機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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今までわすr…忘れていました。オリジナル機の紹介。
今回の後書きに載せました。

サブタイ…、凄く悩んだ…のに…。


PHASE53 戦闘の裏には

セラは、傍らにいるシエルを伴いながら医務室へと入っていった。

ここに、セラとシエルが目的とする人物が眠っているのだ。

 

医務室に入ると、すでにキラ、トール、そしてマリューが中にいた。

キラとトールはある一つのベッドの傍らで立っており、マリューはそのベッドの傍らの丸椅子に座していた。

 

 

「まだ、眠っているんですか?」

 

 

セラはマリューに向けて問いかけるが、マリューはベッドで眠っている人物をじっと見つめたまま何も答えない。

セラはキラに視線を向ける。キラもセラの視線に気づき、そしてゆっくりと頷いた。

 

セラとシエルも、キラとトールと同じようにベッドの傍らに立ち、眠る人物を見つめる。

 

このベッドには、先程白い連合の機体から救出されたパイロットの男が眠っている。

その顔の頬から目元、鼻にかけて二つに分かれた傷痕が残っている。

そしてそれは、かつていつも見てきた顔と、傷痕以外は瓜二つだった。

 

 

「手当の時に一度目を開けて、自分は連合軍第八十一独立機動群所属、ネオ・ロアノーク大佐だと名乗ったらしい」

 

 

男の顔を見つめていたセラとシエルに、耳元でそっと伝えてくれるトール。

セラとシエルは、頷いてトールに続きを促す。

 

この話には、まだ続きがあるとセラにもシエルにもわかっていた。

 

 

「けど、検査で出たフィジカルデータは、この艦のデータベースにあったものと百パーセント一致した」

 

 

トールは、セラとシエルの耳元からわずかに口を離す。

そして、どこか落ち込んだような表情で、そっと告げる。

 

 

「この男は、ムウ・ラ・フラガだ。肉体的には、な」

 

 

データなど照合するまでもない。この男は、ムウ・ラ・フラガだと、自分の中の何かが告げている。

この勘にも似た何かは、外れたことがない。今回は、外れているとも思っていない。

 

セラたちの目の前で、マリューがそっと男の髪に触れて…、我に返ったように手をさっとひっこめた。

 

マリューの気持ちは、セラたちには痛いほどわかる。

失ったと思っていたその存在が、今、目の前にいるのだ。

だが、その存在には新たな名前が携わっていた。

 

 

「どういうことなんだろう…。この人は、少佐なんだよね…?」

 

 

シエルがセラに問いかける。だが、その問いにすぐに答えることが、セラにはできなかった。

セラの代わりに、キラが口を開く。

 

 

「それは、間違いないはずなんだけど…」

 

 

そう、間違いないはずなのだ。この男は、ムウ・ラ・フラガのはずなのだ。

 

キラがその続きを口にしようとした時、不意に少しかすれた声が耳に届いてくる、

 

 

「やれやれ…、いつから俺は少佐になったんだ?」

 

 

その声に、ばっ、とベッドの上で横たわっている男に振り向くセラたち。

マリューに至っては勢いよく立ち上がっていた。はずみで腰かけていた丸椅子が激しく音を立てて倒れるが、セラたちにはその音など聞こえていなかった。

 

男は上半身を起き上がらせ、拘束されている両手首の縄を外そうとしたのだろう。両手首を動かすが、すぐに諦める。

拘束されていることが不快に感じたのだろう、顔を顰めている男は、さらに続ける。

 

 

「ちゃんと大佐だって言っただろう!?そこまで俺を降格させたいのか?」

 

 

男はシエルに向かって反論している。反論されているシエルは複雑そうな顔をしながら男を見つめる。

 

と、そこで男はこちらを見つめる女性に気がついた。

いや、この場にいる全員が見つめてきていることはわかっているのだが、この女性だけはどこか違う、と男は感じていた。

 

女性は涙をこぼしながらなおもこちらを見つめてくる。

 

 

「どうした…?」

 

 

男は、戸惑いの表情を浮かべて女性に問いかける。

 

 

「一目惚れでもしたか、美人さん?」

 

 

からかうような口調で発せられたその言葉は、マリューの胸に突き刺さった。

この男は、ムウだ。この髪も、青い眼も、飄々とした口調も、優しげなこの声も。

全てが、自分を包み込んでくれる、ムウだ。

 

