機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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最近、課題が本格的に増えてきました
めんどくせ…


PHASE27 捉えられる女神

「それで、そのシャトルを奪ったものたちの足取りは?」

 

 

デュランダルが尋ねる

スピーカーから、デュラン脱の問いに対する答えが響く

 

 

「現在、グラスゴー隊が専任で捜索を行ってはおりますが…、行方は未だ…」

 

 

やはりそうか、とデュランダルは心の中でつぶやく

正直、期待はしていなかった

奴らはそこまで甘くはない

 

偽のラクス・クラインがディオキアのシャトルを奪って逃走した、と報告を受けた時、デュランダルは遂に来たか、と嘆息した

彼女がこの先何も動かないとは思っていなかった

 

だが、ここまで大胆に来るとは…

急いで捜索隊を出したが、見つけたシャトルの中にはひもで縛られた二人のパイロット

背後から殴られたそうだが、無傷だったことはよかったと思うべきか

 

 

「しかし、よりにもよってラクス・クラインを騙ってシャトルを奪うとは…」

 

 

「救出したパイロットたちも、基地の者たちも、本当にそっくりだったと…、お声まで…」

 

 

それは当然だ、本物なのだから

と、声には出さずに心の中でつぶやく

 

 

「…ともかく、早く見つけ出してくれたまえ。連合の仕業かどうかはまだわからんが、どこの誰だろうが、そんなことをする理由は一つだろう。彼女を使っての、プラントの混乱」

 

 

デュランダルは、言葉を作って言う

 

しかし、本当にこんな手で地球から脱出してくれるとは…

 

 

「そんな風に利用されては、あの優しいラクスがどれだけ悲しむか…」

 

 

「はいっ!早く奴らを捉えるよう全力を尽くします!」

 

 

「うむ。頼む」

 

 

デュランダルはそう言った後、通信を切る

 

しかし、少々厄介なことになったかもしれない

クライン派、先の大戦中からプラントの中枢に潜み、そして活動してきた彼女の意志を継いだ集団である

彼らが今、動き出しているのだ

 

まだ、目立った行動は見せていない

それは、デュランダルの政治をまだ止めるべきではないという判断の表れだろう

 

まだ…

 

恐らく、デュランダルが今のまま自分が望む世界にしようと行動を続けていけば、恐らく彼女は…、いや、彼は動き出す

 

 

「…セラ・ヤマト」

 

 

ラクス・クラインがアークエンジェルから離れてくれたことを喜ぶべきか否か

だが、あの艦にはまだあの少年がいる

 

デュランダルは恐れているのだ、セラの力を

その力を大衆に示せば、自分どころか、あのラクス・クラインですら霞んでしまう可能性もあるあの強大な力を

 

 

「さらに、キラ・ヤマト…。彼も彼女と共に宙に上がってくれればよかったのだがな…」

 

 

今更愚痴っても仕方ないが、どうせならば彼も共に行ってほしかった

そうすれば、あの艦は彼だけと手薄になる

 

いや、手薄とは言えないか

あのセラ・ヤマトがついているのだから

 

 

「大変なことになりましたね」

 

 

デュランダルが思考を働かせていると、離れた所から声が聞こえてくる

執務室の入り口の前、一人の男が立っていた

 

 

「…君か」

 

 

男は、ゆったりとした歩調でデュランダルに歩み寄る

 

 

「あのラクス・クラインがシャトルを強奪…。いよいよ奴らも動き始めたってことですか?」

 

 

「…いや、彼女は脱出したに過ぎない。まだ探りの域だろう」

 

 

まだ、動いているとは言えない

まだ、彼らのことは無視していいだろう

 

今は、他にやるべきことがある

 

 

「…命令さえいただければ、すぐにでも奴を討ちに行きますが?」

 

 

「まだ、いい。まだ君が動くべき時期ではない」

 

 

目の前の男は、強大な力を持っている

だからこそ、それを奮う時期を誤ってはいけない

 

まだ…、まだ

 

 

「…そうですか」

 

 

男は、デュランダルの向かい側のソファに座る

その顔は、どこか不満に満ちている

 

