機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者 作:もう何も辛くない
かなり遅れてしまいました!
いや、事情はありますよ?
大学の課題とか大学の課題とか課題とか課題とか風邪とか課題とか
そしてついに、皆様が待ち望んでいたあれが…
シンは、ハイネは。いや、ザフト側全ての軍勢がその姿を見て驚きを見せた。
八対の蒼い翼、白い四肢。関節部が金色に輝くなど細部は変わっているものの、見間違うはずもない、あの機体だ。
「フリーダム…?」
シンは呆然とつぶやいた。
心のどこかでは予想していた。
リベルタスが生きているなら、フリーダムも生きていると。
だが、なぜリベルタスがここにいるのにフリーダムがいないのかとも考えていた。
答えは、フリーダムは生きていないからだと結論付けてリベルタスと戦っていたのだ。
しかし、フリーダムは生きていて、それもこのタイミングで現れた。
ハッキリ言って、ピンチだ。リベルタスだけでも二人がかりでようやく有利な状況に持って行けたというのにフリーダムが加わるとなれば…。
「くっ…!」
心にできていた余裕が消え去り、逆に焦りが生まれる。
折角のチャンスを逃しただけでなく、逆に落とされる危機に陥ってしまった。
状況を整理する。
二機がかりでようやく追い詰めることが出来たリベルタスだけでなくフリーダムまで現れた。
さらに、こちらは機体のエネルギーも消耗してきている。
このまま戦えば、間違いなく不利なのはこちらだ。
そして、フリーダムの後方で、アークエンジェルに向かっている白い機体…。
「え?」
そこで、シンは初めてこの場に現れたのがフリーダムだけでないということに気づく。
アークエンジェルの左舷ハッチが開く。どうやら、あの白い機体を収容しようとしているようだ。
だが、それがシンには信じられない。
なぜなら、アークエンジェルが収容しているその機体は、かつて自分たちの仲間が搭乗していたものだったからだ。
「ヴァルキリー…?」
呆然としているシンの目の前で、ヴァルキリーがアークエンジェルに収容された。
「…兄さん」
セラは、やや鋭いものを含んだ声でキラを呼ぶ。
セラの目の前でアークエンジェルに収容されたものを見たからだ。
「…シエルは、何もできない今がとても悔しいと思ってるよ」
「それでもだ」
キラが言い切るか否かのところでセラがきっぱり言い放つ。
どこか自慢のような言い方になってしまうが、恐らくシエルは力を手にすれば戦うと決意するだろう。
紛れもない、自分のために。
だが、それをセラはしてほしくなかった。
自分のために、シエルに苦しんでほしくなかった。
シエルの親しかった仲間が、今、自分たち兄弟の目の前にいる。
自分のために戦うということは、その親しい仲間と戦うということになる。
「わかってる?あの時の俺たちと同じ思いを、兄さんはシエルにさせようとしているんだ」
「…」
キラが黙り込む。何を考えているのだろう。
前回の対戦前半から中盤にかけて、自分たちは親友と殺し合いを続けた。
そして今も、かの親友は記憶が消えた状態で自分たちと敵同士になっている。
この苦しみは、誰にも味あわせたくない。
当然、シエルにもだ。
「でも、シエルは苦しんでると思うよ」
「…」
キラの言葉に、今度は逆にセラが黙り込んだ。
「何かをしたいと思った時、その力がなかったら…、苦しいと僕は思う」
それは、わかる。
自分も…、そして兄も、剣を折られ、何もできなかった時は苦しかった。
…その苦しみを、自分はシエルに与えるというのか?
