機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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やっと…。やっと、終わりが…見えた…


PHASE68 創世の破壊と、終焉の破壊

遂に、地球軍が本気で牙を剥いた。

今まで行ってきた核攻撃は全て囮で、本命は地上から送り込んだ小艦隊。

まったくの手薄なメサイアの背後から要塞を崩そうという地球軍の、ウォーレンの策だった。

 

そして、メサイアが攻め込まれていることは、今ウォーレンと交戦しているクレアの耳にも届いていた。

 

クレアは、メサイアの方向に何度も機体を向けるのだが、その度にウルトルがクレアの進行上に割り込んで邪魔をする。

 

 

「くっ…!」

 

 

さすがのデュランダルでも、この地球軍の侵攻を食い止めることは難しいだろう。

自分がその場に行ければいいのだが、やはりこの男はそれを邪魔してくる。

 

 

「どいてください…!」

 

 

クレアは対艦刀でウルトルに斬りかかる。

だが、クレアもメサイアに迫る脅威を知り焦っていたのか。

いつもの鋭い斬撃とは程遠かった。

 

 

「鈍いぜ、動きが!」

 

 

それを、ウォーレンが見逃すはずはない。

ウォーレンもまた、サーベルを手にアナトへと斬りかかっていく。

 

交錯する二機。斬り結んだ二機。

次の瞬間、アナトが持つ対艦刀が根元からずり落ちる。

 

 

「っ!?」

 

 

「これで終わりだと思うなよ!」

 

 

さらにウォーレンは、手元の武器を失ったアナトへと斬りかかる。

 

 

「舐めないでください!」

 

 

だが、ここで終わるクレアではない。

ビームシールドを展開し、ウルトルの斬撃を防ぐと、もう一方の手でサーベルを握って抜き放つ。

 

 

「ちっ!」

 

 

ウォーレンは宙を返りながら後退し、サーベルからライフルへと持ち替える。

ライフルの照準を合わせると同時に、バックパックに収納し充電しておいたドラグーンを切り離す。

ライフルとドラグーンのビームを、同時に放つ。

 

クレアは、展開していたビームシールドでビームを防ぎながらウルトルの射線上から機体を離脱させる。

そしてクレアもまた、負けじとドラグーンを切り離してウルトルに向けてビームを放つ。

 

 

「この程度でっ!」

 

 

ウォーレンは、アナトが放ったビームを機体を横にずらして容易く回避する。

それだけではなく、胸部の砲口、スキュラをアナトに向けて砲撃を放つ。

 

放たれた砲撃は、アナトが翻しかわされてしまったが、ウォーレンはスキュラを放ったと同時にライフルとサーベルを持ち替えアナトへと接近していた。

 

 

「っ!」

 

 

クレアは、ウルトルの接近に反応する。

手に持つサーベルを煌めかせ、ウルトルの斬撃を防ぎ切る。

 

だが、ウルトルの攻撃はこれで終わらなかった。

もう一方のサーベルをウルトルは抜き放つと、一文字にアナトに向けて振りかかる。

 

 

「くっ…!」

 

 

堪らずクレアは機体を後退させる。

ウルトルはサーベルを空振るが、この一連の攻防の間にウルトルはドラグーンをアナトのまわりに配置し終えていた。

 

 

「これでっ!」

 

 

ウォーレンは全てのドラグーンをアナトに向けて一斉照射させる。

放たれたビームは、アナトに向かっていく。

 

だが、この攻めに対しても、クレアは凄まじい反応速度を見せつける。

 

まずクレアは機体を傾けた。

これにより、ウルトルが放ったビームの内三本のビームが空を貫いていった。

さらにクレアはビームシールドを展開して二本のビームを四散させる。

 

最後にクレアは手に持っていたサーベルと、腰に差されたもう一方のサーベルを振るい、残りの三本のビームを切り飛ばす。

 

ウルトルが放ったビームは、同時に放たれたとはいえアナトからの距離は全て一定ではないことはクレアにはわかっていた。

もし、全てが完璧に同時にクレアに向けられていたら…、かわすことはできなかっただろう。

 

 

「なっ!?」

 

 

ウォーレンは、自分が放ったビーム全てがかわされたことに驚愕する。

これで、完全に詰みだと確信していたのだ。その攻撃を、全てかわしきられたのだ。

 

 

「くそっ!」

 

 

ウォーレンはドラグーンの射線上から逃れたアナトを追う。

アナトにライフルを向けて乱射しながらアナトへと接近していく。

 

