機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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PHASE63 拮抗

カラミティ、フォビドゥンと戦闘を繰り広げていたシン。

執拗にこの二機はシンを狙っていたのだが、不意に狙いを変更しインパルスへと向かっていった。

 

 

「ルナ!」

 

 

シンはすぐに機体の向きを変え、インパルスに襲い掛かる二機を追いかけていく。

 

 

『シン!後ろだ!』

 

 

「っ!」

 

 

直後、ハイネの警告する声が耳に届く。

シンはすぐに機体を翻すと、巨大な鉄球が機体を掠めていった。

 

レイダーのミョルニルである。

一目散にカラミティとフォビドゥンを追いかけようとしたデスティニーを狙い、ミョルニルで殴りかかってきたのだ。

 

 

「行かせるかよ!」

 

 

「このっ!邪魔をするな!」

 

 

レイダーが、単距離プラズマ砲アフラマズダをデスティニーに向けて連発しながらこちらに向かってくる。

 

放たれる砲撃を全てかわしていきながら、シンは肩のエネルギー砲を跳ね上げレイダーに向けて放つ。

 

レイダーは、機体の形態をモビルアーマー型に変え、その場から離脱し砲撃をかわす。

と思うと、そのままカンヘルの方へと突っ込んでいく。

 

モビルアーマー型になったレイダーの手の部分は、まるで鉤爪の様に尖っている。

急に狙いを変えてきたレイダーに反応が遅くなったハイネは、かわすことができずシールドを割り込ませることしかできない。

 

レイダーはシールドに突っ込んでいき、両手の鉤爪を突き刺し、そのまま力任せにシールドを切り開く。

 

 

『なにっ!?』

 

 

「おらぁっ!」

 

 

レイダーはノータイムでレールガンを放つ。

 

VPS装甲に実体弾は通用しないが、衝撃は抑えきれない。

大きく体制を崩すカンヘル。形態を変え、追撃を仕掛けるレイダー。

 

 

「ハイネ!このっ!」

 

 

シンは再びエネルギー砲をレイダーに向けて放つ。

 

 

「ちっ!」

 

 

目の前を砲撃が横切り、動きを止めざるを得ないレイダー。

何度も何度もデスティニーにチャンスをふいにされ、いら立ちが募る。

 

 

「何度も何度も邪魔を…!」

 

 

『お前の相手は俺だぜ!シン!ルナマリアを頼む!』

 

 

 

デスティニーを狙って攻撃を仕掛けようとしたレイダーの眼前にカンヘルが割り込む。

そしてハイネはシンに指示を送る。

 

 

「ハイネ!」

 

 

『俺のことは気にするな!それよりも早くルナマリアを!』

 

 

迷いは一瞬、シンはライフルを手に、機体をインパルスがいる方へと向ける。

すでにカラミティとフォビドゥンはインパルスへと襲い掛かっており、インパルスも奮闘しているが劣勢なのは火を見るよりも明らかだ。

 

 

「わかった!ハイネも気をつけろよ!」

 

 

シンはライフルを連射しながら機体を飛ばす。

 

放たれたビームはカラミティとフォビドゥンへと向かっていくが、命中する前にフォビドゥンがかわし、そのままカラミティの前まで移動するとゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開しビームを婉曲させる。

 

 

「へぇ…、また来たみたいね、白いの!」

 

 

「今度は、落とす」

 

 

「ルナ!そこから離れろ!」

 

 

カラミティとフォビドゥンの注意がインパルスからこちらに向けられた。

それに気づいたシンは、ルナマリアに距離を取るように言う。

 

ルナマリアもシンの言葉に従い、その場から離れる。

 

 

「そらっ!今度こそあんたに綺麗な花火を咲かせてあげるわ!」

 

 

インパルスに目もくれず、カラミティが二組のシュラークと二つのスキュラをデスティニーに向けて放つ。

さらにフォビドゥンもフレスベルグを放ち、デスティニーに一斉砲火を浴びせる。

 

