機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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かなり強引に進めてしまいました
けど、素直に書いたらまじで終わらないってこれは…


PHASE66 新人類

メサイア付近にて繰り広げられている、ザフト軍とオーブ軍の戦いは、当初こそザフト側が押しに押していたのだが、ある時を境に形勢は膠着を見せ始めていた。

 

デュランダルは、戦闘の様子をモニターで見つめながらオペレーターに問いかける。

 

 

「まだ落ちないのか?エターナルは」

 

 

「はっ、撃墜報告はまだ…」

 

 

オーブ側が盛り返しを見せ始めたのは、ある機体がメサイア付近に現れてからだ。

 

 

(セラ・ヤマト…。やはり、君を落とさぬ限り、勝利はない…か)

 

 

心の中でつぶやきながら、デュランダルはかつての友が言っていた言葉を思い出していた。

 

 

『セラ・ヤマトは、ただのコーディネーターではない。全てを超越した、人を超えた人…、とでも言うべきか』

 

 

この言葉に対し、デュランダルはこう問い返した。

 

 

『だがそれは、キラ・ヤマトに対しても同じことを言えるのではないか?』

 

 

セラ・ヤマトの兄、キラ・ヤマトもまた、セラ・ヤマトと同じ最高のコーディネーターとして生み出された。

全てを超越した人。この言葉は、キラ・ヤマトにもふさわしいと言える。

 

だが、友はゆっくりと首を横に振ってこう言った。

 

 

『次元が違うのだよ、彼は。彼は、このコズミック・イラに存在する二つの人種、ナチュラルにもコーディネーターのどちらにも属さない』

 

 

友の顔面につけられている仮面の奥で、その表情はどうなっているのか。

その時のデュランダルはわからなかったが、今は何となくわかる。

 

瞳は、怒りでぎらついていただろう。

鼻から下は、涼しげに笑っていたが、鼻より上は怒りに満ちていた。

今のデュランダルなら、わかる。

 

 

『まさに彼は、新人類…。ニュータイプと言うべく存在なのだから…』

 

 

「ニュータイプ…か」

 

 

デュランダルの唇からぽつりと出されたつぶやきが耳に届いたのだろう。

傍らにいた秘書官が不思議そうな顔をしてデュランダルの方に振り向いた。

 

 

「いや、何でもない。それよりも、戦況の情報を一句残さず聞き逃すな」

 

 

「はっ!」

 

 

自分が戦うことは出来ない。兵士たちに託すことしか、自分にはできない。

だからといって、何もしないでいるわけにもいかない。

 

 

「アナトの位置は?レクイエムにはまだ到着していないのか。ミネルバはどうなっている」

 

 

「アンノウン機と交戦中です!ミネルバは…、アークエンジェルと接敵!」

 

 

アナトと交戦しているアンノウン機は、先程地球軍が撃ってきた核を護衛していた最新鋭機だろう。

彼女、クレアならば間違いなく負けることはないはずだ。

 

だが、ミネルバはどうなるだろう。

レクイエムを破壊する前にアークエンジェルと接敵することになるとは。

 

 

(…まぁいい。デスティニーとインパルスが、地球軍の新型二機を落としてくれている。流れは、こちらにある)

 

 

勝ちに近いのはこちらだ。

そして、デュランダルはもう一つ気になっていたことをオペレーターに問いかけた。

 

 

「レクイエムの動きはどうなっている?」

 

 

「動きはありません。まわりの艦隊にも動きはありません」

 

 

やはり、レクイエムを撃つつもりはないようだ。

こちらが、大きな動きを取らない限りは。

 

 

「警戒は怠るな。いつどこで仕掛けて来るかはわからないのだからな」

 

 

宙に上がってから、地球軍に裏を取られてばかりだった。

どこで彼らがどんな動きをするかはわからない。

 

ジブリールが死んでから、本当に地球軍は危険な動きをすることが多くなったのだ。

正直、地球軍との戦いがここまで長引くことになるとはデュランダルは思っていなかった。

 