クレアは放たれるビームをかわしながら、両腰の収束砲を展開する。

だが、向けるのはウルトルにではない。向けるのは、先程アナトに向けてビームを放ったドラグーン。

 

 

「いけっ」

 

 

放たれた二本の砲撃は、ウルトルが戻そうとしたのだろう。

主の機体に向けて移動し始めたドラグーン、四基を薙ぎ払う。

 

 

「なっ…、くそぉっ!」

 

 

一度緩んだ気を戻すことは難しい。

それはどんな人でも当てはまり、当然ウォーレンにも当てはまる。

 

仕留めたと思い、緩んだ気持ちをウォーレンはまだ引き締めきれていなかった。

 

残った四基のドラグーンは何とか戻すことに成功するウォーレン。

アナトに向けたライフルをさらに連射する。

 

 

「どうしました?動きが鈍くなっていますが」

 

 

先程言われた言葉を、そのまま相手に返すクレア。

 

連射されるライフルをすれすれのところで回避しながらウルトルへと急速に接近していく。

ウルトルが、アナトの突進を止められないことを察して距離を取ろうとするが、遅い。

クレアはサーベルを振り下ろし、機体を真っ二つに斬り裂こうとする。

 

だがウルトルの回避行動を始めていた。

結果、クレアが振り下ろしたサーベルはウルトルの左腕を切り離すに留まる。

 

 

「な…。こんな…、貴様ぁっ!」

 

 

自分の機体が損傷したことに激昂するウォーレン。

しかし、自分の中でどこか悟っていた。

 

アナトとの戦闘途中に感じた恐れが、今ここで実現し始めていることを。

 

このままでは確実にこちらが仕留められてしまう。

どうあがこうと、この結果は変わらないだろう。

 

 

(だったら、俺の最後の役目を果たしてやる)

 

 

ウォーレンは、通信をダイダロス基地司令部につなげる。

 

 

「おい、レクイエムの発射準備はできているな!?」

 

 

『アズラエル様!?はっ、いつでもレクイエムを撃てるようにしておけというアズラエル様の言葉通りに…』

 

 

ウォーレンが出撃する直前、基地司令官に伝えておいた言葉をしっかり実行していたようだ。

 

ウォーレンは笑みを浮かべながら、最後の命令を告げる。

 

 

「計画通りならば、もうすぐデュランダルはジェネシスを撃つはずだ。…詰みだ。ジェネシスが放たれた直後、こちらもレクイエムをメサイアに向けて発射する!」

 

 

『は、はっ!!』

 

 

命令を伝えていたなか、ウォーレンはアナトから視線は離さなかったものの、わずかに注意が逸れてしまっていた。

そのわずかの差が、ウォーレンの運命を決める。

 

 

「っ!?」

 

 

気付けば、ウォーレンはドラグーンに包囲されていた。

目を見開いたウォーレンはその場から離脱しようと機体を動かそうとする。

 

だが、次の瞬間包囲していたドラグーンが火を噴く。

 

放たれたビームは、ウルトルを容赦なく貫く。

片腕が無事ならば、もしかしたら何とか防ぐことができたかもしれない。

だが片腕を失っているウルトルではそれも叶わず。

 

自分のまわりで爆発が起こるのを、ウォーレンは他人事のように感じていた。

 

 

(ここで、俺も終わり…か)

 

 

勝てるとは思っていなかった。

それでも…。

 

 

(最後まで、見届けたかったなぁ…)

 

 

自分の手で、コーディネーターが滅びるところを目にしたかった。

父に、自分が立派にやり遂げた所を見せてあげたかった。

 

だが志半ばで散ることとなる。

 

 

(後は…、頼んだぞ…)

 

 

残った奴らならば、後は何とかしてくれるだろう。

最大の障害のデュランダルは死ぬことになる。奴が消えれば、ザフト軍は総崩れとなる。

 

オーブも、この戦いで多くの犠牲が生まれる。

俺たちの前に、立ちはだかるものはいなくなる。

 

自分は、役目を果たしたのだ。

 

 

(父上…。俺も、そちらに…)

 

 

最後に思い浮かんだのは、自分に微笑みかける父の顔。

 

ウォーレンの意識は、そこで闇へと消えていくのだった。

 

 

「…早く、行かないと」

 

 

ウルトルが爆散していく光景を見つめていたクレアは、すぐに機体をメサイアの方向へと向ける。

だがその時、小さく見えるメサイアの隣。ジェネシスが制動をかけながら照準を合わせているのが見えた。

 

