幻想郷異変~怒りの日~   作:厨坊

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今回めっちゃ短いです、すいません。
本来なら一つにまとめるべきだったんでしょうが、敢えて分けました。


ChapterⅡ-ⅴ リザ・ブレンナー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ!?」

 

「きゃっ!!」

 

 

突如、二人の間を裂くように放たれた黒い雷光。絶大な威力と速度をもって打ち出されたそれは、蓮と櫻井の両方に当たりながら、お互いの距離を突き放した。それでもその攻撃は手加減されていたのか、見た目ほど絶大なダメージを二人に与えたわけではなかった。

 

初めから手加減されていたのか、それとも櫻井を助ける為に放たれたからなのか。ともあれ、それを直撃に近い形で受けたにも関わらず二人が軽傷で済んだのは、神業ともいえる攻撃のコントロールによるものだった。

 

 

何故ならその攻撃は見事、目下殺し合いの最中であった二人を止め、殺される運命だった櫻井の命を救ったのだから。

 

 

「くそっ!!一体何が・・・」

 

「・・・今のはまさか」

 

 

急の襲撃に驚愕する蓮と、何か思い至ったのか蓮とは逆に納得しているような表情の櫻井。その考えを肯定するかのように、2秒と経たずに攻撃を仕掛けた本人と思われる巨体が、着地した衝撃で地面を打ち壊しながらその姿を現した。

 

 

「・・・・・・」

 

「何だ・・・あれは?」

 

「・・・ちょっと、何か物凄い嫌な予感がするんだけど」

 

 

巨体の姿を見て驚愕する蓮と霊夢。対する巨体の方は、全くの無言で聞こえてくるのは荒い息遣いのみ。しかしそれでも、今の目の前にいるのが只の人間ではないという事が分かった。筋肉で固められた盛り上がった体躯に、無言で立っているだけだというのに感じる

 

途方もない悪寒。何より、その露出した肌の色が土気色なんてものじゃなく、漆黒と比喩する方がしっくりくる。総じて考えなくてもわかってしまう。その怪物は、断じて生ある生物ではないと。生気が感じられず、自身の意思を感じさせないその立ち姿は、感じる実力以上に気持ちの悪いものを感じさせる。

 

 

以前死体を操る術者と相まみえた事のある霊夢ですら、それは不気味以外の何かを感じさせるに十分な存在感だった。

 

 

「一体今度は何だってんだ。櫻井だけでもキツイってのに、こんな意味不明な怪物が更に加わるなんて洒落になんねぇぞ?」

 

「でも何かおかしくないかしら?アレ、動く気配ないわよ?」

 

「当然よ。だって、これ以上戦闘を続ける意思なんてこっちにはないんだから」

 

「「!?」」

 

 

突如、蓮と霊夢の会話を割って入ってくる第三者の声。櫻井の声でもないいつの間にか湧いて出た声の主に、蓮と霊夢を両者違った意味で驚愕させた。霊夢は結界が貼ってあったにも関わらず、それに反応せずに入ってきたことに対して。蓮は声の主に聞き覚えがあり、嫌な予感が当たってしまったという事に対して。

 

 

しかし声の主はそんな二人を置いておいて、真っ直ぐ櫻井の方に向かい、その場で立ち竦んでいる彼女に声をかけた。

 

 

「レオン、これは一体どういうつもりなのかしら?」

 

「バビロン・・・」

 

「あなたが一体どういうつもりなのかは、敢えて深くは聞かないわ。でも、それとヴァレリアの命令に従わず、勝手にここに来たのは別問題よ。幾ら任務を遂行する為だとは言え、こっちの事情も考えずに勝手に敵の本拠地に攻め込むなんて、ヴァレリアも許可していない筈よ」

 

「っ・・・」

 

 

表情はそれ程険しくなく、それでいて責めるような口調で一方的に語る彼女、リザ・ブレンナーの心中は言葉通り穏やかではなかった。それを感じ取ったせいか、それとも自分の軽率な行動に悔いているのか、はたまたそれ以外の理由からか。

 

 

