機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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因縁の二人が激突します


PHASE40 守るための戦い

キラが決意を固め、ルージュのOSを設定しているころ、エターナルは全速で降下軌道に向かっていた。

ナスカ級が後を追ってくるが、エターナルのスピードには追いつけない。

しかし、ナスカ級のハッチから次々とモビルスーツが吐き出される。

 

モビルスーツは加速してエターナルに迫り、背面のポッドを開いてミサイルを発射してくる。

 

 

「ミサイル来ます!」

 

 

ダコスタは、背中に冷たいものを感じながら告げる。

 

 

「迎撃!面舵十、下げ舵二十!」

 

 

だが、バルトフェルドは冷静に迎撃を命じる。

エターナルの迎撃システムがミサイルを撃ち落とすが、船体付近で爆発したため艦内に衝撃が奔る。

 

その間に、ガナーザクウォーリアがオルトロスをエターナルに向けて放つ。

エターナルは何とか回避に成功するものの、熱線が船体をかする。

 

 

「モビルスーツをとりつかせるなよ!対空かかれ!」

 

 

発進したザクとグフが、次々にミサイル、ビームをエターナルに向けて放ってくる。

迎撃システムと対空ミサイルが何とか相手の攻撃を阻んでいるが、その攻撃は確実にエターナルのスピードを鈍らせている。

 

ザクとグフの包囲によって、エターナルの加速が鈍っている間に後方からナスカ級も迫ってきている。

ナスカ級がエターナルに艦砲射撃を浴びせてくるが、操舵士が舵を取りかろうじて回避する。

 

しかし、絶え間なく火線がエターナルに迫ってくる。

これでは、ポッドを守り抜くことが出来ない。

 

バルトフェルドは、決断する。

 

 

「くそっ、俺が出る!」

 

 

「隊長!?」

 

 

艦長席から勢いよく立ち上がったバルトフェルドが、告げながら艦橋の出口に向かう。

 

あの数のモビルスーツを相手に敵うとは思っていない。

だが、少しでも時間を稼ぐことが出来れば…。

 

 

「私も行くわよ、アンディ」

 

 

「アイシャ…、だが」

 

 

アイシャも席から立ち上がり、バルトフェルドにその身を寄せる。

バルトフェルドは、ダメだと告げようとするのだが、アイシャの目を見てその言葉を飲み込んでしまう。

 

 

「私は、どこまでもあなたと一緒にいたいの」

 

 

「…わかった」

 

 

この人には生きてもらいたい。そう思っていたのに。

どうして共にいてくれると言ってくれたことに安堵感を抱いているのだろう。

 

 

「よし、俺たち二人でうるさいのを追っ払う!とにかく距離を稼ぐんだダコスタ!エンジンを撃たせるなよ!」

 

 

「はい!」

 

 

命じながらバルトフェルドとアイシャは艦橋を出て行く。

エレベーターに乗りながら、バルトフェルドは口を開く。

 

 

「…馬鹿だな、君は」

 

 

「何とでも」

 

 

穏やかな笑みを浮かべて言ってくるバルトフェルドに、アイシャも穏やかな笑みを浮かべながら返す。

 

そして、二人はそれぞれの機体に乗り込んで開かれたハッチから勢いよく飛び出していく。

バルトフェルドはガイア、アイシャはムラサメ。バルトフェルドのガイアはVPS装甲を入れ、朱に装甲が染められる。

 

 

「いいかアイシャ!艦から離れるな!」

 

 

「ええ!」

 

 

アイシャに指示を出して、バルトフェルドはエターナルをオルトロスで狙うザクに向かっていく。

ビームサーベルを抜き、ザクの両腕を斬りおとす。即座にライフルを抜いてバルトフェルドはザクを撃ち抜く。

 

 

「くそっ!」

 

 

艦橋から見てわかっていたことだが、相手のモビルスーツの数が本当に多い。

これだけの数を相手に、本当に耐えられるのか不安になってしまうほど。

 

