機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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PHASE67 騎士の再出撃

「あの…艦長…?」

 

 

モニターに敵艦の影が映し出されても、何の命令も出さず、黙ったままのタリアに不審を抱いたアーサーが振り返る。

 

 

「…わかってるわ」

 

 

短く返したタリアの目には、白亜の巨艦が映っている。

さらに、傍ではかつての僚機、ヴァルキリーがシンの駆るデスティニーと交戦している。

 

二つの光景を見つめるタリアの中で、白亜の巨艦の艦長席で座しているはずの女性の言葉が蘇る。

 

 

『私たちも今は、今思って信じたことをするしかないですから』

 

 

あの時は、彼女の素性がわからず、その思いも知らずに相対した時だった。

 

 

(私も、同感よ。だから、今は私の信じることを…、守りたい者のために戦うわ)

 

 

このままオーブに押し込まれれば、再び戦火が広がる可能性だってある。

広がらないと、誰が保証できるだろう。

 

デュランダルならば…、たとえ気に入らないという感情があっても、彼ならば世界に平穏をもたらすことができると、タリアは信じている。

どれだけそのやり口が汚くても、気に入らなくても…。

 

プラントが戦火に呑まれることだけは、絶対に防いでくれるはず。

 

 

「全砲門、照準をアークエンジェルに!」

 

 

「は、はいっ!」

 

 

アーサーが上擦った声で答える。

彼の緊張が、こちらに伝わってくるのがわかる。

 

アーサーだけではない。艦橋にいる全てのクルーが緊張に満ちている。

 

オノゴロ沖で逃してしまってから、相対することはなかったアークエンジェル。

二度目の対決、二度も失敗するわけにはいかない。

 

 

「ザフトの誇りにかけて、今日こそあの艦を討つ!」

 

 

タリアの決意が籠った声が、艦橋中に響き渡った。

 

 

 

 

 

「はぁああああああああああっ!!」

 

 

ミネルバとアークエンジェルが戦闘を開始しようとしていたころ、シンはヴァルキリーと激しく交錯を繰り返していた。

シンはその手に持つアロンダイトを握り、何度もヴァルキリーに斬りかかっていく。

 

ヴァルキリーはサーベルを上手く操って、破壊力のあるアロンダイトでの斬撃を全て防ぎ切っていく。

さらにヴァルキリーはデスティニーから距離を取ると、ライフルでデスティニーのアロンダイトを弾き飛ばそうとビームを放つ。

 

 

「こんなもので!」

 

 

シンは、ヴァルキリーが撃ったビームをアロンダイトで斬り裂く。

 

そこでシンは、アロンダイトを右手から左手に持ち替え、それと同時に肩のビーム砲を跳ね上げる。

 

放たれた砲撃は、ヴァルキリーへと向かっていくが、ヴァルキリーが展開したビームシールドに阻まれ四散してしまう。

 

 

「くそっ…」

 

 

やはり、一筋縄ではいかない。

というより、恐らくシエルは自分よりも強い。

 

本気で来られたら、今頃自分は防戦一方になっていたかもしれない。

 

そう、シンはわかっていた。

シエルは、本気で戦っていないことを。

 

 

「何で…、あんたは…!」

 

 

だから、今になってシンは迷い始める。

裏切った仲間だった人間を、この手で討つんだという決意が揺るぎ始める。

 

 

「自分から裏切っておいて…!何で!」

 

 

「シン…」

 

 

ルナマリアの細い声が耳に届く。

ルナマリアも、シエルを討っていいのかと迷っているのかもしれない。

 

 

「私は…、シンたちと戦うつもりはない」

 

 

「っ!」

 

 

不意に聞こえてきたシエルの言葉に、シンの目が見開かれる。

 

一方のシエルも、先程のシンの言葉で驚愕していた。

自分がミネルバにいた頃のシンならば、自分が本気で戦っていないということに気がつかずにそのまま戦い続けていただろう。

だが、今のシンはその事に気づいた。

 

