魔法と錬金術の合同授業   作:志真 文

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久々の更新です。

呪文にルビつけるのはもうやめました。
長すぎるし見づらいし。
これに伴い、前回までのルビも撤廃します。

うう…ネギまの呪文はルビ込みで格好いいのに…

今回はエドVSエヴァ。
長かったので前後編で区切りました。


4時間目 錬金術師と吸血鬼(前編)

 氷の矢と、石の棘が激突する。

 

 粉砕された氷の欠片は宙を舞い、月と星の灯りを反射して、儚くも美しい情景を作り出した。

 

 

 ――それを取り巻く状況は、そんな美しさとは無縁であったが。

 

 

「ちっ、大体何なんだ、その妙な術は! 魔力も感じんし、杖もない――ああくそ!」

 

 フラスコとビーカーを取り出した所で、間髪入れず伸びてくる石柱にタイミングをずらされ、エヴァンジェリンは苛立たしげにエドワードを睨む。

 

「そりゃこっちのセリフだ! 勝ったらそのカラクリも、この場所のことも、キッチリ吐いてもらうからな!」

 

「ハッ、貴様如きが私に勝てるとでも思っているのか? 愉快だな!」

 

「にゃろおお! いちいち腹立つなテメーは!」

 

 エドワードとエヴァンジェリン、両者の戦いは子供じみた言い争いをよそに、苛烈なものであった。

 

(チッ、どうなってんだか知らねぇが、空飛ぶとか卑怯臭ぇ!)

 

 自在に空を移動する相手に、エドワードは攻めあぐねていた。

 

 下から石柱を伸ばしても捕らえられない。

 先程誘導のために使っていた大砲は、さすがに攻撃に使うのは論外。

 かといって足場を作り、相手と同じ高さまで昇っても、機動力の高い相手には無意味。

 逆に足場が悪くなる分、あちらの攻撃が避け辛くなるのがオチだ。

 

 だからこその、リンと連携した作戦だったのだが、それも失敗に終わった。

 しかも敵はもう一人増えて、リンとは分断されてしまった。

 ここは、一人で対処するしかないのだ。

 

(くそ、考えろ…!)

 

 飛んできた氷の矢を壁を作って防ぎながら、エドワードは歯がみする。

 当然、骨折しているにも関わらず無理矢理行使されている左腕が軋んで激痛を訴えるが、構っている余裕などない。

 氷の矢を防いだ次の瞬間、再び壁の上から降り注ぐ氷。

 エヴァンジェリンがさらに高く飛んだために、氷が射出される角度が変わったのだ。高い場所からだと、壁などほとんど意味を成さない。

 頭上に降ってくる攻撃を、右腕のみを使った前転で回避。

 すでに手を合わせ、陣を完成させていた手で突いた地面から、手の形をした岩が少女へと伸びる。

 

(相手は二種類の薬品を混ぜ合わせて、術を発動させている…。手数は有限だ)

 

 当然のように伸びてきた手を躱すエヴァンジェリンを横目に、エドワードは駆けながら思考を巡らせる。

 

 今まで彼女が氷の矢を放った回数は、五回。

 つまり十個のフラスコを消費したことになる。

 どんな仕組みかは分からないが、少なくとも複数の液体が、彼女の攻撃には必要不可欠である事は間違いない。

 

 薬品は、マントの内側に固定してあるようなのだが、そこまで大量に隠し持てるとは思えない。

 精々二十個、多く見積もって三十。

 全部で十~十五回。

 いや、もしかしたらもっと少ないかも知れない。

 そのせいか、エヴァンジェリンはほとんどこちらの攻撃を回避することだけに留め、反撃の好機を狙っているように見える。

 

(持久戦に持ち込むか?)

 

 相手が攻撃手段を失えば、いくらでもやりようがある。

 あちらとは違い、エドワードは地殻変動エネルギーを用い、無限に錬金術を行使できるのだから。

 

(…いや)

 

 そんなこと、彼女も分かっているはずだ。

 なのに彼女の表情に、エドワードを仕留め切れない不満はあっても、焦りはない。

 深い青色の瞳には、冷静な光が宿っている。

 

(まだ、何か隠し持ってやがるのか?)

