全国大会ともなると、やはり空気が違う。メガン・ダヴァンはベランダで、夜風にあたりながらひとりつぶやいた。
インハイが行われているのは東京都心、臨海にとってはホームグラウンドのような場所と言えるだろう。しかし、だからといって他校よりもリラックスして試合に臨めるかといえば、必ずしもそうではない、と思う。インハイとはそういうものだ。
ダヴァンは改めて、己が出場メンバーに選ばれた「理由」を考えた。
留学生をはじめとしてハイレベルな部員を多く抱える臨海で、優勝を逃した年の代表メンバーが再びインハイ出場メンバーになることはまず無いと言っていい。昨年優勝を逃しているダヴァンが再び副将としてレギュラーメンバーにオーダーされたのは奇跡に近い。しかしダヴァンの場合、異例のオーダーの理由はあまりにも明確だった。
龍門渕対策。オーダーの理由はそれだけだ。
昨年のインハイにおいて、優勝するどころか決勝にすら進めなかったにも関わらず、歴代最多得点記録を塗り替えた怪物、龍門渕の天江衣。彼女に効果的な策はただ1つ、「大将戦まで試合を保たせないこと」。昨年も副将であったダヴァンは、自分の番で試合を終わらせるべく龍門渕の副将を飛ばそうと試みた。しかし点数が30000点を切ったとき、副将・龍門渕透華が化けた。ダヴァンは彼女の変貌に驚き、とっさに他校を飛ばして試合を終わらせた。逃げたのだ。結果的に試合には勝って、臨海は決勝進出を果たし、龍門渕は準決勝敗退。だがダヴァンにとってこの試合は負け試合だった。決勝で大量失点の末に白糸台に負けたことよりも、準決勝で逃げた自分を恥じた。
次は正面から戦いたい。そう思っていたダヴァンにとって、ダヴァンを龍門渕対策に当てようとした監督の思惑はかえって好都合だった。インハイでは、地方大会の登録時に届け出たオーダーが全国大会決勝まで変更できない。だからこそ、今年も全国にやってくるであろう龍門渕に対策が必要だったし、ダヴァンもまた龍門渕透華と戦う為にレギュラーメンバーとして地方大会を勝ち抜いた。
しかし、龍門渕は全国大会に現れなかった。
明日の準決勝では、あの天江衣を倒して全国大会初出場を決めた長野代表が出てくるらしい。確か清澄高校といった。私が戦う意味はなくなってしまったが、裏を返せばそれは、龍門渕を超える打ち手と麻雀を楽しめるかもしれないということだ。
清澄と戦って勝つ。それで去年の自分をなだめることにしよう。ダヴァンは夜空に誓って部屋に入った。