機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

17 / 73
昨日中に投稿するとか言っておいて…
申し訳ありません!

実は今日、数学の試験がありまして…


ということで、今回は戦闘回です!


PHASE16 インド洋

ハイネがミネルバ配属となった直後、ミネルバに本部から指示が入った

早朝、ミネルバはボスゴロフ級潜水艦と共に出航した

向かう先は、ユーラシア西

 

だったのだが

 

 

「艦長!熱紋照合…、ウィンダムです!数三十!」

 

 

わずか数時間後だった

バートが敵襲を報告する

 

 

「三十!?」

 

 

思わずタリアは聞き返した

三十という数

 

これは、偶然あった戦力をつぎ込んでいるわけではない

待ちかまえ、万全の形で攻めてきているということだ

 

 

「うち二機はカオス、エクステンドです!」

 

 

「っ!あの部隊だというの!?」

 

 

カオス、アーモリーワンから強奪された機体

そして、エクステンド

これらが表すことは、今自分たちを襲ってきている部隊は、宙で追い続けてきたあの部隊だということだ

 

しかし、まさか地上に降りてきているとは

自分たちを追ってだろうか?

 

 

「一体どこから…。付近に母艦は?」

 

 

「ありません」

 

 

近くに母艦の反応はない

あれだけの数なのだから、母艦もかなりの規模のはずなのだが

 

 

「またミラージュコロイドか…?」

 

 

アーサーが親指を顎に当てながらつぶやく

だが、それをタリアは一蹴する

 

 

「海上ではありえないわ」

 

 

ミラージュコロイドは、地上だとその作用時間は短い

さらに、艦の航跡や機関音まではカモフラージュしてくれないのだ

 

 

「…あれこれ言ってる暇はないわね。艦橋遮蔽!対モビルスーツ戦闘用意!ニーラゴンゴとの回線固定!」

 

 

タリアの指示と共に、警報が響く

 

タリアは沈んでいく艦橋を感じながら思考する

どうやらこの艦は、あのオーブ沖の戦闘ですっかり地球軍に認知されてしまったらしい

それも悪い意味でだ

 

その認知されてしまった艦を、なぜデュランダルはすぐさま出航させたのだろうか

フェイスという巨大な戦力、そして、大戦の英雄を乗せて

 

 

「艦長、地球軍ですか?」

 

 

タリアが思考していると、モニターに映像が映し出された

モニターには、つい昨日配属されたハイネの顔が映し出されている

 

 

「ええ。どうやらまた待ち伏せされていたようだわ。毎度毎度、人気者は辛いわね」

 

 

皮肉を含めたタリアの言葉に、ハイネは軽い苦笑い

 

 

「すでに回避は不可能よ。これより本艦は戦闘を開始するけど、あなたは?」

 

 

タリアはハイネに問いかける

 

 

「私には、あなたへの命令権はないわ」

 

 

同じフェイス同士

それは、シエルも同じなのだが、シエルは通信をつなげてこない

彼女はどう考えているのだろうか

 

 

「私は、出撃します」

 

 

と、そこで第三者の声が割り込んだ

画面いっぱいに映し出されたハイネの顔

画面の半分側に、シエルの顔が映し出された

 

 

「割り込んでしまいすみません。ですが、この戦闘は不可避と私は考えます」

 

 

シエルはそう考えているようだ

そして、それはもう一人のフェイスも同じで

 

 

「自分も同じ考えです。この場面で、この戦闘を回避することは不可能でしょう」

 

 

ハイネもそう言う

ならば

 

 

「シエルに、発進後のモビルスーツの指揮をお任せしたいわ。いい?」

 

 

タリアはシエルに任せることにした

ハイネに頼んでも良かったのだろうが、やはりここは今まで馴染んできた人が指揮する方がスムーズにいくだろう

タリアはそう考えた

 

 

「わかりました」

 

 

「了解」

 

 

シエルとハイネはそう言い、通信を切った

 

彼らがいる

そこに、ハイネも加わった

 

とても心強い

 

オーブ沖の戦いに続き、厳しい戦いになるであろうにも関わらず、タリアはそこまで緊張をしなかった

 

 

 

 

 

 

 

「艦長は指揮を私に任されたけど、いざという時にはお願い」

 