「…どうすればいいのかな」
わからなくなる。シエルに苦しんでほしくない。苦しむことを選んでほしくない。
だが、何かをしても苦しみ、そして何もしなくても苦しむことになる。
「セラは過保護すぎ。シエルがしたいと思うことをさせてあげなよ」
通信の向こうで、キラは苦笑しているだろう。
セラはキラが言った言葉をゆっくりと飲み込む。
過保護…、自分は、シエルのことを気にしすぎているというのだろうか。
だけど…、シエルのことが心配なのだ。苦しんでほしくないのだ。
「シエルはあの時、セラのわがまま聞いてくれたよね?」
「あっ…」
セラのわがまま、とは、第二次ヤキン・ドゥーエ防衛戦でのあの戦いだ。
セラは、ラウ・ル・クルーゼと一人で戦うと宣言した。
そしてシエルは、そのわがままを認めた。
いつものシエルだったら、間違いなく自分も一緒に戦うと言っていたはずだ。
だけど、シエルは自分に一人で戦わせてくれた。
「…そうだった」
シエルは、自分と一緒に戦うと言ってくれた。
そしてそれと同時に、自分にやりたいと言ったことをさせてくれたのだ。
だったら、自分だってそれと同じことをしなくてはならない。
「そろそろ来るよ。セラ」
セラが心の中で決意を固めた時、キラの鋭い声が聞こえた。
目の前の二機が、体勢を整えてこちらに身構えている。
そして、デスティニーはフリーダムに。カンヘルがリベルタスへと襲い掛かる。
セラとキラも、それぞれ襲い掛かる機体に対して応戦するのだった。
アークエンジェル艦橋内のモニターには、リベルタスとフリーダムが、それぞれカンヘル、デスティニーと応戦している様子が映し出されていた。
そして、戦闘が始まる直前にフリーダムから通信が入っていた。
『マリューさん、ラクスをお願いします!』
艦橋にいる全てのクルーが、フリーダムの後方にいた白い機体を見た。
全員がその機体に見覚えがあった。
白い機体は、マリューが指示して開いたアークエンジェルの左舷ハッチの中に入っていく。
それを見ていたシエルが、何も言わずに立ち上がる。
「シエルさん…」
立ち上がったシエルに、マリューが気づかわしげに声をかける。
シエルは、声をかけてきたマリューに微笑みかけてから、エレベーターの扉に歩いていく。
扉が開き、シエルはエレベーターに乗り込んですぐに目的の階層を設定して向かう。
「…ラクス」
キラが言っていた通りなら、アークエンジェルに収容された機体にはラクスが乗っているはずだ。
そして、ラクスが乗っていたあの機体は…。
シエルは開いた扉からすぐさま飛び出し、格納庫に向かって駆け抜ける。
「ラクス!」
シエルは格納庫に駆け込み、ピンクのヘルメットを抱えた少女を呼ぶ。
ラクスはシエルの声に反応し、振り向く。ラクスは柔らかい笑みを浮かべながらシエルに声をかける。
「シエル」
シエルが走るのを止め、乱れた息を整えながらラクスに歩み寄る。
「大丈夫だった、ラクス?」
「はい。キラの言う通りにしてただ乗っていただけですから」
尋ねたシエルに穏やかに返すラクス。
モビルスーツに乗って地球に降りれば、ザフトの監視網を欺けるだろうというキラのアイデアだったらしい。
それでも、彼女をモビルスーツに乗せるとは…、シエルは本当に驚いていた。
しかし同時に、ラクスを地球に降ろすにはこれしかないだろうという案だ。
何しろ、未だにデュランダルはラクスの命を狙っているのだから。
「シエルこそ、大丈夫ですか?」
「…?」
ラクスの質問に、シエルは首を傾げる。
「大丈夫って…、怪我はしてないよ?」
シエルの体はいたって健康だ。
目に見えるだけでも、普通に歩いているし、包帯なども全く巻いていない。
ラクスは、一体何を心配しているのだろうか?
