機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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結構強引ですが、あの人が戻ります


PHASE65 戻る記憶と動く陰謀

咄嗟の判断だった。いや、判断ではないかもしれない。

考える前に、すでに行動し始めていたのだから。

 

 

「アークエンジェルはやらせん!」

 

 

アークエンジェルに向けてガーティ・ルーのローエングリンが発射された時、考える間もなくネオは動き出していた。

機体のバーニアを吹かせ、最大速度でアークエンジェルの眼前へと向かう。

 

 

(大丈夫だ!あの時とは違う!アカツキのヤカタノカガミなら…!)

 

 

ネオは機体をアークエンジェルの前で止めると、向かってくる砲撃に向けて両腕を突き出した。

 

直後、ローエングリンがぶつかった衝撃がネオの体全体に伝わってくる。

ネオは歯を食い縛って伝わる衝撃に耐えながら、必死に両腕に力を込める。

 

アカツキの装甲、ヤタノカガミは全てのビーム兵器を跳ね返す能力を持つ。

能力上だけならば、今受けているローエングリンだって跳ね返すことができるはずだ。

 

 

『俺って…、不可能を可能に…!』

 

 

アカツキが白い光に包まれた瞬間、ネオの脳裏に見覚えのない光景が過る。

 

今と同じように、白い光に包まれ、それと同時に灼熱の炎に体を焼かれたあの時。

かつての愛機、ストライクに搭乗し、今と同じようにアークエンジェルの眼前に飛び込んだあの時。

 

機体が四散し、意識が闇に飲み込まれて次に浮かび上がってきたのはとある医療施設の中の寝台の上だった。

薬のせいか視界も思考も定まらず、だがその定まらない視界に銀髪の男が映される。

 

 

『…るほど。エンデュミオンの鷹…。……役に立って……よう』

 

 

『…の処理は、……過去を……』

 

 

途切れ途切れにしか思い出せない交わされる言葉。

だが、その中のある一言が、ネオの失われた記憶を呼び覚ます。

 

次いで景色は切り替わり、映されたのは栗色の髪をたなびかせた美しい女性。

褐色の目に不安をたたえながら、こちらにやってくる美しい女性。

 

彼は、コックピットハッチを開けて女性に手を差し伸べる。

 

 

『すぐに戻ってくるさ。勝利と共にね』

 

 

交わした言葉、唇。祈るように自分を見つめる綺麗な瞳。

 

それに続いて、次々に映し出される懐かしい面々の顔。

 

セラにシエル、キラにラクス。トールにミリアリアに、アークエンジェルのクルーたち。

 

 

『地球軍第七機動艦隊所属、ムウ・ラ・フラガ大尉だ』

 

 

名乗る自分を、驚きを含んだ瞳で見つめてくる女性は、生真面目に敬礼を取る。

 

 

『地球軍第二宙域第五特務師団所属、マリュー・ラミアス大尉です』

 

 

そうだ。ここから全てが始まったんだ。

 

時間にしてはたった一瞬。だが、彼にとってはとても長く感じられた。

 

彼は、コックピットを包んでいた光が四散していくのを目にする。

ヤタノカガミ、アカツキの特殊装甲は、陽電子砲ローエングリンをも跳ね返したのだ。

 

 

「俺は…」

 

 

今ここで、全てを取り戻したのだ。長い空白の時間を飛び越えて。

 

 

 

また、失われると思った。

マリューは瞬きもできずに白い光に見入った。

 

もう、自分の元に戻ってきてくれないと思った。

 

だが光の残像が消えたすぐ後、視界に映ったのは傷一つなく輝く黄金の装甲の機体。

 

ローエングリンを跳ね返したアカツキは、この事態を対処できずにいたガーティ・ルーにライフルを向ける。

間髪入れずに放たれたビームは、お返しとばかりにガーティ・ルーの砲塔を吹き飛ばした。

 

 

「ぁ…ぇ…」

 

 

か細くマリューの唇から声が漏れる。

 

マリューは呆然と座り込みながら目の前の光景を眺めていた。

失ったと思われた存在が、まだこうして生き永らえている。

 

