幻想郷異変~怒りの日~   作:厨坊

13 / 17
やっと戦闘に入ります。
長かった・・・


ChapterⅡ-ⅲ 開戦

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そろそろ日付が変わるな」

 

「そうね。今の所、何もないみたいだけど」

 

 

蓮の言葉に、霊夢が簡単に相槌を打った。彼らが長い昼寝から起きて数時間、その間に食事やら入浴やらを済ませていたのだが、夜が更けても今の所妖しい気配がない。この現状は、寝て起きてからずっと警戒をしていた蓮からすれば肩透かしをくらった気分だった。

 

ヴィルヘルムはレミリアにご執心な事から、博麗神社に来ることはないだろうと踏んでいたが、それでも他のメンバーが来ないというのも妙な感じだ。

 

 

「紅魔館の方も、今日は妙な気配は感じないしね。いざというときに渡してある危険察知用のお札も、何の反応もないみたいだし」

 

「もしかして、連中も数日は情報収集に徹する気なのか?」

 

「だとしたら、とりあえず警戒している私達の方がバカみたいだわ」

 

 

霊夢が小さくため息をついて、起きてから四杯目になる緑茶を啜った。蓮も二杯ほど飲んでいるため、お茶の色は薄くなり出涸らしといった感じであったが、霊夢は気にした気配もない。勿体ないと思っているのか、それとも変えるのが面倒臭いのか。

 

 

どちらにせよ、そんな下らないことを考えてしまう位には今は暇であった。こうも暇であると、蓮はほんの二、三日前に殺し合いを自分が繰り広げたなど夢か何かであったと思う方が自然になってくる。

 

 

短期間に濃密な非常識体験をしたからか、少しでも変な事件が起こらなくなると平和に感じてしまうのが生物の摂理だ。尤も、変な事件が起こらないといっても、こうして世界を超えてしまったことを入れればそれはそれで事件なのであろうが。

 

 

蓮は今日一日、何故か姿を現さないマリィの宿る右腕に視線を移し、聖遺物の事を考え出した。

 

 

「(聖遺物ってのにランクがあるって話は、あのシュピーネって奴が言ってた。あいつは形成位階までしか達してないって話だったけど、他の連中は櫻井も含めて創造位階ってのにはなってるってことだよな。だとしたら、このままじゃマズイよな)」

 

 

心の内で考えていて、自然とため息が出てしまう。ゲームで言えばレベルアップのようなものなのであろうが、生憎と蓮がそういったゲームをやったという記憶など、本当に少ないものだった。元来、彼はそういったものにのめり込むような性格ではなかった上に、暇なときは悪友の遊佐司狼とバカな事をやっていたのだ。

 

 

それが自然と楽しいと感じて、クラスメイトや周りの人間、果てはテレビまでがゲームの宣伝をするようになっていったが、蓮は結局それに深くはまったことはなかった。尤も、ゲームに幾ら詳しかったとしても、そんな簡単にレベルアップできるものなら苦労はしないというのは流石に分かっている。

 

 

蓮が見る限り、ヴィルヘルムにせよシュピーネにせよ、アレはそんな短時間で習得できるようなものではないという事は悟っていた。

 

ヴィルヘルムに関して言えば、あれは度重なる戦闘による結果で得たものだろうし、シュピーネにせよ自慢げに御高説を語っていたことから聖遺物というものをどれだけ使い込んだのかは理解していた。

 

 

櫻井も聖遺物を使いこなすためには、より強い経験や多い経験が必要だと言っていた。それはつまり、聖遺物によって殺人、否。虐殺を繰り返せという事なのだろうと。見た目が少女でも、平然とそんなことを口にし、幾ら鍛えるためだからと言って人の掌を拳銃で撃ちぬく人間が普通なわけがない。

 

 

それは即ち、櫻井螢という少女も、蓮からすれば途方もない数の人間を殺してきたという事なのだろう。

 

 

「だからって、同じように殺せるかっての」

 

「ん?何か言ったかしら?」

 

「別に。なんでもねーよ、こっちの問題だ」

 

「あ、そう。で、このまま来なかったとしたらどうするのかしら?大人しく寝とく?」

 

