機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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この話は、前回の話と同じ時間軸です。
続きというより、前回の話のフリーダムとブレイヴァーの戦闘時点でのこちら側の話、という感じです。


PHASE64 逆らう者と従う者

「ちっ…、こいつ!」

 

 

三基のドラグーンを従え、ライフルと共に四射のビームを撃ちこんでくるアナトに、ウォーレンは舌を打つ。

攻撃は全てかわされ、逆にこちらが追い込まれていくのがわかる。

 

 

「このっ!」

 

 

ウォーレンはスキュラをアナトに向けて放つ。

だがアナトはドラグーンと共にスキュラをかわすと、逆にドラグーンのビームを撃ちこんでくる。

ウォーレンはビームシールドを展開し、三本の光条を防ぐとシュラークをアナトに向ける。

 

途端、アナトはウォーレンの視界から消える。

ウォーレンは目を見開いてまわりを見渡す。

 

アナトは背後にいた。ライフルを構え、こちらに向けている。

ウォーレンは振り返り、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開する。

 

アナトが放ったビームは、ゲシュマイディッヒ・パンツァーの効果で婉曲し、ウルトルから避けていく。

 

 

「っ…」

 

 

クレアは表情を歪ませる。

先程から、何度も止めのための一撃があの効果によって凌がれてしまっている。

こちらが優勢で戦えているのだが、決定打が打てないでいる。

 

 

「ん…、やはりそうか…」

 

 

八方から放たれるビームをかわしながら、ウォーレンはメサイアの基地内部へと戻っていくスタンピーダーを装備していたナスカ級を見つける。

そして、それと同時に悟る。やはり、もうスタンピーダーは使えないということだろう。

 

 

「ならば、次の一手を何の気兼ねなく打つことができるな…」

 

 

唇を歪ませながらつぶやくウォーレン。

個人の戦いとしては劣勢に立たされているのだが、全体の戦いとしてはもうすぐ有利に立つことができる。

それを考えると、笑いを抑えることができなかった。

 

 

「っとぉ…!本当に、気が抜けないな…、お前は!」

 

 

ウォーレンがつぶやいている中、アナトが対艦刀で斬りかかってくる。

それを、ウォーレンはビームシールドを展開して斬撃を防ぐ。

直後、ウォーレンは胸部の砲口に火を噴かせる。

 

だが、ウォーレンがスキュラを放つ直前にアナトはウォーレンの視界から消えていた。

ウォーレンはスキュラを放った直後に背後に振り返る。

そこには、対艦刀を振り下ろそうとしているアナトの姿。

 

ウォーレンは振り返ったときの回転のスピードを利用しながらサーベルを振るった。

対艦刀の方がリーチが長く、破壊力がサーベルよりも上なのだが、ウルトルの遠心力による勢いが手に握るサーベルに威力を与える。

 

 

「っ!」

 

 

ウルトルのサーベルとアナトの対艦刀のぶつかり合いに勝ったのはウルトルだった。

アナトは弾かれるように後退していく。

 

 

「そらっ!」

 

 

さらにウォーレンはアナトに追撃を仕掛ける。

サーベルを握り、アナトに向かっていきながらシュラークを放つ。

 

クレアは、ウルトルが放つシュラークの砲撃を機体を翻してかわすと、直後にスラスターを全開にしてウルトルに向けて突っ込んでいく。

 

ウルトルに向かっていくアナトに、アナトに向かっていくウルトル。

二機は互いの持つ剣を振り下ろす。

 

だが今度は、両者ともにほぼ同等の勢いをもっての突撃。

対艦刀とサーベルがぶつかり合えば、どちらが勝つか…、それは。

 

 

「っ、ちぃ!」

 

 

ぶつかり合った刃。そして、力を込めてウルトルを押し込むアナト。

押されていることに気がついたウォーレンは急いで距離を取る。

 

しかしそれは、クレアの誘導だった。

クレアは元の場所に戻していたドラグーンを切り離す。

 

ビームを斉射しながらドラグーンはウルトルへと向かっていく。

ウルトルはライフルを向かってくるドラグーンに向ける。

 

 

「させない」

 

 

ウルトルはライフルでドラグーンを撃ち落とそうとしているのだろう。

だが、クレアはそれをさせない。

 