 

「りょぉかぁい!」

 

 

シエルは通信でハイネに頼む

ハイネは笑顔を浮かべながら了承の返答を返す

 

シエルはつい笑顔になってしまう

戦闘前にここまで明るい人がいると、なにか暖かい気持ちが湧いてくる

 

昨日は混乱してばかりだった

カガリが攫われたのを知り、そして攫った犯人がかつての戦友、フリーダムとアークエンジェルだと知り

 

安定とは言い難い精神状態の時に、ハイネの存在とてもありがたい

 

 

「シン・アスカ!コアスプレンダー、行きます!」

 

 

シンが発進した

そこから続いて、レイ、ルナマリアと発進していく

 

 

「ハイネ・ヴェステンフルス!グフ、行くぜ!」

 

 

ハイネが発進した

ハイネの機体は、ZGMF-X2000グフ・イグナイテッド

ザクの発展機で、大気圏内でも飛行できるという代物だ

 

そして、シエルに発進する番が来た

 

 

「シエル・ルティウス!ヴァルキリー、行きます!」

 

 

ハッチから灰色の機体が飛び上がる

PS装甲を展開し、その装甲に色が灯る

 

隊形はオーブ沖の時と同じだ

レイとルナマリアが艦のまわりのモビルスーツを迎撃

そして、シエルとシンが前に出る

今回はそこに、ハイネが加わる

 

前に出る機体が三機となる

 

 

「…来た」

 

 

シンがつぶやいた

前方に、こちらに向かってくるウィンダムの大群が見えてきた

 

 

「あぁ?なんだありゃぁ?」

 

 

一方の地球軍側も、こちらに向かってくる三機の姿を捉えていた

そのうちの一機を見て、スティングが素っ頓狂な声を出す

 

三機の内の、オレンジ色の機体

ザクに似ているようだが、細部が違う

あんな機体は見たことがなかった

 

 

「また新型かぁ?やれやれ、ザフトはすごいねぇ…」

 

 

どこか呆れたようにネオがつぶやいた

ザフトの技術力はすごい

そんなこと、周知の事実なのだ

特に驚くようなことはない

 

 

「ふん!あんなもの…」

 

 

スティングが、たった一機突っ込んでいった

その先は、オレンジ色の新型の機体

 

 

「おいおい…。はぁ、仕方ない。俺はあっちの機体をやる。スウェンはヴァルキリーを」

 

 

「了解」

 

 

ネオは、自分がインパルスと戦う旨を伝える

そしてスウェンにヴァルキリーと交戦するように指示を出す

 

はっきり言って、これは当然の指示だ

自分では機体性能が重すぎるし、言いたくはないがスティングでは荷が重すぎる

それはアウルやステラでも同じこと

 

だから、宇宙でもしっかり戦えたスウェンが一番適任なのだ

 

ネオがインパルスへと向かい、スウェンがヴァルキリーへと向かっていく

 

それは、シエルたち三人も気づいて

 

 

「来るよ!迎撃はしっかりしてるけど、なるべくウィンダムを通さないようにして!」

 

 

「「了解!」」

 

 

こちらに向かってくる三機を見据えながら、シエルは二人に指示を出す

 

三機の進行方向を見る限り、カオスはハイネ、ウィンダムはシン、そしてエクステンドは自分狙いだろうか

ここは相手の思惑通りに戦ってもいいだろう

 

どうせこの戦いで先手を取ることなど不可能なのだから

 

エクステンドが対艦刀を振るってくる

シエルは腰のビームサーベルを抜き、その斬撃を迎え撃つ

 

互いの剣がぶつかり、モニターに火花が散るのが映る

 

 

「シエル!」

 

 

シンが、シエルを援護しようとヴァルキリーに近づこうとする

だが、そのインパルスに大量のウィンダムが集ってくる

 

 

「援護には行かせないよ、ザフトのエース君!」

 

 

ネオも、インパルスへと向かっていく

 

シンは、シエルの援護に行けないことにいらだつ

 

 

「くそっ!数ばかりごちゃごちゃと!」

 

 

シンは上下左右にいるウィンダムに対し、ライフルを連射する

その一射一射は、たまに外れることがあるものの、それでもしっかりとウィンダムを撃ち抜いていく

 