だが、彼は自分のことがわからないのだ。

ムウであって、ムウではない。

 

どうしていいのかわからなくなる。胸が、張り裂けそうになる。

 

もう、耐えられなかった。

 

 

「あっ、マリューさん!?」

 

 

驚いて自分を呼ぶシエルの声を振り切って、マリューは医務室から飛び出した。

 

もう、彼が自分のことを呼んでくれることはないのだ。

愛する彼が、戻ってくることはないのだ。

 

 

 

 

 

「シエル…」

 

 

「うん、わかってる」

 

 

セラがシエルに目を向けて声をかける。

シエルは頷いて医務室から出てマリューを追いかける。

 

女性のことは、同じ女性の方が良いだろう。

そして、男である自分たちはこっちだ。

 

 

「ムウさん!」

 

 

キラが強い口調で男に呼びかける。だが、男は眉を顰めてキラに問い返した。

 

 

「ムウって…、俺のことかよ?」

 

 

キラは言葉を呑み込んだ。そして、キラたちはどこかで考えていた、当たってほしくない予想が当たっていたことを悟った。

 

 

「これは…、記憶がないのか?」

 

 

「いや…、というより、違っているみたいだな…」

 

 

トールとセラが言いあう。

 

目の前の男の、金色の髪、飄々とした口調。傷痕以外は全てがあのムウと一致している。

しかし、彼が身に着けたのはかつて捨てた連合の軍服。聞き覚えのない所属と姓名。

 

ネオ・ロアノークと名乗った彼が、もしただ記憶を失っているだけなのならば、自分たちを見て何かあるのだと悟るはずだ。

だが、一切それはない。全く見知らぬ他人の様に自分たちと接した。

 

 

「確かに、そうじゃなきゃ、連合に戻るとは思えないけど…」

 

 

そのこと自体が不自然なのだ。ムウはかつて、自分たちと共に連合を抜けて戦ってきたのだ。

一度は捨てた連合に、何事もなかったように戻るようなこと、できるはずがない。

 

 

「でも、あれはムウさんなんだ…」

 

 

セラがぽつりとつぶやいた。キラとトールはセラに目を向ける。

セラはマリューが立ち去って行った廊下の先を見遣りながら続ける。

 

 

「だから、俺は…」

 

 

キラにとってもそれは同じだった。あれは、ムウだと確信し、アークエンジェルに連れてきたのだ。

だが、彼はネオ・ロアノークだと名乗っている。それが、彼の人格なのだ。

 

 

「まぁ…、でもなぁ…」

 

 

トールが後頭を掻きながらため息をついて口を開く。

 

 

「記憶がないんじゃ…、艦長にとっては酷かもしれないな…」

 

 

正直、セラとキラの中には、マリューのためにという思いもあった。

ムウが生きていたことが嬉しいという思いは二人にもあった。だが、誰が一番喜ぶかと問われれば間違いなくマリューだ。

 

セラとキラは、大戦後、マリューの様子をずっと見ていた。たまに見せる悲しげな面影を見るごとに、セラも、キラも、共に生活してきた皆も。

何とかできないものかと悩んできた。

 

セラとキラが良かれと思ってした行動が、かえって彼女を傷つけてしまったのは事実だ。

 

セラは、思い息を吐いた。

どうしたらいいか、またわからなくなってしまった。

 

マリューに謝罪しようか、だがそんなことをすれば彼女は気を遣うに決まっている。

 

セラが頭を悩ませているその時、艦内にアラームが鳴り響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト軍艦隊、進撃を開始しました!」

 

 

ダイダロス基地で、ザフト軍の動きは捉えられていた。

 

 

「第一戦闘配備を発令させろ。パイロットを全て所定の位置に着かせるんだ」

 

 

「はい!」

 

 

オペレーターの報告を聞き、ウォーレンはすぐさま指示を出した。

 

まるで予定通りだ、と言わんとする表情をしているウォーレンだが、内心では焦りが募っていた。

 

早い。ザフト軍進軍が、予想よりも早い。

 

だが、予想よりも早いとはいえそれは誤差の範囲内だ。修正は効くはずの誤差だ。

それなのに、何故ウォーレンは焦っているのか。

 

恐らくザフトは戦力をさらに増やしてこちらに攻めてくるはずだ。

こちらも戦力を増やしてはいるが、ザフトのミネルバ、そしてその艦に在籍しているエースたち。

それには遠く及ばないのは目に見えている。

 

 

(あの三人はまだ時間がかかる…。それまで時間稼ぎに徹するのが吉か…?)