自分から裏切ってしまったというのに、シンの成長を嬉しく思うのは、しょうがないことなのだろうか。

 

 

「シン、私は出来るならシンたちと協力してレクイエムを破壊しようって思ってる。…ううん、レクイエムを破壊しないとダメなんだ」

 

 

「シエル…」

 

 

「こんな所で戦ってる場合じゃない。今は目の前の脅威を何とかしないといけないことは、シンとルナにはわかってるでしょ!?」

 

 

シンは、シエルの言葉を聞いて先程まで湧いていた闘志が失われていくのを感じる。

シエルは敵なのに。自分たちを裏切った敵だというのに。

 

それなのに、シエルと協力して戦いたいと思っている自分がここにいてしまっている、

 

 

「…でも、オーブは…、シエルたちはメサイアを襲ってる!」

 

 

だが、シエルたちは現にザフトの要塞であるメサイアを襲っているのだ。

メサイアが失われれば、どれだけの脅威がプラントに降りかかるかがわからないシエルではないはず。

 

 

「俺たちは守りたいものがあるんだ!そのためにも、シエルと戦う!」

 

 

「シン…!」

 

 

守りたいものに脅威を与えるのなら、たとえかつての仲間でも、迷いを消して戦わなければならない。

 

闘志を取り戻そうとしているシンに、再びシエルの声がかかる。

 

 

「ならシンは、あの兵器を放っておいていいっていうの!?」

 

 

「あっ…!」

 

 

あの兵器。それが、ジェネシスだと悟るまでの時間はほんの一瞬だった。

そして悟った瞬間、シンの動きは完全に凍り付く。

 

 

「それにシンは…、ルナは、議長が何をしようとしているのかを知ってる?議長は…、ううん、デュランダルは、自分の計画のために私の大切なものを壊そうとした」

 

 

「え…?」

 

 

シエルの言葉に呆然となるシン。いや、シンだけではなく、ルナマリアも同じだった。

 

シエルは、議長に信頼されていると思っていた。

そしてシエルも、議長を信じていると思っていた。

 

だが今、議長をデュランダルと呼び捨てし、さらにその議長がシエルの大切なものを壊そうとしたとシエルは言った。

 

 

「お願いシン、今は私の話を聞いて。彼がしようとしていることを聞いて、考えて。その上で、私と戦うって決めたなら…、私も何も言わない」

 

 

「…」

 

 

率直な気持ち、シエルの話を聞きたい。

シンも、度々デュランダル議長に不審感を抱いたことがあったのだ。

 

怪しい、本当に彼についていっていいのだろうか。

そこまで思ったことだってある。

 

 

「ルナ」

 

 

「シン…」

 

 

だが、ここにはルナマリアだっている。

彼女は、もしかしたらシエルの話を聞きたくないと思っているかもしれない。

 

そう感じて、シンは彼女に呼びかけてみた。

返ってきた声は、弱弱しく自分の名前を呼ぶだけ。

 

彼女も、自分と同じ気持ちなのだと、その時シンは悟った。

 

 

(マユ…)

 

 

シンは、今、ミネルバに乗って戦いの終わりを、自分の帰りを待っている妹のことを思い浮かべる。

シンが軍に入り、こうして戦っている一番の理由は、家族を、マユを守りたいと決意したから。

 

 

「…聞きたい。シエル、話してくれ」

 

 

もし、議長がシエルの言う通りのことをしたのだったら。

 

自分の大切な人たちだって、危なくなるかもしれない。

 

シンの目に、迷いはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジャスティスを駆るトールは、未だディーヴァとの激突を繰り返していた。

だがその戦いも、少しずつだがトールに流れが傾いてきていた。

 

ディーヴァは、機動力はジャスティスを凌いでいる。

機動力は凌いでいるのだが、馬力と武装の豊富さはジャスティスの方が優れている。

 

持久戦になれば、どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「あぁっ…!」

 

