【旧バージョン】QOLのさらし場所   作:QOL

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【旧バージョン】何時の間にか無限航路 第二十五章+第二十六章+第二十七章+第二十八章

 

Side三人称

 

「VF・VB兼用のRGP(リニアガトリングポッド)の備蓄弾薬は?あ?無い?!また補給かよ!」

「20番機までマイクロミサイルから対艦ミサイルへ換装作業終了!」

「今回反陽子弾頭使うのか?ああ、こっちにゃストックがねぇから、アバリスの生産室から持って来てくれ」

 

 慌しいユピテルの格納庫、そこではVF・VB隊の補給作業が行われていた。白鯨艦隊がザクロウを出発し、グアッシュ海賊団本拠地のくもの巣へと向かう途中であっても、整備班達の手が止まることは無い。

 後回しにしていたVF・VB用の備蓄弾薬の補給、次の戦闘に備えての兵装の換装、特殊弾頭の準備など、休む時間が無い程の忙しさだ。これに更に戦闘中はダメコンの作業や、帰還した戦闘機隊の弾薬補給もやるので、整備班は戦闘中、フネの屋台骨を支えていると言っても良いだろう。

 

「おい!はんちょーはどした!?」

「あん?しらねぇーな。おい新入り、知ってか?」

「班長さんだったら、“外”に出てるだ。なんでも“アレ”を完成は無理でも可動くらいはさせたいらしいだよ」

「ふ~ん、ま、いつもの病気だからしかたねぇか。それじゃ俺達は班長が戻るまでに、仕事終わらせっぞー!今日のユピテル食堂の一押しは、チェルシーちゃんの手作りスープだってよ」

「「「「や る ぞ ー ! み な ぎっ て き たぁーーー!!!」」」」

 

 そして今日も、格納庫では男らしい声が響き渡る。もっともその内容は聞くに堪えないモノだったが、コイツらに何言っても無駄だろう。何故ならコイツらは、“漢”達だから、浪漫大好きな大きな大人達だからだ!

 

「「「「「アダルトチルドレンとちゃうわい!」」」」」

 

 そして、地の文に突っ込むんじゃねぇモブ共。

 まぁそんな感じで、急ピッチで作業を行う整備班だった。

 

Sideout

 

***

 

Sideユーリ

 

―――ザクロウから出て、くもの巣への航路に入った。

 

 だが、それなりに距離が空いてしまっている為、実際戦闘空域に到達できるのは、今から数えてざっと10時間後になってしまう。此方の巡航速度は速いが、ドエスバンとの距離が半日分位空いているので、どちらにしてもドエスバンのくもの巣入りは止められないと結論が出た。

 

 なので、実際はもっと早くに到達出来るんだが、牛歩戦法の如くゆっくり行く事にした。それでも通常のフネに比べたら早いらしいけどね。あとサマラさん側にも準備があるらしい。何をするかは教えてもらえなかったけど、かな~り怖いことを考えているのは解った。

だけどオラ聞かね。だってマジ怖いし。

 

 そんな訳で、戦闘空域到着時間までは整備班を除き現在休息と言う事になっている。自然公園でリフレッシュしたり(主に農作業)、タンクベッドで超睡眠とったり、サド先生の所に入り浸ったり(保健室でさぼりする様な感覚か?)していた。

 

 サド先生の所では公然と酒が飲める。一応食堂や自室、およびバーみたいな娯楽ルームでの飲酒は許可してあるのだが、一人で飲むよりかは複数で飲みたいという人間心理なんだろう。サド先生はザルだし、医務室には飲み過ぎ用の薬もあるので、急な戦闘にも対処できるしな。 

 

 さて、そんな中俺はと言うと―――

 

「はぁ~~、飯がウメェっス~」

 

「ふふ、おかわりも有るよ!」

 

 

 ―――飯時だったから、食堂に飯食いに来ていた。

 

 

 やはり俺も人間である以上、エネルギー補給の手段として飯だけは外せない。

 そして食事と言うのは、只単に生命活動維持の為のエネルギー補給という訳でも無いのだ。

 トスカ姐さんが居らず、ずっと艦長室で缶詰で仕事してたから、その事がよーく解る。

 

 おまけに癒しの元のチェルシーとも、食事を運んで来てくれたときに一言二言話せた程度だ。

 俺の中の妹分と癒し分の成分が、現在非常に不足している状態となっている。

 癒し分はユピで補完していたが、そろそろ色んな意味で限界に近い。

 

 あの子、最近女の子らしくなっちゃってまぁ・・・はぁ。

 俺も男のですし?色々と溜まる訳でして、そんな中で部屋で女の子と2人っきり。

 そんな拷問だって話だ。なまじ臆病で倫理観も高いお陰か、今のとこ平気だけどな。

 

 俺の中の倫理観的には、愛が無いのに押し倒すのは論外だと思っている。

 ユピはAIであり、それこそずっと前から育てて来た娘みたいなもんなのだ。

 もしも若気の至りでそんなことしたら・・・・俺のジャスティスが許さねぇよ。

 つーか、やったら最後自責の念で自殺するね。俺が。

 

 

「うん、あれッスねチェルシーの料理の味は、どこか安心する味ッスね」

 

「安心する味って、どういうことなの?普通過ぎるのかな」

 

「うんにゃ、要はお袋の味みたいなもんス。濃すぎたり、豪華過ぎない素朴の味。

 また食べたくなるような、安心出来る味ッスよ」

 

「また食べたくなる味・・・うん、私の味はお袋――お母さんの味なのね」

 

 

 いやはや、そう言った意味じゃ癒される味だー。

 疲れた心と体に優しく滲み渡る味だわさ。ミネストローネに近いこのスープわな。

つーか何時の間にか、彼女の料理もメニューに加わってたりするんだよな。

 自前で覚えてるんだろうか?それともタムラさん?

 

 

「はぁ、それにしても・・・書類整理が無いのはありがたいッスね~」

 

 

俺は食後のお茶をズズズとすすりながら、ついついそう漏らしてしまう。

そう言った意味では、今回の戦闘はありがたかったのだ。いや、マジな話で。

 

 

「そんなにお仕事大変なの?」

 

「ほり、ココ最近チェルシーに会いに来れなかったじゃん?アレ全部トスカさんがいなかった分の仕事が、俺に回ってきたからなんだよね」

 

「そう言えば食堂で話すのなんて、本当に久しぶりな気がするわ。後私の出番―――」

 

「あー!あー!と、とりあえずトスカ姐さんが復帰したから、ある程度は楽になる筈ッス!」

 

 

 メメタァな発言を途中で遮る俺。

むむ、疲れてるのかなチェルシー、まさか電波を拾うだなんて。

 

 ところで先のトスカ姐さん復帰云々だが、その前に経理部門的な所作ったから、雑多な方はそっちに回るので、俺も少しヒマになるのは本当だ。

 

 

「だけど・・・体壊すまでやったらだめだよ?」

 

「うん、気をつける」

 

「約束だよ?ユーリが倒れたら皆が心配するんだからね」

 

「うん、大丈夫。何せ部屋で鍛えてるから!」

 

 

 伊達に重力ウン倍の部屋に籠っちゃいねぇぜ!それなりに体も鍛えられてます!

 故に体力も以前と比べたら月とすっぽん!24時間働けますぜ!まさにゼナ要らず!

 ・・・・何時から俺はサラリーマンになったんだろうか?

 

 

「――っと、いたいた。ユーリ、休憩時間は終わりだよ」

 

 

 俺が食堂にてダレていると、トスカ姐さんがやってきた。

 どうやら休憩時間は終わりらしい。

 

 

「しゃーない、仕事に戻るべ」

 

「むむ、トスカさん。ユーリは貴女がいない間も頑張ってたんだから、もう少しお休みがあっても良いと思います」

 

 

 心配してくれるのか、俺に仕事させる為に迎えに来たトスカさんを若干睨むチェルシー。

 うんうん、やさしいなチェルシー。だけど、悲しいけどこれって、お仕事なのよね。

 

 

「んー、そう言いたいのはこっちも何だけどね。ユーリはこの艦隊のトップだから、休むに休めないのさ。ま、私も復帰できたから、仕事の方で支えられるけどねぇ」

 

「・・・とか言いつつ、以前隣で酒飲んで“私は監視の仕事をしてるのさ”とか言って、見てただけの人がいたッスけどね」

 

 

 俺はジトーとした目でトスカ姐さんを見る。

 この人は時折さぼりたい時に、俺の部屋に来ることがあるから困る。

 ホント仕事してください、マジでお願いします。

 とりあえず、カンチョーのお仕事に戻りますかね。とほほ。

 

***

 

 さて、仕事の為に部屋に戻る俺とトスカ姐さん。並んで通路を歩き、艦長室へと向かう。

 はぁ~、正直仕事したくねぇ。一応経理部作ったけど、ちゃんと機能するまでまだ時間掛かるだろうしな。でもワンマンシップじゃなくなった訳だから、任せられる所は任せないと、俺が過労で死ぬ。間違いなく死ぬ。

 

 

「まったく、あの子も心配性だねぇ」

 

「まぁ以前よかマシッスけどね。以前は人見知りが凄かったじゃないッスか」

 

 

 食堂スタッフ以外には、あまり笑わなかったんだよな。

 接客が板についてきたのは、ココ最近の事なのだ。

 お陰で男やもめどもに人気が高いんだが、いまだ彼女を射止めるヤツは出てきてない。

 まったく、もう少し根性のある奴ぁいないんかねぇ?

 

 

「それもそうだね。・・・・なぁユーリ」

 

「ン?何スか、トスカさん」

 

 

 彼女が立ち止まったのを感じて、俺も立ち止まった。

 トスカ姐さんは若干何かを言い淀んでいる様な感じだったが、意を決したのか口を開く。

 

 

「他の奴らから聞いたよ。結構、無理してたんだって?」

 

「・・・あはは、やっぱ見てる人は見てるッスね」

 

 

 後頭部を掻きながら、すこし苦笑しつつそう応えた。

 いや、なんと言うか、ねぇ?

 

 

「なんて言うか―――俺の隣が涼しくて、落ちつかなかったんスよ」

 

「・・・・心配かけさせちまったんだね。ゴメンなユーリ」

 

「良いんスよ心配かけて。だって俺らは仲間じゃないッスか」

 

 

 トスカ姐さんが俺に謝って来たので、俺はそう返事を返した。

 そしてちょっと考えてみたら、随分と臭い言い回しだった事に今更気付いて慌てた。

 それを見たトスカ姐さんは、呆れた様な安心した様な不思議な表情をしていた。

 

 

「と、兎も角、無事でよかったって事ッス!仕事しに行くッスよ」

 

「クス、アイアイサー。ユーリ艦長」

 

「むむむ・・・」

 

 

 俺はてれ隠しに早足で通路を歩いていった。

 

 

「ふふ、自分の為に心配してくれる。女なら誰だって嬉しいもんさ・・・」

 

 

 トスカ姐さんが何か呟いていたが、俺はそれを聞くことなく艦長室へ戻った。

 

 

***

 

 

「艦長~、レーダーに大型艦の反応を検知~」

 

「インフラトンエネルギーパターン解析・・・出た。艦種はエリエロンドです」

 

「どうにか間に合ったみたいッスね。ミドリさんモニターに――」

 

「投影します」

 

 

 どうやらエリエロンドが、単艦で海賊本拠地に突っ込む直前に到着出来たらしい。

 モニターには、ちょっと大きめの小惑星の隣に、停泊しているエリエロンドが写っていた。

 

 

「・・・む?艦長、あの小惑星からはインフラトン機関の反応が出ている」

 

「・・・?どういう事ッスか?サナダさん」

 

「恐らくだが、人工衛星の一種じゃないかと思う」

 

 

 そういや、解りにくいけどパイプとかみたいな人工物が見える。

 アレはもしかして―――

 

 

「・・・サマラさんの持つ衛星基地ッスか?」

 

『その通り、私の持つ航行基地コクーンだ』

 

「うわっ!サ、サマラさん!?」

 

 

 突然通信が入って艦長席に仰け反る俺。

 いや、だって唐突に通信が入れば驚きますって。

 

 

「ひそひそ(どうやら、強引にアクセスしてきたようです艦長)」

 

「ぼそぼそ(・・・なるほど、実に海賊らしいッスね」

 

『何が海賊らしいのかは訪ねないが・・・何か不愉快だな』

 

「あ、サーセン」

 

  

 いっけね。ついつい口に出てたぜ。

 

 

「だけどいいんスか?大事な基地をお披露目しちゃって?一応何隻か保安局艦も来てるんスよ?」

 

『かまわんさ。じきに廃棄する代物だ。重要なモノはすべて取り払って有る』

 

「・・・・廃棄?――あー、成程」

 

 

 俺は彼女の意図を読み取り、ニヤリと口角を歪めて哂う。

 これはまた実に豪快な作戦じゃないか。ウマくすれば宇宙に大きな花火が出来るぜ。

 あ、でも―――

 

 

「でも奴さんら、巨大ミサイル詰んだフネが防衛してるッスよ?」

 

『・・・・何だと?』

 

「ウソじゃねぇッス。ユピ」

 

「データ転送します」

 

 

 以前の偵察した時のデータを送る。それを見たサマラさんは、ちょっと顔をしかめた。

 流石に150mクラスのミサイルを、無理矢理に船体にくっ付けた敵に呆れているのだろう。

 

 

『・・・・まったく、こんなバカな改造を良くやる』

 

「俺もそうおもうッス。完全に機動性を無視してるッスからね。こちらが先手を打てれば、楽勝で倒せるんスが・・・」

 

『そうなる前に、剣山にされてしまう・・・か』

 

 

 そう言う事である・・・・つーか、剣山って言葉よく知ってんなサマラさん。

 もしかして花道とかって、この世界にまだ有るのか?

