機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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お久しぶりです!
返ってきたのは昨日なのですが、投稿は今日になってしまいました…。


PHASE58 秘めた思い

八枚の翼を広げ、サーベルを握り、フリーダムはブレイヴァーへと斬りかかっていく。

ブレイヴァーはハルバートを振い、フリーダムの斬撃に対して迎え撃つ。

 

 

「こいつっ…」

 

 

アレックスは歯を噛み締めながら目の前の機体を睨みつける。

先程からフリーダムから発せられる空気が変わったのだ。

どこか甘さが感じられるものから、歴戦の戦士特有…、いや、それ以上の殺気へと;

 

油断はできない。ただでさえわずかにでも気の抜けない相手が本気で自分を落としにかかってくるのだ。

アレックスはもう一方のサーベルを抜き放ったフリーダムの斬撃をかわして距離を取る。

すぐに胸部の砲口に火を噴かせ、オメガを放つ。

 

フリーダムはその場から動かずに腕のビームシールドを展開して砲撃を防ぐと、その場で爆発が起こる。

爆風によって二機は引き離されてしまうが、両者はすぐに体勢を整える。

 

キラは右手のサーベルからライフルに持ち替え、ブレイヴァーに向ける。

同時にドラグーンを切り離し、機体のまわりに浮遊させライフルと同じようにブレイヴァーへと向ける。

 

ライフルとドラグーン、計九門の砲門を同時に開く。

 

さらにそこでキラの行動は終わらない。

引き金を引いた直後、キラは持っていたライフルからサーベルに持ち戻す。

再びブレイヴァーへと斬りかかっていった。

 

 

「はあぁっ!」

 

 

「くっ!」

 

 

アレックスは回避行動をとりながら向かってくるフリーダムを見る。

奴の狙いはすぐに悟ることができた。

 

放った砲撃は囮。本命は砲撃の影から向かってくるフリーダムの斬撃だ。

 

アレックスは機体を横にずらし砲撃をかわすとフリーダムに向かってハルバートで斬りかかる。

 

しかし、一体どんな心境の変化があったのだろう。

フリーダムの太刀筋に迷いがない。

先程まで、自分に攻撃するのをためらっていたように見えたのに。

 

 

「アスラン」

 

 

キラは、剣をぶつけ合う相手を見つめる。

その相手は、かつてと同じように。もう二度とないように願った友との激闘。

一体、あの時からの二年の間で何が起こったのだろうか。

 

 

「でも、僕はもう迷わない」

 

 

キラから、もう迷いは消えていた。

殺すしかないのか、殺したくない。この二つの気持ちの間で揺れていたキラ。

 

こんなこと、一瞬で選択できるではないか。

 

 

「僕は、君を助けるよ」

 

 

脳裏に浮かぶ、あの時の光景。

 

互いが互いを憎み、剣を振い、銃を撃ち合った。

時間が経ち、思い返してみればよくあの時、生きていたものだと苦笑しながら呆れたものだ。

 

 

「アスラン。君も同じだろ?」

 

 

もし、アスランなら自分と同じ気持ちになるはずだ。

 

 

「もう、御免だ」

 

 

キラはブレイヴァーを弾き飛ばす。

そのまま距離を取ろうとするブレイヴァーに向けて、サーベルから持ち替えたライフルを、切り離したドラグーンを再び向ける。

 

 

「あんな風になるのは…」

 

 

引き金を、引く。

 

 

「絶対に嫌だ!」

 

 

もう、後悔はしたくない。

 

キラの決意が込められた砲撃がブレイヴァーに襲い掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━━痛い

 

 

「っ!?」

 

 

それは、はっきりと。今まで以上に大きく頭の中で響き渡った。

セラは目を見開き、動きを止めた。

 

 

━━━━━━嫌だ

 

━━━━━━死にたくない

 

━━━━━━どうして

 

━━━━━━何で俺が

 

 