できることなら今すぐにでも戦いに出て行きたいのだろう

だが、それを許すべきではない

 

 

「…アークエンジェル」

 

 

大天使はどう出るか

願うならば、このまま戦闘に介入し続けてくれればいいのだが…、それは叶わないだろう

 

恐らく、本土に撤退すれば彼らはもう戦闘には介入してこない

アーモリーワンでのアスハとの会談で分かった

彼女は、若いが、馬鹿ではない

 

ひたすら動き続ける、という愚作は取りはしないだろう

 

本当に厄介だ

 

本当に…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モニターの向こうには、どこか顔色が悪いように見える男が映っている

豪華な椅子に偉そうに座り、見下すようにこちら、ネオを見る

 

 

「私は、過ぎたことをいつまでもネチネチという男ではないのだがね…」

 

 

言葉と反して、口調はねちっこい

と、言葉には出せないネオ

 

なぜなら、モニターに映っているのは地球連合軍の最高権力者であるロード・ジブリールなのだから

そんなことを口に出してしまえば、首が飛んでしまう

 

 

「…だが失敗に、いつまでも寛大という訳ではない」

 

 

「は…」

 

 

それはそうだろう

普通の上司ならば、ネオの失敗続きを見れば怒るのも当然だ

むしろ、ジブリールはネオに対して寛大な方と言える

 

 

「相手のあのミネルバは、確かに強敵だ。いくら君とて、そう容易く討ち取れるとは、私も思ってはいない」

 

 

「…」

 

 

結局は、何が言いたいのか

いつもいつもそれがネオにはわからない

 

 

「だが、いい加減さっさとやり遂げてくれないかね。そのための君たちなのだから。でないと、こちらの計画も狂う」

 

 

ほら、その計画、だ

その計画とやらをこちらに話してくれないか

 

もしや、その計画には戦争が長引くことが書かれていないというのはないだろうな?

ユーラシア西側の反乱のことが書かれていないというのはないだろうな?

 

自分たちの描く現実と食い違っているのは、全て下のせいだとでも思っているのか

勘弁してほしい

 

 

「あのミネルバは今や、正義の味方のザフト軍などと言われている!ヒーローの様に祭り上げられてしまっているのだ!まったく、コーディネーターの艦だというのにっ!」

 

 

語調が荒くなってきたジブリール

口に出すのも汚らわしいという風に吐き捨てる

 

 

「それもこれも、奴らが勝ち続けるからだろう?」

 

 

「…そうですかね」

 

 

本当にそうなのだろうか

ただ、彼らは勝ち続けてきたから、ヒーローのような扱いを受けているのだろうか

それだけで…

 

 

「民衆は愚かなものさ。先のことを考えずに力がある方に着く」

 

 

それは確かにそうだ

民衆は、つい最近までその考えでブルーコスモスについていたのだから

 

 

「だから、あの艦は困るのだよ!危険なのだ!これ以上のさばられては!」

 

 

ジブリールが怒りに顔を歪めて怒鳴る

ネオをきつく睨んで言葉を続ける

 

 

「今度こそ討てよ、ネオ。そのためのお前たちだということを忘れるな」

 

 

「…えぇ、肝に銘じて」

 

 

ネオは、通信が切れるのを確認すると、椅子の背もたれにもたれ、大きく息をついた

本当に、あの当主様は面倒くさいものだ

 

自分の都合を押し付け、そして失敗すれば他人に責任を押し付ける

 

とはいえ、あの艦をいつまでも討てない自分にも責任はある

次こそは、討たねば

 

恐らく、いや間違いなく、次がラストチャンスだということを、ネオは改めて肝に銘じた

 

 

 

 

「…やはり、ただの無能か」

 

 

ウォーレンは、つぶやきながらイヤホンを耳から外した

先程まで行われていたネオとジブリールの会話

 

ネオの部屋に盗聴器を仕掛け、ウォーレンはその会話を聞いていたのだ

そして、ウォーレンは結論付けた

 

ロード・ジブリールは、無能であると

あの男をこのまま上に居座らせれば、いずれ崩壊する、と

 

しかし、今彼を討つことはできない

それこそただの愚策である

 