先程まで、烈火の如く怒り狂い、その牙を剥き出しにして見せていた彼女の面影は見る影もなかった。ただ悔しげに顔を俯かせ、口の端を血が出る程に強く噛み締めている今の彼女は、まるで母親に叱られて落ち込む娘のようなだった。

 

そんな彼女を見て理解したとみたのか、リザは大きくため息をつくとそれで櫻井を責めるのを止める。そして、今まで第一声をかけただけで無視をしていた蓮と霊夢の方に向き直り、表情を落ち着かせて改めて言葉をかけた。

 

 

「こんばんは藤井君、元気そうで何よりだわ。本音を言うと、あなたとはこんな再開はしたくなかったけど・・・それも無理な話か」

 

「シスター・・・神父さんがそっち側の人間だって聞いた時から、薄々気づいちゃいたけどやっぱりあんた、あいつらの側の人間だったんだな」

 

「ええ、そうよ。だから、改めて名乗っておくわね。私は聖槍十三騎士団黒円卓第十一位リザ・ブレンナー=バビロン・マグダレーナ。あなたの敵よ」

 

「ッ!!信じたくはなかったよ、シスター。それじゃあ・・・」

 

「言わなくても分かってるわ。玲愛も私達と同じ。といっても、戦闘なんかできる子じゃないけどね。彼女は私達の鍵であり、器」

 

 

リザは内心の葛藤を表情には出さず、しかし申し訳なさそうな色は消し去ることが出来ず淡々と言葉を告げる。蓮からすれば、氷室が黒円卓の一員であるという事以外、殆どリザの言葉の意味を理解することはできなかった。だがそれでも、鍵や器といった言葉が決していい意味でない事だけは理解できた。

 

 

だからこそ、蓮はそんな事を淡々と話すリザを理解できなかった。傍目からみただけだったが、少なくとも氷室はリザを母親の様に見ていたし、家族として愛しているように見えた。それはリザも同じように見えていたことは間違いない。そんな本人が、あっさりと不吉な事を告げた。それは許されることなのか。蓮は即座にそれを否とした。

 

 

これ以上無い位右腕の拳を握りしめ、唇の端を噛み切って、それでも表現しきれない怒りをリザにぶつける。

 

 

「あんたは!!そりゃ俺には先輩の事情も、あんたの事情も知らない!!それでも、先輩がシスターを母親のように慕っていたのは分かる。あの時教会で言ってくれた言葉に嘘があるとは思えないし、思いたくない。だからこそ、何より先輩に一番近しいあんたがそんな簡単に先輩を鍵だとか器だとか言っちゃいけないだろ!!

 

 

俺にはその言葉の意味なんて理解できないし、正直したくもない!!それでも、それが先輩にとって良くない事だってのは分かるし、あんたはそれを一番よく分かっていなきゃいけない筈だろうが!!母親だと呼ばれてたんだろ?娘だと言ってただろ?だったらその張本人であるあんたが、先輩をそんな風に呼んでんじゃねぇ!!!」

 

 

櫻井の時以上に湧き上がり、膨れ上がる憤怒の念。その殺気は悲しい程に痛く、そして鋭くリザの胸に突き刺さる。蓮の言葉は全く持って正しいし、同時にリザは羨ましくも思っていた。自分にはそのように思えない、否。もう思う事などできない。本来ならそんな資格もないし、間違っても母親だなんて言っていい存在ではないのだから。

 

 

自分が願うことが間違いだなんてことは理解している。その願いを叶えるための手段が、これ以上なく悍ましいのも理解している。だからと言って、もう彼女には、リザ・ブレンナーという女には今以上の選択肢は用意されていないのだ。獣の祝福という名の呪いをその身に孕んだ時から、彼女にはたった一つの選択肢しか残されていない。

 

 

だからこそ、彼女がここからとる選択は、例え蓮がどう言おうと決まっていた。無意識に湧き上がっていた迷いと甘さを捨て、冷酷な光を宿した眼光を蓮に向けた。

 

 

「言いたいことはそれだけかしら?」

 

「何ッ!?」

 

