少し時は遡り終業式の日。
「るり、小咲。もうすぐ縁日だろ?その日の祭り一緒にまわらないか?」
「うん!別にいいよ!」
「……男子と一緒に行かずに私達を誘うなんて………クロ君、男の友達っているの?」
いきなり失礼だな、おい!
「別にいないわけじゃないけど、もし行くなら、集と城野崎だぜ?何しに行くかわかったもんじゃねぇよ」
「…………ごめんなさい。クロ君はあの二人とは違うからそんな心配しなくても大丈夫よ」
あの二人と違うってどういう風にかよくわからねえけど……
「じゃあ、縁日の前の日にまた連絡するからな」
縁日
「って、言ったのに何で小咲がいないんだよ」
「知らないわよ。いきなり、ちょっと行けなくなったからクロ君とるりちゃん二人で楽しんできて、って言われたから」
祭りに来た俺とるりは二人で色々まわっていた。るりは片っ端から食べ物を買っていて、俺はすっかり荷物持ちになってたりとする。
「にしても、るり。お前去年同様可愛いな」
るりの今の姿は祭りということで浴衣である。るりが着ている浴衣は非常に似合っていてピッタリだった。
「なっ!?いきなりなにいってんのよ!!」
「俺がそう思っただけなのに、なんでこんな仕打ち!?」
褒めたつもりなのにいきなり蹴られた。確かにいきなり可愛いとか言ったのは悪かったが、何も蹴ることなんか…………
(何でクロ君は不意打ちのように言うのよ。…………よく考えたらこれってデートなんじゃ…………)
「おーい、るり?あっちにわたあめあるけどいるか?」
「いる!!」
俺達は二人でこの縁日を楽しむことにした。……にしても、小咲に限って用事って…………
「るりちゃん、クロ君。二人で楽しんできてね。あわよくば、そのまま…………」
「楽様と桐崎さん。二人の邪魔をしてあげましょうかしら?」
「ダメだよ!!」
「そういえば、クロ君は恋結びのお守りは買いにいくの?」
恋結びのお守り。それを持っているだけでとてつもない恋愛成就を発揮すると言われている。販売直後、すぐさま売れるほどの人気らしい。
「別にそんな予定はないけど……るりはどうなんだ?もしかして、欲しいのか?」
「私がそんなもの買う人に見える?……まぁ、小咲のために買いに行こうかなとは思ってたけど」
あぁ、今日来れない小咲のために何か土産?という事と、後、楽とうまくいくようにってためにか。
「じゃあ、買いに行くか?一通りこの食べ物食べてから。すぐ売り切れるらしいからなるべく早く」
今俺の手にあるものだけでも、焼きそば、たこ焼き、イカ焼き、フライドポテト、ラムネとたくさんある。そして、今のるりの手にはチョコバナナがあるし。
「それもそうね。クロ君もその中の欲しいやつ食べていいわよ?」
「いや、俺は別に…………」
ぐ〜
「………………もらいます」
「………………ぷっ、変なの」
「わ、笑うなよ…………」
俺達はすぐ近くにあったベンチに座って荷物を置く。俺はどれしようか迷った結果、焼きそばを選んだ。
「じゃあ、いただきまーす」
「…………どうぞ」
買った後、しばらく放置してしまっていて、少し冷めてしまっていたが、それでも普通に美味しかった。
「これうまいな。るりも食べるか?」
そう言って俺はるりに焼きそばを渡そうとする。
「そうね。一口もらおうかしら」
チョコバナナを食べ終えたるりが、俺の焼きそばを取って、口に入れた。
「これ、美味しいわね。どこで買ったやつだっけ?」
「確か、ガラの悪そうな男の人が作ってた所だと思う。ちょうど、楽の家に住んでそうな感じの」
「また後で、行ってみようかしら」
「俺は別に構わないぞ。どこに行くかはるりに任せるよ」
るりから焼きそばを受け取り、もう一度、食べようとする。
…………よく考えたらさっきのって間接キスじゃないのか?それに今俺がしようとしている事も。るりは何も気にせずイカ焼き食ってるし、俺も気にせず食べた方がいいのか?
