《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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茶番

「この状況? 別に一部を除いて順当やと思うで。怒りのままに突っ込んできたテロリストと万全の準備をして待ち構えていた警備側」

「じゃあ何で高速道路が飛んでるんだよ! あとさっき凄い悲鳴を上げながら宙に飛んでたのは何なんだよ!」

 

『雷鳴』の隊長の言葉は最もである。瓦礫の中に立っているメンバー全員が全く同じことを思っていたのは言うまでもない。大統領補佐官、護衛、『雷鳴』、『海月』。そして言うまでもなく紅葉もである。勘次が叫んだでたらめをまるで本当かのように再現しなければならないが故にどこの高速道路を破壊するか、どうやってフライングヒニル君してもらうかで悩み続けていたのだから。

 

 こんなこと言い出すなら通信機なんてつけるんじゃなかったと思いながら紅葉は右腕をぶらぶらと揺らす。その腕はもはや箸や茶碗を握るためのものではない。指だったはずの箇所に5つの銃口が出現している。戦闘用の銀に光る義手は手袋から解き放たれその輝きを太陽の下にさらしており、ガチャリという音と共に銃弾の再装填が完了する。

 

 紅葉の姿を見て忌々しそうにするのが『SOD』所属の『海月』だ。その長身は『HAO』内の彼女より遥かに大きく見える。単に栄養不足や再生に失敗して背が縮んでしまったのか、あるいはその大きさすら超能力なのか。周囲に傷を負った触手を漂わせる彼女に問いかけが飛ぶ。

「『海月』、何があった」

「鋼光社メンバーと会敵、戦闘を行った。……がこちらが不利だった。改造人間の優秀さ、特にこいつの戦闘力を侮っていた」

『雷鳴』の隊長に『海月』は顔をしかめて答える。その言葉を象徴するかの如く紅葉の体には傷がない。疑似的な『同期』を何度も行った結果だと知る者はこの場にはいなかったが、その見た目と経歴に反した実力に『雷鳴』構成員はどよめく。事前の顔合わせで『海月』の実力は知っていた、だからこその反応。彼らの間に通信が鳴り響く。『SOD』達の端末と、そして()()()()()()()()()が。

 

『こちら『猛犬』、『蜻蛉』が落とされたため以降は私の嗅覚が探知の基準となる! 現在白犬レイナとラック、Apollyonの3者が交戦中! オレンジとスペース社長の匂いは継続して北側の地下から続いている! 『雷鳴』の半分と『SOD』はそちらに向かって進行中、残りは南ホールにて集結、鋼光紅葉と大統領補佐官の匂いあり!』

「優秀やね、そちらの探知能力者」

「……初めから盗聴されていたのか。その様子だと探知能力についても知っていたな。流石は予言者」

「知ってたで。だから地下に穴掘ってたし、『土竜』に無双されへんように地面に地雷を仕込んどいたんやから」

『こちら土竜、地雷に巻き込まれてまだ地上近くまで到達できていない! だがもう少しであっ』

 

 通信機の向こうから爆発音が聞こえる。もう大統領補佐官は何を言えばいいのか分からず目の前で進行する事態に目を回している。時間稼ぎも兼ねて鋼光紅葉は敵だらけのこの状況で大仰に手を開いた。

 

「まあ簡単に説明すると彼らとうちらは方針の違いで揉めてるんや。つまり『HAO』を用いて未来改変をするか、しないかで。彼らは利益やったり教義やったり、あるいはうちらの行動が眠る分裂体を刺激して世界を滅ぼされては困るって考えやったり迫害の恨みやったり。色々言ってるけど要はうちらが迷惑なんよ。対してうちらは『HAO』活用してちゃちゃっと全部終わらせようとしているわけや」

「不可能を言うな。貴様らの所の獣人も感じたはずだ、神の子の悲鳴を。地球全土に拡散する目覚めの咆哮を。もう終わりだ、我らの策さえなければ」

 

 紅葉の話を聞き吐き捨てるように『海月』が返す。目覚めの咆哮と言われて大統領補佐官はバトルロワイヤルの分裂体の叫びを思い出す。だがそれが全土に? 思考が追い付かないまま彼は話に耳を傾ける。『海月』は紅葉に対して突きつける、己の答えを。

 

「だから『胎異転生』を用いる。この方法を用いて神の子そのものを箱舟に変化させる。簡単に言えば神の子に酸素発生プラントや有機物を生み出す機構を模倣して頂くことによりその背中に住めるようになる。あとは神の子が生み出した獣たちがその因子を継げば自然と大地は酸素と自然にあふれた世界が取り戻せる!」

 

 その計画は彼らにとっての切り札だった。『革新派』の計画では地球は未来永劫灰色のままだ。だがこの方法であれば大地の覇者に戻る事は出来なくても人類は地球の一員として生きることが出来る。大地を耕しマスク無しに酸素を吸えるのだ。遥かに良い未来を提供できる。そう自信満々に語る彼女を見ておそらくその方法は実行可能なのだろう、と何となく紅葉は思う。『UYK』への知見と言う意味では彼女たちは自身の知らない情報や実績を握っているだろうから。

 だからこう答えるのだ。

 

「それはどうでもええねん」

「は?」

「いやだってやで、それやと人いっぱい死ぬやん。分裂体の背中に乗れる人の数なんて限られるやろ? 理想はな、世界の人がほぼ気が付かずに終わる事やねん。命を失う人は少なければ少ない方が良い。やからな、もう少し説明するわ。──()()。来週に『UYK』は死ぬ」