クレアはドラグーンをウルトルの射線上から離脱させる。

当然、ウルトルは離脱したドラグーンを追ってライフルの照準を合わせようとする。

その、ライフルの引き金を引くまでの時間の遅延をクレアは欲していた。

 

クレアは二丁のライフルを取り出し、両腰の収束砲を展開する。

そして、四門の砲門を同時に開き、ウルトルに向けて放つ。

 

ウルトルは最小限の動きで、砲撃と砲撃の間を縫うようにしてかわす。

途端、ウルトルのまわりをドラグーンが包囲する。

 

 

「くっ!?」

 

 

ウォーレンはまわりを包囲するドラグーンを見渡す。

すぐに機体をその場から移動させてドラグーンの包囲から逃れようとする。

 

 

「逃がさない!」

 

 

だがドラグーンはウルトルを追いながらビームをウルトルに向けて照射する。

ウォーレンは機体を捻らせながらドラグーンのビームを回避していく。

 

反撃する間もなく、ひたすら相手の砲火を回避することしかできないウォーレン。

そんなウォーレンに、ようやくこの戦闘の勝利を目指すべく光明が差し込む。

 

 

「っ、来た!」

 

 

それを目視した途端、ウォーレンはウルトルのスラスターを全開にし、ある場所へと向かっていく。

その方向からは、ウルトルに向けて何やらユニットを取りつけたメビウスが飛んできている。

 

 

「あれは…?」

 

 

ウルトルに向かっていくメビウスが気になったクレア。

正確には、メビウスに取りつけられているユニットを懸念に思った。

 

クレアはライフルをウルトルに向かっていくメビウスに向ける。

迷うことなくクレアはメビウスに向けて引き金を引くのだが、それよりも先にメビウスはユニットを取り外し、その場から離れていった。

 

クレアの目の前で、取り外されたユニットはウルトルに向けて飛んでいく。

ウルトルも、飛んでくるユニットに向かっていくのだが、その過程の中でウルトルの背面部の装甲だと思われていた部分が外れた。

 

 

「なっ…、まさか!?」

 

 

その瞬間、クレアはウルトルが何をしようとしているのかを悟る。

あのウルトルはインパルスと同じ、背面部に換装可能な装備が取りつけられているのだ。

 

そして今、ウルトルはその装備を変えようとしている。

 

ウルトルの背面に、ずんぐりとした円形にユニットが取りつけられる。

そのユニットからはぽつりぽつりと出っ張った大小の更なるユニットが取りつけられている。

クレアはすぐにそれがドラグーンだということを悟る。

 

 

「くっ…!」

 

 

ドラグーンにはドラグーンを。

事実、ウルトルの武装はドラグーンを使用する機体相手には相性が悪い組み合わせになっていた。

ウルトルのパイロットのこの判断は正しいと言える。

 

だからこそ、クレアは相手がしようとしていたことを先に気づくことができなかったことに悔恨の念を抱いていた。

 

 

「さぁ…、第二ラウンドの開始だ!」

 

 

一方のウォーレンは、押され気味だった戦闘を盛り返すことができるという意気込みに満ち溢れながらアナトに機体を向き直す。

クレアも、一度ドラグーンを戻して充電させてスタンバイさせる。

 

その間に、ウォーレンは背面のユニットからドラグーンを切り離してアナトに向けてビームを斉射する。

アナトも、状況が変わったとはいえ戦意を失ったということもなく、変わらない鋭い動きでビームをかわすと、戻していたドラグーンを再び切り離し、ウルトルに向けてビームを斉射する。

 

 

(こいつ…、何だ…?)

 

 

ウォーレンは、改めて相手の脅威を感じ直す。

目の前でむざむざ装備の換装を許し、戦況を盛り返されたというのに、何ら動揺も見せずに戦い続けている相手に、ウォーレンは脅威を感じた。

 

それだけではない。

コックピットを狙っているということで頭の隅にまで追いやられていたのだが、目の前の機体の戦いが、頭の中にある何かと重なる。

 

 

(こいつ…、何故こいつが、リベルタスなんかと重なるんだ…!)

