機動戦士ガンダムSEED Destiny 聖なる解放者   作:もう何も辛くない

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無印編から通して初の一万文字突破です


PHASE13 襲撃

…かっ…た?

 

呆然とするタリア

モニターには、隊列が散り散りになりながらも撤退していく地球軍艦隊

 

勝ったのだ

あの絶望的な状況から、生き延びることが出来たのだ

 

 

「セイバー、ザク、収容完了。インパルス、ヴァルキリー帰投しました」

 

 

メイリンが報告する

 

クルーたちは、生き延びたことに安心したような、だが、そのことに対して不思議に思っているような

そんな複雑な表情をしていた

 

だが、生き延びたことは事実

そのことを少しずつ実感していく

 

 

「これ以上の追撃はないとは思いたいけど、わからないわ。パイロットはとにかく休ませて、アーサー、艦の被害状況確認、急いで」

 

 

「はい」

 

 

ようやく生き延びたということを実感し始めたのか、アーサーは純粋にホッとした表情で頷いた

他のクルーたちもそれぞれの作業に移る

 

今回の戦闘、本当にクルーたちは頑張ってくれた

だが、一番の貢献者は明らかだ

 

 

「いや、それにしてもシンは凄かったですね!」

 

 

アーサーが興奮した声で言う

タリアはまるで子供を見守るような笑みでアーサーを見る

 

確かにそうだ

シンの功績は凄かった

 

 

「何といっても、空母二隻を含む敵艦六隻ですよ!?」

 

 

それは、シンが落とした敵艦の数

 

 

「これはもう勲章ものですよ!」

 

 

「そうね。けど、シンがこちらに来れたのも、シエルがウィンダムを引き受けてくれたからこそだわ」

 

 

確かにシンも凄かった

だが、シンがあのモビルアーマーとの戦いに集中できたのは、シエルがいたからこそだ

 

シエルが、あの大量のウィンダムを抑えてくれたから

 

 

「えぇ!シエルも凄かったですよ!けれど、やっぱりシンです!いや、ヤキンの英雄よりも功績を上げるなんて…」

 

 

シエルが駆るヴァルキリー

ヤキンの英雄として有名なのは周知の事実である

 

そのヴァルキリーよりも、シンは功績を上げた

 

 

「あの<天からの解放者>でも、ここまではいかないですよ」

 

 

うんうんと頷きながら言うアーサー

つい、タリアは吹き出してしまった

 

 

『彼だよ』

 

 

デュランダルの声が脳裏に過る

デュランダルが言うには、あの解放者の正体は、カガリの護衛をしていたあの少年

 

彼なら、先程の状況をどう乗り越えるのだろうか

それとも、いくら解放者といえども、先程の状況を乗り切ることは不可能なのだろうか

 

だとすれば、シンのこの功績はもの凄いことなのでは?

 

タリアは改めて、シンのこの戦果の凄さを実感した

 

 

 

 

 

 

シンがコックピットから降りて、受けたのはたくさんの歓声だった

地に足をつけると、スタッフたちが一気に詰め寄ってくる

 

 

「聞いたぜシン!」

 

 

ヴィーノが飛びついてくる

バシバシとシンの背中を叩く

 

 

「いや、よくやってくれたぜ!」

 

 

「助かったぜホント!」

 

 

もみくちゃにされるシン

 

先程の戦闘について、褒めてくれているのだと今更ながら気づく

徐々に、シンの心の中に喜びが湧いてくる

 

 

「…あ」

 

 

ぽつりと、声が漏れる

 

人だかりの向こう側に、シエルがいたのだ

シエルも、自分を称賛してくれるのだろうか、そう思ったが、違った

 

シエルのこちらを見る目は、悲しみに満ちている

 

何で

何でそんな目でこちらを見るのだろうか

 

シエルは、こちらから目を逸らして格納庫から出て行く

 

 

「ほら!もうお前らは仕事に戻れ!カーペンタリアまではまだあるんだ!」

 

 

エイブスがシンを囲んでいるスタッフたちに怒鳴る

それをきっかけに、シンを囲んでいた人たちが少なくなっていった

 

シンも、格納庫から出て行こうとする

その途中で、ルナマリアとレイに合流する

 

 

「それにしてもどうしちゃったの!?何か急にスーパーエース級じゃない!」

 