艦橋のモニターが、クルー全員の目の前で瞬いた直後、男の顔を映し出した。

 

 

『大丈夫だ…』

 

 

男は笑みを浮かべながらマリューを見つめる。そして、続けて再び口を開いた。

 

 

『俺はもう、お前の元から離れたりしない!』

 

 

帰ってきてと、どれだけ祈っただろう。マリューは、その祈りが叶えられたことを知る。

 

アカツキは、背面のバックパックからドラグーンを切り離し四方に飛び立たせる。

七基のドラグーンは巧みにアークエンジェルのまわりを包み込む。

 

直後、ガーティ・ルーが反撃のビームを放ってくるが、ドラグーンが作り出したビームフィールドによって船体に届く前にビームが四散する。

 

 

『終わらせて帰ろう。マリュー』

 

 

深く頷きながら、男は力強く言う。

 

 

「ムウ…!」

 

 

帰ってきたのだ。生きているのだ。自分が愛した人が。

もう、自分から離れていくことはないのだ。

 

やっと、腕の中に帰ってきたのだ、

 

ムウ・ラ・フラガが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリーダムのサーベルとブレイヴァーのハルバートが何度もぶつかり合い、火花を散らす。

両者は同時に剣からライフルに持ち替えて互いに撃ち合う。

 

 

「このまま戦っていても埒が明かない…」

 

 

フリーダムとブレイヴァーの戦いはひたすらに、互いの攻めと守りが入れ替わりながら繰り返されていた。

 

フリーダムのドラグーンがブレイヴァーを追い込んでいくと思いきや、ブレイヴァーが攻めに転じ、刃でフリーダムを追い込んでいく。

 

戦況を動かすためにも、どちらかがどちらかの予想を超える動きを見せなければならない。

だが、拮抗した戦い程、変化を及ぼす動きは危険だ。

 

 

『だが…、あいつを落とすには危険もやむを得ない』

 

 

アレックスは、ハルバートの連結を解いてフリーダムに突っ込んでいく。

 

キラは、突っ込んでくるブレイヴァーに向けてドラグーンでビームを一斉照射させる。

構わずブレイヴァーはビームをかわしながらフリーダムに突っ込んでいく。

 

そして、ブレイヴァーはハルバートで斬りかかり、フリーダムはサーベルでブレイヴァーの斬撃を防ぐ。

ここまでは、これまでの流れと同じだった。

 

だが、そこからブレイヴァーは左足のビームブレードを展開し、フリーダムのコックピット目掛けて振り上げる。

 

 

(防いでくる!)

 

 

アレックスはフリーダムがこの蹴り上げを防いでくると予想する。

 

結果、予想通りフリーダムはブレイヴァーの蹴り上げをビームシールドを展開して防いでくる。

そしてブレイヴァーの背後からドラグーンが狙ってくる。

 

これも、アレックスには想定済みだった。

ドラグーンが狙っているなら、それを撃たせる前にフリーダムを弾き飛ばせばいい。

 

フリーダムとブレイヴァーを比べれば、ブレイヴァーの方がパワーは勝っている。

 

アレックスは左足を下ろし、直後左手をフリーダムの右手を組み合わせる。

 

 

「ぁあっ!」

 

 

「くっ!?」

 

 

ブレイヴァーが力一杯押してフリーダムを弾き飛ばす。

キラは、弾き飛ばされた勢いを使って距離を取ろうと試みる。

 

しかし、それもまたアレックスの頭の中には想定されていた。

フリーダムが距離を取る前にアレックスはフリーダムの懐に潜り込み、ハルバートを振り上げる。

 

ドラグーンがビームを斉射してくるが、その前に僅かに機体をその場からずらす。

だが被害は免れず、ブレイヴァーの左腕をビームが貫き爆散する。

 

 

「構うか!」

 

 

それでも構わずアレックスはフリーダムに斬りかかる。

フリーダムもその場から離脱しようと後退しながら、ビームシールドを展開して腕を割り込ませようとする。

 

 

(ダメだ!間に合わない!)