 

「…まさか」

 

 

クレアは悟る。

議長は撃つつもりだ、と。

 

 

(関係ない)

 

 

クレアは心の中でつぶやく。

たとえジェネシスが撃たれようと自分には関係ない。

自分がデュランダルの下で戦ってきたのは、セラと戦うため。勝つためなのだから。

 

 

「邪魔をしないでください」

 

 

だから、早く行かなければ。

セラがメサイアにいることはわかっている。

 

何をしようとしているのかは知らないが、それだけは間違いない。

だから、自分は行く。

 

クレアは、まわりを囲んでくるウィンダムにドラグーンを向ける。

 

自身の決意と欲望と共に、クレアはセラの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メサイアでの戦闘が佳境に差し掛かっていた時、月、レクイエム付近での戦闘もさらに激化していた。

ザフト、地球、オーブの三つ巴の戦闘は、ついに最終局面を迎えつつあった。

 

序盤の激しさを残しつつも、だが犠牲になっていく機体や艦の爆発の数は明らかに減ってきている。

 

そんな中、シエルはデスティニーと。シンと対峙していた。

さらに、シエルとシンとは少し離れた所にインパルス、ルナマリアも。

 

シエルは、シンとルナマリアに全てを話した。

自分が何故、ザフトに戻ってきたかを。セラとラクスが、オーブでザフトの特殊部隊に襲われたことを。

そして、デュランダルが企てていた計画についても。

 

シエルの話をすべて聞いたシンとルナマリアは、ただただ呆然とするしかなかった。

途中から、何が何だかわからなくなってしまった。

 

だが、一つだけ理解したことがある。

デュランダルの計画、デスティニープランが実行されてしまえば、自分が本当に守りたいものを守れなくなってしまうということは。

 

 

「シン、ルナ。私が話したいことは全て話したよ」

 

 

シエルがシンとルナマリアに声をかける。

シンは、頭の中でぐるぐると回る思考を何とか収めてシエルの言葉に耳を傾ける。

 

 

「…答えは聞かないよ。あまり時間もないみたいだしね」

 

 

「え?」

 

 

シエルが言った、時間がないという言葉。

シンはそこに気が向く。

 

時間がないとはどういうことなのか。

嫌な予感がシンの中を過る。

 

 

「今、私に連絡が入った。メサイアが…、デュランダル議長が、ジェネシスを撃とうとしている。それも、射線上には地球がある」

 

 

「っ!」

 

 

息を呑む。

もしかしたらとは思っていた。あの兵器、ジェネシスが撃たれる。

もしかしたら、あるかもしれないとは思っていた。

 

だがまさかその予感が現実になるとは考えていなかった。

それも、ジェネシスの射線上に地球が…、シンとマユの故郷の星が存在する。

 

 

「そして、地球軍はジェネシスが撃たれたと同時にレクイエムを撃つ。地球が撃たれたということを口実にしてね」

 

 

「あ…」

 

 

まさに、八方ふさがりという言葉が近いだろう。

オーブ軍は、こんな状況でも諦めずに戦っているのだ。

 

 

「ジェネシスは私の仲間が…、セラたちが何とかしてくれる。だから私はレクイエムに行く」

 

 

シエルはレクイエムに行く。レクイエムを破壊しに。

 

…自分は?自分は、どうする?

 

 

「…シン、ルナ。どんな答えが返って来たって、私は恨んだりしないから。自分だけの答えを出して」

 

 

それが、今この場でのシエルの最後の言葉だった。

ヴァルキリーが、レクイエムへと向き、スラスターが噴いたと思うとあっという間に遠くへと行ってしまう。

 

シンは、動けない。

どうすればいいか、わからない。

 

オーブがメサイアを攻めたのは、ジェネシスを破壊しに行くためだったのだろう。

ほんの少しでも考えればわかる簡単な答えだった。

 

それを、自分は命令の言葉だけを聞いて、勝手に思い込んでいた。

オーブは、悪だと。

 

 

「シン」

 

 

ルナマリアの声が聞こえる。

彼女は、こんな自分をどう思うだろう。

議長の駒と成り果て、守りたいものを守るために戦ってきたと思い込んでいた自分を。

 

 

「行こう、シン」

 

 

「え…?」

 

 

インパルスが傍らに寄ってくる。ルナマリアが、傍らで寄り添ってくれる。

 

 

「私たちも行こう?シン。…あんなものがここにあったら、いけないのよ」

 

