機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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少し短いです


PHASE37 渦巻く思惑

ミネルバがジブラルタルに着いてから三日経ったその日、運命の日がやってきた。

ミネルバ含む、ジブラルタルに所属していたザフト軍は進軍を開始していた。

 

目標は、ヘブンズベース。

地球軍、いや、ロゴスの総本山の巨大基地。

そこに向けて、デュランダルは進軍を命じた。

 

ロゴスを、討つために。

 

進軍していくザフト軍だが、その軍勢の中にはザフトのものではない軍艦も混ざっていた。

 

前にも言ったが、デュランダルがロゴスの存在、そしてそれらを討伐するという宣言をしてから、地球の国々、そして元々地球連合にくみしていた義勇軍がデュランダルにコンタクトを求めてきた。

ザフト軍勢の中に混ざっている地球軍艦、それは義勇軍のものだった。

 

そう、後に行われる戦闘。

それは、ザフト対地球軍ではない。

 

ザフト・地球連合軍対ロゴス

なのだ。

 

 

 

 

「要求への回答制限まで残り、五時間…」

 

 

ミネルバ艦橋で、艦長席に座っていたタリアが時計を確認しながらつぶやいた。

ジブラルタルを出発したザフト・義勇連合軍は、すでにヘブンズベースを望むアイスランド沖に布陣を完了していた。

 

タリアが言っていた要求、とは、デュランダルがロゴスに対して提案したものだ。

 

一つ、さきに公表したロゴスメンバーの引き渡し

二つ、全軍の武装解除、基地施設の放棄

等、デュランダルはロゴスに対して提案した。

 

これらの要求を飲めば、武力を行使しないと。

 

 

「…やはり、無理かな?」

 

 

沈黙に包まれていた艦橋に、低い声が響く。

クルーたちが、その声の主に視線を注いだ。

 

声の主、ギルバート・デュランダルに。

 

デュランダルは、ミネルバに乗り込んでいたのだ。

自分は、その場所で。今から何が起きようとも。その現実を、目にすべきなのだ、と。そう言って。

 

タリアも、初めは渋ったが一兵士である彼女が彼に対して逆らえるはずもなく、了承するしかなかった。

 

そして、先程のデュランダルの言葉だが、さきに記したロゴスに対する要求である。

未だ、ロゴスの回答は得られていない。

 

氷の海、上空では民間のヘリコプターも飛び交っている。

 

 

「戦わずに済めば、いいんだがな…」

 

 

デュランダルの言葉通り、戦わずに済めばいい。

対話で、解決できればそれが一番いい。

 

だが、誰もが感じていた。悟っていた。

そんなこと、あり得ないと。

 

残った五時間の後。

間違いなく、今まで経験したことのない激闘が繰り広げられるのだと。

そう感じ取っていた。

 

逃げることはできない。

戦うしか、ない。

 

もう、避けられないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同じころ、ヘブンズベース全区画にはひっきりなしに管制アナウンスが鳴り響いていた。

着々と、戦闘準備が進められているのだ。

 

小都市と言っていいだろう。基地内部を車両が行き交い、各所の隔壁が閉ざされていく。

格納庫に収容されている大量のモビルスーツ。

そのそれぞれにパイロットが乗り込んでいく。

 

 

『第七機動群、配置完了』

 

 

『ニーベルングへのパワー供給は、三十分後に開始する』

 

 

指令室を見下ろせるブース。そこに、ロゴスの当主、ロード・ジブリールはいた。

ジブリールだけではない。ジブリールの他のロゴスメンバーの男たちも、ブース内のソファに腰を下ろしていた。

 

そして、その場の空気はこれから血栓が行われるとは思えないほど優雅なものだった。

テーブルに置かれている紅茶が室内に優しいにおいを充満させる。

ロゴスのメンバーたちは誰もが優雅な衣服に身を包んでいる。

 

 

「通告して回答を待つ、か」

 

 

ジブリールは、背をソファにもたれかけながらつぶやいた。

 

 

「デュランダルはさぞや気分が良い事でしょうよ」

 

 

そして、皮肉に口を歪めた。その顔は、悲壮さなど微塵も浮かべていなかった。

自分は今まさに、包囲されているというのに。

 

 

「しかしジブリール。これで本当に守り切れるのか?」

 

 

不安げに、ロゴスのメンバーが問いかける。

そう、これが普通の反応なのだ。

 

圧倒的質量が、自分を囲んでいるのだ。

このまま戦えば…、本当に勝てるのか?

