機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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少し文字数が少ないです


PHASE62 少女の叫び

皆は覚えているだろうか?このユニウス戦役序盤に行われた地球軍による、プラントに対しての核攻撃のことを。

ザフト側は、スタンピーダーという兵器によって地球軍の核攻撃を防ぎ切ることに成功した。

 

その後、地球軍は核攻撃を仕掛けることはなかった。

だからだろう。ザフト全体は、地球軍の核攻撃という事項は頭の中から消し去っていた。

 

 

「これは…」

 

 

メサイアのオペレーターが、ある地点の熱量の異様さを目にする。

 

やけに、敵機を示す光点が密集しているのだ。

さらにその光点の集団を攻撃する味方機の数が恐ろしい勢いで減っていく。

 

 

「第十小隊!その場所から十時の地点に敵モビルアーマー集団と見られる反応が見られる。すぐにそちらに出向き、状況を説明してくれ!」

 

 

ただ、勘に従っての行動だった。

 

 

「どうした?」

 

 

後方から、デュランダル議長が様子を問いかける声が聞こえてくる。

オペレーターは振り返って何か答えようとするのだが、何を言えばいいのかわからずどもってしまう。

 

 

「い、いえ…。その…」

 

 

勘が働いたから、一小隊を動かしたと言えば、議長は何と返してくるだろう。

怒鳴ってくるだろうか。そうか、と冷静に返してくるだろうか。

 

高確率で前者だろう。ただのオペレーターが独断で、それも不確定要素のために小隊を動かすなど言語道断だ。

だが、確かに嫌な予感がしたのだ。何か、この後にとてつもない悲劇が起こるような…、そんな予感が。

 

 

「答えてくれたまえ。君が何を感じ、どんな理由で小隊を動かしたのかを」

 

 

デュランダルが真剣な目つきで見つめてくる。

そう言われては、答えないわけにはいかない。オペレーターは、口を開いて答えようとした。

 

 

『司令部!メサイアから距離二千の場所にモビルアーマー隊を発見!』

 

 

その時、先程オペレーターが動かした小隊員の一人からの報告の声が響いた。

オペレーターも、デュランダルもその声に耳を傾ける。

 

 

『すぐに対策を!モビルアーマーの数は約五十!その全てが核ミサイルを所有している模様!』

 

 

「なっ!?」

 

 

「核だと!?」

 

 

上がった報告に驚愕の感情を隠すことができない。

奴らは、プラントではなくこのメサイアに核を撃ちこもうとしているのだろうか。

 

しかしおかしい。たとえ核が危険だとはいえ、ザフト兵ならばメサイアにたどり着く前に核を所有しているモビルアーマーを撃墜させることができるはずだ。

何故、報告する兵はここまで焦りをにじませているのだろうか。

 

 

「何をしているのだ!すぐに奴らを討ち落せ!」

 

 

その考えに至った、デュランダルの傍らにいる秘書官が声を荒げて命じる。

だが返ってきた答えは予想外のものだった。

 

 

『すでに試みています!ですが、地球軍の新型機一機により…』

 

 

言い切る前に言葉は途切れ、代わりに流れてくるのはノイズの雑音。

 

ずっと報告に耳を傾けていたオペレーターが、手元の計器の画面を見て驚愕する。

 

 

「第十小隊…、全滅…」

 

 

「何だとぉ!?」

 

 

オペレーターがモビルアーマー隊の様子を見てくるように命じたのは約五分ほど前。

その五分の間に、一小隊が全滅したというのか。

 

 

「スタンピーダーを用意しろ!すぐにだ!」

 

 

珍しく、デュランダルが声を荒げる。

その事に驚いた秘書官が目を見開いて一瞬固まってしまうが、すぐに我を取り戻し、命令を復唱する。

 

 

「す、スタンピーダーを!早く!」

 

 

「は、はっ!メサイアにいる技術員すべてに告ぐ!今すぐにスタンピーダーを起動せよ!今すぐにだ!」

 

 

デュランダルは心の奥底で安心していた。

念のために修復していたスタンピーダーがこんな形で役に立つとは思っていなかった。

 

予定の中での最終決戦では、オーブとの一騎打ちを思い浮かべていたのだから。

想像以上の地球軍の踏ん張りが、ここまで計画から逸脱させてしまうとは。

 

