Fate / SAO   作:YASUT

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まずはpixivのから。


1.プロローグ

「グルァァ―――!」

 

 明らかに人間ではない生き物………“亜人”が手斧を振るう。

 軌道は読めている。この程度、今まで戦ってきた者たちに比べれば、止まっているも同然だ。

 武器を振るうことなく、俺は手斧を躱す。

 そして。

 

「―――――同調、開始。」

 

 すれ違いざまに、一瞬で斧の構造を読み取る。

 

 構成材質―――――解明。

 刃に使われている素材は何のことはない、ただの鉄。

 材料と作る工程さえ解れば、誰にでも作成できるだろう。

 

 憑依経験―――――不明。

 否、“零”。

 経験を読み取れないことから、作られて間もない武器だということが解る。

 

 基本骨子―――――いや、必要ない。ここまでの情報で十分だ。

 即座に、次の動作に移行する。

 

「はっ―――――!」

 

 左手に握られた“ロングソード”を横凪に振り切る。

 武器を振るった直後の、不意をついた反撃。

 タイミング、角度、あらゆる面において完璧な一撃。

 しかし、そこには一つだけ誤算があった。

 それは何のことはない、純粋な障害。

 “剣速”。すなわち、己の身体能力。

 

 渾身の力を込めて剣を振るう。

 しかし剣は、込められた力に全く見合わない、予想以上に“遅い”速度で振るわれた。

 

 本来ならば、この一刀で目の前の亜人は地に沈む筈だった。

 だが亜人は、剣が直撃する寸前に手斧を構え、こちらの攻撃を間一髪防いだ。

 剣速が遅かったせいで、防御を許してしまったのだ。

 武器と武器がぶつかり合い、火花を散らす。

 

「っ………!」

 

 瞬時に次の手を模索する。

 自分の動きが鈍い。普段の………いや、この世界に来る前とは雲泥の差。

 まるで、未熟だったあの頃に戻ってしまったかのようだ。

 

 だがそれは、あくまでも己の身体能力のみらしい。

 思考は冴えている。

 初めて見るはずの亜人が相手でも、はっきりとその動きが読める。

 

「グガァァァ―――!!」

 

 手斧による攻撃が難なく躱され、さらに反撃を受けたことで怒りが頂点に達したのか、亜人は怒りながら斧を叩きつけようとする。

 左手の剣は振り抜かれ、奴には俺が隙だらけのように見えているんだろう。

 そう見えるのも無理はない。

 何故なら、そう見えるように立ち回っていたのだから。

 

「はっ……!」

 

 隠し持っていた短剣を空いている右手で取り出し、亜人の斧を真下から鋭く斬り上げた。

 

「ッッッ―――――!!?」

 

 再び火花が散り、同時に斧が上空へ高く弾かれる。

 突然武器を失ったことで、亜人は怯み、目を見開いた。

 

 左手に握られた剣にもう一度意識を集中させる。

 目の前の亜人は今、どこからどう見ても隙だらけだ。

 更に武器は弾かれ、残された左手には盾のような装備もない。

 

 つまり、今のコイツに防ぐ手段はない。

 

 必殺の意思を持って、もう一度剣を振りぬく。

 剣は使い手である俺の意思に従い、一寸の狂いなく亜人を斬り裂いた。

 

「グゴッッ……! グルゥゥ―――――……!!」

 

「…………っ、くそ。」

 

 ………やはり、というべきか。

 剣速が落ちているのだからもしかして、とは思ったが………やはり、威力もかなり落ちている。

 全ての行動に制限が設けられている感覚。

 “敵が強い”というのならば、まだ遣り様があるだろう。

 だが、“自分が弱くなっている”というのは、どうにも戦いづらい。

 

 胴体に致命傷を受けた亜人は、大きく後方へ下がり、俺と距離をとった。

 しばらくすれば奴は体勢を立て直し、また襲いかかってくるだろう。

 

「―――――。」

 

 右手の短剣を持ち替える。

 

 左手にはひと振りの長剣を。

 右手には鋭い短剣を。

 

 今度は正真正銘、初めから二刀流のスタイルで追撃する。

 これで終わりだ―――――

 そう確信を持って攻撃に入ろうとしたところで、背後で待機していた“彼女”が動いた。

 

 

 水色のドレスを纏った少女。

 以前とは違い、金の髪は全て下ろされている。

 両手に握られているのは、可憐な格好に似つかわしくない無骨な剣。

 

 青のドレスも、銀の甲冑も、黄金の聖剣も、既に彼女は持ち合わせていない。

 けれど。

 その美しさは衰えることなく、確かにそこに在った。

 

「はっ―――――!」

 

 俺の背後から彼女は飛び出し、恐るべき速度で亜人を一閃する。

 その剣筋は、俺なんかとは比べるまでもない。

 

 “セイバー”。

 

 剣の英霊を名乗るに相応しい一撃で、亜人は今度こそ霧散した。

 

 

 ◆

 

 

「………すごいな。今のが“ソードスキル”ってやつなのか?」

 

 武器を収めながら、セイバーに称賛を贈る。

 先程の彼女の一撃は、今までの俺の剣に比べると凄まじい威力だった。

 もしあれを俺自身に撃たれたら、おそらくこの剣では防ぎきれないだろう。

 

「………はい、どうやらそのようです。」

 

 自分の剣をじっと見つめながら、セイバーは答える。

 しかし、表情は明るくない。

 

「特定の構えをとった後、意識を集中することが発動の条件のようです。

 ですが、やはり、私には扱い辛い。」

「? なんでさ。俺なんかが言うのは差し出がましいけどさ。さっきの一撃、結構凄かったぞ。」

「はい。しかし、放つには特定の構えを取る必要があります。相手がただのモンスターだから良かったものの、人間が相手では限界があるでしょう。

 これは確かに強力な武器です。ですが、ソードスキルという“誰かに作られた武器”に頼りきるのは危険だ。」

「あー………それは、確かに。」

 

 ソードスキルに頼りきる、か。

 きっとそれは、俺風に言うなら“投影に頼りきる”ということだろう。

 投影魔術で持ち主の技術はある程度再現できるが、あくまでも“ある程度”どまりだ。

 それだけでは勝てない。

 だからこそ、“干将・莫耶”による“エミヤシロウ”の剣を磨いてきたのだ。

 

「ですから、明日からまた剣の鍛錬を行いましょう。

 場所は………そうですね、“あの男”が現れた広場で。 

 今一度、貴方の剣を見せて頂きたい。」

 

 手を腰にあて、いつか見た不敵な笑みを浮かべながらセイバーは言う。

 長らく忘れていた彼女の笑みに、思わず頬が緩む。

 そういえばこうだった、という思いと、これほど素晴らしいものだったか、という疑問が渦巻く。

 

 いや。

 そんなことはもはやどうでもいい。

 何故ならば。

 これからは、彼女の笑みを何度でも見ることができるのだから―――――

 

「―――――そうだな。よし、覚悟しとけよセイバー。あの時とは違うってことを、嫌というほど思い知らせてやる。」

「ええ。ですが、私とて負けるつもりはありません。これでも“セイバー”ですから。」

 


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