 

不安に思うのが、普通なのだ。

 

 

「守る…?何をおっしゃいますか!我々は、攻めるのですよ!今日!これから!」

 

 

それなのに、この男の自身振りはどうだ。

一体、何を考えているのか。

 

 

「我々を討てば、世界は平和になる?はっ!確かに民衆は愚かです。あんな言葉に惑わされ、ほいほいついていってしまうのですから。だが、だからこそ!我々が奴を討たなければならない!」

 

 

ジブリールの、使命感が感じられる言葉に、メンバーの男たちも感銘を受ける。

深く頷き、口を開く。

 

 

「たしかに、のう…。我らを討ったとて、ただ奴らが取って代わるだけじゃ…」

 

 

それを見たジブリールは、にやりと笑って口を開く。

 

 

「正義の味方や神のような人間など、いるはずもないということを我らは知っています…」

 

 

この世に、そんな人間はいない。

どうせ、心のどこかでは自分たちと同じように欲望を持っている。

それは、デュランダルにだって同じはずだ。

 

あんな甘い言葉を吐いているが、どうせ何かを企んでいるのだ。

自分たちを追い出し、落とした空いた席に座ろうとしている。そんな所だろうとジブリールは考えていた。

 

 

「我らとて、これまで数多くあった危機を乗り越えてきたのです!この危機も…、絶対に乗り切れるはず!いえ…、乗り切るのです!」

 

 

ジブリールは高々と告げながらソファから立ち上がった。

 

 

「準備ができ次第、始めますよ」

 

 

ジブリールは、巨大な窓から指令室を見下ろしながらほくそ笑んだ。

 

 

「見ていろ、デュランダル議長殿…。貴様が浮かべているであろう勝利の笑みを…、絶望の敗者の表情に変えてやる…」

 

 

 

 

 

「…」

 

 

そんなロゴスメンバーのやり取りを、室内で眺めている者がいた。

 

 

「…やれやれ」

 

 

ぼそりと、誰にも聞こえないように小さくつぶやきながら、そっと部屋から退室する。

そして、ズボンのポケットの中から通信機を取り出し、どこかに通信をつなげる。

 

 

「…ネオ・ロアノーク大佐か?」

 

 

つないだ通信の先は、ネオ・ロアノーク。

この戦闘に、一部隊長として出撃するネオ・ロアノーク大佐。

 

 

「話がある…。俺の話に、耳を傾けてくれ」

 

 

ここから、始まるのだ。自分の劇場が。

長かった。ようやく、始められるのだ。

 

ウォーレン・ディキアが、行動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パイロットアラートで、搭乗指示を待つシン。

まだ、この場にいるのは彼一人だ。ハイネもまだパイロットスーツに着替え終わっていない。

そして、ルナマリアも…

 

 

「…あ」

 

 

「…」

 

 

電子扉が開く音がし、シンは目を向けると、ルナマリアがパイロットアラートに入ってきた。

ルナマリアは、ヘルメットを脇に抱えてシンの隣まで歩き、立ち止まる。

 

 

「…すごいね、インパルス」

 

 

「え?」

 

 

ぽつりとルナマリアのつぶやくように言った。

シンは、一度前に向けていた視線を再びルナマリアに戻した。

 

シンが、デスティニーを操縦することとなり、残ったインパルス。

そのパイロットは、ルナマリアが任されることとなったのだ。

 

 

「シンみたいに、扱えるかな…。私…」

 

 

「ルナ…?」

 

 

いつもの覇気がないルナマリア。不安げに俯くルナマリア。

何とか元気づけようと、口を開こうとするシン。

だがその前に、ルナマリアが目を上げる。

 

 

「でも、絶対に負けないから!」

 

 