この核攻撃でこちらを仕留めようという算段だろうが、残念だ。

やはり天はこちらに味方しているということだ。

 

デュランダルの眼前にある大画面に映し出される、核ミサイルを搭載しているモビルアーマー隊。

モビルアーマーを仕留めようと多数のグフやザクを撃ち落としていく一機のモビルスーツ。

 

 

(まだ地球軍は新型を開発していたというのか…)

 

 

心の中でつぶやくデュランダル。

 

さらに、その新型機の奮闘に気づいた地球軍のモビルスーツやモビルアーマーが集結し、モビルアーマー隊の壁となる。

これではこちらにたどり着く前に迎撃というのは不可能だろう。

 

だがこちらにはスタンピーダーがある。防御は万全だ。

 

 

(さぁ、これで詰みだよ)

 

 

勝ち誇るデュランダル。大画面の中で、ついにモビルアーマーが核ミサイルを次々に発射し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

メサイア付近での攻防は、オーブ側が不利な状況で進んでいた。

 

それを悟りながら、キラとトールはザフトの新型機三機に足を止められ他の兵たちの援護に行けない状況にあった。

 

 

「キラ!」

 

 

「くっ!?」

 

 

トールの呼びかけで、キラは背後からレジェンドが斬りかかってきていることを悟る。

キラは素早く振り返り、その手に持つサーベルで迎え撃つ。

 

一度斬り結び、レジェンドが後退していくと思うと、横合いから赤い光がキラの視界に現れる。

あれが命中したらまずい、とキラは咄嗟に機体を翻す。

 

キラの眼前を横切っていくのは巨大な砲撃。

見ると、ブレイヴァーがこちらに向かってきている。

どうやら先程の砲撃はブレイヴァーが放ったオメガのようだ。

 

少し考えればわかることなのだが、それを理解する余裕すら今のキラにはなかった。

すぐにサーベルを振るい、ハルバートで斬りかかってくるブレイヴァーを迎え撃つ。

 

 

「キラっ!くそ、こいつらキラばかり狙いやがって!」

 

 

トールの言う通り、ディーヴァ以外の二機は執拗にフリーダムばかりを狙っている。

それがわかっているのに。援護に行きたいのに。

 

 

「この…!邪魔するなっ!」

 

 

トールは右足のビームブレードを展開し、振るう。

だがディーヴァは後退して斬撃をかわし、ライフルをこちらに向けて撃ってくる。

 

トールは機体を横にずらしてビームをかわす。

 

キラの援護に行きたいのだが、ディーヴァが立ちはだかりそれを実行できずにいる。

 

 

「二人の邪魔はさせませんよ」

 

 

一方、ディーヴァを駆るミーアも、トールの思惑はわかっていた。

フリーダムの援護には行かせない。

 

 

「あなたたち二人が、この戦闘の肝になることはわかっています」

 

 

この二機さえ落とせば、間違いなくこちら側に来ているオーブ陣営は総崩れになるだろうし、月に行っているオーブ陣営にも動揺は与えられる。

そして

 

 

「あなたたち二人が、あの艦を…、守っていることもわかっているわ!」

 

 

ミーアは、ジャスティスのさらに後方。モビルスーツに囲まれながらも奮闘しているエターナルを睨みつける。

あの艦には、彼女が…、あの歌姫、ラクス・クラインが乗っているはずだ。

 

彼女が消えれば…、本物は自分一人になる。

二人もいらない。救いの歌姫は二人もいらないのだ。

 

 

「私が、本当の歌姫になるのよ!」

 

 

「何を!」

 

 

トールは、その言葉で目の前の機体に乗っているのはザフトのラクス・クラインだと悟る。

確か、シエルの話ではミーア・キャンベルという名前が本名だっただろうか。

 

 

「そんなことしたって無駄だろうが!」

 

 

トールは怒鳴りながら、サーベルを連結させたハルバートで斬りかかっていく。

 

 

「人は、他の何人にだってなれない!」

 

 

トールの斬撃を、ディーヴァは対艦刀で迎え撃つ。

 

 

「たとえお前がラクスさんを殺したって、結局お前がミーア・キャンベルだっていうことは変わらないんだよ!」

 

 

「黙れ!」

 

 

トールの言葉を遮る。ミーアは一旦ジャスティスから距離を取ると、胸部の砲口からオメガを放つ。

ジャスティスはいとも容易くオメガをかわすが、その回避した直後の硬直時間を狙ってミーアは対艦刀から持ち替えたサーベルで斬りかかっていく。

 