 

「ちぃっ!」

 

 

バルトフェルドは機体を四本足形態に変形させ、傍にいたグフを踏み台に駆け、展開したビームブレードでその先にいたザクを斬り裂く。

 

いや、やらなければならないのだ。何としても。あれを、届けて託す。

 

 

「ポッドの射出ポイントまで、あとどのくらいですか?」

 

 

揺れる環境の中で、ラクスが艦長席に座するダコスタに問いかける。

 

 

「あと二十…、いや、二十五です!」

 

 

「どうかそこまで、頑張ってください!」

 

 

ラクスが、祈るような声で頼み、ダコスタをはじめとしたクルーたちが強く頷く。

 

そして、エターナルのまわりでは激しい戦闘が繰り広げられていた。

 

 

「このぉっ!」

 

 

ライフルで、一機のグフを撃ち落としす。直後、ガイアのまわりをザクとグフが斬語で挟み込んでくる。

だが、バルトフェルドは機体を変形させてザクの方に突っ込んでいく。

 

ザクから放たれたビームをかわし、ザクを踏み台にして飛び上がる。

再び機体を変形させてライフルでザクを撃ち抜く。

 

今、バルトフェルドが駆るガイアはミネルバに収容されてそのままプラントに送り届けられるはずだった。

だが、その過程でクライン派が回収し、ファクトリーに送って調整された。

 

かつて、バクゥやラゴウという獣型モビルスーツを操っていたバルトフェルドには肌が合うものだった。

 

と、バルトフェルドの視界の中、エターナルを挟んで向こう側でオルトロスを構えたザクが見えた。

ここからでは、間に合わない。バルトフェルドは。

 

オルトロスが熱線を吐き出そうとしたその時、バルトフェルドのものとは違う光条がオルトロスを撃ち抜いた。

アイシャが駆るムラサメのものだ。

 

オルトロスを撃ち抜かれたザクが、まわりのザクとグフを引き連れてムラサメに襲い掛かろうとする。

バルトフェルドは慌ててアイシャの援護に向かおうとするのだが…。

 

 

「っ!」

 

 

ガイアの動きが遮られる。こちらへの距離をグフが詰めて来ていた。

バルトフェルドはライフルを向けて迎撃しようとするが、グフはビームウィップをライフルに絡め、電流を流しライフルを破壊する。

 

 

「くぅっ!」

 

 

息つく間もなく、ビームガンがガイアを襲う。シールドを構えて何とか防ぐが、両側から挟むようにザクが迫ってくる。

エターナルを見遣ると、一機のザクによってビームの連射を受けていた。

 

ムラサメは、ザクとグフに囲まれ回避することで精いっぱいのようだ。

 

一刻も駆けつけたいのだが、一対多をサーベルで突っ込んでいくなどセラじゃない限り無理だ。

さらに、機体を変形させる隙すらもない。

 

ラクスを、エターナルを守らなければならない。

あの少女を、デュランダルの秘密と共に葬らせるわけにはいかないのだ。

何としても、守らなければならないのだ。

 

焦りを覚えるバルトフェルドとアイシャをよそに、一機のザクがオルトロスを構える。

その先には、エターナルの艦橋

 

 

「あッ…!」

 

 

「くそぉっ!」

 

 

アイシャが、バルトフェルドが短く叫びをあげる。

これでは、間に合わない。守ることが、出来ない。

 

なりふり構わず、バルトフェルドとアイシャは機体をエターナルとザクの間に向かわせようとする。

その身を犠牲にしても、守り抜こうとする。

 

だがその時、漆黒の空間を切り裂いて一筋に光条が横切った。

オルトロスを発射させようとしたザクが驚いて振り返る。

 

エターナルから発進したモビルスーツはあの二機で全部だったはず。そしてあの二機は仲間が囲んで反撃の隙すら与えていない状態だったのだ。

それなのに、なぜ自分を狙ったビームが放たれた…?

