機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者 作:もう何も辛くない
遠くから見れば、それは誰もを魅了する光景になっていた。
そこかしこで光が点滅し、時には流れ星のように光条が流れる。
月面では激闘が繰り広げられていた。
ザフト軍艦隊が基地本体に押し寄せる。
ザフトは中継点については問題視していなかった。
残っている中継点は三つ。その三つではプラントに向けてレクイエムを撃つことは不可能なのだ。
中継点に戦力を割くということは無駄に等しい行為。
だから、ザフト軍艦隊はその戦力を全て基地本体に向けている。
「くそっ!前に進めない!」
ライフルをまわりを囲んでくるウィンダムに向けて放ちながらシンは苛立たしい思いに耐える。
先程からずっとこうしてまわりを囲まれ、基地に向けて進行できなくなっている。
そしてそれはシンだけではなかった。
ミネルバから発進したカンヘル、インパルス。その二機もまわりを囲まれ身動きが取りづらくなってしまっている。
それだけ自分たちは警戒されているということなのだろうか。
「くっそぉ!」
シンはライフルをしまい、肩のビーム砲を跳ね上げ、構える。
すぐさま砲撃を放ち、まわりを囲むウィンダムを薙ぎ払っていく。
囲んでいたウィンダムの円の中に、穴が空いたようにスペースができた。
シンはスラスターを開いてそのスペースに向かって全速力で飛ぶ。
「よし、抜けた!」
シンは、包囲から抜け出すことに成功する。
振り返ってシンは再びビーム砲を構え、砲撃を放った。
放たれた砲撃がウィンダムを薙ぎ払っていく光景に目もくれず、シンはまずルナマリアの援護に向かう。
ルナマリアは様々な方向にライフルを構えて引き金を引いている。
射撃は正確にウィンダム、ダガーLを撃ち抜いていくが、その数が減っているようには見えない。
一機撃ち抜かれれば一機、また一機撃ち抜かれればまた一機ち次々に援護に来ているようだ。
連合の数だからこそできる作戦だ。
「ルナ!」
シンはビーム砲をしまい、ライフルに持ち替える。
規模が大きいビーム砲撃ではインパルスを巻き込んでしまう可能性も出て来てしまう。
シンはライフルで次々にインパルスを囲むウィンダム、ダガーLを撃ち抜いていく。
ライフルを連射しながらシンは敵モビルスーツの集団にある程度接近していくと、シンはライフルを仕舞って背中のアロンダイトを抜いた。
アロンダイトを縦横無尽に振り抜き、敵を斬りおとしていく。
懐に入られた場合は、パルマ・フィオキーナで撃ち抜く。
シンはそのままルナマリアの救出に向かおうとしたのだが、不意に一部のモビルスーツがどこかへ飛び去っていく。
結果、包囲するモビルスーツの数が少なくなり、ルナマリアの救出が楽になる。
『シン!』
「ルナ!大丈夫か!?」
それどころか、ルナマリアは自力で包囲から脱出に成功した。
シンはインパルスにどこか損傷がないか調べるが、見た所どこにも目立った傷はない。
『シン!ルナマリア!』
「ハイネ!」
シンとルナマリアと同じように包囲されていたハイネも、包囲から抜け出せていた。
二人に寄り、声をかけてくる。
『でも、どうしたんだろう…。急に敵がどこかに行くなんて…』
ルナマリアが、襲ってくるウィンダムをサーベルで斬りおとしていきながらつぶやく。
そのつぶやきは、シンにもハイネにも届いていた。
確かにその通りだ。連合は自分たちが出撃し、視界に入るとすぐにこちらを囲みにかかってきたのだ。
それだけ警戒していたことはわかる。
それなのに、警戒している自分たちを置き、どこかへ飛び去って行った。
『だが、それでもかなりの数だ。気を抜いてると、すぐに死ぬぞ!』
ハイネがルナマリアに喝を入れる。
カンヘルの背面のユニットがモビルスーツ、モビルアーマーの集団に向けられ、ビームが照射される。
モビルスーツはそのビームで撃ち抜かれ爆散するが、モビルアーマーは前面にリフレクターを展開し、ビームを防ぐ。
『シン!斬り込め!俺とルナマリアが援護する!』