 

(警戒すべきはオーブだと思っていたのだが…、とんだ伏兵が現れたものだ)

 

 

改めて、今の地球軍を統べている人物の恐ろしさを実感する。

 

これまで、ヘブンズベースが陥落するなど地球軍の立場は相当不利な所にあったのだ。

それがこんな事になるだなんて、誰が考えただろう。

誰も、考えなかったのではなかろうか。

 

 

「…だが、どれだけあがこうと何も変わらない」

 

 

だがデュランダルは断言する。

どれだけ自分の予想から外れようと、結末は変わらないのだから。

 

 

(それが運命なのだからね…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憎しみで歪んだ瞳に映るのは、忌々しい光の翼を広げる美しい機体だけ。

レイは、リベルタスのまわりを囲ませたドラグーンを次々に時間差を使ってビームを撃ちこんでいく。

 

これでリベルタスを追い込んでいき、体勢を崩したところをサーベルで斬りおとす。

レイはそう考えていた。

 

だが、当たらない。

まるで全てを予知していたかのようにリベルタスは余裕をもって、最小限の動きで全てを回避する。

 

無駄がない動きは、少しずつ逆にレジェンドを追い込んでいた。

 

 

「くっ…!」

 

 

一瞬に感じた。

リベルタスが眼前に迫り、サーベルを一文字に振るう体勢を取っている。

 

レイは機体を後退させてかわそうとするが、どう見ても間に合うタイミングではない。

 

リベルタスが振るうサーベルがレジェンドを斬り裂こうとしたその瞬間、リベルタスはその場から消え、先程までいたその場所を、巨大な弾丸を通り過ぎていった。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

レジェンドに気を取られている間にリベルタスに攻撃を当てようとしたのだろう。

 

レイは、そんなドムの三機を憐れみすら含んだ目で見る。

 

その程度の攻撃で奴を落とすことができるのなら、奴はとっくに落ちている。

こんな所まで生き残ることなどできなかったはずだ。

 

そんな程度のことすらもわかっていない奴らが、リベルタスと戦おうとしているのか。

 

 

「っ!」

 

 

先程の攻撃でセラの目はドム三機に移る。

セラはドラグーンをドム三機に向けて飛ばし、ビームを連射させる。

 

 

「くっ…!マーズ、ヘルベルト!」

 

 

何とかドラグーンの弾幕から逃れたヒルダは、まだ弾幕の中にいるマーズとヘルベルトに叫びかける。

 

 

「あぁっ!」

 

 

ヒルダが叫んだ直後、マーズ機がドラグーンの弾幕に貫かれる。

貫かれた箇所は左腕と右足。コックピットに損傷は与えられていないが、戦闘には支障が出てしまうだろう。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

だがヘルベルト機はヒルダに遅れて弾幕から抜け出すことに成功した。

 

二人は、そこから仕切り直してリベルタスを落とし、次にエターナルを攻撃だと考えていた。

 

 

「でも、それはさせない」

 

 

二人の考えを、セラは読んでいた。

セラでなくてもできるだろう。歴戦に戦士ならば、二人の魂胆を簡単に読み取ることができるはずだ。

 

何故なら、ドム三機はカメラをちらちらとエターナルに向けていたのだから。

あまりエターナルから離れたくないという思いが、形として見ることができた。

 

セラはヘルベルト機の懐に潜り込み、サーベルを振り切る。

 

 

「なっ…、ぐぁっ!?」

 

 

ヘルベルトは、リベルタスの姿すら捉えることができなかった。

振り切られたサーベルはヘルベルト機のメインカメラを斬りおとし、さらにセラはヘルベルト機を蹴り飛ばして無理やりその場から離させる。

 

 

「ヘルベルト!このぉっ、よくも!」

 

 

仲間二人がやられたことに憤慨し、ヒルダは意気込んでサーベルを握ってリベルタスに突っ込んでいく。

 

