幻想郷異変~怒りの日~   作:厨坊

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今回も主人公2人がメインです。


ChapterⅠ-ⅳ 同盟

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜の闇が静けさを醸し出す空間。月明かりのみが光源となり、辺りを照らす中。その静けさを突き破るように、綺麗ながらも烈火の気合いの籠った怒号が、その静けさを突き壊していた。

 

 

「はぁああああああああああ!!」

 

 

少女、櫻井がその身の細さからは想像もつかない様な大きな声を、身を絞るかのように発生し、それと同時に振るわれる刀身。その形は日本の太古を思わせる形状をしながら、振るわれる威力は近代兵器にも勝る爆発力を有していた。

 

 

普通ならば有りえる筈もない刀身に業火を宿した一撃は、異形の者さえその存在の一片も残さずに焼き払う。

 

 

加えて、直撃した瞬間に周りの酸素をブースターとし、その威力を爆発的に増していた。その一撃は異形を廃に帰し、岩をも溶かし、地面を叩き割り無に帰す。その様は、まさに爆薬が飛び交う戦場を思い浮かべる。

 

 

地獄の業火とまではいかないものの、いかなる生物の生存も許さぬその熱さは、少女の領域を一歩たりとも犯さんとばかりに結界を張っている。加えて、

 

 

「やれやれ、しつこいですね」

 

 

穏やかな声と共に振るわれる、その細腕からは想像できない一撃を誇るその威力。それはさながら、城門を打ち破るために作られ古来日本で振るわれてきた破壊槌。その一撃を受けた異形の身体は綺麗に風穴があき、身体の反対側にまで腕が突き抜ける。

 

 

いかに優れた生命力をもつ存在とはいえ、胸部や頭部にその一撃を受けようものなら問答無用に絶命する。そんな圧倒的暴力を振るっている彼ら2人であるが、その表情と態度は全くと言っていいほどブレていない。

 

 

唯一彼らの顔に浮かんでいる表情と言えば、鬱陶しさとでもいうべきものだった。彼らにとって、目の前の存在がいかに醜く総毛だつモノであろうと、それは大した意味を持たない。

 

 

何故なら、彼らは自分と相手の力量差というものが如何に隔たったものかを完璧に理解しているからだ。例えどれだけ数がいようと、そんなものは関係なく、大したプラスにもマイナスにもならない。

 

 

圧倒的な力量差は、そんなもので埋まるようなものではないからだ。やがて、初めは数をカウントする事さえ鬱陶しかった妖怪たちは、一方的に狩られ続けた結果、最後の1体のみとなっていた。

 

 

そしてその1体も、たまたま櫻井の一撃がずれた事によって絶命を免れたに過ぎない。それに加え、彼らの聖遺物による攻撃は肉体そのものを傷つける以上に、その魂を喰らうといったことに本質がある。故に、肉体の損傷と魂の損傷がイコールで結ばれないことはよくあることで、残る妖怪も例に漏れずその状態だった。

 

 

悲鳴を上げるのさえ無駄な時間としかならず、逃げる以外の選択肢を捨てたとしても生き残れる確率は天文学的数字の確立。しかし、彼ら2人はその本の極僅かの可能性ですら、あっさりと踏み躙った。

 

 

「往生際が悪いわね。さっさと消えなさい」

 

 

少女が面倒臭そうに軽く手に持った武器を振るう。それで終わり。魂どころか、肉体までも塵にされ妖怪の存在は冗談のように空気中に霧散した。そしてその魂は、聖遺物によって妖怪を狩った櫻井によって吸収される。彼らにとって雑魚同然の相手だったそれは、その実、人より長い年月を生きた魂であるが故に、人間の魂より極上のものとなっていた。

 

 

それは何という皮肉だろうか。今まで殺してきた人間より少ないにも関わらず、今日吸収した魂の質は彼女の何割かを占めていた。そのせいかはわからないが、櫻井はその事実に何とも言えない表情を浮かべる。そんな彼女を、細く鋭く閉じられた目で見て神父は小さな笑みを漏らした。

 

 

その笑みに気付いてか、それとも無意識にか、視線を向けられた櫻井はそっと顔をそらして神父に背を向ける。そんな彼女の様子を、ささやかな抵抗と受け取ったのかクリストフは更に笑みを深め、それを誤魔化す様に口を開いた。

 

 

「さて、まさか最初からこんな歓迎を受けるとは思いませんでしたが、相手になりませんでしたね。他の相手がどうかはともかく、感じる気配はどれもこれも似たり寄ったりのものばかり。これならば、多少別れて行動しても問題はないかもしれませんね」