 

 

この戦闘、間違いなくオーブも参戦してくるはずだ。

前大戦後、オーブはあれを築いている。先の月の戦闘後、アークエンジェルは間違いなくそこで補給を受けたはずだ。

 

そしてあそこからこちらまでの距離は遠くはない。奴らがザフトの動きに気づくのがこちらより遅れたとしても十分間に合う距離だ。

 

それも踏まえると、圧倒的に不利なのはこちらだ。

デュランダルにとってオーブは邪魔だ。とはいえ、レクイエムを破壊するためにも無暗にオーブを攻撃するとはとても考えにくい。

 

連携はしないだろう。だが、ザフトとオーブが一気に襲ってくるのは間違いない。

 

連合VSザフト&オーブ

 

相当に過酷な戦いになるのは明らかだ。

 

 

 

 

 

 

「そう多くの数で行くのはお勧めできませんね。ザフトもこちらに無暗に攻撃を仕掛けてくるとは思えませんが、念のために少数精鋭で行くべきでしょう」

 

 

「そうね。第一、第二小隊を引き連れていきましょう」

 

 

セラとマリューが話し合う。

ザフト軍艦隊が月に進軍をしたという動きを察したアークエンジェル。

 

アークエンジェルは、先の月の戦闘で失った弾薬などを補給している。

 

今、セラたちがいる場所は、前大戦後、代表となったカガリが開発したオーブ軍所有の軍事宇宙ステーション、オオマガツヒ。

 

ここに今、所属している兵士は少ない。だが、アークエンジェルを筆頭に地上から次々に戦力が結集してきている。

そうせざるを得ない状況なのだ。

 

 

「すぐに発進準備をします。あなたたちも準備を急いで」

 

 

「了解」

 

 

マリューの指示を受け、セラは翻して駆け出す。

急いでシエルとキラにこのことを報告し、自分たちは所定の位置につかなければならない。

 

今、キラとシエルは格納庫で機体のチェックを行っている。

セラも格納庫へと急ぐ。

 

そんな中、セラは頭の中でマリューのことを考えていた。

つい先ほど、マリューはかなりの心の傷を受けたはずなのだ。

 

どうしても気になってしまう。こんな状況の中、艦長として戦うことができるのだろうか、と。

 

 

(だけど…、艦長のことばかり気にしてはいられないんだよな)

 

 

心の中でつぶやく。

 

セラもまた、自身に懸念を持っていた。

先の戦闘で感じたあのことだ。

 

何者かの断末魔。あれは一体何なのか。

それも、長く感じれば感じるほど、身体的にも影響を及ぼしてくるとはこちらも参ってしまう。

 

 

(あれから、どこか体の調子が良いって思ってたんだけどな…)

 

 

あれ、とはオーブ沖の戦闘のことだ。戦闘の最後、セラは気を失ってしまった。

目が覚め、退院してからどこか調子が良いと感じていたのだが、その矢先のこれだ。

 

他人の心配ばかりもしていられない。自分の中にも心配の種があるのだから。

 

 

「セラ!」

 

 

格納庫に到着し、中に入っていくと、こちらの存在に気づいたシエルがヴァルキリーのコックピットから顔を出して声をかけてきた。

セラはシエルの方を向いて手を上げ、そしてこちらに来るように手招きする。

 

シエルはセラのジェスチャーに気づき、まわりの技術員に声をかけてからこちらに向かってくる。

その間にセラはキラの姿を探し、見つけてシエルと同じように手招きする。

 

 

「どうしたの、セラ?」

 

 

「待って、兄さんが来てから話する」

 

 

キラもセラの元にやってくる。

と、セラはキラの傍らにいる男に気づいた。

 

肩幅が広く、がっちりとした体形の男だ。

その身にはパイロットスーツが着けられており、パイロットであることがすぐにわかる格好だ。

 

 

「あなたは?」

 

 

セラが問いかけると、男はきびきにと敬礼を取り、セラに向かって名乗る。

 

 

