機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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あの男が登場します


PHASE15 来訪

プラント首都、アプリリウス

その議長執務室に、プラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルはいた

デュランダルは、ソファに座りながらテーブルの上に置いてあるチェスの駒をじっと見つめていた

 

 

「…任務は失敗したか」

 

 

オーブにいる、セラ・ヤマトとラクス・クラインの暗殺の失敗

モビルスーツを使うことも許可したというのに

 

何とかプラントまで戻ってこれた隊員からの報告

何と、フリーダムが現れたというのだ

 

 

「キラ・ヤマト…か。やはり、彼らは厄介だ」

 

 

キラ・ヤマト

セラ・ヤマトの兄であり、最高のコーディネーターとして創り出された存在

 

その称号は、セラ・ヤマトに今は奪われているが、それでも並のコーディネーターとは比べ物にならない能力を持っている

やはり奴の存在は大きな障害になる

 

だが、逆にこちらに引き込めれば

 

 

「だが、セラ・ヤマトは…」

 

 

あれは危険すぎる

あれを手駒に引き込むにはリスクが大きすぎる

キラ・ヤマトですら、できるならばといった感じなのだ

 

それよりも圧倒的強大な存在

 

 

「…」

 

 

だが、こちらには四つの強大な駒がいる

 

シエル・ルティウス、シン・アスカ

そして

 

 

「議長」

 

 

「…やあ。もう一人の方は目覚めたかね?」

 

 

「いえ。やはり自分よりも傷が多く、深かったのですから。正直、助かるだけでも奇跡というレベルなので」

 

 

真っ赤な髪、水色の瞳の男が執務室に入ってきた

その男とデュランダルは言葉を交わす

 

運んできた二人の内、一人は目覚めた

もう一人は、未だ目覚めない

 

 

「そうか…」

 

 

彼は、まだ目覚めない

今の段階では特に影響はないのだが、これが長引いてくると厄介だ

 

目覚めるのはいつになるのかまったくわからない状況なのだから、しょうがないのだが

 

 

「早く、目覚めてほしいものだ」

 

 

デュランダルは、チェスの駒を一つつまみ、一マス進めた

 

 

「そういえば、何か用があってここに来たのではないのかね?」

 

 

「はい。ハイネ・ヴェステンフルスが、ミネルバに出頭を開始しました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これで、後戻りはできなくなったな」

 

 

アークエンジェルの艦橋

そこに、セラたちは集まっていた

 

その中の一人、バルトフェルドがぽつりとつぶやいた

 

もう、後戻りはできなくなった

一国家の代表を連れ去り、なおかつ軍の機体を撃墜してしまったのだ

戻っても捕らえられるのがおちだ

 

 

「だが、こうでもしなければ、本当にオーブは壊れてしまう。あの中に私がいても、何もできはしなかった…」

 

 

カガリが顔を俯かせながら言う

皆がカガリの方を見る

 

 

「確かに、国を焼くわけにはいかない。けど、この選択だって国を焼くことになるんだ。もし、オーブに出撃要請が出たら…」

 

 

オーブは、戦うことになる

そして、もしその戦いに負けてしまったとしたら

 

たとえ本土に被害はなくとも、オーブの国民は犠牲になっていくのだ

そして、オーブだけではない

他の国の人たちだって、プラントの人たちだって、犠牲になっていくのだ

 

 

「みんな!力を…、貸してくれるか…?」

 

 

カガリが、どこか縋るように周りを見渡す

 

 

「当たり前だ。そのために、俺たちはここに来てるんだ」

 

 

カガリの問いに答えたのは、セラだった

そして、そのセラに次々と続いていく

 

 

「もちろんだよ。僕だって、もうあんなことになるのは嫌なんだ」

 

 

「そうですわ。わたくしも、及ばずながらお力添えいたします」

 

 

キラ、ラクス

 

 

「まあ、さっきも言ったが、後戻りはできないしね」

 

 

「ここまで来て、今更戻るのもね?」

 

 

「私たちも協力するわ。カガリさん」

 

 

バルトフェルド、アイシャ、マリュー

 

そして、ノイマンとチャンドラが笑顔でうなずく

 

 

「…みんな」

 

 

カガリの目に、涙が浮かぶ

キラは、カガリの頭をそっと撫でる

 

 

「行こう、カガリ。もう、あんなことだけには、絶対させちゃならないんだ」

 

 

カガリは崩れるように座り込む

キラとラクスがそのカガリの傍らに寄り添う

 