「バカ言え。そんなこと出来るかよ。それならそれで、周囲を探ってみる」

 

 

蓮は霊夢の考えをアッサリと切り捨てる。尤も、言ってて自分でもそうなることは分かっていたのかそれ以上は言わない。霊夢とて、こんな面倒くさい事は速く終わらせて、いつものようにのんびりと過ごしたいのだ。

 

 

それが巫女として正しいかと言われれば問題なのだろうが、彼女はいい意味でも悪い意味でも枠に収まるような人間ではない。

 

 

「ここにいると、俺の方が異端なのかもって思わされるよ」

 

「文字通り、異端じゃないの。幻想郷でもいないわよ?ギロチンを右腕に生やす人間なんて」

 

「そういう意味で言ったんじゃねぇんだけどな」

 

 

と、蓮が言い切ったその時だ。超人的に進化した蓮の直感が、自分と同類の気配を神社の下から感じ取った。霊夢も急増で張った結界内に、何か異物が入ってきたのに気付いたのか険しい表情をして、蓮と同じ方向をまっすぐ見ている。空気が変わる。

 

 

先程まで緩んだ糸のようだったのが、今は細いピアノ線を張り巡らせ少しでも触れれば切れてしまいそうな緊張感。

 

 

武道に通じるものがいれば、それは殺気だと断言することができただろう。しかしそれは、ヴィルヘルムのような濁りきったドロドロした殺気とは異なり、例えるならば日本刀のような鋭い刃物で斬られるような殺気だった。それだけで、蓮には誰が来たのか理解してしまう。

 

 

それと同時に、自分のその人物に対する認識が間違っていなかったのだと悟る。

 

 

「・・・一番最初はお前ってか、櫻井」

 

「へぇ?驚いた」

 

 

蓮の問いかけるような言葉に、数秒も待たずに応えを返した。それと同時に、姿を現す軍服に身を包んだ少女櫻井螢。つい数秒前までは下に感じた気配の主が、今蓮と霊夢の二人の前に現れていた。それは即ち、あの長い博麗神社の階段をその数秒で登り切ったという事に他ならない。

 

 

蓮は兎も角、霊夢はその事実に少しだけ驚いていた。とはいえ、単純に彼女の速度に驚いたのではない。速度だけで言えば、友人である白黒の魔女や迷惑な新聞屋という前例があるが、その二人ともが羽や箒といった補助装置のようなものを使った結果だ。決して自身の足で移動したのではない。

 

 

故に、彼女が驚いたのはその部分だ。目の前の櫻井には、背中に羽もなければ箒のような道具も持っていない。徒手空拳で、姿勢よく立っているだけ。つまりそれは、紛れもなく自身の足でしかも音も無く階段を超速度で駆け抜けた、或いは飛び越えてきたという事実に他ならない。

 

 

「成程。蓮、あんたの言ってた通り無茶苦茶ね」

 

「今更過ぎるぞそのセリフ」

 

「うっさいわね。私は自分の目で視るまで、基本信じない主義なのよ」

 

「ああそうか、だったらもう説明はいらねぇよな?ってか、今回は俺がやらせてもらうからお前の出番はないぞ」

 

「何よ?黙って見てろっての?」

 

 

霊夢の若干怒りの籠った一言に、蓮は答えなかった。しかし同時に、それが彼女に対しての無言の答えである。霊夢は大きなため息を一つつくと、それに従う様に後ろに大きく下がり、しかし警戒だけは怠らなかった。戦いに参加するにせよしないにせよ、身構えておくのは重要だ。

 

 

でなければ、急に流れ弾でも飛んできようものなら防ぐことすらままならない。いっそのこと、最終奥義で透明になってようかしらと、ふとそんなことを考える霊夢だったが、直ぐにその考えは捨て去った。どんな理由があるにせよ、いきなり切り札を晒す気はなかったからである。

 

 

蓮も、彼女が後ろに下がっても警戒だけは怠っていないのを確認して安堵すると、そのまま大きく一歩櫻井の方へと歩を進めた。

 

 

「あら?戦うのは藤井君だけでいいのかしら?私はあなた達二人が相手でも構わないのだけど」

 

「そういうお前は随分余裕なんだな。俺が言うのもなんだが、過ぎた油断は足元を掬うかもしれないぜ?」

 