「オーブ軍所属、ゲンヤ・ハヅキ二尉であります!我々第一小隊は、アークエンジェルの配属となりました!」

 

 

「あ…そうですか…」

 

 

まさにゴリマッチョといえる男が、こちらを見降ろしながら敬語で自己紹介してくるのだ。

正直、コワイ。

 

 

「あなたの話は聞いております!セラ・ヤマト准将!私の方が年は上なのですが…、あなたに憧れておりました!」

 

 

「…やめてください。そんなの、ただの飾りなんですから」

 

 

ゲンヤ・ハヅキと名乗った男の言う通り、セラは准将という位が与えられている。

だが、セラにとってはその位はいらないものだった。

 

その上、准将に値する指揮能力。それが自分にはないと自覚している。

 

 

「ですが、あなたは准将として、今この場にいます」

 

 

ゲンヤがはっきりとした口調でセラに告げる。

セラは落としていた視線を上げ、ゲンヤの目を見つめた。

 

本気で、言っている。本気で、自分なんかに憧れているのだ、この人は。

 

 

「それにふさわしい力をあなたはもっています。ですから、私たちはあなたについていきます」

 

 

「…基本、俺があなたの小隊に指示を出すことはないと思いますけどね」

 

 

准将とはいえ、セラは一パイロットとして戦場に出る。

その上、先程も言ったが指揮能力は並の指揮官と同じか、それより少し上、といったところだろうか。

 

そのため、基本セラが他の兵士たちに命令を出すということはない。

 

 

「そうですが。もし、あなたが命令を出したその時は、必ずその命令を遂行させていただきます」

 

 

ゲンヤはそう言い残し、再び礼を取る。

 

 

「…ありがとう」

 

 

ぽつりとセラはつぶやいた。そのつぶやきは、セラのまわりにいるシエル、キラ、そしてゲンヤにしか聞こえていない。

いや、この三人も聞こえていないかもしれない。

 

だが、つぶやいたセラを見て三人がふっ、と微笑んだことは今のセラに気づくことは出来なかった。

 

 

「…と、今はこっちだな。アークエンジェルはこれから発進する。パイロットはすぐに所定の位置につけ、というラミアス艦長の指示だ」

 

 

「了解いたしました、准将殿?」

 

 

マリューからの伝言を伝えると、からかうようにシエルがセラに返答した。

セラは眉を顰めてシエルを見て、非難するように口を開いた。

 

 

「シエル…」

 

 

「あ、ごめんなさい…」

 

 

申し訳なさそうに謝るシエルを見てから、セラは翻って愛機、リベルタスの方に向かっていく。

そんなセラの後姿を、三人は見つめていた。

 

 

「…気に障ったかな」

 

 

「何か、ピリピリしてるよね、セラ」

 

 

シエルとキラがセラの方を見ながら言う。

今のセラは、どこかピリピリしている。いつものセラなら、先程のシエルのからかいに対してからかいで返すという余裕を見せていたはずだ。

 

今のセラには、余裕がないように見える。

 

 

「…あの戦闘から帰ってきた後、顔色が悪かったことと関係があるのかな」

 

 

心配げに表情を歪め、つぶやくシエル。

そんなシエルに、年長者であるゲンヤが声をかける。

 

 

「ヤマト准将が心配なことはわかります。聞けば、ルティウス二佐はヤマト准将の恋人だとか」

 

 

「え!?えっと…その…」

 

 

ゲンヤの直球な言葉に、シエルの顔が真っ赤に染まる。

その様子を見ていたキラが、ぷっ、と笑いを漏らす。

 

本当に、どこまでも初々しさが抜けないカップルだ。

 

 

「ですが…、今は目の前の戦闘に集中しましょう。この戦闘は、人類の未来を賭けるものになるかもしれないのですから」

 

 

「…はい」

 

 

ゲンヤの言う通りだ。今はもうすぐ行われる戦闘に集中しなければ。

セラのことも心配ではあるが、そのことに気を取られてしまえば自分だって危なくなるのだから。

 

 

「…じゃぁ、行こうか。僕たちも早く機体に乗り込もう」

 

 

シエルとゲンヤの話が終わったと判断したキラが、二人に声をかける。

アークエンジェルのエンジン音が大きくなってきた。もうすぐ発進するだろう。

 

なら、いつでも自分たちが発進できるようにこちらも準備を終えておかなければ。

 