シンはビームシールドを展開しながら機体を動かし、必死に砲撃から回避する。

 

 

『このぉっ!』

 

 

そこに、カラミティに向かって斬りかかるインパルス。

砲撃を撃つのを止め、回避行動に移したカラミティはデスティニーからインパルスに狙いを移す。

 

 

「この雑魚が…、邪魔しないでくれる!?」

 

 

ケーファー・ツヴァイをインパルスに向けて放つが、ルナマリアも決して弱くはない。

放たれる砲撃を巧みにかわし、カラミティに向かって接近していく。

 

 

「こいつ…!」

 

 

ルナマリアはサーベルを一文字に振るうが、カラミティは下がって距離を取ることでルナマリアの斬撃をかわす。

 

 

「雑魚の癖に、生意気にあたしの邪魔をするなぁっ!」

 

 

胸部の二門の砲門を同時に開く。

二本のスキュラがインパルスを襲うが、ルナマリアは機体を横にずらして砲撃をかわす。

 

 

「ファル!」

 

 

「わかってる」

 

 

エリーの言葉の意に従い、ファルが機体をスキュラの射線上に置く。

そこでゲシュマイディッヒ・パンツァーを開き、スキュラを婉曲させる。

 

婉曲したスキュラの行先には、回避した直後のインパルス。

 

 

「そんなっ!?」

 

 

かわしたと思っていた砲撃が思わぬ方法で曲がり、再びこちらに向かってくる。

 

このまま命中するか、と思われたその時、デスティニーが割り込む。

 

 

「っ、シン!?」

 

 

スキュラが、シンの展開したビームシールドと激突し爆発を起こす。

煙が広がり、カラミティとフォビドゥンからデスティニーとインパルスの姿が見えなくなる。

 

カラミティ―とフォビドゥンはしばらくその場から動かず様子を見る。

あの白いのが、こんな簡単にやられるはずがない。まだ、生きているに決まっている。

 

その時、煙を切り裂いて光条がこちらに向かってきた。

 

 

「やっぱりね!」

 

 

「…」

 

 

フォビドゥンがカラミティの前に立ちはだかり、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを展開してビームを曲げる。

 

さらに煙の向こうからデスティニーとインパルスが飛びだす。

デスティニーはアロンダイトを、インパルスはビームサーベルを手にフォビドゥン、カラミティへそれぞれ斬りかかっていく。

 

 

「ルナ、落ちるなよ!」

 

 

「シンこそ!」

 

 

「もう逃がさない!」

 

 

「潰す」

 

 

シンはフォビドゥンに向かってアロンダイトを振り下ろす。

フォビドゥンは後退してアロンダイトをかわすと、ニーズヘグを手にデスティニーに向かって斬りかかる。

 

ニーズヘグはビーム兵器ではないため、アロンダイトの刃にかかればあっという間に斬られてしまう。

そのため、フォビドゥンはデスティニーとの接近戦を行えば不利に陥る。

 

そしてそれは、カラミティにも同じだった。

カラミティには接近戦のための武装が搭載されていないと言っていい。

インパルスが懐に入ってきてしまえば、それはもう負けを意味する。

 

二機が勝つためには、分断されてしまってはいけない。

連携を強化して攻めていくしかないのだ。

 

 

「ルナ、この二機を一緒にさせるなよ!」

 

 

「わかってる!」

 

 

シンとルナマリアにはそれがわかっていた。

たとえ性能で劣るインパルスでも、接近戦の手段を持たないカラミティとなら戦える。

 

相手が持つのが火力だけなら、一対一ならば対抗できる手段は十分にある。

 

ルナマリアはカラミティが撃ってくる砲撃をかわしながら接近していく。

だが、カラミティも接近させまいとインパルスとの距離を保ち続ける。

 

 

「ちっ!何してんのさファル!さっさとこっちに来い!」

 

 

「こいつ、邪魔する。そっちに行けない」

 

 