 

そして、驚いたのはザフトだけではない。バルトフェルドもアイシャも驚きを隠せなかった。

二人はカメラを切り替えてビームがやってきたその先を見る。

 

 

「あれは…」

 

 

「ストライク!?」

 

 

思わず目を見開く。なぜ、ストライクがこんな所にいるのだ。

 

驚いている間に、ストライクはブースターを分離させエターナルを狙っていたザクに向かってビームを撃つ。

オルトロスを半ばから撃ち落とされ、さらに機体の制御も失ったザクは回転しながら落ちていく。

 

この機体捌きは…、カガリじゃない。

バルトフェルドは思考する。

 

ならば、セラ?いや、違う。奴なはずはない。

こいつは…。

 

ストライクを駆るパイロットが誰なのかを確信したと同時に、モニターにそのパイロットの顔が映し出された。

 

 

『ラクス!バルトフェルドさん、アイシャさん!』

 

 

「キラ君!?」

 

 

「お前…、何で…!」

 

 

どうしてここに来た。アークエンジェルはどうした。

聞きたいことは山ほどあるが、それを遮ってキラが言う。

 

 

『すみません!でも心配で…!』

 

 

バルトフェルドもアイシャも、思わず苦笑した。

 

キラがここに来るのも仕方ないだろう。あの少女が、こんな危険な目に遭っているのだから。

堪らず来てしまったのだろう。

 

だが、再会を喜んでいる暇はない。モビルスーツ隊がこちらに向かってきている。

あのナスカ級が援軍を頼んだのだろう。新たな機影がレーダーに示され、さらにモビルスーツの数も増えている。

 

モビルスーツ隊から放たれるビームの雨を、ストライクは舞うようにかわして逆にビームをお見舞いさせる。

だが、前大戦中期では最新鋭機だったストライクも今では中型。

火力でも機動力でも、グフにもザクにもかなわない。キラの技量をもってしても、その差はカバーしきれないのだ。

 

ザクのオルトロスから放たれた砲撃が、掲げたシールドごとストライクの左腕を破壊する。

さらに、ライフルを持っていた右腕も持っていかれる。

 

バルトフェルドは、投げ出されたストライクのライフルをキャッチしてストライクを狙っているグフを撃ち抜く。

さらに、アイシャがストライクの前に立ちはだかり、ザクとグフを迎撃する。

 

 

「なら、あなたは早くエターナルに入りなさい!」

 

 

『えっ…?』

 

 

アイシャがキラに叫ぶが、キラは何が何だかわからないという表情になる。

そこに続いてバルトフェルドが命じる。

 

 

「お前の機体を取って来い!」

 

 

キラの表情がはっ、としたものに変わる。

はい、と頷いた後エターナルに向かっていく。

 

途端、ストライクの脚部が被弾するが、エターナルのハッチが開き緊急着艦ワイヤーが機体を確保した。

 

ほっ、と息をつくバルトフェルドとアイシャ。だが、すぐに気を引き締める。

 

 

「もうすぐヒーローの登場だ!それまで、何としても持ちこたえるぞ!」

 

 

「わかってるわ!」

 

 

 

 

 

 

エターナルのハッチに入り、ぼろぼろとなったストライクがゆっくりと運ばれていくのが感覚で分かる。

その時、自分の様子を見守っている桃色の髪の少女が、ガラスを挟んだ向こう側に見えた。

 

その瞬間、安心感が胸を満たす。良かった、無事だった。

 

キラはすぐさまコックピットから飛び出す。扉の横のスイッチを押して扉を開く。

向こう側で髪を揺らしてこちらに向かってくる少女。キラはコックピットを取り、その少女を胸で受け止める。

 

 

「キラっ…!」

 

 

「よかった!ラクス…」

 

 