 

ミーアの唇から悲鳴が漏れる。

ジャスティスのビームブーメランがディーヴァの左腕を斬りおとしていったのだ。

 

さらにブーメランは綺麗な弧を描きながら戻ってくる。

こればかりは喰らってられないミーアは、機体を横にずらしてブーメランの斬撃をかわす。

 

 

「っ!?」

 

 

「甘いっ!」

 

 

だが、ミーアが回避した方向にはジャスティスが待ち構えていた。

 

ディーヴァの左腕が斬りおとされた時、体勢が崩れたディーヴァを見てどちらの方向に回避するかをトールは読んだのだ。

ブーメランを一本犠牲にしてしまったが、片腕を失い体勢も十分ではないディーヴァはこれで詰みだ。

 

トールは腰に差さったサーベルを抜き放った。

抜き放たれたサーベルは、ディーヴァのメインカメラを斬りおとす。

 

さらにトールは間を置かずにもう一方のサーベルも抜き放ち、残った右腕も斬りおとした。

 

 

「…何で」

 

 

ミーアは呆然とつぶやいた。

何故。

 

 

「何で、こんな所で…」

 

 

こんな所で、何故負けてしまったのだろう。

 

 

「あたしは、ただ…」

 

 

ただ…、自分は何をしようとした?

 

 

「ぁ…」

 

 

今になって、自分がしでかそうとしたことの大きさを自覚する。

 

ラクスを殺し、自分がラクスになる。

その醜さが、今になってようやくミーア自身は理解できた。

 

 

「あ、あたっ…、あたし…」

 

 

正気に戻ったミーアの瞳から零れる涙。

 

トールも、今ミーアが泣いていることを通信を通して察する。

 

これから、どうすればいいだろうと考えて、すぐにトールは答えを出す。

 

 

「…お前、俺と来い」

 

 

「え…?」

 

 

「お前とラクスさんと、話をさせる」

 

 

このまま放っておいてもよかった。

敵として自分の前に立ちはだかり、自分を殺そうとしただけでなく、友を殺そうとした彼女を、放っておいてもよかった。

 

だが、一気に弱弱しくなった彼女を、トールは放っておくことができなかった。

だから、トールは手を差しのべる。

 

 

「エターナルに来い。そして、自分がこれからどうすべきかを、ラクスさんに教えてもらえ」

 

 

「あたしが…、ラクス様から…」

 

 

断ろうと、ミーアは考えた。

考えたが、断って、そこからどうする?自分は、どうしていけばいい?

 

何も変わらず、ラクスとして生きる?そんなこと、できるはずがない。

 

どうする?どうしていく?

何も、わからなくなってしまった。

 

 

「…行く。行かせて、ください」

 

 

ミーアは、差し伸べられたトールの手を取る。

 

手を取ったディーヴァを見て、トールは機体をエターナルに向けようとする。

その時、ジャスティスのスピーカーから飛び込んできた声をトールは聞く。

 

 

『トール!無事だった!?』

 

 

自分を案ずるその声は、聞き間違うはずもない友の声。

 

 

「キラ!キラか!?」

 

 

カメラを切り替えると、こちらに向かってくるフリーダムの姿が映し出された。

だが、そのフリーダムの手には何かが握られている。

 

トールはカメラをズームして見る。

 

 

「っ…。キラ、お前、そいつは…」

 

 

フリーダムが握っているのは、ブレイヴァーの手だった。

キラは、ブレイヴァーを連れてこちらにやってきていたのだ。

 

 

『…連れてきた。連れて帰ってきたよ』

 

 

「…そっか。ずいぶんと遅い帰りになったな、アスラン」

 

 

『…そうだな。トールも、元気なようで安心した』

 

 

トールは特に、アスランに対して深く聞こうとは思わなかった。

それをするべき人は他にいる。ただトールは、友の帰りを喜ぶだけ。

 

 

『それよりもトール。君も、その機体を?』

 

 