 

 

 

「そぉら!見せて見ろよ、その力をよぉ!」

 

 

カオスが、グフへと向かっていく

今のカオスの形態は、モビルアーマー形態である

 

兵装ポッドのビーム砲を放つ

 

ハイネは放たれたビームをかわし、手首のビームガンを連射する

連射されたビームガンを、スティングは回避してから、モビルスーツ形態へとカオスを変形させる

 

そして、ビームライフルでグフを狙い撃つが

 

 

「ちぃっ!こいつ!」

 

 

グフに当たらない

ハイネは海面ぎりぎりの所を飛行して放たれるビームをかわしていく

 

そして、ビームが止んだところでハイネはビームソードを展開し、カオスへと斬りかかる

スティングも、グフが斬りかかってくるのに反応し、ビームサーベルで迎え撃つ

 

一度、剣をぶつけ合いながらすれ違い、そしてもう一度斬り合うと、今度は鍔迫り合い

 

互いに、同じことを思う

 

こいつは、強い

 

互いが離れる

ハイネはビームウィップを取り、カオスへと向かっていく

スティングは再びその手にライフルを取る

 

二人の戦いは、熾烈を極めていく

 

 

 

 

シンは、ウィンダムを撃ち抜いていた

だが、そこに邪魔が入る

 

一機のウィンダムがインパルスにライフルを放つ

シンはそビームをかわし、逆にライフルを撃ち返すが

 

 

「っ!?こいつ、速い!」

 

 

そのウィンダムは、他のウィンダムと動きが違った

ウィンダムは放たれたビームを、他のウィンダムとは比べ物にならない鋭い動きでかわす

 

そして、今度はビームサーベルをとり、インパルスへと向かっていく

 

シンも、背中に差してあるビームサーベルを抜いて斬りかかる

一度、二度と斬りかかりながらすれ違う二機

 

ウィンダムのパイロット、ネオはインパルスと鍔迫り合いという選択はしなかった

こちらの機体も最新鋭の機体ではあるが、それでもガンダムには敵わない

鍔迫り合いなどすれば、パワーで押し切られてしまう

 

インパルスとの戦いは、長期戦へと持ち込む

これがネオが取る作戦だ

 

長期戦へと持ち込めば相手のバッテリー切れも狙える

オーブ沖の戦いでは、そこで信じられないような動きを披露し、母艦からエネルギーを補給していたが、その前に撃てばいい話

 

 

「っ、くそっ!」

 

 

二機のウィンダムが、背後からライフルを撃ってくる

シンにとっては、目の前の強敵に集中したいのだが、そうはさせてくれないまわりの機体

 

シンは一度ネオのウィンダムから注意を反らし、背後から撃ってきた二機のウィンダムにビームを放つ

放たれたビームは、二機のウィンダムを撃ち抜き、ウィンダムは爆散していく

 

ネオは、インパルスが自分から注意を反らしたところを見逃さない

インパルスの後方からライフルのトリガーを引く

 

シンは鳴り響くアラートに反応し、機体を横にずらす

先程までいた場所を、ビームが横切る

 

ビームをかわせたことにほっとする暇を、ネオは与えない

シンの死角からサーベルで斬りかかる

 

 

「くっ!」

 

 

シンは何とかシールドを割り込ませ、ウィンダムのサーベルを防ぐ

そして、背中のサーベルを抜き放って反撃する

 

だが、ネオは後退してインパルスの斬撃を回避

そして攻撃直後を狙って、多数のウィンダムがインパルスへと襲い掛かっていく

 

多対一

シンは苦しい戦いを強いられていた

 

 

 

 

互いにライフルを撃ち合い、回避する

スウェンは、ライフルを撃ちながらヴァルキリーへと向かっていく

シエルはエクステンドから距離を保ちながら後退し、腰のサーベルを抜く

 

エクステンドから放たれるビームをシールドで防ぎながら、エクステンドに向かっていく

そして、サーベルを振り下ろす

 

だが、スウェンの反応も早かった

スウェンはライフルをしまい、対艦刀を抜く

そして、振り下ろされるサーベルを迎え撃つ

 

そこでシエルは、エクステンドの肩の方向がこちらを捉えているのを見た

シエルはすぐさま後退し、機体を横にずらす

 