 

 

『・・・・すこし、作戦を変更しなければならないか』

 

「相手もミサイルっていう実弾兵装ッスから、無限にあるって訳じゃないのがありがたい話ッスね」

 

『アレだけデカければ迎撃も容易なのもな・・・だが、数が数だろう?』

 

「そう何スよねぇ・・ホントどうし――『お困りの様だな!艦長!』――む、あえて空気を読まないこの声は!?」

 

 

 突然、通信に割り込みが掛かってきた。

 サマラさんは少し眉を上げ、俺は知っているヤツの声にまたかって顔をした。

 だがヤツは、そんなことお構いなしに言葉をつづけている。

 

 

『こんなこともあろうかと!ギリギリ突貫工事だったが、なんとか“アレ”を完成までこぎつけたぜ!』

 

「あれって・・・以前許可を出したあれッスか?!」

 

『おうよ!・・・とは言うが、流石に時間が無くて、護衛艦を改造したもんだけどな。だがなんとか動かすことは出来るぜ!コイツなら、ユピテルとVFの機能を使えば、圏外からでも攻撃が出来る!・・・問題は試作品みたいなもんだから、連射できねぇってとこか』

 

「いや、あれをこんな短期間で作り上げる方が凄いッスよ」

 

『・・・・出来れば、そろそろ説明して欲しいな。ソコな男は何を作ったんだ?』

 

 

 俺とケセイヤさんとの会話の内容を説明した所、サマラさんも乗ってきた。

 以前から開発を続けていたモノが、一応使える状態に出来たので、ソレを使おうと言う話だ。今回の戦闘については、他に方法も無かったし、今を逃すと更に防備を固められてしまう為、ちょっと不安だが、ソレを使う事にしたのである。

 

 

 とりあえず、俺達は一度二手に分かれ、サマラさんのエリエロンドとは別方向から攻撃を仕掛ける事で合意したのだった。

 

 

***

 

 

Side三人称

 

~くもの巣~

 

 

 ドエスバン所長がくもの巣に逃げ込み、海賊本拠地は蜂をつついたような騒ぎとなった。何故なら保安局が重い腰を上げて、自分たちを殲滅する為に大戦力を送ってきたのだ。

 既に仲間がいる筈のザクロウとは12時間くらい前から連絡が取れなくなっている。その事がドエスバンが言った事に真実味を持たせ、彼らに防衛準備を急がせる要因となっていた。

 

 

「大型ミサイル、多弾頭型、炸裂弾型のどちらとも正常稼働テスト完了」

 

「・・・ふん、武器商人に無理言って買った、大型艦船用のミサイルだ。高い金を出しただけに、ちゃんと起動する様だな」

 

 

 そして、既に艦隊を展開している海賊艦では、既に戦闘に備えて、無理矢理に搭載してある大型ミサイルのチェックを進めていた。

一応まだ敵艦が見えない為、直前に事故が起きない様に稼働テストをしていたのだ。そんな中、手持ちぶたさな海賊手下の一人が、自艦のキャプテンに話しかけた。

 

 

「キャプテン、一応上の幹部からの指示らしいけど、ミサイルを搭載したままだと、バランサーに異常が出るよ?只でさえ自動3次元懸垂とかの駆動プログラムにエラーが起きてんのに」

 

「仕方ないだろう?相手にあの白鯨艦隊がいるって話だ」

 

「え゛ソレってエルメッツァのスカーバレルを壊滅させたっていう!?」

 

「そうだ。その白鯨艦隊だ」

 

 

 キャプテンのその言葉に、顔を蒼くさせる手下A。

 相手はエルメッツァ方面では最大勢力を誇ったスカーバレル海賊団を、たったの数隻で壊滅させたという噂がある白鯨艦隊である。

 

 スカーバレルとは海賊団としては珍しく、偶に交易の様なことや技術提供をしていた事もある間柄の海賊団だ。グアッシュとしては、ある意味商売仲間の様な存在である。

 

 それを壊滅させた存在が、今度は自分たちを狙っているのだからたまらない。何せ生き残りの海賊曰く「海賊専門の追剥」曰く「出会ったら骨の髄までしゃぶられる」と、好き勝手言われており、どれが本当かは不明だが、どちらにしろ、航路で出会ってしまった海賊たちは、そのほとんどが帰還できなかった。

 

 情報が少ない分、怖さだけが独り歩きし、余計に恐怖を煽っているのである。

 

 

「や、ヤバいジャアにでッスかキャプてん!」

 

「おちつけ、何言ってんだかさっぱりだ」

 

「ヤバいじゃねぇかキャプテン!逃げちまおうぜ!」

 

「阿呆、海賊が自分家を守らないで逃げてどうすんだよ?それに逃げようとしたら、まずそいつから撃たれるんだ。そう指示が既に出てる」

 

 

 キャプテンのその言葉に、更に顔を蒼くする海賊A。

 作業しつつも話を聞いていた他の海賊たちにも、不安な空気が降りてくる。

 それを見ていたキャプテンは、溜息をつきながらも、不安そうな部下達に語りかけた。

 

 

「大丈夫だ。俺達ゃこの腹に抱えたドデカイ荷物を撃ったら、後退しても良いって話しを着けてある。当たるかはともかく、コイツを届けた後は、基地主力艦隊の後ろにひっ付いてればいいとさ」

 

 

 そうキャプテンがいうと、ブリッジ内に安堵の空気が戻ってくる。

 そうだ、俺達は海賊だ。素早さが本来の持ち味だ。

 今は不本意だが、こんな重たい荷物を持たされているが、ソレさえ撃ち尽くせば後は海賊本来の闘いが出来るのである。

 そう思えば、なんとなくだがやる気がわいてくる感じがした。

 

 だが―――

 

 

≪ズズーーーーーーーンッ!!!!≫

 

「な!なんだ!?」

 

「オペレーター!報告しろ!」

 

「解りやせん!突然の重力波!?」

 

 

 そうオペレーターが報告するのが早いか、また重力波が海賊船を襲う。

 今度は自艦の隣の艦隊から、火球が起こっていた。

 

 

「今度は何だ!?」

 

「インフラトン反応の拡散!?誰かが撃沈されちまいやした!」

 

 

 唐突の事態に海賊船の中は大混乱となる。デブリの衝突では無い。

 昨今のフネがたかがデブリでやられる事は無いからだ。

 

 キャプテンは急いで状況を把握する為、レーダーや外部モニターを映し出す。

 すると、となりの海賊艦隊が火球に包まれる直前、何かが飛来しているのが確認出来た。

 

 速さはデブリなんて比では無い。またソレは命中すると“貫通”しているのである。

 故に飛来した物体が、タダのデブリの筈が無いのだ。

 

 

「―――まさか、くッ!休息回頭いそげぇ!!」

 

 

 有る考えに至ったその海賊船のキャプテンは、幹部に命令を請う前に命令を出す。

 キャプテンのその言葉に、半ば条件反射の如く舵を切った部下。

 その事が彼らの命を救う事になる。

 

 

≪ギューーン!!ズズーーーーーン!!!≫

 

「ぐわわわわわ!!」

 

「ひぇぇぇぇ!!」

 

 

 次の瞬間、フネを分解出来るんじゃないかという振動と共に、後続の海賊船が爆散する衝撃波に襲われた。コンソールにしがみつきながら、キャプテンが開いておいた外部モニターに目を送ると、そこには先程まで確かにそこに居た筈の、友軍艦である海賊船がいない。

 

 いや、正確には“ある”のだ。だが、ソレは既にフネでは無く、青々とした火球なのである。何が起きたのかをキャプテンが確認する前に―――

 

≪ヴィー、ヴィー、ヴィー!!≫

 

―――今度はフネの異常を知らせる警報が、艦内に鳴り響いた。

 

 

「クッ!今度は何だ!?」

 

「側面の第1、第2装甲板融解!戦闘用レーダー、センサー類が全滅!」

 

「右舷ウィングブロックのミサイルが異常加熱!切り離さねぇと爆発するぞ!」

 

「ちっ!隔壁閉鎖!ダメコン急げ!右舷ウィングブロックはパージ!急いで離れろ!」

 

「メインスラスター破損!推進力3割に低下!」

 

「補助エンジンも使え!全出力をエンジンに回して逃げるんだ!爆発に呑まれるぞ!」

 

 

 直撃こそ受けなかったが、先程の何か通過により、海賊船にはかなりの被害が及んでいた。バクゥ級を元に火力増強改造を施されたフネだったが、右舷側の装甲が所々拉げ融解しており、元々それ程耐久性などないセンサー類は、非常用の内蔵タイプを除き全滅。

 

武装も左舷の小型レーザー砲を残して、右舷側の融解に巻き込まれて使用不能、その際のフィードバックでジェネレーターが行かれたのか、左舷兵装も実質使用不可に追い込まれていた。

 

 まるで巨大な生物の爪に、引き裂かれたような姿をさらす海賊船。自艦のその姿にめまいを感じつつも、今にも暴走して爆発しそうな150mミサイルをブロックごと切り離した。パイロン自体が拉げてしまっており、遠隔操作でも手動操作でも切り話が出来なかったからだ。

 

 

「ウィングブロックパージ!」

 

「エンジン出力最大!!急げ急げ急げェェェェェぇッ!!!!」

 

 

 150mミサイルをブロックごと切り離したバクゥ級巡洋艦は、出せる全力をもってしてその場からの離脱を計る。後少しと言ったところで、巨大な火球が後方で発生した。

 切り離した大型ミサイルが、暴走を起し自爆したのである。

 

 

≪ヴィーヴィーヴィーヴィー――――≫

 

「――ッ・・くそ、これまでか?」

 

 

その火球に呑まれた海賊船、神に祈った事も、神という概念を知らないキャプテンだったが、この時ばかりは何かに祈りたい気分だった。

 

 外部モニターは既にザーとした砂嵐、隔壁の幾つかが破壊され、空気漏れ警報が止まらない。既に非常用の宇宙服がイスから出てきており、ソレを装着しないと、もうすぐ酸素が無くなるような状態だ。

 

 それよりも問題は、フネを揺らす衝撃と装甲板越しなのに感じる熱波。

 これまで危なくない様に生きて来た海賊船キャプテンは、もうダメだと感じた。

 だが、その思惑が当たることは無かった。徐々に振動が引いて行き、やがて静寂となった。

 

 

「・・・た、助かった。のか?」

 

 

 誰かが漏らしたが、実際助かったかどうかは不明だ。なんとか動力は生きているものの、それ以外はほぼ全て破壊されている。現在は爆発の衝撃と、爆発から逃れる為にエンジンを吹かした事による慣性の力で動いているだけである。

 

 救援を呼びたくても、通信機もそとのアンテナが破壊された為、救援を呼ぶ前に修理を行わなくてはならないだろう。

 そして、彼らは爆発するミサイルから逃れる為に、エンジンを全開にして動いたために、慣性の法則にしたがい、何時の間にかクモの巣宙域を離脱する事となる。

 だが、これがまた彼らを救う事となると言う事には、中に居る生き残りの40人の海賊たちが知る由も無かった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

 海賊本拠地への攻撃を終えた白鯨艦隊は、次の攻撃の準備を進めていた。

 

 

「―――第5射、発射完了。しかしK級の加速板耐久値が限界です」

 

「放熱システムにも異常を検知、現在強制冷却処理中」

 

「―――砲雷班は第6射の攻撃は不可能と判断するぜ。艦長」

 

「ウス、サマラさんに連絡、Dフィールドの敵ミサイル艦を撃沈、そこを狙われたし、と」

 

「了解しました。サマラ艦に連絡します」

 

 

 先の攻撃の後、俺達はクモの巣へと動き出す準備を完了していた。

 そんな中、整備班のケセイヤから通信が入る。

 

 

『艦長、こちらケセイヤ。改造したK級だが思ったよりも船体フレームのダメージがデカイ。10隻中4隻は、戦闘行動への参加は無理だ』

 

「・・・・戦力低下になるッスが、まぁ仕方ないッスね。K級は後で回収するから、戻ってくるッスよ。これからが本番ッス」

 

『了解、すぐに戻る』

 

 

 さて、一体俺達がグアッシュ海賊団に対し、何をしたのか? 