 

「さぁて…、どうするかな…」

 

 

この先、あの男はただの邪魔になるだろう

その前に排除しなければ…

 

父が巻き起こした混乱を、二度と起こしはしない

父の二の舞は絶対に踏まない

 

その上で、父の遺志を受け継ぐ

それが、ウォーレンの意志だ

 

 

「…そういえば、甲板でバスケしてたな」

 

 

甲板で、スティングとアウルがバスケットボールをしていたのを思い出す

退屈しのぎにはなるだろう

 

ウォーレンは立ち上がり、部屋を出る

 

混ぜてもらおう

 

 

 

 

 

「…と、策としてはいたってシンプルです」

 

 

ジブリールとの会話の後、ネオはすぐにオーブ空母タケミカヅチに向かった

まもなくぶつかるであろうミネルバとの戦闘の作戦会議のためだ

 

 

「しかし、本当にそれで上手くいくのでしょうか?」

 

 

ネオが立てた作戦に不安を覚えたトダカがネオに会議を口にする

 

前から思っていたが、この男、トダカは優秀な軍人だ

その隣にいるアマギという兵も、こちらに疑心の視線を向けている

 

 

「そもそも、その情報の信用度はどれほどのものなのです?網を張るのはよいのですが、ミネルバがもしも…」

 

 

「おいおいおい!ここまで来てそんなことを言いだされると困るなぁ!」

 

 

もしも来なかったら、とトダカは言おうとしたのだろう

そこに口を挟んだのが、オーブ軍最高司令官のユウナだ

 

 

「当てずっぽうで軍を動かすなんて馬鹿なこと誰がするか。ミネルバは間違いなく、このルートを通ってジブラルタルに向かうさ。出航も間もなくだ」

 

 

ネオは、思わずため息をつきそうになってしまう

まるで全て自分が調べてきたような言い草だが、こちらがそのことを調べたのだ

 

まあ、口は挟まない

この男にはしっかりと働いてもらわなければならない

トダカやアマギと優秀な兵はいるが、指揮官がバカであれば利用することが出来る

 

 

「そういうことは大佐と僕で、もうちゃんと確認済みさ。君はここから先のことを考えていればいいんだよ!」

 

 

大佐と僕、か

ユウナはただ、自分の話した情報に頷いていただけだったはずだが…、それも、口には出さない

 

しかし、本当にこのユウナ・ロマ・セイランという男は信用されていないようだ

こうしている間にも、トダカはともかく、アマギなど若い兵に睨まれていることを気づいていないのだろうか?

 

 

「ユウナ様は的確ですな。決断もお早い。オーブはこのような指導者を持たれて実に幸いだ」

 

 

ここぞとばかりにネオは心にもないことを言ってユウナをおだてる

ユウナは顔に浮かべていた笑みを更に濃くする

 

…本当に、おだてればおだてるほど面白いくらいに乗ってくれる

これほど操りやすい男はいない

 

しかし、自分が指導者のことでユウナを褒めた途端、艦橋にいる全ての兵たちの表情が歪んだ

どれだけこの男は支持されていないのだ

 

今、オーブはセイラン家が実権を握っているという話だが…

 

 

「厳しい作戦ではありますが、やり遂げなければならない」

 

 

ともかく今は、目の前のミネルバのことだ

何度も自分に言い聞かせる

 

これが、ラストチャンスだ、と

 

 

「そして、わがオーブ軍ならばできる!」

 

 

ユウナが意気込んで高らかに言う

 

 

「これでミネルバを討てば、我が国の力も世界中に示せるだろうねぇ!」

 

 

ユウナは行ったあと、トダカをじろりと見る

 

 

「できるだろう?」

 

 

にやりと嫌な笑みを浮かべてトダカに問いかける

 

 

「…ご命令とあらば、やるのが我々の仕事です」

 

 

「…」

 

 

ほぅ、と口の中で嘆息する

本当に、トダカのような兵が欲しいと思うネオ

 

こんな男にはもったいない部下だ

 

ネオは艦橋から立ち去ろうとする

出口の前まで歩き、ネオはあることを思い出して立ち止まる

 

 

「今度は、あの奇妙な艦は現れないとは思いますが…」

 

 

言った途端、ユウナがびくりと震える

まさか、指摘されないとでも思っていたのだろうか?