先程まで自分がいた場所を、巨大な砲撃が横切っていく

 

 

「ちっ」

 

 

スウェンは軽く舌打ちする

これで殺れるとは思っていなかったが、それでも何らかの損傷は与えたかった

 

だが、相手はしっかりと回避しきった

やはり、奴は手ごわい

さすがはヤキンの英雄と言うべきだろう

 

 

「ふぅ…」

 

 

シエルは一度息をつく

今のは肝が冷えた

 

もし、あの肩部分を見逃していたら、自分はこの世にいなかった

それにしても、相手は一体何者なのだろうか

 

あの機体、エクステンドといっただろうか、あの機体はヴァルキリーにも負けない性能を誇っている

それを思うがままに操っている

 

そこで、いつか聞いた話を思い出す

地球軍が、コーディネーターに負けない強化人間を作り出している…

 

 

「っ!」

 

 

シエルは機体を後退させる

そして、サーベルを振り切った

 

サーベルは、エクステンドが振り下ろした対艦刀とぶつかり合う

 

危なかった

何をしているのか、戦闘中にぼうっとするなど

 

今のは本当に運が良かった

 

シエルは改めて気を引き締める

ここで自分が落ちたら、ミネルバの負けは確定してしまう

それだけは防ぐ

 

シエルは力比べを止めて後退する

そして、ライフルをエクステンドへと向けた

 

 

 

 

 

 

 

「ランチャーワン、ランチャーツー、てぇっ!」

 

 

アーサーの指示と共に、ミネルバの火器が火を噴く

 

タリアは頭の中で戦況を整理する

 

インパルスはウィンダムに包囲されて身動きが取れない

グフ、ヴァルキリーは、カオス、エクステンドとそれぞれ交戦していて身動きが取れない

 

上空のウィンダムが、ミネルバに向けてライフルを向ける

そのうちの一機を、セイバーがサーベルで切り裂く

 

もう一機は、ルナマリアがオルトロスを放つ

当たらなかったが、そこでウィンダムは動きを止めてしまった

そこを、レイがライフルで撃ち抜いた

 

セイバーとザクはウィンダムの迎撃で一杯一杯

 

 

「そんなことはわかっている。だが、こちらのセンサーでも潜水艦はおろか、海上艦の反応もないんだぞ」

 

 

モニターに映し出される、ボスゴロフ級の艦長が言った

 

その言葉通り、ミネルバのセンサーも何の反応も示していない

だが

 

 

「では、彼らはどこから来たというのです?付近に基地があるとでも?」

 

 

あれほどの大群、一体どこから来たのだろうか

間違いなく、近くに母艦か基地があるはずだ

 

 

「はっ!こんなカーペンタリアの鼻っ先にか!そんな情報などないぞ?」

 

 

バカにするように艦長が言い放つ

 

何を言っているのだろうか

たとえ情報がなくとも、必ずしもそうでないとは言い切れないだろう

 

それに、鼻っ先だからこそ基地を建設する理由があるというのに

 

と、むこうの艦橋が慌ただしくなった

何かの反応をつかんだのだろうか

 

 

「艦長!海中からモビルスーツ接近!これは…、アビスです!」

 

 

タリアは悔やんだ

なぜ、このことを忘れていたのだろう

 

アビスは元々水中専用に作り出されたモビルスーツだ

この作戦をむこうが取ることは当たり前のことではないか

 

 

「レイとルナに水中戦の準備をさせて!完了次第発進!」

 

 

タリアは一瞬だけ悩んだ後すぐに決断を下す

 

セイバーはもちろん、ザクも水中戦には向いていない

さらにセイバーは水中に入ってしまうと、使える火器が機関砲しかなくなってしまう

 

だから

 

 

「インパルスのソードシルエット、それをセイバーに使わせなさい!」

 

 

タリアはそう指示した

 

ソードシルエットのエクスカリバー

あの剣のビームを切れば、実体剣として使える

これならばまだましに戦えるだろう

 

ボスゴロフ級からグーン三機が発進していく

この三機で抑えてくれるのが一番いいのだが

 

 

 

 

 

 

 

ボスゴロフ級から何かが射出された

アウルはモニターに目を向ける

 