 

 

リベルタスはオーブの陣営。目の前の相手はザフト所属。

何故、まったく関係のないはずのこの二つが重なるのか。

 

奔る苛立ちに、ウォーレンは歯を食い縛り鳴らす。

 

 

「お前は…、何なんだ!」

 

 

ウォーレンはドラグーンをアナトへと向かわせると同時に、サーベルを手に突っ込んでいく。

 

 

「何故、お前がリベルタスと重なるんだ!」

 

 

ドラグーンのビームを最小限の動きでかわすと、持っている対艦刀を振るってこちらの斬撃に対して迎え撃ってくる。

 

そうだ。これだ。

この動き、リベルタスと重なる。

その事が、ウォーレンの心に苛立ちを募らせる。

 

憎き仇敵に重なることが、どうしてもウォーレンの心に触れてしまう。

 

 

『…私が、彼と重なるですか』

 

 

「っ!」

 

 

その時、ウォーレンの耳に鈴のような涼やかな声が届く。

 

途端、アナトの動きが切り替わる。

アナトはこちらから距離を取ったと思うと、ドラグーンを自分の周囲に集め始める。

 

ウォーレンは何かを始めるつもりだとすぐに悟り、それをさせまいとスキュラを放とうとするのだが、それよりも先にアナトが動きを見せた。

 

先程と同じように、アナトは両手にライフル、両腰の収束砲を展開して同時にこちらに向けて放ってくる。

だが今回はそれだけではなく、周囲に集めていた十基のドラグーンも同時に火を噴いた。

 

堪らずウォーレンはその場から機体をずらして計四十五門の砲火から身を逸らす。

しかし、それを読んでいたかのようにアナトがウォーレンの背後に現れる。

 

 

(何だこいつ!?急に動きが…!)

 

 

『目障りです』

 

 

アナトは対艦刀を一文字に振るってくる。

ウォーレンはそれを機体をアナトの懐に潜り込ませることでかわし、さらにサーベルを振るって反撃を仕掛ける。

 

だがアナトは、ウォーレンがそうすることをわかっていたかのように、機体を捻らせるだけで斬撃をかわす。

 

 

『私があの男と重なる…ですか…』

 

 

「ちぃっ!?」

 

 

ウォーレンの胸の中で、一瞬だけ、だが大きくまずいという感覚が奔る。

その勘に従って、ウォーレンは機体を下方に向けてスラスターを噴かせる。

 

ウォーレンの死角から放たれたドラグーンのビームが、先程までウォーレンがいた場所を横切っていく。

ウォーレンが機体を動かした時、アナトは何も動きを見せていなかった。

そのため、ウォーレンは様子見のためにじっとしていたのだが、もしそのまま機体を動かしていなかったら…。

 

ウォーレンはぞっとする。

それと同時に、リベルタスと戦った時と同じ感覚が過る。

 

何をしても通じない。勝てる気がしない。

アナトとは十分に戦えていたのに。何故かここに来て絶望的な感情が心の中を過ったのか。

 

 

(…死ぬかもしれないな)

 

 

ふと、ウォーレンはそうつぶやく。

恐らくこのまま戦っても、この相手には勝てない。

 

そう、この相手には、だ。

 

 

「勝負に負けてもいい。だが…」

 

 

戦いには、勝たせてもらう。

 

ウォーレンの頭の中には、すでにメサイアが崩壊していく光景が見えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ラクスさん!バルトフェルドさん!…くそっ!」

 

 

トールは、ディーヴァと戦闘を繰り広げながらエターナルに通信をつなげようとしていた。

目の前の機体に乗っているのはザフトにいたもう一人のラクスで、本物であるラクスの命を狙っているということを報せようとしたのだが、エターナルに通信が繋がらない。

 

エターナルがダメなら、キラだけにも知らせようと思ったトールなのだが、先程横目で見たフリーダムとブレイヴァーの戦闘を見てしまったためそれができないでいた。

 

あの戦いは、どちらかがほんの少しでも集中力を切らしてしまえば、そのどちらかが間違いなく命を落とす。

そんな域にすら達しているレベルの戦いだった。

キラのためにも、そしてキラの手助けをするために戦うことを選んだ自分のためにも。

キラの妨げになるようなことはしたくない。

 

だがトールにはある懸念があった。

セラがこのディーヴァと戦った時、紫色の機体が三機。ディーヴァに従うかのようについていたと聞いていたのだ。

ここに、その三機の姿は見えない。

 