今度は力強く言う。

 

 

「私…、今まで何もできなかった…。シンやレイ…。ハイネにクレアも頑張ってたのに…」

 

 

「いや!そんなことないよ!」

 

 

また、弱弱しく戻ってしまった声で言うルナマリア。

 

何も、出来なかった。

シンは、力強くそれを否定する。

 

彼女も頑張ってたのだから。

艦を守ろうと、仲間を守ろうと頑張っていた。

 

 

「ううん…、私は何もできなかったの…。あの時の戦闘だって…、私だけが落とされて…」

 

 

あの時の戦闘。ダーダネルスでの戦闘だろう。

あの戦闘で、ルナマリアのザクは破壊されてしまった。

 

 

「ベルリンの戦闘も…、見守ることしかできなくて…」

 

 

機体がないルナマリアは、ベルリンでは出撃できなかった。

いや、たとえ機体があっても彼女は出撃することはできなかったかもしれない。

 

あの時の戦闘は、ほとんどミネルバに出番はなかった。地球軍のモビルスーツは、ミネルバにほぼ目も向けなかった。

甲板で迎撃を行うルナマリアは、はっきり言えばあの戦闘では必要なかったのだ。

 

それが、ルナマリアには分かっていた。

そして、どうしても強くなりたかった。力が欲しかった。

 

 

「インパルス…。これがあれば…、シンの隣で戦えるのよね…?」

 

 

「ルナ…」

 

 

シンは、ようやくルナマリアの本音を聞いた気がした。

 

 

「これを上手く扱えれば…、シンを…、ハイネも、皆を守れるのよね?」

 

 

今まで、弱気な素振りを見せてこなかったルナマリア。

そんな彼女が今、弱い彼女を見せている。

 

 

「絶対に…、負けない…」

 

 

不安なのだ。

これまでザクなどの量産機しか乗ってこなかった彼女が、いきなりワンオフ機のパイロットに抜擢されたのだから。

それも、インパルス。ZGMFシリーズ二世代目の中で、トップのスペックを誇る機体。

 

シンだって、今のルあまりあの立場にいれば不安で仕方なかっただろう。

 

さらに加えて、初陣がまさに決戦と言える戦いなのだから。

 

 

「…ルナ」

 

 

シンは、ルナマリアの両肩に手を添え、こちらに向かせた。

 

 

「シン…?」

 

 

「…」

 

 

不思議そうに見上げるルナマリアを、引き寄せた。

 

 

「あ…」

 

 

すっぽりとシンの両腕に収まったルナマリア。

少し頬を染め、シンを見上げる。

 

 

「大丈夫」

 

 

「え…?」

 

 

つぶやいたシン。聞き返すルナマリア。

 

 

「ルナなら、ちゃんと扱える。俺が保証する」

 

 

「シン…」

 

 

シンははっきり言い切るが、ルナマリアの表情は不安げなもののまま。

 

 

「おいルナ。前パイロットだった俺の言葉が信じられないのか?ルナなら絶対大丈夫だって!」

 

 

ルナマリアをそっと離し、今度は正面から目を合わせて言い切るシン。

 

 

「…うん。ありがとう」

 

 

何よりも、シンの言葉だったからなのかもしれない。

感じていた不安が、まるで氷が解けていくかのように消えていく。

 

インパルスを操縦していたシンの言葉だったから…、そうだそうに違いない。

 

だから、今、やけに早くなっている胸の鼓動など気のせいに過ぎないのだ。

以上、ルナマリアのないシンのつぶやき。

 

 

「お?何やってんだお前ら?」

 

 

「うわぁっ!?」

 

 

「ひゃぁっ!?」

 

 

扉が開く音がした。

二人は振り向き、その姿を見とめ、互いに離れようとするも時既に遅く目撃されてしまった。

 

シンがルナマリアの両肩をつかみ、二人が見つめ合っているところを。ハイネに、目撃されてしまった。

 

 

「…なるほど。俺はお邪魔虫だったのかな?」

 

 

ハイネが、にやりと笑みを浮かべながら言う。

シンとルナマリアが、顔を真っ赤にさせながら手を横に振る。

 