セラたちはその光景を見守る

 

 

「セラ君は行かなくていいの?」

 

 

「え?」

 

 

マリューが、セラに声をかけてきた

セラはマリューの言葉の意味が読み取れず、目を見開く

 

マリューは、視線をキラたちに移す

そこで、セラはマリューが何を言っているのかをようやく読み取れた

 

 

「いいんです。もっと増えたら暑苦しいでしょう?」

 

 

セラは子供のような笑みを浮かべながら言う

マリューは、一瞬呆けた表情をして、くすりと笑みを零した

 

 

「…そうね」

 

 

カガリは未だに涙を流している

だが、もう声は収まってきている

 

そして今、涙を拭いながら立ち上がった

キラとラクスの手を借りながらだが

 

 

「何も言わないというのも、時には励ましになるんですよ」

 

 

セラはその光景を眺めながら言った

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミネルバは、カーペンタリア基地に到着

シンたちはオーブの時以来のオフを堪能していた

 

といってもシンはただのんびりと散歩をしているだけなのだが

シンは今、カーペンタリア基地のドラッグストアにいた

お気に入りの栄養ドリンクが切れたのである

シンの持っている籠には二十はあるだろうか、赤色のラベルがつけられたペットボトルが入れられている

 

相当気に入っているようだ

 

 

「でも、ミネルバの修理はもうすぐ終わるんですよね?」

 

 

「まあね~」

 

 

と、横から聞き覚えのある声が聞こえてきた

声が聞こえてきた方に目を向けると、そこには三人の少女がいた

 

ルナマリア、メイリン、そしてマユである

メイリンの持っている籠には、化粧品やらシャンプーやらが大量に詰め込まれている

マユとルナマリアが持っている籠にもそれなりには入ってはいるが、それでもメイリンのは別格の量である

 

 

「何でそんなにいるんだか…」

 

 

ぼそりとつぶやいたルナマリアの声が耳に届く

その視線は、メイリンの持つ籠の中に向けられている

 

…同感だ

 

心の中でルナマリアに賛同するシン

 

シンは大量の栄養ドリンクを持ってレジに行く

店員の引き攣った表情

なぜそんな表情をされるのだろうと疑問に思いながら、要求される金額のお金を差し出す

 

お釣りを受け取り、袋に入れられた商品を受け取る

ドラッグストアを出る直前に、ルナマリアと目が合う

互いに手を振り合ってから、シンは店を出た

 

外に出ると、日差しがシンを襲う

まぶしさに、目を細めながら袋でふさがっていない方の手を目の前にやる

 

しばらく様々な店を冷かしていく

そのうちに、お腹が減ってくる

 

ファストフード店に入り、ハンバーガーを買う

帰ろうと足を進めようとすると、どこかからピアノの綺麗な音が聞こえてくる

 

シンは目を見渡しながら、そのピアノを探す

そして、見つけた

 

 

「…レイ?」

 

 

ピアノを弾いていたのはレイだった

柔らかな笑みを浮かべながら指を動かしている

その動きと共に、音が躍る

 

綺麗だ

 

音楽には疎いシンでもわかる

この音を聞いていると、心が安らぐ

 

しばらくその音を堪能してから、シンはレイに声をかけずに立ち去る

 

再び外に出て、今度は帰るためにミネルバへと足を向ける

オフだといっても、一日中のんびりとはしてられないのだ

 

艦に戻って昼食をとり、その後は機体の整備をしなければ

 

心の中で決めながら歩いていると、シンの視界の上で何かが映った

輸送機、だろうか

降下していく

 

 

「…なんだ?」

 

 

輸送機が降りている位置は、ちょうどミネルバが停泊している辺りの場所だ

シンは駆け出した

 

あの輸送機は何を運んできたのか

それが気になる

 

 

 

ミネルバに、何かが運び込まれていく

モビルスーツだ

オレンジ色を基調としたモノアイの機体

 

それを載せていた輸送機の中から一人の男が降りてくる

これまたオレンジ色の髪

そして、赤色の衣服に身を包み、その胸には徽章がついている

これは、ザフトの中でも特に最も優秀な兵の一人に与えられる称号、フェイスの証だ

 

その赤服の男は、ミネルバ艦内に入っていく

その口に、わずかに笑みを浮かべながら

 

 

 

シンは、急いでミネルバ艦内に戻ってきた

おそらくあの輸送機の中に入っていた物は格納庫に入れられたはずだ

 