 

戦闘目前ということで、ネオとしても深く聞き込むつもりはない

だが、釘をしっかりと差しておかねばならない

 

 

「万が一そのようなことがあっても…、大丈夫ですね?」

 

 

ユウナの顔色がさぁっ、と悪くなっていく

 

 

「あの代表と名乗る人が現れても…、大丈夫ですね?」

 

 

「あ…、当たり前だ!」

 

 

ユウナは、詰まりながらも言い切る

兵たちは、ユウナを信じられないようなものを見る目で見る

 

そしてネオは。気づかれないようににやりと笑う

 

 

「あ、あんなものまで担ぎ出し、わが軍を混乱させる連中など、敵でしかない!あの女だって、ただの偽物だ!」

 

 

「…それが聞きたかった」

 

 

ネオは、ユウナに微笑みかけてから艦橋をさる

これで、オーブ軍は心配いらないだろう

 

たとえ兵士たちが不満を持っても、ユウナがそれを強引に抑え込むはずだ

 

次こそミネルバを討つために、こちらの準備は万端だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オーブ軍がクレタに展開、か…」

 

 

カガリが冷静につぶやく

 

 

「ということは、やはりまたミネルバを…」

 

 

マリューが厳しい表情で発する

 

先程、ある情報が入った

オーブ軍、そして地球軍がクレタに軍を展開させた、と

 

 

「確証はないですが、そう考えるのが妥当だと」

 

 

「ミネルバがジブラルタルに向かうと読んでの布石か…。連合も躍起になっていますね」

 

 

チャンドラ、ノイマンが言う

確かに、ここでまだミネルバを追うというのは策としてはどうかと思われる

 

連合の戦況は全体的に悪い

だからこそ、ミネルバを討つのだという考えなのかもしれないが、他にも目を向けるべきところが連合にはたくさんあるのだ

 

未だおさまらないユーラシア西側の紛争

そしてその紛争は、ユーラシア全域に広がるのではと思わせるほど勢いが増している

 

ミネルバを攻撃する暇などないはずなのだが

 

 

「…お」

 

 

カガリが声を漏らす

 

今、カガリはラクスに代わって通信席についている

慣れない手つきで入ってきた電文を開くが、困惑顔になる

入ってきた電文は暗号で、読み方がわからないのだ

 

それを見たミリアリアが、カガリの背後に立って代わりに暗号文を読む

 

 

「ミネルバはマルマラ海を発進、南下」

 

 

その内容に、クルー全員の表情が変わった

 

 

「決まったな。ミネルバはクレタに展開されている地球軍とぶつかる」

 

 

セラが、結論を告げる

まさに、クルーたちが予測していた展開になった

 

 

「カガリ、どうする?」

 

 

 

キラが、カガリに問いかける

こうなって、ここからどうするのか

カガリに判断を仰ぐ

 

 

「出るぞ。奴の好きにはさせない」

 

 

カガリは告げる

自分たちも行くと

 

カガリはマリューに目をやる

マリューは頷き、艦長席に着いた

 

 

「アークエンジェル、発進準備を開始します」

 

 

ノイマンとチャンドラが機器を操作していく

カガリも、操作しようと手を動かそうとする

 

 

「それは、私の仕事よ?」

 

 

背後から声をかけられる

背後にいるのはミリアリアだ

 

だが、カガリは目を見開いて振り返る

 

 

「え…、でも」

 

 

ミリアリアがする選択は、再び戦うというものである

カガリは席を譲ることに戸惑いを覚えた

 

 

「あなたがそこに座ってくれるのはとても心強いのだけれど…、トール君…」

 

 

マリューは、おどおどとトールに視線を向ける

ミリアリアがした選択に、彼はどう言うのだろうか?