 

「い、いや!そんなんじゃないんです!」

 

 

「そうですよ!シンはただ、私を元気づけようと…」

 

 

「なるほど?それを経てのあれか…」

 

 

「ちょ、ルナ!」

 

 

ルナマリアが、墓穴を掘った。ハイネがつかさずそこを突く。

 

もうすぐ始まるであろう激闘を前に、三人は和やかな気持ちを持っていた。

わいわいとしたやり取りをしながら、こう思う。

 

自分たちは大丈夫。自分たちは、絶対に負けない。

 

激闘は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらヘブンズベース上空です!デュランダル議長の示した要求への回答期限がもうすぐそこまで迫ってきています!』

 

 

アイスランド沖上空から移す映像と共に、レポーターの声が流れる。

 

レポーターの言う通り、デュランダルが示した期限までもう残り少ない。

だが、連合、ロゴスは何の動きも見せていなかった。

 

 

『このまま刻限を迎えることになれば、デュランダル議長を最高司令とした、ザフト及び対ロゴス同盟軍によるヘブンズベースへの攻撃が開始されることとなります!』

 

 

カメラが、今度は陸地に向き、大小の建造物が並ぶ巨大基地をズームする。

これらの映像、そして言葉がもう一時間以上繰り返されている。

 

だが、その時。カエラは基地の異変を捉えた。

 

こちらを向いて防衛ラインを引いていた連合艦隊から、無数の何かが飛び上がったのだ。

 

 

「敵軍、ミサイル発射!」

 

 

同時に、ミネルバのバートが叫び声を上げる。

その言葉に、艦橋が凍り付いた。

 

アーサーが素っ頓狂な声をあげ、デュランダルまでも信じられないように声をあげた。

 

そんなミネルバ艦橋のクルーたちをよそに、連合艦隊から放たれたミサイルは猛威を振るう。

全く何の準備をしていなかった対ロゴス同盟軍の艦隊にミサイルは容赦なく降り注ぐ。

高々と炎の柱がそこかしこから上がっていく。

 

戸惑い、疑問。そんな感情を浮かべ始めたクルーたちをさらによそに、ヘブンズベース基地から光点がはじき出されていく。

 

 

「モビルアーマー、モビルスーツ発進!攻撃を開始されました!」

 

 

モニターには、迫りくるモビルアーマー群、モビルスーツ群が映し出される。

回答を待つ、対ロゴス同盟軍に、問答無用で攻撃を仕掛けてきたのだ。

 

タリアは、歯噛みする。

よくよく思考を働かせれば、すぐに予測できることではないか。

話が通用するような相手ではないと。

 

その気になれば、平気で民間人をも焼き払うような輩なのだから。

 

 

「何ということだ…、ジブリールめ!」

 

 

デュランダルが、語調荒くジブリールを罵る。

 

 

「議長、これでは…!」

 

 

「わかっている」

 

 

議長の傍にいた将校がデュランダルに声をかけ、デュランダルもその声に答える。

 

 

「やむを得ん。我らも直ちに戦闘を開始する!」

 

 

途端、艦橋が慌ただしく動き始める。

 

 

「降下揚陸隊、すぐに発進準備をさせろ!」

 

 

対ロゴス同盟軍上部がようやく動き出す。

だが、少し遅い。

 

いきなりの先制攻撃を受け、動揺がほぼ全域に伝わった同盟軍に意志を伝えるのはかなりの時間を要するだろう。

それでも、やるしかないのだ。

 

 

「コンディションレッド発令!総大戦用意!」

 

 

タリアも、自ら命令を下す。

 

モニターには、次々に襲い掛かるモビルスーツモビルアーマーが映し出されている。

そして、こちら側からも少しずつだがモビルスーツが発進していく。

 

だがそんな中、タリアは映像の奥で絶望を見た。

 

 

「…っ!議長、あれは!」

 

 

「むっ」

 

 

すぐに、デュランダルにそれの存在を伝える。

 

それは、ベルリンでその姿を見せた超巨大破壊兵器。デストロイ。

 

 

「同型機、五機確認!」

 

