Muv-Luv Unlimited Base Shielders 作:しゅーがく
今回より佳境に突入します。
「事の詳細について説明する。」
摂津に居た頃とはかなり違っていて、それぞれの役割毎でブリーフィングを行う形式で全体ブリーフィングが開始された。今回が初の基地防衛戦であるが、その請け負った任務、第13機械化歩兵中隊以下第7、8、11、15、21機械化歩兵中隊及び、2個戦車師団、4個警備中隊が同じ命令を受けていた。
『基地全面に展開し、戦術機部隊の取り逃がしたBETAを殲滅せよ。』
こう言った命令は機械化歩兵部隊や戦車部隊に回るのは日常茶飯時だが、基本戦術的に機械化歩兵が圧倒的に数が少ない。通常ならば今回の迎撃ならば3倍相当の戦力が必要なのだ。
だが、新設の基地で着任が今も続く現状、足りない状態での迎撃は承知の上なのだろう。
情けなのか付近の基地から援軍として1個戦車師団と5個戦闘ヘリ中隊が到着しているが、基地防衛線の最前衛である戦術機は現在敦煌基地に到着しているだけでも大体、6個中隊相当。今回のBETAの攻勢が約1個大隊単位での襲撃だから、そこまでだとは言えるが、余裕があった方がいい。そう考えると、足りてないのだ。
先の補給基地防衛戦で2個戦術機中隊を派遣した基地からは、長距離ロケット支援ならするという事。明らかに基地防衛で少なかったからといって舐めてかかったから引き腰になってしまったのだろう。
「我々が戦術機のおこぼれを貰うのは、基地の前衛60km手前だ。」
スクリーンに地図と基地の位置、現在確定している部隊の配置が表示された。
「今回、機械化歩兵中隊は3個中隊で1個大隊を形成し、大隊単位で守備に勤める。戦車師団は通常通りにお願いします。」
「了解しました。」
「1個戦車師団は借り物だ。BETA殲滅時に半分になって返すなんて無いよう、常に戦車師団と機械化歩兵大隊は行動を共にする。」
戦車師団と機械化歩兵部隊が行動を共にするという言葉で、ブリーフィング室がザワザワとし始めた。それも仕方ない。この戦術機も異例なのだ。明らかに足の速さでは戦車は劣っている。そんな鈍足の鉄の『塊』と共に行動する意味が理解できないのだ。
「では、準備出来次第出撃!基地を死守する!」
「「「了解!」」」
今回の部隊を指揮する指揮官からの配置や動きについて聞くと、ちりじりになってそれぞれの部隊で準備を始めた。
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『今回の配置について質問はあるか?』
機内ブリーフィングを終えた後、皐が中隊に質問はあるかと聞いた。いつも通りだったが、圭吾は作戦に対して少し不信感を抱いていた。
(中隊単位での防衛戦構築じゃないのか?大隊単位で戦車師団も随伴って何かおかしい。)
そう思えて仕方がなかった。
その不信感は全員が持っていて、中隊長である皐も思っていた事だった。
『質問宜しいでしょうか。』
沈黙した作戦ブリーフィングで声を挙げたのは、巽だった。その表情は摂津に着任した時から大分、表情がしっかりしている。圭吾とは、敦煌基地転属からずっと話してなかった。話す暇も無かったのだ。
『嵩音か。いいぞ。』
『何故、戦車師団との混成部隊を司令部は編成されたのでしょう。』
皆が聞きたかった事を巽は皐にぶつけたが、その編成に関しては皐も詳細どころか趣旨すら知らされていなかった。
『司令部の意向は私にも分からん。答えられん。』
『では、同じ任の警備中隊の配置は?』
『司令部周辺の重要施設内部の警備だ。』
巽以外は質問をせずに、作戦ブリーフィングが終わってしまった。
結局、戦車師団と共に行動するのが、考えられない上、同じ任の警備中隊が後衛の司令部付近配置なのかが少し理解出来なかった。
『我々は、1個機械化歩兵大隊1個戦車師団が集結し次第、部隊を3つに分けて、800m置きに配置する。全機、集結地点まで移動開始だ。』
『『『了解。』』』
小隊毎で集結地点に向けて、次々と基地から飛び立った。
眼下に広がる基地の様子は到着したばかりの時よりも違った意味で慌ただしかった。格納庫から途切れる事なく吐き出される戦車や装輪装甲車、自走砲、輸送トラック、歩兵部隊。見えなくなるまで、これは途絶えることが無かった。
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『第2大隊及び、1個戦車師団、配置に着きました。』
『了解。指示があるまで待機。』
既に空は暗くなり、使えるのは音震センサとサーマルサイト、戦域データリンクだけだ。
はるか彼方では何かが炎上していたり、時より爆発が起きたりしている。
圭吾はオープン回線でのCPと前衛の部隊との交信を聞いていた。