全身に纏わりつく不快感。否応なしに聞こえてくる悲痛の叫び。

それが、一瞬だがセラの思考を止めてしまった。

 

そして、その一瞬を見逃さない相手とセラは対峙していた。

 

 

「殺った!」

 

 

ディーヴァが動きを止めたリベルタスに襲い掛かる。

リベルタスのコックピットを切り裂こうと、サーベルを一文字に振るう。

 

 

「くっ…!」

 

 

セラは止まった思考を無理やりに動かす。動くことを拒否する体を無理やりに動かす。

機体を捻らせディーヴァの斬撃から逃れようと模索する。

 

このタイミングでドラグーンを使用してもダメだ。相手を倒すことは出来るだろうが、その間に自分まで落とされてしまう。

それはダメだ。相手を倒すだけではダメなのだ。自分も、生き残らなければならない。

 

セラは機体の腕をディーヴァに向けて突き出す。

腕を捻り、サーベルを振るう腕を掴み止めた。

 

 

「なっ!?」

 

 

斬撃を止められたことに驚愕し、目を見開くミーア。

 

何故かはわからないが、動きを止めたリベルタスにサーベルで斬りかかった。

勝ったと確信した。あのタイミングで何をしようと斬れると確信した。

 

だが、結果は凌がれてしまった。さらに、リベルタスは片手だけで斬撃を止めており、もう一方の手にはサーベルが握られている。

 

 

「っ!しまっ…!」

 

 

ミーアがそれに気づいたときには遅かった。

リベルタスのサーベルが煌めく。ミーアはリベルタスの拘束から抜け出し、斬撃を防ごうとするがもう遅い。

 

リベルタスの振るうサーベルが、ディーヴァのメインカメラを斬りおとした。

 

 

「ラクス様!?くそっ、マーズ!ヘルベルト!ラクス様をお助けするよ!」

 

 

「「おう!」」

 

 

リベルタスにやられるディーヴァを見て、三人はいきり立ってリベルタスに襲い掛かる。

 

 

「くっ…!」

 

 

その光景をセラは苦悶の表情で見つめる。

いきなり増した不快感にセラは対応できずにいた。

 

気合で何とかディーヴァに手傷は負わせたものの、こちらは戦闘を続けることすら難しい状態になってしまっている。

 

三機のドムのうち二機はリベルタスに向けてバズーカを放ち、一機はサーベルで斬りかかる。

セラはサーベルを構え、斬りかかってきたドムを受け止めるとドラグーンを切り離し、後方の二機に向けて進ませる。だが

 

 

「どうした?動きが鈍くなってるぜ!」

 

 

マーズが照射されるビームをかわしながら口を開いた。

 

ドム三機のパイロットは確かに優秀だ。並のパイロット以上だ。

それでも飽くまでエース級というだけで、セラにとっては一般のパイロットと言える程度の者なのだ。

そんなパイロットにも見抜かれてしまうほど、今のセラの状態は深刻だった。

 

眉間に冷や汗を流し、苦悶を浮かべていた表情はさらに歪んでいる。

 

 

「こ…のっ!」

 

 

照射したビームはかわされ、セラの斬撃も鈍りを隠せず凌がれてしまう。

リベルタスの斬撃を凌いだヒルダ機は反撃の剣を入れかかる。

 

しかし、いくら動きが鈍っているとはいえセラもそう簡単には落ちやしない。

 

セラは腕のビームシールドを展開し、眼前のドムが振るうサーベルにぶつけて斬撃を防ぐと、もう一方の手に握られているサーベルを振るう。

 

 

「ちぃっ!?」

 

 

サーベルは、ヒルダ機のメインカメラを斬りおとした。

これでヒルダ機の行動はほぼ不可能と考えていい。さらに、残りのドムの二機もそれぞれ左腕、右腕が損傷している。

この空域の戦闘は終わったと判断するセラ。

 

機体を動かし、セラはその場から離れる。

 

リベルタスの後姿を、損傷を受けた四機は睨みつけていた。

 