 

ルナマリアも、どこか興奮した声でシンを称える

そこで、シンは戦闘のことを思い出す

 

あの、重力に従って落ちていった時のあのはじけるような感覚

あれは、一体なんだったのだろうか

 

 

「よく、わからないんだ。オーブ艦が発砲したの見て、頭にきて…。こんなところでやられてたまるかって思ったら、急に頭の中がクリアになって…」

 

 

ありのままを説明する

だが、ルナマリアにはよくわからなかったのか、首を傾げている

 

それも当然だろう

シンにだってよくわからないのだから

 

 

「なんにせよ、前が艦を守った」

 

 

そこに、レイの声が響く

シンとルナマリアは驚いてレイを見る

 

レイの表情は、いつもでは考えられないほど穏やかだった

さらに、柔らかい笑みまで浮かべている

 

 

「生きているということは、それだけで価値がある。明日があるということだからな」

 

 

レイは、ぽん、とシンの肩を叩くとそのまま格納庫から出て行く

 

シンとルナマリアは、目を見合わせる

二人の目は、どちらも丸くなっていて

 

同時に吹き出した

 

 

「びっくりしたぁ」

 

 

「そうだな…。まさかレイがあんなこと言うなんて」

 

 

失礼だということは百も承知だ

だが、訓練校時代から付き合いがあったレイ

 

最低限の会話しかしなかったレイが、あんなことを言ったのだ

驚かない方がどうかしている

 

 

「…てかレイ。あのセリフ、じじむさかったな…」

 

 

ぽつりとつぶやくシン

シンとルナマリアは、静かに笑い声をあげる

油断してしまえば、笑い転げてしまいそうだ

 

シンの心に、温かいものが流れ込んでくる

そうだ、レイの言う通り、生きているのだ

 

それだけで、今は、いい

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よぉし!」

 

 

どこか満足げな声が響く

近くで足音が聞こえる

 

誰かがテラスに入ってきたのだ

マリューは後ろに振り返る

そこには、バルトフェルドが両手にカップを持ってテラスに入ってきていた

 

 

「昨日よりもちょいとローストを深くしてみた。さあ、どうかな?」

 

 

バルトフェルドが、カップを一つ、マリューに差し出す

マリューはカップを受け取り、口に運ぶ

ゆっくりと味わって

 

 

「…昨日の方が好き」

 

 

そう言った

 

 

「ふむ…。…君の好みがだんだんわかってきたぞ。君はセラのブレンドの方が好みに合っているみたいだね」

 

 

「セラ君の?」

 

 

マリューがバルトフェルドに聞き返す

 

 

「ああ。昨日のブレンドはセラのアドバイスを参考にしたものなんだ。今日のは僕のオリジナル」

 

 

バルトフェルドはカップを口に運びながら言う

 

マリューは、昨日バルトフェルドがくれたコーヒーの味を思い出す

そして、今日のコーヒーの味と比べる

 

…やはり、昨日の方が好きだ

 

二人は、テラスの手すりにもたれながら海を眺める

そこに、黒く、白い線が入った服に身を包んだ少年が、砂浜に座りながら海を眺めていた

 

セラだ

 

マリューとバルトフェルドは、セラの背中をじっと見る

 

二年前、マリューとバルトフェルドと共に共闘した少年

その少年は今、地球プラント共に有名になっている

 

正体は明らかにされてはいない

だが、セラが駆ったリベルタス

 

そのリベルタスの象徴ともいえる赤い光の翼

どれだけ人々に印象を残しただろうか

<天からの解放者>と呼ばれ、有名になっている

一部では、神格視している集団もあるという噂だ

 

それを知ったときのセラの悲しそうな目は、忘れない

 

セラは、大戦で大きく心に傷を負った

それはキラも同様なのだが、それも今では少しずつだが癒えているように見える

 

ミネルバで、シエルと再会した

そのことを言ってくれた時、セラは本当に久しぶりに、純粋な笑顔を見せてくれた

 

だが、セラはユニウスセブンの落下事件に遭った

犯人グループに、あの発言を聞いた

 

何があったのかはわからないが、想像よりはあまり答えていないようには見えたが、それでもまた傷を深くしてしまったことは間違いない

 