 ぶっちゃければ、敵が感知出来ない距離からの超超長射程からの砲撃である。

それも1,5kmの長さがある、即席マスドライバーキャノンでの攻撃だ。

 

 

「サマラ艦の攻撃開始に合わせ、クモの巣を強襲するッス!各艦コンディションレッド!微速前進!」

 

「微速前進、ヨーソロ」

 

 

 白鯨艦隊は傷ついたフネを残し、戦いへと向かう。

 んで、話の続きだが、3kmのマスドライバーキャノンなんて普通は作れない。

 だって使用用途が無いし、かさばるし邪魔だ。普通に使うとしても精々小型艇の加速程度。

 

 正直デカさの割に、扱いにくいそれを持つのは、軍隊ならともかく常に状況が変化する0Gにとっては無用の長物でしか無い。文字通りデカさの意味合いでも無用の長物だ。

 だが、それは使い方によっては、通常の兵器よりも恐ろしい質量兵器となるのである。

 

 ケセイヤが当初、俺に提案したのは、フネの装甲板を特殊な加工を施し、マスドライバーの電磁加速レールとして機能するようにした特殊なフネを作ると言うモノだった。その為アバリスクラスの1000m級戦艦2隻を建造し、それを繋げた大型砲艦を作ると言ったモノ。

 

 だが、今回の作戦にはフネを建造する余裕などは無く、レール部分として機能する特殊装甲板しか完成しなかったのである。だが、ソコはマッドの底力、使えるものでなんとかすればいいじゃないと考えた。

 

 そこで思い付いたのが、既に改造を重ねて別のフネとなっているガラーナK級駆逐艦群だった。10隻の駆逐艦の側面に、特殊装甲を突貫工事で貼り付けて固定、それらを片方5隻ずつ並べて直列つなぎにし、長さ1500mのマスドライバーにしてしまったのである。

 

 当然、突貫工事の無理な改造な為、連射は無理だし耐久性も低く、壊れやすい。

 だが、その代わりに加速レールの電圧を、この世界の技術力で最大にしてあるのだ。

 その加速力は凄まじかったの一言で有る。

 

 ―――そして、これまた別の問題で命中率の問題があった。

 

 レールガン、マスドライバーキャノン共に、電磁加速・・・まぁ多少違うかもしれないが、電磁力を使う点では同じな為、詳しい説明は排除するが、加速速度が計算上光速に到達出来るか否かでしか無く、最初から光速で放たれるレーザーとは違いどうしても遅い。

 

 加速する時にも時間が掛る為、どうしても照準から命中までにタイムラグが発生してしまうのである。故に動いている標的に、大型艦クラスの電磁砲を当てるのは逆に難しいのだ。

 

 

 それを解決したのは、ユピテルが誇る超AI様が操る無人機部隊である。

 無人のステルス強化型RVF-0を、クモの巣から直線状に何機か配置。

 そして常にリアルタイムの観測データを、ユピテルの射撃管制に送り続けたのだ。

 それを超AIユピが処理し、データリンクによってMDキャノンへと伝えて発射したのである。

 

 別にHLシェキナの収束発射でも良かったのだが、どうしても光学兵器という都合上、距離が開くと威力が減衰してしまうという特性がある。宇宙は決して完全な真空では無く、薄くだがガスが浮かんでいる所為だ。

 

 その点、質量弾を使うレールガンやMDキャノンは、宇宙空間ではほぼ初速を落すことなく、目標に前進し続けることが出来るのだ。しかも、まだ停泊状態の敵を狙う訳だから、リアルタイムの観測情報により、7割以上の命中率を誇るのである。

 

 

 

「観測データ受信、命中弾は5発の撃ち2発、ですが敵側に被害甚大」

 

「まぁ、半分プラズマ化した質量弾だしねぇ。掠るだけで沈むフネもあるんじゃないかい?」

 

「ま、後はサマラさん次第ッスけどね」

 

 

 ま、突貫の即席兵器だったし、それ程効果は期待していない。

 俺達がしたのは、本命のサマラさんがする殲滅の露払いだ。

 先のK級艦MDキャノンの攻撃で、幾つか艦隊を巻き込んでいる。

 そこに出来た穴に、サマラさんの航行基地コクーンをぶつけるのだ。

 

 

「しっかし、基地手放すとか・・・海賊って儲かるのかな?」

 

「・・・・やめときなユーリ、まだ早い」

 

「あ、止めるって訳じゃないんスね」

 

 

 遠距離を映しているモニターに、自力でインフラトン・インヴァイターを稼働させて加速していく、航行基地コクーンの後ろ姿を眺めながら、次の艦隊戦に向けて準備をするように命令する俺だった。

 

***

 

Side三人称

 

 

クモの巣はてんやわんやの大混乱に陥っていた。準備していた大型ミサイル搭載艦隊が唐突に爆散してしまったからである。情報ばかりが錯綜し、正確な情報が上がって来ない。基本的に群れで行動こそするが、軍隊的行動を取らない彼らの弱点が浮き彫りになった形だった。

 

 ドエスバンがとにかく事態を収拾すべく部下に指示を出すモノの所詮焼け石に水、混乱は収まらないばかりか、どうして艦隊が爆発したのかを問う通信が殺到し、クモの巣の艦隊同士の連絡を請け負う通信設備がパンク状態に成程だった。

 

 しかし、これだけでは終わらない。彼らが混乱している間に、更なる死神がゆっくりと現れたからだ。ソレは一見するとタダの小惑星に見えた。だがよく見ると蒼白い光に覆われて、クモの巣へと迫って来ているではないか。

 

 先程まで混乱していた所為で察知が遅れ、衝突コースであることは確実、頼みの迎撃設備を稼働させようとも、艦隊が来ると踏んで展開していた艦隊が邪魔で撃つことが出来ない。海賊艦隊は今だ混乱していたのだ。

 

迎撃指示を出したのにもかかわらず、迎撃として大型ミサイルを発射したのはわずか数艦で有った。しかも、中には我先に逃げようとして、別の艦にぶつかり逆に逃げられなくなると言う始末である。だが死神は待ってくれなかった。

 

 

≪ズゴゴゴゴゴ―――≫

 

 

 巨大な落花生の様な小惑星を改造したサマラの移動基地コクーン。インフラトン粒子の輝きによって蒼白い光を発するソレは、文字通り死神の如く、容赦なくクモの巣へ衝突した。

 

 

≪ズズーーーーーーン!!!!≫

 

 

コクーンの針路上に展開していた海賊艦隊は、混乱の内にクモの巣と小惑星に挟まれて破壊され、衝突の衝撃でクモの巣を形成していた小惑星を繋ぎとめるパイプラインは拉げ、幾つかはちぎれて飛び去ってしまっていた。

 

 被害をこうむったクモの巣の生き残った通信設備には、全周波帯で背筋から凍りそうな程冷たい女性の哂い声がただひたすら流れているらけだった。

 

 

Sideout

 

***

 

 

Sideユーリ

 

 

 さて、俺達は既にクモの巣へとすぐに到達できる位置へと来ている。奴さんらが探知できる範囲のギリギリ外側と言う訳だ。俺は戦術モニターとにらめっこしながら、オペレーターのミドリさんに情報を聞く。

 

 

「アバリスとS級艦隊はどうなってるッス?」

 

「今の所問題無く、当初のルートを進んでいます」

 

 

 現在ユピテルとアバリスは別行動を取っており、ユピテルは数艦のK級護衛艦以外は付いて来ていない。戦闘出力で各種センサー波も放出しまくりだから、もうすぐ敵さんに気付かれるだろうなぁ。

 

 

「コクーンはどうなってるッス?」

 

「間もなく、クモの巣に衝突コースに入ります。衝突まで後200秒です」

 

「・・・・派手だね。ショータイムって所か」

 

「(ビリヤードみたいなことになるんだろうなぁ)」

 

 

 こうボールをナインボールに当てたみたいにポカポカと・・・宇宙規模だからスゲェ派手だろうけどな。モニター状では大きめのグリッドで表示された移動基地コクーンが、もうすぐクモの巣の外延部に到達するところだった。

 

 光学映像モニターでもインフラトン粒子を派手に噴き出しながら加速していくコクーンの姿が映し出されている。流石にクモの巣側も気が付いたらしく、

 

 

「クモの巣の外延まで後20秒・・・・10秒・・・3,2,1、命中します」

 

≪ズズーーーーーーーン!!≫

 

「おお!重力波がユピテルにまで到達したッス」

 

 

 モニターにはコクーンに追突されて、パイプラインが拉げてコロニーを形成していた小惑星の幾つが弾け飛んでしまった海賊基地クモの巣の姿が映し出されていた。そこかしこで爆発が起こっている所を見ると、大分敵の艦隊を巻き込んだ様だ。

 

 無事な艦隊もなんとか逃げだそうとしている連中が見受けられる。まぁこんな攻撃されたら戦意も何も無いわなぁ。

 

 

「敵推定艦隊の7割を撃破」

 

「大分そげ落とせたみたいッスね」

 

「ああ、だがココからが正念場だよ」

 

 

 古来から窮鼠猫を咬むということわざがあるように、追い詰められた敵が何をしてくるか解ったモノでは無い。ソレは人間相手でも言えることで有り、背水の陣と言う状態に敵はあるのだ。油断なんて出来やしない。

 

 

「ユピ、サマラ艦と回線を」

 

「了解しました艦長」

 

 

とりあえず、サマラさんとこと連携を取りたい。

 変なタイミングで攻撃を仕掛けて、お互いの邪魔をしちゃ悪いからな。

せめてタイミングだけでも行っておかないと・・・。

 

 

そう思い通信を繋いで貰ったのだが―――

 

 

『アハッ・・・アハッ・・・アハハハッ・・・アハハハハハハハハハッ!!!!』

 

 

―――何と言うバカ笑い・・・もとい冷笑だろう。

 

 

「・・・・めっちゃハイテンションッスね」

 

「はぁ~、サマラの悪い癖さ。感情が一定を越えた途端、堰を切ったようになるんだからな」

 

「アレは喜んでるッスか?」

 

「ああ、めちゃめちゃ楽しんでるんだろうさ。脳内麻薬出まくりッて所だろう」

 

 

 俺達は全周波帯に入るサマラさんの爆笑する声を、少し引きながら聞いていた。

 しかし、彼女の爆笑はともかく、この戦い方はまさに“無慈悲な夜の女王”。

 慈悲の一つもありゃしない・・・嬉々として生き残り艦隊へ吶喊してら。

 

 

≪ヴィー、ヴィー≫

 

 

――と、その時警報が艦内に響く。どうやら生き残りがいたらしい。

 

 

「どうしたッスか!?」

 

「クモの巣方面から、大型艦船複数接近中!」

 

「艦種は?」

 

「艦種は・・・・装甲空母!識別はザクロウのです艦長!」

 

 

 どうやらドエスバンが乗った船らしい。まだ逃げる気かあのおっさんは――

 

 

「艦長、保安局艦より通信が届いています」

 

「え?内容は?」

 

「現在保安局艦隊が急行中、到着は2時間後、ドエスバン所長は情報を得たい為、生かして捕えられたいとの事です」

 

「・・・成程、確かにヤツは人身売買の情報を握っている可能性もあるね」

 

 

 成程、俺らはこの先のムーレアに行ければ良い訳だから、グアッシュを潰せばソレで良い訳だ。そしてそれは既に達成されている。あそこまで沈没船から脱出するネズミ並に逃げているドエスバンがどう頑張ろうとも、この宙域であの規模の海賊団を作ることはもう出来ないだろう。

 

 なにせグアッシュという人物が作って有ったグアッシュ海賊団という下地があったからこそ、ドエスバンと言う男が頂点になっても、機能し続けた訳だしな。それを潰したのだし、俺ら敵にはこれで一件落着に出来る。

 

 だが保安局の仕事はまだ終わっていない。海賊に捕まって何処ぞへと送られた人間の追跡を行い話無いといけないんだからな。あー、だとしたらクモの巣潰しちゃ不味かったか?まぁ人身売買の拠点はザクロウだったらしいし、クモの巣には情報は少ししか無いかもしれないか。

 

 だからドエスバンを捕まえたい訳だ。直接人身売買の指揮とってた訳だし、腹の足し程度には情報を持っている。それを吐きださせなきゃならん訳だ。

 

 

・・・・下手に協力を断って、公務執行妨害的な罪状渡されたくはないな。ウン。

 

 

「ウス、ミドリさん保安局艦に返信、なるべくやってみると応えておいてくれッス」

 

「了解」

 

 

 この間0,01秒・・・・ってのは嘘で10秒程度はかかっていたりする。

 仕方ねぇよ。俺凡人だから、何処ぞの名艦長みたいにぽんぽん名案なんて浮かばねぇさ。

 

 ソレはさて置き、ドエスバンは生かしたままで交戦か・・・・。

 これまた凄まじく大変だな。

 

 

「総員砲雷激戦用意!コンディションレッド発令!艦載機部隊の発進急げ!」

 

 

 俺の指揮に従い、艦内が動き出す。I3エンジンが唸りを上げ、エネルギーを戦闘出力へと押し上げていくのだ。そしてフネのエネルギーは全てエンジンから賄われている。フネに活気が入ったという表現は、間違いでは無いだろう。

 

 敵さんは射程範囲に入っている。VF隊も次々とカタパルトから発進し、編隊を組んで漆黒の宇宙へと消えていく。その編隊に随伴している偵察機仕様のVFからリアルタイムでの戦闘映像と情報が届き、ソレらをCICにて分析、何をすればいいのかを考えていく。

 

 そして最適化された情報が、俺の居る艦長席のコンソールに示されるって訳だ。そんな訳で最終的に決めるのは俺だけどな。

 

 

「空間重力レンズ形成を確認、シェキナ立ち上げ完了。目標敵艦隊護衛艦群。何時でもイケるぜ艦長!」

 

「良しッ!てぇっ!」

 

 

≪ビシュシュシュシュシュ――――≫

 

 

 俺の砲撃発射の指示と共に、艦内に冷却機の音が響く。艦側面部に設置されているH(ホーミング)L(レーザー)発振体から弧を描くように放たれた光弾の群が、前方敵艦隊へと迫っていく。俺は命中確認を聞く前に指示を更に出して行く。

 

 

「トスカさん!アバリスの位置は?」

 

「丁度、奴さんらの背後だねぇ・・・やるかい?」

 

「ええ勿論ッス」

 

「了解、アバリスに通達!“浮上せよ”だ!」

 

「シェキナ、敵護衛艦隊に命中、護衛艦群多数大破、敵旗艦健在」

 

 

 敵艦隊の前衛を一気に蹴散らした為、敵艦隊は船脚が低下した。

 そして、今までステルスモードで隠れていたアバリス達も、ステルスモードを切って姿を表した為、唐突に背後に敵が現れたことで海賊はさらに混乱する。此方から発進したVF部隊とアバリス側から発進したエステバリス隊が、海賊艦隊へと迫った。

 

 

「――ッ!敵艦から多数の艦載機と、分離した何かを探知~!」

 

「まさか大型ミサイルか!?」

 

「数は6、あ!いま別のフネも発射!本艦に向けて14機接近中!」

 

「追い詰められて、本当に撃ちやがった」

 

「K級R(リフレクション)L(レーザー)C(キャノン)に迎撃させろッス!シェキナも拡散モードで投射開始!!」

 

「了解!!」

 

 

 迎撃の大小様々なレーザーが大型ミサイルへと放たれるが、どうやらミサイルの癖にAPFSを展開しているらしく、表面を焼くだけになってしまっている。VF隊も攻撃したが、装甲が厚く中々食い破れない。

 