射出されたのはグーン三機のようだ

アウルはため息をついた

 

 

「なんだ、小物かよ」

 

 

どうせならばゾノ位を倒したかった

この程度の敵を倒しても楽しくもなんともない

 

アビスに向けてグーンから魚雷が発射される

アウルは、機体の軌道を一気に曲げる

魚雷を回避すると、アウルはグーンの一機に向けて加速

 

ランスを振るった

グーンは一刀両断にされる

 

残った二機は、動揺したのかたじろいだ

 

まったくアビスの動きに反応できなかったのだ

いつの間にか一機グーンが落とされている状況

何が起こったかすらわかっていなかったのだ

 

相手の動揺を読み取ったアウルは、一気にたたみかける

 

シールドから誘導魚雷を放ち、牽制を入れる

グーンは当然魚雷を回避する

が、アウルはグーンの動きを読んでいた

 

魚雷を放った直後、アウルはグーンに接近していた

二機のうちの一機のグーンに向かっていく

 

 

「そぉら!」

 

 

再びランスを振るう

グーンは何もできずに真っ二つになる

 

アウルはそこで手を休めない

残ったグーンが放つ魚雷を回避すると、こちらも魚雷を放つ

 

アビスが放った魚雷を必死にグーンが回避していくが、それもむなしく魚雷に命中してしまい、爆散

 

 

「へへっ」

 

 

アウルは得意げに笑う

再びミネルバの方向へ機体を向ける

 

そこに、二機の赤い機体が海に潜ってきた

あの二機は、見覚えのある

 

宙で三度自分たちと戦い、そして落とせなかった相手

 

片方の赤い機体、ザクがバズーカを構えて撃つ

そして、もう片方、セイバーがビームを切ったエクスカリバーを構えて向かってくる

 

 

「はっ!そんなのでこの僕とやろうっての!?」

 

 

アウルは相手の二機をあざ笑う

 

ザクが放った砲弾を掻い潜り、接近してくるセイバーに向かっていく

セイバーはエクスカリバーで斬りかかる

アウルはランスで大剣を迎え撃つ

 

 

「なめんなよ、こらぁあああああああ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

シエルはエクステンドが振るう対艦刀を捌いていく

距離を取り、エクステンドの動きに注意しながらライフルを連射

 

そこで、シエルはミネルバに通信を入れた

 

海中で何らかの爆発が起こったのである

ミネルバに水中用のモビルスーツはない

ボスゴロフ級からグーンが発進したという報告もない

 

間違いなく、地球軍側からのアクションがあったのだ

 

 

「ミネルバ、何があった!」

 

 

「アビスです!ニーラゴンゴのグーンと戦闘中!」

 

 

ここで、シエルもタリアと同じように後悔した

なぜアビスのことを失念していたのか

 

カオスとエクステンドがいる時点で、水中用MSであるアビスがとってくる作戦など容易に読めるというのに

 

 

「でも一機よ!レイとルナで対応します!」

 

 

レイとルナマリアで対応する

だが、水中ではあまりに不利ではないか

 

シエルは二人のことで心配になる

 

 

「よそ見とは余裕だな」

 

 

シエルが注意を周囲に向けていたところを、スウェンが襲う

スウェンは肩、両腰の四つの砲門を構え、放つ

 

四本の砲撃がヴァルキリーを襲う

シエルはアラートにすぐに反応し、機体を横にずらす

 

砲撃を回避したシエルだが、それでも機体の体制が不安定になってしまった

そこを、スウェンは見逃さない

 

スウェンは対艦刀を構え、ヴァルキリーに斬りかかる

シエルはシールドを構え、何とか防ぐも、さらに機体の体制は崩れていく

 

スウェンは、肩の砲門を開放する

ヴァルキリーをロックして、トリガーを引いた

 

シエルは、こちらに向かってくる砲撃に反応する

そこでシエルはSEEDを解放した

 

シエルは、己にかかるGを無視して機体を捻らせる

それと同時に、全開でスラスターを吹かせた

 

機体に砲撃が命中するギリギリのところで、回避に成功

シエルは何とか体制を立て直す

 

 

「…これでもダメなのか」

 

 

スウェンは、ぼそりとつぶやく

 