フォビドゥンがこちらに来てくれれば連携で攻めることができるのだが、デスティニーが取りつき、フォビドゥンは身動きが取れない。

 

 

「この、役立たずが!」

 

 

こうなったら、自分がインパルスを落とすしかない。

何、性能だけならばこちらが圧倒的に上なのだ。

 

 

「しょうがない!先にあんたを相手してあげる!」

 

 

「それはどうも!」

 

 

カラミティが砲門を集中的にインパルスに向ける。

インパルスも、サーベルを手にカラミティを見据える。

 

シンとハイネがそれぞれ激闘を繰り広げている中、もう一つ戦いが始まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

エターナルとクサナギの援護に行くため、メサイアへと向かっていたセラ。

立ちはだかるモビルスーツ群を撃退しながら突き進んでいくセラは、ふと背筋に冷たい感覚が奔るのを感じた。

 

 

「っ、これは…」

 

 

近くにクレアがいるのか、と最初に出てきた考えはすぐに否定した。

この感覚はクレアのものとは違う。

 

 

(クレアじゃない…。まさか!)

 

 

セラはすぐに身構える。

直後、正面から三本の光条がこちらに向かってきた。

機体を翻して光条をかわしたセラは、ライフルを向けて撃ち返す。

 

闇の向こうにいる何かは、セラが撃ったビームをかわしたのだろう。

何の反応も起こらない。

 

 

「こいつは…」

 

 

少し経つと、セラの視界が何かを捉える。

セラ自身、どこか懐かしいとも思えるそのシルエット。

 

灰色に装甲を染め、ずんぐりとした体形。

その背に背負う円盤のようなものには、かつてセラを追い詰めたドラグーンシステムが搭載されている。

 

 

「プロヴィデンス…!」

 

 

ラウ・ル・クルーゼが搭乗していた、ZGMF-X13Aプロヴィデンス。

かつての宿敵の愛機を改修したのだろう、プロヴィデンスとは細部が違う印象を受ける。

 

プロヴィデンスの発展機、レジェンドは円盤に搭載されているドラグーンをリベルタスに向けてビームを一斉照射する。

セラは機体を後退させて照射されたビームをかわすと、ライフルをレジェンドに向けて撃ち返す。

 

レジェンドは腕を掲げるとビームシールドを展開する。

セラが撃ったビームは容易くビームシールドによって防がれてしまう。

 

 

「セラ・ヤマト…!」

 

 

その時、正面から発せられる殺気に乗って、声が頭の中に響いてくる。

聞き覚えのある、間違いようの声。

 

 

「クルーゼ…!」

 

 

自分が殺した、殺してしまった男。

殺してしまったことをずっと後悔してきた、他に何か方法があったのではないか。

今でもよくそう考え込んでしまうこともある。

 

何故、ここにクルーゼがいるのだろうか。

確かに、この手で殺したことを俺は見届けた。

 

 

「違う…、お前は!」

 

 

その時セラは悟る。

目の前の奴は、クレアと同じなのだと。

 

ラウ・ル・クルーゼである、そうでない。

そう言う存在なのだ。

 

だが、目の前の存在はこう言い放つ。

 

 

「俺は、ラウ・ル・クルーゼ…」

 

 

「っ!」

 

 

自分の名前はラウ・ル・クルーゼだと。

そう告げると、目の前の存在は円盤からドラグーンを切り離し、リベルタスへと向かわせながら自らもsアーベルを抜いて斬りかかってくる。

 

セラはビームシールドを展開してレジェンドの斬撃を防ぐ。

それでもなお、レジェンドはリベルタスを叩き斬ろうとせんと力を込めてくる。

 

 

「違う…!お前はクルーゼじゃない!」

 

 

「何を言っている!お前には分かるだろう!」

 

 

セラは否定する。目の前の存在は、決してラウ・ル・クルーゼではないと。

だが、目の前の存在はセラの否定を一蹴する。

 

お前には分かるだろう、と問いかけてくる。

 

確かに、その通りだ。

自分の中が、こいつはラウ・ル・クルーゼだと告げてくる。

 