「わかった!」
ハイネの指示を受け、シンは了承の返事を返し、アロンダイトを手に突っ込んでいく。
自分の背後から放たれるインパルスとカンヘルの射撃が、目の前に立ちはだかるウィンダムやダガーLを撃ち抜いていく。
『シン!お前はモビルアーマーを重点的に攻撃してくれ!』
「あぁ!」
モビルアーマーには、リフレクターが装備されている。
リフレクターが展開されれば、正面からのビーム攻撃は全て防がれてしまう。
だから、前面で自由に動き回れるシンがモビルアーマーを担当するのだ。
側面からの攻撃はリフレクターでは防げない。
シンはさっそく、アロンダイトをモビルアーマーの背後から突き刺し、一機を落とす。
アロンダイトを抜いている間に、こちらに襲い掛かろうとするモビルスーツ、モビルアーマーに向けてライフルでビームを撃つ。
モビルスーツには命中するが、モビルアーマーたちはリフレクターで防いでしまう。
モビルアーマーにはビームは通用しなかったが、牽制にはなった。
シンは再びスラスターを開き、モビルアーマーの側面に張り付き、アロンダイトを一文字に振りってモビルアーマーを切り裂いた。
『よし、シン!お前は先に行って前衛部隊の援護に向かえ!』
「え!?だけど…!」
シンたち三人よりも、さらに基地に近づいて行っている部隊がある。
その部隊は今、大量の敵モビルスーツ、モビルアーマーに囲まれているだろう。
ハイネの言う通りその部隊の援護に行かなければならないが、ハイネとルナマリアを置いて自分だけ行くというのはどこか抵抗を感じる。
『大丈夫だ!だいぶ数が少なくなってきている!お前は早く行け!』
全てを落としたという訳ではない。だが、どこかに飛び去っていくモビルスーツやモビルアーマーのおかげでこちらを襲ってくる敵が少なくなってきているのだ。
そのおかげで大分戦況が楽になってきている。
「わかった」
シンは、機体を基地の方に向けて進ませる。
あの数ならハイネとルナマリアなら大丈夫だろう。
それよりも、ハイネの言う通り前衛で戦っている部隊のことだ。
彼らが全滅という事態になればこちらが圧倒的に不利になってしまう。
「待ってろよ…!」
シンの視界に、連合モビルスーツに囲まれている前衛部隊が見えてくる。
「あれか!」
シンはライフルを構え、モビルスーツに照準を合わせ、引き金を引く。
放たれたビームは、シンの狙い通りに命中する。結果、連合は前衛部隊の援護に向かっているデスティニーの存在に気づいた。
サーベルを構え、ライフルを持ち、デスティニーに向かって襲い掛かる。
シンもその手にアロンダイトを握り、向かっていくのだった。
スラスターを広げ、セラは目の前のモビルスーツ群に向かって突っ込んでいく。
それと同時に、スラスターの各所からドラグーンを切り離す。
切り離されたドラグーンが、モビルスーツ群に向かってビームを照射する。
照射されたビームは、モビルスーツ群の頭部や武装を奪っていく。
だが、逃れたモビルスーツ、ウィンダムが二機。その二機に向かってセラは加速する。
ビームサーベルをすれ違い様に抜き放ち、二機の頭部を斬りおとした。
『セラ!』
「わかってる!」
その時、キラが呼びかけてくるが、その意図をすでにセラは悟っていた。
頭の中で、警告の様に何かが鳴り響いた。
背後から、二機のモビルアーマーがこちらに向かってビームを浴びせてくる。
セラは機体を翻して放たれたビームをかわす。
本来ならそこで、ビームを撃ってきたモビルアーマーに反撃をするのが通常なのだが、セラはそうしなかった。
セラはモビルアーマーとは別の方向にカメラを向けて次の目標を探す。
その間に、モビルアーマーの側面がビームで貫かれ、武装が破壊される。
『凄い数だね…』
『うん。前回以上だ…』
シエルとキラがセラに近寄り、言う。
二人の言う通り、数に関しては前回の戦闘よりも多くなっている。
他の月基地から援軍を頼んだのだろう。
「けど、何だ…?」
セラは何か違和感を感じていた。数は多くなっているが…、本気でこちらを落としにかかっていないように感じる。
