機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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す、すみません…
ダーダネルスまで行きませんでした…

何とか行かせようとしていたのですが、そうすると文字数がとんでもないことになりそうだったので…


PHASE21 苦悩

「一体、どうなっているんです!?」

 

 

閉ざされた空間に、怒鳴り声が響き渡る

 

ブルーコスモス、そしてロゴスの当主であるロード・ジブリールは怒りに震えていた

苦労の末、開戦までたどり着き、今度こそあの宙の化け物を滅ぼせる

そう思っていたというのに

 

 

「それは、君だってわかっているだろう」

 

 

ジブリールの睨む先、そこにはモニターに映し出されている大西洋連邦大統領コープランドが返答していた

 

 

「プランの準備が完全には整っていない状態でのあの被害。それでも言う通り強引に開戦してみれば、攻撃は全てかわされあっという間に手詰まりだ」

 

 

この言葉を聞き、ジブリールはさらに苛立った

 

何なのだ、そのまるで自分が悪いというような態度は

 

確かに、自分のプランが甘かったことは認めよう

そうでなければ、とっくに自分たちは勝っているのだから

だが、だからといって、ろくに反論もせずに従っておきながら、あとになってこうしてケチをつける

 

本当に無能なものだ

 

 

「これでは、あちこちで民衆が反乱を開始し、結んだ同盟もほころび始めるのも無理はないさ」

 

 

「私は、そんな話が聞きたいのではない!」

 

 

コープランドに、ジブリールは怒声を浴びせる

そうではない

そうではないのだ

 

 

「私は、そんな現状に対して、あなた達がどんな手を考えているのかをお聞きしたいのです!」

 

 

コープランドの表情が、苦いものに変わった

予想してはいたが、呆れてしまう

やはり、何も考えていなかったのか

 

 

「コーディネーターを倒せ、滅ぼせと。あれだけ盛り上げて差し上げたというのに、その火を消してしまうのでしょうか?」

 

 

「いや、それは…」

 

 

たたみかけるジブリールに、コープランドは何も答えられない

ジブリールは大きくため息をつく

 

ジブリールは、実の所焦っていたのだ

前大戦最大の戦役、ヤキン・ドゥーエ防衛戦にて、全当主のムルタ・アズラエルを失った

そこから、ブルーコスモスは一時大きく弱体化してしまった

 

再びその権威を取り戻したのは、ジブリールの功績なのだが、それでも一度失った信頼を。全て取り戻せているわけではない

 

ここで、打つ手を誤れば、今度は確実に隆盛は失われてしまう

 

 

「我らが力を示さないからこういう事態に陥るのです!ユーラシア西側の状況をいつまでも許しておくから、あちこちで反乱が出始めたんですよ!」

 

 

「だが、我々とて手いっぱいなのだ!戦力、人員!これらが不足しているのは君とてわかっているはずだ!大体、君のファントムペインだって、戦果を挙げられていないじゃないか!」

 

 

この返しには、ジブリールも勢いを失わざる得なかった

ファントムペイン、ジブリール専属の部隊

 

今、そのファントムペインはあのミネルバという艦を追っているのだが、未だ落とせていない

たかが一隻の艦に、何を手間取っているのか

 

仮面をかぶった男、ネオ・ロアノークのことを思い浮かべながらいら立ちがはしる

 

それに、コープランドが言った戦力の問題

こちらも深刻だ

 

あのユニウスセブン落下の被害から、未だ回復し切れていない状態なのだ

 

火種はあちこちに広がっている

集中しているならまだしも、そうでないのだから、戦力だって分散される

 

頭を悩ませるジブリールに、ある名案が舞い降りた

 

 

「…そうだ!オーブですよ!」

 

 

「え?」

 

 

コープランドが呆気にとられた表情になる

 

 

「オーブは今、我々の陣営です。そして、戦力だってなかなかの物なはず」

 

 

「あぁ…」

 

 

会心の笑みを浮かべるジブリール

そして、コープランドも光を見つけたと言わんばかりに笑みを浮かべる

 

 

「なぜ今まで思いつかなかったのでしょう!あの国にも、同盟国の責務としてザフトを追っ払ってもらいましょう」

 