「心配してくれてありがとう。でも、問題ないわ。だって、私は別に油断しているつもりなんてないもの」

 

「何だと?」

 

 

僅かに眉を顰めて、一応聞き返す蓮。そんな彼を櫻井は鼻で笑い、それから霊夢を見てもう一度笑みを浮かべた。その表情に浮かんでいるのは、紛れもない自信、否。確信だ。櫻井はわかっているのだ。何故なら、彼女は決して才能がないとは言わないが、それでも他の団員と比べるとどこか劣っている部分がある。

 

 

そんな彼女は、周りとの差を埋める為にあらゆる戦闘スキルを磨いてきた。それは膂力であり、観察眼であり、そして技術。その中でも、今は観察眼と事前の情報を持って、今の藤井蓮では自身には勝てないという確信を持った。

 

 

「あなたがどう考えているかは分からないけど、現状でもあなたが私に勝てない理由は三つある。一つは聖遺物の位階。言うのは本当に憎らしいけど、あなたの才能は本物よ。私がそれこそ血反吐を吐いて習得した活動、形成位階を数日でものにして扱えるようになった。

 

 

それは本当に大したこと。あなたは実感してないかもしれないけど、普通では絶対に為しえない結果。ほんの数日前まで、ベイに殺されかけたあなたとは全くの別人ね。あなたに聖遺物の何たるかを教えた私だから、それが本当に実感できる」

 

「だからなんだよ?」

 

「そう焦らなくてもいいじゃない?まぁ、ゆっくり話す気はこっちにもないけど、丁寧に教えてあげようとしてるんだから、少しは聞いてくれてもいいんじゃない?」

 

「悪いが余計なお世話だよ。俺とお前がどう違ってるかなんて、今更言葉で言っても埋まるもんじゃねぇだろ?」

 

「・・・まぁそうね。じゃあ一言で教えてあげる。一つ目の事実、それはあなたが形成位階までしか達していないのに対して、私が創造位階だってこと!!」

 

 

瞬間、櫻井の足元が爆ぜた。言葉が終わるのと同時に踏み込んだ彼女の脚力が、呆気なく地面を砕いたのだ。ヴィルヘルムとは異なり、全く無駄のない達人のような構えからの動き出し。滑らかさと鋭さだけで言えば、それは一度ヴィルヘルムと対峙したことのある蓮からしても、櫻井の方が上だとわかった。

 

 

しかし、スピードはそれほどでもない。無論、加減をしていたヴィルヘルムに比べれば、その速度は数段速いものだ。しかし、蓮のイメージの中で描いたヴィルヘルムのスピードは、櫻井の遥か上を言っている。いかに不意打ちであろうとも、警戒をしていた蓮にはそれを避けることができた。

 

 

ブンと、空気の振動を感じた瞬間に小さく横に避けた蓮は、完全な形で攻撃を避けることに成功する。しかし、それで満足する暇はない。避けると同時にカウンターのパンチを繰り出した蓮だが、それをアッサリと読み切って外に弾いて躱す櫻井。それと同時に、再び正確無比の拳が胴体目がけて打ち出される。

 

 

「なろっ!!」

 

「どうしたの?さっさと武器を出してくれてもいいのよ!!」

 

「っざけんな、言われてはいそうですかなんて真似できるか!!」

 

 

蓮が第二撃を躱して以降、両者は競う様に拳と足を超速度で打ち出しながら、軽口を叩きあう。お互いに自分に向かって打ち出された攻撃を、躱し、いなし、受け、そして弾く。それは純粋な格闘戦。しかし、それ故に戦闘経験値の差というのが著しく出始めてしまう。

 

 

「グォッ!?」

 

 

初めにクリーンヒットを貰ったのは蓮。櫻井の鋭い拳打が彼の腹部を直撃し、喰らった蓮は逆流する胃液を苦悶の声と共に吐き出した。しかし、苦痛に喘いでいる暇はない。

 

 

「ハァッ!!」

 

続く第二、第三の櫻井の洗練された突きや蹴りが、連続技の様に蓮目がけて飛んでくるからだ。ヴィルヘルムに比べれば威力も弱く、一発貰った程度ではどうにかなるようなものではないが、それを連続で数発、人体の急所に貰えば話は別だ。