まるで…
「時間稼ぎ…?」
そう、相手はまるで時間稼ぎをしているようなのだ。
前回は無理してでもこちらを落としにかかってきていたのに、今回はそれがない。
少しでも不利と感じればすぐに後退していく。
大量の数はいるが、その数の有益な使い方をしてこない。
「…レクイエムを撃つための?」
また、レクイエムで艦隊を薙ぎ払うつもりなのだろうか。
だとしたら、急がなければならない。また、あの兵器を撃たせてはならない。
セラは襲い掛かろうとしているモビルスーツ群に向けて再びドラグーンを飛ばす。
ドラグーンを時間差で斉射し、モビルスーツ群をセラの思い通りに追い込んでいく。
フリーダムの射程範囲に、追い込んでいく。
「兄さん!」
射程範囲内に入ったのを見て、セラがキラに呼びかける。
キラはその前にすでにフルバーストモードに入っていた。
両手のライフル、両肩のプラズマ砲、両腰のレールガン。そして、八のドラグーンをモビルスーツ群に向ける。
合計十四の砲火を同時に噴かせる。
フリーダムが放った砲火は、キラの狙った通りにモビルスーツの頭部、武装を奪っていく。
モビルスーツ群を退かせた後、セラたちはさらに基地に向かって進んでいく。
が、すぐに他のモビルスーツ、モビルアーマーがセラたちに襲い掛かる。
『ねぇ!何か、数が増えて来てる気がするけど!?』
最初に気づいたのはシエルだ。シエルの言う通り、こちらに向かってくる敵機が増えてきている。
敵機を迎撃するために、一時その場に動きを止めざるを得ない。
三人は迎撃態勢を取り、それぞれの方向に向けて構える。
『三人は先にお進みください!』
その時、三人の耳に太い男の声が届く。
直後、三人を囲んでいたモビルスーツがどこかからやってきた光条に貫かれる。
「ゲンヤさん!?」
リベルタスのカメラに映し出される、ムラサメの第一小隊。
第二小隊と共にアークエンジェルのまわりの護衛をしていたはずなのだが。
『ここは我らが食い止めます!お三方はあの兵器を!』
ムラサメ隊がモビルスーツ群と交戦を開始する。
そのおかげで、セラたちを囲んでいた敵機の数が一気に少なくなる。
「…わかった。行こう」
セラはゲンヤの提案を呑むことにする。
ここにいても恐らく埒が明かないだけだ。それならば少しでも前に進むべきだ。
「死なないでくださいよ!」
『もちろんです!』
ゲンヤに声をかけ、セラたちは基地に向かって再び進み始める。
それでもなおセラたちの前にモビルスーツが割り込んでくる。
割り込んできたモビルスーツは三機。セラたちを何とか止めようとかろうじて割り込むことに成功したのだろう。
『任せて!』
それに対応したのはシエルだった。背中の対艦刀を抜き、三機のウィンダムに斬りかかっていく。
ウィンダムのビームサーベルと切り結び、そして力一杯に対艦刀を振り抜く。
弾き飛ばされたウィンダムを、シエルはライフルで頭部と武装を撃ち抜いた。
残った二機もヴァルキリーに襲い掛かってくるが、シエルはスラスターを吹かせて加速。
すれ違い様に対艦刀で二機の頭部を斬りおとす。
『行くよ!』
邪魔をする者がいなくなり、三人は機体を加速させ、基地へと向かっていく。
基地に近づいていくごとにこちらを狙う敵の数が多くなっていくが、三機のスピードについていける者はいなかった。
「レクイエムは、基地のはずれ…」
『こっちからだと、基地を挟む…』
すでに、基地のはずれともいえる地点をカメラで映し出すことは出来ている。
だが、怪しい物体はどこにも見当たらない。
こちら側にレクイエムは位置していない可能性がある。
『基地のまわりを回る?』
「…そうするしか、ないのか」
恐らくザフトが戦っている激戦区を横切ることになるだろう。
「けど、やらきゃいけない」
セラはすぐに決断する。
「レクイエムを破壊する。これは、誰かがやらなきゃいけないことなんだ」
セラの言葉に、キラとシエルは同時に頷く。
三人はレクイエムに向かって機体を加速させる。
悲劇を終わらせるためにも、あの兵器の存在を許すわけにはいかないのだ。