「お体のことではありません」
「え?」
ラクスは柔らかな笑みを浮かべたままじっとシエルを見つめる。
ラクスの意図を読み取ったシエルは、思わずラクスから目を逸らして俯いてしまう。
そんなシエルを見たラクスの目が翳った。
やはり、ダメなのだろうか。
ラクスがそう思ったその時、シエルは勢いよく顔を上げた。
「大丈夫だよ」
ラクスの目が、見開かれる。
「私は、あれに乗る」
シエルの目が、巨大な白い機体に移される。
「あれは、私の剣」
ずっと共に戦ってきた。
「迷いは、ないよ。私は戦う」
「本当に、よろしいのですか?私は、あなたに強要するつもりはないですわ」
ラクスが、シエルの目を見つめて言う。まるで、何かを定めているかのように。
だが、シエルははっきりと言い放つ。
「もう、決めたの」
もう、シエルは決めていた。
「私はもう、離ればなれにはなりたくない」
どこまでも、彼と共にいると。
シエルは、パイロットスーツに着替えて機体に乗り込む。
ヴァルキリーの発展機となるこの機体は、ヴァルキリーの機動力を超え、さらに遠距離武器をも装備し、オールレンジの戦闘ができるようになっている。
シエルは機体の立ち上げを進めていく過程で、アークエンジェルとの通信をつなげる。
今の戦況がどうなっているのかを知りたかった。
だが、そんなシエルの耳に飛び込む言葉があった。
『四時の方向から新たな機影!数は二!』
「っ!?」
瞬時に、ザフトの援軍だと悟るシエル。だが、数が二というのはどういうことなのかと考え込む。
「あっ…」
すぐに、シエルは考えがつく。間違いない。あの二機だ。
セラとキラを落としたあの、ザフトの新型の二機だと。
シエルは手の動きをさらに早める。
セラとキラは今、ザフトのエース機二機と交戦中。その上にあの二機まで現れるとなると…、急がなければ。
「マリューさん!」
機体の立ち上げを終えたシエルが、艦橋のマリューに呼びかける。
マリューがシエルの顔を見て、目を見開いた。
『シエルさん!?どうして…!』
気を遣ってくれているのはわかる。だが、今はどうしても時間が惜しい。
早く、セラとキラのもとに行きたい。二人の、助けになりたい。
「ハッチを開いてください!今すぐ出ます!」
『でも…!…わかったわ』
初め、渋っていたようにも見えたマリューだが、判断は早かった。
通信を切ったマリューがマードックに指示を出したのだろう。
マードックの声が慌ただしく響いた直後、機体がゆっくりと運ばれていくのがわかった。
カメラの向こうで、ハッチがゆっくり開いていく。
ようやく固まった決意。
迷いは消え、シエルは飛び出していった。
「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」
戦乙女は、再び戦場を舞う。
シンは、目の前で青い翼を広げて向かってくるフリーダムに向かってアロンダイトを振り下ろす。
対するフリーダムも、ビームサーベルを振り上げて応戦してくる。
ぶつかり合う二本の剣は光を迸らせる。
二機は同時に距離を取り、同時にライフルに手をかけた。
だが、先に引き金を引いたのはフリーダムだった。
シンは回避行動を起こし、ビームをかわした直後にライフルの引き金を引いた。
フリーダムもビームをかわし、シンもビームをかわす。
互いの銃撃をかわしながら、互いにライフルを撃ち合う。
「くそっ!このままじゃ…!」
シンは、全く動かない戦況に悪態をつく。
実際、万全な状態ではないこちらが不利なのだ。
デスティニーのエネルギーは、もう三分の一程を切っている。
このままいけば、間違いなく落ちるのはこちらだ。
「補給に行ければ…、だけど…!」
補給に行ければ話は早い。すぐさまシンはミネルバに戻る。
だが、リベルタスと応戦しているハイネの存在がそうさせない。
自分がこの場から抜けてしまえば、ハイネはリベルタスとフリーダムの一斉攻撃に遭う。
言いたくないが、間違いなくハイネは落とされてしまうだろう。
とはいえ、このまま戦っていても…。
詰み、この言葉がシンの頭を過る。
『退がれ』
その時、スピーカーから、全く感情を感じさせない無機質な男の声が響いた。
無感情、無機質。それなのに、全く有無を言わせない力強さのある声に従い、シンは無意識で機体を後方に退がらせる。
直後、視界を真紅の影が横切った。真紅の影は、蒼い翼を広げるフリーダムに襲い掛かる。
フリーダムは突然の乱入者に驚愕したのだろう。動きを急停止させる。
だが、わずかな間に紅い影との間合いを計りサーベルを振り抜いた。
紅い影が振るったハルバートとサーベルがぶつかり合うと、二機はすぐさま後退する。
「何なんだよ…」
つぶやくシンは、近くに後退してきた紅い機体を見つめる。
味方…なのだろうか。先程の退がれという言葉からそう判断するのが道理だろう。
見ると、ハイネの元にも、従来のものより大きなサイズのモビルスーツがいる。
ハイネも自分と同じように何か指示を出されたのだろうか?
