試合前夜   作:Lounge

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この章の執筆にあたり、アンチ・ヘイトタグを設定しました。
1章完結ですので苦手な方は読み飛ばしていただいてもかまいません。


3.白糸台(西東京)-Side A

 今年優勝すれば、すべてがうまくいく。夜のバルコニーで、弘世菫は星空を眺めながら自らに言い聞かせた。

 

 団体戦2連覇を果たし、また個人戦2連覇の宮永照を擁することでいまや日本中の注目を集めている白糸台。今大会においても、史上初の団体戦3連覇を果たすと予想されておりマスコミに最も重要視され、なおかつ最有力の優勝候補である。2軍でも地方大会クラスと称され、予選・全国大会ともに1位抜け以外の経験がない。白糸台独特の部内チーム制については、一部の学校がすでに取り入れているとも聞く。

 

 しかしそんな白糸台は、外部に練習風景などを公開したことは無い。否、公開できないのだ。

 

 麻雀にはなんだかんだと言って金がかかる。そのため、たいていの学校は後援会やスポンサーを持ち、彼らに資金を補ってもらうことが多い。この後援会の力が、白糸台では特に強い。白糸台は部員も多く、多数の雀卓を購入したり遠征・合宿を行うには学校から支給される部費程度では到底足りないからだ。

 

 後援会には資産家が集い、白糸台麻雀部のために活動資金を提供してくれる。が、もちろん彼らがタダで金を払ってくれるわけではない。彼らは金を出す代わりに口も出す。ありていに言えば、白糸台の麻雀部員は資金提供の為に後援会メンバーに「所有」され、場合によっては彼らと寝る必要があるのだ。その為に考え出されたのが部内チーム制である。

 

 白糸台麻雀部に監督は存在しない。後援会のスポンサー達一人一人は個別に部内チームを「所有」しており、年度の変わり目に部員の中から各5人を「選抜」してチームを作る。各チームごとに雀卓が1つ支給され、毎日の練習は各チームで行われる。スポンサーは各自が「所有」しているチームの監督のような存在として、チームメンバーに指示を出している。つまり、麻雀の実力なしに監督の仕事ができるのだ。また、「所有」しているチームのメンバーには、所有者はなにをしてもいいことになっている。これを目的に後援会に入っている輩もいるらしく、チームによっては明らかに実力よりも容姿でメンバーを決めているところもある始末だ。そのため、チーム編成直後に行われる部内チーム戦では、半分ほどのチームしか大した相手にならない。菫の属するチーム虎姫と、今年度の2軍チームは後援会に2人だけ在籍する女性のスポンサーが「所有」するチームなのだから、いかに現状が悲惨なものかよくわかるというものだ。

 

 菫はこの状況をなんとか打開したいと考え、月に一度開催される幹部会で、部長として後援会に部内チーム制の廃止を要求した。その結果、団体戦3連覇を成し遂げた場合、現状の改善に取り組むという約束を取り付けることができた。だからこそ、今年はなんとしても勝たねばならない。

 

 そういえば、照の妹が全国に出場を決めたと聞いた。照が動揺しなければいいが、と菫はふと思った。




読む方は簡単だけど、いざ書いてみるととても難しい。読みやすい文章を書く方ってすごいなあと思いました。

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