それでも、セラは否定する。

 

 

「クルーゼは俺が殺したんだ!俺が、俺自身が!お前はクルーゼじゃない!」

 

 

ラウ・ル・クルーゼはもういない。自分が殺した。

ならば、目の前の存在は一体誰なのだ。

 

 

「そう、ラウは死んだ!だが、俺もラウだ!」

 

 

「っ…」

 

 

息を呑む。

もう、彼のような悲しい存在と戦うということはしたくなかった。

それなのに、戦わざるをえない所まで追い込まれていることにようやく気付く。

 

 

「俺は、お前の存在を許さない…!」

 

 

「お前…!」

 

 

クルーゼと親しかったのだろうか。

それとも、ただ自分と同じ存在を殺された仇というだけなのだろうか。

 

理由はわからないが、自分に濃厚な殺気を向けていることはわからないはずがない。

 

 

「ここで、お前は消えなくてはならない!」

 

 

その言葉と一緒に、レジェンドがさらに力を込めてきた。

セラは、もう付き合っていられないとレジェンドの力を受け流しながらレジェンドとの位置を入れ替える。

 

そしてレジェンドとの距離を取りながら、サーベルを抜く。

 

 

「何を!」

 

 

言っている意味がわからない。

自分が何故、ここで消えなくてはならないのか。

 

セラはサーベルを手にレジェンドに斬りかかっていく。

レジェンドも、振り返って同じようにサーベルを手にリベルタスに向かっていく。

 

 

「人間の夢、希望と共に憎しみという感情も込められた存在!それがお前だ!」

 

 

互いの剣がぶつかり合った瞬間、セラはもう一本のサーベルを抜き放つ。

だが、レジェンドはリベルタスとの距離を取りリベルタスの斬撃をかわす。

 

 

「だから消えなくてはならないのだ!お前は!」

 

 

レジェンドは切り離していたドラグーンをリベルタスに向かわせる。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

セラもまた、スラスターからドラグーンを切り離しレジェンドへと向かわせる。

 

瞬間、リベルタスとレジェンドのまわりには、他の存在を許さぬ結界の様にビームの嵐が吹き荒れはじめる。

 

 

「俺と共に!」

 

 

「っ!?」

 

 

その言葉に目を見開くセラ。

そして、答えにたどり着く。

 

ラウ・ル・クルーゼと同じ存在だということは、つまりアル・ダ・フラガのクローンだということ。

それは、クルーゼと同じようにテロメアが…。

 

 

「お前!」

 

 

止めなければ。こんな悲しいだけの戦いは止めなければならない。

何とか言葉を届けようとするのだが、目の前の存在はセラの言葉に耳を傾けようとしない。

 

それどころか、ドラグーンから斉射されるビームの勢いが増してきている。

 

 

「くっ!」

 

 

「消えてもらうぞ!セラ・ヤマト!」

 

 

降りしきるビームの雨の中、二機は交錯を繰り返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

蒼い翼を広げるフリーダムと真紅に染められた装甲を輝かせたブレイヴァーが何度もぶつかり合う。

フリーダムは剣を、ブレイヴァーをハルバートを手に互いに斬りかかる。

 

 

「はぁっ!」

 

 

キラは、ブレイヴァーから距離を取るとスラスターからドラグーンを切り離してブレイヴァーのまわりへと向かわせる。

 

アレックスは、ブレイヴァーのカメラを通してドラグーンの位置を確認すると、すぐに機体を移動させる。

キラがビームを照射させたときには、もうその場にブレイヴァーはいなかった。

 

ビームが貫いたのは空。

そしてビームをかわしたブレイヴァーは胸部の砲門からオメガを放つ。

 

キラもまた、胸部の砲門からカリドゥスを放つ。

 

カリドゥスとオメガは、元々オメガの方が威力が高く出るようにできている。

この二つがぶつかり合えば、どちらが勝るかはすぐにわかる。

 

 

「っ!」

 