『シン・アスカにハイネ・ヴェステンフルスだな?』
先程自分に指示を出してきた声とは違う、男の声が耳に届く。
その声から感じるのは、怒りや憤り。この男が乗っているのは、恐らくあの巨大なモビルスーツ。
あのモビルスーツが対峙しているのはリベルタス。
何か、リベルタスに恨みでもあるのだろうか…?
『お前らは一旦退いて補給を受けてこい』
「なっ…!何であんたにそんなこと命令されなきゃならないんだ!」
ふざけるな。どうして急な乱入者にそんなことを命令されるのだ。
不満に思うシン。だが、次の言葉で燃え上がった怒りが一気に冷める。
『…グラディス艦長に聞いていなかったのか?俺は特務隊、ロイ・セルヴェリオスだ』
『同じく、アレックス・ディノ』
「えっ…!?」
驚愕するシン。通信から声は聞こえてこないが、ハイネも恐らく驚いているだろう。
そして、シンは思い出す。ミネルバがオノゴロにつく少し前にタリアが言っていたことを。
『戦闘に入って少し時間が経ってからという話だけど、議長が言うには援軍が来るという話よ』
タリアが言っていた援軍とは…。
「あっ…、でも、たった二人なんて…」
『それに、特務隊がくるなんて聞いてないぞ。それに、アレックス・ディノなんて奴は聞いたことがない。それにセルヴェリオス、お前もフェイスになったなんて聞いていない』
ハイネのどこか低く鋭い声が耳に届く。
その通りで、議長から彼ら二人のことなど聞いたことすらなかった。
同じフェイスであるシンやハイネに一言いってくれても良かったはずなのに。
『…ともかく退がれ。ハッキリ言って、今のお前らは邪魔だ』
「なっ…!?」
冷めた怒りが、再び燃え上がる。
セルヴェリオスというのは、聞いたことがある。
ザフトのエース級パイロットであり、前大戦中期では、ZGMF-X01リーパーを駆り、当時連合最強と謳われたスピリットを倒した。
だが、第二次ヤキン・ドゥーエ戦役でヴァルキリーに落とされる。
それでも、重傷を負いつつも奇跡の生還を果たした。
シンが聞いた話ではここまでだ。そこからのロイ・セルヴェリオスについては知らない。
どんなに良いパイロットだからといって、なぜそこまで言われなければならないのか。
この男は、今までの自分やハイネ。ミネルバの活躍を知らないとでもいうのだろうか。
『この二機を落とすのは俺たちだ。お前らは…、早くどけ』
「っ!あんた…!」
ずいぶんな物言いだ。勝手に好き勝手言わせて堪るかと、シンは何か言い返そうとする。
だが、それは突然響いたアラートによって遮られた。
『っ!なんだ!?』
『…来たか』
驚愕するハイネの声。そして、まるで何が来たのかを知っているかのような物言いのロイ。
そして、シンたちはこちらに向かってくる白い機体を目に入れた。
「…っ!?」
シンはその機体を確認してさらに驚愕する。
「どうして…、何でなんだよ…」
先程、アークエンジェルに収容されたところを見て、どこか予想はついていた。
だが、こうして対峙すると、やはり悲しみは襲ってくる。
「シエル…!」
多分、乗っているのはシエルだろう。
アークエンジェルに収容され、そしてもう一度出撃したに違いない機体。
そして、シエルはアークエンジェルにいたはず。
『…シン、戻れ』
「ハイネ!?」
ハイネに命令されるシン。
何故だ。何故ここで戻れと命令する。
『ここで一番落とされる可能性が高いのはお前だ。エネルギー、もうほとんど残ってないだろう?』
「…けど!」
確かに、デスティニーのエネルギーはほとんど残っていない。
だが、ここで戻りたくない。こんな所で、戻りたくない。
『行け、シン!補給が終わったら、また戻って来い』
「ハイn…!…わかった」
反論しようとするシンだが、踏みとどまってハイネの言葉通りに戻ることに決める。
冷静になって考えてみれば、当然のことなのだから。
「…」
機体を後ろに向けながら、シンはリベルタスの傍らで停止したヴァルキリーを傍目で見る。
「くそっ…」
小さく悪態をついてから機体を進ませた。
