《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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 結晶樹。2060年の世界に存在する、金属の植物。それはわかる。だがどうして2040年のオホーツク海に存在するのか。少し近づいてみても動くわけもなく海流に流されて金属質の茎が左右に揺れるだけだった。

 

 うーん、だから何だという話ではある。特にできる事がないし対応に迫られることがない。少しの間じっくり眺めていると実況の内容が変化する。

 

「さあヒニル選手が無様な叫び声を上げたところで視点を変えて、他の場所に目移りせず一心不乱に深海を目指すオレンジ選手の画面に映ります! おや、これは『HAO』でも知られている結晶樹ですね!」

「……結晶樹? 何故だ、それは5式始原分裂体から派生したものであるはずだ。ならば始原分裂体が覚醒した後が結晶樹の出現タイミングのはずだ。いやしかし、そもそも『SOD』のように『UYK』の影響を受けたものは事前に存在する。それに伝播した?」

「あ、あの長喋先生解説の方をお願いしたいのですが」

 

 俺の方に画面が切り替わったようで話が結晶樹に移る。長喋先生とやらもこの現象は分からないらしい。もしこれが紅葉の計画だとするならこれも分かっていてもいいはずだが、想定外なのかあるいは急遽作業が入った、例えば場所移動とかがあって調査不足だったのかもしれない。

 

 まあそれはともかく、色々変な事態が何だしこんなことも起こるんだろう、とモニターを見つめなおす。もう少し下、結晶樹の近くに青い波紋が表示されている。つまりパーツだ、それも二つ。まずはそれを取ってから考えるかと更に深海に向かって進んでいく。

 

 ライトをつけていると不思議な感覚だ。空と前方だけが明るくそれ以外はまるで夜のようだ。深海は驚くほどきれいで海溝の岩肌に沿って俺は潜航していく。下に沈めば沈むほど植物の姿も魚の姿も減っていく。視界を小さい塵が飛び交い、しかしそれ以外に不規則に動くものはもはやほとんどない。一人ポツンと、海の中に残された。

 

 そうやって降りて行ったところにそれはあった。2つのパーツが結晶樹の茎に引っかかってそのまま止まっている。一つは巨大な腕。いつぞや見たRE社製腕部一体型ガトリング砲RE-222。本来指がある部分には巨大な6門の砲口が取り付けられており腕から広がる弾倉の束は尽きることを知らない。そしてもう一方は皆さまお馴染みただのブレードだ。少しがっくりしながらRE-222を腕に近づけ、出てくる文字列に取り合えずYESと返答し続けた。

 

『モーセの剣』の起動音がけたたましく鳴り響き右腕部を無理やり水蒸気の空間に仕立て上げる。腕と機体の付け根からヘリウムの風船がぽこりと姿を現しそのまま接続部を失った左腕は深海に落ちていく。RE-222の外付けユニットが俺の機体と自身の位置を太いアームで固定してヘリウムの風船に近づける。そして風船を潰しながらガトリング砲は勢いよく機体と接続した。なるほど、こうやって水蒸気による機体破損を防いでいるのか。

 

『RE-222を装備しました。6ポイントのパーツです。対分裂体用ヒートブレードを入手しました。5ポイントのパーツです』

「おーっと合計11ポイント分の武装だ! これは一気に1位に躍り出たか!?」

「間違いないですね、ナカモト選手が10ポイントですから。しかし彼の問題は最速で潜航してしまったせいで敵がいないこと、さらにガトリング砲は射程が短いことです。遠距離戦を仕掛けられたら終わりというのは大きなリスクです」

 

 そこまで解説してくれるのはありがたい話である。だって俺もよくわかってなかった、確かに狭そうだと思ったけどそこまでだとは思わないじゃん。あとヒートブレードってことは今までのブレードとはだいぶ違いそうだ。正直MNBでぶん回せるほうが強いから加熱機能消してMNB搭載して欲しい所だけど。そう、この機体MNBないからね。

 

 周囲を見る。結晶樹の茎は益々数が増えていて、太陽の光がほぼ届かないにも関わらず葉を大きく伸ばしている。海藻の類であるはずなのにも関わらず見た目は桜の木に近い。唯一の違いは海流に合わせて大きくしなるところであろうか。多分普通の樹木のノリでやったら大失敗したからあわてて自らを改変でもしたのだろうか。もしそうだとしたら余りにも間抜けな話であるが。

 

「間抜けだった……」

 

 流木の如く目の前に折れた結晶樹が流れてくる。うん、しなりの無い完全な剛体っぽい。中は空洞で至る所に傷があるところを見るにある程度前の物のようだ。きっとしなりがなかったせいで海流に完全敗北しべきりと折れたのだろう。

 あれが失敗作第一弾なんだろうなぁ、なんて適当な予想をしていたら狙撃VRで磨いた、よくわかんないけど多分狙われてる気がするかもしれない感覚(成功率40%)を覚え全速力で機体を傾ける。うん、勘だけじゃなくて頭上に小さい影があったというのが主な原因なんだけれど。次の瞬間鋼色の、地上の時よりはだいぶ遅い弾丸が俺のコクピットがあった位置を正確に貫いていた。

 

「おおっとオレンジ選手、難なく射撃を回避! アラームが出るより早く回避行動を取ったぞ、どうなってるんだこの選手!」

「多分影なんじゃないでしょうか、下から見れば一目瞭然ですから。だから魚の中には腹が発光する種類がいるんですよね」

「予知能力に違いない! そして狙撃してきた相手は期待の新鋭、年齢は未だ中学生! 13歳の少年!」

 

 そして実況の告げる名前に凄く聞き覚えがあった。あ、そうかこいつもいるのか。

 

「──『☆スターナイト☆』選手です!」

 




懐かしの☆君でした。何話ぶりだ……?

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