 

キラが放ったカリドゥスは、オメガとぶつかり合い拮抗したかと思われたその瞬間、オメガに圧され霧散する。

向かってくるオメガから、キラは慌てて機体を逃す。

 

逃れたフリーダムを追って、アレックスはライフルを向ける。

 

向けられたライフルを見て、キラは同じようにライフルを向ける。

 

互いの位置を入れ替えながら、フリーダムとブレイヴァーはライフルを撃ち合う。

 

 

「アスラン…」

 

 

キラは、ドラグーンを自分のまわりに戻す。

そして、ライフル二丁にクスィフィアスレール砲を展開。

計十五門の砲火を同時に噴かす。

 

防ぐことは不可能。この砲火はかわすしかない。

当然、アレックスは機体を大きく横にずらして砲火をかわす。

 

だがその大きな動きは当然大きな隙を生む。

キラはそれを見逃さない。

ドラグーンでブレイヴァーのまわりを包囲する。

 

 

「くっ!」

 

 

「…っ」

 

 

キラはビームを照射する。

照射されたビームは、ブレイヴァーを貫かんと闇を切り裂く。

 

アレックスは、ビームシールドを展開しながら機体を細かく動かしながらビームの網から逃れる。

キラはその場から動かず、ただライフル二丁をブレイヴァーに向け、引き金を引く。

 

 

「…逃げられないのなら」

 

 

アレックスは、フリーダムの位置を見つける。

 

 

「そこか!」

 

 

アレックスはサーベルを連結させたハルバートを持ち、フリーダムに向かって突っ込んでいく。

 

 

「っ!?」

 

 

キラは、突っ込んでくるブレイヴァーに向けてドラグーンのビームを集中させる。

だが、ブレイヴァーの巧みな動きとそのスピードにより、ビームが命中しない。

 

さらにブレイヴァーはそのビームが掠めることも気にせず突っ込んでくるのだ。

決して、スピードを緩めることなく。

 

キラはライフルからサーベルへ持ち替える。

ドラグーンの包囲から抜け出し、ブレイヴァーが斬りかかってくる。

 

キラも、ブレイヴァーへとサーベルで斬りかかっていく。

 

再びぶつかり合う二機は、互いに止まることなく動き続け、止むことなくビームを浴びせ、戦うことが止まらない。

 

 

「どうして…、どうしてこうなるんだ…」

 

 

自分たちは戦いを止めるために戦っている。

恐らく思いは同じだ。ただ、ほんの少し道が違うだけ。

 

たった、それだけなのに…。

 

 

「こんな簡単に僕たちは…、皆は…、争っちゃうんだね…」

 

 

キラは、向かってくるブレイヴァーにライフルを向ける。

引き金を引き、ビームを放つがブレイヴァーはハルバートでビームを切り裂きながらなおもフリーダムへと向かっていく。

 

ブレイヴァーは勢いを増しながら、ハルバートで斬りかかってくる。

キラはブレイヴァーとの距離を取る。

そして、ドラグーンで自分の眼前にビームの網を張り巡らせる。

 

 

「っ、このっ…!」

 

 

このまま突っ込んでいけば蜂の巣にされていただろう。

アレックスは機体を後退させてフリーダムから距離を取る。

 

本当に、自分を殺そうとしているのだろうか。

 

 

「…っ!?何だ…?」

 

 

フリーダムが自分を本気で殺そうとしていることを改めて悟った瞬間、アレックスの中で何かが過った。

 

 

「悲しみ…?」

 

 

感じたことなどないはずなのに、この過ったものがすぐに悲しみとわかったのは何故か。

わからない。

 

 

「アスラン…?」

 

 

ブレイヴァーの動きが止まった。キラは呆然とブレイヴァーを眺める。

どうして動きを止めたのか。わからず、ただキラはブレイヴァーを見つめる。

 

 

「…俺は」

 

 

アレックスはただ困惑していた。

先程まで、何の躊躇もなくあのフリーダムを落とすために戦っていたのだ。

それなのに、どうして今になってこんな感情が生まれてくるのだ。

 