戦艦クラスのレーザーの直撃は流石に応えた様だが、それでも損傷部分を切り離して逆に加速して接近して来ている。しかもどうやらT(タクティカル)A(アドバンスト)C(コンバット)マニューバと呼ばれる艦隊に使用される回避運動制御システムまで組み込んであるようだ。

 

 

「――ッ!無人艦が!」

 

 

 運悪く展開していたK級護衛艦の一隻が、大型ミサイルの直撃を受けて火球をなった。幸い人手不足がまだ続いている為、アレは無人艦だったが、すぐ隣には有人鑑もいたのだ。少しでもミサイルの軌道がずれていたら、有人鑑が・・・そう思うと背筋が寒くなった。

 

 

「ええい!レーザー連続照射ッス!何としても落すッス!」

 

 

だが、高々150mのミサイルに搭載されているシールドなので、レーザーを浴びるたびに徐々にシールドが減衰していくのが見て取れた。シェキナも拡散モードでは無く、通常砲撃へと切り替えた。考えてみれば相手は150m近く有るのだし、拡散にしなくても十分当たる。

 

流石に対艦レーザーとしてのシェキナにはシールドが耐えきれなかった様で、大型ミサイルは次々と破壊されたが、近づきすぎた為に生き残ってしまった残り6機が迫る。

 

 

「く!避け切れない!」

 

「ダウントリム30!面舵一杯!デフレクター出力最大!」

 

 

 ゴゴゴと各部のスラスターとアポジモーターを全開に吹かし、艦首を下げつつ左へと舵をとり、その巨体が持つ強力なシールドでミサイルを逸らせようと焼きつくのも構わないと全力展開した。スラスター制御により集中展開される左舷スラスターが明るく光る。

 

 

「左舷側の90番台までのスラスター全力噴射!って焼けついちまうぞ!」

 

「ミサイル避け切れません。命中コース3発、デフレクター衝突まで後10秒」

 

「総員対ショォォォォォォックッ!!」

 

 

 1発2発、回避成功、3発目がデフレクターと接触し、火花を飛ばして明後日の方向へと飛ばされる。そして4発目がデフレクターと衝突した。モニターが焼けつくほどの光が、辺りを照らすと同時に、強烈な振動がユピテルを揺らす。

 

 続いて5発目6発目が命中、デフレクターに守られているとはいえ、ショックアブソーバーの限界を超えて中の人間がシェイクされる程度のクェイクが発生する。

日本語でおk?ようは凄まじい振動って事だ。ゲロするかと思ったぜ。

 

 

「っく!デケェ衝撃だなオイ!」

 

「デフレクター・システムダウン」

 

 

 ちょっと戦闘中には聞きたくない報告が、ミューズさんの席からもたらされる。

 

 

「え!?」

 

「復旧まで450秒」

 

 

 それを捕捉する形で、ミドリさんが報告を加えた。大型ミサイルのあまりの攻撃力にデフレクターがシステムダウンを起してしまったのだ。しばらくは物理攻撃に対して自前の装甲板で相手しなきゃならん。まぁもう敵の護衛艦は潰してあるし、降伏は時間の問題だろう。

 

 

「敵艦から艦載機編隊が発進」

 

 

そしてもうやけになったのか、装甲空母からまた艦載機が発進した。

 だがこちらもVF編隊の展開は完了している為次々落される。

何のために発進したんだろうか・・・さて、そろそろかな。

 

 

「トランプ隊、敵艦載機と交戦――っと、装甲空母、エステバリス隊に取り囲まれます」

 

 

そして俺らがミサイルの攻撃にさらされている間に、彼らの背後に展開していたアバリスとS級護衛艦艦隊が吶喊。敵武装を破壊して取り囲んでいた。この世界のフネって一部を除いて背後の守り薄いもんなぁ。ウチは死角無いけどね。

 

 アバリスの艦長はトーロ、あらかじめ敵が此方に食いついたら攻撃するように指示を下して置いたのだ。もっとも食いついたと言うよりかは、前しか見ていなかったって感じだったけどな。

 

 

「――降伏勧告を打診ッス。流石にも詰んだのは相手も解るでしょ」

 

「了解、降伏勧告を行います」

 

 

 そして降伏勧告をピポパ、これで受諾すれば良し、しなければ強引に占領して捕まえる。

 でもまぁ、あいつ等の行動パターンみてりゃ、どうなるかは想像付くけどな。

 

 

「敵艦降伏勧告を受諾、インフラトン機関の出力が下がっていきます」

 

 

 ホラな。敵さんは降伏した。そして今回もなんとか無事に切り抜けられたのだった。

はー、しかし護衛艦一隻が撃破か・・・まぁ艦隊戦で人的被害が出なかっただけマシか。

人死には出ないに越したことは無いぜ。フネなら交換が利くけど、人間はそうはいかねぇからな。

 

 

「保安部!白兵戦の準備をして突入!内部も確実に制圧するッス!」

 

「アイサー」

 

 

 とりあえず最後の支持を出して、俺はイスに深く座り込む。

 あー艦隊戦は楽しいが、やっぱ大変だぜホント。

 

 

***

 

 

 すこしして、保安局の艦隊が来たので、俺達は捕まえたドエスバンとその一味を保安局のフネに引き渡した。ホントならクモの巣に行って、ジャンク集めでもしたいところなんだけど、現在あそこら辺ではサマラさんによる撃沈祭り開催中なので近寄れないのだ。

 

 サマラさんが満足するまでは、保安局は勿論のこと俺達も近寄れない。

あそこにいる残存海賊艦が哀れでしょうがねぇぜ。

 

 

「保安局のバリオ宙尉から通信です艦長」

 

「繋げてくれッス」

 

『聞えるか、ユーリ君。ザクロウ所長のドエスバン・ゲスの捕獲協力に感謝する』

 

「ふぅ、これで終わりッスね~お疲れっしたー」

 

 

 少なくてもドエスバンを捕まえた訳だし、グアッシュはもう再起出来ない事だろう。

 各地に逃げ去った海賊船もわずかにいるが、終結しても今回ほぼ無傷の保安局艦隊が駆逐できる程度の勢力でいしか無いからな。

 

 

『終わりか・・・・それならいいんだが・・・』

 

「え?何そのフラグ立てる台詞・・・」

 

『フラグ?』

 

「あ、何でもないッス」

 

『ふーん、まぁいい。とりあえずドエスバンを問い詰めれば色々と解るさ。ああ、あと俺はヤツを保安局まで連れて行くが、後で君も顔を出してくれよ。礼もしたいしな』

 

 

 礼、か。そういや護衛艦が一隻大破しちゃってんだよな。

 ・・・・・経費で落ちないかしら?って俺保安局員じゃないからムリー。

 流石に護衛艦一隻分は保証してくれねぇだろうなぁ。赤字やぁ~、とほほ。

 

 

「了解です」

 

 

 そして俺はそんなことを億尾にも出さずに通信を終えようとした。

 だがその時いきなり通信ウィンドウが開かれた。

 

 

『では我々もこれで失礼させて貰おう』

 

「・・・ってサマラさん、何時の間に回線に」

 

『ふん、私は海賊だ。通信回線に割り込むことなどたやすい』

 

 

 海賊ってそう言うもんなのか?

ふとバリオさんを見ると違う違うという仕草をしている。

まぁサマラさんだからか・・・。

だよなぁ、星ぶつけるなんて豪快な作戦を実行しちゃう人だしな。

 

 

『とりあえず、一つ教えておいてやる。今回の連中は只の海賊では無い』

 

「タダの海賊じゃない・・・・と言う事は!海賊の中の海賊!その名も海賊エリート」

 

『・・・・私は話しの腰を折られるのはあまり好きじゃないんだ』

 

「あ、ごめんなさいっス。だから展開しようとしているリフレクションビットは締まって欲しいッス。割と切実に・・・」

 

『・・・・次は無いぞ』

 

 

 なんじゃい、少茶目っ気だしただけやんか。

少しくらいユーモア出してもええやろが。

 

 

『はぁ、とりあえず背後に居る連中に気をつけろ。ソレとトスカ!その少年は面白いが、もう少し相手を選んだほうが良いぞ』

 

「はは、コイツはコイツで面白いからいいのさ」

 

 

 むむ、何ぞ失礼なことを言われている様な気がするぞ?

 

 

『ふ、それじゃあな少年、また何時か共に戦える時に会おう』

 

『俺達も帰るぜ。また寄れたら来てくれよ~。犯罪者で無い限り歓迎してやるよ』

 

「お二人とも、さようならッス。また何時か会おうッス」

 

 

 通信が切れ、バリオさんは宙域保安局のあるブラッサム方面へ、サマラさんは自分たちのテリトリーであるザザン方面へと舵を向けて、それぞれ別々の方向へと宇宙の闇に溶けていった。

 

 

「・・・はぁ、ようやく終わったッス」

 

「今回は結構強行軍だったねぇ。何処かで休暇を入れないとダメじゃないか?」

 

「序でに宴会も・・・でしょ?」

 

「当ッ然。流石は艦長、解ってるねぇ」

 

「ま、これでムーレアに行ける様にはなったッス。だけど一度休息と取らないとマジで不味いッスから・・・・ユピ」

 

「はい、近隣の惑星のリストです。何処に行きましょうか?」

 

 

 とりあえず、のんびり出来る場所が良いな。適度に自然があって近い惑星は・・・。

 適当にデータベースに記載された惑星データを見る俺。ふむふむ。

 

 

「良し、ゾロスに向かおうッス。自然が多い欲しみたいッスからね」

 

「ゾロスか。ムーレアにも近いし、良いんじゃないかい?―――そう言えばゾロスには火炎ラム酒が売ってたねぇ。宴会するにも丁度良いね」

 

「リーフ、針路をゾロスに向けてくれッス。トクガワさん、エンジンスタートッス」

 

「「アイサー」」

 

 

***

 

 

 さて、やってきたのはムーレアにほど近い超辺境惑星ゾロス。

 それなりに海があり、緑も豊富・・・というか未開発の星だった。

 

 

「いやー、まさか0G酒場がやって無いとはねぇ」

 

「お陰で近場の居酒屋を貸し切り・・・はぁ0G割引使えないから高くつくなぁ」

 

「艦長しみったれたこと言うなよ。そんな時はアレだ飲むに限るんだぜ?」

 

 

 へいへい、良いですよねー。この後の経理から漏れた書類は全部俺に回るんだぞ?

 とりあえず宴会は夜に予約して朝まで貸し切りとした。どうせ騒ぐならその方が良いだろう。

 日中は遊ぶに限る―――てな訳で。

 

 

「やってまいりましたゾロスの赤道直下大海水浴場!」

 

「「「「わーーーーーー!!!」」」」

 

 

 そう、惑星自体が街の様な感覚であるこの世界、惑星内での移動は非常に安く楽に行えるようになっているのだ。簡単に言えば電車で二駅分位の料金でSSTO(宇宙往還機)にのって惑星中好きな場所を回れるのだ。利用しない手はあるまい。

 

 そう言った訳で、なんとなくソラから見てたらこの星の海が比較的綺麗に見えたので、やってきたという訳である。だがとりあえず突っ込みたい―――

 

 

「なんで整備班の男どもがこんなにいるんスか」

 

「ソレはな艦長。俺達が休暇を貰いせっかくナンパをしようと思ってきた海に、偶々艦長が来ていただけの事なのさ」

 

「ふーん、状況説明ありがとケセイヤさん」

 

「いやいや何の何の」

 

「――――って待て待て待て!それは不味いだろ!」

 

 

 地上の人間に迷惑をかけないのが0Gの鉄則じゃ―――

 

 

「・・・・艦長は俺達の出会いの場を奪うのかい?」

 

 

―――とりあえず、その手に持ったスパナとかしまって欲しいなぁ。なんて。

 

 

「あ、いや・・・うん、海はいいよねぇ。いいんじゃないかな?ナンパ」

 

「艦長公認だオメェら!迷惑にならない様に紳士的にやるぞ!」

 

「「「「「「おおおお!!!」」」」」」

 

 

 いや、ナンパで紳士的とか有るんかいな?

 とかなんとか突っ込む前に、整備班連中は消え去っていた。

 早いなオイ!砂浜で砂を巻き上げて走る人間なんて初めて見たわ。

 

 

「ま、彼らも息抜きが必要なのさ。少年も楽しまなければ損だぞ?」

 

「・・・・・なぜにミユさん来てるんスか?」

 

 

 おかしいな整備班連中と言い、この人と言い、何で俺の行く先に知り合いがいるんだ?

 今回は誰にも声かけないでふらりと偶々見かけたSSTOに乗りこんだってのに・・・。

 

 

「深く気にしたら疲れるだけだよ少年」

 

「・・・・そんなもんスかねぇ?で、なんでミユさんは白衣来てるんスか?」

 

「これは私のトレードマーク。脱ぐときは寝る時くらいだよ」

 

 

 いやそうは言いますがね?なら何で白衣の下水着何スか?

 アレですか?どこぞの人造人間作ってる泣き黒子が特徴の博士ですか?

 え?違うの?

 

 

「ここは海水浴場だ。水着着てないと入れないだろう?」

 

「いやまぁそう何スけど・・・」

 

「それに少年も完全武装では無いか」

 

 

 ミユさんはそう言うと俺の姿を見てニヤニヤと笑う。

 俺もここで買ったしなぁ水着。オーソドックスなトランクスタイプ。

 序でに何故か売っていたアロハシャツと麦わら帽で完全装備だぜ。

 

 

「ま、しゃーないっス。俺も楽しむッス」

 

「その方が良いだろう。他にも来ている連中と楽しんだらどうだい」

 

 

 その口ぶりだと、他にも一緒に来ている人がいるのか?