何もできなかった。希望を与えると決意して戦場に出たというのに、何もできなかった。

負けてしまった。負けることは、許されなかったというのに。

 

 

「リベルタス…!」

 

 

ミーアは目を鋭くし、飛び去るリベルタスを憎々しげに睨む。

 

自分は希望の歌姫なのだ。ラクス・クラインなのだ。

 

 

「よくも…!」

 

 

今回はやられてしまった。だが、次こそは…。

 

 

「倒す…!」

 

 

あれを倒せば、ザフト軍の士気は相当高まるだろう。自分が、あれを倒すのだ。

何としても。

 

その時、ミーアは気がつかなかった。

 

自分は、戦争を止めるために、プラントを止めるために戦っているのだ。

そう思っていたミーア。

 

心の底からそう思っているのか。ミーアはそれに、気がついていなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

デュランダルは、未だ崩すことのできない地球軍の戦線を見つめていた。

 

ネオジェネシスを撃ち、ブレイヴァーとウルティオも送り込んだというのに、地球軍に決定打を打てないでいる。

このままでは、消耗戦となり、数で劣るこちらが不利になってしまう。

 

 

「ウルティオ、シグナルロストです!」

 

 

「なに?」

 

 

表情に出さないことは成功したが、内心では大きく驚愕していた。

ウルティオが相手をしていたのはヴァルキリー、そしてジャスティスだった。

 

ヴァルキリーはともかく、ジャスティスはそう力のない者が搭乗しているはずなのだ。

向こうには、力のあるパイロットは、もういないはずなのだ。

 

ならば、注意すべきはヴァルキリーだけ。

そして、ヴァルキリーだけならばロイ・セルヴェリオスは打ち勝つことができたはず。

 

 

(ラクス・クライン…!)

 

 

どこまでも目障りな存在だ。自分では、推し量ることのできない存在。

それが、どうしてもどこまでも目障りに感じる。

 

彼女のすることなすことが、自分の裏をかいてくる。

 

それだけではない。今となっては、地球軍の行動も自分の予想を反することをしてくるようになってきている。

ロード・ジブリールが自分の素知らぬところで死に、そして宇宙空間に投げ出されていた。

 

 

(…限界、か?)

 

 

このまま戦い続ければ滅ぼされるのはこちらだ。

ならば、ここは退き、次に攻めるときに全てをかけて戦いに臨む。

その方が、良いのではないか?

 

 

「第五小隊、撤退します!」

 

 

「さらに第七モビルスーツ隊も押し込まれています!」

 

 

被害の報告が次々に上がっていく。

 

ディーヴァを送り込み、地球軍の新型三機を退け、これで戦況も変わるのではないかと思ったが、変わった様子は見られない。

 

 

「っ!でぃ、ディーヴァが撤退しています!」

 

 

ディーヴァは確か、リベルタスと戦闘していたはずだ。

 

 

(やはり、彼女では彼に勝つことは出来なかったか)

 

 

ここからどうするか。

デスティニーは地球軍の新型機との戦闘で消耗し、母艦に補給をしに行っている。

カンヘル、インパルスが奮闘しているが地球軍の数を跳ね返すまでには至っていない。

 

 

「議長…、これでは…」

 

 

デュランダルの傍らに立っていた秘書官が耳元で囁く。

秘書官にも、このままでは不利なのはこちらだということはわかっていた。

 

 

 

(…迷っている時間はない…か)

 

 

これ以上の犠牲は出すわけにはいかない。

この状況で、撤退するザフト軍を地球軍が追撃してくるとは思えない。

 

たとえしてきたとしても、自分たちを守ってくれる者がこの場にはいる。

 

 

「一時撤退。信号弾を撃て」

 

 

デュランダルは告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ウルティオを落とし、セラの元へ、キラの元へと向かおうとしたシエルとトールは、視界の端で打ち上げられた光を見た。

 

 

「信号弾…?」

 

 

