《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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宣言byヒニル

 裏口から回れば2日前に入ったホールのすぐ近くだ。回り込んでいるうちに警察がきたのかいつの間にかデモ隊は退散していた。待ち伏せするかのように簡素な廊下の壁にレイナは体重を預けていたが手を繋いでいる俺とカナを見て一瞬無言になる。その後おずおずと俺の反対側に立ちカナの手を取った。

 

 俺、カナ、レイナの順に並ぶ3人だがなんというか、親子っぽい。見た目だけで言うなら俺だけ完全に浮いているのだが。というのもまたしても例のオレンジコスプレをさせられたのだ。『HAO』の話を考えれば身の安全の為に仕方がないとはいえ、美人2人+不審者と言う構図だ。……いや、白銀の髪という浮世離れした見た目を考えたら3人そろってコスプレと思われるかもしれない。視線をうろうろと、本当に目にもとまらぬ獣人特有の速さで泳がせ捲くった後に平静を取り戻したらしいレイナが咳払いする。

 

「コホン、昨日はお疲れ様、勘次」

「裏で色々動いていたんだろ、そっちこそありがとう」

「それは紅葉に言ってあげて欲しいかな。私はあくまで拳振り上げたり蹴り入れたりするだけだしね」

「うーんバイオレンス!」

「実際この2日は前哨戦にすぎませんでしたからね。お母様は突っ立っていただけです」

「もー! そういうことは隠しておいて欲しいなぁママは」

「その割には袖の下が見受けられませんでしたが」

 

 むぅと膨れるレイナと笑うカナ。精神年齢という意味ではレイナの方がまだ上なのかもしれないが『同期』による攻略法が強すぎる。距離感を完全に把握しているカナとスムーズに受け答えしているように見えて未だどうすればいいか分からないレイナ。

 

 彼女からしてもカナという娘は急に現れた相手なのだ。過去の、閉じた心を開いた記憶はカナ自身にしか残っていない。アンバランスな関係。……といっても俺こんなの多い気がするけど。

 

 足を進めると展示スペースに入る。様々な機械やApollyonの展示が行われているこの巨大スペースは2日前に見たとおりだが以前と明らかに違う点がある。

 

 人がいない。3日目は撤収及びバトロワ開催の関係でトラブルが起こらないよう観客を絞るらしい、というのはつい先ほど聞いた話であった。だが絞ると言っても余りにも少ない。この広いホールに警備員含めても30人もいないのではなかろうか。

 

 そして次に、警備員の背中に背負う箱が大きくなっている。以前は警棒を入れるためのものと誤魔化しがつくレベルであったが明らかにサイズ感がずれている。ゴルフバッグほどの、それこそ銃器でも入ってしまいそうな大きさだ。

 

 その周囲を黒服に囲まれた明らかにお偉方と思わしき人々がちらりちらりとこちらを見ている。非常に居心地の悪いその空間で「あっ!」という声が響く。凄く聞き覚えのある声だった。主に動画で。その若い男は無駄に格好つけた黄色と黒の縞模様をしたコートを着ている。踏切みたいだねその恰好。

「オレンジじゃねえか、ふ、ふ許さなねえから、な」

「初めまして、声震えてるけど大丈夫?」

「大丈夫じゃねえ、くそこれだから対面は嫌なんだオンラインで良いだろ大会とか!」

 

 そう、ヒニル君だ。しどろもどろになってはいるもののその口調を聞き間違えることはない。だって最近音MADでき始めてるだろ君。『断末魔.mp3』の素材とか汎用性凄すぎて定期的に耳にするし。まあ肝心のチャンネルは再生数伸びないままのようですが。因みに無許可と言うわけではなく動画の拡散を期待して動画の切り抜き・加工を全て可という設定にしていたせいなので完全に自業自得だ。

 

 ヒニル君は俺を見て怒り散らかした後俺と手を繋いでいるカナ、そしてレイナを見て固まる。数秒の沈黙の後「……リア充?」という言葉が彼の口から飛び出す。それ相当の死語だぞ、俺も昔の作品でしか見たことがない。二人を見てしばし固まった後ヒニルはそれはもう盛大に叫んだ。

 

「いいかオレンジ、この大会には俺も参加している!」

「うん」

「そこで迷惑極まりない機密情報漏洩マシーンである貴様を倒してやる!」

「へー」

「どんな手を使ってもだ! 試合中俺はお前だけをつけ狙う! お前を倒す為に声をかけて陣営を組んで抹殺してくれる! お前だって無敵じゃない、所詮ただの1プレイヤーであることは昨日の配信でバレているんだからな!」

