まあ、とにかく。待たせて申し訳ありませんでした。
それでは東方加速録[第8話 嫉妬]をお楽しみください。
ハ(これ、バックドアだ⁈)
つまり、シアンパイルはチユリのニューロリンカーを通して梅郷中学の学内ネットに接続していた。だから、マッチングリストに名前が載らなかったのだ。このバックドアを仕掛けたのがシアンパイル。そしてチユリに簡単に直結ができる奴が犯人だ。
ハ(とにかくこのバックドアを消去してーーいや、ダメだ。きっと、シアンパイルは今もこっちを見てる。悟られない為には、今は我慢だ)
ハルユキは改めて全てのウインドウを閉じた。
チ「ねぇ、ハル」
ハ「っ!な、なんだよ」
チ「黒雪姫にハルを変える力があるなら私はもうなにも言わない。その代わり堂々と彼女になって、学校のみんなを驚かせてやってよ」
チユリの顔には満面の笑みが浮かんでいた。
ハ「ありがとな、チユ」
○次の日 通学路
ハ「僕は、最低だ……」
ハルユキは起きた時から自らを罵倒していた。その理由は昨日見た夢にある。内容は黒雪姫とチユリに危ないこと(R18の方)になりかけた夢だった。忘れなきゃと思っていても、どこかもったいないと考える自分がいて、頭の中でせめぎ合っている。
黒「やあ。おはよう、少年」
ハ「うひぇ!」
黒「なんだそれは。はやりの挨拶か?」
噂をすればなんとやら。夢に出てきた黒雪姫だった為に、変なリアクションをしてしまったハルユキだった。
ハ「あっいえ、お、おはようございます。先輩」
黒雪姫「おはよう。あー。あのな。昨日はすまなかった。ちょっと大人気なかった」
ハ「い、いえ。僕の方こそ、すみませんあんな夢ーー」
黒「夢?」
ハ「で、ではなくて。ろくに挨拶もしないで帰っちゃって」
黒「無理もないよ。友達を疑われて、しかも直結して確かめるなんてできないことを言わせてしまって」
ハ「え?してきましたけど、直結」
その瞬間、黒雪姫が固まった。すぐに歩き出したが、さっきより歩行速度が上がった。
黒「どこでだ」
ハ「家です。あいつの」
歩行速度が上がる
黒「家のどこだ」
ハ「チユリの部屋です」
黒「ほう」
また上がる。
ハ「それで、物理メモリを覗いたんですけーー」
黒「ケーブルのながさは?」
ハ「30cm、です」
黒「ふん」
さらに上がる。
すでにその速度は早歩きを超え、走る速度にまで達していた。ハルユキも慌てて追いかけるが、結局追いつけず学校に到着していた。
○学校の廊下
ハ(なんだったんだ?今朝のは」
一時間目が終わり、いまは休み時間。
ハルユキは廊下で今朝のことについて考えていた。
ハ(早く先輩にバックドアのことを報告しに行かないと)
?「こんにちは!」
ハ「うわぁ!」
いきなり声をかけられ驚きながら振り向くと、2年生を表す色のリボンを付けた女子二人と、ニューロリンカーに受診される録音中の表示。おそらく上級生の新聞部かなにかだろう。
部員1「1年C組の有田春雪君ですよね!」
部員2「梅郷リアルタイムズ《噂のあいつにヘッドショット》のコーナーなんですが。有田君が黒雪姫さんと付き合っているという噂は本当ですか⁈」
ハ「嘘です。デマです。事実無根です」
即答する。それでも引き下がらない新聞部員。
部員1「ですが噂によればラウンジで二度に渡る直結、さらに喫茶店でも直結デートをしていたそうですが!」
なぜそれを⁈と思うハルユキだが、ここでうまくごまかさないと、取り返しのつかないことになってしまう。通常の三倍の速度で頭を働かせ、答えを導き出した。
ハ「えーとですね。僕、ニューロリンカーのOSとかに詳しくてですね、先輩のニューロリンカーの調子悪かった部分を直しただけで、喫茶店はそのお礼ってだけです」
部員2「むう」
あまり納得してはいないが、反論もできないといった表情の部員たち。もう一押しだ。
ハ「だいたいですね、僕といるときのあの人の態度を見れば判るはずです。話してるとすぐに怒っちゃって。それで付き合っるっていうのもおかしいでしょう」
部員1「中良さそうにしか見えなかったけど」