 

「ルナ…」

 

 

ルナマリアだって、自分と同じで迷っているのだ。

それでも、自分と違って前に進もうとしている。

 

 

「レクイエムも、ジェネシスも…。存在してはダメなの。撃たれるようなことは、ダメなのよ」

 

 

レクイエムも、ジェネシスもここにあったらいけないもの。

撃たれるようなことがあっては、絶対にいけないもの。

 

 

「守るために…、行こう。シン」

 

 

「っ…」

 

 

守るため。

 

守るために、戦う。

 

そのために。

 

 

「…そうだな。守るために、俺たちはここに来たんだよな。あれを、壊すために」

 

 

元々この月に来た目的は、地球軍を討つためでもオーブ軍を討つためでもない。

あの兵器を、破壊するため。

 

ここで、シンはその事を思い出す。

 

何だ、答えは簡単じゃないか。

 

 

「行くよ、俺。ルナ、一緒に来てくれるか?」

 

 

「えぇ、もちろん!」

 

 

 

 

 

 

 

シンとルナマリアが決意を固めたその少し前、シエルがシンとルナマリアに全てを話していた頃。

アークエンジェルとミネルバは互いに砲火を浴びせかけ、そして防ぎ合っていた。

 

両者の戦いは全くの互角。

前回の戦いではアークエンジェルが有利だったものの、あの時は地の利をアークエンジェルが活かしての優位。

宙では、そうもいかなかった。

 

この宙の戦いで性能的に優位なのはミネルバだ。

元々宇宙での戦いを想定して作り出された艦。

潜航機能などが着いている、地球での戦闘も視野に入れて作られたアークエンジェルよりも有利なのはミネルバなのだ。

 

それでも、戦いが互角な理由。

やはり、戦闘経験の差がここで表れていると言っていいだろう。

 

このユニウス戦役一連の戦闘しか経験していないミネルバ。

そして、前回のヤキン・ドゥーエ戦役、そしてユニウス戦役での戦闘を経験しているアークエンジェル。

 

経験の差がどちらの傾くかは明らかだ。

 

 

「ゴットフリート、てぇーっ!」

 

 

マリューの号令と共に、アークエンジェルの主砲といっていい砲撃が放たれる。

放たれた巨大な光条は、同時に放たれたミネルバの光条とすれ違いながらミネルバの艦体へ激突する。

 

さらに同時に、アークエンジェルの艦隊にもミネルバの砲撃が激突。

アークエンジェルの固い防御に阻まれ、損傷こそ大したことはないものの奔る衝撃は抑えられない。

 

クルーたちは襲う衝撃に耐えながらミネルバの動きから目を離さない。

 

ほんの一瞬でも目を離せば、それが致命的になるとクルーたちはわかっていたからだ。

 

 

「回頭三十!右から回り込むわよ!」

 

 

「はい!」

 

 

マリューの指示を受け、ノイマンが操縦桿を傾ける。

アークエンジェルは大きく弧を描きながら、ゴットフリートを受けて揺れるミネルバに接近していく。

 

 

「バレルロール!バリアント照準!」

 

 

マリューはここから詰みにかかる。

ミネルバのミサイル砲がこちらに向けられている。

それをバレルロールでかわし、上方からバリアントを撃ちこむ。

 

これでミネルバの戦闘能力を削ぎ落そうという作戦だ。

 

ノイマンが操縦桿を傾け、バレルロールを行おうとする。

だがその時、ミリアリアが口を開いて驚愕の言葉を口にした。

 

 

「艦長!メサイアに向けて、地上から発進したと思われる地球部隊が侵攻中!」

 

 

「えぇっ、何ですって!?」

 

 

ミリアリアの報告に目を見開くマリュー。

だが、ミリアリアの言葉はまだ終わらなかった。

 

 

「ザフトも、迎撃のために部隊を動かしていますが…、それと同時に、ジェネシスを動かしていると…!」

 

 

「っ!?」

 

 

この報告が入ったのは、アークエンジェルだけではなかった。

アークエンジェルと交戦していたミネルバにも、同じ報告が入っていたのだ。

 

そして、この報告を聞いた瞬間、考えたことは両艦長とも同じだった。

 

 

「ローエングリン照準、」

 

 

「タンホイザー起動!照準、」

 

 

マリューとタリアの目には、もう先程戦っていた巨艦の姿はなかった。

目を向けたのは、地球軍の超巨大殺戮兵器。

 

 