 

「私はミーアじゃない!」

 

 

思いを剣に込めて、目の前の敵にぶつける。

 

ジャスティスは腕のビームシールドを展開してディーヴァの斬撃を防ぐと、すぐにハルバートを一文字に振るって反撃する。

だがミーアは機体を後方にずらしてジャスティスの斬撃を回避する。

 

 

「私はラクスなの!」

 

 

自分はミーア・キャンベルではない。ラクス・クラインなのだ。

 

 

「皆がそう認めてくれてるんだから!」

 

 

ミーアは対艦刀を手に再びジャスティスに斬りかかる。

ジャスティスも、手に持つハルバートで迎え撃ってくる。

 

 

「お前は、誰かが認めてくれなきゃ存在しちゃいけないのかよ!」

 

 

「っ!」

 

 

ミーアの叫びに、トールも叫び返す。

トールが振るうハルバートとディーヴァが振るう対艦刀がぶつかり合い、拮抗する。

 

 

「お前は、自分を自分として見てくれていなくても!それでいいのかよ!」

 

 

ミーアがしてもらいたいことは、自分がラクスとなること。

自分がラクスとして、他者に認めてもらいたいのだ。

 

だが、それは自分が自分でなくなるということと等しい。

 

 

「お前は、自分を捨てるっていうのかよ!」

 

 

自分を捨てることなどできやしない。

たとえ自分がそう思い込んでいたとしても、結局自分という存在はどこまでもついてくるのだ。

 

どこかで必ず、どんなに自分が醜くともそれを受け入れなければならない時が来るのだ。

その時を、どれだけ先延ばしにしようとも。

 

 

「捨てるわよ!それで私がラクスになれるなら!世界を正しい方向に導くことができるなら!」

 

 

ミーアはそう言い切った。自分を捨ててやると。

 

もし、セラがこの言葉を聞いていたらどれだけ怒り狂ったことだろう。

彼は、自分になることすらできずひたすら苦しんできた男のことを知っているのだから。

その男を殺してしまったことを、今でも悔いているのだから。

 

トールとて、心に怒りを抱いている。

だから、セラに代わって目の前の少女に叫ぶ。

 

 

「ふざけるな!お前が平気で捨てようとしている自分にすらなれずに苦しんでいる人だっていたのに…!」

 

 

セラだったらこう言うだろう。

 

 

「自分を持っているお前が、平気で大切な自分を捨ててるんじゃねぇ!」

 

 

トールはシャイニングエッジビームブーメランを抜き、ディーヴァに向けて投げつける。

放られたビームブーメランを、ディーヴァはかわす。さらに、ブーメランは旋回しながら戻ってくる。

 

戻ってきたブーメランもかわしたディーヴァに向けてトールは機体を突っ込ませる。

そして戻ってきたブーメランをキャッチし、ビームソードとしてビームを出力させながらディーヴァに斬りかかっていく。

 

 

「くっ!」

 

 

まさか、このブーメランにこんな使い方があったとは。

ミーアはビームシールドを展開してかろうじてビームソードによる斬撃を抑えるが、衝撃により体勢が大きく崩れてしまう。

 

機体を制御しながら、追撃を仕掛けてくるジャスティスを見つめる。

ジャスティスはそのままビームソードを手に突っ込んでくる。

 

ミーアは、ノーモーションで放てる唯一の攻撃、胸部の砲口からオメガを二発放つ。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

トールは、放たれた二発の砲撃をかわすが、その間にディーヴァが離脱しているのを見て舌打ちをする。

 

このオメガは、掠めるだけでもはっきり言って一大事だ。

だからしっかりとかわさなければならないのだが、時間を向こうに与えてしまったことが悔やまれる。

 

 

「どうして…」

 

 

「は?」

 

 

不意に、ミーアが小さくつぶやいた。

トールは思わず聞き返してしまう。

 

それが、ミーアの心を燃え上がらせた。

 

 

「どうしてあなたは!あたしの邪魔をするのよ!別にいいじゃない!皆のために頑張ろうとするのが、どうして悪いのよ!」

 

 

「お前…」

 

 

その時、トールは初めて悟った。

 

目の前の彼女は、ただラクスになりたいだけでこんなことをしているのではないのだと。

そして、言葉の裏に何かがあるのだと。

 