三人はそれぞれの機体に乗り込む。

それだけではない。第一小隊のメンバーたちもそれぞれムラサメに乗り込んでいく。

 

アークエンジェル、オーブの戦闘準備は完了。

そして、アークエンジェルもゆっくりとその巨体を動かし始めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「射程範囲内まで、残り二千です」

 

 

メイリンが口を開き、報告する。

その声を聴いた瞬間、タリアは素早く判断して指示を出した。

 

 

「コンディションレッド発令、対艦、モビルスーツ戦闘用意!」

 

 

タリアの指示を受け、メイリンは警報を発令させる。

 

艦橋のモニターには、小さく月の姿が映し出されていた。

もうすぐ戦闘が開始される。

 

タリアは気を引き締める。今度こそ、あの大量殺戮兵器を破壊するのだ。

プラントを、救うのだ。

 

 

 

 

「よし、行くぞ!」

 

 

「「ハイ!」」

 

 

ハイネの力強い声に、シンとルナマリアは応え、そして三人はパイロットアラートからエレベーターに乗り込む、

 

また、あの激闘が繰り広げられるのだ。もしかしたらあの激闘よりもさらに激化するかもしれない。

それを覚悟しなければならない。

 

連合はあの兵器を死にもの狂いで守り切ろうとするだろう。

だが、こちらとてあの兵器の存在を許すわけにはいかないのだ。

 

負けられない。今度こそ、負けるわけにはいかない。

 

 

「気張れよ、お前ら…。今度こそ、最後の戦いにするんだ!」

 

 

そう、これを最後の戦いにするのだ。

あの兵器を破壊し、連合を降伏させる。

 

あれが最終兵器なのは目に見えている。そしてあの兵器さえ破壊すれば、こちらの戦力で基地を落とすことができる。

 

レクイエム破壊が、こちらの勝利条件なのだ。

そしてレクイエムが撃たれることは、こちらの敗北に等しい。

 

 

「守る…。絶対に、守ってみせる!」

 

 

「ええ…。今度は絶対に、あれを破壊する!」

 

 

シンとルナマリアは意気込みながらそれぞれ機体に乗り込んでいく。

 

だが、そんな中シンは懸念に思っていたこともあった。

レイとクレアのことである。

 

二人は、ミネルバに半日滞在すると、すぐにメサイアへと戻っていってしまった。

これは、明らかにおかしい。

 

このままミネルバにいて、今、起こる月の戦いに参戦すべきではなかったのでは?

何故、メサイアへと戻ってしまったのか。

 

 

「レイ…、クレア…」

 

 

二人の力は強大だ。シン自身、もしかすれば自分よりも強いのではとまで思っている。

そんな二人は今いない。二人抜きで戦い抜かなければならないのだ。

 

議長は何を考えているのだろう。あの二人を、こんな時に戻らせて。

 

 

「あの兵器を、破壊するつもりはない…?」

 

 

いや、まさかそんなはずはない。

口に出した言葉を即座に否定する。

 

プラントの脅威となる兵器を破壊しないなどもってのほかだ。あり得ない。

なら、何のために二人を戻したのだろう?

 

代わりでも来るのだろうか?

 

 

「…まさかな」

 

 

そこで、シンの頭の中にある二人が浮かんだ。

オーブ沖での戦闘で介入し、そして戦闘が終わるとどこかに姿を消したあの二人。

 

だが、力は相当なものだった。エース級のパイロットを圧倒するほどの力はあった。

 

彼らが来れば、あの二人の抜けた穴を埋めることは可能なはずだ。

 

 

「…いや、あの二人に頼っちゃダメだ」

 

 

自分に言い聞かせるようにつぶやく。こんな弱気でいたらだめだ。

他人頼りの気持ちでいたら勝てる戦いだって勝てなくなってしまう。

 

 

『もうすぐ、射程範囲内に入ります。パイロットはすぐに発進できるよう準備してください』

 

 

スピーカーからメイリンの声が響く。

言われるまでもない。こちらはいつでも発進できる。

 

シンは目を閉じて、息を深く吸って、ゆっくりと吐く。気を、落ち着かせる。

連合のやり方には怒りを抱いている。だが、その感情を戦闘に持ち込んではダメだ。

熱くなっては、ダメだ。

 

