《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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お知らせ
この度本作が第10回ネット小説大賞を受賞しました! マンガBANGでお馴染みAmazia様からコミカライズとなります。懐かしのVer1.07で放置されて焦燥するヒニル君も漫画化されます。応援していただいた読者の皆様のお陰です、ありがとうございます!

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でまかせを真実へ

『十字軍』、と名乗るそいつらの格好は様々であった。西欧で見かける聖職者の正装を着込む者もいればぼろきれ1枚を身に纏う者もいる。一方でガチガチの防弾チョッキを不格好に着込んでいる。彼らは口を揃えて叫ぶ。英語やドイツ語らしきものなど様々な言語がApollyonに搭載された自動翻訳により変換されてコクピット内に響き渡る。

「我らが神の為に!」

「いや神などいない。だが天国へ進むために、全ての者に救いを与える為に!」

「救いなど虚偽、だがまずは世界を覆う陰謀に終止符を! 我らが正しき教えにより気づきを得るのだ!」

 

 バラバラだった、せめて思想は揃えてこい。しかしその叫びだけで十分に彼らの本質は示されていた。様々な宗教の狂信者たちはだからこそこのようなテロに加担するのだ。実に10人以上がホールの入り口を固める。その手にはアサルトライフルが握られており弾幕が張られるが、スペース社長たちは素早く俺の機体の足元に隠れ難を逃れた。量産型Apollyonの装甲は通常のアサルトライフル程度であれば簡単に弾き飛ばす。……はずだがすこし装甲が歪み始めている。あれ、この銃弾ヤバいやつか? 

 

「なんとかしろ、護衛だろう!」

「これは想定外です、能力者がどうしてこんなに! 事前情報と違います!」

「やはり異端、『SOD』の中に裏切者がいたな! だが我らもまた真実を告げていなかったからな、喰らえ神の力を!」

 

 神父服の男がそう言ってアサルトライフルを下ろし杭のようなものを3本取り出す。こびりついた血の取れていない、ささくれの残る杭を狙いも定めず適当な方向に向けて投げつけると、俺のApollyonを迂回する形でその杭はスペース社長達に襲い掛かる。だがその速度は遅く、護衛の一人は盾で無理やり弾き飛ばそうとするが逆に盾を粉砕され姿勢を崩した。3人の護衛がそれぞれ全速力の蹴りを叩き込むことでようやく逸らすことが出来るが、その杭は向きを再び変え襲い来る。

 

 念動力と呼ばれるものだろう。超能力を初めて見て少し感動するも、見ているだけではなー、と思い足をあげ下ろす。ただそれだけであったがその下にあるのは杭。Apollyonの全重量をうけて みしりという音がするものもそれでもぴくぴく動き続けている。踏まれても動けるとか出力凄いな、そりゃあテロを起こす自信にもなる。あ、ポキって言った。杭の死亡を超能力で確認したのか神父の男が絶叫する。

 

「相棒っっっ—──―! 貴様、なんてことをしてくれたのですか! 名を名乗れ!」

「ヒニルと言う。地獄までこの名を持っていけ」

 

 いや狙われているのに馬鹿正直にいう訳ないじゃん。俺のApollyonに改めて隠れなおしたスペース社長ははっとした表情を浮かべる。だが他の奴らは俺の声など覚えていないらしく、外部スピーカーから流れ出したその自己紹介を本当だと思ったらしい。さらにボキボキと鳴り響くApollyon脚部の下の音を聞いて血が出るほど手を強く握りしめる。豹変した青ざめた表情で神父服の男は叫んだ。

 

「ヒニル! 絶対に許しません、我らが教義にかけて必ずあなたを地獄に送って差し上げましょう! 問題ありません、地上に地獄を顕現させるのもまた容易、爪をはがすのが入り口!」

 

 ……ヒニル君、本当にごめんなさい。神父は腰から新しい杭を取り出し他は回り込んでスペース社長と俺たちを包囲する。そのうち数人はアサルトライフルを捨てポケットに手を伸ばす。

 