 

「では、これからは別行動をとりますか?」

 

「いえ、それはまだ止めておきましょうか。少なくとも、数日はこのままの態勢のままでいたい所ですね。慢心するななどと、私含め我々に言っても詮無い事でしょうが、用心に越したことはありません」

 

「・・・そこまで警戒する必要があると?」

 

「普通であればないでしょう。ですが、ここは副首領閣下が用意した舞台です。我々全員を呼び寄せた以上、それに対する脅威があると思って然るべきでしょう。あの方の為さる事ですからね。我々には予想もつかない様な障害があると思って間違いはないと思いますよ。あなたも気を付けておいて下さい」

 

 

神父の言葉に、櫻井は唾を飲み込んで返事の代わりとした。それを肯定と受け取ると、再び胡散臭そうな笑みを浮かべて同じく声もなく首肯する。そして再び止まっていた歩みを再開させようとした1歩を踏み出したその時だ。

 

 

「ッ!?」

 

「おや?これは・・・」

 

 

クリストフと櫻井、2人同時に馴染みのある気配を空気と直感で感じて直ぐに足を止め、そちらへ視線を投げつける。距離は遠く、場所も確実にとは言えないものだ。しかしそれでも、同類である彼らにはその気配と放つ悪意ある空気が誰のものであるか直ぐに察知した。

 

 

「おやおや、彼ならばすぐに行動に移ると思ってはいましたが、まさかこれほど早く事を起こすとは」

 

「猊下、これは」

 

「ええ、あなたの頭の中にある考え通りだと思いますよ。つくづくこういう時は頼りになると思いますよ、彼の存在は。しかしこれほど殺気を感じるというのに、嬉しそうなこの気配。よっぽど興味を沸かせる好敵手でも見つけたのでしょうかね」

 

「・・・カズィクル・ベイ」

 

 

忌々しそうに呟く櫻井の表情は、吐いた言葉と一片の違いも見受けられなかった。名前ではなく、敢えて魔名で呼んだ意味は推して知るべしだ。彼が戦闘に入りその戦いを目にすると、嫌でもその意味が分かるだろう。

 

 

「行きますよレオンハルト。区切りのいいところで止めなければ、こっちにとっても取り返しのつかないことになるかもしれません」

 

「・・・そうですね。わかりました」

 

「それでは急ぎましょうか。彼が心底乗ってしまわない内に」

 

 

クリストフはまるで祈るように言葉を紡いだ。その時だけは、神父と称してもいいくらい絵になった彼のその姿は、これ以上ないくらいに皮肉であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、幻想郷の説明はこれくらいだけど他に質問あるかしら?あれば手短に頼むわよ。あなたが元の世界に帰りたいっていうなら、数日もらえれば帰してあげてもいいけど」

 

「・・・いや、それはだめだ。俺とマリィだけがこっちに来たんならそれでもいいんだろうが、どうにもそんな楽観的でもない様な気がするしな。帰るとしたら、元々いた俺の世界での用事を済ませてからじゃなきゃダメだ。マリィもそれでいいか?」

 

「うん。レンがそういうならそうするよ」

 

「・・・すまない、マリィ」

 

 

眉根を寄せて申し訳なさそうに謝る蓮に、マリィは可愛らしく首を傾げた。そんな彼女の様子を見て更に悲しく思ってしまう蓮だったが、あえてその理由までは言わなかった。言ったとしても、今のままのマリィには理解できるとは思えなかったからだ。

 

 

だから、それは後々考えることにする。今はまだ、連中と戦う前に彼女に意思確認するだけでいいと、無理矢理納得することにする。そんな対照的な表情を浮かべる2人を見て、霊夢はふ~んと呑気な声を漏らして煎餅を齧ると、サッと視線を逸らした。

 

 

彼女は元々、自分から他人の事情につっこんだりはしない性格だ。消極的というべきか、無関心というべきか、ともかく自分や親しいものに害がない限り基本は常時ゆったりする派なのだ。

 

 

ついさっき来たばかりの外来人の事情になど、興味が湧くはずもない。しかし、今回ばかりはそうはいかなかった。否、いかなくなったというべきか。尤も霊夢自身、彼ら2人が目の前に現れる半刻ほど前までなら例に漏れずそのスタンスを貫いていただろう。

 

 

だが、現在幻想郷に外界から入り込んだ存在がいると紫に知らされ、彼らに出会ってしまった以上そうもいかなくなってしまったようだ。本当ならばこのまま視線を逸らしていたかった彼女だが、心底嫌そうな顔をしてため息をついて口を開いた。