 

 

キラはわかっていた。回避も防御も間に合わない。

自分が斬り裂かれるのは避けられないと、キラは悟っていた。

 

 

「ラクス…」

 

 

僕は…、ラクスを置いて死ぬのかな…。

しかも、アスランに殺されるのか…。

 

何とか攻撃を防ごうと機体を動かすも、心の中では諦念で満ちていたキラ。

まさか、昔からの親友にやられるとは皮肉なものだ。

 

 

「終わりだ…!」

 

 

ブレイヴァーの手の中にあるハルバートを振り抜けば、フリーダムを斬り裂ける。

これで、自分の念願が達成できるのだ。

 

それ、なのに…

 

 

「…え…?」

 

 

キラは呆然とブレイヴァーの様子を眺める。

 

いつまでたっても、ブレイヴァーの斬撃が来ない。

 

 

「何故…、動かない…!」

 

 

ブレイヴァーが動かない。

アレックスの体が動かないのだ。まるで、動くことを拒絶しているように。

 

 

(拒絶…。俺が、フリーダムを討つことを拒絶しているとでもいうのか…!?)

 

 

先程もそうだった。

その時は、SEEDを解放して無理やり迷いを振り払ったが、何故か今回はそれができない。

 

 

『キラ…』

 

 

(何だ…)

 

 

まるで、自分が自分でないみたいだ。

 

 

『キラを討ってはダメだ…』

 

 

(キラ…だと…?)

 

 

自分ではない誰かが、自分に語り掛けてくる。

キラを討ってはダメだ、と。

 

キラ、そんな奴俺は知らない。

 

 

(知らない…はずなのに…。何故!?)

 

 

その名前を、俺は懐かしいと感じている!?

 

 

「っ、あああああああああああぁっ!!!」

 

 

アレックスは、止めていたハルバートを振り切る。

だが、フリーダムに時間を与えすぎた。フリーダムは余裕をもって自分の斬撃を回避する。

 

 

「目障りなんだ!目障りなんだよ、お前はぁっ!!」

 

 

アレックスは後退するフリーダムに追いすがる。

追いすがりながら、フリーダムの懐に再び潜り込みハルバートを振り上げる。

 

 

(アスランの動きが鈍い!)

 

 

一方のキラ。

傍から見ていたら、フリーダムの絶体絶命だろう。ブレイヴァーが懐に入り込んでいるのだから。

 

しかしキラにとってはチャンスだった。

ブレイヴァーの動きが先程と違って鈍いことを、キラは見抜いていた。

 

ここを逃す手はない。

キラはSEEDを解放する。

 

スラスターを逆噴射させたまま、ブレイヴァーとの間合いを計る。

そして、両腰のサーベルを同時に抜き放つ。

 

 

「くぅっ!?」

 

 

コックピットに突然奔る衝撃。

思わず目を瞑ってしまったアレックスが見た次の光景は、両手に握るサーベルを振り切った体勢で動きを止めていたフリーダムだった。

 

ブレイヴァーのコックピット内には、機体の被害を報せるアラートが鳴り続けている。

 

 

「これで…、終わりなのか…?」

 

 

呆気なかった。呆気なさ過ぎた。

 

そのためか、戦っている最中にずっと感じていた闘志も、フリーダムに対する憎しみも、まるで最初からなかったかのように消え失せていた。

 

だからなのだろう。

 

 

「アスラン…」

 

 

「…っ!」

 

 

何度も何度も聞いてきて、鬱陶しく感じてきた、うざったく感じてきた、憎々しく感じてきたこの声に心地よさを感じたのは。

 

 

「キラ…?」

 

 

アレックスの頭の中でフラッシュバックが起こる。

 

記憶が、逆流を起こす。

 

今までのフリーダムとの戦い、デュランダルからフェイスに任命された時、見知らぬ場所で自分は寝かされていた。

そして、次の瞬間から、アレックスの中に、過去が取り戻されていく。

 

