これも良いなぁ☆」

 

―――長距離特装砲装備タイプ

 

 

夜時間なため非番の俺以外に人がいないブリッジで案件を眺めながら教祖様ごっこ。

ああ、見て見ぬふりをしてくれるユピの視線が痛いけど自重しない俺自重。

 

 

「どれもこれも個性的な装備ですね」

 

 

俺がう~ん☆と唸っていると、それを眺めていた彼女が話しかけてきた。

 

 

「アバリスの元になったバゼルナイツ級は個々の部品ごとに建造するブロック工法ッスからね。ブロックを組みかえれば意外と無茶が――」

 

≪ピーッ、ピーッ≫

 

 

自分の周りに空間ウィンドウを展開してどれにしようか決めかねていると、突然デメテールに対してネージリンス軍からの通信が送られてきた。

 

 

「通信ッスか?なんか用事でもある―――」

 

「どうやらアーマインの方でカルバライヤとの全面攻勢があった様です。実質的に決戦と呼べる戦いになったと言っています。あと、各遊撃艦隊は用心の為に出撃との事です」

 

「ふーん。それじゃ一応リーフとか起してデメテール移動させるッスかね」

 

 

正直今は夜時間だから動かしたくは無いんだけど、軌道上に居たら邪魔だろうしな。

邪魔にならない様に動いてあげるのも紳士のすることなのですよ(キリ

 

 

「あ、白鯨艦隊にはナヴァラの衛星であるモアの静止軌道上に移動して欲しいとの事です」

 

「名指し!?ウチだけ?!」

 

「敵戦力の殆どがモアに集結中なので迎撃して欲しいと。ソレ位出来るわよねとミューラさんが・・・」

 

 

ってミューラからかよっ!つーかいいのか?ウチは一応0Gなんだぞ!?

 

 

「許可はとったそうです」

 

「際ですか」

 

 

もう既に手を回してあるのかよ。手際が良いというかなんていうか。

しかし衛星モアか。確かナヴァラのすぐ近くを回る衛星だったな。

 

 

「・・・?」

 

 

・・・あれ?おろ?なんだ?

 

 

「へぇあ??」

 

「・・・艦長?急に頭を抱えてどうかなさったんですか??」

 

「ナヴァラ・・・モア?・・・あれたしか・・・」

 

 

えっと、確かおぼろげに思いだしそうな・・・そうでもない様な。

何だったか・・・ええい、なんだったか?!

 

 

「あのー、艦長ー?」

 

「あ、ああすまないッス。と、とりあえず白鯨の航法班を呼んでくれ。衛星モアに移動ッスよ」

 

「?――了解です」

 

 

俺の奇妙な行動に首をかしげつつも指示に従ってくれたユピは、夜時間に休息している航法班要員達を呼び寄せる。

彼らが集まるまでの間に、俺は久々に感じた既視感について思考を巡らせた。

かすかに脳内に引っ掛かったのだ。

ナヴァラ、モア、そしてモアへ敵軍が進軍する=ドッカーン。

これらの言葉が重なった時に何かを垣間見たのである。

どうしても気になってしまった俺は艦長席でう~ん、う~んと唸り続け、モアとナヴァラという単語がタンゴを踊り始めるかと思うほど頭を捻った。

すると―――

 

 

「―――ッ!!!」

 

 

ユーリに電流走る。・・・ではなく、断片的にだが思い出すことに成功した。

確か、そう。モアの方に敵の艦隊が流れてくる筈なのである。

でもって、えーとモアをナヴァラにぶつけるんだっけか?

いや、ナヴァラ自体が巨大レーザー砲の戦略拠点だったか?

 

 

「・・・あら?」

 

 

俺はまた頭を抱えてウンウン言う羽目になってしまった。

それを見て心配そうにしているユピにも気がつかない。

おかしい、思い出したには思い出したが何故か記憶が二種類ある。

どういうこっちゃコレは?どっちだ?どっちもあってる様な気がするんだけど?

こういうときは慌てないで一休み―――じゃなくて腕を組んで集中だ。

 

―――ぽく

 

―――ぽく

 

―――ぽく

 

 

「―――ちーんっ!」

 

 

電流走ry・・・ああ、そうだ!コイツはあれだ!分岐したルートだ!

ゲーム本編の流れでは主人公はカルバかネージのどちらかに付くように迫られる。

確か基本的な流れは変わらずに、どちらかの陣営の視点から見ることが出来るのだ。

思い返してみればあの狸爺の所がそうだったのである。

・・・まぁゲームだと選択肢あったけど、こっちは半ば強制だったから断定出来ないけど。

でも少なくても大まかな流れは問題無く進んでいた様だ。

原作知識は宛てにしないと決めたモノの、いざ思い出してしまうとなんだかなぁ。

思わず頼りたくなってしまうぜ。まぁまだ様子見にとどめるけどさ。

・・・あれ?でも基本的な流れが変わらないってことは・・・。

 

 

「・・・どっちも、起こるって事ッスか?」

 

 

敵が行うであろう惑星ナヴァラにモアを近づけるという作戦。

もしこれを実行できるなら、ロシュの限界を突破させられればナヴァラもモアも星ごと砕ける。

またもしネージリンスの長射程レーザー砲があったなら、ソレはそれでカルバには脅威だ。

というか、現在俺達のフネはナヴァラの上空に待機してる訳で・・・。

考えてみると己の股下に超大型砲が設置されていたってことになる。

まさか味方ごと撃ったりしなかったよな?そこまで思い出せんのだけど?

でも軍って時々非人道的だしー、とか考えていると仕事を終えたユピが俺の方に報告を入れてきた。

 

 

「艦長、航法班全員呼びだしました。リーフさんがブリッジに付き次第本艦はナヴァラ上空を一時離脱し衛星モアへと向かいます。よろしいですか?」

 

「ウス。それで問題無いッス」

 

 

・・・とりあえずこの宙域からは離脱しておこう。

原作知識は思い出せても当てには出来ないし、どちらにしても衛星モア近辺に展開するであろう敵を排除しない事にはこの宙域は安全にならない。

それに少なくてもモアの陰に入れば巨大砲を使われても衛星を盾に出来る。

しかしそうなると・・・カルバの敵特殊艦隊と戦闘か・・・。

 

 

「ユピ、戦闘班を起すッス。本艦はこれより警戒態勢に移行する」

 

「了解しました」

 

 

うーん、別に思い出したのは問題無いけどその通りに進むとも限らないしなぁ。

少なくても“今は”ネージリンスからの命令だし逆らうと面倒臭いからモアへと針路を向ける事にしよう。

命令違反で撃沈命令出されるとか勘弁して欲しいからな。

 

 

 


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