 

 

「で、その事情ってなによ?」

 

「は・・・?」

 

「聞こえなかったの?そっちの事情ってのを話なさいって言ってるの」

 

「・・・・・・」

 

 

霊夢の念を押すようにもう一度言うと、蓮はポカンと口を大きく開けて呆けてしまった。何故そんな風に固まってしまったかという事だが、理由は簡単だ。蓮が見る限り、霊夢は進んで人の事情に干渉するように思えなかったからだ。

 

 

未だ出会って1時間と少し程しかたっていないものの、それでも会話をこうしてしていると霊夢の性格というものが大体わかってきた。

 

 

自分から相手の事をあまり聞いてこなかったり、蓮自身から何かを話そうとしない限り深くどころか浅くもつっこんでこない。そんな習性を考えた限り、彼なりに霊夢がどういう人間なのか少しは分かっているつもりだ。

 

 

元々、自分自身が似たような性格をしている為に、彼女の事が分かりやすいというのもあるのかもしれないが。兎も角、だからこそ蓮はそんな霊夢が自身の事情に関わってくるのが意外であったし、呆けてしまったのだ。

 

 

「何よ?何か文句でもあるの?」

 

「いや、意外だなって思っただけだよ。あんたは見た限り、自分から事情やらなにやら言ってこない限り、進んで他人の事に干渉してくる性格はしてこないって思ってたからな」

 

「ふ~ん、ま、間違っちゃいないけどね。でもまぁ、こっちにも事情ってものがあるのよ。こっちも紫・・・さっき言ったおばかな妖怪が、ご丁寧に私の所に警告しに来たのよ。外界から結界に干渉して、幻想郷に入り込んだものが複数いるから気を付けろって。

 

もしかしたら異変になるかもしれないし、面倒そうな事だったら動くかは兎も角、事情だけでも知ってた方がいいかもしれないから。何となくだけど、今回は面倒そうな気がするし」

 

「何だよ、その直感で面倒そうに感じたからそうするってのは。あんたの勘は、そんなによく当たるのか?」

 

「巫女の勘は外れないのよ」

 

 

自信満々に言う彼女に、蓮は辟易してしまう。だが少なくとも、彼自身彼女を何となくだがただの人間ではないという事は分かっていた。先ほど頭を小突かれた時も、普通なら痛みなんて感じないはずの攻撃が、しっかりと脳天に痛みを与えていた。

 

その時は気のせいかとも思ったが、今でも少しばかり痛む脳天がそれを現実だと認識させているのだ。普通であれば、黒円卓のような常識外れのバケモノのことなど話すべきではないのだろうが、蓮は何故か目の前の少女には話してみようかという気になっていた。それも、巫女に言わせれば直感というやつなのだろうかと、小さな笑みを漏らしてしまう。

 

 

「わかったよ。ただ、一つだけ約束してくれ」

 

「何よ?聞くだけなら聞いてあげてもいいけど」

 

「真面目な話なんだよ、黙って聞けこの脇巫女」

 

 

蓮が何気なく少女の服装の特徴的な部分を指摘して言うと、ピキッと一瞬霊夢の額に青筋が立ったが、話の腰を折るのも面倒くさいと思ったのか、素直に折れることにした。尤も、理由はそれだけではなく蓮の真剣な表情を見て空気を読んだというのもあるが、絶対にそれだけは言ってやらないと彼女は心中で固く誓っていた。

 

 

そんな彼女の内心を知ってか知らずか蓮は無視し、自分の考えと忠告をさっさと口にすることにした。

 

 

「俺の事情ってのは、正直言い難いんだが俺と一緒に来たと思うヤツ等を1人残らず殺すことなんだよ。話し合いで解決できる奴がいればいいけど、絶対にそうはならないだろうからな」

 

「随分物騒な話なのね」

 

「俺もそう思うけど、実際こっちも殺されかけてる。少し最近まで善良な一般人・・・とまでは言えないだろうが、それでも殺し合いなんて非日常的な展開には縁遠い生活だったしな。それから色々あって今の状況になっちまった訳だけど、本来なら元いた世界で片づけなきゃいけない問題だったんだ。

 

 

なのに、なんでか知らないけどこんな意味わからない世界に連れてこられちまった。俺にとっては最悪な状況なんだろうが、生憎と俺の知っているヤツ等はこんな状況でも嬉々として元いた世界でやってたことを継続してやりそうだからな。特にその内の1人は、バトルジャンキーぽかったし。