 そう思っていたら、此方へと近づいてくる人の気配が複数。

 

 

「ミユさーん、飲みモノ買って―――って、あれ?艦長も海水浴なのかい?」

 

「き、奇遇ですね艦長」

 

「ありゃ?ルーべとユピも来てたんスか?」

 

 

 そこに居たのは我がフネの機関副班長のルーべと、何故か顔が紅くすこし口調が変なユピがそこに居た。二人ともリゾートらしい格好で、ルーべはスポーツ系の水着の上にパーカーをはおり、ユピは青のセパレートだ。

 

ふーん、女性三人衆とか珍しい組み合わせやね。

三人とも系統が違う美人さんだから、ナンパが多そうだな。

 

 

「ボクはミユさんに誘われてね!艦長は一人で来てたのかい?」

 

「俺もまぁ息抜きに来たって感じッスかね」

 

「じゃあ、ボク達と一緒に遊ぼうよ!いいでしょうみんな?」

 

「わ、私はかまいませんよ!むしろ喜んで!!」

 

「ふふ、ユピは面白・・もとい可愛いな。当然私もOKだよ少年」

 

「・・・・それじゃ、お言葉に甘え様ッスかね」

 

 

 なんか話の流れで俺も一緒に行動する羽目になった。

 まぁいいか、どうせ夜までに戻ればいい訳だし、俺がいなくても向うは向うで勝手に宴会始めちゃうだろうしな。SSTOは24時間営業です。

 

 さて、せっかく海に来たのだし色々と楽しまなければ・・・・。

 

 

「うみだー!」

 

「「わー!」」

 

「ぱらそるだー!」

 

「「わーー!!」」

 

「トロピカルドリンクだー!」

 

「「わーーーー!!」」

 

「そして何故か俺アロハだー!」

 

「「わーーーーーー!!!」」

 

「そして俺はぱらそるの下に寝そべるのだー!」

 

「「わー!ってコラ艦長!」」

 

 

 な、なんやええやんか!俺泳げないんだから。

 フネに泳げるプールとかだってないし、前の世界でもカナヅチだったし。

 だからそんな「ええ、あそこまで乗っておいて」的な目で見ないでー!!

 俺の繊細なガラスのハートがブレイクしちまうよ!

 

 

「ふむ、少年の意外な弱点だな。泳げないなんて」

 

「宇宙遊泳は出来るんスけどねぇ~」

 

「いや、それ泳いだウチに入らないよ艦長」

 

 

 ですよねー。

 

 

「あ、あのう。だったら私と一緒に練習しませんか?私もこの身体になってからは海は初めてで」

 

「お、良い考えかもね。ならボクが2人に泳ぎ方を伝授しようじゃないか!」

 

「い、いや、オイラは別に泳げなくても生活に支障は―――」

 

「いいじゃないか少年。何事も挑戦だぞ?」

 

 

 い、いやですから俺はあくまで息抜きに来たんであって、新たな世界に飛び込む訳じゃって二人とも何故に肩を掴むのですか?ちょっと引っ張らんといてって聞いて無い?!

 

 

「泳げるのは楽しいんだよ!」

 

「その、頑張りますから」

 

 

 頑張るって何!?まってー!まだ心のじゅんびがーーー!

 

 

 

 

 

アッーーーーーーー!!

 

 

 

 

 

 そして、夕方になるまで、俺は泳ぎの練習をさせられた。

 片方は健康的な褐色少女、もう片方は脱いだら凄いポニー少女。コレどんな拷問?

まぁとりあえずバタ足が出来るようになったのはいいけどさ。

 泳げないから何度か抱きついた程度多めに見てくれる娘達で助かったよ。 

 

 

 そして整備班に呪の視線を浴びせられつつ、SSTOに乗って宴会へと向かう俺だった。

 どうやら整備班連中はナンパ全滅、そして俺が美少女二人と泳ぎの練習をしているのを見ていたらしい。

 

 ああ、しばらくはユピと一緒に行動しないと、フネの中が危険過ぎるぜ。

 しかし、泳ぎの練習終わった後もユピは顔が赤いままだったけど・・・どうしたんやろね?

 

***

 

あのう、なぜにボカぁ縛られてるんでしょうか?しかも簀巻き。

 

 

「くすくすくす・・・おめざめかしら?」

 

「ちょっ!チェルシー!?というか何でメーザーブラスター持ってんの?」

 

 

 彼女の手には、メーザーブラスターが握られている。

 しかもモノっそごっついヤツ。確かライフルとしても使用可能なタイプだっけ?

 

 

「ユーリィ、海に行ったんだって?しかも、女の子と一緒に、ケセイヤさん血の涙流してたよぉ?」

 

「そ、そんなにくやしかったんかいあのおっさん・・・」

 

「で、ユーリは女の子とキャッキャうふふなことをしてたって聞いたんだよぉ?」

 

≪ガチャ≫

 

 

 ・・・・うわはーい。俺の額に冷たいモノが当たってる~~。

 って待てゐ!何故俺が銃を向けられねばならんのだ!?

 

 

「ま、まってチェルシー、俺はただ彼女たちに泳ぎを習っただけ何スよ」

 

「ユピは、やわらかかった?」

 

「そりゃもうやーらかくていい匂いが・・・・あ」

 

 

 あまりにナチュラルに聞かれたので、ナチュラルに返しちまったぁぁぁぁ!!

 ひぃぃぃぃぃ!眼が笑って無いのに笑みが深くなってくぅぅぅぅぅ!!

 

 

「くすくすくす・・・・ぎるてぃ、だよ♪」

 

「う、うわぁーーーーー!!」

 

≪ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン、ドン―――――カチカチ≫

 

「うふふ、これでユーリはわたしのもの・・・・くすくすくす」

 

 

 

…………………………

 

 

……………………

 

 

……………

 

 

 

「ぶはぁっ!!??―――――夢?」

 

 

 俺は何かにうなされて、ベッドから飛び起きた。

寝ている内に搔いた汗が、服をべっちゃりと下着まで濡らしていて気持ちが悪ぃ。

相当な悪夢だった。まるで誰かの怨念が俺に悪夢を見せようとしているかの様な感じだったぜ。

 

 

「夢、か・・・・つーか、なんて夢見てんだ・・・」

 

 

 そして罪悪感を覚える。幾ら黒化チェルシーでもあそこまで怖くねぇよ。

 疲れてるのかなぁと思いつつ、部屋のシャワーを浴びにベッドを立った。

 俺の枕の横に、小さく焦げた黒い穴が空いていた事には気が付かずに・・・。

 

 

***

 

 

『艦長、惑星ムーレアに到着しました。ブリッジにお越しください』

 

「了解、すぐ向かうッス」

 

 

 部屋でフリータイムを楽しんでいると、フネがどうやら目的地に到着したらしい。

 ミドリさんからの通信を聞いた俺は、今まで呼んでいた『ドキ☆子猫だらけの写真集』なる子猫中心の写真集を棚に戻した。いいよねヌコは。本のタイトルがアレなのは残念だけど。

 

 部屋から出ようとすると、何時の間に来たのだろうか?

 何故かそわそわした感じのユピがドアのすぐ横に立っていた。

 

 

「ありゃ?ユピどうしたんスか?」

 

「え、えっと・・・い、いっしょにブリッジまで行こうかと思いまして」

 

「ふ~ん、じゃ行きますか」

 

 

 なんやろう?なんかゾロスの海水浴場行ってから、ユピが少しおかしいな。

 俺といると顔とか赤くするし、仕事中は意識切り替えてるのかそう言うのは無いが・・・。

 ・・・・・・・よし。

 

 

「なぁなぁユピ、この間ゾロス行ってから体調おかしくは無いッスか?」

 

「?――いえ、ナノマシンの自動調整機能は100%働いていますので、特に変化は無い筈ですが・・・」

 

「そう何スか。いやなんかゾロス行ってから、ユピの様子がおかしかったから心配で、何か悩み事でもあるんスか?」

 

 

 フネに対して悩み事ってのもおかしな話だが、ここまで人間っぽいと時たま彼女がフネの統合管制AIだってことを忘れちまう。いい子だし何か悩みがあるなら聞いてやるのも艦長の仕事っしょ。

 

 

「・・・・・その、実は海水浴に行ってから、その――」

 

「その?」

 

「・・・・・やっぱり何でもないです」

 

「・・・・そうスか。ま、男の俺にゃ相談できない事もあるッスよね。ユピは女の子なんだし」

 

 

 なはは、ちーとばっかしデリカシーに掛ける質問やったな。失敬失敬。

 ま、女性特有の問題的なモノならホラ、トスカ姐さんとかも居るからな。

 そういう人達に聞いた方が良いだろうさ。何せまだ0歳なんだしな。

 

 

「そう・・・ですね(鈍感・・・)」

 

「ん?なんか言ったッスか?」

 

「何でもないです!早く行きましょう!」

 

「????」

 

 

 ―――何で機嫌悪くなったんだ?むむ、女性の事は解らんのう。

 

 

***

 

 さて、ブリッジに着いた俺は、さっそく自分の定位置である艦長席へとすわる。

 コンソールに手を置き、指紋認証と網膜スキャン、声紋認証を行う。

古典的な認証方式だが一応これで艦長席の機能が解除されるのだ。

ぶっちゃけユピに頼めば解除可能だけどさ。

そこはほら?様式美ってヤツ?何事にも形って言うのは重要なんだぜぇ。

 

 

「惑星ムーレアか・・・・・」

 

 

ピッピッと適当にコンソールに表示されるデータを流し読みしたが・・・。

 

 

「・・・・・・何も無い星?」

 

「住人がいない星じゃからネ。多分、星外から訪ねた人間も、ここ10年で、わしらくらいだろうて」

 

 

 ふと気が付くと、俺の後ろにジェロウ教授が後手に手を組んで立っていた。

 何時の間にブリッジに来てたんだろうかこの爺さん?

 

 

「あ、教授。あざーす。ようやく着いたッスね」

 

「うん、君達のお陰でようやく来れたネ。とりあえず早くステーションに行って惑星に降りよう」

 

 

 まぁそれはさて置き、とりあえず何故か無人惑星なのに普通に活動している通商管理局の無人ステーションへと向かう。無人とはいえ機能はちゃんとしているらしく、此方からの寄港要請に応じて誘導ビームを出してくれた。 

 

 大抵のステーションは数キロ程度のフネなら中のドッグに収容が可能となっている。

 惑星の静止衛星軌道上に、軌道エレベーター付きのステーションおっ立ててるとかどんだけぇ~って感じだよな。

 

 

「接舷完了、エアロックチューブ接続、ドッグ内気圧0.8」

 

「うんじゃ、降りて調査に行きますかねぇ」

 

 

 科学班と護衛の保安部員が数名、それと興味を持った連中といった自由な構成で向かう事にする。俺は艦長だが、せっかくの学術的遺跡だって言うじゃないか。しかも異星人の、見なきゃ損だね。そう言う訳でオイラも同行するのだ。

 

 

「砂だらけの星だから、あんまり面白そうなとこは無さそうだねぇ」

 

「なんなら残ります?フネに」

 

「じょーだん、私はユーリの副官だ。何処までも付いて行くさ」

 

 

 そいつは嬉しいねぇ。ま、それはともかく。ムーレアに降りますか。

 必要機材とかで軌道エレベーターに乗せられない様なモノは、小型艇を出すことになった。

 精密機械だから分解出来ないヤツってのもあるらしい。

 普通大気圏突入なんて、凄まじい衝撃が発生しそうだって思うんだが、大気圏突入もこの世界じゃ飛行機の振動と変わらない程度だ。技術進歩万歳ってヤツだろう。

 

 そして降り立ったはいいんだが、何処まで言っても砂漠って感じだった。

 イメージ的にはサハラ砂漠の砂エリアと同じような感じ。

 砂丘が所々形成され、一応軌道エレベーター周辺は管理ドロイドによって守られているが、放置されたら数年で砂に埋もれてしまう事だろう。

 

 

「で、教授。遺跡ってのはどこに?」

 

「うむ、そこじゃ」

 

「・・・・・偉い近いんスね」

 

 

 ジェロウ教授が指差したのは、なんと軌道エレベーターがある場所から300mも離れていない場所だった。よく見れば石で出来ているアーチや柱の様な建造物が砂に埋没しているのが見て取れる。

 

 

「なんでこんな近い場所に・・・」

 

「わしもしらないヨ」

 

 

 まぁ近いから便利だしいいか・・・いいのか?

 とりあえず遺跡を見に行かないとな。

 

 

「科学班は予定通り教授と共に調査開始。各グループ機材搬入を急がせろっス」

 

「「「「「「了解!」」」」」」

 

 

 一応調査用の高価な機材らしいしな。持ってきた手前使わないと勿体無い。

 ひとまず調査ベース設営は部下に任せ、俺らは一足先に既に入れる遺跡を見て回ることにした。

 

 

***

 

 

「ここじゃ!まさしくここが、エピタフが眠っていた遺跡!ほれほれ何をしておるさっさと入るぞ!」

 

 

いや、そうは言いますがね教授?

 

 

「す、砂に足を取られて、ってうわった!」

 

 

 長いこと宇宙暮らしだったから、砂場の感覚なんて忘れちまってるせいで、砂に足とられて動きずれぇぞおい!つーか他の連中も馴れて無くて四苦八苦してるのに、何で教授は平気なんだ!?

 

 

「だらしないネ!わしは先にいってるヨ!!」

 

「って早!?速いッスよ教授!?」

 

「・・・・教授って杖付いて歩いてたよな?何で砂の上走れるんだ?」

 

「多分知的好奇心が、肉体のポテンシャルを底上げしとるんじゃよー、と」

 

「執念ってヤツかねぇ?」

 

 

 学者の執念は猫の執念より強し、って感じか?