「こ、これはどうすればいいんですか予言者様! 私のApollyonはエネルギー不足とか言ってさっきから立ち上がりません!」

「オレはもって1分。こいつらはそもそも展示用だからな、最低限以上の燃料は搭載していないはずだ。オレンジはどうだ?」

「いや、全量入っているけど」

 

 奏多の悲鳴とテオの言葉に反し俺の燃料表示はMAXだ。恐らく紅葉が入れてくれたのだろう、心の中で感謝しながら『十字軍』の方向に向き直る。ここまで予知していたのか、なんてテオの声を聞き流しながら今後の方針を考える。

 

 一つ目がこいつらと戦う。ただ超能力だ、勝てるかどうかは微妙。さきほどの『雷鳴』は言ったら悪いがパワードスーツの扱いはお粗末なモノだった。まあこっちでは発売されてからそう時間は経っていないし鋼光社による補助システムがコピーできているとは思えない。仮にできていても傭兵に完全版を横流しするような真似はしないだろう。どこまで広がって、何が起こるのか分からないのだから。まあ鋼光社は割とやっているのだけど。

 

 だがこいつらは『基底崩壊』以降の能力者と思われる。すなわち超能力の扱いという一点においてはベテランなのだ。熟練度の差をどこまで埋められるか。そして何より向こうは迷わず俺たちを殺す、あるいは見せしめにでもするのだろうが俺にはそんな覚悟がない。異常者だろうと簡単に命を奪って良いという道理はないのだから。

 

 もう一つが逃げる。Apollyonの機動力を活かして全力疾走、ただしこの場合は見た目が派手過ぎてバレるわけだが。『雷鳴』の他の皆様が走ってきても非常に困るわけである。そして何より、ここに居座り続けると音信不通になったメンバーを確認しにこのホールにも走って来るのが明らかだった。

 

 という訳でもう一つの選択肢。記憶を頼りに弄っていたらヒニル君が昔使っていたらしきコマンドを発見。今回の俺の任務はロボットで無双することではなく、この戦いの中で生き残る事である。俺の機体の目が赤く光る。これを見るのはVer2.01以来だろうか。

 

《自動操作システム起動 命令:対象を行動停止に追い込む(非殺傷)を受け取りました。操縦者を自動排出します》

 

 本当に用意周到な紅葉だ。コクピット内に隠されていた何度も握った金属の塊をコスプレのポケットに無理やりねじ込む。次の瞬間がちゃりと機体の背中が開きワイヤーを伝うような形で俺は地面に降りた。

 

「逃げるぞ!」

 

 そう叫び『十字軍』と反対の出口に走り去る。スペース社長たちも他のメンバーも頭に? を浮かべていたが俺が乗り捨てた機体が目に赤い光を灯したままその長い腕で大地を勝手に薙ぎ払ったのを見て理解したようであった。『十字軍』は逃げる俺に向かって射撃しようとするものの搭乗者のいない、捨て身の自律兵器に物理的にも精神的にも逃れられなくなってしまう。

 

「く、まずはこいつを倒してからか! 力を持たぬ者よ、関節部を狙え!」

「ヒニルからオレンジが出てきた……? つまりオレンジはヒニルだったのですか……?」

「神父、杭をコンピュータに叩き込むんだ! ぼーっとしていないで早くしろ!」

 

 銃口をApollyonに向けて戦闘を始める彼らを他所に俺たちは扉を出る。その先もまた入り組んだ通路であり、しかし振動によりぼろぼろと粉末は零れ落ち照明は不規則に点滅する。俺の後ろについてきたテオ、奏多、そしてスペース社長たちは道をただただ走っていく。至る所から銃声と破壊音と……何か大地を引っこ抜くような異様な怪音が聞こえる。何してんだコレ。背後から少し息を切らした様子の、まさに紳士と言った姿のスペース社長が翻訳機を通して俺に声をかける。

 

 だがそれは逃走中の仲間としての言葉ではない、もっと冷たく焦燥感の籠った言葉だった。黒い視線が俺を貫く。

 

「いい機会だ、君を殺害する」

 

 その瞬間、護衛の男たちの姿が掻き消え俺の周囲を囲う。テオと奏多が必死な表情で抗議するもののスペース社長は涼しい顔であった。俺の後頭部に金属の冷たさが広がる。

 