 

しかし、ジブリールが思いつかなかったのも無理はない

 

前大戦で、ブルーコスモスの権威が失われてしまったのも、実質オーブが原因なのだ

 

 

「あちらもノーとは言えまい。この間もずいぶん面白いものが飛び出していきましたしね…」

 

 

アークエンジェルとフリーダム

 

ジャスティスは、自爆により破壊され、ヴァルキリーはザフト側にあると、ジブリールは情報に聞いていた

フリーダム、そしてリベルタスのことに関しては聞いていなかったのだが、あの時は驚いたものだ

 

そして、アークエンジェルは、連合側から見れば敵艦であり、脱走艦である

そんなものが現れ、そして代表と共に去っていった

連合に対しての背信行為と同意である

 

オーブ側は否定しているが

 

だが、ジブリールには懸念がかすめた

 

フリーダム、アークエンジェル

彼らは一体何を目的にし、どこに行ったのか

あの英雄と言われている四機のうちの残り一機、リベルタスは

 

そして、あの<セラ・ヤマト>の行方は

 

ムルタ・アズラエルが、アークエンジェル内にいると予想していた

その予想が当たっていたのなら、さらに前大戦の被害が悔やまれることになる

今も、奴は生きているのだ

 

あの化け物が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ネオは、メンテナンスルームに向かう廊下を歩いていた

 

 

「だめっ!これはだめっ!」

 

 

そこに、少女の金切り声が聞こえ、ネオは歩くテンポを速めて部屋の中に入る

円形に並ぶ三つのベッド

その一つに座っているステラが、研究員たちに食って掛かっていた

 

 

「あっちいって!さわらないで!」

 

 

研究員たちが、困ったような笑みを浮かべながらステラから離れる

 

 

「わかったわかった。もう触らないから…」

 

 

残った二つのベッドの上では、スティングとアウルがぽかんとした表情でステラを見ていた

 

 

「どうした?」

 

 

ネオが、今の状況を問いかける

その声に気づいたステラがネオを見て、安堵の表情になる

 

 

「ネオっ!」

 

 

ステラがネオに助けを求めるように名を呼ぶ

 

そんな中、研究員がネオに近寄りささやきかける

 

 

「寝かせる前に、足のけがを見ようとあのハンカチを取ったとたん怒り始めてしまって…」

 

 

ハンカチ

ネオが、ステラを見ると、その腕にはハンカチが大事そうに抱かれていた

 

あのハンカチに何の思い入れがあるのか

ネオにはわからないが、ステラにとっては大切なものなのだろう

 

ネオは微笑みながらステラに歩み寄る

そして、ステラの頭を優しくなでながら声をかける

 

 

「びっくりさせてごめんな。けど大丈夫。ステラの大事なものを、奪ったりなんかしない」

 

 

「…ホント?」

 

 

ステラが懐疑的に聞いてくる

ネオは大きくうなずく

それを見て、ステラは笑みを見せる

 

 

「…安心しておやすみ」

 

 

ステラは納得し、ベッドに横たわる

スティングとアウルも、それを見てから同じく別々のベッドに横たわる

 

 

「…何が大事なものを奪ったりしないんだか」

 

 

ネオは自重する

ステラがあれだけ騒いだのだ

きっとステラに大切なことが起こったのだ

 

でないと、基本何にも無関心な彼女が、たかがハンカチ一つに執着などしないだろう

 

 

「記憶ってのは、あった方が幸せなのかそうでないのか。時々考えてしまうな…」

 

 

ネオは、まるでゆりかごのような機器の中に眠る三人を見ながらつぶやく

 

つぶやきが聞こえたのだろう、機器を操作している二人の研究員のうちの一人が振り返る

 

 

「彼らには不要だと、私は思いますよ。彼らはただの戦闘マシーンです。余計な記憶があれば、効率が悪くなってしまう。戦うことだけが価値の彼らに、そんなもの必要ありません」

 

 

「…わかっている…んだがな」

 

 

どこか、割り切ることが出来ない

彼らを、一人の人として見てしまう

 