「………………まぁ、いいか。気にしてる方が負けな気がするし。るりもそんな事気にする女の子じゃないだろ」
「何の話し?」
「いや、別に」
うん、やっぱりこの焼きそばは普通に美味しいわ。後で、俺も買いに行こ。
「さてと。一通り食べたしそろそろ恋結びを買いに行きますか」
「えぇ、そうね。あの恋結び凄く人気みたいだし早く行かなきゃだし」
俺達は恋結びが売られる方へ向かう。
「…………多っ」
「これ売り切れてるんじゃ………」
それほどに人は多かった。行列とか関係なく、ただの集団というような感じだった。
「どうしよう、何か売り切れてる気しかしない」
「まぁ、行くだけ行ってみようぜ」
そう言って、俺はるりに手を出す。
「えっ?」
「えっ、じゃないだろ。こんな人混みなら離れ離れになる確率、ほぼ100%だろ?だから、手繋がないと。お前、ただでさえちっこいんだから」
「ちょ、ちっこいって!!」
俺をしばこうとするるりの手を掴み、人混みの中へと入る。はぐれないようにしっかり手を握って。
「るり、大丈夫か?」
「………………」
返事がないから、後ろを向くと下を向きながらもついて来ていた。
「………………あぁ、やっぱり売り切れてたわ」
「……そう、じゃあ仕方ないわね。戻りましょう」
今度はるりが俺の手を引いて人混みから脱出しようとする。
「はぁ、小咲へのお土産どうしよ」
「そうだな。まぁ、小咲の事だし何かお面とかでも喜びそうだけど……………………あれ?小咲?それに…………楽?」
俺が偶然向いた方向に楽とその楽におぶってもらってる小咲を見つけた。何であの二人がここに…………
「まさか、楽と小咲のやつとうとう…………」
「いや、あの状況からしてそれはないでしょ。とりあえず、あの二人を追いかけるわよ」
「りょーかい」
人混みからの脱出を試みながらも、俺達は二人を追いかけた。
「何かあの二人いい感じだな?」
「えぇ。もしかして、あの二人のどっちかが恋結びを買う事に成功したんじゃない?」
「…………かもしれねえな。あ、楽がいきなり走り出した」
「何かあったのかしら?」
「まぁ、小咲に聞けば解決するだろ。てか、何で小咲はここに?あいつ、用事があるんじゃ」
「それも聞けばわかるわよ」
俺達は小咲にそっと近づいた。近づいていることに小咲はまだ気づいてない。
「一条君行っちゃった。でも、まぁ今日はたまたまとはいえおんぶしてもらえたし、よかったのかな?」
「あぁ、よかったんじゃねえの。楽も喜んでたみたいだし」
「そうだよね。うん!」
えっ、まだ俺達に気づかないの?
「それより、あんたは今日大事な用事があるんじゃなかったの?」
「大事な用事?それって一体……………………るりちゃん、クロ君?」
「やっと気づいたか」
「私達と祭りに行く約束をしたのに、それをすっぽかしてでもしないとダメな用事って何か教えてもらえるかしら?」
「る、るりちゃん。顔怖いよ……」
どうやら、るりはかなり怒ってるようだ。今にでも小咲に何かをしそうな様子である。
「えっと…………ごめんなさい!用事って言うのは嘘なの!!……実は橘さんから『今日の祭りは二人で行かせてあげて下さいまし』って真剣に頼まれたから、断ろうにも断れなくて。もちろん、私も悪いってわかってるから明日ちゃんと謝ろうと思ってたよ!」
…………何故、マリーが俺とるりを二人っきりに?理由がわからない。
「つまり、わざとじゃないのね?」
「う、うん。わざとじゃない」
「…………はぁ。それなら別にいいわ。明日、橘さんには理由を問い詰めるけどね」
うわー………マリー、マジでドンマイ。るりの尋問は正直大変だぞ。今から合掌しとこうか。
「小咲、あなたまだ時間あるの?」
「うん。まだ大丈夫だよ」
「そう。それなら今から三人で行きましょ。クロ君、さっきの焼きそばが食べたいわ」
「おう。なら、さっさと行こうか」
俺とるりは焼きそばの店に向かって歩き出した
「………………ねぇ、るりちゃん。言うタイミングわからなくて中々言えなかったんだけど、何でクロ君と手繋いでるの?」
「「えっ?」」
手を見ると確かに俺達は手を繋いでいた。もしかして、恋結びの時からずっと?何の違和感もなかった。
「もしかして…………二人は付き合いだしたとか?」
「ち、違う!それは違う!!」
「そうだぜ。これは恋結びを買いに行こうとしたけど、人が多すぎてはぐれそうだったから手を繋いだだけで。るり、ちっこいし」
「………………だから!!!ちっこいって言うな!!!」
「ぐはっ!!!」
るりの右ストレートが見事に俺の鳩尾に決まり、俺は膝をついて倒れた。
「小咲!!さっさと行くわよ!」
「えっ、でも、クロ君が」
「いいから!!!」
「はい。ごめんね、クロ君」
小咲と怒ったるりは先に行ってしまい。俺は一人取り残された。しばらく休んで歩き出した時にはるりと小咲はもう帰ってしまったので、俺も家へ帰ることにした。
後日、小咲に聞いた話だが。集と城野崎が怒っているるりにナンパして二人は本気でぶん殴られたらしい。集と城野崎もあれだが、二人には本当に悪い事をした気がした。
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