 

「戦いたくない…!」

 

 

アレックスは激しく首を横に振る。

そんなはずはない。議長の理想のために、自分は剣となって戦うと決めていたのに。

 

 

「揺らぐな…!」

 

 

揺らぐな、揺らぐんじゃない。

必死に自分の心に呼びかける。

 

自分の中で、揺らぎが消えていく。まるで、波立っていた水面が戻っていくように。

それと同時に、自分の奥底で何かが弾けるような感覚が奔った。

 

 

「…行くぞ」

 

 

アレックスは機体をフリーダムに向ける。もう、迷いは消えた。揺るぎはない。

 

 

「…来る」

 

 

何があったのかは知らないが、キラはまた戦いが再開することを悟る。

その予想通り、ブレイヴァーが動きを見せる。

 

胸部の砲口からオメガを放つ。それと同時に、ブレイヴァーはハルバートの連結を解き、両手にサーベルを握って向かってくる。

キラも、ビームシールドを展開しながらサーベルを構え、ブレイヴァーへと向かっていく。

 

ブレイヴァーはサーベルを振り下ろし、フリーダムはビームシールドを掲げてブレイヴァーの斬撃を防ぐ。

さらにブレイヴァーはもう一方のサーベルを振り下ろすと、フリーダムもサーベルを振り上げて迎え撃つ。

 

両者が力を込めて互いを押しあうと、二機は同時に弾かれるように離れる。

それでも、二機は怯まずに互いへと向かっていく。

 

 

「アスラン…」

 

 

もう、手遅れなのだろうか。

このまま、どちらかが死ぬまで戦い続けなくてはならないのだろうか。

 

キラは、自分の中の奥でSEEDを解放させる。

 

フリーダムの動きが一気に鋭くなる。

キラは、スラスターに戻していたドラグーンを再び切り離す。

 

切り離されたドラグーンはブレイヴァーを包囲しようと高速で移動する。

キラはドラグーンのビームを連発させる。

 

アレックスは機体を制動させると、スラスターを横に噴かせ移動する。

ドラグーンから放たれたビームはブレイヴァーのすぐ隣だけを通り過ぎていく。

 

 

「僕は…」

 

 

キラはもう一度考える。

本当に、自分の選択が間違っていないのか。

 

アスランを連れ戻すことが、本当に正しい事なのか。

もし、そのために別の命が失われるようなら本末転倒なのだ。

 

ここで、彼を殺すことの方が、誰かのためになるのではないか。

 

 

(…カガリ)

 

 

キラの中に、今もオーブで待っている姉弟の姿が思い浮かぶ。

アスランが生きていることも知らず、ただ自分たちの帰りを待っているだけの姉。

 

 

「カガリ…」

 

 

違う。諦めてはだめだ。

必ずアスランは連れ戻す。皆のために。カガリのために。

 

 

「もう諦めないよ。僕も、迷わない」

 

 

キラはドラグーンを自分のまわりに配置する。

二丁のライフル、クスィフィアスレール砲を展開し、計十五門の砲撃をブレイヴァーに向けて放つ。

 

フリーダムによるフルバーストを、ブレイヴァーは翻してかわすと両腰のレールガンを展開し、フリーダムに向けて放つ。

レールガンは実体弾、ビームシールドでは防ぐことは出来ない。

 

キラはシールドを取り出してレールガンを防ぐ。

後方に機体が流れるが、その勢いのままブレイヴァーと距離を取って体勢を立て直す。

 

 

「フリーダム…!」

 

 

どれだけ攻撃を加えても、この機体は落ちない。

何度も何度も、この機体は自分の思惑から外れた行動をする。

 

 

「決着をつけてやる!」

 

 

アレックスは機体をフリーダムに向かわせる。

そしてキラも、機体をブレイヴァーに向かわせる。

 