もしかしたら、あのもう一人のラクスの命を受けてエターナルに向かっているのではないか。

トールはそのことが気がかりでならなかった。

 

このままディーヴァと戦いながらエターナルの様子を見に行こうともしたのだが、そうなればディーヴァが何をするかわからない。

 

 

「いい加減、そこをどきなさい!」

 

 

「何度も言わせるな!ここは絶対に通さねぇ!」

 

 

ディーヴァが対艦刀で斬りかかってくるのに対して、トールはサーベルを連結させたハルバートで迎え撃つ。

 

 

「あの艦は私が仕留めるの!私が絶対に…、仕留めるんだから!」

 

 

ディーヴァは距離を取り、オメガをジャスティスに向けて放ってくる。

トールは放たれたオメガを機体を翻してかわすと、ライフルをディーヴァに向けて撃ち返す。

 

トールが撃ったビームに対し、ディーヴァは突っ込んでくる。

ビームシールドを展開し、ビームを防ぎながら対艦刀からサーベルに持ち替える。

 

対艦刀はリーチが長い代わりに小回りが利かない。

サーベルは逆だ。リーチは対艦刀よりも短いものの小回りが利く。

 

 

(スピード勝負に持ち込む気か…!)

 

 

トールはハルバートの連結を解き、二本のサーベルに戻してディーヴァの斬撃を迎え撃つために備える。

 

突っ込んできたディーヴァは、サーベルを振りかぶり、まっすぐジャスティス目掛けて振り下ろす。

トールは片手のサーベルを振るい、ディーヴァの斬撃を受け止めようとする。

 

だが、トールの振るったサーベルは空を切った。

 

 

「え…!?」

 

 

その光景を見たトールは目を見開き、ミーアはしてやったりと唇を歪ませた。

 

ディーヴァの持つサーベルの柄から、ビームは出力されていなかった。

 

サーベルの斬撃を防ぐために、大抵の、いや全てのパイロットは剣や楯をビームが出力されている部分にぶつけようとするだろう。

その心理を、ミーアは利用したのだ。

 

トールの振るったサーベルが空を切った直後、ディーヴァが握るサーベルのビームが出力された。

ジャスティスの肩部装甲にサーベルがぶつかるその直前に。

 

 

(とった!)

 

 

ミーアはそう確信した。

当然だ。完全に相手の裏をかいたのだから。

 

このままミーアが振るうサーベルがジャスティスの装甲を切り裂き、コックピットまで刃を届かせる。

ミーアはそう確信していた。

 

だが、ミーアはこの時失念していた。

ジャスティスは、両手にサーベルを握っているということを。

 

 

「っ!」

 

 

トールは、サーベルが空を切ったその時から行動を開始していた。

空を切ったサーベルを持っていた手とは逆の手を即座に動かす。

 

当然、目的はディーヴァの振るうサーベルを受け止めるためだ。

 

体勢が不安定になってしまうが、構うものか。

今、この場で死ぬよりはずっとましだ。

 

結果を言えば、トールの目的は達した。

肩部をわずかに切り裂かれはしたものの、最悪の事態は避けることができた。

 

だが、問題はここからだ。

 

今のジャスティスは、サーベルを振り切った体勢から無理に腕を交差させてサーベルを突き出している体勢だ。

力は当然入れやすいとは言えない。このままディーヴァに力一杯押されてしまえば押し負けるのは目に見えている。

 

トールは機体をその場から逃そうとする。

まずディーヴァと距離を取って体勢を立て直そうとする。

 

 

「させない!」

 

 

しかしトールの思うように相手がさせてくれるわけもなく。

ディーヴァの手がジャスティスの腕を掴む。

 

 

「なっ…!」

 

 

それだけではない。

ディーヴァはサーベルに力を込めると同時に胸部の砲口、オメガをも放とうとしていた。

 

サーベルで仕留められるのならそれでよし。

だがもし、サーベルで仕留められないのならオメガを至近距離で放って確実にしとめる。

二重の攻撃をディーヴァは仕掛けてきたのだ。

 

 

「くそっ…」

 

 

トールはまず、オメガの射線上から機体を外すことにする。

機体をほんの少しでもずらすことができればそれで射線上から外れることができるのだ。

 

そしてそれは、トールの思った通りにすぐに成功した。

直後、ディーヴァの胸部から巨大な砲撃が放たれる。

 