彼らは、どうやって割り切っているのだろうか

彼らの方が、ステラたちとは付き合いが長い

 

 

「情を移されると、辛いですよ…」

 

 

やはり、彼らも自分と同じように悩んだ時期があったようだ

 

ネオは、部屋を出るべく出口に向かっていく

 

 

「大変だろうが、メンテナンスは入念に頼むな」

 

 

「はい」

 

 

研究員がしっかりと返事を返す

 

これならば、安心だろう

次の戦闘で、彼らに不備が出る、というのは考えないで済む

 

 

「…あれだけ死ぬことを怖がっている彼女が生きるには、敵を倒し続けるしかないんだ」

 

 

メンテナンスルームを出て、つぶやくネオ

 

敵、その単語に疑問の思いが出てきたのは、気のせいとネオは割り切ってしまった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「レイ・ザ・バレルであります」

 

 

レイが礼を取りながら挨拶をする

 

ディオキアの朝、レイだけがいなかったため今ここで改めてハイネに挨拶をしているのだ

 

今、パイロットたちは集まっていた

理由は、今のレイの挨拶もあるのだが、もう一つ

 

レクルームにいるパイロットたち

シン、シエル、ハイネ、ルナマリア、レイ

そして、もう一人

 

ミネルバに配属となったもう一人のパイロット

 

 

「クレア・ラーナルードであります」

 

 

シエルたちは、名乗った女性兵、クレアを見る

 

茶色い髪を背中まで伸ばしている

紫の瞳がシエルたちを映す

 

 

「昨日一二〇〇付で、ミネルバ配属となりました。よろしくお願いいたします」

 

 

きれいな動作で頭を下げるクレア

そんなクレアに、ハイネが明るく声をかける

 

 

「あぁ、よろしくな。けど、そんな堅苦しくしなくてもいいんだぜ?」

 

 

それは、シエルも感じていた

緊張しているのか、そうは見えないが、どこか一線を引いているように見えてしまう

 

そんなことは望まない

これからはともに戦う仲間になるのだから、仲良くしていきたいのだ

 

 

「…お言葉はありがたいのですが、これが本来の私の口調ですし。それに、この艦に来たのも目的があってのことです」

 

 

「目的?」

 

 

シエルがクレアに聞き返す

目的

一体何なのか

 

 

「…自分で言っておいてなんですが、話すつもりはありません。すみませんでした」

 

 

クレアが頭を下げてくる

シエルは、両手を横に振る

 

 

「いや、言いづらいんだろうし、気にしなくていいよ…」

 

 

シエルがそう言うと、クレアは頭を上げる

そして、シエルの様子を窺うようにじっと見つめて…、本当に気にしてないことを確認した後、もう一度ぺこりと頭を下げた

 

そのやり取りを見守っていたハイネたち

そして、ハイネが一歩前に出た

 

 

「じゃ、全員で、クレアにミネルバの案内するぞ」

 

 

「え?でも、ハイネがラーナルードさんを案内したんじゃ…」

 

 

シンが、ハイネに言葉を返す

 

ディオキアでの朝食時、ハイネはタリアに、クレアにミネルバをすると言っていたはずだ

それなのに、なぜまた案内するのか

 

 

「あの時はこいつの自室と、格納庫、食堂の最低限のことしか教えてないんだ。他のことは、お前らと一緒にやろうかと思ってたしな」

 

 

ハイネは朗らかに笑いながら言った後、今度はむすっとした表情をしてシンの方を向く

 

 

「それよりシン。今からクレアは仲間だぜ?お前が一線引いてどうすんの!」

 

 

「え…、あ」

 

 

シンが、今気づいたようにハッとする

だが、初対面、しかも自分は男だ

相手がどう思うだろうか

 

シンはちらっ、とクレアを見る

クレアはシンの視線に気づき、そしてシンが何を気にしているのかも気づいた

 

 

「私は構いませんよ。ヴェステンフルス隊長の言う通り、これから私たちは共に戦う仲間なのですから」

 

 

クレアは、微笑みながら言う

シンは、その言葉を聞き、ホッとした笑みを浮かべる

 

だが、あの人はそうはいかなかった

 

 