きゃしゃな体をキラはきつく抱き締める。

そのぬくもりを感じ、温かい気持ちになっていくキラ。

 

 

「ラクス…、無事でよかった…。また、会えた…、それが本当に嬉しい」

 

 

「私もですわ、キラ…」

 

 

声を震わせながら絞り出すキラ、潤んだ目でキラを見上げるラクス。

だが、再会で感慨に浸りたいところだが今はそんな場合ではない。

こうしている今でも、艦は揺れている。

 

キラはラクスから身を離して問いかける。

 

 

「あれは?」

 

 

ラクスの目が一瞬翳った。だが、すぐに身を翻して先頭に立ち、キラを案内する。

 

 

「こちらです」

 

 

先導するラクスの前で扉が開き、二人は格納庫に入っていく。そんな二人の前に巨大な影が現れる。

翼を背負った巨大な天使。

 

キラは、それが何なのかを悟る。フリーダムだ。

細部は違うものの、馴染んだ基本フォルムは見間違うはずがない。

 

 

「…ありがとう」

 

 

キラは傍らにいる思い人にそっと告げる。

 

 

「これでまた、僕は戦える…」

 

 

「キラ…」

 

 

ラクスの目が潤み、今にも消えてしまいそうな儚げな表情になる。

愛するものを、戦場に送り出さなければならない。だが、この人が戦わなければ全員…。

 

そんな矛盾した思いがラクスの胸に満ちていた。

 

 

「待ってて、すぐに戻るから」

 

 

キラはラクスの手を取って微笑みかける。

 

 

「そして帰るんだ。皆の所へ」

 

 

「はい…」

 

 

目を潤ませたまま、ラクスはそっと頷く。直後、キラはラクスにもう一度微笑みかけてからコックピットに飛び込んだ。

電源を入れ、素早く各部にチェックを入れる。

 

蘇ったフリーダム、ストライクフリーダムは息を吹き返してエンジンが入った音がコックピットの中に響く。

基本操作は旧フリーダムと同じだろう。だが、新たに追加された武装もあるようだし、そのことをすぐに頭に叩き込む。

 

この機体には、現在ザフトで最新鋭のセカンドシリーズの技術も流用されている。

元々強力であった機体に更なるパワーアップを施されている分、操縦はかなり困難になっている。

 

 

「…ストライクフリーダム、システム起動」

 

 

だが、やる。出来る。ラクスが授けてくれた新たな剣を操ってみせる。

 

機体がカタパルトに運ばれ、ゆっくりと運ばれていく。

 

 

『進路クリア―。X20Aストライクフリーダム、発進どうぞ』

 

 

ラクスのアナウンスと共に、ハッチの通路のランプが緑色に変わる。

 

その時、ラクスのある言葉をキラは思い出していた。

 

『思いだけでも、力だけでもダメなのです』

 

何かを守れる力、何かを変えられる力が今、自分にはある。

 

 

「キラ・ヤマト!フリーダム、行きます!」

 

 

レバーを倒すとともに、フリーダムのスラスターに火が灯り、ハッチから勢いよく飛び出していく。

PSシステムをオンにすると、フリーダムと同じように装甲が白と青にカラーリングされる。

だが、違うのは関節部が金に色づいている所。

 

戦場に躍り出た新たな機体に、ザフト機が一斉に攻撃を集中してくる。

浴びせられるビームをシールドを展開して受け流し、ザクが放ったミサイルをかわしながらライフルで叩き落とす。

 

キラは、スラスターを吹かせて機体を加速させる。その先には、ザクとグフの姿。

ザクはオルトロスを撃ち、グフはビームガンを連射してフリーダムを落とそうとする。

 

だが、キラは機体を旋回させてそれらをかわしながらさらにフリーダムは加速していく。

そして、腰かあビームサーベルを抜き放ち、すれ違い様に二機のメインカメラを斬りおとす。

 