キラもラクスも、当然マリューとバルトフェルドも、そしてセラとキラの両親も、セラの傷を癒そうと努力しているのだが

どこか、セラがそれを拒んでいるように見える

まるで、自分にはそんな資格はないと言っているような…

 

だが、それでもセラは安らいでいる

この場所の、和やかな風

耳に届く優しい波の音

それらがセラの心を和ませている

 

そしてそれは、他の戦い続けてきた人たちも同じで

 

 

「でも…」

 

 

「それで…」

 

 

同時に、二人は口を開く

そして、同時に二人は目を見合わせて

 

 

「どうぞ、レディーファーストだ」

 

 

「いえ。こういうのは男性からでしょ?」

 

 

バルトフェルドが紳士ぶりを見せつける、が、マリューには効かない

まさに大人の女性の対応を見せる

 

バルトフェルドは肩をすくめて、口を開く

 

 

「オーブの決定のことなんだが…。まあ、しょうがないとは思う」

 

 

「…ええ。カガリさんも頑張ったんでしょうけど…」

 

 

マリューがため息をつきながら言う

 

 

「代表といっても、まだ十八の女の子だ。この情勢で力を奮うというのはさすがに難しいだろう」

 

 

マリューはこくりと頷いた後、カップに視線を落とす

ゆらゆらと揺れる水面に、自分の顔が映る

 

 

「君らはともかく、俺たちコーディネーター。特にセラは、引っ越しの準備をした方がいいかもしれんな」

 

 

オーブは大西洋連邦の同盟に合意した

そうすれば、コーディネーターの立ち位置は悪くなっていくだろう

 

そして、セラの立場である

 

開戦してから、地球軍にまた、セラの存在を探る動きが出始めている

まだ、セラのことを諦めていないのだ

 

 

「プラントへ?」

 

 

マリューはバルトフェルドを横目で見ながら問う

 

バルトフェルドは、どこかやりきれないような笑みを浮かべる

 

 

「そこしかなさそうだね…」

 

 

「そうなのよね」

 

 

と、二人の背後から第三者の声が聞こえてくる

二人は振り返ると、そこにはアイシャの姿が

 

 

「アイシャ」

 

 

「アイシャさん」

 

 

「というより、そこしかなくなっちゃいそうなのよ。私たちコーディネーターの住める場所は。それでなんだけど…」

 

 

急に会話に入ってきたアイシャが、マリューの方を見て笑う

マリューは首を傾げる

バルトフェルドは、ふっ、と笑う

 

アイシャが言おうとしていることは、今まさに自分が言おうとしていたことなのだ

 

 

「あなたも、一緒に来ない?」

 

 

「え…?」

 

 

マリューの目が見開く

 

 

「まあ、あんな宣戦布告を受けて、プラントの市民感情もまだ荒れているだろうがな…。デュランダル議長はしっかりとしたまともな人間らしい。一方的なナチュラル排斥ってのはしないだろう」

 

 

アイシャがうんうんと頷く

アイシャはそれを言いたかったらしい

 

マリューは、海へ視線を戻す

 

 

「どこかで平和に、笑って暮らせて…。死んで行ければ、それが一番の幸せなのにね…」

 

 

悲しげにつぶやくマリュー

バルトフェルドとアイシャは、目を見合わせて、二人同時に悲しげに目を伏せる

 

 

「まだ、何が欲しいと言うのかしら…。私たちは…」

 

 

その疑問には、誰も答えられなかった

 

マリューは、一瞬だけ、家の中に戻ろうとしたセラと視線が合った気がした

その瞳は、悲しみに満ちていた気がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

波が打ち寄せられるがけ下に浮かぶ十数の影

 

黒いスウェットスーツを着た男たちの姿だった

彼らは、砂浜に上陸するとすぐにスーツを脱ぎ捨てる

 

彼らは素早く装備を整える

武装が、完了した

 

暗視ゴーグルを装備し、そしてライフルを抱える

 

 

「いいな。ターゲットの死の痕跡は絶対に残すな。だが、確実に…、二人を仕留めろ」

 

 

彼らのリーダーらしき男が、抑えられた声で言う

男たちは、静かに頷く

 

彼らは、素早く足を進める

だが、その足音は音がしていないと言ってもいいほど静かで

その足の先には、アスハ家の別邸が建てられていた

 

 

 

 