「「レクイエム!」」

 

 

もう、時間をかけている場合ではなくなった。

今すぐにでも、なりふり構わずこの兵器を破壊しなければならない。

 

両艦の最大の破壊力を誇る砲撃が、レクイエム目掛けて放たれる。

だが、放たれた砲撃はレクイエム周辺に張られたリフレクターによって弾きかえされる。

 

 

「くっ…!」

 

 

その光景を、マリューは唇をかむ。

やはり何かしらの対策を施していたのだ。

 

恐らくこのリフレクターは、モビルアーマーに搭載されているものよりも強固にされているものだろう。

リフレクターを壊してレクイエムにたどり着くのはかなり苦しいものになる。

 

そんな巨大な壁に向かって、アークエンジェルも、ミネルバも。

オーブ軍もザフト軍も、必死に砲火を浴びせ続ける。

 

 

 

 

 

 

 

シンとルナマリアを置いてから、シエルはヴァルキリーが出せる最大速度でレクイエムへと向かっていた。

立ちはだかってくる地球軍機は、全てサーベルで斬り落とし、決してスピードを落とさないで。

 

そう、立ちはだかるのは地球軍機だけ。ザフト機は、シエルの前に現れることはなかった。

 

その理由を、シエルはすぐに悟る。

 

 

「っ!レクイエムが!」

 

 

遠目から見てもわかる。レクイエムが動きを見せているのだ。

いつでも撃てるようにと、基地内部にいる兵たちがレクイエムの発射シークエンスを行っているのだろう。

 

シエルは、苦悶に表情を歪ませる。

シエルの目の前では、ザフト艦が主砲をレクイエムに向けて放っている光景が見える。

ザフト艦だけではない。オーブ艦も共に、レクイエムに砲火を浴びせている。

 

だが、その砲火はレクイエムに届かない。

レクイエムのまわりに張られた電子リフレクターが、振りかかる砲火を全て遮っているのだ。

 

このままでは、セラたちがジェネシスを破壊してもこちらが間に合わない。

 

シエルは、機体をレクイエムにさらに接近させていく。

 

 

「くっ…!」

 

 

だがそのシエルの前に地球軍機が立ちはだかる。

シエルは、サーベルを抜いて地球軍機の集団に斬りかかっていく。

 

襲い掛かる地球軍機の武装を斬り裂き、もう一方の手で握るライフルでメインカメラを撃ち抜いていく。

 

シエルは凄まじい速度で地球軍機を戦闘不能に陥らせていく。

しかし、襲い掛かっていく地球軍機の数がなかなか減らない。

 

やはりレクイエム付近に近づけば近づくほど、その敵機の勢いが大きくなっている。

倒せば倒すほど敵機が襲い掛かり、レクイエムに近づくことすら難しい。

 

このままでは

 

 

「このままじゃ…、間に合わない…!」

 

 

ジェネシスが、撃たれてしまう。

 

レクイエムが、撃たれてしまう。

 

地球が、撃たれてしまう。

 

プラントが、撃たれてしまう。

 

ジェネシスが撃たれてしまえば、セラと共に暮らしてきた母なる星が穢され、レクイエムが撃たれてしまえばプラント最終防衛網が破られると言っていい。

 

 

「この、ままじゃ…!」

 

 

ほんの少しでも遅れれば取り返しのつかないことになる。

それを、防がなければならないのに。

 

シエルは、サーベルで地球軍機を斬り裂きながらもう一方の手で握られているライフルからサーベルに持ち替える。

 

もう、突き進むしかない。

シエルはサーベルを振るいながら機体をレクイエムへと進ませる。

 

多少の損傷は気にしない。

斬撃、ビームが装甲を掠ろうとも怯まずにシエルは突き進む。

 

振るわれるサーベルが、敵機の武装、メインカメラを奪っていく。

サーベルが煌めくごとに、地球軍機が一機ずつ戦闘不能となり撤退を余儀なくされる。

 

シエルの突進を、止められるものはいなかった。

シエルの勢いは止まらず、ついにレクイエムがヴァルキリーの射程範囲内まで辿りつくことができた。

 

 

「っ!」

 

 

シエルは、背後から追いかけてくる地球軍機が放つビームをかわしながら、レクイエムに向けて肩から跳ね上げた収束砲を向ける。

 

砲撃をレクイエムに向けて放つが、アークエンジェルのローエングリン、ミネルバのタンホイザーをも防いだリフレクターがシエルが放った砲撃を弾き飛ばす。

シエルもリフレクターによって阻まれるだろうと予想はしていたが、改めて現実を見せつけられたような気分になり、表情を歪ませる。

 