シンはゆっくりと瞼を開く。瞬間、赤く光っていたランプが緑色に変わった。

発進許可が出たことの合図だ。

 

シンの目が勢い良く見開き、操縦桿を握りしめる。

 

 

「シン・アスカ!デスティニー、行きます!」

 

 

まず最初に、デスティニーが勢いよく飛び出していった。

その後にはカンヘル、コアスプレンダーとカタパルトから飛び出していく。

 

インパルスの合体作業が終わり、三機は並んで飛行する。

 

 

「今度こそ、終わらせてやる…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ザフト軍艦隊からモビルスーツが発進しました!」

 

 

「よし、こちらもすぐにモビルスーツを発進させろ。艦隊も発進させ、基地の迎撃システムもすぐに起動だ」

 

 

「はい!」

 

 

ダイダロス基地では、ザフト軍艦隊からモビルスーツが発進したことを察知していた。

すぐにウォーレンはこちらもモビルスーツを発進させるように指示を出し、そしてこちらの艦隊、基地の迎撃システムを起動させるよう命じる。

 

今回の戦闘の第一の目的は時間稼ぎだ。

その理由は、二つある。

 

まず一つは、アラスカからやってくる三人の増援だ。

その三人が来れば、不利と考えられたこの戦闘を互角に持っていくことが可能だとウォーレンは考えている。

 

そして二つ目。それはザフト側の切り札を引き出させることだ。

向こうでも、こちらのレクイエムの様に最大の切り札があるはずなのだ。

あのデュランダルが何も用意していないはずがない。

 

その切り札が、こちらのレクイエムの対抗策だということは簡単に予想できる。

この戦いの最中で、レクイエムを発射させることは避けたい。

 

直後、向こうが切り札を切ってくる可能性が高いからだ。

 

 

(何としても、レクイエムを発射せざるを得ない状況になる前に、向こうの切り札を引き出す。そのためには…)

 

 

そのためには、アラスカからくる増援の力が必要なのだ。

 

かのアウル・ニーダ、スティング・オークレー、そしてステラ・ルーシェ。

彼らのデータを基に更なる強化を施したエクステンデット。

 

その力が間違いなく必要になる。

 

 

「っ!?これは…、四時の方向!アークエンジェルです!」

 

 

「来たか…!」

 

 

ザフト軍艦隊に続いて、アークエンジェルの到着。これは、まずい。

ザフト軍に関してはまだ誤差の範囲内で済ませられるものの、アークエンジェルに関してはあまりにも早い。

恐らく少数精鋭で来たのか。

 

 

(レクイエムを確実に撃つためにも、戦力をつぎ込んでくると思っていたが…!予想が外れた、くそ!)

 

 

焦るウォーレンだが、それでも表情は変えない。

指揮官の動揺は簡単に部下に伝わってしまうのだ。

 

それを防ぐ簡単な方法は、表情を変えないことだ。ウォーレンはそれを心得ている。

 

 

「基地全周囲を警戒しているのだろう?ならば関係はない」

 

 

「は、はい!」

 

 

関係、大ありだ。

ザフト軍艦隊が来ている方向は十一時の方だ。

 

アークエンジェルが来ている方向は逆。つまり、戦力は分散してしまう。

 

これは、予想以上にこちらにとって辛い戦いになりそうだとウォーレンは考える。

 

他の月基地から更なる増援を要請することも頭に入れておく。

 

この戦いは、勝たなくてもいい。負けさえしなければいいのだ。

いや、向こうの切り札さえ切らせればこちらの勝ちなのだ。

 

過酷な戦いではある。だが、勝利条件だけ考えればそう難しいものではないのだ。

ただ、粘ればいい。デュランダルの我慢を、切らせればいい。それだけ。

 

 

(それだけだというのに…、厳しいな…)

 

 

部下たちには見えないように苦笑するウォーレン。

ウォーレンが計画していた流れの中で、一番つらい時が来ているのは明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もう始まっているみたいだな」

 

 

『うん。そろそろ発進しないとね』

 

 

セラのつぶやきにキラが返した。

 

もうすでに戦いは始まっている。こちらも急がなければ。

 

 

「…これは」

 

 

そこで、セラはふと気づいた。

前回の戦闘ではあったものが、この戦闘ではない。

 

 

(クレアが…、いない?)