母の顔と父の顔。

力がなかったせいで守れなかったと思い込んだ、母を失った時。

自分が間に合わなかったせいで暴走を生み出してしまった父。

責任を感じ、自身の命を賭けて止めた大量殺戮兵器。

 

友の顔。

何かにつけて因縁を付けてきたイザーク。だが、馴れればどこか微笑ましい気分にもなっていた。

むしろ、そうでなければイザークじゃないとさえ感じていた。

初めはイザークと同じで因縁を付けてきたが、いつの間にか彼が自分たちのまとめ役になっていたディアッカ。

守れなかった。自分の目の前で死んでいったニコル。

 

小さい頃は、ずっと共に遊んでいた。

時には…というより、いつも悪戯をして、一緒に怒られ続けた。

悪戯をする相手を決めるのは、ほとんどがセラだった。

そして、それに乗っていたのは、自分ともう一人。

 

 

「…ずいぶん、手荒な目覚ましだな。キラ」

 

 

「自分で起きない時は、叩かないと君は起きないからね」

 

 

「…そうだったな」

 

 

いつもは、キラが寝坊をしてセラとアスランが起こしていた。

だが、いつもと違うことは時に起こることもある。

 

アスランが寝坊をして、キラとセラが起こすということも時にはあった。

そして、アスランが寝坊をするときは決まって中々目を覚まさないのだ。

キラとセラの起こしかたはいつも手荒で、ひどい時はプラスチックのバットで自分の頭を叩いた時だった。

 

頭がガンガンし、キラとセラに文句を言う。

そして、文句を言うアスランに決まってキラとセラが言う言葉。

 

 

「『起きないアスランが悪い」』

 

 

「…あぁ、そうだな」

 

 

今のキラと、過去のキラとセラの言葉が重なる。

アスランはまるで憑き物が取れたかのように綺麗な微笑みを浮かべる。

 

 

「起きない俺が悪いな…」

 

 

子供の頃を思い出す。

アスランが寝坊をした時は決まって喧嘩になるのだ。

それは何故か。

 

アスランがムキになるのだ。キラとセラに起こされ、手荒な起こし方をするキラとセラに文句を言って、あっさり言い返され。

それがアスランの癇に障り、ついアスランがムキになってしまうからだ。

 

その事を思い出すアスラン。

 

 

「変わらないな、キラ」

 

 

「そうかな?寝坊をするときは中々起きない、アスランも変わらないよ。それに、セラだって僕と同じことをすると思う」

 

 

「…俺たち三人は、変わってないのかもしれないな」

 

 

結局、大人になったと思い込んでいてもあの時と、子供の時と変わってないのかもしれない。

 

 

「アスラン、一度エターナルに戻ろう。君の機体を収容しなくちゃ」

 

 

「…いいのか?」

 

 

キラが自分をエターナルに載せると言ってくれるが、アスランは戸惑いを見せてしまう。

 

いくら自分が記憶を失っていたとはいえ、自分は彼らを襲っているのだ。

殺意を向け、殺そうとしていたのだ。

そんな自分を、快く受け入れてくれるのだろうか。

 

 

「大丈夫だよ。みんな、アスランのことを心配してるんだ」

 

 

「…」

 

 

アスランは、俯いてじっとする。

本当に、キラの言葉に甘えていいのだろうか。

 

 

「カガリだって…。アスランが生きてることは言えなかったけど…、ずっと、待ってるんだ」

 

 

「っ…。カガリ」

 

 

自分の人生の中で、一番守りたいと思った女性。

男勝りで、口調も荒いがやはり男とは違う弱さも、強さも持っている人。

 

初めて、本気で好きだと、愛していると思った女性。

 

 

「アスランは、どうしたい?帰りたくないの?」

 

 

「…その聞き方はずるくないか?」

 

 

キラの言い方では、まるで自分がみんなの元へ帰りたくないと思っているようではないか。

 

 

「帰りたいに…、決まってる」

 

 

帰りたいに決まっているだろう。

また、みんなと一緒にいたいに決まっているだろう。

 

フリーダムが、キラが手を差し伸べてくる。

アスランはその手を、わずかな逡巡の後にとるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戦い続けながら、その戦闘宙域は少しずつ移動していた。