「撤退か…」

 

 

信号弾が打ち上げられると、戦闘を行っていたザフト軍機が次々に退いていく。

長く続いたこの戦闘は、終わりを見せたのだ。

 

 

「セラは…?」

 

 

「キラもいないぞ…」

 

 

シエルとトールはセラとキラを探す。

リベルタスも、フリーダムも、その姿が見えない。

 

 

「私はこっちを探す」

 

 

「わかった。俺は向こうを探してみるよ」

 

 

そう遠くにはいないはずだ。

シエルとトールはそれぞれの方向に機体を向けた。

 

 

 

 

「…撤退?」

 

 

キラは、荒れる息を抑えながら退いていくザフト軍を眺める。

 

激闘を繰り広げていたフリーダムとブレイヴァーだが、両者に目立った損傷は見られない。

装甲についた汚れは目立つが、失った部位はどこにもない。

 

 

「…」

 

 

アレックスはフリーダムを見つめる。

 

また、仕留めることができなかった。それが、アレックスの心を荒立たせていた。

 

ここまで三度戦い、三度とも勝つことができなかった。

こんなことは許されない。許されるはずがない。

 

 

「次こそは…、貴様を討つ」

 

 

アレックスは苛立つ心を鎮め、機体を退かせる。

 

それを見届けたキラは、辺りを見回して友軍機を探す。

まわりでは退いていくザフト軍機、そしてその逆の方向に退いていく地球軍機の姿。

 

そんなキラのまわりにムラサメが現れる。

 

 

『キラ様!』

 

 

オーブ軍機がフリーダムを守る様にまわりで止まる。

そこに、もう一機、真紅の機体が姿を現す。

 

 

『キラ!』

 

 

「トール?」

 

 

ジャスティスを駆るトールが、キラに呼びかける。

どこか焦りを含んでいるその声に、キラは疑問符を浮かべながら口を開いた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

『どうしたじゃないだろ!こんな所まで行きやがって…、心配したぞ』

 

 

「あぁ…。ごめん」

 

 

トールの言う通り、トール、シエルと一旦分かれた場所からここまでかなり離れている。

ブレイヴァーと戦いながらこんなところまで来ていたことに初めてキラは気づいた。

 

 

『今、シエルがセラを探してる。ったく、兄弟そろってちょろちょろとどっか行きやがる…』

 

 

「はは…」

 

 

トールの冷たさを含んだ言葉に苦笑いするしかないキラ。

 

キラとトールの会話を聞いていたオーブ軍人たちの先程まで張りつめていた緊張感が緩んでいく。

だがその時、緩んだ空気の中に似つかわしくない緊迫した声が響いた。

 

 

『キラ!お願い、こっちに来て!セラが!』

 

 

「『!?』」

 

 

 

 

シエルはトールと分かれ、セラとキラを探していた。

とはいえ、シエルが向かっているのはセラが去っていった方。トールが向かったのはキラが去っていった方。

シエルはセラを、トールはキラを探していると言った方が正しいだろう。

 

 

「あっ」

 

 

その時、ヴァルキリーのレーダーの中にリベルタスの反応を捉えた。

分かれた場所からずいぶんと離れた所にいる。

 

 

「まったく…」

 

 

シエルはため息をつきながらリベルタスへと機体を向かわせる。

いつもいつもセラは自分に、自分たちに心配をかける。

 

いつか、土下座させて謝らせてやろうか、と考えたその時。シエルは違和感を感じた。

 

リベルタスが動きを見せていない。その場から、全く動いていないのだ。

 

おかしい。普通ならば戦闘が終わった今、母艦に撤退するために移動をするはずだ。

だが、リベルタスはその場から動かない。

 

 

「セラ…?」

 

 

一瞬過った不安。シエルは機体のスピードを上げた。

 

 

「セラ?セラ!?」

 

 

リベルタスと通信を繋げ、セラに呼びかける。しかし、セラからの返事が返ってこない。

 