 すこししてある程度砂場の歩き方に馴れて、歩いて遺跡に行くと既にジェロウは遺跡の狭い入口を抜けて、地下へと続く階段を下りていた。なんつーアグレッシブな・・。

 

 

「ここがエピタフ遺跡・・・」

 

「なんつーか、神聖な感じが漂うって感じか?」

 

「おお、トーロにしては珍しくらしくない事を」

 

「らしくないってなんだよ?」

 

 

 しかしトーロの言う事ももっともだ。ココは地下にありながら、どういう訳か済んだ空気で満たされている。壁の紋様は幾何学的で不可思議であり、意味があるようでない様な物を描いていた。しかもその紋様はどういう訳か薄く光っていたりする。う~んSFだねぇ。

 

 

「一体この遺跡、何で出来てるんスかね?」

 

「床は・・・・堅いな。レーザーナイフ程度じゃ弾かれてしまう」

 

「岩の様な、金属の様な・・・見たことない物質だねぇ」

 

 

 たしか遺跡の材質ってエピタフと似通ってるんだっけ?だとしたら堅さだけでもダイヤモンドクラスか・・・。エピタフの材質が4窒化珪素SI3N4に似たダイヤモンド格子って言うくらいだし。

 

 

「艦長、すこしこっちへきてくれんか?」

 

「あいあい、何スか教授?」

 

 

 俺は教授に呼ばれて高台へ上った。なんかジェロウ教授が指差している所を見てみる。

 そこには人工的に加工された10センチ四方のくぼみがある。

 

 

「どう、思うかネ?」

 

「立派な台ッスねぇ」

 

「いや、見るのはソコじゃなくてネ?」

 

「この形・・・・豆腐が丁度すっぽりと――――す、すんません。学がないもんで」

 

 

 うわ、なんか可哀そうな目で見られた。しかもマッドサイエンティストに・・・・。

 び、びくん!く、くやしい、でも感じ(ry

 まぁ冗談はさて置き本題に入ろうじゃないか。

 

 

「まったく、ニブイネ。艦長はエピタフを持っていたのだろう?」

 

「・・・・・・・(ぽくぽくぽくぽく、チーン!)」

 

「ああ、そう言えばユーリに最初に出会った時には既に持っていたよ」

 

 

 俺はぽんっと手を叩き、トスカ姐さんが捕捉説明を入れてくれる。

 そういや確かに持ってたわ。とっくの昔に盗まれてから大分時間が立ってたから、今の今まですっかり忘れてたぜ。

 

 

「そういや、まるでエピタフの為に作られちまった様なくぼみッスね?」

 

「ウン、やっぱりそうか」

 

「でもくぼみの周辺から伸びるちぎれた管は何々すかねぇ?俺のしってる話だと、こういったのには大抵何か仕掛けが付属してそうな感じがするんスが?」

 

 

 某風使いの原作に登場する巨神兵を育てる黒い箱とかね。

 大分原作知識は飛んでっけど、ここにエピタフはめたらすごいってことは覚えてるぜ。

 残念ながら手元にエピタフはないんだがな。

 

 

「むー、わからんが…フム、随分かたいネ。少し削ってサンプルを採取していこう」

 

「?レーザーナイフですら削れないのにどうやって?」

 

「その為の機材は持って来て有るんだヨ。ちょっと外へ言って取ってこようかネ」

 

 

 そういや、何故かスークリフブレード(俺のじゃなくて、フネの備品)が持ち込んであったな。謎のコードとか色々付いてたゴテゴテ仕様のヤツ・・・・まさか、な。

 

 

「そういや壁画みたいなのもあるんスね」

 

 

 とりあえず、教授がしたい様にさせておこう。マッドのやることを邪魔したら気が付けば自分が実験台にされているかもしれないからな。ワザと危険な実験されてフネ壊されてもヤダし・・・。

 俺は近くの壁に寄り、そこに描かれた酷くが数の多い言語らしき紋様を眺める。

 

 

「こいつは、言語ッスかね?」

 

 

 なんとな~く、画数が多くて何か見たことがあるような?

 ・・・・・・あ!そうアレだ!漢字の元になった甲骨文字に似てるんだ!

 

 

「フム、規則性が感じられるが、画数がおおくて酷く原始的な言語体系だネ。まぁ一応書き写しておこう」

 

「そうッスか。じゃ、カメラでも使ってぱぱっとやっちゃうッス・・・所で何時の間に戻って来たんスか?」

 

「艦長が壁画を見て“こいつは”と言っている当たりだヨ。もう高台のサンプルも取ったネ」

 

「早ッ!?速いッスよ!?」

 

「研究の為なら仕方ないネ」

 

 

 むぅ、何故だ?ジェロウ教授なら仕方ないって思えて来たぞ?

 とか考えていると、突然外からドドドドドと言う音が聞こえ始め、遺跡が振動し始めた。

 パラパラと埃が舞い落ちて来ている。何や何があったんや!?

 

 

「心配ないネ艦長。これもわしの指示じゃヨ。外にある機材で地中探査用のポッドがあるからそれを打ちこんだだけネ」

 

「それにしてはスゲェ振動ッスね。遺跡壊れないッスか?」

 

「大丈夫だろう。何せこの遺跡はレーザーナイフでも壊せないほど頑強だからネ」

 

「でも何か地震が起きてるみたいで、良い気分じゃないッスね」

 

 

 ゴゴゴと揺れる足場とソレで舞い上がる埃で視界が若干悪くなった。

 まぁ息は出来る程度だし、振動もすぐに収まったから特に問題は無い。

 ただ驚いただけだ。一瞬机を探したのは昔の記憶からだろう。

 こうしてしばらくの間、ジェロウが満足してくれるまで、遺跡の調査が続くのだった。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「――で、これで一応一通りサンプルは入手したって感じッスね」

 

「ウン、しかもエピタフがこの遺跡と関わりがあるって事も解ったし、やはりデッドゲート付近にはエピタフがあるという事例も確認できたネ。あとは、リム・ターナー天文台にサンプルを持ち込んで、検査をして貰う事にしよう」

 

 

 発掘された遺跡からの出土品や遺跡自体の構成材のサンプル、及び遺跡内壁や外壁に残された文字を書き写したモノ等、調べられるだけ調べた上のサンプルを前にしてホクホク顔をしているジェロウ・ガン教授は嬉々としてそう述べた・・・・ま、嬉しい事も人それぞれだわな。

 

 

「リム・ターナー天文台ッスか?・・・どこにあるんスかソレ?」

 

「私のデータベースによると、ネージリンス国、惑星ティロアの首都にある研究施設の事です」

 

「ユピが言った通りだネ。少し捕捉すると、小マゼラン最高の研究施設でもある。序でにそこにわしの教え子がいるんだヨ」

 

 

 成程、お次の目的地はネージリンスか・・・なんだかタクシーみたいだねぇ。

 ま、色んなとこに行くのが目的だから、俺としては問題はないな。

 

 

「それじゃ、次の目的地はネージリンスって事ッスね?」

 

 

 さて、以前も説明した事があるだろうけど、一応おさらいの為ネージリンスについて説明しておこう。まぁぶっちゃけ、詳しい事は第22章をもう一度呼んでくれると助かる。お兄さんとの約束だ。まぁ簡潔な説明にするぞ?ネージリンスはカルバライヤと対立中、これだけ覚えておけばいい。

 

一応0Gドッグは中立扱いになるから、戦争でも起きてない限りボイドゲートの行き来は制限されない筈だ。もっともカラバイヤ側からのゲートから出てくる訳だから少しは警戒されるけどな。

 

 

「んじゃ、戦利品をコンテナに詰めて撤収~。ゴミは残すな~キチンと持って帰るッス~」

 

「「「「「アイアイサー」」」」」

 

 

 と言う訳で、さっそく次の宇宙島へ向かう為、すぐさま撤収準備を開始する。持ってきた機材をパーケージし、風を出す逆噴射掃除機みたいなヤツで付着している砂を取り払う。まぁどちらにしろフネに戻ったら分解整備をしなけりゃならんだろうが、やらないよりかはマシだ。

 

 こういった機材はスカイベイサーシステムから流用してるからな。使えなくなるのはもったいないのだ。あ、スカイベイサーシステムって言うのは、宇宙にある小惑星帯から使えそうな鉱物や資源を探し出す装置の事だ。探し出せる量は微々たるもんだが、雀の涙程度には役に立つ。

 

 そんな訳で、車両やら輸送艇やらに機材を回収し、サンプルとかをパッケージしたコンテナをユピテルから呼んだ複数の輸送用ランチに積み込んでユピテルへと収納した。そして俺達も軌道エレベータからステーションに戻り、フネに戻り出港準備を進めた。

 

 

「各区画エアロック閉鎖確認、ガントリーアームも解除されました」

 

「インフラトン機関始動、フライホイール臨界へ」

 

「航路管制システム異常無し、スラスター制御システム異常無し」

 

「レーダー順調に作動中~、その他センサーもオールグリーン」

 

「アバリス及び護衛艦群出港、本艦の出港許可が降りたよユーリ」

 

「艦長、各艦発進準備完了です」

 

「ウス、そんじゃま、ぼちぼち行きますかねぇ」

 

 

ステーションの管制塔から出港許可が降りたことをトスカ姐さんから聞いた。

 各セクションも問題無いとユピテルからの報告をもらい、俺はコンソールへと手を伸ばす。

 

 

「ユピテル、発進。微速前進」

 

「発進します。微速前進ヨーソロ」

 

「インフラトン機関臨界へ、フライホイール接続」

 

 

 インフラトン推進機関の臨界に達した瞬間、まだ静穏装置が完全に機能する前なので、微弱な振動がフネ全体を振わせる。この振動こそがまさに今この瞬間、このフネが“生きている”という事を実感させてくれるのだ。人間に例えるなら心臓の鼓動と言えばいいだろうか。

 

 

「前方メインゲート開口、管制塔より入電“旗艦ノ安全ヲ祈ル”以上です」

 

 

 ゴゴゴ――という重力波の反響音を装甲板内部にまで響かせつつ、白い船体をもつユピテルがゆっくりとメインゲートから現れる。誘導ビームが空間に照らされ、そこに沿って航路へと続く宙域へと進むのだ。

 

 そして先に展開していた艦隊と合流し、陣計を組みつつ惑星ムーレアが見えなくなる位置まで進んでいく。インフラトン機関による航行は光より早い為、すぐに星が見えなくなっていった。

 

 

「サナダさん、ステルスモード起動ッス」

 

「了解、各艦冷却機をブラックホール機構に切り替え、ステルスモードを起動する」

 

 

 そして、宇宙を安全に渡る手段の一つ、ステルスモードを起動させる。

 強力なEPと光学的に眼だだなくさせる装甲。

そして排気熱をほぼ出さない様にする機構がそろって初めて使えるシステムだ。

 マッド達が作り上げたキワモノ発明品の中で、一番使える代物だと俺は思う。

 

 

「ステルスモード起動、展開率90%、潜宙開始」

 

 

 そして俺達白鯨艦隊は海を行くクジラの如く、宇宙と言う名の海へと潜航する。

 目指すはネージリンスへとつながるボイドゲート。

 新しい宇宙島、そこじゃどんなことが待ってるのだろうか。

 

 

 ―――そう思ったら、少しワクワクしてきたぜ。

 

 

 

 

 さて、惑星ムーレアを出立してから数週間後、一度宙域保安局へ寄り道し“お礼+α”を頂いた後は特に敵と出会う事も無く、無事に次の宇宙島へとつながるボイドゲートへと到達した。時たますれ違った海賊の内、中々の規模の奴らは美味しく頂いておくのはいつも通りだ。

 

 また以前からあったチェルシーの頭痛とかの対策として、彼女はボイドゲートを越える際は医務室待機という事を厳命しておいた。今や厨房の一角を任されるくらいにまで成長を遂げている彼女。調理中に倒れられたら目も当てられない。

 

 厨房は戦闘中だろうがなんだろうが24時間のローテンションで仕事が終わらない部署だからな。そこの火が落ちるとしたら、ユピテルが落ちる時だろうとまで言われているハードな職場でもある。何せ最近は自炊や自販機も増えたとはいえ、基本的にクルーの食事は食堂でまかなわれている。

 

 マンパワーの低下を避ける為にも、厨房の火を落すことは許されないのだ。まぁ大味なモノや簡単な代物にはマシンを使用しているし、流石に一度に数百人規模で押し寄せてくるからな。人力だけじゃどうしようもならんらしい・・・。

 

 

まぁそんな訳で準備は万端。白鯨艦隊は特に妨害を受ける事も無く、ボイドゲートをくぐりネージリンス・ジャンクションへと到達した。俺はその時艦長席でチェルシーの体調悪化の報告でも来るのか!?と、若干不謹慎なことを考えていたが、今回はそれが来なかった。

 

 そういや以前くぐった時も体調悪化の兆しは弱くなっていたし、これは自意識が大分確定したと考えるべきなのだろうか?洗脳の効果も殆ど無くなり、つまり今のチェルシーがデフォとなると言う事・・・ガンマニアだけでも治らないだろうか?