 

「くっ!」

 

 

シエルは、機体をその場から離す。

シエルが先程までいた場所を、多数の光条が横切っていく。

 

今こうしている間にも、シエルは多数の地球軍機に狙われているのだ。

レクイエムだけに注意を向けているわけにもいかないのだ。

 

 

「こんなもののために…、どうして戦うの!?」

 

 

地球軍機はこのレクイエムを守るためにこうしてシエルの、レクイエムを破壊しようとする者の前に立ちはだかっている。

 

何故、こんなもののために戦うのか。

何故、こんなものを守ろうとしているのだろうか。

こんな、人を恐怖に陥れることしかできないもののために。

 

 

「これを使って…何をしようとしているの…?」

 

 

シエルは右手に握るサーベルからライフルに持ち替えて引き金を引く。

銃口から放たれた光条が、地球軍機のメインカメラを貫く。

 

さらにもう一方の手に握られたサーベルを振るって、襲い掛かるモビルアーマーを斬りおとしていく。

 

少しでも隙があれば、シエルは砲火をレクイエムに浴びせようとする。

だが、その全ての砲火はリフレクターに阻まれ四散していく。

 

シエルだけではなく、全ての者の砲火が、防がれ四散する。

 

 

「っ!?」

 

 

どうすればレクイエムを破壊できるか。

考えようとしたその時、コックピット内にアラートが鳴り響いた。

 

何者かにロックされているのだ。

シエルは機体をその場から離脱させようとしながらカメラを切り替えて辺りを見渡す。

見つけたのは、こちらに銃口を向けるウィンダムの姿。

 

ビームに貫かれれば、死ぬ。

ここで死んではいけない。シエルは機体を動かしてその場から離れようとする。

 

だが、気づくのが遅すぎた。

シエルの目の前で、ライフルの銃口が火を噴く。

 

そのまま、ヴァルキリーのコックピットが、シエル諸共貫かれる、はずだった。

 

 

「え…」

 

 

こちらにライフルを向けていたウィンダムが、どこかからやってきた砲撃に飲み込まれ爆散した。

 

シエルは、思わず呆然としてしまった。

自分のまわりに友軍機はいなかったはずだ。

たとえいたとしても、この数だ。地球軍機に囲まれ、自分を助ける余裕などないはず。

 

一体、誰が…。

 

 

『シエル!』

 

 

その時、通信を通して何者かの声がシエルの耳に届いた。

その声を聴き、シエルは大きく目を見開く。

 

どうして、彼がここにいるのだろう。

確かに、彼に話をした。その時、味方になってほしいという思いも込めて話したことも事実だ。

 

だが、心のどこかで自分の言葉は届かないだろうなという予感もしていた。

 

その予感は、外れた。

 

 

「シン…?ルナ、も…」

 

 

ウィンダムを飲み込んだ光条がやってきた方向からは、デスティニーとインパルスがこちらに向かってきている。

 

そこで、自分のまわりの機体の数が少なくなっていることにシエルは気づく。

シンとルナマリアが自分を助けてくれたのだ。

 

 

「どうして…」

 

 

『シエルが言ったんでしょ?レクイエムを破壊するために協力してほしいって!』

 

 

『俺たちだって、あんな兵器の存在を許しちゃいけないってことくらいわかる。だからシエル!早くレクイエムを!ここは俺とルナが食い止める!』

 

 

思いは、届いていたのだ。

 

シエルは、こくりと頷いて機体をレクイエムに向ける。

 

 

「なら、行くからね。…ねぇ、シン?」

 

 

『ん、なんだよ』

 

 

シエルは、ヴァルキリーをレクイエムに向け、スラスターを噴かせてからシンに話しかける。

きょとんとしているのだろう。声から察したシエルは、シンに続けてこんなことを言った。

 

 

「ルナ…って呼ぶようになったんだね、シン。一体何があったのかなぁ?」

 

 

『うぁ…、えぇ!?』

 

 

「この戦いが終わったら聞かせてもらうからね?ルナも一緒に!」

 

 

『ちょっと、シエル!?』

 

 

シエルの問いかけに動揺した二人の声を、微笑みながら無視してシエルはレクイエムへと機体を走らせる。

 

その頃、同じようにセラも機体をジェネシスに向けて進ませていた。

だが、今のセラはまわりに味方がいない。

 