 

だが、トールが口を開く前に、ミリアリアが言った

 

 

「いいのっ!私がしたいことにごちゃごちゃ言うような奴、ふってやるんだから!」

 

 

「…まぁ、そういうことです」

 

 

ミリアリアが強気に言い放ち、そしてトールは苦笑い気味に言う

トールは特にミリアリアにとやかく言うつもりはなかった

 

それに、ミリアリアだけではない

 

 

「セラたちは出るんだよな?」

 

 

「え…、あぁ」

 

 

艦橋から出ようとしていたセラとキラは立ち止まって、セラがトールの問いに答える

 

 

「マリューさん、空いてる機体はありますか?」

 

 

「え?えぇ、ムラサメが」

 

 

今度はマリューに問いかける

そして、トールは言う

 

 

「そのムラサメで俺も出ます」

 

 

「え…!」

 

 

マリューの目が見開かれた

そして、ミリアリアに視線を向ける

 

ミリアリアは特に動揺も見せず、カガリから譲ってもらった通信士席に座って作業を開始している

 

…いい、のだろうか?

 

 

「大丈夫ですって!俺のやりたいことにごちゃごちゃいう奴なんて、こっちからふってやるんですから!」

 

 

トールが、つい先ほどに聞いたことのあるセリフを言う

それを聞いたミリアリアが、振り返る

 

その顔には、意地悪い笑みが浮かんでいた

 

 

「あら。なら、そうする?」

 

 

「あ…、いえ…、捨てないでください…」

 

 

先程の強気な姿勢はどこへやら

トールは捨てられた子犬のような目でミリアリアを見る

 

途端、艦橋に笑い声が響き渡った

相変わらず、トールは尻に敷かれているようだ

 

 

「…でも、いいの?トール君」

 

 

「はい。セラとキラが戦ってるのに、俺がじっとしているわけにはいきませんから」

 

 

本当に、変わっていない

マリューはしみじみと思いながら、もう一度ミリアリアに視線を向ける

 

ミリアリアは、微笑みながらトールを見ていた

マリューは、ふぅ、と息を吐く

 

 

「…わかったわ。けど、艦のまわりからは離れないで。操縦なんて、全然してなかったでしょう?」

 

 

「そこまで無茶はしませんよ。俺だって、まだ生きたいですし…」

 

 

再び艦橋に笑いが巻き起こる

 

トールは、セラとキラに駆け寄って、行こうぜ、と声をかける

三人は艦橋から出て行く

 

その後姿を見ながら、マリューは頼もしさを感じ、微笑みながら前を見据える

 

次の戦いに向け、大天使は翼を広げた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦影補足!距離六十、十一時の方向です!」

 

 

タケミカヅチのレーダーに、一つの光点が捉えられた

オーブ、地球軍の艦が一気に緊迫した空気に包まれる

 

 

「総員、合戦用意!繰り返す!総員、合戦用意!」

 

 

警報と共に放送が響き渡る

兵士たちが慌ただしく動き回り、パイロットは一目散に搭乗機へと向かう

 

ウォーレンは、放送を聴いてすぐに格納庫に向かった

いよいよ来た

 

二度目の対戦

今度は、どれか一機でも落とさなければ

やはり、まずはヴァルキリーだろう

あれが一番落としやすい

 

リベルタスは言わずもがな、フリーダムも別格だ

ヴァルキリーも劣るとは言わないが、揺さぶりをかけやすい

そこに、勝機がある

 

格納庫に着き、辺りを見渡す

すでに、スウェンたち四人は機体に搭乗している

自分も早く乗らなければ

 

ウォーレンはコックピットに上がって座り、システムを起動する

 

画面、スイッチなどに光が灯っていく

 

前方のカタパルトが開く

そして、赤く光っていたライトが青色に変色する

発進許可が出たという合図だ

 

すでに、オーブ軍はミネルバに攻撃を開始している

自分たちも早く向かわねば

 

 

「ウォーレン・ディキア!ブルーズ、行くぞ!」

 

 

ウォーレンは操縦桿を倒し、ブルーズを発進させる

すぐ後に、ガイア、カオス、アビスにエクステンドが発進していく

 

これは決戦だ

ここで、ミネルバを落とすと誰もが決意しているだろう

 

だが、ウォーレンにとってはここは通過点でしかない

ミネルバを落とそうが失敗しようが今はどうでもいい

 