本人たちの本意でなくても、激しいぶつかり合いを繰り広げながらその位置は少しずつずれていった。

 

それは、シンたちにとって幸運だった。

そのずれが、レクイエムの位置に少しずつ近づけているのだから。

 

 

「このっ!」

 

 

シンは、フォビドゥンが放ったフレスベルグをかわす。

プラズマ砲は曲がり、再びデスティニー目掛けて向かってくるが、シンは機体を翻して再び回避する。

 

回避を終えたデスティニーに向かって、フォビドゥンがニーズヘグで斬りかかっていく。

 

 

「同じ手を!」

 

 

これは、カラミティとフォビドゥンを同時に相手にしていた時と同じ戦法だ。

カラミティの砲撃で崩し、フォビドゥンの鎌でとどめを刺す。

 

だがシンはこの戦法を初見で回避しているのだ。

同じ戦法は、当然通用するはずもなく。

 

 

「なっ…」

 

 

シンはアロンダイトを抜き放ち、振り下ろされたニーズヘグを斬り裂いた。

 

 

「お前の動きは、もう視えてる!」

 

 

シンは、振り上げたアロンダイトを今度は振り下ろす。

振り下ろされたアロンダイトをフォビドゥンはかわすが、シンは逃がさないようにライフルを取り、引き金を引く。

 

 

「無駄だ!」

 

 

ビームはフォビドゥンに向かっていくが、この機体にはこれがある。

 

 

「くっ…、厄介な機能だ!」

 

 

ゲシュマイディッヒ・パンツァー。

ビームを婉曲させ、軌道を変えて命中から避ける地球軍が開発した機能。

 

フォビドゥンの動きは視えても、この機能によってシンは止めを刺せずにいた。

さらに、フォビドゥンはニーズヘグを失くし、デスティニーに接近戦を中々挑まなくなるだろう。

 

遠距離攻撃は、通用しない。シンがフォビドゥンに勝つにはアロンダイトで斬りかかるしかないのだが。

 

 

(でも、あいつにだって決定打はないんだ!)

 

 

かなり特殊な武装になっているせいか、シンたちが相手している三機は、一対一という状況にあまり向いていない。

 

シンは、アロンダイトを握ってフォビドゥンに向けて突っ込んでいった。

フォビドゥンは、デスティニーに向けてフレスベルグを連発する。

 

だが構わず、シンはフォビドゥンに突っ込んでいく。

 

シンはフォビドゥンと戦い続けていて気づいたことがあった。

フォビドゥンが放つフレスベルグ。これは、曲げることは出来てもUターンさせることはできないということだ。

 

つまり、このまま突っ込み続けていれば、フレスベルグは一度かわすだけでいい。

ただのビームと変わらないということ。

 

 

「くそっ!くそっ!」

 

 

フォビドゥンは、我武者羅にフレスベルグに加えて、レールガンエクツァーンを連射する。

 

 

「この程度っ」

 

 

しかしシンには通用しない。シンはビームシールドを展開し、フレスベルグは防ぎ、エクツァーンだけをかわしてフォビドゥンに接近していく。

片手で握っていたアロンダイトの柄に、もう片方の手も握らせる。

 

スラスターの出力を上げ、スピードも最大まで上げる。

 

フォビドゥンは、ミラージュコロイドによって分身したかのようにぶれるデスティニーの姿を捉えきれない。

シンは、スラスターの出力を上げてからは簡単にフォビドゥンの懐に潜り込むことができた。

 

 

「はぁっ!」

 

 

シンは即座にアロンダイトを振り上げる

これで、フォビドゥンを斬り裂いて決着…とは、いかなかった。

 

フォビドゥンは咄嗟に後退してシンの斬撃を回避したのだ。

 

 

「はっ…ははっ」

 

 

フォビドゥンは、フレスベルグを放とうとする。

デスティニーはアロンダイトを振り切った状態で隙だらけだ。

 

今なら、簡単に奴を貫ける。

 

 

「まだだ!」

 

 

だが、シンの攻撃はまだ終わっていなかった。

シンはアロンダイトを握っていた片手を放す。

 

そしてその片手をフォビドゥンに向けて翳した。

シンは、引き金を引く。

 

パルマフィオキーナが搭載されている方の手だった。シンがアロンダイトを離した手は。

 

デスティニーの掌から放たれた砲撃は、フォビドゥンにゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開させる暇も与えずに機体を貫いた。

 

 

「あ…ぁ…」

 

 

何故、奴は手を翳しただけなのに。

掌から、砲撃が…?

