《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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彼女と俺と約束と

 予言者との接触禁止というのはマジだったらしく警備員に囲まれとぼとぼと外に出ていく大統領補佐官を横目に俺達は控室に向かおうとしていた。カナはまだヒニル君を躾けているようなので置いてきた。……というかあの見た目からするとヒニル君の方が年上なのか。まあ俺の方はコスプレしてて年齢バレてないから誤魔化せるだろ、知らんけど。

 

「……リア充か、夫婦に見えたのかな」

 

 先ほどのヒニル君の言葉を思い出してか少し戸惑いつつも喜んでいるような表情をしているレイナに……困る。Ver1.08の一件でその感情を知りはしたものの今のレイナ本人から聞いた話ではない。どうしたものか、結論を出す必要はあるのだろうけど今はスルーしてしまうことにする。紅葉の事もあるのは勿論、一番の問題は『固定』だ。仮にどちらかと付き合うと決めてその後に『固定』された未来に入ってしまったらどうするのか。無になる事が分かっていて、目の前で人が死んでいく未来で楽しく恋愛なんてできるのか。

 

 だから俺もまたわからないフリをする。ぎごちなく視線を前に向けて展示物の一つを読み上げた。巨大な腕には武骨な金属製の砲がいくつも取り付けられており、弾が入っていないと分かってもその鈍い光に圧倒される。

 

「お、これはRE社製の部品を使ってるのか。ふーむ『軽量かつ高性能なRE社製腕部一体型ガトリング砲RE-222』か、これって確か付け替え可能なんだよな」

「そ、そうだね。勘次はApollyonの長期戦をしなかったから体験できていないけど鋼光社の部品で規格を共有しているから簡単に武装交換が可能なんだ。例えば」

「右腕分解ならR側第4ボタンからパージ操作が出来るんだったな、予備武装類の応急処置用自動整備装置を使えばその場でパーツの接続部を簡易清掃して12秒で接続できるらしいのは凄い。合体ロボの世界が現実にやってき始めている」

「あ、あのー」

「極論言えば壊れた機体複数をつぎはぎすればあっという間に動作する機体ができる。Ver2.00の時に告知されていてあまり使う機会はなかったけれどこれは革新的なんだよな、無限地平線攻略作戦における可能性になるかもしれない」

「すとーっぷ、すとーっぷ!」

 

 レイナの制止におっと熱く語りすぎたかと意識を戻す。呆れた様子のレイナは言っても仕方がないかと肩をすくめ、視線を一度外にやった後道を塞ぐように俺の前に立つ。控室に行く前に何かやりたいらしいレイナを見ていると彼女はポケットから何やら小型の機械を取り出す。奥歯程度の大きさのリングの上になにやら肉のように赤く染色されたそれを持った彼女の視線は急に真面目なものになった。

 

「ほぼ確実に今日、『焦耗戦争』が起きる。紅葉含め私たち全員はそれに対策するために動いている。主軸の『SOD』、鋼光社の恩恵に預かれなかった企業達が雇った中華系の傭兵団『雷鳴』、天国の救い無き固定された未来を許さない既存宗教の混合勢力『十字軍』。絞りに絞ってなおこれだけの勢力が鋼光社、そして君を今日殺しに来る」

 

 先ほどまでの空気と一転した口調はその意味が真であることを示していた。余りにも馬鹿げた言葉であるが今までの情報を集めると真実でしかないことに笑いがこみあげてくる。本当に俺はゲームをやっていただけなのだ。家でVR機器を被って配信していただけ。たった2ヵ月にも満たない期間『HAO』を遊んでいただけで今テロリスト達に命を狙われる事態になっている。本当に、本当に。

 

「滅茶苦茶だ」

「滅茶苦茶なのはどちらかというと君だよ。恐らくタイミングはバトロワ終了直後、配信がまだついている状態で優勝が決まって、世界が注目する瞬間。彼らの目的は『HAO』による未来改変を終わらせること、有力者たちに『HAO』は組するには危険すぎると判断させたいんだ」

「……というか本来あれ、『固定』された後自殺者とかでて滅茶苦茶になってから起こるんじゃなかったっけ?」

「そうさ、だから混乱のおかげで支持者も多く戦争と呼べる規模になった。だけどそれはVer3.00までの話。紅葉が裏で撒いている「2040年中に『UYK』殺害を行う」という情報と権力者が参列する新技術展示会の情報が彼らを駆り立てたわけだ。想定の何倍もの速さで物事が動いて未来が消費されている、早く止めねばとね。まだ期限が7か月ほどあるのにも関わらず」

 

 なるほど、そんな状況なのに突撃してくる筋金入りの過激派だからこそ纏めて潰す意味があるのか、と納得する。本当に最小規模で『焦耗戦争』を終わらせる気なのだ。自身を、そして俺や政治家の皆さんを餌にすることで。

 

 しかしそうなると俺の命が危ない。どうすればいいのか、と聞こうとすると彼女は口を開けるよう手で指示をしてくる。仕方なしに無言で口を開けるとその中に彼女の細い指が侵入してきた。一方通行の通信機だよ、と言いながら壁に押さえつけられ顎を固定される。

 

「うん、本来は勘次を巻き込むべきじゃない。君の元に来る前に終わらせておくべき問題だったけれど、こうせざるを得なくなった。ごめん。私は約束するよ、必ず勝って終わらせるし必ず無傷で切り抜けられるよう手配する。……だから君も約束して」

 奥歯に金属の冷たい感触が広がり、ゴソゴソと蠢く指が舌を撫で上げながら装置を取り付けようとする。器具の取り付けであるはずなのに妙な背徳感を感じてぞくりとしてしまう。人がいつ来てもおかしくない場所で、普通はしないであろう行為を。レイナもそれを感じてなのか少し顔を赤らめていった。

 

「──変なことはあまりしませんって」

 

 ちゃうわこれただの歯医者だ、背徳感とかないわ。かちりという音と共にレイナは満足げな表情をする。抗議のために噛みつこうとする俺は柔らかいはずなのに欠片も食い込む感覚の無い指に戦慄した。というかそこはもっと良いこと言うシーンじゃないのか、あと変な事するの確定なのおかしいだろ。俺が真っ当に全てを終える可能性の方が高いんですが! 

 

 指に全力で噛みつく俺と一切ダメージを受けず呆れた顔をしているレイナという光景は後ろから青髪の男がやって来るまで続くのであった。見られた、恥ずかしい……。


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