孤軍奮闘の状態で、進行を防ぐために包囲してくるザフト機の集団と交戦していた。

 

セラは両手に握ったライフルを連射して遠くから砲で狙ってくるザクのメインカメラを撃ち落としていく。

直後、今度はグフがビームソードでリベルタスに斬りかかってくるが、セラは瞬時に両手のライフルから二本のサーベルに持ち替える。

 

斬りかかってくるグフがビームソードを握る方の腕をサーベルで斬り飛ばしながら、セラは少しずつジェネシスに近づいていく。

 

セラは、サーベルを振るいながら考えていた。

ジェネシスの構造は見た所、あの時…、ヤキン・ドゥーエの時とそう変わっていない。

ならば、あの時と同じようにどこかに内部に入る入り口があるはずだ。

 

 

『セラ!』

 

 

セラは、側面から襲い掛かってくるグフのメインカメラをサーベルで斬り飛ばそうとする。

その時、通信を通して声が耳に届いた瞬間、そのグフのメインカメラが、サーベルを持っていた方の腕がビームに貫かれ、吹き飛んだ。

 

それだけではない。自分のまわりにいたザフト軍機のほとんどが、ビームに、ミサイルによって武装を、メインカメラを失っている。

 

こんなことができる者をセラは三人しか知らない。

 

まずシエル。だがシエルは、今、月でレクイエムを破壊するために戦っているはず。

 

次に、キラだ。そして、セラは先程耳に届いた声はキラの物だと確信していた。

だが、セラにはまだ違和感を感じていた。

 

自分のまわりを包囲していたザフト機のほとんどを、ほぼ一瞬で吹き飛ばした。

確かに、シエルやキラならばできるだろうが、一人では不可能だ。

 

シエルとキラ、だとすればそこまでだが先程も言った通りシエルは今、月にいるはず。

ここにいるはずがない。

 

ならば、キラの他にもう一人…、誰だ?

 

トールか?

いや、たとえトールでもあそこまでの神業はできないだろう。

 

 

『セラ!ここは僕たちに任せて!』

 

 

「兄さん」

 

 

考えていると、フリーダムがすぐ傍まで寄ってきて、キラがセラに声をかけてきた。

 

 

「わかった。俺は、ジェネシスを」

 

 

『セラ』

 

 

セラがジェネシスに行こうとすると、キラの声とは違う、別の男の声が通信を通して聞こえてきた。

 

すぐに、その声が何者なのかをセラは悟る。

 

 

「アスラン」

 

 

『…俺のようには、なるなよ』

 

 

アスランが、自分に声をかけてくる。

どんな思いが込められているか、セラにはわかっていた。

 

あの時、アスランは自分の命を犠牲にしようとしてジェネシスを破壊した。

自分が、何を考えているのか、アスランも、キラもわかっているのだ。

 

 

「大丈夫だって。リベルタスの機動力を信じろ」

 

 

『…そこは俺を信じろって言うところじゃないのか?』

 

 

「え?」

 

 

『え』

 

 

いやいやいや、俺なんかよりリベルタスの機動力の方が信じられるだろう。

アスランが何を言ってるんだ?と言わんばかりに問い返してくるが、何を言ってるんだ、はこちらのセリフだ。

 

俺を信じろって言ったって信じてくれないことくらいわかってる。

 

 

「…頼んだ」

 

 

『任せろ』

 

 

アスランが答えを返す前に、セラはもう動き出していた。

自分の進行を遮ろうとするグフがやってくるが、先程の勢いとは天地の差だ。

 

セラは手に持つサーベルを振るってグフを退けると動きを止めずにジェネシスに向かっていく。

セラの進路上、セラの視界には内部に入ることのできる入り口を見つけることは出来ない。

 

セラはグフやザクの追撃を振り切りながら、ジェネシスのまわりを飛んで入り口を探す。

 

 

「どこだ…、どこにある…!?」

 

 

まさか、設計を変えてあの時にはあった入り口をふさいだ、ということもあり得るのではないだろうか。

 

ジェネシスの表面には強固なPS装甲が張り巡らされていた。

改良されたこれも、前回よりもさらに強化された装甲が張られているに違いない。

 

ただ攻撃しても破壊することは出来ないはずだ。

どこかに、あるはずだ。

 

セラは少しの異変も見逃さないように目を凝らしてしっかりと観察する。

 

 

「っ、これは…」

 

 