 

「前も同じような展開だったな。学習していないのか?」

 

 

だが、これまでのリベルタスとドム三機の戦い。

前回と同じような展開だった。

 

先にセラがヒルダ機以外の二機を損傷させ、憤慨したヒルダが突っ込んで、簡単にセラはそれを受け流して他の二機と同じように斬りおとす。

 

並のパイロット以上の腕はあるようだが、やはりセラには並のパイロットと同じようにしか映らなかった。

 

セラは突っ込んできたヒルダ機の斬撃を受け流し、もう一方のサーベルを抜き放ってヒルダ機のメインカメラを斬りおとす。

 

 

「まだ、終わりじゃないぞ」

 

 

さらにセラはドラグーンをドム三機のまわりに配置させる。

 

セラはドラグーンのビームを一斉照射させる。

ビームは、ドム三機の四肢とメインカメラを全て撃ち落として戦闘を完全に不可能にさせる。

 

それを見ていたレイは、リベルタスの様子に違和感を感じていた。

 

 

(どういうことだ…。奴は、ここまで容赦なく敵を叩き潰すような戦い方をしていたか?)

 

 

違和感の正体は、リベルタスの戦い方。

これまでのリベルタスならば、ドム三機を一部損傷させた状態でドム三機との交戦を自分からやめていたはずだ。

もう彼らに自分を討つための戦闘能力は失われているのだから。

 

だが今のリベルタスは違う。

命までは奪ってはいないものの、今のドムの状態はそれと同意と言っていい。

 

戦闘能力を完全に奪っている。もしこの状態で襲われれば、どんなに操縦が下手な相手でも間違いなく落とされてしまうだろう。

先程も言ったが、戦闘能力が完全に失われているのだから。

 

 

「っ!」

 

 

レイが思考に耽っている途中で、リベルタスが動き出した。

リベルタスは、ドラグーンと共に自らもサーベルを手にレジェンドへと向かっていく。

 

レイは、リベルタスを迎え撃つべくドラグーンを使ってリベルタスを狙う。

ビームは間違いなくかわされてしまうだろうが、少しでもリベルタスのスピードを緩めたい。

 

だが、リベルタスはレイの想像を超えていた。

 

ドラグーンをスラスターへと戻したリベルタスは、眼前に広がるドラグーンの群れに怯まずそのまま突っ込んでいく。

スピードが緩むどころかどんどん加速しているようにも見える。

 

 

「まずいっ…!」

 

 

このままでは一太刀で斬り伏せられてしまう。

そう感じたレイは、機体を後退させてリベルタスから距離を取る。

 

しかしレジェンドのスピードではリベルタスから逃れることは不可能。

とはいえ、こうしなければレイが生き延びる術はない。

 

後退することによって、リベルタスがレジェンドに到達するまでのわずかな時間を稼ぐことができた。

その間に対応するための動きができる腕を、レイは持っている。

 

左腕のビームシールドを展開して、レイはリベルタスの斬撃の間にシールドを割り込ませる。

 

リベルタスの斬撃を凌いだレイは、すぐに機体を後退させてリベルタスと距離を取る。

 

 

「逃がすか」

 

 

だがリベルタスは、距離を取ろうとするレジェンドにさらに追いすがる。

レイの表情は、歪む。

 

レイはドラグーンのビームを、レジェンドとリベルタスの間に向かって斉射する。

 

さすがのリベルタスも、動きを止めざるを得ない。

スピードを緩めずにそのまま突っ込んていたら、リベルタスは蜂の巣にされていたのだから。

 

しかし、そのことを期待していたレイは舌を打つ。

そう上手くはいかないだろうと予想していたが、ここまで簡単に反応されてしまうとは思わなかった。

 

 

(…反応?)

 

 

レイは、先程のリベルタスの動きを思い返してみた。

自分がドラグーンを斉射した時の、リベルタスの動きを。

 

その時、リベルタスはすでに動き出していた。

自分が、ビームを撃つ前に。

 

 

(っ!?)