 

ファルは、状況を飲み込むことができなかった。

ただ掌を翳しただけなのに、その掌から砲撃が出てきた。

 

それだけで、この自分が負けた。

ふざけるな、そんなので俺が…。

 

 

「ふざけr…」

 

 

言い切る前に、意識は闇に包まれた。

 

シンの目の前で爆散するフォビドゥン。

厄介な敵だったが、一対一に持ち込んでからはそれなりに楽に倒すことができた。

 

後は、ルナマリアとハイネがそれぞれ相手をしているカラミティとレイダー。

どちらに援護をしに行くかを選ぶならルナマリアだが、カラミティは一対一で戦うならば楽に戦うことができるはず。

厄介なのはレイダーだ。レイダーは馬力もある上に、武装のバランスも整っている。

 

サーベルやライフルなどの基本的武装はないが、変形機構も搭載されているためかなり戦いづらい相手。

 

 

『シン、お前はルナマリアの援護に行け!』

 

 

「ハイネ!」

 

 

どちらの援護に行くかを考えていると、ハイネから通信が入った。

ハイネは、シンにルナマリアの援護に行くように告げる。

 

 

『カラミティを倒したら、お前たち二人でレクイエムに行くんだ!』

 

 

「そんな!それじゃハイネは!?」

 

 

シンがルナマリアの援護に向かえば、間違いなくハイネよりも先に戦闘は終わるだろう。

だがハイネの指示の通りにカラミティを倒してすぐにレクイエムに向かえば、ハイネが取り残されてしまうことになる。

 

いくらハイネでも、一人で取り残されてしまえばどうなるかはわからない。

 

 

『シン、俺たちの役目はプラントを守ることだ。プラントにいる人たちを守ることだ。だから行け!』

 

 

「ハイ…ネ…」

 

 

『シン!行くんだ!』

 

 

ハイネに後押しされて、シンは機体をインパルスが戦闘している方向へと向ける。

ハイネを置いて、シンは機体を動かす。

 

すぐに、交戦するインパルスとカラミティの姿は確認できた。

シンはライフルをカラミティに向けて引き金を引く。

 

ライフルから放たれた光条は暗闇を斬り裂き、真っ直ぐにカラミティに向かっていく。

 

 

「…っ!?」

 

 

カラミティは、寸での所で向かってくる光条に気づいて回避する。

 

カラミティのその動きを見て、ルナマリアは向かってくるデスティニーに気づく。

 

 

「シン!」

 

 

「援護は任せろルナマリア!」

 

 

「うん!」

 

 

インパルスは、持っていたライフルからサーベルに持ち替えてカラミティに向かっていく。

 

 

「このっ…!雑魚がっ!」

 

 

カラミティは肩にかけられる四本の砲塔、シュラークを全てインパルスに向けて同時に放つ。

 

ルナマリアは四つの砲撃を機体を翻しながらかわし、さらにカラミティに突っ込んでいく。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

カラミティの胸部の砲口、二つのスキュラが火を噴こうとする。

それを見たシンは、カラミティに向けてライフルの引き金を引く。

 

スキュラを放つ直前に、カラミティはシンが放ったビームをかわすために回避行動を起こす。

それでもカラミティは、スキュラの射線上にインパルスを置く。

 

 

「まずい!ルナ、避けろ!」

 

 

射線をずらしてインパルスを救おうとしたのだが、カラミティは射線をずらさぬままに機体を移動させてビームを回避した。

インパルスは、射線上にいるまま。

 