「第七小隊、全滅!」
「第二小隊、撤退します!」
ここに来て、連合側の犠牲が目立つようになってきた。それは、アークエンジェルが戦闘に介入してきてからである。
奴らのせいで、そちらにも戦力を分けなければならない。結果、ザフトを迎え撃つ戦力が手薄になる。
こちらの方が圧倒的不利だ。数はこちらが上とはいえ、やはり能力の差というのは大きいのだ。
「スウェンはどうしてる?」
「ザフト軍艦隊と交戦中…。今、ナスカ級を落とし、移動します!」
スウェンはかなり頑張ってるようだが、やはり戦況は辛い。
こうなると早く彼らが到着するのが望まれる。
大気圏を突破したという報告が入ったため、そう時間もかからずやってくるとは思うのだが…。
「!三機のモビルスーツが移動しています!速い!」
「ちっ!」
ウォーレンは舌打ちする
オペレーターの報告の三機。リベルタス、ヴァルキリー、フリーダムだろう。
あの三機が向かっているのは間違いなくレクイエム。
アークエンジェルがやってきた方向から考えれば、奴らがレクイエムに攻撃を仕掛けるためにはザフト軍とこちらの軍勢が戦闘している宙域を横切らなければならない。
そうすぐにレクイエムに攻撃を仕掛けることなどできないと思うが…。
「その三機をレクイエムに向かわせるな!動きを止めろ!」
「はい!」
ウォーレンが指示を出す。オペレーターが、三機の近くにいる部隊にウォーレンの指示を伝える。
とはいえ、並の兵などでは足止めすることすらできないだろう。
だが、これならどうだろう。
「奴らには多少無理してでも攻撃を加えろ。命を落とすことはない」
「は、はい!」
更なる指示を加える。
奴らはパイロットの命を奪わない。
ならば、多少の損傷も厭わずにそのまま襲わせる。
これなら、足止めにはなるだろう。
(だが、足止めは足止め…。それも、効果は少ないだろう)
動きを少しは止めることができるだろうが、あまり効果は期待できない。
こちらの兵など、すぐにあしらって移動を開始する。
だからといって、無暗に戦力を向かわせることは出来ない。
ザフトのエースたちも油断はできないのだ。
(奴らさえ来てくれれば…!)
三人さえ来れば、ザフト、オーブのどちらかのエースを止められる。
そうすれば、こちらが一気に有利に持ち込むことができる。
「早くしろ…、早く…!」
手遅れに、なる前に。
ウォーレンが願った瞬間だった。
「三機のモビルスーツ、接近!これは友軍機です!」
「っ!来たか!」
ついに、やってきた。
前衛部隊を援護していたシンは、ちらりと光る三つの点を見た。
デスティニーのカメラを向け、ズームさせて見る。
「これは…、モビルスーツ!?」
その三つの点は、モビルスーツだった。
一つは、装甲を黒地に、その上に赤に染められた機体。その姿は死神を思わせる。
一つは、装甲を青に染めた機体。機体ほぼ全身に砲塔、砲口が搭載されている。
一つは、装甲を黄に染めた機体。モビルアーマー、だろうか。だが、何か隠されているのはすぐにわかる。
その三機が、奮闘しているシンに向かって襲い掛かる。
「っ!?」
まず、青の機体が仕掛けてきた。背負っているようにも見える四つの砲塔から砲撃が放たれる。
シンは機体を翻して四つの砲撃をかろうじて回避する。
体勢をわずかに崩したデスティニーに向かって、今度は黄の機体が襲い掛かる。
その機体は変形し、人型になる。やはり、変形機構を持っていたか。
シンは歯噛みしながらアロンダイトを構える。
黄の機体はどこから取り出したのか、鉄球を構えると即座にデスティニーに向かって投げつける。
「くそっ!」
これはアロンダイトで防ぐことは出来ない。腕のビームシールドを展開し、鉄球を防ぐ。
腕に相当の衝撃が奔り、思わず動きを止めてしまう。
その隙に、すかさず最後の一機が襲い掛かってきた。
その手にはまさに死神の鎌ともいうべきだろう。両側に刃が装着されている鎌でデスティニーの頭部を刈り取ろうとしてくる。