シンは格納庫へと急ぐ

 

 

「ねえ!さっきの…」

 

 

格納庫の中に駆け込む

格納庫には、すでに多くの兵が集まっていた

 

ドラッグストアで会った、ルナマリアたちもいる

そして、大勢の人たちの視線の先にいる人物

 

赤い衣服を身に纏い、胸には徽章

 

 

「フェイス…?」

 

 

「本日一三〇〇付でミネルバ配属となる、ハイネ・ヴェステンフルスだ。よろしく頼む」

 

 

ハイネと名乗る男が、礼を取る

すると、一斉にシンのまわりの兵が礼を取る

 

シンは、焦る

今、自分の両手は栄養ドリンクと昼食でふさがれている

ただでさえ片手に物を持った状態で礼を取っても失礼に値するというのに

礼すらも取れないのはまずい、まずすぎる

 

と、シンの視界にマユの姿

 

…すまん、マユ

 

シンは両手の荷物をマユに押し付けた

マユは目を見開いて、ついといった感じで荷物を受け取ってしまう

 

シンは、マユの犠牲と引き換えに礼を取ることに成功したのだ

だが、後方から恨ましげな視線を感じる

後で謝ろうと決心しながらシンはハイネを見る

 

ハイネはこちらを見ながらくすくすと笑っていた

先程のやりとりを見ていたのだろうか

だとしたら、マユの犠牲は無駄になってしまう

 

…すまん、マユ

 

心の中でもう一度マユに謝罪する

お前の犠牲は、無駄になっちゃったよ…

 

 

「誰か、艦長の所に案内してくれないか?あ、君、頼める?」

 

 

ハイネは、誰かを見ながら問いかける

その視線を向けられたのは

 

 

「え?あ、はい」

 

 

シエルだった

シエルは機体の所に行こうとしていた足を、ハイネに向ける

 

 

「作業がある所、すまんね」

 

 

「いえ。艦長の所に案内します」

 

 

シエルとハイネは声を掛け合ってから格納庫を出て行く

 

シンは、その後姿を眺める

あの男は、フェイスだった

フェイスが、ミネルバに配属となった

 

心強い仲間が出来た

シンがそんなことを思いながら、昼食を取ろうと自室に戻ろうとすると

 

 

「お兄ちゃん?」

 

 

後方から可憐な、それでいて、ドスの効いた低い声が響いた

シンはびくりと動きを止める

 

この声は…

 

まずい

完全に怒ってる

 

相手の顔を見ずに、相手の心情を悟った

というより、ずっと一緒にいたのだ

そのくらいわかる

 

シンは、カクカクと、昔のロボットよりもひどい動きで振り返る

 

 

「ま…、マユ…」

 

 

そこには、何やらものすごいオーラを発しながらこちらを笑顔で見ているマユの姿が

笑ってはいるが、笑ってない

そんな表情のマユ

 

このマユは、恐ろしい

このマユは、両親よりも強かった

 

 

「お兄ちゃん…。荷物を下に置いてから礼を取るという考えは出てこなかったの…?」

 

 

「あぁ…、えと…」

 

 

出てこなかった

そう言えば済む簡単な話だ

 

だが、口に出せない

喉のところまで出てきているのに、外に出せない

目の前に鬼から発せられる気で竦んでしまい、自分の体を上手く動かせない

 

 

「今、何か失礼なことを考えたでしょ?」

 

 

「ア…アァ…」

 

 

発せられる気がさらに増大した

シンはこんなマユを知らない

今までもこのモードのマユは見たことがあるが、ここまでのマユは知らない

 

新しいマユを見て、シンは震えながら座り込む

何ということだ

自分はマユのことを知っていると思っていた

 

だが、それは間違いだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マユは、怒らせてはダメだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぎゃぁああああああああああああ!!!!!」

 

 

ミネルバ中に、少年の悲鳴が鳴り響いた

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タリアは、デュランダルがハイネを通して下した命令書に目を通していた

 

今、タリアは艦長室の椅子に座っていた

デスクの前にはハイネ、そしてシエルがいた

 

ハイネをこの場に送り届けたシエルは、立ち去ろうとしたのだが、ハイネがそれを止めたのだ

何でも、命令書にはシエルに関してのことも書かれているという

 

命令書を読みながら、タリアはデスクに置いてある二つの徽章を見る

そして、命令書に書かれている内容

 

 

「ともかく、一つ言わせてもらうわ。シエル」

 