通信コードは間違っていない。リベルタスとの通信は繋がっている。

 

 

「セラ、どうしたの!セラ!?」

 

 

シエルの視界に、リベルタスの姿が見えてくる。

装甲の色は着いたまま、ぐったりとした体勢で、動く様子が見られない。

 

いよいよ、シエルの不安が増幅する。

 

 

「セラ!お願い、返事して!セラっ!!」

 

 

どれだけ声を張り上げてもセラからの返事は返ってこない。

 

シエルはリベルタスの傍らに機体を止め、もう一度セラに呼びかける。

 

 

「セラ!大丈夫!?」

 

 

返事は、返ってこない。

すぐに、シエルは通信をフリーダムに繋げる。どこにいるかはわからないが、キラは生きているはず。

こっちにすぐ来てくれるはずだ。

 

 

「キラ!お願い、こっちに来て!セラが!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「とりあえず、何とか退かせることができたか…」

 

 

ウォーレンが、何処か安心したようにほっ、と息をつく。

 

予定通りだ。ウォーレン自身の予定通りに事は運べている。

とはいえ、今回の戦いは肝を冷やした。想像以上にザフト軍の戦力が上がっている。

 

ミネルバは言わずもがな、オーブオノゴロでの戦闘でも出てきていた新型機二機。

それに、恐らくラクス・クラインが搭乗したフリーダムによく似た赤い機体。

 

そして今回の戦いには出ては来なかったが、あのプロヴィデンスと言っただろうか、その機体の発展機ともう一機の新型機。

さすがはザフトの技術力といったところだろう。

これでもかなり悪い方で考え予定を立てていたのだが、それをも上回る力をザフトは誇っていたのだ。

 

 

(だが、それでもまだ絶望的というほどでもない)

 

 

まだ、こちらに分がある。それくらいの準備はしてきたのだから。

 

 

「アズラエル様。ザフト軍は全軍、あの要塞に撤退していったようです」

 

 

司令官の報告を聞き、ウォーレンは彼に視線を向けてこくりと頷いた。

 

どうやら、そう時間をこちらに与えてはくれないようだ。

向こうの準備が整えばすぐにでも再びこちらに攻めてくるだろう。

 

 

「増援をすぐに要請しろ。なるべく多くの、だ。そして…、あれも、用意できているだろうな?」

 

 

「了解しました。すぐに要請します。あれの準備なら、できています。今からアガメムノン級に積みますか?」

 

 

「やれ。時間は多くはないぞ」

 

 

ウォーレンの命令、問いに答えると司令官は司令ブースから去っていく。

 

ウォーレンは去っていった司令官を見送ると、先程まで戦闘が行われていた宙域が映し出されているモニターを見つめる。

レクイエムの中継点は第一、第二中継点が破壊され、プラント及びザフトの要塞に向けて撃つことは出来なくなってしまった。

 

 

(まぁ、保険はちゃんと準備してあるがな)

 

 

何も開発していた中継点があれで全てだったわけではない。

それに、その中継点が必ず必要だという訳でもない。

 

あのジェネシスをこちらに向けて撃つには、射線上にその撃つ対象がなければならない。

向こうにはこちらの様にビームを曲げれる開発は出来ていないのだから。

ならば、あの要塞がこちらに目視できる。レクイエムの射線上まで要塞を移動させなければならない。

 

有利なのは、こちらだ。こちらなのだが…。

 

 

(油断はできない。できるはずがない…)

 

 

ザフトが、デュランダルが何を仕掛けてくるかわからない。

もしかしたら、ジェネシスの他にも何か兵器を開発しているかもしれない。

 

 

(…いろんな手段を想定し、それに対応できるように対策してきた。奴の思い通りに、そう簡単にいくものか)

 

 

心の中でつぶやくウォーレン。

肘掛けに右肘を乗せ、手の甲に頬を乗せる。

 

 

「…」

 

 

ウォーレンは左手の所にある受話器を見つめる。

 