「クレア、俺のことはハイネで良いって言ってるだろ?」

 

 

「ですが…、上司に対して呼び捨ては…」

 

 

「だぁかぁらぁ、俺はそういうの気にしないの!こいつらだって、俺のことハイネって呼んでるし、シエルのことだって呼び捨てだぜ?」

 

 

「え…」

 

 

クレアが目を見開きながらシンたちを見渡す

 

レイは違うのだが…

ハイネの言うことには賛成なのだろう、特に反論はしていない

 

 

「…呼び捨ては、見逃してほしいです。ですが、名前で呼ばせていただきます」

 

 

「…ま、いいか。そういうのは性格も関わってくるしな」

 

 

ハイネの言う通り、クレアに呼び捨てを強要するのはやめておいた方が良いだろう

クレアは、そういう性分なのだから

 

そこまで強制する気はさらさらない

 

 

「さて、そろそろ行くぞ。まずは…」

 

 

ハイネが先頭に立って、レクルームを出て行く

 

シエルは、そんなハイネを見て思う

 

今、隊長と呼ばれるべく位置にいるのは自分とハイネだ

だが、こうして見ていると、ハイネの方が隊長としてふさわしいと思えてくる

 

自分では、こうして隊員を引っ張ってはいけないだろう

 

シエルは、最後にレクルームを出る

これから、シエルに衝撃の情報が届くのだが、この時はまだ知る由もない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーブ艦隊旗艦、タケミカヅチ

その艦橋の中で、うねる海原を、トダカ一佐は眺めていた

 

 

「だいぶ荒れてきましたね」

 

 

そんなトダカに、話しかけてくる男

アマギ一尉である

 

タケミカヅチは、荒れる海原を突き進んでいた

 

 

「まだ序の口だろうがな。抜けるのに、あと一時間といったところか」

 

 

「でしょうね。あまり規模が大きいものではないようですし」

 

 

トダカとアマギは、前方に広がる海を見ながら相槌を打ち合う

 

トダカは、艦橋内にいる全員の視線が、荒れる海に向けられていることを確認する

そして、アマギにささやきかけた

 

 

「…ウズミ様はどうだ」

 

 

そのささやきを聞いたアマギが、トダカをちらりと見る

トダカは何もなかったかのように前方を見続けている

 

アマギも、視線を前方に向ける

 

 

「…特に異常はないようですが、何やらまわりを探っているという輩がいるという話も」

 

 

「…そうか」

 

 

ウズミ・ナラ・アスハ

言うまでもなく、元オーブの代表

カガリの父親である

 

オーブを出る直前で聞いた話なのだが、今回の出兵は、ウズミの耳には届いていなかったらしい

基本、大きな動きをするときは、ウズミの耳に入れていたのだったが…

 

そして、アマギが言った、ウズミのまわりを探るもの

セイラン家のものだと、アマギは予想している

 

さすがに攻めるという愚行は犯してはいないが、それでも機会を窺っているのは間違いないだろう

 

 

「で、主役の最高司令官殿は?」

 

 

皮肉気味にアマギに問いかけるトダカ

 

 

「部屋で、未だバケツから離れられないようです」

 

 

そしてアマギもまた、皮肉気味に返す

 

今、この場に、最高司令官であるユウナ・ロマ・セイランを本気で慕っている者はいないのだ

カガリ・ユラ・アスハ

どうしても、彼女と彼を比べてしまう

 

いや、比べることさえできないほど、軍人はユウナを支持していない

 

だが、彼は今、上官である

大きな権力を持った上官なのだ

 

従わざるを得ないのだ

 

 

「…」

 

 

トダカは、前方の窓からのぞく、雲に覆われた空を見上げた

今のこの状況は、恐らくカガリにも伝わっているだろう

 

彼女は、どう思うだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本日、〇六〇〇付で、ファントムペイン配属となります、ウォーレン・ディキア少尉であります」

 

 

ネオは、目の前で礼を取りながら自己紹介をする青年を眺めた

 

黒髪をつんつんと伸ばし、東洋の人か、黒い瞳を覗かせている

 

 

「うん。これからよろしく頼むよ」

 

 

「…はぁ?」

 