 

 

ぞくっ、と背筋に寒気が奔る。

 

反応とかそういう問題ではない。リベルタスは、自分が攻撃をする前に回避行動を見せていた。

これはまさに、予知としか言いようがない。

 

セラ・ヤマトは、自分の動きを予知しているとでも言うのか。

 

 

「くそっ!」

 

 

ぎりっ、と歯を噛み締めるレイは、マイナスの思考を振り切ってリベルタスに向かっていく。

腰からサーベルを抜いてリベルタスに突っ込んでいきながら、レイはまわりに配置していたドラグーンをリベルタスに向けて撃つ。

 

やはり、リベルタスは自分がドラグーンを撃つよりも前に動き出していた。

容易くビームをかわすと、リベルタスはライフルをレジェンドに向けてビームを放ってくる。

 

リベルタスの反撃は、ライフルのビーム一射。

この程度で、自分に勝てると思っているのだろうか。

 

舐められていると感じたレイは、リベルタスが撃ってきたビームをサーベルで斬り裂くと、二基のドラグーンをリベルタスに向けて突っ込ませる。

 

 

「舐めるな!セラ・ヤマト!」

 

 

さすがのセラも、レジェンドが何をしようとしているのか飲み込むことができなかった。

遠距離からビームを斉射することしかできないはずのドラグーンを、突っ込ませたレイの意図がわからなかった。

 

だが次の瞬間、セラの目が見開かれると同時に相手の意図を読み取ることとなる。

 

突っ込んできたドラグーンの先端からビーム刃が出力された。

レジェンドのドラグーンにだけ搭載された特殊な武装である。

 

なるほど、この刃でこの機体を貫こうという算段だったか。

 

レジェンドに加えてドム三機と交戦を開始した時からだろうか、セラの中に変化が起きていた。

相手の思惑が、手に取るようにわかるようになった。

 

だが、このように自分の頭の中にまったくないような機能の力などは読み取ることはできなかった。

ドラグーンにビーム刃が搭載されていることを、読み取ることはできなかった。

 

しかし、このドラグーンを突っ込ませてからのその後の意図は今のセラには読み取れていた、

ドラグーンの後方、レジェンドがビームジャベリンを構えて突っ込んできている。

 

このドラグーンは完全に囮。

本命は、その後方からジャベリンで斬りかかってくるレジェンドだ。

 

 

「その程度で、俺を落とすことができるとでも!?」

 

 

かわすまでもない。

セラはその場から動かずに、突っ込んでくるドラグーンをサーベルで一閃。

二基のドラグーンを一瞬にして斬り裂いた。

 

さらに、後方から斬りかかってくるレジェンド。

セラはレジェンドが振り下ろすジャベリン…ではなく、振り下ろすレジェンドの腕をサーベルを持っていない方の手で掴み止めた。

 

 

「なっ?!」

 

 

まさか斬撃を受け止めるのではなく手の動きを止めてくるとは考えていなかったレイ。

目を見開き、呆然と動きを止めてしまった。

 

もう、レイがセラに勝てる道理はなくなってしまった。

この動きの停止が、全てを決める分かれ道となってしまった。

 

セラは、サーベルを振り抜いてレジェンドのメインカメラを斬りおとす。

これでもう、セラの勝ちは揺るがないのだがレジェンドはまだ抵抗の動きを見せる。

 

まだ戦える。セラに投げかけているように、セラの拘束から抜け出そうともがいている。

 

セラはもう一度サーベルを振り抜き、さらにジャベリンを握っていた方の腕を斬りおとした。

これで完全に勝負あり。

 

 

「さ、これで話を聞いてもらえるかな?」

 

 

ここまで何度話をしようとしても耳を傾けなかったレジェンドのパイロット、レイ・ザ・バレル。

機体がこんな状態になったのだ。VPS装甲まで落ち、スラスターは生き残っているものの戦闘など不可能な状態。

 

