《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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潜航開始!

 適当に出まかせを言ってステージを降りる。頭真っ白になってたからもう何言ったか忘れたけどまあいいでしょ、格好よく「優勝します!」とか言っているはずだ。

 

 そんなわけで案内の黒服に続いて暗い通路を進む。が、異常に長い。何度も通路を曲がるのに一度たりとも外に出ることなく道が続いていく。だるいなぁと思い始めた辺りでようやく目的地が見えてきた。

 

「まじか」

 

 他の場所と変わらぬ簡易建築特有の壁で囲まれていてその中には3台の量産型Apollyonが鎮座している。膝をついた形で座っているApollyonのコクピットに乗り込めるように梯子がついており、またそこから無数の線が大きなコンピュータ-に向かって伸びていた。そんな中見覚えのある顔2つがそこにはある。

 

「予言者様!」

「おう、予言者じゃねえか」

 

 テオと奏多(カナタ)である。この二人が同室という事で良いのだろう。奏多(カナタ)の方は既にコクピットまで入っており頭だけだしている状態だったが勝手に閉まったコクピットに飲み込まれて行って見えなくなる。その場には俺とテオ、そして何らかの作業をしている作業服の職員だけ。梯子を昇りかけていたテオが一瞬降りようか悩んだ後職員に促され渋々と俺への視線を切る。

 

『説明不要の戦闘力! グランドストーリーのNPC、ナカモトの元となった人物。その強さは未だに無限地平線で生存しているあの姿からご理解できるでしょう! 本日においてオレンジと並ぶ優勝候補、仲本選手──!』

 

 少し離れた位置にあるモニターではステージの上が映し出されている。全世界に放映されているこの番組は同時視聴数が30万を超えている。……これ日本だけなんだな、海外を含めばどうなることか。

 

「間もなく開始です。搭乗をお願いします」

「え、このまま戦うんですか?」

 

 この話だとApollyonが万博記念公園で暴れ回るという内容になりそうであったので聞く。なんといったってこの量産型Apollyon、恐らく動く。MNBの冷却管が見当たらないから恐らくVer1.07か1.08辺りの機能であるのだろうけれど。

 

 そう言うと職員は笑っていった。

 

「それはバトルロワイヤルとは別です。このコクピットを利用してゲーム内の量産型Apollyonを操作して戦います。このコードは内部に映像や音声を送るための装置ですね」

 

 なるほど、『HAO』の大会なのに、と思ったら実際のApollyonを使ってみるという企画も兼ねているわけか。詳しく聞きたいところもあったが急かされているので仕方なく搭乗を急ぐ。量産型Apollyonは青い、今までのより少し太った重装甲のデザインになっている。最初の頃を思い出すな、と俺はコクピットに乗り込んだ。

 

 内部は見覚えのある、馴染んだそれだ。壁に大量のスイッチがあり操縦桿が真ん中に置かれている。唯一違うのはApollyon操作の為に補助脳を使えないからだろう、黒色のカッコいいヘルメットが鎮座していたことだ。中をひっくり返してみると金と銀のむき出しの電極がびっしりとついている。ちょっと怖いな、と感じながら俺は被り、少し興奮する。本当に巨大ロボットを操作しているみたいだと。実際の操縦桿を握りスイッチを押して攻撃する。……でもそれならここにVR装置おいとけばよかったのでは? 

 

 うーんとなる疑問はコクピットが閉まり室内が薄暗くなることで遮られる。とりあえずいつもの癖で体をコクピットに括り付け、右手を操縦桿に、左手を武器使用のためにスイッチにかける。しばらくの沈黙の後スピーカーから声が流れる。

 

「お待たせしました皆様! 只今より量産型Apollyonによる量産型Apollyonのためのバトルロワイヤルを開催します! それでは画面をオープンしてください!」

 

 コクピット内に光が入る。そこは大海原だった。鳥が空を飛んでいるのが見え時たま海面から魚が飛び出している。青い海の中で無数の輸送船が立ち並び、少し先に他参加者の機体らしきものも見えた。それはクレーンで吊るされていて、俺も上を見上げると同じであった。太いワイヤーで機体が括り付けられており、少しずつ海に近づいていく。

 

『舞台はここ、海です! 皆様には深海に潜っていただきます。最後の一人になるか制限時間3時間を過ぎるかのどちらかで試合終了、複数人生存していた場合はポイントにより順位を決定します!』

 

 え、それ怖いんだけど。暗い海の中で戦えってこと、プールとかじゃなくて!? 怖くないかな、とビビりの本性が現れている横で構わずスピーカーはなり続ける。

 

「協力は勿論アリです! またこちらの実況解説は常に流れ続けます、深海でも暇にはさせませんよ! さて、これだけだと面白くないのでさらにもう一つ、それがこちら!」

 

 コクピットの端に画面が開く。そこでは前見た量産型Apollyon用武装、RE-222という名のガトリング砲がクレーンに吊るされていて、それが海に落とされる……? どぼんと大きな水しぶきを上げガトリング砲は海に沈んでいき、続いて俺の周囲でも水しぶきが上がり始めている。そうか、ここは公海だから。武器を落としたとしても罪に問われない。

 

「ポイントシステムです! 思い出してほしいのが換装、最新の量産型Apollyonは現地で腕を丸ごと交換なんて荒業ができます。そう、プレイヤー全ては武装無しの状態で投下され高ポイントのパーツを求めて深海に潜ります。深海ほど高ポイントの、強力なパーツが存在しますが一方で海溝の性質上空間は狭まり他参加者とのエンカウント率が高まります。最速で最強武器を手に入れるのか、それとも漁夫の利を狙うのか! 戦略は人それぞれです!」

 

 パーツを集めれば強化できてさらに制限時間が来た時には順位を決める指標にもなる。だからパーツを集めて戦って、最後の一人を決めるというシステムなのか。しかしこれだけマップが広いとエンカウントが……いやそのための配信か。単純そうに見えて複雑と思ってたら実は単純な奴だこれ、もうやってみて理解するしかなさそうである。

 

「それでは試合を開始します。レディー、GO!」

《『モーセの剣』を起動します》

 

 機体が浮遊感に包まれる。海に叩きつけられる前に改めて見る。青い海。船に書かれた日本語とロシア語。つまりここは『HAO』の中などではない。今朝のニュースが思い出された。

 

 2040年のオホーツク海。その中心でバトルロワイヤルが遂に始まる。

 


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