《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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Re:急展開

「ほら、予言通りになっただろう?」

 

 自分ではそう言うしかないが本当にどうしてそうなったかわからない。監視室にたどりついた俺たちはモニター越しに飛行する高速道路と空を飛ぶヒニル君、バーべキューになる『十字軍』、裏切りの『雷鳴』を見ていた。スピーカーからは現場の音声と『SOD』の通信が同時進行で起きており滅茶苦茶が発生しているのが無理やりにでも理解させられる。スペース社長は「この精度だと……化け物が」と恐怖したような表情をしているし奏多は尊敬と崇拝を感じる視線を向けてきていた。違います、全部あいつらの仕業です。

 

 因みに何故こんな場所に侵入できているか、テロリストに真っ先に占領されてそうな場所ではないかと思うかもしれないが、この監視室は敵からバレにくく、しかし万一の時に迷わず調査ができるよう初めから扉が造られていない。超能力もしくは通信によってのみアクセスすることが前提の部屋でありそんな場所がテロリスト達にわかるわけもなかった。まあ俺たちはカナの案内によって壁を破壊して入ったんですけどね。

 

「怒っているだろうなアイツ。まあ引きはがすには丁度いいタイミングだった」

 

 そう言うテオは落ちていた拳銃を少し戸惑いながらポケットに仕舞う。その横では唆した主犯のカナがクスクスと笑っていた。おい極悪小学生、戦場で手持ちのエロ本朗読される可能性が出てきた『海月』の身にもなってみるんだ。

 

 しかし上手くいきすぎだろ、と思っているとカナはそっと他の人には見えないように端末を見せてくる。そこに書かれているのは構成員の一覧と活動記録、敵の退路を詳細に書き込んである3次元マップ。……ああ、退路を断つのも探知手段も全て把握していたから無理やり合理性があるように取り繕えたのか。ここまで対策されているのは本当に哀れとしか言いようが無い。

 

 そんなわけでテロリストさんがこちらにいらっしゃるわけですが何もしないわけにいかないのでテオの方に向き直る。拳銃は未だに突きつけられたままなので少し怖いが無視無視。

 

「さて煽ったところでどうするんだ?」

「分かってるのに聞くなよオレンジ。追い込みをかけるんだろ。『雷鳴』も裏切り『十字軍』も行動不能、『SOD』も半壊。だが時間をむやみにかけて警察に介入されると極めて面倒なことになる。だからお前を釣り餌にして残党を一か所に纏め駆除するわけだ」

「リスクよりも時間を取る。この状況でそれができるとは流石予言者様!」

「う、うんそういうわけだ」

 

 テオの返答と目を輝かせる奏多にちょっと気後れしながら答える。え、この状況から命を懸けるの? もう安心しきってここで待機するフェイズだと思ってたんだが。Apollyonがある時ならまだごまかしが効いたけど生身の状態で効かない以上戦闘なんてしたくないんだけど。

 

 そんな話をしている俺たちを見てスペース社長は諦めたように手を挙げる。その合図とともに静かに俺に突きつけられていた銃口が落ちる。

 

「このまま突きつけていると私たちもバーベキューなのだろう?」

 

 多分違うと思います。まあ違ったとしてもこの調子だと紅葉が無理やりこじつけそうではあるわけであり、まあ適当に頷いておくこととする。そうしていると監視カメラに車も追い越しそうな速度でエロ本暴露を止めようとする女の姿が映る。俺を狙って一発逆転を目論んでいるのは勿論わかっているんだけど、もうそうとしか見えない。

 

「じゃあいくかオレンジ。他に戦えるのはそこの獣人の娘くらいか。よし、他のメンバーはここで待ってろ。オレが道を開く」

 

 そう言うと俺の腰をぐいっと引っ掴んでテオは片手で体ごと持ち上げる。空いた右腕で監視室から少し出たところの床を切断しそのまま1階に降りる。浮遊感と有無を言わさず戦場に叩き込まれたことに驚く。そこは本人の許可を取ろうよ、一生安全な部屋で隠れていたいという感情があるかもしれないだろ予言者様にも。

 

 俺たちが降りてきた穴から後を追ってカナも降りてくる。彼女は周囲を見渡しながら「2人、18秒後」と呟く。

 