 

そのデストロイが、五機もいる。

一機だけで都市を焼け野原にすることが出来る兵器が、五機。

 

 

「ええっ!?あれが五機!?」

 

 

アーサーが驚愕の叫びをあげるのと同時に、五機のデストロイがその巨大な砲塔に火を吹かせた。

放たれた計十の光条が、艦隊を薙ぎ払う。再び、炎の柱が上がり、モニターに映し出されたその光が艦橋を照らす。

 

僅か一瞬で、数十の艦艇が消えうせる。

 

 

「何ということだ…!」

 

 

デュランダルが唇をわなつかせる。

その直後、パイロットアラートから通信が入る。

 

 

『艦長、これは…?』

 

 

モニターに映し出されたハイネが、わけがわからないという表情で問いかけてくる。

その後ろには、同じような表情を浮かべたシンとルナマリアが。

 

 

「向こうからいきなり撃たれたわ!すでに戦闘状態よ!」

 

 

『えぇっ!?』

 

 

タリアは手短に状況を伝え、モニターの向こうでパイロットたちが驚愕の声を上げる。

 

 

「あなたたちも、発進準備を急いで!」

 

 

タリアが命じている中にも、デストロイはミサイルをばら撒き、砲塔からビームを放ち、進攻してくる。

 

 

「じきに降下揚陸隊が来る!それまで耐えるんだ!」

 

 

デュランダルが励ますように声を上げる。

だが、それをジブリールが見透かしているなど、知っているようなものがいるだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空に赤く燃える点がいくつも映し出される。

 

 

「直上にザフト軍降下ポッド出現!ルート二六から三一に展開!」

 

 

オペレータが告げる。

降下ポッドは上空から押し包むように基地に近づいてくる。

 

が、それに対して動揺する者はこの場にいなかった。

 

 

「ニーベルング、発射用意」

 

 

ガラス張りの貴賓室から見下ろすジブリールに、笑みが浮かぶ。

 

 

「糾弾もいい。理想もいい。だが、全ては勝たなければ意味はない…」

 

 

デストロイが破壊に限りを尽くしているのを見ながら、つぶやく。

 

 

「すべては、勝者が手に入れる。そう決まっているのだよ…?デュランダル」

 

 

卑怯者と罵られたっていい。だが、自分は勝つのだ。勝者になるのだ。

誰が避難しようと、勝ちさえすれば全てもみ消すこともできるのだ。

 

この世は、勝者がすべてなのだから。

 

 

「偽装シャッター開放」

 

 

ジブリールがほくそ笑む間にも、ニーベルングの発射シークエンスは進む。

 

基地のはずれにある山が動き始めた。振動により、雪が滑り落ちていく。

山が真っ二つに割れ、その中から巨大なミラーの集合体が姿を見せる。

 

そう、あの山はこの兵器を隠すための偽装シャッターだったのだ。

対空掃射砲ニーベルング。それを、隠すための。

 

 

「照射角二〇から三二。ニーベルング、発射準備完了」

 

 

それと同時に、降下してきたポッドが割れ、中から大量のモビルスーツが降りてくる。

ザク、ディン、グフ、ゲイツ。上空がモビルスーツ隊に覆われる。

 

 

「発射!」

 

 

だが、無駄なのだ。これから、貴様らが見るのは絶望だ。

そして、その次に見るもの。

 

それは、勝者となった私なのだ。

 

ジブリールは、確信する。

 

勝った、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

上空を仰ぎ見た姿勢のまま、タリアたちは凍り付いた。

光の中で、降下ポッドから出てきたモビルスーツ隊が炎に包まれたのだ。

 

そう、全て。

 

 

「降下部隊…、消滅っ…!」

 

 

状況を告げるバートの声は震えている。

 

そして、そんなことなど、見ればわかることだった。

タリアたちの目の前で、頼りにしていた降下揚陸部隊が全滅した。

 

 

「何というものを…、ロゴスめ…!」

 

 

デュランダルさえも、怒りと憤りに表情を歪める。

 