 

 氷の矢を飛ばしてくるだけの、ワンパターンな攻撃。

 ――本当に、それだけしかできないのか?

 

 あんなに自信に溢れているような人間だ。きっと何か、大技を仕掛けてくる。

 そして、そのタイミングがあるとすれば、残りの手数が少なくなってきたであろう、今だ。

 

「くっ!」

 

 六度目の氷の攻撃を防ぐ。

 そんな彼に、エヴァンジェリンは面白くなさそうに鼻を鳴らした。

 

「ふん、ちょろちょろとすばしっこい奴だ。少し、飽きてきたな」

 

 そう言って、エヴァンジェリンは二つの容器を取り出す。

 その中で揺らめく液体の色は、今まで見てきたものとは、違う色をしていた。

 

「そろそろ、遊びはやめておくか。……まあ、なかなか楽しめたぞ」

 

 少女の冷淡な声が、新たな言葉を紡ぐ。

 

『来たれ氷精、大気に満ちよ。白夜の国の凍土と氷河を…』

 

 何か、今までとは違う攻撃が来る。

 

 すぐにそう察したエドワードは、落ちてくるフラスコから距離を取りつつ、壁を錬成して、その壁に隠れるようにしてさらに逆方向へ走る。

 

『――こおる大地!』

 

 壁の後ろで、ガラスの割れる音と同時に凛と響く、少女の声。

 

 ――次の瞬間。

 

「ぶわっ!?」

 

 真っ白な冷気が、壁の横から溢れて、雪崩れ込んでくる。

 広範囲の攻撃。

 そう理解したエドワードは――

 

「どわぁ!?」

 

 何かに左足を取られ、その場に転倒する。

 バキン、と足下で何かが砕ける音がした。

 

「ってて、何が…」

 

 すぐに立ち上がろうとしたエドワードだったが。

 

「――なっ!?」

 

 動かない。

 地面に接している足が、肘が、

 

 

「凍ってやがる…!?」

 

 

 氷によって、地面に貼り付けられていたのだ。

 

 見回せば、辺り一面が氷に覆われ、あちこちに氷の棘が、エドワードを威嚇するかのように聳えている。

 不幸中の幸いか、折れている腕を庇って、肩から横に倒れ込んだため、左の肘は氷漬けになってしまったが、左の手の平と右腕は自由で、錬金術を使うことに支障はない。

 

 だが、それを許すエヴァンジェリンではない。

 

「終わりだ!」

 

 エヴァンジェリンが、新たなフラスコを振り上げる。

 

 

 

 

 

 

 エヴァンジェリンもまた、この戦いの間、エドワードを観察していた。

 形成された壁や柱の根本が大きく抉られている所を見ると、彼の術は無から有を生み出すのではなく、物質を自由に変形させ、操るものであるのは明白だ。

 発動の条件は、両手を合わせ対象に触れること。

 なるほど、一々魔法薬を触媒として使わなければならない上に呪文を唱えなければならないこちらに比べれば、なんと手軽で汎用性の高い術か。

 

 だが、そんな便利な術にも隙はある。

 文字通り一拍――両手を合わせる、僅かな時間が。

 

 先程までのように、ちょこまかと動き回られている状態では、その隙をカバーされていたが、今は動きを封じられている。

 片手、もしくは両手をまるごと氷結し、術そのものを封じられれば幸いだったのだが、残念だ。

 だが、まあいい。

 

 氷の戒めを解くのに、一秒。

 そしてその下の石畳を、変形させるのにもう一秒。

 氷の盾を成形して防ぐことなどできまい。そこまでの質量の氷は、エドワードの周囲にはない。

 まあ、魔力が不十分であるため、全身を拘束するに足りなかっただけなのだが…。

 しかし、彼を仕留めるには十分だ。

 

「終わりだ!」 

 

 空中へと放り出されるフラスコ。

 

『氷の妖精――』

 

 同時に、エヴァンジェリンはとどめを刺すべく口を開いた。

 しかし、次の瞬間。

 

 

 

 白が、少女の視界を埋め尽くした。

 

 


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