 辺りは酷いものだった。Apollyonの部品を展示していたはずのこのホールは銃弾の嵐でズタボロにされておりポスターの文字を読み取る事すらできやしない。案内看板が虚しく廃墟と化した内部を示しているのを見て胸糞が悪くなる。ロボットを展示しているホールに対してこれはだめだろ。

 

 若干見当違いな部分で心を痛めている俺を横にカナたちは話を続ける。

 

「2人? 少ないな」

「逆です、こちらに向かってきているのを鋼光社の人造人間と獣人が各個撃破しています。目的地がわかっていれば張り込みも容易ですからね」

「なるほど、それを抜けてきたのが二人か。一人は『海月』だろうがもう一人は?」

「そちらはお義父様が対応しますのでご心配なく」

「それは期待大だ」

 

 期待されても困るんだって。漫画の主人公でもあるまいし一般人がそんなに活躍できるわけないんだよ、とポケットにある手に馴染んだ金属塊を握りしめる。紅葉が用意したこれがあるとはいえ、Apollyonのようなアシストがあるわけではない。こんなもので勝てるのだろうか。

 

 そう考えていると時間ぴったりにホールの向こうから金色の影が現れる。傷だらけでありながらその輝きを失わない目は殺意を俺に伝えてくる。『海月』が俺に近づくのを遮るように立ちはだかるのはテオ。その指からは分厚く長い、爬虫類の金属爪が生えている。

 

「どけ!」

 

 『海月』の触手が幾何学的な軌道を描きテオに迫る。5メートル以上ものリーチがあるそれは接近戦においてはきっと無類の強さを誇るのだろう。触手の速度は銃弾かと見間違うほどであったがしかしテオには届かない。爪がそれより早く閃き傷だらけのそれを切り刻んでいる。テオは悲しそうな表情で間合いを詰めていく。

 

「どうして民間人を巻き込むんだ、クーちゃん。何度Verが変わっても聞こえてくるのは『SOD』が戦争を主導し人を殺す姿なんだ。その中心にはお前がいる」

「……そこをどけ」

「どうしてだよ、教えろ」

 

 なんか聞き覚えのある会話である。そうだ、融合型Apollyonの群れに囲まれた時のやり取りと近いんだ。ならテオを弁護してやろうと横から口を挟む。

 

「テオのことが好きだからだってよヒューヒュー!」

「……」

「……」

「え、空気読めてなかった?」

「お義父様、多分20年後の彼らから聞いた話なのでしょうけど、それは時間が空いたから口に出せるくらいまで消化できていたわけです。一方今は若い、感情を整理できていない状態です」

「つまり」

「挑発は一人前ですね」

 

 微妙な空気が流れる。二人とも攻撃の手が止まり、お互いの顔を見ては少し顔を赤らめ視線を明後日の方向に反らしてはそれではいけないと慌てて元に戻す。うーん、青春。

 

 だが無慈悲に戦いの終わりは訪れる。意識が逸れた瞬間にぱしっと乾いた音が鳴りひびき銃弾が『海月』の脚を貫通する。そう、どこまでいってもこれは民間人を巻き込んだテロであり、故に加害者は容赦なく潰される。崩れ落ちる『海月』のもう片足にも銃弾が突き刺さり無情に勝負は終わりを告げた。

 

「あと一人だったか」

「そうですねそろそろ足元を撃ってください。はい3,2,1,」

「ちょっ」

 

 テオたちの戦いを悠長に見終わるのを許さずカナがいきなりカウントダウンを始める。コクピット内に隠されていた武装、『HAO』内で見覚えのある銃を取り出す。『獣殺し』と呼ばれる予定の銃だ。単発式のこの銃をカウントに間に合うよう慌てて構える。

 

「0」

「おらっ!」

 

 急かされて撃ちはしたものの改良を施されているのか前使った時より遥かに反動が少ない。騒音は相変わらずで耳が痛くなるもののその馬鹿げた威力の銃は地面を無理やり削り取り地下奥深くまで貫通していく。少しした後野太いおっさんの「ぐぁぁぁぁ! 右足がぁぁぁ!」という悲鳴が流れてきた。痛い箇所を自己申告できてるあたり生存はしていそうで少し安心する。

 