 

ネオの返しに、呆気にとられた表情になるウォーレン

なぜ、そんな表情になるのか、ネオは首を傾げる

 

 

「どうした?」

 

 

「いや…、なんかこう、色々とお話になられるかと…」

 

 

なるほど

確かに、配属された兵に、話をする上官は多い

 

だが、ネオにとってはそんなことどうでもよかった

 

 

「この部隊で大事なのは、結果だからな。君にごちゃごちゃ言うつもりはないよ」

 

 

ネオは、ウォーレンと向き合って口を開く

 

 

「ファントムペイン隊長、ネオ・ロアノークだ。期待しているよ」

 

 

自分も名を名乗り、最後に言葉を付けたす

それは、ネオの本心だった

 

彼は、ジブリールのお墨付きでこの部隊に配属されたのだ

 

一体どんな処理を施したのかはわからないが、軍が作り出した新型機をこの青年は受け取っている

腕は確かなはずだ

それに、ジブリールからウォーレンに関する資料が送られてきていた

それを見ればわかるだろう

 

ウォーレンは、ネオの言葉に頷く

 

 

「じゃあ、今の状況を教えておこう」

 

 

今、この部隊は大きな動きを見せている

スウェンには話しているが、まだ配属されたばかりのウォーレンはこのことを知らないでいる

 

 

「オーブの派遣軍…ですよね」

 

 

と思っていたのだが、知っていたようだ

まあ、大方ジブリールが話していたのだろう

 

 

「知っているなら話は早い。我々は、オーブの派遣軍と共に黒海を取り戻す。明日の夕刻には合流するようだが…、詳しい作戦は、おって連絡しよう。今日の所は疲れているだろう?部屋に戻って休んでくれ」

 

 

ネオはウォーレンの肩に手を置いて、もう休んでいいと許可を出す

ウォーレンは、最後にもう一度礼を取ると、艦橋から出て行った

 

その後姿を見ながら、ネオはつぶやく

 

 

「…役に立つといいんだがね」

 

 

次の戦いで、今度こそ

ミネルバを、確実に落としたい

 

ジブリールもだんだんうるさくなってきているのだ

いい加減、決着をつけたいところなのだ

 

 

 

 

 

 

ウォーレンは、艦橋から出た後、部屋に戻り、ベッドに倒れ込んだ

特に疲れたという訳ではないが…、いや、疲れているかもしれない

ネオの言葉に甘えて休むことにしよう

 

やっとつかんだチャンスなのだ

 

辛い訓練を乗り越え、肉体改造を超え、完成された自分

奴らを討つ、機会がやってきたのだ

 

 

「…落とすんだ。あいつらを」

 

 

頭に浮かぶ、四機の機影

一機は自爆したとかで、もう存在していないようだが、まだ三機も残っている

 

憎い

奴らが、憎いのだ

 

 

「絶対に…」

 

 

瞼が重くなってきた

 

昨日、午前の訓練を終えた後ジブリールに呼び出され、対面してみればファントムペインに配属と指示を出された

すぐさま急いで準備をし、そして夜にこのJ・P・ジョーンズに向けて出発したのだ

 

疲れがたまらないわけがない

 

 

「落としてやる…」

 

 

最後にそうつぶやいた後、ウォーレンの意識は落ちた

 

最後のその言葉には、聞いた誰もがぞっとするであろう程の憎悪が込められていたのは、本人にもわからなかった

 

 

 

 

ウォーレンとネオが初対面していたころ、ステラは目を覚ました

いつもならぽやぽやと、目覚めの時は頭が重いのだが、今回はなぜかそれがない

 

なぜかを考えるが…、どうでもいい

目覚めが気持ちいいのは良い事だ

 

ステラは体を起き上がらせる

その拍子に、何かひらひらしたものが胸から落ちた

それを見て、ステラはきょとんとする

 

 

「…なに、これ…?」

 

 

ハンカチ、か?