「…ハイネ・ヴェステンフルス。お前も行け」
「そういうわけにもいかないだろ。俺が戻ったら数で不利になるぞ」
「…」
シンが戻っていってからのハイネとロイの会話。
ロイも、数で不利になるのはいけないと思っているのだろう。ハイネについては何も言わない。
カンヘルは、まだ出撃してそう時間が経っていないため、エネルギーにはまだ余裕がある。
ハイネは操縦桿を握りしめている掌に力を込める。
ここから先、少しでも気を抜けばあっという間にやられてしまうだろう。
今まで経験したこともないほど過酷な戦いになるだろう。
だが、負けない。負けたくない。
たとえ、立ちはだかるのがかつての仲間でも、それは変わらない。
ハイネは自分の前で立ちはだかる三機を見据えた。
後方からグフが、こちらに向かってきながらをビームガンを連射してくる。
カガリは機体を旋回してかわし、逆にライフルのビームをグフに浴びせる。
オノゴロ島に取りつこうとするグフを撃ち落としながら、カガリは国防本部へと向かっていた。
視界に国防本部の建物が見えてきたところで、戦闘に入ったすぐに分かれたムラサメ隊とキサカが合流した。
『カガリ!』
キサカがカガリに声をかけてくる。
キサカの意図は、カガリにもわかっている。
「国防本部に降りる!援護してくれ!」
命令しながら、カガリは国防本部へ一直線に機体を降下させる。
だがその時、大地から突然飛び出すモビルスーツの姿が見えた。
地中巡航型モビルスーツジオグーンである。
地中から攻めてくるなど、カガリすら頭になかった。
空のモビルスーツを迎撃していたアストレイが、一瞬にしてビームを浴びせられ爆散する。
さらに、ジオグーンは国防本部を狙う。
「させるかっ!」
そうはさせない。
カガリはビームサーベルを抜き放ち、ジオグーンを切り裂いた。
何とか国防本部を守ることが出来たという喜びに浸る暇はない。
カガリは息をつく間もなくベルトを外し、コックピットを飛び出す。
外に出た所で、カガリを追いかけてきたキサカと合流。
二人は急いで国防本部に駆け込んだ。
急げ、急げと胸の中でカガリを急かす声が聞こえる。
何とかその衝動を抑えながらカガリは司令室に向けて走る。
「ユウナっ!」
そして、自動扉が開き、カガリは司令室に飛び込んだ。
焦りに表情を曇らせていた将校たちが、カガリの姿を見た途端表情を明るくさせる。
「カガリ様!」
一斉に、将校たちがカガリの名を呼ぶ。
そんな中、将校たちに囲まれ、拘束されて尋問されていたユウナが腰を浮かせた。
「カガリぃーっ!どうして…、こんなのひどいよーっ!」
顔は腫れあがり、片目がその腫れによって細目になっている。
端正な顔つきが、見る影もない。
「あんまりだよカガリぃっ!僕は一生懸命、君の留守を守っていたのに!」
留守を、守るだと?
瞬間、カガリの心は沸騰した。
何が留守を守るだ。お前らが、私を追い出したのだろう。
容赦なく、カガリは拳をユウナの顔に叩きつけた。
「へぶぅっ!…か、かがり?」
情けない悲鳴を上げ吹っ飛ばされたユウナをカガリは冷たい目で見つめた。
戸惑うの表情を見せるユウナ。…本当に、この男は反省していないようだ。
「…お前は、何をしたのかわかっているのか?」
「え…」
目を丸くするユウナ。何も、わかっていない。
怒りを通り越して、呆れの念すら抱く。
「お前だけを悪いとは言わない…。ウナトやお前…、首長たちと意見を交わし、おのれの任を全うできなかった私も…」
「かがり…」
カガリの怒りを浴びて、ユウナは這いずって後ずさる。
「だが、これはなんだ!?」
ついに声を荒げるカガリ。モニターに指を突き付けた。
ユウナの口が、パクパクと開閉する。
「なぜあんな回答をした!なぜジブリールを庇った!こうなることがわからなかったとでもいうのか!」
「あ…あ…」
モニターに映る、必死に国を護ろうと奮闘するモビルスーツ。燃え上がる大地。
こんな事態を引き起こした目の前の男に。そして、何より何もできなかった自分に怒りが湧いてくる。