 

 

あんたがどんだけ強いかはわからないし、別に知ろうとも思わないけど、それでも俺の知っているヤツ等はここの住人の妖怪だとか神様だとか、そんな連中でも殺り合えばただで済まなそうな奴ばっかだ。下手に事情を話してそのせいであんたらが関わって、死人だの重傷者だのの犠牲が出たらなんとなく気分が悪いからな」

 

 

「・・・あんたこそ意外じゃない。あんたも私と同じで、基本的に消極的な性格をしていると思ったんだけど」

 

 

蓮の長い話を聞いて、霊夢がハッキリと告げた。しかし、言われた蓮の方は霊夢の言葉に否定も困惑もしなかった。なんのことはない。彼が彼女の性格を話していてわかったように、彼女もまた彼の性格を何となくわかってしまったのだろう。

 

 

何せ可笑しな勘で物事を決めるらしい霊夢の事だ。その程度わかってしまっても不思議はないと、蓮は自然にそう思ってしまった。

 

 

「自分でもそう思ってるよ。ただ、一様こうしてここの事情も説明してもらったしな。それくらい心配しても可笑しくないだろう?」

 

「そういうもんかしらね~。ま、とりあえず忠告として聞いておくわ」

 

「・・・できればちゃんと警告として受け取ってほしいんだけどな」

 

「そんなのは私の自由でしょ?それはそれとして、あんた自身はこれからどうするつもりなの?あんたの言い分だと、これから一緒に来たヤツ等ってのを1人で・・・いや、2人で探さなきゃいけないみたいだけど、何か作戦でもあるの?」

 

 

霊夢が齧りかけの煎餅を向けて言うと、蓮は難しそうな表情をして黙り込む。期待を込めるようにして思わずマリィを見た蓮だが、いくら聖遺物が実体化した彼女だとしても黒円卓の連中を1人残さず捕捉できるとは思っていない。

 

 

それが出来るならそれを彼に教えてるだろうし、何より彼女自身そういうのには疎そうだ。今更ながら、これからどうするにしても右も左もわからない見知らぬこの土地では、協力者が必要になるという事に気付かされ、考えを改める羽目になる蓮。

 

 

一番単純かつ簡単なのは、目の前にいる彼女に協力を申し出ることだったが、彼とて黒円卓の無茶苦茶さを知っているだけに下手なことは頼めない。結局、どうしたものかとこれ以上ないくらい悩む羽目になるのだ。

 

 

思わず頭を抱えて叫びたくなるところだが、彼は他人様の家で、しかもついさっき知り合った人間の家でそんな無様な奇行に走る程礼儀知らずではないつもりだ。本当にどうしようと、いよいよもって

最初にして行き詰りかけてた所で、霊夢がそんな蓮に向けて救いの手を差し伸べた。

 

 

「ギブ&テイクでいいなら、私が協力してあげてもいいわよ?」

 

「・・・は?」

 

「だから、交換条件よ交換条件。条件の内容は・・・そうね。私はこれからあなたの寝食を保証するし、あなたが欲しがっている情報を調べて教えてあげる。その代わり、あなたも独自で入手した情報については包み隠さず私に教える事。どう?破格の条件だと思うけど」

 

「いや、どうって・・・あんた、人の警告を聞いてたのか?」

 

 

蓮が呆れ交じりに霊夢にそう言う。しかし、言われた方の当人はふんと鼻を鳴らして僅かに膨らんだ胸を反らして、ピンとたてた人差し指を蓮に向けて偉そうに口を開いた。

 

 

「いい?あなたは自分の世界でやり遂げられなかった目的をこっちで果たさなきゃならない。何故なら、あんたの言うヤツ等ってのがそれほど危険人物なら、幻想郷で野放しにすれば関係のないこっちに被害が出るから」

 

「・・・その通りだ」

 

「で、私はこの幻想郷の、博麗の巫女なの。異変と呼ばれる現象や、この幻想郷が危機に追いやられればその身命を賭して解決する義務がある。だから、あなたの警告をそのまま受け取って大人しくしているわけにはいかないの。わかった?」

 

「・・・・・・何を言っても無駄みたいだな」

 

「ふん、私は何より人に指図されるのが嫌いなの。あんたが嫌だと言ったら、それはそれで構わない。私も勝手に動いて、勝手にかかわらせてもらうから」

 

 

殆ど蓮に拒否権のない選択肢を与える霊夢。そんな提案では、初めから条件をのむ以外の道はないような気もするが、蓮はそれについては文句を言わなかった。何となく、彼は警告をする前から、事情を彼女に話してしまえばこのような状況になるのは分かっていたような気もするからだ。