ここで、どれか一機を落とす

これが重要だ

 

ウォーレンは、ミネルバのまわりを飛び回るムラサメとアストレイを攻撃しているヴァルキリーに機体を向けた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「前方に艦影!オーブ艦隊です!」

 

 

「なんだとぉ!?」

 

 

バートの報告に、アーサーが驚愕の声をあげる

タリアは、エーゲ海の美しさに取られていた気を引き締める

 

 

「数は?」

 

 

「空母一、護衛艦三!」

 

 

やはり、あれで引き返すということはしなかったか

 

 

「例の地球軍空母は?」

 

 

「確認できません!」

 

 

いつもと同じように、あの部隊の空母は何かしらの手段を使って索敵を回避しているようだ

 

 

「索敵厳に!オーブ艦だけということはないはずよ、急いで!」

 

 

バートに命じた後、タリアはアーサーとメイリンに向き直る

 

 

「艦橋遮蔽、コンディションレッド発令!」

 

 

タリアの指示の直後、艦橋が沈んでいく

 

しかし、ずいぶんと相手の対応は早いものだ

恐らく、こちらの行動を読んでのことだろう。偶然というのはあり得まい

ということは、あちらは万全の状態でこちらを待ち構えているということになる

 

厄介なことになりそうだ

 

そうこうしている内に、むこうの艦からモビルスーツが発進してくる

 

 

「インパルスとヴァルキリー、エキシスターを出して」

 

 

戦闘は避けられない。タリアは出撃を命じる

 

 

「面舵三十。東に針路をとる!」

 

 

しかし、オーブ艦がやけに少ない。まさかこれで全部という訳ではないだろう

敵はどんな手を打ってくるか…

 

 

「砲撃、来ます!」

 

 

タリアが思考していた時、バートの報告が入った

オーブ艦隊からミサイルが打ち上げられ、ミネルバに向かって降り注がれる

 

 

「モビルスーツ発進停止!回避しつつ迎撃!」

 

 

タリアはすぐに方針を変更

ここは相手の攻撃を凌ぐことにする

 

マリクが舵を切り、ミネルバの対空ガトリング砲CIWSがミサイルを迎撃していく

 

だが、ガトリングの弾がミサイルに命中し、爆散したと思ったその時だった

爆散したミサイルから砲弾が四方に弾けた

弾けた砲弾がミネルバに降りかかる

 

装甲を弾丸が叩く

衝撃にクルーたちが首をすくめる

 

 

「上面装甲、第二層まで貫通されました!」

 

 

かなりの威力だ

まさか、オーブがそんな兵器を開発していたとは

 

もし上の階の艦橋にいれば、この場にいる全員の体に穴が開いていただろう

 

 

「ダメージコントロール!面舵さらに十!」

 

 

タリアはすぐに指示を出すが、相手は思う通りにさせてくれない

 

 

「九時の方向にオーブ艦!数三!」

 

 

「えぇっ!?」

 

 

なるほど、前方のオーブ艦の数が少なかったのはこのためだったのか

彼らは、ミネルバがここに来るのを読み、そして挟撃しようとしていたのだ

 

しかしまずい。このままでは完全に向こうのペースになってしまう

 

 

「二時方向上空にムラサメ、九!」

 

 

「シンとシエル、クレアを出して!トリスタン、イゾルデ照準、左舷敵艦群!」

 

 

「はいっ!」

 

 

バートの報告を聞き、すぐにタリアは指示を出す

指示の通りに、アーサーはコンソールを操作していく

 

 

「まだあの空母がいるはずよ!索敵急げ!」

 

 

今の状況でも十分危ないというのに、向こうにはさらにあの部隊がいるのだ

タリアが表情を歪めたその時、あの五機が姿を現した

 

 

 

 

 

シンは、インパルスを駆ってオーブ艦隊に接近しようとする

 

今回シンが選択したシルエットはブラストだ

フォース以外の二つのシルエットには、大気圏内の飛行能力はないが、海上をホバリングして移動することが出来るのだ

 

シンは両脇のビーム砲、ケルベロスを展開して前方の艦体を狙おうとする

が、そこに海面を割ってブルーの機体、アビスが躍り出た

 