不意に感じた嫌な気配に、セラは目を開いた

直後に、ラクスがいつもそばに連れているハロの声が家中に響く

 

セラは飛び起きた

 

 

『ハロ!ハロ!アカンデェ!』

 

 

この声は、侵入者が来たことを報せる合図

セラは扉を開いて部屋を出る

 

走るセラは、マリューとばったり会う

 

 

「セラ君?」

 

 

「マリューさん…。どこの連中ですか?」

 

 

マリューは一瞬小さく目を見開くが、すぐに答える

 

 

「わからないわ…。ともかく今は、ラクスさんと子供たちを!」

 

 

「はい!」

 

 

セラとマリューは同時に走り出す

 

セラは走りながら思考する

 

一体どこの連中がここを襲っているのだろうか

そして、その目的は何なのだろうか

 

はっきり言えば、すぐさま頭に浮かぶのはブルーコスモスである

ブルーコスモスが、ここにいる自分たちの素性をつかみ、襲ってきた

 

だが、それにしては手際が良い

もし彼らが襲ってきているのならば、正面から突っ込んできているだろう

彼らはただ、コーディネーターへの憎しみだけで動いているようなものなのだ

 

ならば、一体…

 

と考えているうちに、ラクスと子供たちが寝ている部屋の前に来ていた

マリューがそのドアを開ける

 

マリューはラクスの傍まで寄り、その体を揺らす

 

 

「ラクスさん、ラクスさん!起きて!」

 

 

「…まりゅー…さん…?」

 

 

目をこすりながら、ゆっくりと上体を起こすラクス

 

 

「セラも…?」

 

 

「おはよう。でも、今はそんなことを言ってられる場合じゃないんだ…」

 

 

子供たちが各々目を覚まし始め、不満を零す

気持ちよく寝ているときに、目を覚まされたのだ

 

 

「ラクス!」

 

 

「キラ?」

 

 

そこに、キラも姿を現した

 

それと同時に、銃声とガラスが割れる音が全員の耳に届いた

 

 

 

 

 

バルトフェルドとアイシャは、倒したテーブルを盾にしながら、銃を撃ってくる武装集団を相手にしていた

恐らく、こちらから来ているのは四人はいるだろう

そのうちの二人は、撃った

 

 

「アイシャ…」

 

 

「ええ」

 

 

二人は小さく言葉を交わすと、同時に背後のドアの中へと飛び込む

廊下に逃れた

 

ラクスや子供たちのことが心配になったのだ

上階へ急ごうとする

 

 

「!アンディ!」

 

 

「ちぃっ!」

 

 

物陰から一人の男が飛び出してきた

男は、ナイフをバルトフェルドの左腕に突き立てる

二人は互いに力を加える

 

そこで、バルトフェルドとアイシャは違和感を覚える

 

この男は、バルトフェルドに力負けしていない

 

バルトフェルドは、相手のみぞおちに蹴りを入れる

男は後ろによろめく、が、すぐさま腰のホルスターから拳銃を取り出す

バルトフェルドを照準に収めて…

 

銃声が鳴り響いた

倒れたのは、男

 

アイシャが持っている銃の銃口が煙を立てている

 

 

「助かったよ、アイシャ」

 

 

「いえ。あたしが助けなくても、自分で何とかなったんでしょうけど」

 

 

アイシャが舌をわずかに見せながら言う

バルトフェルドは、ふっ、と微笑んでから、歩こうとする

アイシャもついていこうとするが、二人は足を止めた

 

男の方から、ノイズが混じった声が聞こえてきたのだ

 

 

「目標は両方とも、子供と共にエリアEへと移動」

 

 

男の耳からイヤホンが外れていた

そこから通信が漏れている

 

 

「武器は持っていない。護衛は女一人だ。早く仕留めろ」

 

 

…目標?

両方?