「あぁ。エターナルに連れていこうと思ってる」

 

 

トールは、ディーヴァをエターナルに連れていきたいという意志を告げる。

キラは反対するかも、と一瞬思ったが、すぐにそれは杞憂だと改める。

 

 

『そっか。なら急ごうか』

 

 

キラから返ってきたのは、エターナルへの収容を急ぐ催促の言葉。

 

 

「あぁ、急ごう」

 

 

トールもキラへの返事を返して、ジャスティスとフリーダムは同時に飛び立つ。

 

エターナルとの距離はそう離れてはいなかった。

紅色の艦影が見えてくると、キラがすぐにエターナルへと通信をつなげた。

 

 

『バルトフェルドさん!モビルスーツ二機をそちらに収容したいのですが!』

 

 

『なにっ?…あぁわかった!早くしろ!』

 

 

旗艦であるエターナルは、かなりの数のモビルスーツに囲まれていた。

ムラサメが奮闘し、エターナルの損傷はかなり少なく済んではいるが、そう時間はかけていられないかもしれない。

 

トールとキラは、エターナルの元へと急ぎ、開かれたハッチの中にブレイヴァーとディーヴァを入れる。

 

 

「バルトフェルドさん!俺も一度戻ります!」

 

 

さらに、トールもエターナルへ通信をつなげ、そう一言告げると機体をハッチに入れる。

 

 

「キラ!少しの間頼むぞ!」

 

 

『わかった!』

 

 

『お、おい!トール!?』

 

 

キラの了承の返事、バルトフェルドの戸惑った声を耳に入れながらトールはエターナルの中へと戻っていく。

 

エターナルの中に入ったジャスティスは、格納庫へと運ばれていく。

格納庫には、すでに損傷したブレイヴァーとディーヴァが収容されていた。

 

ジャスティスも元の場所へと戻り、トールはすぐにコックピットハッチを開いて機体から降りる。

 

ジャスティスの足下では、アスランとミーアがこちらを見上げていた。

トールは、二人の元で床に足をつける。

 

 

「トール…。お前、何で降りてきたんだ?」

 

 

険しい表情でアスランがトールに問いかける。

トールはヘルメットを脱いで、首を横に振ってから答えようと口を開いた。

 

が、トールの口からその答えが出ることはこの時はなかった。

格納庫の扉が開かれたのだ。

 

 

「ぁ…」

 

 

ミーアが目を見開き、唇から声を漏らす。

 

格納庫に入ってきたのは、桃色の髪を柔らかく揺らしながらこちらに向かってくる少女。

 

 

「ラクス…」

 

 

「お久しぶりですね、アスラン」

 

 

三人の元へ寄ってきたラクスに、初めに声をかけたのはアスランだった。

名を呼ばれたラクスは、柔らかい笑みを浮かべてアスランと挨拶を交わす。

 

 

「そして、あなたが…」

 

 

アスランから視線をミーアへと移すラクス。

ラクスと目が合うと、ミーアはぴくりと体を震わせて目を逸らす。

 

だが、ミーアは勇気を振り絞り、ラクスの目を見つめる。

 

 

「あ、あの…。あ、あたし…」

 

 

「お会いしたかったですわ。お名前は何というのでしょうか?」

 

 

「え…え?」

 

 

ラクスの柔らかい声に、ミーアは戸惑いを隠せない。

正直、自分は彼女に怒られると思っていた。

 

怒られるだけではない。ここから追い出されることも覚悟していた。

それなのに、ラクスは柔らかく自分に声をかけ、名前を聞いてきて。

 

 

「あ、ミーアです。ミーア・キャンベル…」

 

 

そこでミーアは、未だに自分が名乗っていないことに気づいて、改めて名乗る。

ミーアの名を聞いたラクスの笑みは変わらずそこにある。

 

 

「ミーアさん、ですか。良いお名前ですわ」

 

 

「…あの、怒らないんですか?」

 

 