ようやく、レイはおとなしくセラの言葉に耳を傾けるようになった。

いや、傾けてはいない。

 

ただ、負けたという現実に呆然としているだけ。

セラの声は聞こえても、言葉は聞こえていない。

 

 

「負け…た…?運命は…、そんな…なんで…」

 

 

ぽつりぽつりとつぶやいているレイ。

セラはそのつぶやきを黙って聞いていた。

 

 

「なんで…俺は負けた…?運命は…決まって…」

 

 

「運命なんて、絶対的なものじゃないんだ」

 

 

呆然とつぶやいていたレイ。光を失くしていたレイの瞳にわずかに揺れる光が灯り、耳をセラの言葉に傾け始めた。

 

 

「確かに、運命に従えば平和なのかもしれない。でも、運命を切り開かなければ幸せは来ないんだ」

 

 

「…幸せ?」

 

 

幸せなんて言う言葉、レイは初めて聞いた。

意味が知らないという訳ではない。だが、ラウもギルも、そんなことを言ったことはなかった。

 

滅びを願っていたラウはともかく、平和を望んでいたギルからも幸せという言葉を聞いたことはなかった。

 

 

「お前は、幸せを求めたことがあるか?…ないだろうな。これが運命だと言って、自分にすらなろうとしなかったんだから」

 

 

レイは、自分をラウ・ル・クルーゼだと名乗っていた。

演技などではない。本気で、ラウ・ル・クルーゼになっていた。

レイ・ザ・バレルにはなっていなかった。

 

 

「けど、お前がどれだけ叫ぼうと思い込もうと、結局お前はお前でしかないんだ」

 

 

「っ…」

 

 

「命は色んなものに存在する。けど、命はたった一つしかないんだ。そしてそれは、自分自身のものだ」

 

 

セラは、レイに言葉を賭けていると同時に自分にも言葉をかけていた。

自分にも言い聞かせるように、言葉を続けていく。

 

 

「お前の名前、教えてくれよ」

 

 

「…レイ・ザ・バレル」

 

 

セラの問いかけに少しの間があったが、答えるレイ。

小さくも、確かに聞こえたその声を、セラは忘れないようにしっかりと頭に刻み込む。

 

この少年は、自分のせいで生まれてきたのだ。

理不尽な業を背負わせられ、苦しんで生きてきたのだ。

 

 

「レイ・ザ・バレル…か。なら、お前はレイ・ザ・バレルなんだ。決して、ラウ・ル・クルーゼなんかじゃない」

 

 

だからセラはレイに語り掛ける。

 

お前はラウ・ル・クルーゼじゃない。レイ・ザ・バレルだ、と。

 

 

「俺を殺したいんなら、ラウ・ル・クルーゼとしてじゃなく、レイ・ザ・バレルとして来い」

 

 

セラはそう言い残して機体をメサイアへ、ジェネシスへと向かわせる。

 

残されたレイは、かけられたセラの言葉をゆっくりと思い出していた。

平和は、運命に従っても残すことは出来る。けど、幸せは運命で生み出すことは出来ない。

運命を切り開いて初めて、幸せは生まれる。

 

自分は、レイ・ザ・バレル…。

 

ずっとラウ・ル・クルーゼとして、アル・ダ・フラガのクローンとして生きてきた自分にどれだけ暖かさを残しただろう。

セラの言葉は、凍り付いたレイの心を本人の知らぬところで溶かしていた。

 

 

「レイ・ザ・バレル…」

 

 

自分の名前など、ただの飾りくらいにしか思っていなかった。

自分は、レイ・ザ・バレルなのだと本気で考えたことなど一度もなかった。

 

 

「俺は、レイ・ザ・バレル…」

 

 

セラ・ヤマトは言った。ラウは運命に逆らっていたからこそ強かったと。

ラウは、自分の運命を切り開こうとしていたのだろうか。

 

 

「俺は…、俺でしかない…」

 

 

