勝つことに喜びをあまり覚えなくなったのは、いったいいつからだったろう。灯りの落とされた部屋で、真瀬由子はひとり過去を思い起こしていた。
麻雀をはじめた頃、負け続けるのが悔しくてずっと牌譜を眺めていたこと。初めて勝った時の喜び。麻雀クラブで一番になった時のなんともいえない感慨。すべて昨日のことのように思い出せるのに、思い出すたびになにかが色あせている。
勝つことが当たり前になったから、なのだろうか。
ここ姫松では、ただ勝つことが求められる。麻雀として美しくなかろうが、オカルティックな技を使おうが、勝てるのならそれがベスト。その姫松で、自分はレギュラーを張っているのだ。今や姫松の部内ランキングで3位から落ちない自分にとって、勝つことが当たり前なのも当然なのかもしれない。
今回の「負け」を自己弁護するならば、自分の卓には能力者がいたし、最終的に2位となったのは恭子のせいだ。その恭子にしても、対戦相手が悪すぎた。正直なところ、永水と宮守を相手によく2位抜けできたものだと思う。あの魔物卓を耐えきった恭子はむしろ賞賛されるべきだ、たとえ宮永咲に嘗めプされていたのが実態だったのだとしても。もし自分があの卓にいたら、と考えるとぞっとする。きっと自分は泣いて許しを乞うただろう。
2位抜け、という立場は複雑だ。ある意味では勝ちであるし、またある意味では負けであるからだ。しかし、姫松の生徒はおそらく誰一人として2位抜けを勝ちと考えていないのではないだろうか。姫松における「勝ち」とはすなわちトップ抜けであるからだ。かくいう自分も、この試合は「負け」であったととらえている。
みんなはよく眠れているだろうか。由子はふと不安を覚えた。
恭子はきっと眠れていないだろう。今回の結果を一番気にしているのは恭子自身だし、今日は一日中、監督代行の呼んだプロを相手にずっと打ち続けていた。気を張りすぎて失敗しなければいいが、かなり心配だ。なにしろ恭子は気を遣いすぎる。適度に力を抜いていかなければ、プレッシャーで押し潰されてしまう。
漫はどうだろうか。漫は今まで結果を出せていないし、漫もやはりそれを一番気にしている。恭子ほど気を張りすぎてはいないだろうが、心配なところだ。
絹ちゃんは大丈夫だろう。あの愛宕プロの娘だけあって、ここ一番というところではかなり冷静で、きっちり役割も果たしてきてくれる。プレッシャーにも強そうで、少しうらやましい。
洋榎は…爆睡していそうだ。マイペースで圧倒的な結果を出してくる洋榎の辞書には、きっとプレッシャーの文字など存在していないのだろう。明日も大活躍するに違いない。
ここまで考えて、ふいに由子はくすっと笑った。
一番眠れていないのは自分じゃないか。人の心配をしている場合じゃないくらい、明日の自分の卓はまずい。清澄の能力者に加えてあの臨海まで相手にしなければならない。
いや、今は考えるのをやめて、眠ってしまおう。由子はそのまま瞳を閉じて、眠りについた。
圧倒的““““““““““文章力““““““““““←
最終話までグッダグダな文章で笑える。
えー、この話は今回で最終話です。ご覧いただきありがとうございました。
(もしかすると番外編やるかもね!?)