あの機体のことは聞いていた

ヤキンの英雄

 

だからこそなのか、こちらが決めたと思った攻撃も全て対処してくる

 

そして、こちらが何度も何度もひやりとする攻撃もまた、何度もしてくる

 

これが、ヤキンの英雄の力

 

シエルは、ライフルを連射しながらエクステンドへと向かっていく

スウェンは放たれるビームを回避する

 

シエルは腰のサーベルを抜いて斬りかかる

スウェンも対艦刀で迎え撃つ

 

はずだった

 

シエルは、サーベルが対艦刀とぶつかるその直前、太刀筋をわずかにずらした

対艦刀も振るわれるが、SEEDを解放したシエルは、その太刀筋に反応し、対艦刀をかわす

 

そして、シエルが振るったサーベルは

 

 

「っ!?」

 

 

エクステンドの左腕を斬りおとした

 

 

 

 

 

 

 

 

シンは、インパルスの斜め下に移動したウィンダムにライフルを向け、引き金を引く

ビームに貫かれたウィンダムは炎を上げ、そして爆散する

 

さらにシンは顔部分の機関砲を連射する

機関砲はウィンダムを捉える

 

コックピットを貫かれ爆散するウィンダム

 

これで、何機ウィンダムを落としただろうか

十機ほど落としたのは間違いない

襲ってくるウィンダムの勢いも衰えてきている

 

ミネルバの方にもウィンダムは向かっているのだ

 

 

「こいつを…、こいつさえ落とせば!」

 

 

シンは、先程からやけに鋭い動きを見せるウィンダムを睨む

技量からしても、明らかに指揮官レベルだろう

この機体を落とせば、一気に戦闘がこちらに有利になるのは明らかだった

 

シンは執拗にそのウィンダムを追う

 

 

「シン、出すぎだぞ!」

 

 

そこに、通信を通してハイネがシンに声をかけてくる

その声で我に返り、まわりを見渡す

 

いつの間にか、かなりミネルバから離れ、陸が近づいてきていた

 

だが、ここで引きたくない

 

 

「大丈夫です!このまま行きます!」

 

 

シンはハイネにそう返し、ウィンダムと戦闘を再開する

シンがトリガーを引こうとしたその時、視界の端で何かが動いた

 

黒い、機体

 

 

「ガイアか!?」

 

 

横合いから飛び出してくる機体、ガイア

シンは反応が遅れる

ガイアの突進を抵抗できずに受けてしまう

 

インパルスはバランスを崩し、海へと落ちていく

 

陸地から近く、浅瀬に落ちたため、機体が沈んでいくということはなかった

だが、ものすごい衝撃がシンを襲う

 

 

「シンっ!」

 

 

ハイネの声が響く

明らかに自分のことを気遣っている声質

 

シンは気づいていなかった

インパルスに迫っているウィンダムに

 

ハイネはカオスに追われながらも、必死に回避し、そしてビームガンを発射する

 

 

「ちっ!」

 

 

ネオは、もう少しでインパルスを落とせるというところを邪魔されたことに舌打ちをする

 

やはり一筋縄ではいかない

ネオは機体をグフへと向けた

 

シンはここで助けられたのだと自覚する

さらに、自分の後ろにガイアがいる

こちらに向かってきていた

 

四本足で駆けてくるガイア

ガイアは跳ね、こちらに向かってくる

 

シンはすぐさま振り返り、そしてガイアを蹴り飛ばした

 

 

「あぁあああああ!!」

 

 

ステラは悲鳴を上げながらも、機体の体制を整える

そして、インパルスとガイアは対峙する

 

ガイアは変形し、二本足のMS形態となる

 

二機は、ビームサーベルを構え、タイミングを計る

 

 

「シン、下がって!乗せられてる!」

 

 

今度はシエルから通信が届く

 

 

「大丈夫、やれる!」

 

 

シンはシエルにそう返す

 

ここで引けない

負けたくない

 

シンは、ガイアに向かって駆けていく

ガイアもまた、インパルスに向かって駆けていく

 

二機は、サーベルを交あわせる

 

ガイアはバーニアを吹かせ、後退する

シンはそれを追って、サーベルを横薙ぎに振るう

 

だが、サーベルは空を切る

 