 

「ミーアじゃダメなの!ミーアじゃ何にも役に立たない!だからあたしはラクスになる!ラクスが良いの!」

 

 

自分へのコンプレックスが相当大きいのだろう。

その叫びにどれだけの気持ちが込められているのか、本人にしかわからない。

 

 

「あの人は何もしてこなかったじゃない!頑張ったのはあたしなの!このあたし!」

 

 

「っ…」

 

 

何も、言い返すことができない。

彼女の言う通り、ラクスは何もしてこなかった。できなかった。

 

デュランダルに命を狙われ、思うように行動ができずにいたのだ。

たとえどれだけ、世界中の人たちに言葉を聞かせたくても、それができずにいた。

 

 

「それが、どうしてこんなことになるのよぉ!!」

 

 

最早半狂乱と言っていいかもしれない。

ジャスティスに突っ込んでいく。

 

 

「くっ…!」

 

 

トールは突っ込んでくるディーヴァにライフルでビームを撃つ。

だがディーヴァはトールが撃ったビームを全てかわして対艦刀で斬りかかってくる。

 

ハルバートでディーヴァの斬撃を迎え撃つが、ディーヴァは怯まずにひたすらに対艦刀を振るってジャスティスを追い詰める。

 

 

「こんな無茶苦茶な動きで…!」

 

 

ディーヴァの斬撃は容易く避けることは出来る。

避けることは出来るのだが、反撃を入れる前に次の行動に入るため、避けることしかできなくなってしまう。

 

トールはまだジャスティスに搭乗しての戦闘経験が少なすぎるのだ。

これが、リベルタスに乗ったセラ、フリーダムに乗ったキラ、ヴァルキリーに乗ったシエルならばまだ対応ができるものの、経験が少ないトールでは対応するための動きをジャスティスから引き出すことができないのだ。

 

 

「トール!」

 

 

苦戦しているトールに気づいたキラが、トールの元へと機体を行かせようとする。

 

 

「行かせるか!」

 

 

フリーダムがジャスティスの元へ援護に行こうとしているのを見たレイが、ドラグーンでフリーダムの進行を妨害させる。

さらに直後、アレックスがハルバートでフリーダムに斬りかかる。

 

 

「くっ!」

 

 

キラはすぐに機体を後退させてブレイヴァーの斬撃をかわすが、ジャスティスから離されてしまう。

このままでは、フリーダムとジャスティスがこの二人の思うように分断されてしまう。

 

戦力が分散されてしまえば不利なのはこちらなのだ。

この三機を倒すためにはフリーダム、ジャスティスの連携が必須だというのにそれが思うようにできない。

 

 

「このままじゃ…!」

 

 

キラは、スラスターの翼端からドラグーンを切り離しブレイヴァーに向かわせる。

ドラグーンのビームをブレイヴァーがかわしている間にキラはライフルをレジェンドに向ける。

 

レジェンドのドラグーンから放たれるビームをかわしながら、レジェンドを狙ってビームを撃つが簡単にかわされてしまう。

 

二機の猛攻にさらされ、キラは避けるので手一杯となり、反撃しようにも簡単なものにならざるを得なくなる。

 

 

「やられる…!」

 

 

このまま戦い続けていれば、負けるのはこちらだ。

 

何とかきっかけをつかみたい。

そのためにも、今は耐えるしかないとキラが思ったその時だった。

 

 

「なっ!?…くっ」

 

 

レジェンドが、急に離脱を始めた。

 

 

「え…?」

 

 

目を見開き、レジェンドの動きを目で追うキラだがすぐにブレイヴァーが割って入ってくる。

 

 

「お前の相手は俺だ。よそ見している暇はない」

 

 

「くっ!」

 

 

何にしろ、厄介な相手が減ったことは間違いない。

残った一機に集中しようとしたキラの耳に、苦戦しているトールの耳に衝撃の言葉が届けられるのだった。

 

 

『キラ、トール!まずいぞ!地球軍の奴ら、メサイアに核を撃ちこもうとしている!』

 

 

「えっ!?」

 

 

あの悲劇が、繰り返されるというのだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…このまま守り切ることができそうだな」

 

 

核攻撃隊、ピースメーカー隊は射程距離内まであともう少しのところまで来ていた。

襲い掛かってくるザクやグフを全砲門を開いて撃ち落としていきながら、ウォーレンはそろそろいいか、と考えていた。

 