 

 

「…アンディ」

 

 

「わかっている。行こう」

 

 

二人は駆け出した

バルトフェルドは走りながら思考する

 

間違いなく、ここを襲ってきているのはコーディネーターだ

あの時、男が自分の腕にナイフを刺してきた時

男は自分に力負けしなかった

 

コーディネータである自分の力に、負けていなかったのだ

 

そして、目標である

あの通信を送った男は、両方と言った

それは、目標とされている人物が、二人いるということ

 

その二人とは、一体…

 

 

 

 

 

セラたちはシェルターの前まで来ていた

あれから、何人もの男に襲われたが、セラとキラの協力もあり、マリューが撃退してきた

マルキオがシェルターの扉を開ける作業をしている中、未だこちらを狙っている男たちが放つ銃の音

 

子供たちは全員号泣してしまっている

セラ、ラクス、キラの腰には子供たちがしがみついている

 

セラの視界に、二人の人影が見えた

バルトフェルドとアイシャだ

二人が合流したのだ

 

そこで、マルキオの入力作業が終わり、扉がスライドした

一斉に、全員が入り込む

 

 

「急げ!かなりの数だ!」

 

 

バルトフェルドが急かす

 

と、セラは嫌な気配を感じる

ハロが、ぱたぱたとはばたきながらラクスに飛び込む

 

セラは、視線を上に向ける

そこには、ラクスを照準にしている男

だが、あの男が殺意を向けているのは、ラクスと…、自分?

 

 

「ラクスさん!しゃがんで!」

 

 

「ラクス!」

 

 

セラがラクスにしゃがむように言う

それと同時に、きょとんとしているラクスにキラが飛びついた

二人は倒れ込む

その上を、銃弾が通り過ぎた

 

マリューとバルトフェルド、アイシャが反応する

 

 

「通気口の中だ!」

 

 

セラが叫ぶ

その声に従って、三人が同時に銃を向け、引き金を引く

男は、息絶える

 

キラは、呆然としているラクスの手を引く

セラがその後をついていく

 

彼らを守るように、マリュー、バルトフェルド、アイシャが銃を構えながらシェルターの中に後退していく

そして、三人が中に入ると、セラはすぐさまシェルターの扉を閉めた

扉が、ロックされる

 

 

「…大丈夫か?」

 

 

バルトフェルドが、確認する

 

 

「はい…」

 

 

キラが返事を返す

 

 

「コーディネーターだわ」

 

 

マリューは、激しく息を切らせ、座り込みながら言う

バルトフェルドとアイシャは、頷く

 

 

「それも、戦闘訓練を受けた連中ね」

 

 

アイシャが、マリューの言葉に付け足す

 

 

「ザフト軍…?」

 

 

セラが疑問符を浮かべながら言う

 

と、そこで子供たちを元気づけていたラクスがこちらへ来る

 

 

「皆さん…」

 

 

ラクスの目は、不安に満ちている

 

 

「狙われたのは…、わたくしなのですね…?」

 

 

ラクスもわかっていたのだ

自分が狙われていたということを

 

 

「ラクス…」

 

 

キラが、そっとラクスの肩を抱く

 

 

「いや、ラクスだけとは限らないぞ」

 

 

バルトフェルドが、そんなことを口にした

アイシャとセラ以外の三人が目を見開く

 

 

「それって、どういうこと?」

 

 

マリューが、聞き返す

その問いに、アイシャが答えた

 

 

「私たちがここにこの階に上がってくる前に、一人の男の通信機から声が漏れたのよ。『目標は両方とも、子供たちと共にエリアEに移動』ってね」

 

 

「両方…?」

 

 

キラが、違和感を覚える

なぜ、両方なのか

それでは、まるで…

 

 

「ラクスの他にもう一人。奴らのターゲットになる奴が、ここにいる」

 

 

バルトフェルドが告げる

 

 

「…まさか」

 

 

ラクスが、声を出す

 

この中で、ターゲットにされるような人物など、容易に想像できる

ターゲットにされるほどの肩書を持つ人物

 

二人がいるが、その二人から一人を選ぶならば、間違いなくそちらを選ぶだろう

 

 

「うん、たぶん俺だ。ラクスさんを狙ってたやつ、俺の方にも殺気を向けてたしね」

 

 

セラは、飄々と答えを告げた

 

その時だった

セラは、キラたちに向けていた視線を、ふっとそらす

 

それと同時に、巨大な音が鳴り響くと同時に震動がはしった

これは、爆発

 

 

「狙われた、というよりは、狙われてるな、まだ」

 

 

このシェルターは、銃弾や爆弾程度なら防ぐ

だが

 

 

「モビルスーツ!?」

 

 

さすがにそれを防ぐというのは不可能だ

 

 

「火力のありったけで狙われたら、ここも長くはもたないな…」

 

 