少しの間思考すると、ウォーレンは何かを決めたような表情になり、受話器を取った。

 

 

「…俺だ。ウルトルを用意しておけ」

 

 

このまま、ただ座するだけの王ではいられない。

あの木偶の棒、ジブリールの様になるつもりない。

 

本当に時が来れば、自分とて力にならなければいけないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

「さすがに…、今回の戦闘は疲れたね…」

 

 

ふぅっ、と息を吐きながら、ぐったりしたように肩を落としてルナマリアが言った。

 

ルナマリアの言う通り、今回の戦闘は今まで経験してきたどの戦闘よりも辛いと感じた。

というより、最近に行われている戦闘の度、今の様に一番つらいと感じているような気がする。

 

 

「弱音を吐くなルナ。次の戦闘は、もっとタフな戦闘になるかもしれないんだぞ」

 

 

「うん…、だけど、やっぱり…。辛いよ…」

 

 

いつもルナマリアなら、シンの言葉に力強く皮肉で返していただろう。

だが、今の彼女はそんな気力はなかった。

 

 

「…今はゆっくりと休んどけ。まぁ、次の出撃までそう時間はないだろうがな」

 

 

ハイネは優しくそう言い残し、シンとルナマリアを置いて去っていった。

 

シンはハイネの後姿を眺めた後、未だ俯いているルナマリアに視線を向けた。

 

 

「ルナ…」

 

 

「…シンは…、疲れてないの?」

 

 

口調が弱弱しい。相当消耗しているようだ。

 

 

「疲れてるよ。でも…、こんな所で負けちゃいけないんだ」

 

 

ルナマリアだけではない。シンも、それにきっとハイネも疲れている。限界にだって近い。

 

だが、そんなことに負けたくない。

守りたいものが、今のシンにはたくさんできたのだ。

負けてしまえば、守りたいものすべてが失われてしまうかもしれない。いや、失われてしまうだろう。

 

もう嫌なのだ。失うのは。

 

 

「負けたくない。もう…、嫌だから…」

 

 

「シン…?」

 

 

どこか空気が変化したシンを不思議そうな目で見るルナマリア。

その視線に気づいたシンは、はっ、と一瞬呼吸を止める。

 

そして頭を振るい、視線をそらす。

 

 

「ともかく、ここでへこたれたりなんかできないだろ?ハイネも言ってた通り、そう時間も残されていないんだ。ゆっくりと休めよ」

 

 

「あっ…」

 

 

シンも自室に戻ろうとルナマリアを置いて立ち去ろうとする。

歩き出したシンの袖を、ルナマリアはつかんでシンの足を止める。

 

 

「ルナ…?」

 

 

シンは振り返り、ルナマリアを見る。

不安気な目でシンを見上げるルナマリア。

 

 

「その…」

 

 

ルナマリアはシンから視線をそらし、だが袖はしっかりとつかんだまま離さない。

 

 

「どうしたんだよ?俺も、部屋に戻って休みたいんだけど」

 

 

「待って!」

 

 

再び歩き出そうとしたシンを、今度は呼び止めるルナマリア。

シンは訝しげにルナマリアを見る。

 

 

「何だよ…。何か用なのか?」

 

 

どうしたのだろうか?不思議そうにルナマリアを見るシン。

さすがに怪訝に思ってしまう。とはいえ、邪険に扱うつもりもないが。

 

ルナマリアは、少しの間考えるような素振りを見せるが、何か決意したような表情になると顔を上げ、真剣な視線をシンに向ける。

 

 

「あの…、次の出撃まで、一緒にいてくれない…?」

 

 

「…は?」

 

 

ルナマリアの言葉に目を丸くし、呆けた声を出すシン。

 

待て。今、ルナは何と言った?