 

 

そう、クレアの存在を感じることができないのだ。これは、どういうことなのだろう。

 

デュランダルがクレアを退かせたのか?何のために。

彼女の力を、デュランダルが知らないはずがない。

 

この戦闘でレクイエムを破壊しなければ、ザフト側は一気に窮地に陥ることになる。

それをわかっているはずなのに、何故彼はわざわざ貴重な戦力を退かせたのだろうか。

 

 

「…っ」

 

 

そこまで考えた時、セラは思わず顔を顰めた。

 

断末魔が、頭の中で響き渡る。

 

 

(何だ…、何なんだ、これは…!)

 

 

いつから自分はここまでサイコじみた存在になったのだろう。

他者の断末魔が聞こえるなど、普通ではない。

 

 

(まさかこれが…、俺の力とかいうんじゃないだろうな…)

 

 

皮肉気味に笑いながら心の中でつぶやく。

これが自分の力だとしたら、一体、何のための力なのだろうか。

 

ユーレン・ヒビキは、自分を復讐の兵器として作ったのではないのか?

なら、この断末魔が聞こえてくる能力は何だ?

 

 

「…関係、ない」

 

 

そうだ。関係ない。自分はただ、自分の護りたいもののために力を奮うのだ。

それは、それだけは変わらない。変えてはいけないのだ。

 

 

『もうすぐ射程範囲内に入ります。発進許可、出しますよ』

 

 

ミリアリアの声が響く。もうすぐ発進タイミングのようだ。

次に彼女の声が流れた時が、発進の合図だ。

 

セラは、セラたちは待つ。

 

そして、再びミリアリアの声が流れた。

 

 

『発進許可が出ました!ムラサメ隊、第一小隊は発進してください!』

 

 

まず発進するのは第一小隊。

次々にムラサメたちが勢いよく飛び出していく。

 

 

『ヴァルキリー、フリーダム!発進、どうぞ!』

 

 

次はヴァルキリーとフリーダム。カタパルトまで運ばれた二機が飛び出していく。

 

最後は、自分だ。カタパルトまで運ばれていき、目の前に暗闇の宙が覗く。

闇の中でも小さな光が無数に存在しており、どこか神秘さも感じさせる。

 

だが、今のセラにはそんなものを感じる余裕はない。

 

 

『リベルタス!発進、どうぞ!』

 

 

ミリアリアの声を聴き、セラはすぐに操縦桿を倒した。

 

 

「セラ・ヤマト!リベルタス、発進する!」

 

 

リベルタスがカタパルトから飛び出していく。

 

セラは機体を一回転させると、スラスターを開き、光の翼を広げる。

 

目の前には、こちらの存在を察知した連合軍艦隊、モビルスーツ、モビルアーマーが押し寄せてくる。

前回の戦闘以上の質量が襲ってくる。

 

 

「負けるか…!」

 

 

セラはライフルを取り、目の前の連合戦力に向ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

再び、三勢力が月面で遭い見えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ZGMF-X61Sアナト
武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル×2
・ビーム対艦刀
・ドラグーン×10
・高エネルギー収束砲(両腰)
・近接防御機関砲
・ビームシールド

パイロット クレア・ラーナルード

ザフトが開発したZGMFシリーズの第三世代機。
アナトはエキシスターの次世代機であり、近接戦での出力を更に高めた。
それと同時にクレアの高い適性を見とめドラグーンを搭載。遠距離戦でもさらに猛威を振るうようになった機体。
さらにフリーダム、ジャスティスの同時ロックオンシステムをアナトに搭載。
計四十五門の砲火を同時に浴びせることが可能となった。



GAT-X105Bストライク・ブラン
武装
・ビームサーベル
・ビームライフル×2
・レールガン(両肩)
・高エネルギープラズマ砲(両腰)
・ドラグーン×8
・カリドゥス複相ビーム砲
・近接防御機関砲
・ビームシールド

パイロット ネオ・ロアノーク

ストライク・ノワールの兄弟機として開発された機体。
近接戦を重としたノワールとは逆に遠距離戦を重とした機体となっている。
ノワールは装甲を黒に染めているが、ブランは装甲を白に染めている。
ノワールはフランス語で黒。ブランはフランス語で白という意味。
ネオの適性によりドラグーンが搭載されている。


ということでオリジナル機の紹介でした。
ですが、ブランに関してはかなり出番が少なくなりそうです…。



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