バルトフェルドが表情を苦く歪めながら言う

 

このままではシェルターもろとも自分たちも焼き払われてしまう

それだけは、防がなくてはならない

 

 

「ラクス、鍵は持っているな?」

 

 

バルトフェルドがラクスを見据えながら問いかける

ラクスは、はっと息を呑む

胸に抱いているハロにそっと力を込める

 

 

「扉を開ける。しかたなかろう?それとも、今ここで全員死んじまったほうがましか?」

 

 

バルトフェルドが鋭い視線でラクスを射抜く

ラクスが、身を震えさせる

 

 

「しかし…これは…」

 

 

ラクスは、戸惑うように、ためらうようにハロを抱いている

 

セラとキラは、その意味をわかりかねていた

 

 

「ラクス?」

 

 

「キラ…」

 

 

ラクスは今にも泣きだしそうな目でキラを見上げる

その眼を見た途端、キラは、セラは悟った

 

自分たちの横にある大きな扉

シェルターにつながる扉ではない

この扉の、向こう側には

 

 

「ラクスさん、かして」

 

 

「え…?」

 

 

セラが、口を開いた

 

 

「兄さんに戦わせたくないなら、俺が行く」

 

 

セラが力強く言う

 

 

「っ!ですがっ…」

 

 

だが、ラクスはそれもためらってしまう

 

確かに、キラには戦ってほしくはない

自分にとって一番大切な人で、そんな人が傷をついていく姿など見たくない

 

けどセラは、そのキラよりももっと傷ついていて

それでも、自分の身を顧みずに戦いに投じようとしていて

 

 

「セラ、ダメだ。僕が行く」

 

 

キラが、セラを見ながら言う

セラは目を見開く

 

 

「兄さん」

 

 

「僕は、大丈夫だから」

 

 

キラは、セラからラクスに視線を移す

ラクスに微笑みかけながら、キラは続ける

 

「大丈夫だから。このまま、君たちのことすらも守れずに…、そんなことになる方がずっと辛いから…」

 

 

キラは、そっとラクスを抱き締める

 

 

「ラクス…。鍵を、かして?」

 

 

もう一度、キラはラクスに問いかける

ラクスは、悲しげなその表情を変えずに、黙ってハロを差し出す

 

ハロが口を開けると、そこには金と銀の二つの鍵が

 

キラは、二つの鍵を取り、そのうちの一つをバルトフェルドに渡す

そして、扉の脇にある二つの装置

その一つの鍵穴のようなものに、鍵を差し込む

 

 

「三、二、一…」

 

 

バルトフェルドの合図に合わせ、同時に鍵を回す

それと同時に、扉がゆっくりと開かれていく

 

扉が開かれると、灯りがともる

扉の向こう側には、灰色の機体

 

ZGMF-X10Aフリーダム

PSを展開していないため、その色は灰に染められている

 

キラは、コックピットへとつながる道を進む

 

 

 

扉が、閉まった

セラは、扉の開錠装置の前にいるバルトフェルドを見る

 

 

「バルトフェルドさん、リベルタスは?」

 

 

フリーダムがあるならば、リベルタスだってあるはずだ

そう思い、セラは問いかけた

 

 

「…ここにはない」

 

 

だが、答えはNOだった

リベルタスは、ない

 

ここには

 

 

「…」

 

 

セラは、こちらと目を合わせようとしないバルトフェルドをじっと睨み続けた

 

 

 

 

 

 

 

 

シェルターを攻撃し続けるモビルスーツ、UMF/SSO-3アッシュ

アッシュはありったけの火力を使ってシェルターを攻撃している

 

 

「一点を集中して狙え!壁面を破壊すればそれで終わる!」

 

 

リーダーであるヨップが指示を出す

 

この任務を失敗することは許されない

何しろ、ターゲットはあのラクス・クラインなのだ

 

だが、ターゲットはもう一人いた

セラ・ヤマト

聞いたことのない名前だった

 

だが、任務を言い渡された時、最優先はセラ・ヤマトを殺害することだと言われた

 

なぜラクス・クラインではないのか

疑問に思ったヨップだが、とりあえず頷いておいた

 

自分たちの役目は、与えられた任務をやり遂げることなのだ

 

砲火が、金属の壁を撃ち抜いた

だが、まだ壁がある

 

 