タリアは、撤退すべきだと思った。

完全に、こちらの軍勢は動揺している。こんな状態で戦っても、待つものは敗北の二文字しかないだろう。

 

何よりも、すでに後方の艦体はじりじりと後退を始めているのだ。

事実上、これは負け戦。

 

タリアは、そう思っていた。

 

一旦退いて、体制を立て直すべきだ。

そう思っていた。

 

 

『艦長、行きます!発進許可を!』

 

 

その時、格納庫のモビルスーツ。デスティニーから、シンから通信が入った。

あの攻撃を目にしたのだろう。シンの目には、確かな怒りが灯っていた。

 

 

「こんなこと、許しておけません!」

 

 

叫ぶシン。そんなシンにタリアは、待ったをかけようとする。

だが、その前にデュランダルが深く頷いた。

 

 

「…頼む」

 

 

目を見開き、タリアは振り返る。

 

何を言っているのだ。この状況を判断できない男ではないはず。

それなのに…、なぜ?

 

憤りを覚えたタリアだが、デュランダルの表情を見てそれを抑える。

 

デュランダルの表情は、決意に満ちていた。ここで退くつもりはない。そう決意していた。

 

確かに、ここで退いては軍の士気に関わる。

ロゴスには敵わない。そう決定づけるような空気が軍を包むかもしれない。

 

 

「…デスティニー、カンヘル、インパルス。発進!」

 

 

デュランダルの意志を汲み、命じるタリア。

だが、気に入らない。

 

気に入らない…が、もしかしたら奇跡を起こすことが出来るかもしれない。

これまで、何度も何度も窮地を乗り切ってきた彼らなら、もしかしたら…。

 

 

 

 

 

 

「シン・アスカ!デスティニー、行きます!」

 

 

叫び、ミネルバから飛び出していく。

VPS装甲を入れ、デスティニーが赤、青、白の三色に染められる。

 

続いて、ハイネが駆るカンヘル。ルナマリアが駆るコアスプレンダーが合体を完了し、インパルスが後につく。

 

 

『よし、行くぞ!』

 

 

ハイネが命じると同時に、三人はそれぞれの方向に機体を向かわせる。

シンは、こちらに銃口を向けるモビルスーツ群にまっすぐ突っ込んでいく。

 

 

「お前ら…!」

 

 

シンはライフルを取り、モビルスーツ群に向ける。

 

 

「どうしてこんなこと…、できるんだよっ!」

 

 

引き金を引きながら叫びをあげる。ライフルから放たれるビームは、寸分違わず連合のモビルスーツを貫いていく。

モビルスーツたちが、デスティニーに向けてビームを連射していく。

 

 

「無駄だ!」

 

 

シンは、デスティニーのスラスターを展開。光の翼を広げる。

ビーム対艦刀アロンダイトを手に取り、モビルスーツ隊に向かって斬り込んでいく。

 

ビームの雨を潜り抜け、まず一機ウィンダムを斬りおとす。

そして、機体を転換させ、もう一機、引き金を引かれる前にウィンダムを真っ二つに斬る。

 

さらに、背面のビーム砲を取って放つ。

太いビームが正面から敵機を貫いていく。

 

 

「お前らなんかに…、負けてたまるかぁ!」

 

 

咆哮を上げながら、再びシンはモビルスーツの集団に斬り込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバ艦橋。つい先ほど出撃していった三機のモビルスーツが破竹の勢いで敵機を撃墜していくのを呆然と眺めるクルーたち。

だが、一人だけ違った。

 

ギルバート・デュランダル。微笑みを浮かべながら、三機。いや、デスティニーの活躍を見つめる。

 

さぁ、見せてくれ。君の力を。

もっとだ。この程度ではないはずだ、君の力は。

 

そして、ジブリール。君にももっと働いてもらわなければならない。

多分、君はあざ笑っていただろう?私を。

だが、それは間違いだ。君は、ただ私の手のひらで踊っているだけに過ぎない。

 

そして、もっと踊ってもらおう、ジブリール?

最後まで…。

 

 

 

 

 

それぞれの思惑が渦巻く激闘。

ここからが本当の始まりとなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回から本格的な戦闘です

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