 

「くそッ…、邪魔だ!」

 

 

アビスは両腕のシールドを展開してビームを斉射する

シンは、放たれたビームを海面を滑るように旋回して回避する

 

そして、反撃にケルベロスを放つが、アビスは海面に潜り込んで砲撃を回避する

直後、シンはアビスが潜った場所の海面を狙ってレールガンを放つが手ごたえはない

 

シンは、その間にちらりと視線を動かす

そして見つけた

 

前方のオーブ艦隊、その最前方にそれはいた

 

 

「ステラ…」

 

 

あの可憐な少女

頭に過ったその瞬間、シンは気を引き戻す

 

背後の海面から水柱が立つ

そこからアビスが現れ、再び両腕のシールドを展開してビームを放った

 

シンはスラスターを切って回避する

先程はそこでアビスは海中へと潜っていったが、今回は違った

アビスはビームランスを取り、インパルスへと突き付けようとする

 

シンはビームジャベリンを取り、迎え撃つ

ジャベリンとランスがぶつかり合い、拮抗する

 

今は、目の前の敵だ

ステラのことはその後

 

シンは、迷いを捨ててアビスとの戦闘に集中していく

 

 

 

 

上空から、ミネルバに向けてビームが放たれる

シエルはそのビームを何とか迎撃しながらムラサメとアストレイを攻撃していく

 

シエルは、ライフルを取って相手の武装とメインカメラを撃ち抜いていく

 

 

「…っ!」

 

 

シエルは、ミネルバに向かっていくアストレイを見つけ、機体を向けようとする

が、そこにムラサメがサーベルを持って接近してくる

 

シエルは、ライフルをしまってサーベルに持ち替える

シエルもスラスターを吹かせてムラサメに接近し、サーベルを一閃

ムラサメのサーベルは根元から叩き折られる。そこに、シエルは再びサーベルを振り切る

 

一閃、二閃

ムラサメのメインカメラ、ウィングを斬りおとし、シエルはすぐに機体を移動させる

 

次から次へとミネルバに襲い掛かるオーブ軍モビルスーツ

シエルは必死に迎撃していく

と、不意にシエルは機体を翻した

シエルがいた場所を、巨大な砲撃が横切っていく

 

この砲撃には見覚えがある

シエルは、砲撃が来た方向にカメラを向ける

 

 

「今度こそ…、お前を落としてやる!」

 

 

ブルーズがこちらに向かってくる

ライフルをこちらに向け、連射

シエルはビームを、最小限の動きで避けて反撃の機会を窺う

 

 

「くっ…!」

 

 

だが、如何せんミネルバのまわりを囲むモビルスーツが多い

ブルーズばかりに気を取られていたらミネルバが危ない

 

速攻で落とすべきか…

だが、攻め急いでも間違いなく返り討ちにされてしまう

相手は甘くない

 

 

「このっ…!」

 

 

ブルーズは、ライフルから対艦刀に持ち替えて斬りかかってくる

シエルはサーベルで迎え撃つ

 

両手に重みがかかり、力を加える

 

ミネルバのことも気になるが、これも野放しにしていたら危険すぎる

ここは、こいつと交戦すべきだ

 

シエルはブルーズから離れる

収束ビーム砲を向けて、放った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほら!第二戦闘群をもっと前に出して!どんどん追い込むんだよ!」

 

 

ユウナの声が艦橋に響く

 

ミネルバは、満身創痍になりながらも戦闘を続けていた

甲板には赤いザクと、オレンジ色のグフが

そして空中ではセイバーが飛び回って迎撃、ヴァルキリーはブルーズと交戦している

 

未だ落とせないミネルバ

ユウナにいら立ちが募っていく

 

何をやっているんだ!

自分の戦略プランは完璧だというのに…!

 

 

「ミネルバの火器はまだ健在です。うかつには出せません」

 

 

トダカはこちらに目だけを向けて反論する

 

…なんだ、その眼は

どうしてこの僕にそんな目を向ける!