放たれた砲撃は空を切り、トールは一まずの命拾いの成功はした。

 

 

「もう一つ!」

 

 

トールは、機体をずらしたその勢いを利用する。

機体をその勢いに任せたまま回転させる。そして、ジャスティスの右足をディーヴァに向けて振り上げた。

 

 

「!?」

 

 

ディーヴァは、ビームシールドを展開した腕を割り込ませ、ジャスティスの蹴り上げを防ぐ。

不意を突いたからだろうか、防がれはしたがディーヴァの拘束は外れた。

 

トールは即座に機体を後退させてディーヴァから距離を取った。

 

先程の蹴り上げ。ジャスティスの右足にビームを出力させていたのだ。

もしディーヴァの防御が間に合っていなかったら、ビームブレードにディーヴァのメインカメラは斬りおとされていただろう。

 

 

(あわよくばこれで勝負がつく…、ていう風に期待してたんだけど、そう上手くはいかないか…)

 

 

機体は外れたが、当初の目的は達成した。

これで再びイーブンに持ち越した。ここから、どう展開していくかが戦いの鍵になる。

 

 

(時間はかけられない…。早くエターナルの所に行かないと!)

 

 

トールはサーベルを連結させハルバート形態にし、ハルバートを右手に握ってディーヴァを見据える。

ディーヴァは対艦刀を握ったまま、その場から動かない。

 

それが、あまりにも不気味だった。

このまま動き出せば、こちらがやられてしまうのではないか。

そう思わせるほどの気迫を、ディーヴァは放っていた。

 

 

「…もう、いいわ」

 

 

「え…?」

 

 

ふと聞こえてくる少女の声。

トールはその少女の声に耳を傾ける。

 

 

「ヒルダさん、マーズさん、ヘルベルトさん。エターナルに攻撃を開始してください」

 

 

「なっ!?」

 

 

相手は、自分の手でエターナルを落とすと言い放っていた。

そのため、この相手を足止めしておけば、少なくともエターナルに脅威となるモビルスーツが襲い掛かってくるという事態は避けることができると思っていたのだが。

 

 

「もういいわ…。埒が明かない。あなたがどかないのなら、それ相応の手を使わせてもらうわ。…この手で落とせないのは心残りだけれど」

 

 

「お前…!」

 

 

自分の意地を捨てたということだろう。

 

このままではまずい。自分もキラも、相手のエース機に足を止められてしまっている。

ムラサメがエターナルを守るために奮闘してくれるだろうが、あの三機は並のパイロットの腕を遥かに凌いでいる。

前回は運よくセラがすぐに相手をしたために犠牲は少なく済んだが、もしそうでなかったらかなりの脅威になっていたのは間違いない。

 

そんな機体がエターナルを襲うのだ。

相当なダメージを受けてしまうどころか、知らぬところで落とされる可能性だってある。

 

 

「くそぉっ!」

 

 

形振り構わずエターナルの元に急ごうかとも考えないわけでもないのだが、その場合あのディーヴァもついてくる。

状況がさらに悪化するだけなのだ。

 

しかし、この場で戦い続けてもエターナルが危険に及んでいるという事実は変わらない。

 

 

「どうすれば…!」

 

 

トールがどんな選択をしても、何も変わらない。

せめてキラが、と思い横目でフリーダムの様子を見ても、まだ手が離せない様子なのは変わっていない。

 

このままでは、ジェネシスがどうこうという問題ではない。

この場から退いてでも、生き延びることを考えた方がいいのではないか。

 

 

「エターナルを落とすことは出来ないけど…。あんたはこの手で落として見せるわ」

 

 

「くっ…!」

 

 

ディーヴァが、襲い掛かる。

 

その時だった。

 

 

『ラクス様!』

 

 

「ヒルダさん?どうしたのでしょう」

 

 

トールは、もう一人のラクスの口から出た名前を聞いて目を見開く。

 

ヒルダ。エターナルを襲えと指示した三人の中の一人。

まさか、もうエターナルを撃沈したという訳ではないだろうな。

 

 

(そんなはずはない…。いくら何でも早すぎる)

 

 

さすがにそれは早すぎると、トールは自分に言い聞かせて冷静さを保とうとする。

 

