試合前夜   作:Lounge

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2.千里山女子(北大阪)-Side A

 今一番心配なんは、怜が保つかどうか。江口セーラは、寝床でじゃれ合っている怜と竜華を見ながら考えた。

明日の準決勝で、千里山は白糸台と戦うことになる。優勝するためには白糸台に2回勝たねばならない。

 

 セーラは、去年のインターハイを思い起こした。

 

 昨年のインターハイ、千里山は決勝にこそ進出できたものの、準決勝1位通過は果たせなかった。決勝では初めからエンジン全開で他校を突き放す、それが決勝において千里山がとろうとした作戦だった。しかし、先鋒戦の時点でその作戦は根底から瓦解した。

 

 インターハイには、得体の知れない化け物のような選手が出てくることがある。人々はその選手を、畏敬と賞賛をこめて「牌に愛された子」と呼ぶ。神代小蒔と宮永照は、確かに「牌に愛された子」であった。

 

 千里山では、エースは先鋒に配される。2年生にして千里山のエースとなったセーラはこれに則って先鋒になった。決勝ではセーラが最大火力で他校を突き放し、次峰以降が逃げ切ることで白糸台の大将であった宮永照の脅威に備える予定だった。しかしここで、永水の先鋒だった神代がそのオカルト的な力を発揮した。麻雀の神でも降ろしたのかと疑いたくなるような強さの前に、セーラはただ永水の後ろにしがみつくことしかできなかった。

 

 崩壊した作戦を立て直すべく、次峰戦で圧倒的な点を稼ぎ出した竜華とその点数を後ろにつないでくれた先輩方がいなければ、自分のせいで千里山は飛んでいたと思う。大将戦まで持ち込むことができたのは、ひとえに彼女たちのおかげだった。

 

 だから、大将戦で宮永照が出て来たとき、千里山に逃げ切るだけの力がなかったのは自分のせいだ。

 

 大将戦で、千里山を除く各校が、それぞれのなかで最も強い選手をあててきていた。これに対し千里山の大将は、当初の作戦のため防御に長けた選手だった。太刀打ちできる訳が無かった。周りが全員化け物のような強さを持っているのに、最後まで決して飛ばされること無く試合を完遂した先輩は絶賛されてしかるべきだと思う。

 

 去年の経験を踏まえ、今年は先鋒に攻防両方に長けた選手を据えることになった。このタイミングで、と言っては悪いかもしれないが、怜が倒れ、回復したときに一巡先が見えるというまさに攻防共に優れたオカルト的能力を手に入れた。そこで、春季大会のオーダーを参考に怜を先鋒、宮永照に対すると思われる大将には竜華を据えた。しかし、白糸台は宮永を先鋒にオーダーしてきた。もちろん怜は一巡先がわかるから、宮永の好き勝手にはさせないだろう。だが怜は体が弱く、無理をすると倒れてしまう。試合中に倒れてしまえば不戦敗だ、なんとしてもそれは避けたい。仮に怜がうまく稼げずとも中堅に自分がいるし、大将には竜華もいる。あまり無理はしないでもらいたいが、先鋒で食われすぎるのも困る。

 

 怜にはやはり多少の無理をしてもらうことになるのだろう。セーラは急に、明日が不安になった。


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