直後、すぐにサーベルを戻して両手にライフルを持つ。

両手のライフルでまわりの機体の武装、メインカメラを撃ち落としていく。

 

次々とザフト機を戦闘不能にしていくフリーダム、それの一瞬の静止をついてグフがウィップを繰り出しフリーダムの片足にそれを巻き付ける。

それによって、フリーダムの動きが制限される。キラはライフルで反撃しようとするが、その腕も逆方向から襲うウィップに絡めとられてしまう。

 

鞭から流れる電流が、機体を砕こうとしたその時、フリーダムの翼から四方に飛び散る物体が現れる。

それは、フリーダムの翼端、ドラグーンだった。ドラグーンはキラの意に操られ一斉にビームを放つ。

放たれたビームはフリーダムに鞭を巻き付けていたグフを撃ち抜き行動不能にする。

 

更に、キラはフリーダムに搭載されている武装の六門に加え、ドラグーン八基を合わせた十四門の砲門を同時に開く。

十四の砲火が、グフ、ザクの頭部や武装を破壊していく。

 

僅か二分にして、キラはモビルスーツ隊のほとんどを沈黙させていた。

 

 

「バルトフェルドさん、アイシャさん!残りは任せます!僕は母艦を!」

 

 

『わかった!気をつけろよ!』

 

 

キラは、エターナルを追ってきたナスカ級を叩きに機体を向かわせる。

ナスカ級三隻は、フリーダムを狙って全砲門を開く。

 

キラはビームの間を縫うように飛び回って全て回避し、レールガンを放つ。

ビームの雨が止んだその間に、ドラグーンを撒き散らして艦を狙おうとする。

 

 

「…っ!?」

 

 

だがその瞬間、キラの背筋に冷たい感覚が奔る。ずいぶんと感じていなかったこの感覚に覚えがある。

そう、前大戦で、近くにあのクルーゼという男がいた時。そして、戦場の中でムウの存在を感じた時。

それと、同じ感覚が今ここで奔ったのだ

 

 

「これは…!?」

 

 

キラは、すぐに機体を反転。そして、サーベルを抜いて一閃した。

 

振りぬかれたサーベルが、ガツン、と何かにぶつかる。それは、同じくビームサーベルだ。

キラの眼前には、こちらを襲う新しいモビルスーツの姿。

 

キラはすぐに機体を後退させ、そのモビルスーツの姿を改めて見る。

 

 

「まさか…、そんな…!?」

 

 

そして、モビルスーツの姿に見覚えがある。

灰色にカラーリングされ、ずんぐりとした体格の機体。

細部は違うが、それは間違いなくあの機体の発展機なのだろう。

 

ZGMF-X13Aプロヴィデンス

 

その発展機なのだろうその機体が、フリーダムに襲い掛かる。

 

 

 

 

 

 

「くそっ…!」

 

 

レイは、フリーダムにサーベルで斬りかかりながら悪態をつく。

エターナルを落とすために援護に来たレイだったのだが、まさかそこにフリーダムが現れモビルスーツ隊を返り討ちにするなど、議長も予想がつかなかったのだろう。

 

そして、自分の中が告げている。

 

フリーダム、そう、キラ・ヤマトが目の前にいるのだ、と。

 

フリーダムは落としたという報告だったのだが、パイロットは無事だったのか。

となると、セラ・ヤマトも生きているという可能性も出てくる。

 

レイは、サーベルでフリーダムに斬りかかる。フリーダムも、サーベルで対抗し、二本のサーベルがぶつかり合う。

二機は何度もすれ違いながらサーベルを何度もぶつけ合う。

 

その間に、レイはデュランダルから教えてもらった通信コードを入れ、停止しているナスカ級に通信をつなげる。

モニターに、恐らく艦長であろう男の顔が映し出される。

 

 

『な、何だ君は!?』

 

 

目を見開きながら艦長の男が問いかけてくる。

 

 

「俺はザフト軍特務隊所属、レイ・ザ・バレルだ!」

 