 

 

「ムラサメ隊は何をやってるの!なんでさっさと…」

 

 

どうしてこれだけの戦力差があって未だ決められないのか

ユウナは捲し立てるが

 

 

「実戦は、お得意のゲームとは違います。そう簡単には行きませんよ」

 

 

トダカの冷ややかな声がそれを遮る

 

どれだけ自分が素晴らしい戦術を立てても、実行する兵がこれでは失敗するのも当然だ、とユウナは悟る

ならば、仕方ないとユウナは溜飲を下げる

 

まあいい。この作戦が失敗すれば、責任はこいつらにあるのだから

自分のせいではない、こいつらのせいだ

そうだ、そうだ

 

そうだ、そうだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバの上空から密かに接近していく集団があった

ムラサメ隊である

 

 

「奴らのモビルスーツはいい。地球軍、アストレイたちに任せて我らはミネルバを!」

 

 

隊の指揮を執るババ一尉は、部下に告げる

 

ザフトのモビルスーツはどれも一騎当千の力を持っている

その全てが足を止められている今が、ミネルバを討つチャンス

 

甲板に二機のモビルスーツが迎撃しているが、一機は飛行能力に欠ける

もう一機は飛行能力はあるが、ムラサメなら振り切ることは可能だ

ヒット&アウェイを試みる価値はある

 

 

「あれさえ落とせば、全て終わるっ!」

 

 

「はっ!」

 

 

ババの言葉に部下たちは答え、ムラサメ隊はミネルバに向かって降下していく

 

そう。ミネルバさえ落とせば終わるのだ

それさえできれば…

 

ミネルバの自動迎撃システムがムラサメに向けて斉射される

ババは、弾丸を翼を翻してかわしながらミネルバへと接近していく

 

 

「うぉおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 

叫び声を上げながらさらに加速する

赤いザクがこちらの接近に気づいて振り返る

オルトロスが火を噴き、ババのムラサメを襲う

 

ババは寸前でラダーを切って砲撃を回避した

そして、なおも加速し、ミサイル発射ボタンを押した

同時にババは離脱する

 

ババに続いた部下たちもまた、ミサイルを発射していく

何発か迎撃されてしまったが、残ったミサイルがミネルバの上部を襲う

 

 

「よぉし!」

 

 

ミネルバを見下ろすと、赤いザクが体制を崩して膝をついていた

必死の攻撃も、艦橋をつぶすには至らなかった

 

 

「くそっ!」

 

 

ババは再び指示を出そうとする

今度こそ、止めを刺すために

 

だが、ババは気づかなかった

ミネルバを見下ろした時、赤いザクしかいなかったということに

 

 

「ずいぶんやってくれたじゃねえか!」

 

 

ババの視界で、一機のムラサメが斬り裂かれた

ハイネのグフが、甲板から飛び立ってムラサメを攻撃したのだ

 

ババは止むを得まいと交戦しようとするが、その前に連合のグリーンの機体がグフに襲い掛かる

二機は、交戦を開始して視界から去っていく

 

ババはほっとする。あれの相手は、自分たちでは務まらない

 

 

「行くぞ!」

 

 

ここで、ババは再び命じる

ミネルバに向かって加速していく

 

赤いザクがオルトロスを構え、巨大な砲撃を放つ

砲撃は、二機のムラサメを飲み込んだ

 

だが、止まらない

ムラサメ隊は振り返らなかった

そのままミネルバに向かって降下していく

 

ババは、ムラサメを人型に変形させ、ビームライフルを構える

対空砲をかわし、艦橋を射程に捉える

 

 

「これでっ!」

 

 

ババは、引き金を引こうとした

だが、その瞬間

 

ライフルが火を噴いた

 

一瞬、呆然としてしまった

何が起こったのか理解できない

 

途端、後ろをついてきていたムラサメ隊の内、二機の翼端が裂かれ、海に落ちていった

 

視界を駆け抜ける二つの光

 

 

「フリーダム…、リベルタス…!?」

 

 

ババは咄嗟に機体を後退させる

 

再び、現れたのか

二機は翼を翻し、飛び去っていく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クレタ沖にいる全ての人が、目を向けたその先

 

大天使が、降り立っていた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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