 

「よし、発射しろ!発射後は、すぐに離脱するんだ!」

 

 

ウォーレンが命じた直後、大量のモビルアーマーからミサイルが発射される。

発射されたミサイルは、まっすぐにメサイア目掛けて突き進んでいく。

 

放たれたミサイルを見て、ザクやグフが、迎撃せんと銃をミサイルに向けて引き金を引こうとする。

 

 

「させるわけがないだろ」

 

 

だが、ウォーレンがそれをさせるはずがない。

シュラークを向け、二本の砲塔から砲撃を放つ。

 

ザクやグフがビームを放つその前に、自分の砲撃を命中させて彼らがミサイルを迎撃するのを防ぐ。

 

そう、こいつらに迎撃させてはダメなのだ。

このミサイルの迎撃は、奴にさせなければ意味がない。

 

 

「お前らはご退場願おうか」

 

 

ウォーレンは唇を歪ませながら、シュラークと共にスキュラの砲撃をザクやグフに撃ちこんでいく。

 

このまま、雑魚を落としながら奴がどう出るかを見ていようか。

そう考えていたその時、ウォーレンの耳に底冷えするような低く、それでいて可憐な声が響いた。

 

 

「退場するのは、あなたの方です」

 

 

「っ!?」

 

 

声が聞こえた直後、ウォーレンは周りを見渡す。

いつの間に包囲されていたのだろう。ドラグーンが火を噴こうと光を迸らせていた。

 

すぐに機体を横にずらし、かろうじてビームを回避することに成功する。

 

ウォーレンは回避した直後、ライフルをある方向に向ける。

その方向には、こちらを見据える存在があった。

 

 

「はっ、可愛いお嬢ちゃんが俺の邪魔をするっていうのか?」

 

 

「邪魔をするのではありません。もう一度言います。あなたをここから退場させてあげます」

 

 

ウォーレンは思わず笑みを浮かべてしまう。

なるほど。確かに邪魔をするどころではないな。

 

 

「俺という存在を消してやろうということか…」

 

 

「その通りです。よくわかりましたね、褒めてあげます」

 

 

少女の言い草に、くくっと笑いを零してしまう。

 

 

「面白い…。だが、俺を気にしている場合なのかな?」

 

 

「何が言いたいのです?」

 

 

「今発射したもの…。わからないわけではないだろ?」

 

 

彼女がオーブ陣営のものではないのはわかっているし、地球軍でこんな機体が作られてないなど知らない。

ならば彼女は当然ザフト軍ということになる。

 

そして、ザフトならば今発射されたものを放っておけるはずはない。

 

 

「なるほど、確かにあれは危険ですが…。私たちを舐めないでください」

 

 

彼女、クレアが言った直後、先程発進したナスカ級の砲塔から光が迸った。

 

迸った光が、発射されたミサイルを貫いていく。

発射されたミサイル全てが爆散し、赤い光が花火の様に広がっていく。

 

 

「無駄ですよ。あなたたちが何を仕掛けて来ても」

 

 

「…なるほど。スタンピーダーか」

 

 

挑発するようにウォーレンに声をかけたクレアだが、まるでクレアの声が聞こえていないように何かをつぶやいているのを怪訝な表情で聞き取る。

 

 

(…この男、まさか)

 

 

「まだあの兵器が使えるとは思わなかった。それとも修復していたか…、もう一機作っていたのか?だが…、もう、使えそうにはないな」

 

 

「あなた…、やはり!」

 

 

ウォーレンはわかっていたのだ。

核攻撃を、ザフトは必ず防ぎ切るだろうとわかっていたのだ。

わかっていた上で、核攻撃を仕掛けたというのか。

 

 

(違う…。何…、この男は何を考えているの?)