「スペース社長! それをやっても何にもならない! 7%ものクリア率を生み出したのはこいつのお陰だろうがよ!」

「そうです、なのにどうして」

「君たちは何も分かっていない、この能力者の脅威を。今彼は私を脅しているのだ」

「?」

「このたった数時間で我々『革新派』は事実上詰んだのだ。今こちらに残っているのは全面降伏か、辛うじて対等を取り繕うだけだ。彼女の言うように、本当に淡々と、作業の如く2060年までにすべてを終わらせてしまうのだろう。──だが予言者が死ぬならば話は別だ。挽回のチャンスがある」

 

 急に何か言ってやがるコイツ。詰む要素あったか? とマスクの下で疑問符を浮かべる。だがそれは事実なようで苦虫を嚙み潰したような、人生の最悪を纏めて味わっているような表情をスペース社長はしていた。テオは理解したのか驚愕の表情を俺に向けてくる。

 

「そうか、この一手で既に! だがスペース社長、オレがアンタに協力しているのは世界を救うためだぜ。そのためクソみたいな人体実験にも耐えてきた」

「君の協力には感謝している」

「だから、それを止めるなら許さねえぜ? オレにとって世界を救えるのならば何でもいい。それが納期が早く対価も安いなら猶更だ」

 

 テオがスペース社長の背後を取る。護衛が動くより早く脇の下を通し首を拘束、爪を突き立てる。金属製の、爬虫類のような細く鋭い爪だ。彼らの間に動揺が広がる。互いの命を握り合っている状況に戦場のど真ん中で沈黙が生まれる。それより詰んだとか言う話、ちゃんと説明してくれません? 

 

 凄く気まずい。格好つけたスペース社長、仲間に裏切られるとかいう一番恥ずかしい状況になっているし。とはいっても妥協点を見つけなければな、と思い適当を言う。

 

「テオ、別に大丈夫だ。──もう狙いをつけ終わっている」

 

 それを聞いたスペース社長はキョロキョロと周囲を見渡し俺の背後を見て目を大きく見開く。え、マジで何かあったの? そう思っていると背後から声がする。

 

「看破しているとは流石お義父様。皆様も動かないで下さい、カバーに入るより早く心臓を打ち抜けます。心臓が止まれば義体技術で復活するのは難しいですよ?」

「センサに引っかからないだと……!」

「それは逆周波で打ち消せます、一つ勉強になりましたね」

 

 幼い子供の声。俺はそれに聞き覚えが勿論ある、カナのものだ。それを見てスペース社長は嵌められた、と悔しそうな表情をする。だからそれに付け込んで俺は本気の出まかせを言う事にした。この状況で一番ダメなのは揉めているうちに『十字軍』の皆様に射殺されることだ。だから俺がやるべきことはこの人と仲良くすることだ。ラブ&ピース。ただし味方になれそうな人に限る。

 

「このままじゃ俺たちは全員纏めて死ぬ。これは嘘ではない」

「その証拠はなんだ!」

「銃を突きつけたままで構わない、このまま歩こう。今から空を高速道路が舞ってついでにフライングヒニル君が天を衝く。『雷鳴』は裏切り『十字軍』はバーベキュー。その時までなお銃を突きつけたままである場合俺たちは全滅する。俺を撃って逃げのびたらきっと一緒にバーベキューになる。こんがり焼けたスペース社長様の完成だ。どうだ、具体性のある予知だろう?」

 

 ぜーんぶ嘘だ。だがその突飛もない話が逆に信憑性を帯びたようだ。スペース社長とカナが息を呑む声が聞こえる。当たり前だが高速道路は空を飛ばないしその他もまあ起こらない。だけどきっと紅葉が何とかしてくれるでしょ。しばらく押し黙ったスペース社長はやがて静かに頷いた。

 

「銃は突きつけたままだ。見せてもらうぞ、その予知の実力」

 

 ……うん、紅葉頑張って! 多分奥歯の通信機で全部聞こえてるよね! 

 




紅葉「なんやて???」

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