ならば、何故、それも指示をされてすぐの所で何を報告することがあるというのだろう。

 

そして、そのすぐ後。

トールは、自分の親友の無茶苦茶さを改めて実感することとなる。

 

 

『エターナルへの攻撃を始めようとしたのですが、リベルタスが乱入!ラクス様、こちらに来られますか!?』

 

 

「そんな!?あれにはレジェンドがついているはずでしょ!?」

 

 

『そうです!リベルタスは、エターナルを守りながら我ら四機を相手にしているのです!』

 

 

さすがのセラでも、まわりのモビルスーツ全ての攻撃からエターナルを守るということは出来ないだろう。

恐らく、そのレジェンドという機体と、ヒルダという人物の機体を含めた三機の機体、合わせて四基の機体の攻撃からエターナルを守りながら戦っているということ。

 

 

「…ははっ。セラ…、お前、頼もしすぎだって!」

 

 

エターナルにはセラがついている。

ならば、自分は心置きなく目の前の相手に集中することができる。

 

 

「くっ!」

 

 

味方の危機を知り、ディーヴァはエターナルの方へと向かおうとする。

 

 

「させないって!」

 

 

だがトールはそれを許さない。

懸念材料がなくなった今、トールは相手をエターナルに行かせないようにするだけ。

 

 

「俺もすぐにそっちに行くぜ、セラ!」

 

 

目の前の相手を退け、セラの援護に行く。

今、トールがするべきことはそれだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レジェンドと戦闘を繰り広げていたセラ。

リベルタスとレジェンドの二機の周囲には、互いが繰り出した全てのドラグーンが飛び回り、ドラグーンから斉射されるビームの雨が降り注ぐ。

 

二機は、降り注ぐビームを全てかわしながらライフルを撃ち合い、そして剣をぶつけ合う。

 

 

(…そろそろ、メサイアの方の戦闘の様子が見られる距離まで来ていると思うけど)

 

 

セラは、レジェンドと戦闘をしながら地点の移動を試みていた。

レジェンドばかりに気を取られるわけにもいかない。

エターナルやクサナギ、メサイアでの戦闘の状況を見なければならない。

 

ドラグーンを使い、レジェンドを誘導しながらセラはメサイアの戦闘宙域へと近づいていた。

 

 

「…見えた」

 

 

リベルタスのカメラを切り替えてメサイアの方を見ると、幾度と起こる爆発と、奥に見える巨大な要塞が視界に飛び込んできた。

見ているだけだと、やはりザフト側がオーブ陣営を押し込んでいるように見える。

 

このままでは、オーブが敗退するのも時間の問題かもしれない。

 

 

「これは…、俺だけじゃ足りないかもしれない」

 

 

オーブ側が何とか踏ん張ってはいるものの、相当な不利な状況。

自分一人だけで事足りるとは思えない。

 

何とか、相手のエース機、このレジェンドのような最新鋭機を落とすことができれば少しでも状況を盛り返すことができるかもしれないが。

 

 

「セラ・ヤマト!」

 

 

「この…!」

 

 

戦闘宙域を気にしていると、レジェンドが巨大なサーベルで斬りかかってくる。

セラも、レジェンドのドラグーンから放たれるビームを掻い潜って回避しながらサーベルを手に迎え撃つ。

 

セラとレジェンドはドラグーンを一度元の場所に戻して、互いの持つ剣をぶつけ合って切り結ぶ。

二機は一度離れると、すぐに機体を翻して再び接近し合う。

 

リベルタスのサーベルとレジェンドのサーベルがぶつかり合い、拮抗したその瞬間、セラはもう一方のサーベルを抜き放った。

もう一方のサーベルでレジェンドのメインカメラを斬りおとそうとするセラだったが、レジェンドの背面のユニット、ドラグーンの一基がこちらを向いていることにすんでの所で気がつき、機体をその場から離す。

 

 

「ちっ!」

 

 

リベルタスが離れたのを見て、レジェンドは戻していたドラグーンを切り離す。

切り離したドラグーンは、距離を取ったリベルタスのまわりを包囲し、そしてビームを斉射する。

 

 

「…っ!」

 

 

セラは、機体を捻らせ、翻して斉射されるビームをかわしながら、回避しきれないビームはビームシールドを展開して防いでいく。

 

 

「今だ…!」

 