 

「はい?」

 

 

タリアは、ハイネに色々と質問する前に、命令書に書かれていたシエルの処遇について話すことにする

シエルは、首を傾げながらタリアを見ている

 

 

「ここには、シエルをフェイスに昇進させろと書かれているわ」

 

 

「え?」

 

 

タリアはポンポンと命令書を叩きながら言う

シエルの目が大きく見開いた

 

シエルは、赤服ではあるもののフェイスではなかった

デュランダルが考えていることはよくわからない

 

だが、シエルは元々ザフトと敵対していた同盟軍にいた

シエルの力は、フェイスにしても何の遜色ない

だが、シエルのことをよく思わない人物もいるだろう

 

だからこそ、今なのだろう

タリアはそう予想した

 

そして

 

 

「…私までフェイスに?」

 

 

「そう聞いております」

 

 

タリアは、ハイネを見上げながら聞く

ハイネは頷く

 

自分をフェイスにするというのは間違いではないらしい

 

 

「一体なにを考えているのかしらね、議長は?」

 

 

探るような目でハイネを見る

ハイネは肩をすくめる

 

わかっているのか、そうでないのか

 

 

「それで、この命令内容は?あなた知ってる?」

 

 

「いえ。私には聞かされておりません」

 

 

ハイネはこの命令内容のことは知らないようだ

 

 

「ミネルバは出撃可能になり次第、ジブラルタルへと向かい、スエズ攻略を支援せよ」

 

 

「えぇ!?我々がですか!?」

 

 

アーサーが驚愕の声をあげる

 

シエルも、そしてハイネも目を見開いている

命令を知らないというのは本当のようだ

 

なぜ自分たちが行くのだろうか

直接宇宙から援軍を送った方が早い気がするのだが

 

 

「ユーラシア西側の紛争もあって、一番ごたごたしてるところね。確かにスエズ地球軍拠点はジブラルタルにとって問題だけど…、わざわざ私たちがここから行かされるようなものでもないと思うわ」

 

 

「ですよね…。この艦は地上艦ではないんですから…」

 

 

ユーラシア西側の紛争

常に大西洋連邦に言いなりにされている感じを受けるユーラシア

その一部地域かが分離独立を叫んで揉めだしたのだ

 

 

「我々の戦いはあくまでも、積極的自衛権の行使。そう言っている以上、下手に介入はできないでしょうけど…」

 

 

タリアはそこで言葉を切る

そして、アーサー、ハイネ、シエルと三人に視線を移していく

 

 

「私たちが行かなくてはならないのは、そういうところよ。覚えておいてね」

 

 

「「「はい」」」

 

 

三人は同時に返事を返す

そして、ハイネとシエルは退出しようとして…、シエルが振り返った

 

 

「あの、艦長…」

 

 

「ん?」

 

 

シエルはタリアに聞きたいことがあった

最近、オーブで起こったあのことを

 

 

「艦長は、何か知りませんか?オーブの代表が攫われた事件のことを…」

 

 

最初聞いたときは、それは驚いたものだ

何しろ、結婚するというのだ、あのカガリが

そしてこれを聞いたときにはさらに驚いた

 

結婚式中に、カガリが攫われた

 

一体、何が起こったというのか

シエルはわからない

 

 

「さあ…、私にもよくわからないわ」

 

 

タリアならば何か知っているのでは?と思ったシエルだったが、どうやらタリアも知らないらしい

 

 

「そうですか…」

 

 

シエルは、今度こそ退出しようとする

だが、次にタリアから発せられた言葉に、シエルは足を止める

 

 

「けど、オーブ政府は隠したがっているようだけど…。代表を攫ったのは、フリーダムとアークエンジェルという話よ」

 

 

「っ!?」

 

 

ぴたりと足を止める

そして、ばっと勢いよく振り返った

 

…キラが?

 

フリーダムを操縦したのはキラだろう

前大戦の時でもそうだったのだから

 

そして、アークエンジェル?