「だがそれが出来たとしても神の子が!」

「せやな。だから()()()()()()()()()。『UYK』も分裂体も全部殺せば問題は解決するやろ? それが予言者の作戦や」

 

 沈黙が流れる。『海月』もまた紅葉がそれを実行できると確信していることに気が付いたが故に。既存の技術のみでそれを可能にできると信じているのだ。その余りにもの不遜さに言葉を失っている『海月』に対して『十字軍』の先頭に立つ傷だらけの神父服の男はじれったそうに頭を掻き、その杭を紅葉の頭に突きつける。

 

「その通りです。我らもまた、あなた方を殺害すれば全てが解決する」

「違いないわ。じゃあさっさと終わらせるで」

 

 その言葉と共に3つのアクションが発生する。一つは紅葉の背後に空から飛来し着地する紅いApollyon。続いて入る通信。

 

『『猛犬』より緊急連絡! オレンジの匂いが北ホールの地上部に出現! またラックが敗北、そちらに仲本豪が接近! また先程の高速道路の衝撃により退路である地下通路が埋まったとの報告あり!』

 

『海月』は最悪の事態に額に汗を滲ませる。これで第2世代獣人がフリーになってしまった。さらには逃走先すら塞がれてしまっている。そのための高速道路か、地下通路を予知した上でそこに高速道路を落下させ破壊。やられた、と思った所に汗を増やす要素が飛び込んでくる。

 

 ぴんぽんぱんぽーん、と聞きなれたアナウンス音が間抜けに響き渡る。館内放送に使われる音質の悪いスピーカーから彼らが追い求めてやまない憎き敵の声が響き渡った。

 

『えーオレンジより迷子の連絡です。えぐいエロ本を2段目の引き出しにお持ちの『海月』様。3分以内に北ホール辺りに来られなかった場合朗読が始まりますのでご了承のほどをよろしくお願いします。──ほんとだネットで売ってる、確かにえぐいなこれ』

「テオ────―っ!!!!」

 

『海月』が羞恥心に身を任せて駆けだす。勿論罠なのだろうが声の主、オレンジがいる可能性が高いというのが彼女の行動を後押しした。そして彼女の跳躍に視線が集まったその瞬間に『十字軍』の足元に何かが投げ込まれる。

 

「ピーマン、焼き肉のたれ、トウモロコシ……?」

 

 空を見上げる。その上には見覚えのある少女がいた。『革新派』の超能力者。裏色愛華。能力は火炎。

 

「よくわからないけどくらいなさい!」

「がぁぁぁぁ!」

 

 爆炎が辺りを覆う。燃える炎は金属を溶かす能力は無くとも一度着火してしまえば被害を出すには十分だ。固まって立っており、かつオレンジとの戦闘の末にダメージを受けていた彼らにそれを回避する術はない。怒涛の状況変化に反射的に『雷鳴』隊長は通信機に向かって叫んだ。

 

「こちら雷鳴、何が起きている、探知を!」

『こちら『猛犬』、探知結果! 南ホールにトウモロコシ、ピーマン、キャベツ! じゃないえーっと、あれ、焼き肉の匂いのせいで匂い忘れた。どれが誰のだ?』

「『猛犬』──ーっ! 我々の命が掛かっているんだぞ!」

『だって最近保存食しか食べてなかったし、俺の嗅覚は普通の人間の何万倍も強いからそれだけ釣られやすいんだよ! それより早く鋼光紅葉を!』

「それは『SOD』の役目だ。クソ、これだから寄せ集めの過激派どもは、マトモに自分の役目すら果たせやしないのか!」

 

『雷鳴』隊長と『SOD』の言い争いもまた加速する。本来『SOD』の役割は鋼光社の担当であり、オレンジは『雷鳴』に任されているはず。なのにそのルールを逸脱するだけでなく別の、難易度の高いであろう任務を押し付けられる。疲れてきた様子を見て鋼光紅葉はニヤリと笑い一つの条件を持ち出した。

 

「なあ傭兵さん。あんたらってうちの仲間やんな? 敵に潜入して、人質を確保するという名目で戦火から守るための」

『何を言って……おい、まさか。『雷鳴』、なあそれはダメだろ!』

「あんたらは焼き肉の匂いで全部パーになるアホウのためじゃなくてこちらのために動いて、そしてフライング『雷鳴』アウェイして脱出する正義のヒーローやろ?」

「フライング『雷鳴』アウェイ……」

『なあ頼むって!』

 

 隊長はしばし考え込む。完全な待ち伏せ。全くと言っていいほど達成されていない勝利条件。『海月』のプライベート情報暴露。嗅覚の破壊。逃走経路の破損。勝率。それらを考えた時、彼らの答えは明白だった。

 

「勿論です雇い主殿、我々は事前の打ち合わせ通り大統領補佐官を護衛しました! 予言者万歳!」

『『雷鳴』の名は裏切りの速度の事かよ!』

「全部読まれてた無能は黙っとけ! 俺には部下を生かす義務があるんだよ!」

 

 これにて『十字軍』崩壊、『雷鳴』は裏切り『SOD』の戦力も多くはそぎ落とされた。そして最後の戦闘は『海月』の向かうホールにて起きようとしていた。


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