その時、セラの目に見えた。

他の場所よりも、わずかに色が濃い装甲の部分が。

モビルスーツ一機くらいは入れるほどの大きさだろう。

 

その部分だけが、他の部分よりも装甲の色がわずかに違うのだ。

 

 

「…」

 

 

考えている暇はない。何かがあるのなら、試してみるしかない。

 

セラは肩の収束砲を跳ね上げて、その部分に向ける。

そして迷わず、砲撃を放った。

 

放たれた砲撃は、装甲に阻まれ…、ることはなかった。

 

その違和感のある部分を砲撃が飲み込み、結果、違和感のある部分がまるまる消え失せ、中へと通じる通路がセラの前に現れる。

 

 

「先に、行ける!」

 

 

セラは機体をジェネシス内部につながると思われる通路に機体を進ませる。

 

奥にたどり着くまで、時間はそうかからなかった。

奥にあったのは巨大な機器。ジェネシスの中枢と思われる巨大な機器だった。

 

セラは、戻していた収束砲を再び跳ね上げる。

 

そして、セラがジェネシスにたどり着いていた頃、月でもセラと同じようにレクイエムの元にたどり着いていたものがいた。

ヴァルキリーを駆るシエル。

 

だがシエルは、リフレクターに阻まれてこれ以上先に進めずにいた。

 

 

「…、っ」

 

 

シエルは、背後からこちらに向かってくる地球軍機の集団に気づく。

 

ウィンダムの集団が、ライフルを構え、こちらに斬りかかってこようとサーベルを構えて。

 

まわりに、友軍機はない。

シンとルナマリアはどうしたのだろうか。

さすがに二人では、全ての機体を抑え込むことは出来なかったのか。

 

 

「くっ…」

 

 

抗戦するしかないのか。

シエルは収めてあるライフルに手をかける。

 

ライフルを抜き、襲い掛かる集団に向けて放とうとしたその時。

 

 

『行け!シエル!』

 

 

「っ、ネオさん!?」

 

 

アカツキが、ヴァルキリーとウィンダムの集団の間に割り込む。

 

 

『シエル、行け!レクイエムを…、破壊するんだ!』

 

 

ネオは…、ムウはそう言いながら、ドラグーンをヴァルキリーのまわりに配置させるとフィールドを張る。

ビーム兵器を弾きかえすフィールド。

 

 

「…わかりました!」

 

 

アカツキがウィンダムを抑えている今しか、レクイエムを破壊する機会はない。

 

すでに、レクイエムは発射シークエンスをほとんど終えたのか。

発射する直前、臨界を終えようとしている。

 

シエルは、構わずレクイエムに向けて機体を突っ込ませる。

 

レクイエムに入る直前、アカツキのドラグーンが張ったフィールドと、レクイエムに張られたリフレクターがぶつかり合う。

スピードが緩まるが、少しずつヴァルキリーはレクイエム内部に侵入していく。

 

ついに、ヴァルキリーはレクイエムに侵入することに成功した。

シエルの目の前で、レクイエムの砲口が開き始める。

 

レクイエムが撃たれようとしている。

 

 

「まずい…!」

 

 

シエルは、肩の収束砲を跳ね上げる。

 

 

 

 

 

二人が砲撃を放ったのは同時だった。

 

 

「「行っけぇえええええええええええええええええ!!!」」

 

 

放たれた砲撃は、ジェネシスの中枢機器を貫いた。

放たれた砲撃は、レクイエムの内部へと向かっていき、砲口を潰した。

 

貫かれたジェネシスの中枢機器が爆発を起こす。

セラはその爆発から逃れるために、すぐに機体を翻してジェネシス内部から逃れようとする。

 

潰された砲口、レクイエムは、放とうとした砲撃のエネルギーが暴発を起こす。

シエルは起こった爆発から逃れるために機体を上昇させる。

 

セラとシエルは、爆発の炎に掴まることなくその場から逃れることに成功する。

機体をさらにそれぞれの兵器から離し、起こる破壊現象を見つめる。

 

ジェネシスは、まるで芋蔓式の様に次々に爆発が起こり、少しずつその形を崩していく。

 

レクイエムは、内部で起こった爆発によって巻き起こされた炎が柱となり巻き上がっていく。

 

 

 

 

破壊しかもたらすことのできない巨大兵器。

存在した時は短いものの、戦いに携わった者としてはとても長く感じた。

 

何度も何度も破壊を試みたその巨大兵器を、ついに破壊できたのだ。

 

戦闘は、ついに最終局面を迎えることとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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