この戦いの決着は近いかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

月での戦闘は少しずつだが、確かに激しさを増しつつあった。

オーブ、ザフトの陣営に圧されつつあった地球軍だったが、ザフトがオーブへ攻撃を仕掛けはじめたことにより地球軍にも攻めに転じる余裕ができた。

 

完全に三者の力は拮抗し、激しくぶつかり合っていた。

 

 

「嬢ちゃん!こっちに来い!」

 

 

「はい!」

 

 

モビルスーツの集団と戦闘していたシエルは、ネオに呼びかけられ一度機体をアカツキの元に寄らせる。

ネオは、アカツキのドラグーンを切り離し、そしてアカツキとヴァルキリーのまわりにフィールドを張る。

張られたフィールドは、八方から降りかかるビームを、砲撃を防いで消える。

 

 

「くそっ!わかっちゃいるが、坊主がいなくなった穴は相当でかいな!」

 

 

ネオは一人ごちる。

 

ネオとシエルは、セラにエターナルの方に援護に行けと告げ、セラもその言葉通りにエターナルへと向かったのだが、その結果、ネオとシエルは集中砲火を受け、レクイエムへと進むことすら難しい状態にあった。

 

セラがいれば、とこれまで何度思ったことだろう。

 

 

「だけど!私たちで何とかしなきゃ!」

 

 

セラがいないこの状況が苦しいことは百も承知だ。

こうなることが分かった上で、セラを送り出したのだから。

 

だから、ここで自分たちがへこたれるわけにはいかないのだ。

セラにこれ以上負担をかけさせるわけにはいかないのだ。

 

 

「私たちが、落ちるわけにはいかない!」

 

 

シエルはビーム砲を手に取り、胸部の砲口、カリドゥスと共に二本の砲撃を放つ。

巨大な砲撃をかわすために、モビルスーツ群は散り散りに移動することでかわす。

 

 

(隊列が崩れた!)

 

 

「ネオさん!」

 

 

「あぁ!」

 

 

アカツキが、切り離していたドラグーンをモビルスーツ群に向かわせる。

ネオはビームを照射させ、多数のモビルスーツの武装を貫き落としていく。

 

シエルも、ライフルを構えてモビルスーツのメインカメラを撃ち落としていく。

 

 

「「っ!」」

 

 

シエルとネオは、咄嗟に機体を横にずらした。

先程いた場所を、太い光条が横切っていく。

 

シエルとネオが目を向けると、そこにはこちらに、いやアークエンジェルに向かっていく巨大な戦艦の姿。

 

 

「ガーティ・ルー…!」

 

 

ネオにとっては馴染み深いフォルム。

戦争が始まる前、アーモリーワンを襲った時、ネオはあの艦に乗っていた。

 

確かにあの艦ならアークエンジェルと十二分に戦うことができる。

それは、ネオが誰よりも知っている。

 

 

「くそっ!」

 

 

アークエンジェルに援護に行きたいが、ガーティ・ルーから次々とモビルスーツ、モビルアーマーが発進してくる。

ウィンダムが、ザムザザーがアカツキとヴァルキリーに襲い掛かる。

 

ネオは機体をヴァルキリーに寄せ、再び二機のまわりにフィールドを作り出す。

ガーティ・ルーが、ウィンダムとザムザザーが撃ち出したビームはフィールドに衝突し霧散する。

 

 

「嬢ちゃん、行くぞ!」

 

 

「ハイ!」

 

 

ネオとシエルが、同時にモビルスーツ、モビルアーマー群に向けて飛び出していく。

眼前の敵集団も、アカツキとヴァルキリーに照準を合わせ始める。

 

そして一方のアークエンジェルでも、迫ってきているガーティ・ルーに全砲門の照準を合わせ始めていた。

 

 

「艦長!敵艦、来ます!」

 

 

「わかってるわ!下げ舵十五、ゴットフリート照準、ガーティ・ルー!」

 

 