ハ「本当ですよ!朝もだって話してる最中に怒って行っちゃいましたし。チユリ、えーと倉嶋の話をしてるといつも怒ってしまって………」
部員1「倉嶋?確か校門のところで言い合ってたって……」
新聞部員の二人はいいながら指先を走らせると、ハルユキの視界からも録画アイコンが消えた。
ハ「取材はおわりですか?」
部員2「うん。というか……」
部員1「本当のところ私たちも何かの間違いだろうって思ってたんだけど………」
そう言うと二人はぐっと顔を近づけてハルユキにしか聞こえない声量で囁いた。
部員1「ねぇ、有田君。まさか、黒雪姫と君って……本当にそうなの?」
ハ「なんでそうなるんですか!」
部員2「だってさ、他の女子の話をしたら不機嫌って……」
部員1「どう考えても………」
部員1・2「「やいてるんじゃないの?」」
○男子トイレ
あれから午前の授業を放心しながらもこなし、現在昼休み。すぐにトイレの個室に駆け込み考え事をしていた。内容はもちろん黒雪姫の事。やいてると言う言葉の意味を考えていた。いや、実際は分かっていた。「やいてる」は「妬いてる」と書くということは。分かっていたが、認められなかった。いままで期待しては二倍三倍の苦しみになって帰ってきたのだから。
ハ「嘘だ。嘘だ。嘘だ。嘘だ」
言い聞かせるように連呼する。だが、それと同時に思い出す黒雪姫の行動、表情、言葉。
あの時もあの時も、あの人は本気でーー
ハ「…………嘘だ‼︎」
右手で壁を殴る。
ハ「なんで……なんでだ………」
黒雪姫はなんでも持ってる。容姿、頭脳、身体能力、人望。そして、僕の最後のプライドである仮想世界の反応速度さえ。あのスカッシュゲームのスコアが証拠だ。なのに僕はいいところなんか一つもない、嫌われ者だ。
ハ「なのに……なんで僕なんだ。………どうやって、信じろって言うんです……。」
○放課後 校門前
あの後ハルユキは淡々と午後の授業をやり過ごし、校門へ歩いていた。そこに黒いシルエットが見つけると、足を引き摺りながらそこへ向かう。
黒「……やあ」
ハ「………どうも」
黒「……歩きながら話そうか」
そこにいた黒いシルエット、黒雪姫ときごちなく挨拶を交わし、黒雪姫より少し下がったところで歩き出す。
黒「その、すまなかったな。朝は。少し大人気なかった」
ハ「別に。気にしてないから大丈夫です。」
黒「ならいいが。……自分でもどうかしてるとは思うんだが、シアン・パイルの話に関しては、私も冷静ではいられなくてな」
黒雪姫の言葉をハルユキは乾いた声で返した。
ハ「そのシアン・パイルの事ですが、倉嶋との関係性がわかりました」
黒「……え?あ、あぁそうか。その話は直結でしよう。誰かに聞かれるとコトだからな」
黒雪姫はUSBコードを、いつものポケットではなく、右手に下げたカバンから取り出した。その長さはいつもより1m程短かい1mだった。
黒「あー、そのな。昨日まです使ってたやつはムカムカしてたせいで断線させてしまってな。待ち合わせがなくてこれしか買えなかったんだ」
そのケーブルは、購買で売っている中で最も短い物で、ハルユキは意識してその事を考えないようにしながらケーブルを自分のニューロリンカーに刺した。ワイヤードコネクト警告が現れ、消えると同時にハルユキは、黒雪姫が何か言う前にさっきと同じく乾いた思考を送る。
ハ『倉嶋はシアン・パイルではありません。シアン・パイルは倉嶋のニューロリンカーにバックドアを仕掛け遠隔から梅郷中のローカルネットに接続していたんです』
しばらくしても黒雪姫から返事はなかった。やがて聞こえてきた声はほんの少し怯えを含んでいるように聞こえた。
黒『………君、どうかしたのか?さっきからちょっと変じゃないか?』
ハ『別に。どうもしません』
黒『………もしかして、怒っているのか』
ハ『まさか。そんなことより、もっと大事な話をしましょう』
重い静寂が二人の間にただよう。頑なに視線を黒雪姫に向けず、ハルユキは黒雪姫の返事を待った。
黒『………証拠はあるのか?』