 

そして、わずかにドラグーンからのビームの雨が弱まった瞬間、セラもまた戻していたドラグーンを切り離す。

さらにセラはサーベルからライフルに持ち替え、まわりを包囲するドラグーンに向ける。

 

 

「させるか!」

 

 

リベルタスがドラグーンを撃ち落とそうとしていることを悟ったレイも、ライフルを取ってリベルタスに向ける。

 

リベルタスが引き金を引く前に、レイが引き金を引き、リベルタスの思惑を妨害する。

 

ドラグーンを守ることは成功した。だが、リベルタスのドラグーンが動き出す。

リベルタスのドラグーンは、レジェンドの放ったドラグーンを追い払い、まわりの包囲を解き放つ。

 

 

「くっ!」

 

 

単純なドラグーンの数だけならばレジェンドの方が勝っている。

それだけではなく、ドラグーンに搭載されている砲門の数もレジェンドが勝っているのだ。

 

それなのに、ここまでドラグーンは失ってはいないもののレジェンドの方が押されている。

 

 

「やはり、お前はここで消えなければならない存在だ!セラ・ヤマト!」

 

 

この男の存在は、許されてはいけない。

 

この大きな力の存在を、許してはいけない。

 

 

「何で、お前にそんなことを言われなきゃならないんだ!」

 

 

セラは、自分に対して放ってくる言葉に憤りを覚える。

何故、そんなことを言われなければならないのだ。

 

クルーゼと戦った時と、同じ…、いや、それ以上の怒りを抱いていた。

 

あの時、クルーゼはクルーゼとして自分の存在を許さないと思いをぶつけてきた。殺意をぶつけてきた。

だが、こいつは違う。

 

 

「お前は自分がラウ・ル・クルーゼだと言ったな!だが、あいつは俺が殺したはずだ!」

 

 

セラはライフルからサーベルに持ち替え、レジェンドに向かって斬りかかっていく。

 

 

「あいつが生き返ったとでもいうのか!」

 

 

レジェンドも、ライフルからサーベルに持ち替え、リベルタスの斬撃を迎え撃つ。

 

 

「あぁ!確かにラウは死んだ!だが、俺もまた、ラウだ!」

 

 

「クローンか!だが、お前とラウは違う人間だろう!?」

 

 

クローンだということはわかる。

しかしわからない。何故、自分はクルーゼだと言い切っているのか。

 

 

「何度も言わせるな!俺はラウ・ル・クルーゼだ!」

 

 

レジェンドが弾かれるように後退してリベルタスから距離を取る。

そして、自分のまわりにドラグーンを戻すとリベルタスに向けて同時にビームを斉射する。

 

 

「俺は、ラウなんだ!これが、俺の運命なんだ!」

 

 

レイの脳裏によみがえる、デュランダルの言葉。

 

決まった日に自分に会いに来ていたラウが、ある時からぷつりと来なくなった。

その時、レイはデュランダルに聞いた。

 

 

『ラウは?ラウはどこ?』

 

 

ラウに会いたい。まだ子供だったレイは、ただその思いだけでデュランダルに問いかけた。

 

だが、レイの問いかけに対するデュランダルの答えは無情だった。

 

 

『ラウは…、もういない』

 

 

『え…?』

 

 

何が何だかわからなかった。

ラウは、もういない。自分に会いに来てくれないのか。

 

ラウに会いたい。ラウに会いたい。

 

 

『だが…。君も、ラウだ』

 

 

混乱するレイに、振り返って微笑みかけながら告げるデュランダル。

デュランダルはレイに歩み寄り、その手に持つ小さなケースを手渡す。

 

レイは、何の疑問も持たずにデュランダルが差し出すケースを受け取った。

そのケースの中に入っているのは、多数のカプセル。

 

 

『これが、君の運命なんだよ』

 

 

この時から、レイは自分に課せられた運命通りに生きてきた。

デュランダルの命令通りに任務を遂行し、後に来る自分の死の時まで、デュランダルの騎士として生きることを決めた。

 

 

「お前が、ここで俺に落とされるのも運命だ」

 

 

この世の全ての者に、運命というのは課せられている。

 

 

「運命に逆らう者がいるから、こうして世界は混乱に陥る!」

 

 

レイはサーベルを手に、リベルタスへと向かっていく。

 