名を聞いただけでなく、その名を微笑みながら褒めるラクスにミーアは恐る恐る問いかける。

 

 

「いえ、怒るどころじゃないです。あの人がこうしてあたしをここに連れて来てくれましたが、あなたは断ることだってできたはずです。すぐにここから追い出すことだってできたはずです!」

 

 

だんだんと声を荒げていくミーア。

むしろ、ここに来なかった方が良かったと感じるミーア。

 

彼が、トールが、ラクスが自分にこれからどうすべきかを教えてくれると言ったがそんなことをしてくれるはずがないじゃないか。

彼女は自分を恨んでいるに決まっているのだから。

 

 

「私は、あなたのことを恨んでなどいませんわ」

 

 

「…え?」

 

 

まるで、ミーアの心を読んでいたかのように、ラクスは最高のタイミングで告げた。

ミーアは目を見開いてラクスの顔を見つめる。

 

今、彼女は恨んでいないと言った。

何故?自分はあんなことをしたというのに。

 

 

「むしろ、私の姿と声が欲しいのならば、差し上げます」

 

 

「っ!」

 

 

ミーアは悟る。

この人は、自分の外面など全く興味がないのだと。

 

だからこそ、姿と声をあげるなどと簡単に言うことができるのだ。

 

 

「ですが、これだけは覚えていてください」

 

 

だがラクスの言葉はそこで終わらない。

ミーアは、続かれるラクスの言葉に耳を傾ける。

 

 

「たとえ姿が同じになっても、あなたはミーア・キャンベルという一人の人間なのです。私とあなたは、全く違う人間なのです」

 

 

「あっ…!」

 

 

たとえ姿は同じでも、全く違う人間。

 

この言葉が、ミーアの心に響き渡る。

 

 

「私たちは自分以外の何者にもなれないのです。ですから、あなたの夢はあなたの物です。あなたのために、それを歌ってください。夢を他人に使われてはなりません」

 

 

ラクスの言葉一つ一つがミーアの中に染みわたっていく。

ついに、ミーアは耐えきることができなかった。

 

 

「あ…、あぁっ…!ああああああああぁ!!!」

 

 

ぼろぼろと涙が零れ落ち、掌で顔を覆う。

足に力が入らなくなり、ミーアは崩れて座り込む。

 

ラクスは、座り込んだミーアをそっと抱きしめる。

 

トールとアスランは、そんな二人を見つめるだけ。

 

 

「…トール。そろそろお前は行った方がいいんじゃないか?」

 

 

二人を見つめていると、アスランがトールに声をかけてきた。

トールはそこで、アスランに何を言おうとしたのかを思い出す。

 

 

「あぁ…。でも、それは俺じゃなく、お前が行くんだ」

 

 

「え…?」

 

 

アスランが呆然と目を見開く。

 

 

「ジャスティスはお前の機体だろ?俺は、ただ借りただけだぜ」

 

 

「いや…、だが」

 

 

こうしてエターナルに乗せてくれたことだけでもありがたいことなのに、敵対していた自分を僚機に乗せて戦わせてくれると言うのだろうか。

 

 

「アスラン」

 

 

「…ラクス」

 

 

ラクスが、アスランに声をかける。

アスランが目を向けると、ラクスはまっすぐにアスランを見つめている。

 

 

「キラを、助けてあげてください」

 

 

「…」

 

 

本当に良いのだろうか。自分が、戦っても。

また、この機体に乗って。

 

 

「ほら、行けよ。キラが待ってるぜ」

 

 

「トール…」

 

 

トールはこう言っているのだ。

キラが待っているのは自分ではなく、お前だと。

 

 

「…ジャスティス」

 

 

アスランはジャスティスを見上げる。

この機体に乗って、戦う。戦える?