 

 

「何がどうなっているのか…。そこはわからないわ」

 

 

「…ありがとうございます」

 

 

シエルは頭を下げてから退出する

 

アークエンジェルが、カガリを攫った

彼らは、一体何をしようとしているのだろうか

 

もしかすれば、いや、十中八九セラもアークエンジェルに乗っているだろう

 

彼らの真意が、気になる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「J.P.ジョーンズは〇九〇〇出航。第一戦闘配備。整備各班、戦闘ステータススタンバイ」

 

 

艦内中に放送がかかる

 

この艦の名は、J.P.ジョーンズ

地球軍所属、第八十一独立機動軍ファントムペインの母艦である

 

艦内は、慌ただしく移動する兵で一杯だ

そして艦橋では、大声で誰かと連絡を取っている仮面の男、ネオ・ロアノークがいた

 

 

「ふざけてんのはどっちさ。相手はボスゴロフ級とあのミネルバだぞ?」

 

 

電話の向こうの人物は、何もわかっていない

 

 

「あんた、オーブ沖の戦闘データ見てないのか?この戦力でも落とせるかわからないってのに」

 

 

ネオが今交渉しているのは、近くにある部隊に配備されているウィンダムについてだ

ネオは配備されいている三十機のウィンダムを全て貸せと要請、いや、命令している

だが、むこうは何を無茶なと拒否をしている

 

本当に何もわかっていない

あのミネルバの手ごわさを、何もわかっていない

 

向こうは、こちらの部隊は対カーペンタリアの前線基地を造るために配属された

その任務もままならぬまま自分たちにモビルスーツを渡すことなどできないと言っている

 

ネオは呆れ、思わずため息をつきそうになってしまう

 

 

「その基地も何も、全てはザフトを討つためのものだろう?ごちゃごちゃ言わずに、とっとと全機出せ!ここの防衛にはガイアを置いてってやるから。急げよ!」

 

 

そう言って、ネオは電話を切る

 

向こうは断れないはずだ

何しろ立場はこちらの方が上なのだから

 

ネオは電話から視線を、近くにいる兵へと移す

 

 

「エクステンド、カオス、ガイア、アビスは?」

 

 

「全機、発進準備完了です」

 

 

問われた兵が答える

これで、準備は整った

 

 

「よし。ジョーンズはこの場を動くなよ」

 

 

ネオは艦長に命じた後、モニターに視線を移す

 

どれだけ待ち焦がれたことか

 

この機会を、どれだけ…

 

 

「ようやく会えたな…」

 

 

ようやく会えた

宇宙での戦いでは、全てにおいて自分たちに苦汁を飲ませ続けてきた相手

 

本当に、待ちくたびれてしまった

 

 

「見つけたぜ?子猫ちゃん…」

 

 

モニターには、日差しに反射し、銀色に輝く戦艦が映し出されていた

 

その戦艦を見ていたネオの表情には、指揮官としての冷静な感情はなかった

それはまるで、飢えた獣

 

ネオは、艦橋から飛び出していった

 

 

 

 

「いいな…。ステラだけお留守番…」

 

 

しょぼんとしながらステラがつぶやく

 

 

「仕方ない。ガイアには飛行機能はもちろん、潜水機能もついていないからな」

 

 

スウェンがステラの頭をそっと撫でる

 

ステラが落ち込んでいた理由は、みんなと一緒に戦えないからである

みんなと一緒に、戦争ができない

自分だけ、仲間外れ

 

 

「俺も、ステラと出れないのは残念だがね」

 

 

「ネオっ!」

 

 

ある男の声がした途端、ステラの笑顔が一気に明るくなる

そして、ステラはその男の胸へと飛び込んでいく

 

男、ネオは笑みを浮かべながらステラの頭を撫でる

 

 

「だが、仕方ない。何もないだろうとは思うが、頼むな」

 

 

「…うん」

 

 

やっぱり、ステラはお留守番のようだ

だが、ネオに言われてしまっては仕方ない

ステラは黙って引き下がることにした

 

全員がそれぞれ機体に乗り込んでいく

 

 

「カオス、発進スタンバイ」

 

 

そして、発進許可が下された

 

 

「スティング・オークレー!カオス、発進する!」

 

 

「アウル・ニーダ!アビス、出るよ!」

 

 

カオスとアビスがハッチから飛び出す

カオスは空へと飛びあがり、アビスは海中へと潜っていく

 

 

「スウェン・カル・バヤン。エクステンド、出る」

 

 

エクステンドも、ハッチから発進していく

 

彼らを筆頭に、三十機のウィンダムが発進していく

そして最後に、ガイアがハッチから発進した

 

四歩足の形態に変形し、駆けていく

そして、基地が建てられる予定の地域の近くの崖で止まり、進行していく部隊を見守る

 

 

「…」

 

 

ステラは、じっと見守る

今、自分が出来ることはこれしかないのだから

 

 

 

 

 

 

 




次回は戦闘回です

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