《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

82 / 111
10/46

「で、なんで予言者はルアーに引っかかった魚みたいになってたんだ?」

「聞くなよ……」

 控室の中でテオにそう言われて俯く。見られたの本当に恥ずかしい。しかも精一杯の抵抗が0ダメージだったのも。何で噛みついた側が自分の歯の心配をする羽目になるんだよ。

 

 そういった恥の感覚が少し過ぎ去ったところで改めて隣を見る。テオ。2060年で死んだ男。だが20年前という事もあり顔かたちはそのままでも少しだけなんというか、圧が少なく若さがある。だが俺は彼とどう話せばいいのだろうか。状況を整理してみよう。

 

『教団』と『革新派』なので対立している。俺は彼のことを知っているが彼は俺の事をデータしか知らない。そして何より、2060年のテオが動かなくなる光景が──

 

「まあそう言うなら置いとくか。配信見たぜ、いやーオレ格好良かったな!」

「……死んだのに?」

「ああ、融合体なんて乗れば分裂体に殺されるか融合体の部品になり果てるか。なら格好よく死にたいぜ、オレは」

 

 まあこいつはそう言うと思った。じゃなければあんなに明るく死地に赴くわけもあるまい。……融合体乗るの、この感じ的にはやっぱりあきらめた方がよい感じなのか? 凄く残念なんだけど。当の本人がそうなら内心はどうあれ俺が暗い雰囲気を引きずるのは良くないな、と思い改めて前を向く。

 

 控室は1部屋に纏められており60人近いプレイヤーが思うがままに過ごしている。1部屋と言っても小さい体育館くらいの大きさはあるため余裕があるが、その中で多くの視線が向けられているのを感じた。

 

 プレイヤーは年代も性別も国籍も様々であるがその多くが他人に見られることを意識した服装であった。元から別ゲームのプロゲーマーであったり有名人が集められているような感じで俺だけ場違い感が凄い。マスクを被っていて良かったと思うことになるとは思わなかった。このコスプレなら逆に他人を威圧できる。

 

「あ、あの」

 

 そんな中で一人の少女が俺に声をかけてくる。髪を明るい緑色に染め、一昔前なら地雷系なんて呼ばれていたであろうひらひらが過剰についたモノトーンの服を着た少女。日本人。年齢は俺より少し下くらいだろうか。どちらかというと穏やかな雰囲気の可愛らしい姿をどこかで見かけた記憶がある。そうだ、『HAO』動画のサムネイルだ。彼女は上ずった声のまま意を決して口を開いた。

 

「は、初めまして予言者様! 西日本精密重金工業株式会社の奏多(カナタ)と言います! この度は私たちを『教団』に加えていただきありがとうございました。お陰で経営も改善し破産を免れました。このご恩を胸に予言者様に精一杯貢献させて頂きます!」

「お、おう。よろしく」

 

 早口で並べられた言葉にめまいを覚えながら内容を飲み込む。そういえば鋼光社は情報を共有して他企業と連盟を組んでいて、そのうちの一人が彼女の所属する会社ということか。そりゃこれだけプレイヤーがいれば関係者が一人くらいいてもおかしくない。……だが彼女の表情にはその、崇拝とでも呼ぶべき危険な光がある事に俺は少し恐怖を感じていた。彼女は心の奥底から信じていて、そして期待しているのだ。オレンジ様の偉大な救世劇を。

 

 困ったなぁ、楽しくゲームしてるはずがどうしてこうなったのか。そう思いながら適当に会話を打ち切ろうとするが奏多(カナタ)はそれを許さない。

 

「一度聞いてみたかったのですが未来を見るってどうやっているのか教えて……いえ失礼なことを言いました代わりにサインを頂けませんでしょうかって紙忘れた!?」

 

 というか一人で空回りしている。彼女が叫べば騒ぐほど注目が集まっていくのを見て『教団』なんて名前が付くのも納得だなと一人思う。そしてその実態の滑稽さにも。さてどうしようか、と思っていたが壁の向こうから新しい声が聞こえてくる。

 

「つーちゃん頑張ってね!」

「……そちらこそ気を付けろよ」

 

 そうやって部屋に入ってくる人物に非常に見覚えがある。眼鏡を掛けた落ち着いた様子の青年。そう、我らが眼鏡先輩だった。彼は俺を見た後一直線に向かってきていきなり頭を下げてきた。唐突過ぎる事態に目を回していると彼は後悔した様子で語り出した。

 

「今回はすまなかった、あんな状況にしたのは俺のせいだ。俺達が2060年までに5式と7式と8式と11式と13式と14式と19式と25式と29式と35式始原分裂体しか倒せなかったせいで……!」

「ちょっと待って待って倒しすぎじゃありませんか仲本先輩!?」

「2055年の作戦でもう一息踏ん張っていれば17式は倒せたはずだった。そうすれば撃ち落とされることもなくあそこで調査を終わらせずにすんだと思うんだ」

 

 いや自慢か!? 何言ってんだよ分裂体の何割倒してんだよアンタと思うがそういえば世界最強のApollyon使いみたいな話をポロっと聞いたことがあったか。だからこの謝罪は自慢と言うよりも自身の目標を達成できなかった後悔なのだろう。自分ならできたはずなのにという。しかしそれにしても強すぎませんか、人間の戦闘力かそれは? 

 

 まあ確かに17式が居なければ作戦はもっと上手くいっていただろうけど。あとこの言い方は『同期』してVer3.00の経験を回収したからなのだろう。周囲の視線もきつくなってきたし俺もそろそろ反応に困ってきた。自覚してわかるがこれは面倒だ。……『固定』された俺はこれを15年続けたのか。本当にそんなことが出来たのか? 

 

 頭を下げ続ける先輩に会話に割り込まれてどうしようかとおろおろする奏多(カナタ)。幸いにもその微妙な空気を打ち破る救世主が外から現れた。俺たちが入ってきた方向と逆側から黒服の男が現れると共に巨大なモニターがONになった。そこには二人の解説役の男の姿があり同時に軽快な音楽が流れ出す。黒服は裾からメモを取り出し部屋中に響き渡るように叫んだ。

 

「『Quickly Los(すぐ負ける)er』選手、『Badly Lose(凄く負ける)r』選手、『Severely Los(酷く負ける)er』選手、こちらにお願いいたします!」

 

 ……なんか今までの話どうでもよくなってきた、何その名前?




眼鏡先輩
最強の名に偽りなし。Ver上がるごとに戦果を高めていっている。まだ成長中。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。