聞こえてきた黒雪姫の声はさっきとは打って変わり、冷たい声だった。その声にハルユキは、さっきと変わらず乾いた思考を返す。
ハ『手を出したら気づかれる可能性があったので、確認だけです』
黒『冷静な判断だが、説得力も失っているぞ。バックドアを使った遠隔接続など、この私でも聞いてことがない』
ハ『つまり僕が、バックドアの話を捏造し、シアン・パイルの味方についた可能性を考えているんですか。それはもはや証拠どころの話じゃないですよね。どう判断するかは、先輩が自分で判断すればいいことです』
黒『………本気でそんなことを言っているのか?』
不意に黒雪姫が立ち止まり、とても冷たい声が響いた。ケーブルが張り詰める前に立ち止まるハルユキに、黒雪姫の声が響く。
黒『君がシアン・パイルに寝返ったと判断した瞬間、私は君を狩るぞ。それを理解して上で言っているのか」
ハ『何なりとご自由に。僕は貴方の手駒。使われるだけの道具。いらなくなったら捨てればいい』
突然、ハルユキの左肩に手が乗る。初めて黒雪姫の顔に目線を向けると、そこには硬く張り詰めた顔があった。だが
その目だけは強い感情が燃え上がっているようだった。
黒『君は、やはり怒っているのだな。確かに、私も至らなかった。だが、私も感情全てをコントロールできるわけではない。特に、君と倉嶋君のことに関しては………。つまり私は……私はーー』
ハ『もうやめましょうよ』
黒『え⁈』
ハ『見てる方も辛いですよ』
黒『何を言ってるんだ。どういうことだ』
ハルユキは視線を舗装タイルに向けて、昼間に考えついた、《唯一の結論》を思考にして送った。その言葉か、取り返しのつかないことになると自覚しながら。
ハ『貴方は、自分のことが嫌いなんでしょう?』
鋭く息を吸い込む音が聞こえた。だが発せられた思考は止めることはできなかった。
ハ貴方は完璧すぎる自分のことが嫌いなんだ。だから、こんな僕に好意のようなものを示して、自分を汚そうとしている』
左肩に乗っている手はとても強張っていた。これが最後の触れ合いだろうと思いながら、全てを破壊する最後の言葉を放った。
ハ『そんなことしなくても、僕は貴方の言う通りに働きます。代償なんてない、ただの手駒。命令されるだけの道具。それが僕には相応しいって、本当は貴方もわかってるんだ!』
ゆっくりと肩から手が離れる。
それでいいんだ。
もう二度と触れず、視線を合わさず、僕をただの道具にしてくれればいい。
その想いが、黒雪姫に伝わったかどうかは、ハルユキには分からなかった。さようなら、と最後につぶやこうとした瞬間、
鋭い痛みが、頬に弾けた。
それと共に、涙に濡れた叫び声が聞こえた。
黒「ばか!」
驚愕してハルユキが視線を向けると、そこには涙で顔を濡らしてハルユキを罵倒する黒雪姫の姿だった。その声はいままでの大人びた声ではなかった。年相応の、14歳の少女の声だった。
それを見たハルユキは、目を見開いて立ち尽くすことしか出来なかった。
先の言葉が、黒雪姫のことを傷つけることは分かっていた。だが、黒雪姫なら、全てにおいて完璧なこの人なら、ハルユキを嫌悪し、愛想をつかして心を離れさせるだけだと思っていた。
なのに、こんなに泣くなんて……。
こんな、こんなはずじゃ………。
ーーー直後、金属が金属を削るような、いや、あるいはそのものの様な凄まじい轟音が、響き渡った。
驚いたハルユキが音のした方、道路に目線を向けるとそこには、一直線にこちらに突っ込んでくる、白い乗用車の姿があった。
END
いかがてしたでしょうか。
特に原作との変化もなく、知っている方は見なくても問題ない部分です。
ですが!次回はかなり原作改変を入れる予定です。
待ちに待った時が来たのだ。この作品がAWと東方のクロスだと言うことの証のために。ハーメルンよ、私は帰って来たぁぁぁ!
と言うわけで次回はいつ上がるか分かりません。何も言いません。ですが、無断で更新停止はしません。私のポリシーに反しますから。
では、また次回で会いましょう。