だが、なぜ自分はこんなものを持っているのだろう

 

…なぜ、これを見ていると、胸がほかほかと暖かくなってくるのだろう

 

 

「…」

 

 

だが、このハンカチはステラのものではない

ステラはハンカチを置いてベッドから降りる

 

どうでもいい

どうでもいいのだ

 

それより、今日はまだ、戦争はないのだろうか

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「地球軍に増援?」

 

 

シエルは、ハイネと共に艦長室に呼び出されていた

タリアの用は、地球軍に増援が来たという情報だった

 

 

「えぇ。ジブラルタルを狙うのかどうかはわからないけど…。相手はスエズへの陸路は立て直したいでしょうし、司令部も同意見よ」

 

 

シエルは、テーブルに映し出されている地図パネルに視線を落とす

 

ガルナハン基地を落とし、このあたりの都市は、連合の支配から解放された

それにより、市民の人たちの落ち着きが戻ってきたのだが…

 

やはり、彼らもやられたら黙ってはいない

再び力を見せようというのだろう

 

 

「その増援以外の戦力はどうなっているんです?奴らの部隊は、どれだけの規模になるんでしょう?」

 

 

シエルの隣に立っていたハイネがタリアに問う

その問いを聞いたタリアが、表情を歪ませる

 

 

「数はともかく…、あの空母がいるのよ」

 

 

「…インド洋の、ですか?」

 

 

「えぇ」

 

 

インド洋にいたあの空母

アーモリーワンの強奪機体、そして新型の機体を使っているあの部隊が、自分たちの前にまた現れることになる

 

次の戦いも、また厳しいものになりそうだ

 

 

「ともかく、本艦は出撃よ」

 

 

タリアは、はっきりとした口調で告げる

 

確かにあの部隊の戦力も強大だが、こちらも戦力は大きくなっている

 

シン、レイ、ルナマリアには様々な状況で戦ってきたことにより積まれた経験

そして、新しく配属されたクレア・ラーナルード

 

フェイスであるハイネ

そして、指揮の能力が上がってきたシエル

 

 

「最前衛…、マルマラ海の入り口、ダーダネルス海峡へ向かい、守備に就きます。出発は、〇六〇〇」

 

 

「「はい!」」

 

 

シエルとハイネが了解の意を示す

 

 

「では、発進準備に入ります」

 

 

この場にいたアーサーがそう言って、艦長室から退室する

 

シエルとハイネも、タリアに礼を取ってから退室しようとする

 

 

「あ、シエル」

 

 

だが、そのシエルをタリアは呼び止めた

 

 

「はい?」

 

 

シエルは返事を返しながら立ち止まる

ハイネも、気になるのか立ち止まる

 

タリアは、ハイネに出て行けとは言わない

特に聞かれても大丈夫な話なのだろうが…、何なのだろう?

 

 

「地球軍の増援部隊のことなんだけど…、オーブ軍という話なの」

 

 

「オーブ!?」

 

 

シエルは思わず叫んでしまう

 

だが、考えてみればあり得る話だ

今では、あの国は大西洋連邦の同盟国なのだから

 

それでも、シエルには信じがたい話だった

あの国が、敵に回ってしまうなど

 

 

「あなたの気持ちはよくわかる。けど…、黒海への地球軍侵攻阻止は、周囲ザフト軍に下った命令。避けられないわ」

 

 

タリアの言葉がシエルの心に突き刺さる

 

戦わなければならない

あの国と

 

 

「…大丈夫?」

 

 

「…はい」

 

 

こうとしか返事はできなかった

 

自分が軍に戻ったのは、セラにもう剣を取ってほしくなかったから

だが、今セラは、国を飛び出している

 

…自分の選択は、正しかったのか?

 

議長と対談したあの日と同じ疑問が浮かぶ

 

シエルは、ぼんやりとしながら艦長室を出る

 

どこへ行こうか…

 

考えた結果、シエルは甲板に出ることにした

風に当たれば、気持ちも落ち着くだろう

シエルはさっそく甲板へと向かう

 

そのシエルの後姿を、ハイネはじっと見つめていた

 

 

 

 

甲板に出て、シエルは手すりに腕を乗せて海を見つめていた

今日の天気は気持ちよく、風が心地よい

 

 

「オーブにいたのか?大戦のあと」

 

 