 

『と、特務隊…!?』

 

 

特務隊所属、つまり目の前にいる少年はフェイスということになる。

フェイスということは、司令官の立ち位置にいる自分も命令に従わなければならない。

 

だが、目の前にいるロゴスの一味を見逃すわけにはいかないという気持ちが、フェイスであるレイに向かって口を開かせた。

 

 

『し、しかし!あいつらを…!』

 

 

「何も見逃すわけではありません。俺が残ります。」

 

 

どうやら、目の前の男は誤解をしているらしい。こんな所で、みすみす危険な奴らを見逃すわけにはいかない。

ここで、自分が奴らを討つ。ラクス・クラインも、キラ・ヤマトも。

 

 

「早く行ってください!あなたたちがいても、あの機体には勝てません!」

 

 

そう、大量のモビルスーツを二分足らずでほとんど行動不能にさせたフリーダム。

数が少なくなっている状態で奴を落とせるはずもない。今では、エターナルから出撃したガイアとムラサメの二機相手でもモビルスーツ隊は押されている状態なのだ。

 

レイに一喝された男は、少しの間思考して…、頷いた。

 

 

『了解した。モビルスーツ隊、撤退だ!』

 

 

レイの言葉を受けた男は、通信を切りながら撤退を指示する。

それを見届けたレイは、全ての意識をフリーダムとの戦いに向ける。

 

フリーダムと何度もサーベルをぶつけ合った後、レイはフリーダムと距離を取って背面からドラグーンを射出する。

レイのコントロールを受け、ドラグーンはフリーダムに襲い掛かる。

 

ドラグーンは次々にビームを放ち、フリーダムを追い込んでいく。

フリーダムはビームを全てかわしていくが、体制が少しずつ崩れていく。

 

だが、次の瞬間レイは驚愕する。フリーダムの翼の先端から何かが飛び出したのだ。

小さなユニット。それは間違いなく…

 

 

「ドラグーンだと…!?」

 

 

フリーダムにドラグーンシステムは搭載されていなかったはず。だが、今こうしてフリーダムは、キラ・ヤマトはドラグーンを使用している。

それに、よく見てみるとフリーダムの細部がどことなく変わっている。そこで、レイは悟った。

目の前のフリーダムは、破壊されたフリーダムを修理されたものではない。あらかじめ開発された新しいフリーダムなのだ、と。

 

ならば、細部が変わっているのもドラグーンが搭載されているのも頷ける。

 

レジェンドのドラグーン、そしてフリーダムのドラグーンが二機のまわりを飛び交う。

二基それぞれに対して死の雨が降り注ぐ中、二機はライフルを撃ち合う。

 

 

 

 

「くっ…!どうして…!?」

 

 

目の前にある機体。そして、それに乗っているパイロット。

間違いない、ラウ・ル・クルーゼだ。

 

だが、ラウ・ル・クルーゼはセラが倒した。殺してしまったとセラが嘆いていたのを、よく覚えている。

それなのに、どうして目の前にあの男がいるのだ…?

 

 

『キラ・ヤマト…!』

 

 

その時、声が聞こえてきた。通信を通してではない。頭の中から直接、響き渡る。

 

 

「誰だ…、誰なんだあなたは!?」

 

 

キラは、まわりを囲むドラグーンを無理やり振り切り、そしてドラグーンを除いた六の砲門を同時に開く。

六条の砲火がレジェンドを襲うが、レジェンドは急上昇してかわす。

 

 

『お前には分かるだろう。俺が誰なのか』

 

 

「っ!?」

 

 

声は、語る。キラに、自分が何者なのかを。

 

 

『俺は…、ラウ・ル・クルーゼだ…!』

 

 

キラは、振り払うようにサーベルを抜き放つ。レジェンドもまた、サーベルでフリーダムに斬りかかり、二機は一度すれ違い、今度は鍔迫り合いを始める。

僅かな間の後、二機は同時に距離を取り、そして同時にドラグーンを向かわせる。

 