マリューは命じながら、ここまでずっと自分たちのまわりのモビルスーツを撃退し続けてきたアカツキとヴァルキリーのことを思っていた。

ここまでアークエンジェルが簡単に進めてきたのは全て、二人のおかげなのだ。

 

ここでこの艦を落とすわけにはいかない。

彼らを、死なせるわけにはいかない。

 

 

「いい!?辛いだろうけど、正念場よ!」

 

 

マリューはクルーたちに喝を入れる。

マリューの声に応え、クルーたちも大きく頷く。

 

それを見届けると、マリューはただ前を見据えて口を開いた。

 

 

「ゴットフリート、てぇっ!」

 

 

アークエンジェルもガーティ・ルーも、地球軍が作り出したもの。

当然、武装も似通っている。ゴットフリートは、二艦が同時に撃ち出した。

 

放った砲撃は、それぞれの装甲を掠めていく。

 

 

「くぅっ!」

 

 

艦の振動に歯を食い縛って耐えるマリュー。

だが、目は閉じない。ずっと前を見据え、敵から目は離さない。

 

 

「っ、あれは…!」

 

 

アークエンジェルとガーティ・ルーが激しく戦闘を繰り広げている中、ネオはガーティ・ルーのある部分を見て目を見開いた。

それは、ネオが乗っていた時には搭載されていなかったもの。

だが、アークエンジェルには搭載されているもの。

 

巨大な力を持つ、巨大な武装。

 

 

「まずい!嬢ちゃん、しばらく頼む!」

 

 

「え!?ネオさん!」

 

 

 

 

アークエンジェルとガーティ・ルーは、すれ違いながら砲撃を撃ち合い、かわし続ける。

 

 

「バリアント、てぇっ!」

 

 

マリューが命じるとともに、巨大なレール砲が放たれる。

だが、ガーティ・ルーは砲撃をかわすと、ある一部分が開き始めた。

 

 

「あれは…!?」

 

 

マリューは目を見開いてその部分を見つめる。

 

扉が開き、その中から巨大な砲塔が姿を現す。

それは、マリューも見慣れたもの。アークエンジェルにも、あるもの。

 

 

「ローエングリン…!?」

 

 

「敵艦、陽電子砲発射体勢!」

 

 

マリューがそれが何なのかを悟るのと、チャンドラが声を上げたのは同時だった。

 

 

「かいh…!」

 

 

マリューは迷わず回避を選択するが、ガーティ・ルーからの射線上にはヴァルキリーが戦闘していた。

当然、アークエンジェルが回避をすればヴァルキリーが飲み込まれてしまう。

 

 

「くっ!」

 

 

ただそこにいるだけならば、シエルは砲撃をかわすことができるだろう。

だが、大量にモビルスーツに囲まれているこの状況ではそれは不可能だ。

 

こんな時に、彼はどこに行っているのだろうか。

アカツキの姿は、ヴァルキリーの傍にはなかった。

 

 

「しまっ…!」

 

 

ゴットフリートで何とか反撃するしかない。

そう思った時には遅かった。ガーティ・ルーの砲塔は光が迸り、発射準備が完了している。

 

もう、何をしようにも遅い。

ガーティ・ルーが、ローエングリンを発射した。

 

 

「っ…」

 

 

重なる、あの時と。

ヤキン・ドゥーエでの、ドミニオンとの戦闘の最後と。

 

あの時も、ドミニオンがローエングリンを発射し、回避が間に合わないタイミングだった。

その瞬間、彼が現れた。身を挺して、守ってくれた。

 

だがその彼はもういない。ここに現れることはないし、現れてほしくもない。

あんな思いをするのはもう嫌だから。

 

マリューはただその時を待つ。

心の中で、こんな所に置き去りにしてしまうことになる戦士たちに、自分のせいで巻き添えをくうことになったクルーたちの謝罪する。

 

遂に、視界一杯に砲撃の光が包む。

 

このまま砲撃が艦橋を貫こうとしたその時。

 

 

「…っ!?」

 

 

マリューの目の前に、アークエンジェルの前に、黄金の影が立ちはだかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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