レイのつぶやきは、自身の心に染みこんでいく。

冷たく凍っていた心が、少しずつ溶けていくような感覚が自覚できるようになる。

 

 

「俺は…」

 

 

レイの瞳から雫が零れ落ちる。

零れ落ちた雫は無重力空間を漂いながら、割れたヘルメットの間からレイの視界を抜け出していく。

 

 

「俺は…」

 

 

レイはぽつりとつぶやいた後、機体をメサイアの方へと向けた。

ぼろぼろとなった機体だが、かろうじてスラスターは生きている。

 

スラスターを噴かせ、レイはメサイアへと、ギルバート・デュランダルの元へと向かうのだった。

 

 

 

 

「お前はお前でしかない…か」

 

 

セラは、先程レイに投げかけた言葉を復唱した。

何故だろう、この言葉がレイにだけ向けた物ではなく、自分に対しても向けていた物のような気がする。

 

 

「俺もやっぱり迷ってたのかな」

 

 

突然起きた、自分の大きな異変。

それが、揺るがないと思っていた決意を揺るがしていたことをセラはここで初めて自覚した。

 

自分に課せられた復讐なんて物はどうでもいい。

自分は自分のために戦う。

 

その決意が今、改めてセラの中で固まる。

 

この時、セラの中でSEEDが弾けた。

 

もう迷わない。自分の力を恐れたりはしない。

自分の力が恐るべきものなのなら、その力を完全に制御してしまえばいい。

簡単な話だ。

 

決意を固めていたセラの眼前には、ザフトの艦隊が迫ってきていた。

ジェネシスへと向かうリベルタスを止めるべく発進してきたのだ。

 

セラは迷うことなく機体を艦隊へと向かわせる。

止まらない。止まるわけにはいかない。

 

 

「行くぞ!」

 

 

レジェンド、ドム三機と戦っていた時に感じたもやもやとした感覚はなくなっていた。

あの時、完全に叩きのめさなければ反撃される、という脅迫概念に襲われていたセラ。

 

だが迷いがなくなった今、セラの動きを鈍らせるものはもうない。

 

セラは手に持っていたサーベルを更によく握りしめながら、もう一方のサーベルも抜き放つ。

 

襲い掛かってくるグフのメインカメラを両手のサーベルで斬りおとしていく。

この時のリベルタスの戦いぶりを見た者は、誰もが後にこう言った。

 

あの時、解放者は踊っていたと。剣の舞を、踊っていたと。

 

だがここでセラは止まらない。

接近しては危険だと考えたザフト軍は、遠距離からの狙撃でリベルタスを落とそうとライフルを、ビーム砲を構えていく。

セラはそんなザフト機に対してドラグーンを飛ばす。

 

セラが飛ばしたドラグーンはビームを放ち、ザフト軍機が構えた遠距離武器を撃ち抜いていく。

遠距離武器を撃ち抜かれたザフト機は驚愕したのだろう。動きがわずかに止まってしまう。

 

そこを見逃すセラではない。

セラはスラスターを全開にし、光の翼を広げる。

 

両手のサーベルを握り、再び舞う。

 

 

「な、何なのだあれは!?」

 

 

リベルタスを落とすべく向かっていた艦隊の内の一つ。

ナスカ級の艦長は、壮絶な数の機体に囲まれながらも傷一つつけられる気配が感じられないリベルタスの戦いぶりを目の当たりにし、驚愕して目を見開く。

 

噂は聞いていたし、実際にデータでも目にした。

だが、実際にそれを見るということはまったく別物だった。

 

まわりの援護もなく、たった一機で挑んできているのに、まるでこちらの数よりも多い数を相手にしているような感覚に襲われる。

いや、それ以上の勢いで味方機のシグナルが失われているのだ。

 

ナスカ級の艦長は、逃げ出したい衝動にすら駆られてしまう。

しかしそれは許されない。

 

 

「は、早く奴をおとせぇっ!たった一機なのだぞ!?あのロゴスの残党を撃ち落とすのだぁっ!」

 