「意見が違っても…、国を護ろうとする意志は、同じだと私は思っていた…!」
この男たちは、本気で国を護ろうとなど思っていなかったのだ。
ただ、自分の立場が悪くなることを恐れていただけだったのだ。
それを見抜けなかった自分に、どうしても腹が立つ。
「いや、だから…それは…」
目を彷徨わせながらおろおろするユウナ。
…自分を丸め込もうとする言葉を探そうとしているのは、目に見えてわかる。
ユウナの襟元をつかみ、強引に立ち上がらせる。
「言え、ジブリールはどこだ。…この期に及んでも、まだ奴を庇い立てするか!」
「だ、だから言ったじゃないか!僕は何もしてないって!」
目を白黒させながら喚くユウナ。
「ユウナっ!」
ユウナを睨みつけるカガリ。どうしてもこの男は、どこまでもこの男は、救いようがないのか。
「ほ、本当に知らないんだ!僕は!確かにこの国にはいたよ!でも今どこにいるのかは、僕は知らないんだっ!」
「…」
もう一度睨みつける。
…どうやら本当に知らないみたいだ。そもそも、ここまで頑強に奴を庇うなどこの男はしないだろう。
もし知っていたら、とっくにジブリールの居場所を吐いていたはずだ。
荒っぽくカガリはユウナの体を突き放しながら言い放つ。
「もういい…。連れていけ」
カガリの言葉に、ユウナは呆然とした表情を見せる。
「え、そんな…。カガリ!僕も…」
ユウナの両腕を、二人の将校が絡めとる。拘束されたユウナはそのまま連れていかれてしまう。
「ま、待ってよカガリ!どうして!何でだよ!き、貴様ら、僕が誰なのかわかってるのか!?僕はユウナ・ロマ・セイランだぞ!セイランの跡継ぎだぞ!?ま、待て!嫌だ!嫌だぁ~~~~~~~…」
喚きながら抵抗するも、道楽息子ではどうすることもできずに連行されていく。
司令室に、ユウナの悲鳴が情けなく響く。
しかし、厄介なことになった。ジブリールの居場所がわからないとなると、ザフトにその身柄を引き渡すまで時間がかかってしまう。
それにもし、奴を取り逃がすという事態になってしまったら…。
懸念を振り払い、カガリは近くにいた将校に問いかける。
「カグヤの封鎖は完了しているな!?」
「ハッ!」
マスドライバーカグヤ。ジブリールがこの国に逃げ込んできたのは、間違いなくそれが目的だろう。
マスドライバーを使い、宙に逃げ、そして月の連合勢力と合流する。奴の目的は間違いなくそうだ。
だが、そのカグヤは封鎖してある。ジブリールが宙に逃げるということはまずあり得ないと考えていいだろう。
「ともかく、一刻も早くジブリールを捕まえるんだ!」
キサカが力強く命じ、カガリも言葉をかける。
「諦めるな!押し返せば停戦への道も開ける!そのことだけを、今は考えろ!」
「ハッ!」
司令室に再び緊張が張り詰める。
ジブリールを捕まえ、ザフトに押し返せばザフトがオーブを攻撃する理由がなくなる。
そして、ロゴスの頭領であるジブリールをザフトが捕らえたとなれば、戦争もそれで終わる。
終わらせるのだ。ここで。
カガリはそれだけを考え、将校たちに指示を送るのだった。
>なお、今回で戦うとは誰も言っていない
ORB-03Vリープ・ヴァルキリー
パイロット シエル・ルティウス
武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル×2
・遠距離高エネルギービーム砲
・高エネルギープラズマ収束砲(両腰)
・ビーム対艦刀
・カリドゥス複相ビーム砲
・ビームシールド
・近接防御機関砲
元々この機体の理論は出来ていたのだが、シエルがヴァルキリーを持っていってしまったためデータ不足となり、完成とまでは行かなかった。
だが、ヴァルキリーがアークエンジェルに収容されたため不足していたデータを採取。
完成に至ることが出来た機体。
リベルタスと同じく、遠距離装備が不足していたヴァルキリーだが圧倒的な火力を誇る機体となった。
エターナルに機体があった理由は、セイランなどに隠蔽して作成することがリベルタスで限界だったため。