一緒にいてくれない?と彼女は聞いてきた。あぁ、そうだ。次の出撃までだ。

 

グラディス艦長は、パイロットである自分たちは部屋に戻って休めと言った。最後に、これは艦長としての命令だとも。

つまり、部屋に戻らなければならないのだ。

 

部屋から出た所を誰かに見られでもしたら、艦長に告げ口されてしまう。

それは嫌だ。だから、部屋に戻らなければならないのだ。

 

ルナマリアと一緒にいる。どちらかの、部屋の中で。

二人。

 

 

「はぁっ!?」

 

 

 

 

「えっと…、どうぞ」

 

 

「…どうも」

 

 

結局、シンは断れなかった。

 

断ろうとも考えたのだが、ルナマリアの潤んだ瞳を見ると、断ろうという考えがどこかにすっ飛んでいってしまった。

 

しかし、いくら歴戦の戦士となりつつあるシンとて年頃の男の子。

年頃の女の子を部屋に入れるなど、緊張しないはずがない。

 

顔が、熱い。

 

 

(くっ…。何でここまで緊張しなきゃならないんだ…!)

 

 

何なのだろうか。目の前にいるのはルナマリアだぞ?

訓練校時代から一緒だった、ただの友達だぞ?

 

こんな…、今更緊張するような間柄ではないではないか。

 

 

「シン…?」

 

 

「っ…、ほ、ほらっ!早く入れよ!」

 

 

「あ…、ごめん…」

 

 

…どうしてそんな弱弱しくなるのだろう。

もっといつものようにぐいぐいと明るく攻めて来てほしい。調子が狂う。

 

 

(まぁ…、こんなルナも可愛いけど…)

 

 

「…はっ?」

 

 

「え?どうしたの?」

 

 

「あっ…。いや、何でもない!」

 

 

今、自分は何を思った?ルナが、可愛い?

 

いや、確かにルナは可愛い。同年代の知り合いの中でずば抜けて可愛いことは認める。

しかし、何か…、そういう見かけだけを表した。そんな可愛いとはどこか違和感を拭えない。

 

 

(いや、可愛いよ。ルナは可愛いよ。けど…え?何?)

 

 

シン自身にもよくわからない。

 

先程も言ったが、シンとて年頃の男の子だ。

すれ違った女の子を見て、可愛いと思うことだってある。

 

だが、今まで感じてきたその可愛いと、先程心の中でつぶやいた可愛いと、何か意味合いが違うと感じているのは何故だろう。

 

 

「シン。その…、座っていい?」

 

 

ルナマリアが不安気にシンを見遣りながら、部屋の中にある二つのベッドの内の一つを指さした。

 

シンの部屋は、レイとクレアがプラントに戻るまでレイと同室だった。

そのため、部屋の中にベッドが二つあるのだ。

 

 

「あ、いいよ。別に許可取らないで勝手に座っても良かったのに」

 

 

「そんなことできないよ。ここは、シンの部屋なんだし…」

 

 

シンの許しを得たルナマリアは、布団がきれいにたたまれている方のベッドに腰を下ろした。

もう一つのベッド?それはシンがいつも寝ている方のベッドだ。どういう状態なのかは察してほしい。

 

 

「…」

 

 

「…」

 

 

沈黙が訪れる。

両者、口を開かない。というより、開けない。

 

話題が、浮かばない。

何かを話さなければ。そんな思いが、二人の焦りを加速させる。

 

何か話さないと。変に思われたりしないだろうか。

 

 

「えっと…。ルナ、さっきはどうしたんだ?」

 

 

「え?」

 

 

ルナマリアは、目を丸くしてシンに聞き返した。

 

 

「いや…、何でこんな…。一緒に、いてなんて…」

 

 

「あ…」

 

 

聞き返されるとは思っていなかったシン。

詳しく言って問うが、どうも恥ずかしくて顔を赤くしてしまう。

 

問われたルナマリアも、頬を染め、シンから視線を逸らしてしまう。

 

 

「別に、言いたくなかったらいいんだけど…」

 

 

ルナマリアが言いたくなければ別に答えなければいい。

ただこの気まずい雰囲気を何とかしたいと思っての苦肉の言葉だったのだから。

 

いや、だからといって、悩みに悩んで選んだ言葉としてはどうかと思うのだが。

 

 

「…安心するから」

 

 

「?」

 

 

ぽつりと、ルナマリアの言葉にシンは疑問符を浮かべる。

 

 

「安心するって…?」

 

 

「だから…、シンと一緒にいると安心するの…」

 

 

自分と一緒にいると安心する?