「目標を探せ!オルアンとクラムニクは…」

 

 

ヨップが更なる指示を出そうとしたその時だった

視界の端に閃光がはしった

 

 

 

 

キラは、ライフルで天井を貫き、空いた穴から脱出した

自由な空中へと抜け出すと、背中の十枚の青い翼を広げる

 

 

「あれはまさか…!フリーダム!?」

 

 

「なっ…!?」

 

 

隊員の言葉を聞き、ヨップは驚愕する

 

あのヤキンの英雄の一機が、目の前にいるのだ

 

キラは、彼らが驚愕することを露知らず、レバーを倒す

キラの操縦に従って、フリーダムはアッシュの集団に向かっていく

 

キラは腰のビームサーベルを抜き放つ

一機のアッシュとすれ違う

それと同時に、アッシュの手足を斬り飛ばした

 

何をされたかすらわからない

だが、一機が戦闘不能にされた

 

慌てて他のアッシュは両手のビームを放つ

 

だがキラは、ひらりひらりと空中で回転しながら砲撃をかわしていく

そして、フリーダムの五門の砲門が火を噴いた

 

三機のアッシュの手足、ミサイルポッドが吹き飛ばされる

だが当然、こんなところでキラの攻撃は止まらない

 

動きを止めている二機のアッシュまで接近

瞬く間にその手足を、ビームサーベルで斬り飛ばした

 

残り、四機

四機のアッシュはミサイルを放ってくる

 

だが、キラは機体を垂直に降下させて回避する

 

再びフリーダムの五門の砲門が火を噴いた

三機のアッシュの手足が吹き飛んだ

 

これで、残りは一機

残ったのは、ヨップのアッシュだった

 

 

「ば…、ばかな…!」

 

 

ヨップは呆然としていた

十機いたアッシュがたった三分足らずの戦闘で、自分以外のアッシュが戦闘不能にされてしまった

 

信じられない

噂には聞いていた

だが、まさかここまでとは思いもしなかった

 

いや、その前にまずフリーダムと遭遇するところから最早予定外もいいところだった

 

 

「くそぉおおおおお!!」

 

 

こうなったら、一糸むくいてやる

ヨップは片手のハサミのような手にビーム刃を発せさせる

そのまま、地に降りたフリーダムに突っ込んでいく

 

キラは、突っ込んでくるアッシュとの間合いを測る

そして、機体を横にずらし、その刃をかわす

その腕に、フリーダムのシールドを引っ掛け、背後に投げる

 

だが、アッシュはそれでも戦意は失わなかった

立ち上がり、片手のビームを放とうとする

 

キラは冷静にビームライフルを構え、引き金を引く

 

放たれたビームは、アッシュの片手を爆散させる

 

キラはその後も、一射一射放ち、残った片手、両足を吹き飛ばす

立つ能力すらも失ったアッシュは崩れ落ちる

 

ヨップはこちらを撃ったフリーダムを憎々しげに睨む

だが、それだけで自分には何もできない

 

残ったのは、屈辱だけ

 

もう、自分にできることは一つだけ

傍らにあるレバーを、ヨップは引いた

 

 

 

目の前で、アッシュが爆発する

 

キラは目を見開いてそれを眺める

 

駆動部には攻撃を加えなかった

ならば、あの爆発は自爆ということになる

彼らは、死を選んだということなのだ

 

なぜ

なぜ死を選んだのか

 

考えてみれば、当たり前のことなのだ

任務に失敗して捕らえられ、素性を明かすことになる

そんなことになるわけにはいかないのだ

 

不殺

キラが貫いてきた意志

だが、そんなことはきれいごとである

 

銃を取るならば、その手を汚すことになるのは当然のことなのだ

 

それでも

キラの心は、苦い思いに包まれていくのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フリーダムのまわりから煙が上がっている

アッシュが爆発した

 

セラたちは、その光景を眺めていた

 

子供たちは、フリーダムの勇姿を見れて、興奮した目で

大戦を経験した者と、キラの母、カリダは気遣わしげな眼で

 

キラが今、どんな思いでいるかなど容易に想像できる

 

もうすぐキラが戻ってくるだろう

その時、どんな声をかけようか

 

セラはそのことを考えていた




セラ君は戦闘に出ませんでした
リベルタスの出番は、まだ先になりそうです

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