二機は少しずつ位置がずれていき、そして陸地にまで移動していた

一振り一振りが、まわりにある木を切り倒していく

 

 

「!?なんだ!」

 

 

そこで、シンは横側から衝撃を受けていることに気づく

シンはモニターを横側に向ける

そこには

 

 

「え…?」

 

 

シンは、唖然とする

そこには、こちらに向かれている砲台が、戦車があった

 

シンは、こちらを襲ってくるガイアをいなしながら、そちらの方向を観察する

すると、さらにその向こう側に建物があるのに気づく

さらにアスファルトで作られた道路、滑走路のようだ

格納庫や兵営らしきものまで

 

 

「基地、か?こんなところに!?」

 

 

驚愕するシン

カーペンタリアの目と鼻の先に、こんな基地があるとは

 

カーペンタリアは知っているのだろうか

 

知るはずがない

知っていたら、こんな所にある基地を放っておくわけがないのだ

 

さらにシンは、その視界にあるフェンスを捉える

そのフェンスの向こう側には、武装もしていない、ぼろぼろの衣服を着た人たちの姿

 

 

「まさか、ここの民間人たちを!?」

 

 

この基地を建設しているのは、民間人の男たちだったのだ

地球軍の兵は、民間人を奴隷のように扱っている

 

シンのこの考えは当たっていた

 

フェンスの抜け目から逃げ出そうとした男を、地球軍の兵が撃ち殺した

 

 

「っ!」

 

 

シンは息を呑む

なぜ、そんなことを平然とできるのだろうか

 

もう、我慢ができなかった

 

 

 

 

 

 

「スティング、まわりこめ!」

 

 

ネオがスティングに指示を出す

スティングは指示の通りに、機体をグフの下に潜り込ませる

 

ネオは上からライフルを撃つ

 

ハイネはウィンダムから放たれるビームを回避する

そして、下からカオスがライフルを撃つ

 

だがそれも、ハイネはシールドで防ぐ

 

 

「くそっ!シエル、そっちはどうだ!?」

 

 

ハイネはだんだんと自分が不利になっているのを感じ、シエルに助けを求める

 

 

 

「まだ交戦中です!」

 

 

シエルは、むこうの機体と未だ交戦しているようだ

シンも、前に出すぎて、位置がわからなくなってしまった

 

ガイアと交戦しているのは間違いないのだが

 

ハイネはこうしている間にも、こちらに向けられるビームを回避していく

これでは、反撃する暇がない

 

だが

 

 

「…限界か、場所が悪かったか」

 

 

ネオは、引き際を見極めた

ウィンダムの数がかなり少なくなってきていた

 

先程までのインパルスの奮闘

そして、ミネルバの奮闘

これらによって、かなりの数のウィンダムが落とされてしまった

 

このままでは、こちらが全滅するのもあり得てきてしまう

 

 

「仕方ない。ジョーンズ、撤退するぞ!合流準備!」

 

 

ネオは決断を下した

ジョーンズから領海を示す通信が返ってくる

 

 

「アウル、スティング、ステラ、撤退だ!離脱しろ!」

 

 

次に、パイロットの三人に指示を出す

ステラとスティングは了承したのだが

 

 

「ええ!?何でさ!」

 

 

アウルが渋った

 

海上の戦いと違い、海中の戦いは面白いように優位に進められていたのだ

アウルが渋るのも仕方がないのだが

 

 

「借りた連中が全滅だ。拠点予定地まで入られてるしな」

 

 

先程、最後のウィンダムが落とされた

そして、インパルスが基地の建設予定地に入り込んでしまっている

 

これでは、撤退せざるを得ない

 

 

「なぁにやってんだ!このボケ!」

 

 

アウルが不満を隠さずに罵る

 

 

「言うなよ。お前だって、大物は落としてないだろ?」

 

 

「…なら、やってやるさ!」

 

 

ネオに言われると、アウルはセイバーとザクを無視してボスゴロフ級に向かっていった

アビスの動きに、ボスゴロフ級は反応できない

 

そして、そのままボスゴロフ級に向けて魚雷を放った

 

放たれた魚雷は、見事ボスゴロフ級に命中

さらに、シールド後方の連装を放つ

 

ボスゴロフ級は、爆散していった

 

 