と、甲板入口から声がする

シエルが振り向くと、ハイネが海を眺めながらこちらに歩み寄ってきた

 

 

「良い国らしいよな、あそこは」

 

 

「…はい」

 

 

頷くシエル

 

シエルは、セラたちと共にマルキオ邸に住んでいた

 

毎日が楽しく過ぎていく日々

キラ、ラクス、マルキオ、子供たち、そしてセラ

途中から、マリュー、バルトフェルドとアイシャもやってきて、家がいっぱいになるほどの人数になってしまった

 

それでも、窮屈に感じたことはなかった

それほどまでに、充実していたのだ

 

子供たちを連れて、海岸に散歩に出たり

 

ラクス、そしてたまに来るカガリと共に、マリューとアイシャに教えてもらいながら料理もした

 

バルトフェルドとセラは、合作だ!と変なのり方をしながらコーヒーを差し出してきた

おいしかったが、飲む前はなぜか毎回不安が押し寄せてきたのは良い思い出だ

 

…他にもまだまだ思い出はたくさんある

キャンプをしたり、買い物に出たり

 

キラとラクスに気を遣われて、セラと共に海岸を歩いたこともある

 

だが、たまに見せるセラの悲しい表情

あれを見るたび、心が痛んだ

 

 

「っ…!」

 

 

なぜ、自分はセラを置いてきてしまったのだろう

どうして、セラと共にいようとしなかったのだろう

 

今になって、後悔の念が押し寄せる

 

 

「…戦いたくないか?オーブとは」

 

 

「え…」

 

 

ハイネが問いかけてくる

シエルの辛そうな表情を見て、気を遣っているのだろう

 

それもあるが…、本質は違う

 

あの日々が、恋しい

セラに、会いたい

 

 

「…ま、大丈夫だよ。お前がへましても、俺たちが助けてやるから」

 

 

「…ハイネ」

 

 

ハイネが、笑みを浮かべながらシエルに声をかける

 

だが、不意にその表情が真剣なものに変わる

 

 

「けど、割り切れよ。俺たちは軍人なんだ。…でないと、死ぬぞ?」

 

 

ハイネは、そう言ってから甲板を出て行く

 

今は、一人にしておいた方が良い

ハイネはそう考えたのだ

 

そして、その考えは正しい

シエルは、一人で気持ちを整理する時間が欲しかった

 

ハイネに感謝する

 

 

「ありがとう…」

 

 

ぱたん、と扉が閉まる音がする

 

シエルは、空を見上げる

青い空

 

だが、本当は空は青くなんかないのだ

青く見えるだけで、あれは太陽の光が大気圏で…

 

なんてことを考えながら、シエルは何とか心を落ち着けようとする

 

だが、シエルは知らない

 

ダーダネルスで、シエルの迷いに追い打ちをかけることが起きるなど

 

知る由もないのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




今回は、機体設定を載せます
新キャラのクレアさんとウォーレン君の愛機です






ZGMF-X49Sエキシスター
パイロット クレア・ラーナルード
武装
・ビームサーベル×2
・ビームライフル
・ビームシールド
・高エネルギー収束砲(両腰)
・頭部バルカン

ザフトが作り出した第二世代の五機
その後に完成された機体
第三世代とは言えないのだが、それでも第二世代の五機の性能を凌ぐ
火力もさることながら、機体自身のパワーとスピードも十分に高い
両腰の収束砲は、機体自身とは別の機器となっている
その収束砲自体が、膨大なバッテリーを有しているため、威力は絶大なものになっている





GAT-109Zブルーズ
パイロット ウォーレン・ディキア
武装
・ビームサーベル
・ビームライフル×2
・ビーム対艦刀
・複列位相エネルギー砲スキュラ(腹部)
・プラズマ砲(両肩)

カラミティを基とした機体
だが、カラミティにはなかった近接戦用の武装
そしてビームライフルの装備により、戦略の幅が広がった機体
ジブリールが元からウォーレンに渡そうとしていた機体であり、OSもウォーレンのデータを基にして設定されている
だが、やはりカラミティが基になっているため、スピードにはどこか心許ない
そこをカバーするには、パイロットの腕次第といったところだろう

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