シンは機体を屈ませる。頭上を刃が通り過ぎていくのを見て、今度は反撃にアロンダイトで斬りかかろうとする。
だが、これでシンへの攻撃は終わってはいなかった。
その機体は鎌を反転させる。今度はデスティニーのコックピットを刈り取るべく鎌を振う。
瞬間、シンはそれが相手の狙いだと悟る。
自分の命を刈り取るために、罠にかけたのだ。
攻撃が空振りし、相手の油断を誘ったのだ。
「こっのぉ!」
だが、シンとてこんな所で死ねない。
死ぬわけには、いかないのだ。
シンのSEEDが、解放される。
視界がクリアになり、不必要な情報は全てカットされる。
シンは手に持っているアロンダイトを、鎌と装甲の間に割り込ませる。
アロンダイトと鎌はぶつかり合う。
「っ!?」
目の前の黄の機体がすぐさま後退する。
どうやら、この攻撃を防がれるとは思っていなかったらしい。
三機が集まり、こちらを見据えてくる。
強敵だと、認識されたのだろうか。
だが、一対三では圧倒的にこちらが不利だ。さらに相手に腕はザフトのエース級を凌ぐ。
そんな相手を、三人も相手にするなど辛いどころではない。
どうするかを考える。
『シン!』
『悪い!遅くなった!』
その時、自分の耳に望んでいた声が届いた。
ハイネが駆るカンヘル、ルナマリアが駆るインパルスが自分の両隣に着く。
仲間が、自分の元に来てくれた。これで、戦うことができる。
三対三。数の上では互角となった。
「…ねぇ、あの三機を壊せばいいの?」
「三機だけじゃないわ!他のも壊さなくちゃいけないのよ!」
「そうだ!宙の化け物を、俺らの手で壊さなくちゃぁなぁ!」
三人は、目の前のザフト機を見据えながら目をぎらぎらと光らせる。
目の前の獲物を喰らわんとする肉食動物の様に。
黄に染められた機体、ゲルプ・レイダー。
赤に染められた機体、ロート・フォビドゥン。
青に染められた機体、ブラウ・カラミティ。
それぞれの機体を駆る三人は、目の前の獲物に向かって襲い掛かる。
「おらっ、エリー!ファル!遅れんじゃねえぞ!」
「あんたが言うんじゃないわよ、バール!」
「…」
セラたち三人は、連合の包囲を何度か受けながらもそのいずれも退かせレクイエムに向かって確実に歩を進めていた。
そして今、ザフトと連合が入り乱れる激戦宙域に足を踏み入れていた。
三人に気づいたのだろう。連合とザフトのモビルスーツが目を向けたと思うと、銃を三人に向けてくる。
それを見て、セラたちは目を見開いた。
どうして、ザフトまで銃を向けてくるのだ。
連合とザフトのモビルスーツはライフルを連射してこちらに向かってくる。
セラたちは連合のモビルスーツにビームはくらわせるも、ザフトに対しては危害を加えるつもりはないのだ。
「待て!こっちだってレクイエムを破壊するために…」
セラの言葉には耳を貸してくれない。やはり、ザフトのオーブに対する認識はロゴスの残党なのだろう。
『ダメだセラ!僕たち三人も敵として認識されている!』
「くそっ!」
セラとキラはそれぞれドラグーンを切り離す。
ドラグーンでこちらに襲い掛かってくるザフトのモビルスーツの頭部を撃ち落とす。
「何で…!」
目的は同じなのに、こうして撃ち合わなければならない。
その現実が苦しく感じる。
とはいえ、ここで足を止めるわけにもいかない。
セラたちは再びレクイエムに向けて機体を動かそうとする。
『セラ・ヤマトぉおおおおおおおおおおおおお!!!』
「!この声っ…!」
その時、憎しみの満ちた声でセラの名を呼ぶ者が現れる。
前回はいなかった。だが、今回は出てきたということなのだろう。
クレアともう一人の代わりということか。あの二人が襲い掛かってくる。
『来ると思っていたぞぉ!今度こそ貴様を殺してやるぅ!』
「お前に構っている暇はないんだ!」
リベルタスに向かって、ウルティオが対艦刀で斬りかかってくる。
セラは腰のサーベルを抜き、振り下ろされる対艦刀を迎え撃つ。
「兄さん!」
セラは切り結びながらキラの様子を窺う。
もう一機の狙いが、キラだということを悟っている。
キラの方にも、ブレイヴァーが襲い掛かっていた。