 

『キラ!』

 

 

襲い掛かってくるドラグーンを警戒していた時、スピーカーからバルトフェルドの声が聞こえる。

 

 

「バルトフェル…っ!」

 

 

キラはその声に答えようとするが、降りかかってくるビームの雨がそれを遮る。

襲い掛かるビームをかわし、展開したビームシールドで防ぐ。

 

一方のレジェンドにも、フリーダムのドラグーンが襲い掛かる。

レジェンドは、旋回しながら包囲するドラグーンを掻い潜っていく。

 

 

『キラ!大丈夫か!?』

 

 

再び声をかけてくるバルトフェルド。キラは機体を動かしながらその声に答える。

 

 

「バルトフェルドさん!アイシャさん!艦に戻って離脱してください!」

 

 

『キラ君!?』

 

 

キラの言葉に驚いたアイシャがキラに叫び返す。

間違いなくザフトの最新鋭機であろう機体に取りつかれているフリーダムを心配しているのだ。

 

だが、速くエターナルに離脱してもらいたい。少しでも間違えば、自分は落とされる。そうなれば、エターナルもこの機体に落とされるのは目に見えている。

ならば、自分が時間を稼いでいる間にエターナルに離脱してもらうしかない。

 

 

「行ってください!エターナルが離脱に成功したら、すぐに向かいます!」

 

 

キラは叫んで返す。バルトフェルドとアイシャは少しの間渋るが、機体をエターナルに向ける。

 

 

『わかった。必ず追いついて来いよ』

 

 

バルトフェルドはそう言い残し、二機は並んでエターナルに戻っていく。

二機は収容され、少し時間が経った後エターナルは離脱を開始した。

 

キラはそれを見届けると、目の前の機体に集中する。

 

エターナルが離脱すればこちらの勝ちだ。

あの機体、プロヴィデンスの発展機ならばそう足は速くないはずだ。

エターナル、そしてフリーダムの機動力には追いつけないはず。

 

キラはまわりから放たれるビームをかわし、防ぎながらもライフルをレジェンドに向けてトリガーを引く。

一方のレジェンドもキラが放ったドラグーンの包囲をかわしながらこちらに向けてビームを放ってくる。

 

二機は一度、ドラグーンを元の場所に戻る。

そして、レジェンドは背面に戻したドラグーンをこちらに向けてくる。

 

 

「これは!?」

 

 

どうやら、収容した状態でもドラグーンは撃てるようだ。

向けられたビームを、展開したビームシールドで防ぐ。

 

そして、キラは機体を横にずらした後、腹部の金色にカラーリングされた場所。

砲門となっているその場所から砲撃を放つ。

腹部に搭載されたビーム砲カリドゥスがレジェンドを襲う。

 

一方のレジェンドもビームシールドを展開して砲撃を防ぐ。

そして、レジェンドはドラグーンを分離してこちらを狙ってくる。

 

ならば、こちらも、とドラグーンを分離させようとすると…

 

 

『キラ、離脱に成功した!戻って来い!』

 

 

「わかりました!」

 

 

バルトフェルドに指示に従って、キラは機体を後退させる。

ドラグーンに包囲される前に、スラスターを全開にしてトップスピードで駆け抜ける。

 

レジェンドのドラグーンも追ってくるが、フリーダムに追いつかない。

 

 

「…」

 

 

レイは、飛び去っていくフリーダムを見送ることしかできない。

エターナルを討つことが出来ず、フリーダムも逃がしてしまった。

 

 

「…くっ」

 

 

歯噛みしながら、レイはレジェンドをナスカ級が飛び去って行った方向に向ける。

 

逃がしてしまったものは仕方ない。必ず、次の機会がある。

その時こそ、確実にフリーダムを仕留めてみせる。

 

絶対に

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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