 

 

「艦長、惑星リリエの中立宙域に到達しました」

 

「ウス、補給と休息と情報収集の為に一度寄港するッス。ステルスモード解除」

 

「了解、ステルスモード解除します」

 

 

 ボイドゲートを抜けたところで近隣の惑星に到達したから、ステルスモードの解除を行った。流石にステルスモード全開でステーションの空域に入る訳にもいかない。戦闘行為とみなされて宇宙港に入れなくされて門前払いとかされたら言い笑いモンだしな。

 

 んで、各艦のステルスモードが解除され、この宙域に白鯨艦隊が現れた訳だが―――

 

 

「艦長~ロングレンジレーダーに感あり~、アンノウン艦接近中~小型の何かを射出したわ~」

 

「センサーでも探知した。エネルギー量から考えて恐らく空母だ艦長」

 

「小型の何か・・・多分艦載機か何かだろうねぇ」

 

 

どうやらさっそく発見された様だ。

攻撃の意図は無い艦載機がユピテルに接近してきている。

まぁ大方誰なのかは解るけどな。

 

 

「アンノウンからID確認、ネージリンス国境防衛隊所属の艦船です」

 

 

「各艦に通達、絶対に撃つなよ?フリじゃないから絶対に撃つなと厳命してくれッス」

 

「アイサー、各艦に通達します」

 

 

 オペ子のミドリさんからの報告を聞き、俺は各艦に絶対攻撃しないよう厳命した。FCSも起動させること自体厳禁にし、とにかく戦闘行動らしき行為もしない様に命令を出した。航海灯をつけて0ドッグのIDコードも発振させて、こちらに敵意が無いことを示す。

 

 そうこうしている間に艦載機群はこちらの最低射程圏内を超え、俺達を監査するかの如く周辺を飛びまわっていた。まるでエモノを捕捉して空中で旋回している猛禽類・・・と言うよりかはエサを見つけた虫っぽいが(サイズ的な意味で)こちらはただ見ているだけである。

 

 

「何か随分と警戒されているみてぇだなオイ」

 

「国境はカルバライヤとのもめごとが多いからねぇ。ピリピリしてんのさ・・・あとストール、万が一の事もありそうだからって、FCSを何時でも使える様にするのは結構だが、今はやめておけ」

 

「うっ、了解」

 

「ID送信完了、ネージリンス艦載機、宙域を離脱します」

 

 

 そして俺達がだまーっていると、奴さん達もこちらに敵意も何もない中立だと解ったので、そのまま部隊を撤収させていく。とりあえずもめごとにはならなくて良かったぜぇ。

 これでカルバライヤ方面から来たからって、なんかされたら普通に自衛権を行使するけどな。

 

 

「しかし、なかなか性能のよさそうな艦載機だったッスね」

 

「知らんのか艦長?艦船に有効打を与えられる程の威力を持った小型荷粒子をこの銀河で最初に開発したのは、ネージリンスなんだぜ?だから空母のノウハウや艦載機運用も高い。それにあの機能的なフォルム、機能的なアクチュエーター、俺達の作ったVFにも採用した可変式スラスターの構造。一般艦載機の性能ならネージリンスが小マゼランで随一だぜ。ああ、一機かっぱらって構造解析や改造を――」

 

「うす、一息説明感謝ッスけどケセイヤさん、ここでトリップしないでほしいッス。ソレと珍しくブリッジに来るとは、何かあったッスか?」

 

「いや、開発の息抜きに散歩してて見に来てただけだ」

 

 

 普通の軍隊の戦艦とかなら唖然としそうな理由だが、ある程度の艦内風紀さえ守ってくれれば問題無い白鯨艦隊ではよくある光景だ。ウチでは一応便宜的に階級はあるが、それは戦闘の際にスムーズに命令を伝える為の手段であり、普段の生活ではあまり適用されない。

 

 やろうと思えば、この艦隊に入りたての掃除班の下っ端の下っ端みたいなやつでも、艦長である俺と一緒に同席しウマい飯を食うことだってできる。敬語も無しに談笑し、なんだったら全裸で食事に参加してもOKだ。――勿論そうなったら俺は遠慮するがな。

 

他はどうだか知らんが、これがウチの習いなんだから仕方が無いだろう。なまじ何時も肩張っている方が辛いのだから、普段はゆる~んだら~んでも良いのである。

やることさえやってくれれば、ウチは問題にしないのだ。フネ自体が家だしな。家の中で何時も背筋をぴんと伸ばして生活している人は・・・そうは居ないよな?

 

 

「そっスか。なんかいいアイディアでもありそうッスか?」

 

「んな簡単に思い付いたら苦労しねぇよ。んじゃな~」

 

「はいはい~ッス」

 

 

 そのままブリッジを後にするケセイヤさんを見送りつつも、ウチってマジでフリーダムだなぁとか思う俺。しまいに通路で寝てるヤツとか現れるんじゃねぇか?酒瓶片手に。

 

 

***

 

 

 さて、リリエで一旦停泊して情報を一応集め、この近辺の海賊情報も手に入れた。これでおまんまの食いぶちが手に入る訳だ。海賊たちには可哀そうであるが、俺達も食って生きなきゃならん。だから俺らの為に飯代に代わってくれ。

 

 そしてこの後は特に何事も無かったので少々割愛する。普段と変わらぬ何の見栄えも無い生活が続いたからな。普通にクソして寝るだけの事書いてもつまらんだろ?

 

 

まぁソレはさて置き、少し回り道で他の惑星をある程度見て回った。リリエ、シェリオン、ヘルメス、ポフェーラと周り、最後に目的地のティロアに向かうのだ。着たばかりの星系だから、情報とか海賊を狩って金が欲しかったと言うのもある。

 

そしてティロアに向かう途中のヘルメスの酒場でギルドがあると言う事を知り、適当に人員を確保した後、俺達はティロアへと赴いた。惑星ティロアは71億1300万人が暮らす緑が多めな惑星だ。気候も惑星全体を通じて穏やかであり、人類にとって住みやすい環境となっている。

 

そうデータベースには説明があったが、毎回思うんだがその国の人口を公表していいんだろうかなぁ?人は石垣って言う様に、人口とかの数値って相手の国力の目安になるから、結構戦略的には重要な意味を持つと思うんだが・・・まぁいい、とにかく俺達はそのティロアに降り立った。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

「――んで、やってきましたのがリム・タナー天文台ッス」

 

「ユーリ、アンタ何処にむかって喋ってんだい?置いてくよー」

 

 

 いや、なんかこうしないといけないというお告げが・・・。

 ソレはさて置き、ジェロウに案内されて俺達は天文台に入った。

 一応研究機関なので関係者以外は入れない筈なのだが、そこら辺はジェロウの顔パスで普通には入れたのだ。ちょっとセキュリティに問題があるんじゃないかと一瞬心配したぜ。

 

 さて、このリム・タナー天文台は天文台と名を打つモノの、実の所既に役割を終えている天文台だったりする。その為観測機器は既に殆どが取っ払われ、現在はポツネンと天文台の施設が残っているだけで、それ以外は何もない。

 

 

「ふ~ん、何もねぇな。もうちょいレーダーやらアンテナやら、観測機器がゴテゴテあるもんだと思ってたんだけど」

 

「ここの売りは情報の収集能力と計算能力らしいッスよトーロ」

 

「あら、よく知っているわね」

 

「ん?」

 

「おお、アルピナ君、久しぶりじゃネ!」

 

 

 適当に談話しながら施設に入ったら、研究者らしき女性が話しかけて来た。

 教授の反応を見るに、この人が教授の教え子さんらしいぜ。

 

 

「お久しぶりです。ジェロウ・ガン先生」

 

「ウン、元気そうで何よりだヨ」

 

「教授、彼女が―――」

 

「そう、かつての教え子のアルピナ君だヨ」

 

 

 教授にそう言われ、ジェロウにアルピナと呼ばれた女性は此方を向いた。

 意外と若い、それなのに役目を終えているとはいえ小マゼラン随一の研究施設であるこの天文台を任されているとは、やはりマッドのお弟子さん。タダ者では無い。

 

 

「リム・タナー天文台所長のアルピナ・ムーシーです。よろしく」

 

「ふむん」

 

「・・・なんですの、先生?じろじろと」

 

 

 彼女が自己紹介をしていると、ジェロウはどこかニヤニヤと笑みを浮かべつつもしたり顔をした。

 

 

「や、相変わらず独り身のようだが、キミもいい加減身を固めるべきじゃないかネ?言ってくれれば、いつでもいい男を紹介してやるヨ」

 

 

 教授、ソレってセクハラだと思います。

 アルピナさんもまたかって感じで溜息を吐いた。

 

 

「先生ったら、会うとそればっかり。そんなことを、わざわざ言いにいらしたのですか?」

 

「ああ、いやいや、ソレは挨拶みたいなもんだ。それよりも今日はキミにお土産があってネ」

 

「・・・?」

 

 

 首をかしげる仕草をするアルピナさん。

まぁお土産って言っても遺跡のサンプルが入ったコンテナなんだがな。

 見せる用に少し小さなサンプルは手持ちで持って来てあるが、本格的なのは後で搬入予定。 

 

ここの職員の人間も驚く事だろう。

そしてそのサンプルの多さに、自分たちが解析を行わなくてはならないその苦労に、かなり絶望する事だろう。知ったこっちゃないがな。

 

 

***

 

 

 さて、その後俺達は天文台の中にある全周囲投影観測室へと案内される。

 そこは球状の部屋の壁に高画像スクリーンが敷き詰められ、そこに宇宙の映像を投影している。

 まるでプラネタリウムみたいだが、それよりもはるかに高価な機材だ。

 つーか、小マゼラン銀河一の研究施設の機材をプラネタリウムと同格にしたらだめだろう。

 機能的には似てるかも知んねぇけど・・・。

 

 

「星が一杯の部屋ッスね」

 

「空間通商管理局から、航路上のガイド衛星の映像データを送ってもらっているの。管理局の開示制限が多いから、全ての航路とは言わないけど―――」

 

 

 まぁそりゃそうだろう。航路の中には自治領として機能している所もある。

 そこがこういった航路のデータを公表して欲しくなければ、管理局も開示しない。

 そう言う風に航宙法で決まっているからな。

 

 

「―――小マゼランをふくむ局部銀河のほぼ全域をリアルタイムで観測できるわ」

 

「ふへぇ~、凄いッスね」

 

「お、ユーリ見てみろよ。こっちにロウズ宙域が写ってるぜ」

 

「ホントだ。大分遠いところまで来ちまったスね」

 

「だな、アレからほんの数カ月しか経ってねぇってのにな」

 

 

 もう何年も宇宙を航海している気がしてきたよ。

 最初は駆逐艦の艦長だったのに、次は戦艦、その次は弩級戦艦の艦長、そして今や艦隊を率いる身なんだよなぁ。宇宙を見てぇって思った気持ちは忘れず、好き勝手楽しんでたら何時の間にか身分もデカくなっちまったな。楽しいから問題無いけど。

 

 トーロも変わったよなぁ。最初の頃はどー見ても街のチンピラにしか見えない小デブさんだったのが今やスマートマッチョで、おまけに工作母艦とはいえ元は戦艦であるアバリスの艦長もやってるのだ。大分出世してるよなぁ。最初は弄りキャラで入れた筈なのに・・・。

 

 まぁちょいと黄昏たが、いい加減話を進めよう。

 

 

「アルピナ君、これがさっき話したサンプルなんだヨ」

 

「ムーレアの遺跡から採取したものですね」

 

「うん、“その一部”だヨ。とりあえず一部分持ってきたんだ。持ちきれないからネ。それとこちらは遺跡の壁に描かれていた言語を書き写したモノだ」

 

「お預かりしますわ」

 

 

 そういってサンプルを受け取り、近くの机に置いたアルピナさん。

 だけど教授が“一部”って言ったように、コンテナクラスで持って来て有るんだけど・・・。

 まぁ言わんくてもいいわな。

 

 

「どちらも解析には少し時間がかかるかも知れませんけど・・」

 

「フム、・・・では解析が終了したら、ユーリ君のフネへ連絡をいれてもらおうか」

 

「その方が良いッスね。んじゃアルピナさん、これがウチのナショナリティコードッス」

 

「わかったわ。何かわかったらこちらに連絡を入れます」

 

 

 ふむ、これで一応解析が終わるまでは自由に行動が出来るな。

 そんな一日や二日で解析出来る代物じゃないだろうし、量が量だしなぁ。

 研究所の人達も大変だぜ。コンテナのサンプルの仕分けだけで一日は消えるんじゃねぇか?

 

 この後はジェロウ教授が教え子アルピナさんとの談話を少しした。

 まぁ若干の暴露話的なモノもあったが、俺達は紳士的な対応を取った。

 俺のフネにいたら自然とスルースキルが上昇するのさ。SAN値の上限もな。

 

 そんでまぁいい加減お暇しようって事になり、ここを出ようとしたんだが―――

 

 

「そう言えば、此方からも一つ質問いいかしらユーリ君」

 

「?―何スか?アルピナさん」

 

「ユーリ君は、どうしてエピタフに興味があるのかしら?やっぱりエピタフが世界を変えるという伝説を信じてる?」

 

「いやぁ~、なはは」

 

 

 実の所、エピタフは本当にそれが“出来る”ことを俺は知っている。

 勿論何でもという訳じゃないし、制限もあるし、使える人間も限られる。とはいえ、エピタフの事実の一端を知っている俺は彼女からの質問に苦笑で応じるしか無かった。そんな俺の態度を肯定と受け取ったのか、更に話しかけてくる。

 

 

「そう。こういった伝説を子供騙しだって言う人もいるけど、私はそうは思ってないわ。エピタフはデッドゲートを復活させる力を持っているという仮説を立てているの。デッドゲートが復活すれば人類の活動できる宇宙が広がる・・・そう考えれば伝説もあながち間違いじゃないわね」

 

「ふむふむ、なるほどッス」

 

 

 俺は以前の世界での情報から知っているから納得できるが、この世界の人間がそう言われてもはぁ?って顔をする事だろう。ある意味荒唐無稽過ぎる仮説だ。だってデッドゲートってのは機能が失われたボイドゲートという意味もあるが、言いかえれば“利用できないガラクタ”でもあるのだ。

 

 独自の技術力をもつ空間通商管理局ですら修理できない代物をエピタフが復活させるとか言われても、この世界の人間にとっては、台所でプロトニウム弾頭を作りましたと言っている様なものである。そうそう信じられねぇだろうさ。

 

 だから、彼女が独自にこの仮説に辿り着いたのだとしたら、マジで天才かも知れない。

 ・・・・・マッドの弟子だけにマッドの可能性もあるけどな。

 

 

***

 

 

 さて、解析が終わるまで時間的余裕が出来た。

とりあえずティロアから発進した後、俺達白鯨艦隊は――

 

 

「各砲撃命中、敵武装大破、VB隊突入しました」

 

「ふむん、これでまた売れるッスね」

 

「もっともカルバライヤ系統のフネはあまり高くは売れないけどね」

 

 

――相変わらずゴミ掃除(海賊退治)の真っ最中だった。

 

 

 基本的にはステルスモードで隠れて動いているが、綺麗な海賊船を見つけたらクリオネの如く豹変し、海賊船に襲い掛かって丸ごと拿捕しちゃうのだ!まさに外道!