 

 

「…いいのか?」

 

 

「あぁ!ほら、早く行けって!」

 

 

もう一度アスランはトールに確かめる。

返ってきたのは、催促の言葉と自分の背中を押す掌。

 

アスランはふっ、と微笑んでジャスティスのコックピットへと向かう。

 

 

「ありがとう!トール!」

 

 

アスランは、下で自分を見上げるトールに礼を言った後、コックピットに乗り込む。

立ち上げる時間はいらない。機体はすぐにカタパルトへと運ばれ、目の前に暗闇の宙が覗く。

 

 

「アスラン・ザラ!ジャスティス、出る!」

 

 

操縦桿を倒すと、ジャスティスが前に進む。

宙へと飛び出すと、視界に広がる爆発の光。

 

 

『アスラン!』

 

 

「キラ!」

 

 

少し離れた所では、フリーダムがエターナルに砲火を浴びせようとするザフト機を次々に落としている。

アスランも、久しぶりのジャスティスの武装を取り出す。

 

両腰のサーベルを連結させ、ハルバート状にする。

ハルバートを握り、モビルスーツの集団へと突っ込んでいく。

 

ハルバートを振るい、自分を囲んでくるザクやグフを斬りおとしていく。

 

 

『アスラン、ミーティアを使おう!』

 

 

そこに、画面に映し出されたキラがアスランに声をかける。

確かに、この多くの機体を相手にする状況ならばミーティアを使った方が正解かもしれない。

 

反論することもなく、アスランは力強く頷く。

 

 

『バルトフェルドさん!ミーティアを!』

 

 

『了解!』

 

 

キラがバルトフェルドにミーティアの切り離しを要請し、バルトフェルドはすぐに要請を呑む。

 

アスランとキラはすぐさま機体とミーティアのドッキング作業を行う。

ミーティアを接続した二機は、すぐに機体をモビルスーツの集団に向ける。

 

ジャスティスとフリーダムは、マルチロックオンシステムで多数のモビルスーツを補足する。

そして、ミーティアの全砲門を開き、フルバースト。

 

エターナルを包囲していたほとんどのモビルスーツは、武装かメインカメラ、もしくは両方を必ず損傷する。

 

エターナルの窮地を救った二人は、メサイアへ向かおうとしたその時、フリーダム、キラに通信が入った。

 

 

『兄さん!今どこにいる!?』

 

 

『セラ?どうしたの?今、メサイアに向かってるんだけど』

 

 

こうして話している間にも、アスランとキラはメサイアへと向かっている。

 

そして、次にセラの口から放たれた言葉にアスランとキラは驚愕する。

 

 

『メサイアの裏側に地球軍艦隊が攻めてきている!それの迎撃にザフトの艦隊も向かってるんだけど…』

 

 

セラはそこで少しの間を置く。

 

 

『ジェネシスが起動してるんだ!もしかしたら、ジェネシスを撃つ気なのかもしれない!』

 

 

「『!?』」

 

 

まさか、地球軍艦隊をジェネシスで撃ち抜くつもりなのか。

だが、メサイアの裏側ということは、地球軍は艦隊を地上から発進させたということだ。

 

艦体をジェネシスで討つということは、ジェネシスのレーザーは地上に着弾する可能性は大いにある。

 

 

「キラ!」

 

 

『うん!すぐそっちに行くよ、セラ!』

 

 

アスランとキラは意志を確かめ合う。

だが当然、その意志は同じ。

 

ジェネシスを撃たせるわけにはいかない。

 

アスランとキラはさらに機体のスピードを上げてセラの元へと急ぐのだった。

 

 

 

 

 

 

 

キラに通信を入れた後、セラもメサイアの裏。

進軍する地球軍艦隊の迎撃に向かおうとしていた。

 

だが、ザフト軍モビルスーツがセラの前に立ちはだかり、思うように機体を進めることができない。

 

 

「くそっ!こんなことしてる場合じゃないだろ!」

 

 

自分を敵として見ていることはわかる。

だが、それにしたって数が多すぎる。

 

ざっと見ただけで二十機は自分のまわりにいる。

こんな数を自分一人に向けている余裕は、ザフトにはないはずだ。

 