シンはルナマリアに避けるように叫ぶ。

だが、ルナマリアはまだ突っ込む。サーベルを握って、カラミティに斬りかかろうとする。

 

 

「はっ!こいつを落としたら、あんたの番だよ!」

 

 

カラミティを駆るエリーには、もうデスティニーしか見えていなかった。

今、撃つスキュラでインパルスは落ちる。エリーの中でそれは決定事項だった。

 

だがそれが、エリーの中で油断となっていた。

 

スキュラを放った瞬間、ルナマリアは機体を上昇させた。

急上昇したインパルスの僅か下を、放たれた二本のスキュラが通り過ぎていく。

 

 

「なぁっ!?」

 

 

エリーは、必殺だと思っていた自分の攻撃をかわされたことに驚愕する。

もし、エリーが油断せずにしっかり照準を合わせてスキュラを放っていればインパルスを落とせていただろう。

 

エリーの中の油断が、この事態を招いた。

そして、この事態が全てを決定づけることになった。

 

 

「これで終わりよ!」

 

 

ルナマリアはカラミティの上方からサーベルを振り下ろす。

振り下ろされたサーベルは、肩部の装甲からまっすぐに、真っ二つにカラミティを斬り裂いた。

 

斬り裂かれたカラミティは半分に二つに分かれ、爆発を起こす。

 

ルナマリアは起こる爆発に目もくれず、援護をしてくれたデスティニーの方に機体を向ける。

 

 

「ありがと、シン」

 

 

「…危なっかしいことしやがって。無事でよかったよ、ルナ」

 

 

シンとルナマリアは言葉を掛け合い、機体をレクイエムの方に向ける。

 

 

「ハイネからの伝言。俺たちの戦闘が終わったら、二人でレクイエムに向かえって」

 

 

「え…、でもハイネは?」

 

 

「…行け、て」

 

 

ハイネからの言葉を聞いたルナマリアは、シンに問いかける。

そして、返ってきたシンの答えを聞いて悟る。シンも、自分と同じことをハイネに聞いたのだと。

 

ハイネの答えは、シンと同じ。

 

行け

 

 

「…わかった。行こう」

 

 

何を言ってもハイネは自分の考えを変えないだろう。

ならば、自分たちはハイネの言う通りレクイエムに向かうだけ。

 

シンとルナマリアは、レクイエムに向けてスラスターを噴かせる。

何と幸運か。まわりのモビルスーツは、他のモビルスーツと戦闘しており、自分たちを囲んでくるような機体が出てこない。

 

レクイエムがどんどん近づいてくる。

あんな威力があるのだ。相当の大きさがあるのはわかっていたのだが…。

 

 

「でかいな…」

 

 

「うん…」

 

 

改めて目にすると、その迫力に呑まれかけてしまう。

本当に、自分たちはあんな巨大兵器を破壊することができるのだろうか。

 

一瞬、自分に疑いを持ったその時、シンとルナマリアは視界の端である物を捉えた。

襲い掛かるモビルスーツとモビルアーマーを斬り裂きながらレクイエムに向かっていくモビルスーツを。

 

相当な腕があることは一目でわかる。

そのモビルスーツは、止めを刺していないのだから。

斬り裂くのは全てメインカメラか武装だけ。エンジンやコックピットに傷は与えず爆散はさせていない。

 

 

「ヴァルキリー…、シエル!」

 

 

その機体を視界の中心に捉え、シンはその機体の名を叫ぶ。

そして、その機体に搭乗しているだろうパイロットの名前を。

 

ヴァルキリーも、動きを止めて見つめる自分たちの存在に気づく。

シエルも、気づいただろう。

 

 

「…シン、ルナ」

 

 

シエルの、自分たちを呼ぶ声は聞こえる。

 

 

「シエル…!」

 

 

ルナマリアが、悲痛な声でシエルを呼ぶ。

 

戦いたくない。そんなルナマリアの想いが手に取るようにわかる。

だって、それは自分も同じだから。

 

 

「…何で、こうなるんだよ」

 

 

シンは、機体をヴァルキリーに向ける。

 

 