 ・・・・海賊専門の追剥と海賊連中から囁かれるのも仕方ない気がしてきたぜ。

 

 

「これで拿捕したフネは合計で20隻前後。いい加減何処かで売りさばかないと、ステルスモードの効率が著しく低下するぞ艦長」

 

「それに拿捕したフネの乗員もそろそろ定員一杯です。流石に何時までも閉じ込めておくと衛生的にも問題が起きますし」

 

 

―――サナダさんとユピからそう報告される。

 

 ステルスシステムは当然のことながら、白鯨艦隊のフネにしか搭載していない。だから拿捕したフネは光学的には丸見えだし、その数が増えれば増えるほど、敵海賊船に発見されやすくなる。なまじ俺達の姿が見えないから、敵じゃないって思って突っ込んでくる奴もいそうだぜ。

 

 ちなみにユピが言っていることは、海賊たちを憐れんでの事では無く、只単に異物をとっとと引き払って欲しいからである。お腹の中に変なもんがあったら気持ち悪くなるよな?

 

 

「それじゃ、イネスー。こっからいっちゃん近い宇宙港どこッスか?」

 

「ココからかい?ちょっとまってくれ・・・惑星ポフューラかな」

 

「んじゃ、とりあえず休息も兼ねてそこに寄港するッス。リーフさん頼むッス」

 

「りょーかい、安全運転で行ってやるさ」

 

 

 さてと、今日も稼ぎを売り払いに行きますかねぇ。

 俺は白鯨艦隊を発進させ、惑星ポフューラへの航路へと乗った。

 この時もう少し狩りを続けていたら、少なくても問題ごとを抱え込むことは無かったんだよなぁ。

 

 

…………………………

 

……………………

 

……………

 

 

 さて、目的地に到着した俺達はこれまたそれぞれ独自に行動を開始する。

 流石の俺も全部のクルーの動きを把握しきれるモノじゃないから、みんながどこに行ったのかは彼らが身につけている携帯端末のビーコンによって解る居場所程度で大まかにしか解らない。

 

 

―――俺も適当に星に降りて適当にぶらぶらしていると、ちょっとした広告を見つけた

 

 

「セグェン・G支社『求む、民間のゆうかんなる艦長。多額の成功報酬あり』・・・ゆうかんねぇ?」

 

 

 ちょっと心が引かれたが、何をするのかの説明が全く書かれていない。

 ソレどころか何時やるのか、仕事の期間も何も表示されていない。アレか?金やるから文句言わずにやれってヤツ?・・・な、なんて上から目線。

 

 

「だけどオイラは遠慮せずにエントリーしちゃうッス!」

 

 

 ウチのフネのナショナリティコードを携帯端末から入力した。

 さて、これでええやろとか思っていたら、ビルの中から一人の女性が現れた。

 ・・・・・胸でけぇなオイ。トスカ姐さんよかデカくないか?

 

 

「今、メッセージパネルでエントリーしてきたのは貴方?」

 

「そうッスけど、アンタは?」

 

「セグェン・グラスチ秘書室長のファルネリ・ネルネです」

 

「ネルネル・ネルネ?」

 

「ファルネリ・ネルネです!・・・それで貴方は艦長さんの使い?」

 

「いんや、俺が艦長ッスけど?ナショナリティコードに名前登録してあったでしょ?」

 

「は?」

 

 

 いや“はっ?”って・・・俺ってそんなに艦長い見えへんのかな?

 まぁ流石に若すぎるよなぁ。見た目は今だ・・・・細いモヤシだし・・・。

 お、俺だって脱いだらスゲェんだぞ!・・・いま脱ぐと変態だけど・・・。

 

 

「ちょ、ちょっと、何突然落ち込んでるの?」

 

「い、いや、自分の外見だと、よっぽど艦長に見えないんだろうなぁって思って」

 

「そうね。もう帰って結構よ?」

 

「ひ、酷!人が気にしてるのに!」

 

「大丈夫解ってるわ。大方小型ボートでその辺飛んで、自身をつけちゃったんでしょ?悪いけど子供の手に終える仕事じゃないの。ごめんなさい」

 

「いや、ちょいまて。ナショナリティコードに―――」

 

「ハイハイ、ほら、記念品のティッシュあげるから、もっと有名になってから来てね?それじゃ失礼するわね」

 

 

 俺が何か言う前に、ものすごくやさしい対応ってヤツをされた。

 つーか、話聞けや。

 

 

「――まったく、こんな方法でまともな航海者が集まるワケないわ・・・」

 

 

 ファルネリと名乗った女性は、ブツブツ言いながら建物の中に消えていった。

 フン、あとでナショナリティコードを管理局に問い合わせて、逃した魚は出かかった事を思い知ればいい。すっげぇー、むかついた!

 

 

「けっ!けっー!艦長に見えなくて悪かったッスね!!」

 

 

 俺は手渡されたティッシュをポケットに突っ込み、地団太踏んでからその場を後にした。

 全く持って腹立たしい。人を見かけで判断しやがって・・・。

 この後近場の酒場に入ってうっぷんを晴らしてやった。

 

 

その後、一度ユピテルに戻ったのだが――――

 

 

『艦長、IP通信が入ってます。発信元はエルメッツァです』

 

「・・・・解ったすぐにブリッジに行く」

 

 

―――どうやら、また何か起きる様だ。俺は急いでブリッジに戻った。

 

 

***

 

 

 とりあえず、通信してきたのはエルメッツァ軍のオムス中佐だった。

 どうにも俺達に見せたいモノがあるらしい。大体予想は付いてるけどな。

 航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)の解析が終了したんだろう。

 

 場所が場所だから戻るのに苦労するかと思ったが、ネージリンスジャンクションのボイドゲートの一つが丁度エルメッツァとつながっているのがあるらしく、そこから数日もかけず戻ることが出来た。ステルスモードを使えば敵にも会わないからな。

 

 

 ――――そんな訳で軍司令部に戻ってきた俺たちだった。

 

 

「なんか、偉い懐かしく感じるッスね」

 

「最後にココに来たのってドンくらい前だったか・・・私も覚えてないねぇ」

 

 

 目の前には偉く懐かしい建物、そういやこっち出たのってもうだいぶ前だったなぁ。

 アレから色んなことが有って、会って、合って、遭って・・・・。

 うん、本が出せそうな経験積んでるな。色んな意味で・・・。

 

 

「・・・・入りますか」

 

「そだね」

 

 

 勝手しったるなんとやら、顔見知りの受付さんに話せばすぐに通してもらえる。

 ここの人達にも顔を覚えられ・・・・お陰でエルメッツァで犯罪行為は完全にできねぇな。

 んで、ここの指令室に来たのであった。

 

 

「どうも中佐」

 

「ユーリ君、よく来てくれた。さっそくだが、映像を見てから話すとしよう」

 

 

 オムス中佐はそう言うと、部下に指示を出した。指パッチンで。

 部下がコンソールを操作すると、指令室の中央にある空間3D投影球から画像が投影される。

 少しノイズが掛った映像をなんとかキャンセラーで見れるようにした感じの映像が流れる。

 

 しばらくは何もない宇宙空間だったが突然画面がぶれ始めた。

 機材の故障とかでは無く、映しているカメラ自体が揺れている感じである。

 そして左側から何かがゆっくりと写り始めた。

 

 ソレは濃緑色のフネの様でこの時代には珍しくロケットタイプの船体だった。

 だがそのフネは見る人が見れば、恐ろしい程の戦闘能力を持つフネだと言う事が解る。

 小マゼランで使用されているフネの装備は多くても5つくらいだ。

 何故ならジェネレーターの出力上、エネルギーを分散させないように、兵装は少なめなのである。

 

 だが、映し出されているフネには、サイズ的には近くの駆逐艦残がいと同じ寄り小さい程度なのにいたるところに武装があり、こちらのフネと違い1対1では無く多対1を想定している様なレイアウトを取っているまぎれも無い戦闘艦だったからだ。

 

 しかもそれ一隻では無く、同じ型のフネが次々と目測で解るだけでも数十隻、そのフネよりも3倍は大きく、艦載機用カタパルト備え、さきのフネ以上の兵器を多数搭載した大型艦。更にはそれの2倍のデカさがあるユピテルと同サイズの三段空母が艦隊を組んでいる映像が映し出されていた。

 

 つーか色といい三段空母といい・・・ガミ○スか!?ガ○ラスなのか!?

 個人的にはガルマン・○ミラスでも可!ちょっとメメタァな所に思考が飛んだ。

 

「・・・・信じられねぇッス」

 

 あまりの映像に他の連中は言葉を無くしていた。

 知っていた俺ですら圧倒されて信じらんねぇって言葉を漏らしたくらいだ。

 つーか映画化何かじゃねぇかと、聞きたくなるくらいに圧倒される艦隊だ。

 

 

「・・・・私のデータベースにも記録が無い。未知のフネ―――まさか宇宙人!?」

 

「異星人なのかそうでないのかは別だが、解っているのはこの艦隊に調査船が撃沈されたと言う事だ。そしてこの艦隊は小マゼランへと真っ直ぐ向かってきている」

 

「……トスカさん、これって」

 

「間違いない。ヤッハバッハの先遣隊だ」

 

 

 知ってはいたが、一応トスカ姐さんに小声で確認を取った。

 一応俺の仲間の中で、唯一連中とやりあった事があるのがトスカ姐さんの故郷だ。

 連中の事はこの中の誰よりも詳しいだろう。

 

 

「・・・中佐、この映像について政府は?」

 

「国内の混乱を招かぬよう極秘で偵察艦隊の派遣準備を進めている。新たな星系人種との接触になるだろうからな。勿論相手が好戦的な種族だった場合に備えて、打撃力を持つ艦隊を後衛に付ける予定だ」

 

「・・・・多分ダメっスね」

 

「そうかい、そうかい。そりゃ結構。で、その戦力はどの程度なのさ?」

 

「詳しい情報はこちらもまだ入っていないが、慎重を期して5000隻程度の艦隊を編成する事になるだろう」

 

「5000隻ッスか?」

 

 

 五千隻と聞いて、護衛について来ているウチのクルーからスゲェとか声が上がっている。

 中央政府軍の総艦隻数が約1万5千隻だから、およそ3分の1の軍の導入だ。

 ・・・だけどこれって普通に国民にきづかれるんじゃないか?

 

 

「うむ。最初の接触で、我がエルメッツァの威信を見せつける必要があるからな」

 

「ふ・・はは、あはははは!大した自信だよ!たったそれだけの艦隊で威信?あははは!」

 

 

 トスカ姐さんは哂いだす。そりゃそうだろう。ヤッハバッハ相手にこの数は・・・幾らなんでも舐め過ぎだ。画像の荒い映像でさえ向う側に沢山の艦隊が見え、おまけに後続も多いと来たもんだ。絶対スゲェ数が来ている。

 

 確か原作でもこっちのフネとヤッハのフネとじゃ性能で言うと、対艦が2倍、装甲が3倍、耐久値に至っては7倍弱の開きがあった筈。この世界においてそれほどの性能の差があるのかは不明だが、単純に考えてもこっちが向うの10倍近い数をそろえないとまず勝てないだろう。

 

 つまり1万5千隻を集めたとしても、向うが1500隻以上いればこちらは負ける。

指揮官の云々じゃなくて性能差で圧倒され、ほぼ確実に――。

 

 

「中央政府軍の3分の1を動員するのだ。これでも多すぎるくらいだ」

 

「あ~、知ってる。知ってるさ。滅亡した国家の連中がみんな同じ台詞を言ってたってね。一つ忠告だ。奴らと対峙するなら今すぐネージリンスとカルバライヤと手を組んで全戦力を投入しな。じゃないと負けるよ?」

 

「バカな!相手は近辺星系の軍では無いんだぞ!長い航海を経た遠征軍なら当然支援艦、補給艦も多数混ざっているだろう。戦力となる艦船数などたかが知れているのだ!」

 

 

 その発想も解らなくはない。相手の情報は今の所この航海記録装置(ヴォヤージ・メモライザー)だけ、こちらのフネの常識なら、確かに沢山の補給艦や支援艦が必要だと思うだろう。だが連中のフネの性能は恐らく大マゼランのフネのそれよりも凄い筈。

 

 拡張次第であるが長期にわたる航海も可能な設計が為されている可能性もある。

 もしくはそう訓練された長い航海に耐えられる人選もされている筈だ。

 というか、絶対そうだろう。こりゃ勝てねぇわ。

 精神力もマンパワーも圧倒的、性能も上。

 むしろ、どうやって勝てと?特攻でもしろってか?

 

 

「あんた達、その判断が正しいと思ってるのかい?」

 

「このエルメッツァも、大きくなるまでに、多くの異人種との接触同化を繰り返してきた。そこから導き出される常識的な判断だと思うがね」

 

 

 トスカ姐さんからの問いに憮然とした態度で応えるオムス。

 彼女はそんなオムスをしばらく見ていたが。「・・・そうかい」と言って矛を収めた。

 そして彼女はドアの方に向き直り、そのまま歩きだした。

 

 

「この宇宙で未知の敵の力を常識で測る―――救えないよ・・・」

 

「あ、トスカさん!?・・・すみません中佐、副官が失礼なことを」

 

「・・・・君達に伝えたかったのはこれですべてだ」

 

 

 あちゃー、機嫌悪くしてらっしゃる。全くトスカ姐さんもトスカ姐さんだよ。

軍の上層部や政府が方針を変える訳無いだろうに。第一あの言い方じゃ謎の勢力の事を俺らが知っているって取られちまうじゃないか。

 

 

「それと、この映像については――」

 

「ええ、他言無用ですね。我々はこれを拾っただけ、この場では何も見なかった」

 

「それでいい」

 

 

 ムスっとした中佐に別れを告げて、俺もこの場を後にした。

 

 

 

 

 


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