今こうしている間にも、メサイアの背中に地球軍艦隊が迫ってきているというのに。

 

 

「このっ…!」

 

 

セラは、スラスターに戻していたドラグーンを切り離す。

切り離されたドラグーンは瞬時に自分のまわりに向けてビームを斉射する。

 

八基のドラグーンによって武装、またはメインカメラを損傷した機体が後退し、新たな機体がリベルタスに襲い掛かる。

 

セラは手に握っているサーベルを振るう。

ビームソードで斬りかかってくるグフのメインカメラを斬りおとし、もう一方の手に握っていたライフルで両腕を撃ち落としていく。

 

 

「何で…、ここまで執拗に俺を狙ってくる…?」

 

 

そこでセラは疑問を持った。

 

いくら何でもおかしすぎる。

今、ザフトは窮地に陥っているのだ。

そんな状況で、自分ばかりに狙いを定めていたら、地球軍にメサイアが落とされてしまう。

 

そこでセラは、起動し、制動し始めていたジェネシスを思い出した。

ザフト軍艦隊が進軍する地球軍艦隊の迎撃のために動き出していたから、あまり気にしていなかった。

 

だが、もうこれは決定的だ。

 

 

(くそっ、デュランダル!)

 

 

デュランダルは、ジェネシスで艦隊を薙ぎ払うつもりだ。

迎撃に向かっている、味方の艦隊諸共。

 

 

「ちぃっ、邪魔だっ!」

 

 

セラは、眼前から斬りかかってくるグフを殴って弾き飛ばして機体をジェネシスへと向かわせる。

 

もう、迷っている暇はない。

すぐにジェネシスを破壊しなければ、地球が撃たれてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

念のために起動しておいたジェネシスが、こんな形で役に立つとは。

 

デュランダルは大画面に映し出される、メサイアに進軍してくる地球軍艦隊を見つめる。

まさか、地上の基地からこちらに進軍させてくるとは思わなかった。

 

この戦い、何回予想外のことが起こっただろう。

 

こちらも、艦隊を迎撃に向かわせてはいるが恐らく間に合わない。

だから彼らには囮になってもらおう。

 

こちらが大っぴらにジェネシスで薙ぎ払うという姿勢を見せれば地球軍も動きを変えてしまう。

確実に迎撃するために、ジェネシスを使わなければならない。

 

迎撃に向かわせた艦隊は囮。ジェネシスの発射準備をカモフラージュするための囮。

 

 

(さすがの彼らも、私が地球に向けてこれを撃つとは思わないだろう)

 

 

そして、ジェネシスを撃てば間違いなく向こうはレクイエムを撃ってくるはず。

だが、向こうが撃つよりも早くこちらがあれを破壊すればこちらの勝ちだ。

 

唯一、こちらに接近しているリベルタスは味方機に囲まれ身動きが取れない状態にいる。

たとえ、セラ・ヤマトが…、気づいているだろうこちらの狙いを。

しかし気づいていたとしても、ジェネシスを破壊させなければこちらの勝ちだ。

 

 

(だが…、これは賭けに等しいな)

 

 

向こうが早いかこちらが早いか。

デュランダルは珍しく一か八かの勝負に出たのだ。

 

ここまで周到に計画を進めてきたデュランダル。

確実な勝負にしか出てこなかったデュランダルが、賭けに出たのだ。

 

そこまでデュランダルは追い込まれていた。

 

 

(負けない。負けんぞ、私は)

 

 

負けない。負けたくない。

ここまで来れば、その思いが大きい方が勝つ。

 

 

(私は…、負けるわけにはいかんのだ!)

 

 

デュランダルはジェネシスの発射シークエンスを進めるオペレーターたちを眺める。

 

もうすぐだ。もうすぐ、決着が着く。

 

デュランダルは、もうじき訪れる決着を、自分の勝利を信じながら…、いや、確信しながら待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




早く完結させたい…

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