「『土竜』退治完了です」

「なあ、なんでこんなバカげた銃渡してきたんだアイツ?」

「私で護衛が足りていることは前提だったので威嚇用ですね。こんな風に使うとは想像されていなかったと思います」

 

 なんというか締まらないオチである。言われてみればそりゃそうなのだが一般人である俺がテロリスト相手に無双! なんて出来事が起こるわけがなく、徹底した準備と武力により淡々と処理されていったという印象でしかなかった。これが『焦耗戦争』の末路。イカれた過激派どもを一点に纏めて早期に叩き潰すことにより後続を断つという紅葉の作戦。本当に3日で終わった戦争と言うには余りにも規模が小さい戦い。

 

 

 

 

 その2日後。ニュースは新技術展示会で起きた銃撃事件一色であり被害者への同情や悲しみの声、社会への不安を語る声が相次いでいる。

 

 とはいっても俺にはあまり関係がない。いや、正確にはあるのかもしれないがあの戦いのあと「いるのバレると面倒だから」という理由で裏口から脱走していた俺がやるべきことは家の中でコソコソ隠れていることなのだから。 

 

 因みにニュースだと『十字軍』が全ての原因みたいになっている。まああんだけ過激だった上に余罪まみれだったらしく、スケープゴートには最適だったようだ。

 

 そこらへんの関係で忙しいのかレイナと紅葉は一瞬通話したきりで終わってしまっている。カナは護衛がてら家に遊びに来るものの、特に紅葉には聞きたいことがあるので凄く焦らされているような気持ちになってしまう。

 

 まあそんなわけで非日常は過ぎ去り日常が戻ってくる。捕まった『SOD』がどうなったか、未来はこれからどう変化していくのかなぁとぼんやり想像していた所で俺の端末に1通の通知が届いた。

 

《お知らせ 『HAO』がアップデートされました!》

 

 おお、早速未来が変わったらしい。『HAO』が未来であると知ってから初めてのバージョンアップデート。46式を煽ったことといい、適当な予言で戦場が滅茶苦茶になってたことといい、それらがどう影響するのか楽しみだ。

 

 早速VR機器を頭に取り付けいつもの画面からログインする。そしていとも簡単に俺は出会ってしまった。アップデートの終わった『HAO』にログインした先に広がる世界。俺たちの20年後の未来、予言者とその仲間たちの行動の結果。

 

 そこに広がるのは街1つない、灰色の大地。その上に俺は立っていた。ver1.06すら生温く思える文明の息吹を感じない世界。

 

 以前思っていたことだ。知らなかったらどうしようもない。しかしもし知っていて、行動を起こした結果未来が悪い方向に向かったらどう思えばいいのか。その時に犠牲にした人間に対して何を言えばいいのか。

 

 世界に建造物はなく無数の融合型Apollyonと機械獣の死体が転がっている。金属の臓物と青の液体が消えずに残る死の世界。俺が『HAO』にログインした時に視界に入ったものがそれであり、待ち構えていたように立つ見覚えのあるかつては緑髪であった女性は憎々しげな表情で俺を睨みつけてきていた。ああそうだ、期待を裏切ればこうなるだろうよ。不老化技術を適用することすらできなかったのだろう、随分と老け込んだ奏多は少し考え込んだあと口を開いた。

 

「随分と重役出勤ですね、偽予言者様?」

 

 ーーもし俺がバトロワで46式始源分裂体に手を出さなければ、皆まだ生きていただろうに。

 

 

 

『Ver-2.00にアップデートされました。

 ・始源分裂体の早期活動開始により人類は大きな被害を受けました。

 ・宇宙への脱出に失敗しました。

 ・現在人類が使用可能な拠点は存在しません。全て破壊されました。

 ・肉体を構築するために使用可能な有機物が極めて限られています。原則ログインは不可となります。

 ・2050年の破滅は回避されていません。

 ・2055年の作戦は戦力不足により実行を検討することすら出来ませんでした』 

 

《4-2章『Ver-2.00』Re:20年先から君へ》  開幕。




というわけで『焦耗戦争』(超劣化)の終了です。次話で情報整理の掲示板回を挟んだ後数話ローテンションな話が入りその後からクライマックスに突入です、お楽しみに!

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