 

 

「それなら、メイリンと一緒にいる方がいいんじゃないか?今、メイリンはオフの時間だろ?」

 

 

「…バカ」

 

 

…何故悪口を言われなければならない。

 

 

「何だと」

 

 

「っ、バカ!シンのバカ!」

 

 

急に立ち上がって声を荒げるルナマリア。

勢いが増したルナマリアに、目を見開くシン。

 

どうしてルナマリアはここまでいきり立っているのだ。

何か、悪い事でも言ったのだろうか?

 

思い当たらないシンは、何も言えずにルナマリアの次の言葉を待つ。

 

 

「ずっと…。ずっとだよ?ずっと…、想ってたのに…気づいてくれなかった…」

 

 

「る…な…?」

 

 

何を、言っている?ずっと、想ってた?

 

混乱するシン。

そんなシンをよそに、ルナマリアは続ける。

 

 

「シン、私じゃダメなのかな…?やっぱり…、シエルじゃなきゃダメなのかな…?」

 

 

「っ」

 

 

シエル。ルナマリアは、気づいていたのか。

 

あまり考えないようにはしていたのだが、自分は、シエルのことが好きだったのかもしれない。

いや、今考えると、好きだったのだろう。

 

だが

 

 

「…シエルのことは、好きでも何でもないよ」

 

 

「え…」

 

 

今は、そう言う感情はシンの中に一切なかった。

 

 

「仲間だとは、今でも思ってる。また、会いたいって、話したいって思ってる。だけど…、そう言う感情はないよ」

 

 

「…ホント?」

 

 

ルナマリアの問いかけに、頷いて答えるシン。

それを見たルナマリアが花開くように笑顔を見せる。

 

 

「でも、少し待っててほしい」

 

 

「え?」

 

 

「今は、ルナマリアの想いに答えられない」

 

 

ルナマリアの戸惑いを浮かべた瞳を見つめながらシンは自分の想いを告げる。

 

 

「今は…、戦いに集中したいんだ。戦争を終わらせることに…」

 

 

「シン…」

 

 

戦争が終わるまで戦わなければならない。戦争を、終わらせなければならない。

どれだけ力になるかはわからないが、平和な世界を取り戻すために、戦いたいのだ。

 

 

「ごめん、ルナ…。でも俺…」

 

 

ルナマリアには申し訳ないと思っている。だが、ここでルナマリアの想いに答えてしまえば戦うための決意が揺るいでしまいそうで怖いのだ。

 

歪んでしまったシンの頬に、ルナマリアはそっと手を添える。

 

 

「いいの。いいのよ、シン」

 

 

「ルナ…」

 

 

微笑みをシンに向けるルナマリア。

 

 

「わかってる。今は…、戦わなきゃ。守らなきゃいけないってことは」

 

 

「ルナ…!」

 

 

この少女は、ここまで優しかったのか。

何年も共にいたというのに、初めて気づいた。

 

 

「でも、今だけ…」

 

 

「え…っ」

 

 

何かつぶやいたかと思うと、ルナマリアはシンの首に腕を回し、顔をよせ、その唇をシンのそれに重ねた。

 

シンは一瞬目を見開くが、まるで何かに身をゆだねるかのようにゆっくりと目を閉じる。

 

そして、両腕をゆっくりと上げて…、やがて両腕はルナマリアの背に回される。

 

一つになった二人の男女は、しばらくそのまま互いの温もりを感じ合ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




シンとルナマリアがくっつき(?)ました。

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