「だったら、今日は失礼するわ。元々、まだ私達はあなた達の所へ来る気はなかったし、今日の事はレオンの独断なのよ。だから正直、今ここであなたと殺り合う理由はないわ。だから、今日の所は大人しく退かせてもらえないかしら?」

 

 

リザは蓮に提案を投げる。だが、彼女はその提案が受け入れられることはないだろうと分かっていた。分かっていても、理解しても尚問わずにはいられない。甘さや迷いを捨てていながらも、結局最後の所ではこんな風に弱さを見せてしまう。それがリザ・ブレンナーという女の強さであり、同時に人外の連中の中ではどうしようもなく度し難い弱さだった。

 

 

しかし、それは蓮からすれば、優しさでも強さでもなかった。どちらかを大事に思っていながらも、結局はその一方を完全に選ぶことができていない。それは何て度し難い事実か。どんな理由があれ、敵であるなら徹底的なまでに敵に位置してほしい、でなければその為の犠牲は嘘になると、蓮は悲しいまでの怒りを押し殺さずに、既に理解しているだろう回答を返す。

 

 

「わかってるんだろう?俺はあんたを倒す。倒して、先輩の元へ連れて行ってやる。だからそこで、あんたは先輩と向き合うべきだ!!それが親ってもんだろ?それが家族ってもんだろ?両親もいない俺が、唯一の親友と喧嘩別れしてそのままの俺が、偉そうなこと言うべきじゃないってのはわかってる。

 

 

でもだからこそ、先輩には同じ目に遭って欲しくないし、取り返しの付かなくなる前に気付いて欲しい。だから!!」

 

「どうあっても、退く気はないってことね。そう、残念だわ。本当に。でも、それでいいのかもしれないわね。だって今なら、玲愛がここにいない今なら、あの子にあなたが傷つく所を目の当たりにさせないで済むんだから」

 

 

言って、目を伏せる玲愛。それから数秒と経たずに見開かれた目には、もう敵意しかなかった。そしてその視線は蓮を射抜くのと同時に、未だ沈黙して佇む生気を感じない巨人に向けられていた。

 

 

「起きなさい、カイン」

 

「・・・・・・■■ッ」

 

「そうか。シスター、それがあんたの・・・」

 

「あなたが考えてる事とはちょっと違うけど、説明する意味もないわね。でも多分、半分当たってるわ。そう、貴方の相手は彼、聖槍十三騎士団黒円卓第二位トバルカインが相手をする」

 

 

リザの一言で起動状態に入ったトバルカインは、真白い息を吐き出しズシンと一歩踏み出した。その巨体の背には、右腕に握られた巨大な剣が一振り。バチバチと黒い稲妻が走っているのを見ると、先程のとんでもない雷撃が彼から発せられたものだと理解させられる。ハッキリ言って、蓮に勝算や策などなかった。櫻井以上に状況は悪い。

 

 

たがそれでも、蓮には大人しく退く気も退かせる気もなかった。なぜなら、ここで退いてしまったらこれから先もずっと退かなければならないと思ってしまったからだ。自分の為にも、先輩の為にも、そしてリザの為にも大人しく退くわけにはいかない。例え敵がどれほど強大で、今の自分には勝ち目がなくても。

 

 

「行くぞ!!」

 

「レオン、貴方は先に退いてなさい。ここは私が受け持つから」

 

「ッ!!わか、ったわ」

 

 

何か言おうとしたものの、バビロンの視線に射抜かれ結局何も言えず退く櫻井。去り際にトバルカインを切なげに見る彼女の視線には、リザは気付かないフリをしてトバルカインに指示を出す。己の聖遺物を用いて制御しているトバルカインは、リザの指示を受けて初めて動き出すのだ。

 

 

「ぉぉおおおおおおお!!」

 

「■■■■■■■■ッ!!」

 

 

そして、交わる蓮のギロチンとトバルカインの鉄塊の剣。今再び、ここに戦火は切って開かれた。




一番短いかもしれない、やってしまった回です。
そして、アホタルさんと霊夢さんが空気。
やっちゃいました。
両ファンの方、すいません。



そして次回、練炭に変化が!?
速いけど瞳にカドゥケウスが浮かびます。



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