「何で、戦わなきゃいけないんだよ!」

 

 

「シン!」

 

 

シエルの声を振り切って、シンは機体をヴァルキリーに突っ込ませる。

アロンダイトを振りかぶり、ヴァルキリーに向けて振り下ろす。

 

ヴァルキリーも、二本のサーベルを交差させて振り下ろされるアロンダイトを防ぐ。

 

 

「シン、こんなことしてる場合じゃないよ!レクイエムを何とかしなきゃ!」

 

 

「わかってる!だけど、それはあんたを落としてからだ!」

 

 

すでに上からの報告、命令は出ている。

オーブ軍が、メサイアを襲撃してきた。月で戦闘しているオーブ軍もレクイエムを破壊すればザフトを襲うだろう、と。

その前に、地球軍もオーブ軍も倒せ、と。

 

 

「守りたいものがあるんだ!それを壊そうとするやつを、俺は許さない!」

 

 

シンはアロンダイトに力を込める。

 

 

「くぅっ…!」

 

 

シエルも、二本のサーベルに力を込めてアロンダイトを押し返す。

 

 

「シン…、シエル…」

 

 

ルナマリアは、どうすればいいかわからず、その場でただ経緯を見守ることしかできない。

 

ルナマリアの目の前で、デスティニーとヴァルキリーが弾かれるように同時に離れる。

だが、両者はすぐに機体を互いに向けて互いに斬りかかっていく。

 

両者の交錯は加速しながら、なおも激しく火花をちらつかせるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『カラミティ、フォビドゥンのシグナルがロスト!』

 

 

「レイダーは?」

 

 

『シグナルは無事です。ですが、戦闘は不利です!』

 

 

ウォーレンは報告を耳に入れながら考える。

もう、ここしか勝つ機会はないだろう、と。

 

 

「ピースメーカー隊を発進させろ。それと同時に…、わかっているな」

 

 

『はっ!』

 

 

管制との通信を切る。

会話をしながら目の前の相手と戦うことはかなり難しい。

 

 

「何を話していたのでしょう?」

 

 

「敵の情報を知りたいか?だが悪いな。俺は、バカじゃないんでね!」

 

 

アナトが対艦刀で斬りかかってくるのを、ウォーレンはサーベルの出力を上げて抑える。

 

ウルトルのバックパックを変更してからも、戦闘はウォーレンが不利な状態で進んでいた。

だが、クレアはその先頭に違和感を感じていた。

 

 

(この男…)

 

 

ウルトルが後退して自分から距離を取る。

そう、この動きもクレアの違和感の原因の内の一つだ。

 

 

(時間稼ぎをしている…?)

 

 

自分に勝つ気がないように見えるのだ。

まるで、時間稼ぎをしているかのように。

 

クレアは目を鋭くさせてウルトルを睨む。

 

 

「何をするつもりかはわかりませんが、あなたはここで討ちます」

 

 

ただの私情ではない。

そうしなければ、何かとんでもないことが起きるような、そんな予感がするのだ。

 

早く、この男を倒さなければ。

 

クレアは、ドラグーンをウルトルに向かわせる。

ウルトル目掛けてビームを放つが、ウルトルは巧みに動いてドラグーンのビームをかわす。

 

そして、そこから反撃…ではなく、アナトから距離を取っていく。

 

 

「待て!」

 

 

クレアはすぐにウルトルを追いかける。

ウルトルは、アナトから距離を取りながら振り返り、バックパックからドラグーンを切り離してアナトに向かわせる。

 

クレアもドラグーンを操って自分を守る様に配置させる。

 

 

「…このまま、俺に付き合ってもらおうか?」

 

 

ウォーレンは、アナトを見ながらぼそりとつぶやく。

この機体を放っておけば、必ず自分の計画の障害になる。

 

それをさせないためにも、ここで縛りつけておかなければ。

メサイアを、デュランダルを殺すまでは

 

 

「ここで俺と踊ってもらう!」

 

 

ウォーレンは、唇を歪ませながら告げる。

 

次の瞬間、再び死の雨が降りしきり始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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