 

ただ我武者羅に、リベルタスを落とすように命じる艦長。

その命令に従って、ザフト軍機がこぞってリベルタスに襲い掛かる。

 

だが、襲い掛かった数の分だけ味方機のシグナルが消えていく。

恐ろしいどころの話ではない。

 

 

「何で…、何で我らが…」

 

 

艦長が震える声でつぶやいた瞬間、艦橋が大きく振動した。

 

 

「エンジンに被弾!戦闘不能!」

 

 

「ば、バカな…」

 

 

たった一機のモビルスーツに、艦隊が五分ほどでほぼ壊滅状態にまで陥られてしまった。

たった一機のモビルスーツに。

 

このままでは、メサイアがあのモビルスーツにやられてしまう。

コーディネーターの希望の要塞が…、あんなものに…。

 

 

「…何か、変な勘違いされたような気がするけどまぁいいか」

 

 

セラは眼前に広がった艦隊を突破し、ジェネシスへと急ぐ。

どこかで大きな勘違いをされたようなきもするが、そこは気にせずジェネシス破壊に急ぐ。

 

 

「向こうではどうなってるか…。っ!?」

 

 

レクイエムの方はどうなっているかが気になり、つぶやいたセラの目にある物が映る。

 

 

「核攻撃隊!?地球軍はまたあれを撃つつもりなのか!」

 

 

先程、不発に終わった核攻撃をまた地球軍は試みようとしていたのだ。

一度目は上手く行きかけた。スタンピーダーのおかげでザフトが迎撃に成功したが、ザフトにとっては冷や汗もののギリギリの防衛だったと言える。

 

だが今回は違う。

万一のためにザフト軍はメサイア付近に迎撃のための艦隊を配置していたのだ。

 

セラがその一部を壊滅状態にまで陥れてしまったが、それでも死角なしといえる配置ではある。

それなのに、地球軍は再び核攻撃隊をメサイアに向かわせた。

 

 

「くそっ!」

 

 

ザフト軍機が核攻撃隊の迎撃に向かっているが、少しでも数が多い方が良いだろう。

セラも、核攻撃隊の迎撃のために機体を向かわせる。

 

両手のサーベルをしまい、二丁のライフルを取りだす。

 

その瞬間、核攻撃隊はメサイアに向かってミサイルを放つ。

セラは、両手のライフルとドラグーンを使って放たれたミサイルを迎撃していく。

 

他にも、ザフト機は核攻撃隊を落としていく。

この攻撃は失敗したと、誰もが確信していた。

 

 

 

 

 

この時、誰も知る由はなかった。

ほとんどの人たちが、地球軍の苦し紛れの攻撃だと思っていた。

 

一部の者は地球軍のこの攻撃に違和感を感じていたが、その一部の者も隠れた地球軍の陰謀を見抜くことはできなかった。

 

 

「っ!議長!六時の方向に敵影!」

 

 

「なにっ!?」

 

 

六時ということは、戦闘を行われている方。

誰もが見ている方向から見てまったく逆方向。

 

そこまで考えたデュランダルは、全てを悟った。

 

今、メサイアの位置から考えて、月と逆の方向には地球がある。

その地球の方向からの敵影。

 

今までの地球軍の核攻撃は、このための布石だったのだと。

 

 

「機種確認!ウィンダム十五にダガーL二十!」

 

 

「さらにアガメムノン級が一!」

 

 

核攻撃までもが囮。本命は、この一小隊でザフト兵が目を向けない方向からの襲撃。

 

 

「すぐに迎撃隊を後方に回せ!」

 

 

デュランダルはすぐに命じたが、頭の隅ではわかっていた。

迎撃隊は間に合わない、と。

こうなっては、使わなければならない、と。

 

 

「…万が一のために、ジェネシスの発射体勢を整えておけ」

 

 

今ここから、終結に向かって急速に動き出すこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




完結まであと…何話かなぁ…

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