 

「ラウも、自分に課せられた運命に逆らったからあんな無様な最期を遂げたんだ!」

 

 

何故、ラウがこんな奴に殺されたのだ。

それは、運命に逆らったからだとギルは言った。

 

運命に逆らわずに生きていれば、ラウは死は免れることはなかったものの、もっと真っ当な最後を迎えられただろうとギルは言った。

 

 

「何故貴様らは、ギルが世界に平穏をもたらすための計画の実行を止めようとする!」

 

 

レイは、リベルタス目掛けてサーベルを振り下ろす。

 

 

「デスティニープランこそ、人類最後の砦だということがわからないのか!」

 

 

「…」

 

 

レジェンドが振り下ろしてくるサーベルの切っ先を、セラは眺める。

 

こいつは、なんて言った?

 

セラは、両腕のビームシールドを展開し、腕を交差させてレジェンドのサーベルを防ぎ切る。

 

クルーゼが、無様な最期を遂げた?

 

 

「ふざけるな」

 

 

セラは、両腕から伝わる振動を受け止めた直後、力一杯レジェンドに蹴りを加えて弾き飛ばす。

 

 

「っ!」

 

 

レイは、崩れかける機体の体勢を整えながら、再びサーベルで斬りかかろうとリベルタスを見据えた。

 

だが、レイの動きはそこで止まった。

 

 

「…エターナル?襲われているのか」

 

 

セラは、横目で三機のドムに襲われているエターナルを見つけ、機体をその場に向かわせる。

 

 

「ま、待て!」

 

 

レイも、リベルタスを追ってレジェンドを動かす。

 

 

(何だ…、あの凄まじい気迫は…!)

 

 

先程、リベルタスから発せられた気迫。

それは、レイを気圧すほどに凄まじいものだった。

 

 

「っ!」

 

 

リベルタスが向かっているのは、エターナルの方向だった。

エターナルの付近ではドムの三機が固まってエターナルに攻撃を与えていた。

 

リベルタスはエターナルを助けに行ったのだとレイは悟る。

 

 

(俺は、歯牙にもかからないということなのか!?)

 

 

自分との戦いの最中に、他に気を向けるどころではない。

気を向け、さらに他の奴の助けに行く。

 

 

「俺を倒す程度、余裕だと言いたいのか!セラ・ヤマトぉっ!」

 

 

お前を倒すことはいつでもできる。だから、他の場所の援護に行く。

そう言われているようで、レイの心に怒りが燃え上がる。

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

 

レイの目の前で、リベルタスが三機のドムをドラグーンを使ってエターナルのまわりから追い払っている。

 

その隙を狙って、レイはドラグーンをリベルタスの方へと向かわせる。

 

 

「!?」

 

 

その時、リベルタスのカメラがこちらを向いたかと思うと、リベルタスのスラスターが開き、翼が広げられる。

 

そしてリベルタスはこちらに突っ込んでくる。

 

突っ込んでくるリベルタスを狙って、レイはドラグーンのビームを斉射するが、リベルタスは舞うようにしてビームをかわし、そしてレジェンドの懐に潜り込むとサーベルを抜き放つ。

 

 

「お前は言ったな。クルーゼは運命に逆らったから、無様な最期を迎えたと」

 

 

セラは、抜き放ったサーベルをビームシールドで防ぐレジェンドを睨みながら言い放つ。

 

 

「俺はそうは思わない。あいつは、運命に逆らって生きていたからこそ強かった」

 

 

「何を…!」

 

 

セラの言葉に反論しようと、レイが口を開く。

だが、それよりも先にセラが口を開いた。

 

 

「別に俺の言葉を理解しろって言ってるわけじゃない」

 

 

セラはレジェンドに向き直りながら言う。

 

 

「だから、見せてやるよ…。運命に逆らって生きる奴の強さを」

 

 

セラ自身も、復讐という課せられた運命に逆らって生きている人間。

そして、相手は自分の運命に従って生きている人間。

 

 

「お前みたいに、戦おうともせずにただ、運命に従ってる奴の弱さを!」

 

 

「ふざけるな!お前みたいな愚かな存在に、この俺が負けるはずがない!」

 

 

リベルタスとレジェンドは同時に飛び出す。

 

戦いの第二ラウンドが、始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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