前線は悲惨な状況とまではいかないが、動けなくなった戦術機が全体の8%を占めていて、更に10%が突撃級や要撃級、光線級の餌食になってロストしているという情報が飛び交い、所によっては部隊が壊滅しているところも出ている様だ。
「穴が開くのも時間の問題だな。」
圭吾はボソリとそんな事を呟いた。
『そうね。場所的には第2大隊の方だけれど、一応連絡入れる様に大尉に掛け合ってみる?』
不意に話しかけたのは、同じ小隊の佳奈だった。
「いや、大尉も分かってると思うし、第2大隊の連中も気付いてると思う。」
圭吾は引き続き、CPと前衛とのやりとりを聞いた。
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『第21機甲大隊よりCP!部隊の半分が喰われちまった!砲撃支援要請!座標はB.1.F.5.77だ!』
『CPより第31機甲大隊。座標復唱、B.1.F.7.77着弾は2分後だ。』
『感謝する!』
ピピッ
『ダガー1よりCP!ザルになって後衛に小型種が流れちまった!後衛に連絡頼む!』
『CP了解。』
ピピッ
『ストーンエッジ3よりCP......。』
『CPよりストーンエッジ3!どうした!バイタルが表示されていないが。』
『ひひっ......俺以外全滅だ。俺ももう......、ぐふっ......フレームが歪んちまってる。ベイルアウトも出来ない......。拳銃も持ってないんだ......。』
『くっ......。司令!前衛に穴が開きます!分かった。支援砲撃で貴官に群がっている奴らを『吹き飛ばす』。着弾は4分後だ。』
『ありがとう......。』
ピピッ
目の前に見える炎や粉塵の中で起きている事が、手に取るように分かった。既に、前衛の戦術機部隊の2/3を損耗し、前衛に出ていた戦車部隊、自走砲部隊、戦闘ヘリ部隊は戦域マップに表示されない始末。これが本物の戦場なのだ。BETAからしてみれば、圭吾が言う戦場もただの食卓になってしまうのだろうか。そう考えてしまった。
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『全機警戒!前衛の撃ち漏らしがこっちに接近している!戦車師団は部隊を2分し、前後に別れて、射撃!機械化歩兵部隊は中隊単位で戦車の撃ち漏らしを殺る!』
『『『了解!』』』
耳を澄ましてマップとオープン回線の会話を聞いていた圭吾に突然、皐の声でそういう命令が下った。
既に戦車は前後に別れ始めていて、機械化歩兵部隊は中隊単位で集結していた。
『13C各機!小隊単位にて密集戦を取る!擲弾の使用を控えよ!!』
『『『了解!』』』
更に13Cに皐から命令が下った。
『CPより第13機械化歩兵中隊。後方に支援コンテナを設置した。使ってくれ。』
『13C了解。』
既に前衛の戦車隊は砲撃を始めていて、前方には砂塵が上がっていた。BETAだ。
『第1大隊各機。柔軟にBETAに対応せよ!全機擲弾を節約せよ!』
『『『了解!』』』
付近の機械化歩兵が順次に12.7mm機関砲を撃ち始めた。目の前には、夜なせいか、発射された弾頭が赤くなり、弧を描いているのがよく分かる。
次々と小型種に弾が吸い込まれていき、血飛沫を撒き散らしている。
だが、中々生き絶える個体はいなかった。
「くっ、中々減らない!」
『それは戦車級ばかりだからよ!闘士級は倒せているわ!』
赤い個体、戦車級は中々息絶えないが、白い個体、闘士級は直撃した部分を中心に弾け飛んだりしていた。
『13Cより戦車前衛各車へ!戦車級中心に砲撃だ!』
『了解!』
砲撃が分厚い肉の壁中心に狙っていた戦車部隊が、戦車級の集団に砲撃が向くように攻撃転換した。
『キリがないぞ!全線の戦術機は気抜けてるのか!?』
砲撃戦が始まって数分。戦車兵から不満が出始めていた。
それもそのはずだ。戦車には戦域マップが紙で出来た地図しかない。圭吾らの見ているマップには味方を表す青いアイコンが戦闘開始時の時よりもかなり減っていた。
戦術機部隊は既に残存機数が2個小隊分しか残っていなかった。
他の機甲部隊も10%残っていればいいところで、現状、後衛の第1、2大隊が丸々残っているだけだった。
『773号車よりアトラス1!前衛の部隊の状況は!?』
『アトラス1より戦車部隊各車へ。現在、前線の戦術機部隊は2個小隊まで損耗。機甲部隊は全滅だ。繰り返す!戦術機部隊2個小隊残存、機甲部隊全滅!!』
『嘘だろ......。』
その知らせは、残っている大型種の相手もしなくてはならない事を意味していた。
戦域データでは大隊規模だったBETAはもう殆ど小型種しか残っていないが、広い戦場故、浸透攻撃されたら少数でも壊滅してしまう。
『肉薄され過ぎだ!戦車前衛交代する!!』
『11C、戦車隊の援護に回る!!』
第11機械化歩兵中隊が殿の為、前に出たと同時に光線が辺りを包んだ。
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