 

 

どうして無駄になるとわかっているのに核攻撃を仕掛けたのだ。

一体、この男は何をしようとしているのか。

 

 

「…あなたは必ず、ここで退場してもらいます。あなたは…、危険すぎる」

 

 

クレアは悟る。

目の前の敵は、放っておくのは危険すぎる、と。

今ここで倒しておかなければ、何をしでかすかわからない。

 

 

「はっ…。やってみろよ…」

 

 

互いが睨み合う。

しばらくそうしてじっとしていたが、不意に動き出す。

 

二機は同時に、飛び出した。

アナトは対艦刀を、ウルトルはサーベルを手に切り結ぶ。

 

 

「なるほど。少しはやるようだな…」

 

 

僅かな間だが、こうして戦ってみてわかる。

目の前の相手は、強い。

 

少し侮っていた分もあるウォーレンは、気を引き締め直す。

サーベルで再び斬りかかっていきながら、胸部の砲口からスキュラを放つ。

 

アナトは機体を横にずらして砲撃をかわす。そして突っ込んでくるウルトルにドラグーンを切り離して向かわせる。

 

クレアはドラグーンを照射させるが、ウルトルに当たらない。

ビームをかわしながらなおもこちらに向かってくるウルトルに対し、クレアは対艦刀を構えて迎え撃つ。

 

再び互いの剣がぶつかり合う。

 

二機の交錯はさらに激しく、加速していくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何だって!?メサイアに戦力が集まってる!?」

 

 

『少なくとも、手薄とは言えないほどの戦力が集結しているわ!』

 

 

マリューからの報告に驚愕するセラ。

予定とは違い、メサイアには多くの戦力が集められていたのだ。

 

その結果、今エターナルとクサナギは窮地に陥っているという。

キラとトールも、新型機に囲まれ苦戦を強いられているらしい。

 

 

『バルトフェルド隊長から、少しだけでいいから戦力を送ってくれないかと頼まれたのだけれど…』

 

 

はっきりいって難しい。

メサイアの方よりはいくらか楽な状況ではあるが、それでもいっぱいいっぱいなのはこちらも同じなのだ。

 

そんな状態で戦力を送れと言われてもどだい無理な話だ。

 

 

「くそっ!次から次へと!」

 

 

こうして話をしている間にも、地球軍機、ザフト機が襲い掛かってくる。

 

どれだけ機体を斬っても撃っても減る気配がまったくしない。

 

 

『え!?何ですって!』

 

 

「今度はどうしたのですか!?」

 

 

マリューの驚いた大声が聞こえる。

セラが問いかけると、マリューは衝撃の一言を口にした。

 

 

『地球軍が、核をメサイアに向けて放ったようよ!ザフトが全て撃ち落としたようだけれど…』

 

 

「なっ…」

 

 

核…だと…。

 

また、奴らは核を使ったというのか。

こんな大量兵器だけで飽き足らず、まだこんなものを残していたのか。

 

まずい。何故かわからないが、嫌な予感がする。

どうしても、メサイアの状況が知りたい。しかし、ここから抜け出すわけにもいかない。

だからといって、向こうの危機的状況を何とかしなければこちらにだって危険が及ぶ。

 

どうすればいい…?

 

 

『セラ、行って!』

 

 

「シエル?」

 

 

シエルの声が聞こえた直後、セラのまわりの敵が同時にどこかの部位を損傷する。

 

 

『ここは俺たち二人に任せな!なぁに、お前のお姫様は俺が守り抜いてやるさ!』

 

 

「む…、ネオさん」

 

 

シエルの言う通り、メサイアの方に行くか。だがシエルのことが気にかかり、どうしようか悩んでいたところにネオが声をかけてくる。

 

シエルとネオならば、そう簡単にやられたりはしないだろう。

このままシエルを置いていくのも気が引けるが、危機の中にいる家族や友を見捨てることだってできない。

 

 

「…頼む」

 

 

『うん、任せて!』

 

 

『あぁ!早く行け!』

 

 

セラは機体をメサイアの方へと向け、スラスターを吹かせる。

 

ちらりとヴァルキリーを見遣って、すぐに前を見据える。

自分の進行を止めようと集まる地球軍機にザフト機。

 

セラはスラスターからドラグーンを分離させて飛ばす。

ドラグーンを四方八方の場所まで飛ばし、そして同時にビームを照射させる。

 

武装とメインカメラを撃ち落とし、機体の動きを止めるとその脇を通り抜けていく。

 

 

(兄さん、ラクス姉さん、トール)

 

 

集団を通り抜けていったと思うと、再び別のモビルスーツ群が立ちはだかる。

 

 

「行かせない気か…?」

 

 

自分がどこに行こうとしているかはわかっていないだろうが、それでも自分を落とそうと立ちはだかってきているのはわかる。

セラはドラグーンを動かしながら、腰のサーベルを抜いて目の前の集団に向けて斬りかかっていく。

 

 

「そこを、どけ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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