 

 

「っくそ!!」

 

 

速くも出始めた、戦闘経験値の差というものに蓮は口汚く吐き捨てる。蓮とて、司狼と殺し合いに似た潰し合いをした事があるし、喧嘩に関しても司狼につき合わされて経験したことが多々ある。それ故に、喧嘩慣れした並の人間やら、チンピラやらは軽くあしらうことができるだろう。

 

 

しかし、今蓮の目の前にいるのはそのどれにも当てはまらない。性別は違い、身長も相手は劣り、筋力も勝っている。ただ、それでも差は中々埋まらない。何故なら、相手は女で年齢は変わらないものの、戦闘経験の差と言うものが圧倒的に勝っているからである。

 

 

蓮は確かに喧嘩慣れしているが、櫻井は殺し合いに慣れている。加え、蓮とは違い武術やら格闘技やらの指南を受けた身である。教本の様にお手本であり、軍人の様に殺人に躊躇いがなく、達人の様に鋭い攻撃。

 

 

そのどれもが、蓮とは桁ではなく格が違うのだ。それに気付いて対処しようにも、現状ではどうしようもない。つまり認めるしかないのだ。徒手空拳の格闘戦では、藤井蓮より櫻井蛍が数段勝っていると。

 

 

そしてそれは、今現在優位に立っている櫻井の口から余裕をもって告げられる。

 

 

「二つ目の理由が、今現在のそれ。戦闘経験値の差。あなたと私では、格闘戦の経験も違いすぎるし、何より喧嘩慣れした程度で場数を踏んだ軍人相手とまともに相手できるはずがない」

 

「ッ!!いちいち分かってることをうるせぇな。それに澄ました顔して随分饒舌じゃねぇか!!」

 

「あら、気に障った?ならごめんなさい、謝っておくわ。それとおまけに、三つ目も言ってあげる」

 

「いらないおまけだな。言わなくていいぞ」

 

「そう言われると、言ってあげたくなるわね」

 

 

蓮の軽口に、笑みをもって応える櫻井。余裕かましてやがると、若干苛立ちを覚える蓮だったが、次の瞬間叩き付けられた櫻井の刺す様な殺気に、大きくその場から後退する。空いた距離は20メートル程。普通ならたった一歩で下がった距離に驚くところだが、生憎とそれは経験済みのため驚きはしない。

 

 

後ろで見ていた霊夢が、そんな飛んでも身体能力に呆れた視線を送っていたが、蓮はそれを無視する。今はそんなものに付き合っている暇はない。そんな見るからに余裕がない蓮を見て、殺気を叩き付けた櫻井は漸く満足そうな表情になり、そして言葉を告げた。

 

 

「三つ目、それはあなたが私を侮っているという事。ちょっと形成を使いこなしたからといって、何をあなたは調子に乗ってるの?」

 

「調子になんてのっていないさ。ただ、少なくともお前に武器を使わせないとと思わせるぐらいできなきゃ、この先どうしようもないと思っただけだ」

 

「それが調子に乗ってるって言ってるのよ。まぁいいわ。ならお望み通り出してあげる。だからこそ、貴方はもう安心して逝きなさい」

 

「何だと?」

 

「だって、あなたにはこの先なんてないから。私の形成で終わらせてあげる」

 

 

挑発的な櫻井の一言。それで完全に、蓮の怒りに火が付いた。そして自身も、武器を出す決心をする。つまらない意地を張って死ぬのはごめんだ。とりあえずはそんなのは忘れて、目の前の敵をただ倒すと、聖遺物を顕現させるために右腕を曲げてダラリと下げる。

 

 

それと同時に櫻井も構えをとり、両者共に自身の武器を出す儀式とする。そして一時、制止する空気。風さえ止んで、真に固まったその瞬間に、蓮と櫻井は同時に呟く。

 

 

『形成』

 

 

 




今回戦闘回にしては短いと思いましたが、とりあえずここまで。

次回は完全に戦闘オンリーと言っても過言ではないかもしれません。
次回、藤井君、櫻井さんをブチ切れされる・・・かも











▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。