「あっはははははは!!」

 

 

アウルは笑いながら撤退していく

水中では、ザクも、もちろんセイバーも追いつけない

 

レイとルナマリアは、何もできずに撤退していくアビスを見送ることしかできなかった

 

 

 

 

 

シエルとハイネは、地球軍が撤退していくのを見た

追撃の命令は出ていないため、シエルとハイネは相手を追わない

 

 

「…シン?」

 

 

そこで、シエルはインパルスの反応を捉えた

インパルスは陸地でゆっくりと移動していた

 

一体何をやっているのだろうか

 

ハイネも、インパルスの反応を捉えた

 

だが、シンが戻ってこない

シエルとハイネは、シンに撤退だということを報せるために、インパルスに接近していく

 

 

「…え」

 

 

「あいつ…」

 

 

そこで、二人は見た

 

インパルスは、恐らく地球軍基地だろう

建設途中であるその基地を破壊して回っていたのだ

 

 

「シン、何してるの!?」

 

 

「やめろ!相手にはもう戦闘力はない!すぐに撤退するんだ!」

 

 

 

 

やめろ?

 

シンは一瞬唖然とした

二人は、やめろと言いたいのだろうか

 

どうして、なぜ

 

彼らを助けたい

無力な彼らを、良いように使われる彼らを助けようとして、何が悪いというのだろうか

 

シンは、最後の建物に機関砲を命中させ爆発させる

そして、機体を振り返らせた

 

シンは機体をゆっくりと進め、あのフェンスがあった場所に止めた

 

民間人の人たちは、こちらを見上げて怯えた表情をしている

 

シンはゆっくりと手を降ろし、フェンスをつかんだ

そして、フェンスを引き抜く

 

民間人たちは、呆然としている

そして、自分たちを隔てる壁がなくなったことを理解すると、彼らは抱き合って喜ぶ

涙を流しているものもいる

 

シンはその光景を見て笑みを零す

 

心に温かい思いを抱きながら、ミネルバへと戻っていった

 

 

 

 

 

 

 

ぱぁん

 

格納庫に、何かを張る音が鳴り響いた

スタッフ、そしてパイロットが何事かと音が鳴り響いた方に視線を向ける

 

そこには、頬を赤く腫らし、呆然としているシンと、腕を振り抜いた体制でシンを睨みつけるシエルがいた

 

シンは、はたかれた衝撃でずれた視線を、ゆっくりとシエルに向ける

 

 

「な…んで…?」

 

 

わからない

なぜ、シエルに殴られたのだろうか

 

 

「…戦争は、ヒーローごっこじゃない」

 

 

聞いたことのない、低く冷たい声

シンは、びくりと体を震わせた

 

 

「シンは、力を持ってる。その力がどんなものなのか、自覚して」

 

 

シエルはそう言い残すと、もう何も言わずに立ち去った

 

シンは、わからない

シエルが言っているのは、あの撤退直前の救出行動だということだけは理解できる

だが、なぜ自分は褒められるのではなく、叱責されなくてはならないのか

 

 

「わからねえって顔してるな」

 

 

すると、そんなシンに、ハイネが声をかけた

シンはハイネに視線を向ける

 

 

「ま、ゆっくりと考えてみろや。それだけの力を持ってるんだ。その力のことを考える時間も、無駄じゃぁないと思うぜ?」

 

 

ハイネは慰めるようにシンの肩をぽんと叩くと、そのまま格納庫から立ち去っていく

 

…わからない

 

だが、これだけはわかる

 

自分は、何かを間違えているのだということは

 

 

「お兄ちゃん…」

 

 

マユがこちらを心配げに見ている

シンは、何とか笑顔を作りマユに向ける

 

だが、無理していることがバレバレなのだろう

さらにマユは表情を歪ませてしまう

 

これではだめだ

気持ちを整理しよう

 

シンもまた、格納庫を出る

 

シエルとハイネの言葉は、確かに少年の胸に刻まれた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




原作のアスランの時と違い、シンは言葉を刻み、考えることを決意しました

シンにとってのシエルは、尊敬している人
アスランとは違うのです

そして、ハイネもまた、交流は少ないものの普通の上司よりも断然慕っています
ハイネって良い空気纏ってますもんねww

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。