 

 

案外、彼女の言うような大義名分が欲しかっただけなのかもしれないと、らしくないことを頭の片隅で考えながら、最後に蓮はすっかり静かになってしまったマリィに一瞬視線をやり、直ぐに戻して結論をだした。

 

 

「わかった、その条件を飲もう。ただし、これは指図じゃなくてお願いだ。もしもヤツ等と戦うようなことになったら、戦闘は俺に任せてどうか遠くに逃げてくれ。命令しても警告してもダメだって言うなら、これはお互い同盟を組む同士の確約にしても構わない」

 

「条件をのまなければ不利になるのはそっちなのに、随分な物言いね?何?私が殺されるかもしれないって、本当にそんなに心配してくれてるの?ああ、さっきも気分が悪いとか言ってたっけ」

 

「さっきのは訂正だ。同盟を組んでも、勝手に戦って直ぐに死んでしまいましたじゃ同盟を組んだ意味がないからな。こうして時間までかけてるんだ、それくらいの元は取れなきゃ困る」

 

「ふ~ん・・・ま、そういうことにしときましょうか」

 

 

霊夢がここにきて初めて楽しげな笑みを口元に浮かべて言った。そんな彼女の様子に、わかってくれたかとわざとらしい皮肉を言って疲れた蓮は、少し苦労が減ったかと肩の力を抜いた。が。しかし、霊夢はそんな風に言われた程度で引くような人間ではなかった。

 

 

「でも、こっちも言っておくわ。私はこう見えても、神様から妖怪までを全部倒して幻想郷で一番強い巫女なのよ。だから、あなたが言うヤツ等ってのがどれほどのもんか知らないし、心配してもらってるんだし余計なお世話とも言わないけど、私だけ地味な情報収集に徹するなんてごめんだわ。何より最近、苛々することも多いからいい運動になるわ」

 

 

「・・・・・・呆れてもう何も言う気が起きないよ。わかった、もう勝手にしてくれ。こっちもこっちで、条件を破らない程度に勝手にするから」

 

「当り前よ。私たちはギブ&テイクの関係、いわば同等の関係なんだから。下手な遠慮や出し惜しみなんかしたら、その分のツケは払ってもらうわ」

 

 

冗談のような一言だが、蓮は不思議と頼もしく感じて声を出して笑ってしまった。何となくだが、彼は霊夢とのやり取りを自分と悪友の関係に重ねて見てしまったのだ。少し前までは、こんな光景を何度も繰り返していただけに、今は失ってしまったそれが急激に寂しく感じていたのだが、そんな感情も少しは和らいだように感じていた。

 

 

蓮は声を出して笑う自分を意外そうに見る霊夢の視線を軽く受け流して、黙って彼女に向けて右手を差し出した。すると、似た者同士その意図を直ぐに察したのか同じように右手を蓮に差し出す霊夢。それをお互い満足そうに確認すると、何の合図もなしに順番を察した蓮が先に口を開いた。

 

 

「改めて自己紹介しておくぞ。俺は蓮。藤井蓮だ」

 

「じゃあ私もしておこうかしらね。幻想郷の博麗神社の巫女、博麗霊夢よ。脇巫女って言ったら、ぶっ飛ばすからね」

 

「むぅ・・・レン、わたしのことわすれてないよね?」

 

「おぉ!?いきなり声をかけんなよマリィ。まぁそうだな、こっちももう一度紹介しとくか」

 

 

蓮が思い出したかのように言ったためか、マリィはぷいっといじけた様に頬を膨らませ顔を背ける。代わりに、霊夢のすぐ横にススッと移動すると、彼女の空いた左手に向けて自身の左手を蓮と同じように差し出した。

 

 

「わたしはマリィ。よろしくね、れいむ」

 

「ええ、よろしく頼むわ」

 

 

女同士で通じるものでもあったのか、蓮より打ち解けるのが速い。そんなやり取りを、何か輝かしいものでも見るかのようにして彼は無言で見つめ、やがて視線を逸らした。代わりに見るのは、蓮の不安とこれからの行く末を投影したかのような漆黒の夜空。

 

 

「なるようにしかならないか」

 

 

投槍に聞こえる言葉だったが、その言葉には確固たる覚悟が籠っていた。




主人公2人が、お互いの利害の為に結託するの回でした。
次でやっと戦闘回に移れそうです。
今回、主人公2人が話し合ったわけですが、うまく2人の主人公をかけたかどうか不安です。


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