完結を宣言した舌の根も乾かないうちに番外編を投稿していくスタイルとはなんなのか。
Ex-1.白糸台(西東京)-Side A
準決勝後夜。弘世菫は、大部屋に部員を集めた。
集まった部員を前に、菫は口を開いた。
「さて、皆も知っている通り、私たちは負けた。確かに準決勝は2位抜けしたが、阿知賀に負けているのだから勝ったとはとても言えない。しかし、三連覇のかかった決勝に2位抜けとはいえ進出できたことは事実だ。これを運に与えられたラストチャンスだと思って、決勝には死ぬ気で挑むので、皆も応援よろしく頼む。明日はレギュラー以外は休みとする。レギュラーのメンバーは今から反省会をするので残ること。解散」
話を終えてマイク前を離れようとしたとき、菫は部員のひそひそ話を聞いた。
「実質フルボッコじゃん」
「正直2位抜けも奇跡だよね」
「誰かさんが大失点したからね(笑)」
「あーあ、誰かさんのせいで先輩の功績がめちゃくちゃだ(笑)」
「あんなレギュラーなら私のほうがよくない?」
誰の話をしているかなど一発でわかる。菫はそういう類いのひそひそ話を蛇蠍のごとく嫌っている。我慢できずに、
「誰よりお前のほうがマシなんだ?言ってみろ」
口走ってしまった。
「ぶ、部長!なんでもありません!」
「誰よりお前のほうがマシなんだと聞いているんだが?」
「こ、言葉の綾なんです!言葉の綾!」
「お前は私をバカにしているのか?質問に答えろ」
相手はとうとう泣き出してしまったが、菫は全く容赦しない。
「誰より、お前が、マシ、なんだ?日本語もわからないか?質問に答えろ」
「ひぐっ、うぇっ、ごべんなざい…ごべんなざい…」
「謝るくらいなら最初から言うな。誰よりお前がマシなんだ?言ってみろ」
「うぇっ…ぇっ…ばだのざんでず…」
「は?」
「亦野さんですっ…うぇっ…ずずっ」
そんなことだろうな、と菫は思った。今日の亦野は失点に失点を重ね、圧倒的だった白糸台のリードをほぼ0にしてしまったからだ。
「敗者に勝者の欠点をあげつらう権利はない。身の程をわきまえろ」
「ごべんなざい…ごべんなざい…」
ひたすら謝りつづける部員を見て、菫はふと、もしかすると誰も亦野の敗因を理解していないのではないかと思った。
「お前は亦野がなぜ大量に失点したか、理解できるか?」
試しに問いかけてみれば、
「…わがりばぜん…」
なるほどこれでは自分のほうがマシだと思い上がっても仕方ないか、と菫は軽く頭痛を覚えた。
「じゃあ解説しようか。今回亦野が対戦した相手は新道寺の部長、千里山のブレーン、そして実力未知数だった阿知賀の部長だ。この時点でまず亦野は不利だ。3年ブーストという現象はお前も知っているな?新道寺の白水哩はただでさえ強いのに、3年ブーストがかかっていた。多分今日の白水には渋谷ですら勝てなかったんじゃないかな。ただ、白水と大将の鶴田がリンクしていることを知りながら、まともに対処しなかった点は亦野の落ち度と言える。もし亦野が白水をなんとか止めていれば、淡はあそこまで苦戦しなかったはずだ。
次に、千里山のブレーン船久保浩子は愛宕プロの姪だ。麻雀の実力自体かなり高い。それに加えて彼女は大量の牌譜をデータとして頭に入れていて、そのデータをもとに相手が一番嫌がる麻雀を打つ。データ分析型の選手は白糸台にいないから、こういう選手には弱い。
その船久保が対策をとりきれずに苦戦したのが阿知賀の鷺森灼だ。鷺森は今回のインハイが初の公式戦だったうえに打ち筋がクラシックで、対策するにはこちらもクラシックな戦法にでなければならない。残念ながらこれは能力持ちの亦野には無理だ。
さらに悪いことには、白水は亦野の下家に座っていたんだ。つまり、亦野の副露を利用しやすかった。
他校エースに利用され、さらに自らの打ち筋を分析されていた。これが亦野の失点の原因だ」
話を終えると、泣いていた部員はいつの間にか泣き止んで、菫の話を真剣に聞いていた。
「つまり、新しい打ち筋を開拓してエースを抑えれば、失点は抑えられるんですか?」
「おそらく、な。だから、練習しさえすれば亦野は失点しなくなるんだ」
「なるほど、勉強になります」
「いい機会だからお前には話しておこうか。私は来年の部長に亦野を推そうと考えている」
「亦野さんを!?」
「不思議なことは言っていない。エースの仕事は勝って帰ってくることだ。では、部長の仕事はなんだと思う?」
「チームを引っ張ること、でしょうか」
「厳密に言えば、部員の状況を把握してそれぞれに一番見合ったやりかたで部員の実力を伸ばす手伝いをすることだ。そのためには、勝つだけではなくて負けた経験も必要なんだ」
「部長も負けた経験があるんですか?」
「あるもなにも、照には毎日負けているさ。そういった経験が、部を引っ張るには必要になってくる。白糸台で実力のある面子は大抵負けを知らない。だから負けた経験のある亦野がふさわしいと思うんだ。」
「なるほど、わかりました」
「よし、もう帰っていいぞ」
「はい、ありがとうございました」
部員を見送ると菫は振り返り、
「聞いてたな?だから恥じることはないぞ」
と呼び掛けた。
「…でも、負けてチームに迷惑をかけたのは事実です」
亦野は物影から出てきて答えた。
「負けたこと自体より、それをずっと引きずる方が悪だ。誰しも負けることはあるさ。さあ、反省会を始めよう」
菫はそう言って、亦野を連れてチームメイトが待つテーブルへと歩きだした。
はい、クリスマスプレゼントはいかがでしたでしょうか。白糸台のホワイト(?)な面を書き出そうと頑張った結果です。
そんなこんなで、この先も続いていきそうですね。どうぞよろしくお願いします。