フリーダムのサーベルとブレイヴァーのハルバートがぶつかり合っている。
『セラ!キラ!』
残ったシエルは、ザフトのモビルスーツの包囲を振り切って二人の方に向かってくる。
『ちぃっ!』
「ぐっ!?」
その時、ウルティオがリベルタスを振り切ってヴァルキリーに向かって突っ込んでいった。
セラは振り返ってすぐにウルティオを追いかけようとする。
「シエル!くそっ、邪魔だっ!」
だが、すぐにウィンダムとモビルアーマーがセラを包囲する。
セラはサーベルでウィンダムとモビルアーマーを切り裂いて何とかシエルの方に向かおうとするが、すぐに向かえそうにない。
「シエル!俺と来い!」
「ロイ!?」
シエルはロイの言葉に目を見開く。
いきなり何を言うのだ。ロイと一緒に行く?そんなこと、できるはずがない。
「それは前にも言ったはず!私は…」
「お前はセラ・ヤマトに騙されているだけなんだ!お前は俺と共にいるべきなんだよ!」
その無茶苦茶な言葉は前と変わらない。
ただひたすら来いと、共にいるべきだと語り掛けてくる。
しかし、シエルの心は揺るがない。
「何度も言わせないで!セラはそんなことしてない!私は騙されてなんかいない!」
「シエル!俺を信じろ!」
ロイに何を言っても無駄なようだ。
シエルに疑問が浮かぶ。どうして、ロイはここまでおかしくなってしまったのだろうか。
何がロイをおかしくしてしまったのだろうか。
「どうしたの、ロイ…?あなたは…、こんなことする人じゃなかったはず…」
「…俺はお前を愛している」
突然の、ロイの告白。だが、シエルの表情は動かない。
「俺はお前を愛しているんだ!あんな男よりもずっと!ずっと!!」
シエルが何を言おうとロイが揺るがなかったように、ロイに何を言われようともシエルは揺るがない。
シエルは、セラを愛している。ずっと、セラの傍でセラを守っていこうと決意している。
それが揺るぐことは、ない。
「だから俺と来い!お前は…、お前は俺が!」
「…」
手を差し伸べてくるウルティオ。ロイ。
だが、シエルはその手を取らない。取るわけにはいかない。
「私は、セラと一緒にいる。そう決めた」
「シエル!」
「私はセラを愛してる!」
ロイが何か言おうとしたのを遮り、シエルはセラへの思いを吐く。
「私がロイと一緒に行くことはない。…そこをどいて」
シエルは対艦刀を抜いて構え、ウルティオを見据える。
退かせる敵を、見据える。
「私はセラとキラを助けて、レクイエムを破壊しなきゃならない。ロイ、そこをどいて!」
「…」
ロイの返答は、ない。…いや、あった。
ロイは手に持っている対艦刀を構えた。つまり、これが返答だ。
「俺は…、お前を取り戻す」
「私は、あなたのものなんかじゃない」
短い言葉の応酬。
その直後、二機は交錯した。
「シエル!」
交錯した二機を見て、セラは叫んだ。
シエルがロイと戦っている。その役目は、自分のものなのに。
あいつと決着をつけるべきなのは、自分なのに。
包囲は抜けた。すぐにシエルの援護に向かわなければならない。
セラはスラスターを吹かせてヴァルキリーとウルティオが戦っている場所へと向かおうとする。
「…っ!?」
セラは機体を翻した。セラが先程までいた場所を、光条が横切る。
「…次から次へと」
こちらに向かってくる黒い機体。アークエンジェルに収容した、あの白い機体にどこか似ている。
恐らく兄弟機なのだろう。そうでなくても、連合機体なのは間違いない。
黒い機体、ストライクノワールはビームブレード、フラガラッハを構え斬りかかってくる。
セラも、手に持っているサーベルで迎え撃つ。
こいつを片づけて、シエルを助けに行く。
あなたを倒して、セラを助けに行く。
「「邪魔をするな!」」
DESTINY ASTRAY Rからの登場です。
ですが、作者はASTRAYに関してはほとんど無知です。なめるようにしか知りません。
違和感を感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、どうかご了承お願いします。