 

 凄く勢いよく叫ぶヒニル君であるが正直反応に困る。そういう相手ではないと思うんだよ俺たち。どちらかと言うと行きつけのスーパーで顔を見かける程度の関係であってそんな敵対宣言されてもぽかーんとしかできないです。

 

 俺が押し黙っているのを見て怯えていると勘違いしたのかニヤニヤ笑いだすヒニル君であったが、その前にすっとカナが出る。俺達とつないでいた手にはいつの間にか端末が握られている。そこにはタイトルだけ聞き覚えのあるヒニル君の動画が映っていた。カナが「ちょっとこちらへ」とヒニル君を手招きするとヒニルは一気にふにゃけた顔になって少し外れた場所についていく。

 

「こちらの動画ご存知ですか?」

「知ってるとも、俺の動画だろ! こんな初期の動画を知っているなんて俺のファンも増えたもんだなぁ」

「この12分の所の文字化け、違法ダウンロードしたソフトを使わない限り現れないはずなんです。実機での検証動画がこちらですね」

「え」

「断罪と動画で仰っていましたが、私も真似をしてみたいと思うんですよね。妙に登録者の多いアカウントがありまして、ここで「ヒニルがゲームソフトの違法ダウンロードをしていた証拠、見つかる」と呟くとですね」

「ま、まってくれ。そうだ、偶然懐が温かくてさ、少し床に落としてしまって、それを誰かが拾ってしまっても仕方がないかなーって」

 

 ……うん、可哀そうである。確かにVer2,01の情報をカナに話したことはあったけどさ、脅迫がスムーズすぎる、人が困っているのを見るのが好きというかSっ気があるのは最近把握していたけどね。USBのC端子とD端子とE端子のコードを混ぜて置いておくとか。レイナは「親、実は紅葉なんじゃないかな……」なんて呟いている始末だ。ちらりと以前渡されていたバトロワの名簿を見ると確かにヒニルの名前がある。あいつどうなるんだろうな、暴力に訴えようとしたら獣人パワー来るぞ、と思っていると横から人影が現れた。見覚えのある姿かたちだった。

「……Hello, Mr. Orange」

 

 緊張したような様子の白人の男だった。スーツをびしりと着込んでおりその姿は正に人の前に立つのにふさわしいと言える威厳がある。50歳くらいの髭を蓄えた男の口元にはマイクが付いており、腰に着いたスピーカーが自動的に翻訳を開始した。

 

「初めましてオレンジ殿。私は米国のシェイク大統領補佐官です。お会いできて光栄です。あなたへの接触は原則禁じられていると聞いています。しかし一つだけ聞いておきたいことがあります」

 

 大統領補佐官。副大統領よりも権力のあるとされているアメリカのトップの一人。そんな人物が俺に何を聞きたいのか。護衛らしき人物が慌ててこちらに駆け寄ってきていて、レイナも何やら周囲に合図をしているが見えるが彼の言葉から耳を離す事は出来なかった。

 

「昨日の出来事と今日の状況は全て想定内でしょうか」

 

 がしり、と容赦なく大統領補佐官を引きはがそうとする警備員とそれを止めつつやはり彼を俺から引きはがそうとする護衛の人々。彼らからしてもこの行動は全て予想外だったのだろう。大統領補佐官ともあろうものが主催側の警告を振り切って予言者に声をかけようとするなんて。

 

「はい! 本日のバトロワでオレンジ様のサポートを精一杯させていただきます」

「声が小さいのでやはりこれを送信したほうが……。そうですよね、断罪とか言って正義ぶっておきながら違法ダウンロードしている悪人を見過ごすわけにはいきませんよね」

「本日は! オレンジ様を! 1位にするため全力を尽くします!」

 

 俺からしてもこのヒニル君は想定外だよ。もっとかっこよくしていてくれよ、小学生の脅迫に負けないでくれ。何か毒気が抜かれてしまったので、俺は多分求められているであろう回答を返すことにした。うん、この空気で真面目にやりたくない。

 

「当然。1から10まで」

 

 大統領補佐官は息を呑む。紅葉がやってることの邪魔になりそうだからあえて語弊を招く表現をしたけど……はい、そうなんです。

 1から10まで想定外なんです。マジで。

 

「復唱」

「私は! カナ様の! 奴隷です!」




カナ
義父の反応が良いので性癖が加速していたところに玩具を見つけた。合掌。

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