《完結》『Hereafter Apollyon Online』~超高クオリティクソゲーの生産職で巨大ロボット造って遊ぼうとしてるのですが何故か勘違いされます~   作:西沢東

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閑話 そろそろ諦めてきた人たち

「う、うん想定通りやで、全部」

「それはないと思うけどね」

「……はい、あんなの知らんかったわ。バーゲンセールでもあんなに集まってこうへんわ、融合体」

「一体どうするつもりなんですか! そもそも何も知らない一般人を担ぎ上げるというところに無理があったのです。それに加え今回の急激な敵の進化、本当に後2回で『UYK』を倒せるんでしょうね!」

 

 5月27日深夜、新技術展示会ホールの一角に3人の姿があった。一人はいつも通りのラフな格好で壁にもたれかかっているレイナ。もう一人はパジャマの上にコートを着て頭を抱えながら目の前の端末で動画を再生する紅葉。そして最後にスーツ姿で困惑し続けているHereafter社の代理人、長喋教授だ。

 

 彼らが集まっているのは当然ながら例の柑橘類についてである。本来、無限地平線攻略作戦はあの場所までたどり着けるなどとは思われていなかった。あくまで最終決戦に向けての現地調査でしかない。そもそも今回の2055年は今までと比べると融合体Apollyonの進化や小型MNB普及など戦力としては今までとは段違いになっている。にもかかわらず勝率が7%止まりでありかつ無限地平線奥地の情報を入手することが出来なかった、それが彼らの予想の根拠である。

 

 蓋を開けてみれば全くの別だ。フライング核アウェイとネットでは言われている行動によりいともたやすく奥地への潜入に成功した。それが意味する事とはつまり。

 

「うん、勘次君の配信映像をコマ送りにして射出速度の概算と組み合わせてみた結果がこれや。……なるほどな、確かにこれは頭やわ」

 

 3人の手元にある端末にもデータが送信される。その立体地図は多くが穴あきになっているものの遠目に見れば何となく形状を予想することが出来る。すなわち、巨大な蜥蜴の頭だ。それがオホーツク海を中心にロシアと北海道全てを飲み込んで形成されている。今までも衛星からの撮影データは残っていたがいずれも宇宙から見てもわかるほどの濃霧に包まれておりまともに観測することも難しかった。だが今回、奥地における低空での撮影が成功したことにより片眼の位置を概算することに成功した。それはアメリカサーバーとパリサーバーで撮影された鼻と人間で言う犬歯の発見と合わせる事により全体の頭の向きとサイズの特定に成功したのだ。

 

 頭だけで推定数千キロ。その盛り上がりで地球が球ではなくなるほどの『UYK』の大きさにレイナは思わずため息を付く。シンプルに大きすぎる。進化だとか融合体だとか以前にただ大きいだけで倒すのにどれだけの労力がいるのだろうか。だがようやく敵の全貌が理解できたというのは大きな前進だ。今までは姿すら手探りだったのだから。

 

 ゲームで言えばマップと中ボス情報とセーブ方法が分からなかったのが解決されたという状態である。だがこの調子であと2回のアップデートで『UYK』を倒せるようになるとは長喋教授にはどうしても思えなかったのだ。

 

「長喋教授に回答しておくとできる出来へん、やありません。やらな勝手に勘次君を担ぎ上げたこっちの立場が無いですから」

「まあ彼が死なないように、というのが発端であったけれど気が付けばここまで大きくなるとはね。初めの落としどころはどこだったんだい?」

「それが偽オレンジ計画のもう一つの目的や。他の企業は情報流そうとする個人を裏の力を使ってでも徹底的に潰そうとするから逆にこっちがオレンジという隠れ蓑を造ったる。で、自称オレンジ発のデータが増えすぎた結果誰が本当のオレンジなのか分からなくさせる……予定やった。勘次君が暴れまわった結果全部消えたけど」

 

 ああそういえば、と呑気に手を叩くレイナとそれを見て呆れた表情をする紅葉に長喋教授は怒りを覚える。彼女たちとの約束は3回のアップデートで『UYK』を討伐する、と言う話だ。しかし蓋を開けてみれば『UYK』は異常な進化を遂げている。これではまるっきりの泥船だったのではないかという疑念がよぎったのだ。

 

 もとよりこの協定はVer2.01にて半ば脅しのような形で結ばれた。当然会社に帰って長喋教授は凄まじい叱責を受けたし同時にもたらされた可能性を元にそれだけ持ち去って『革新派』と協力しようという考えの者まで内部で現れる始末だ。今のところは統制を保っていても全ての人間の思想を完全に統一できるわけではない。

 

「まあまず融合体のコピーの弱点はコクピットで、更に通信妨害のデータも分かった。次回からは暗号化と特定ノイズを除去することで安全な通信が確保できる」

「……それで本当にクリアできるのですか? 確かに今回は収穫が多い、Ver2.00の資源循環装置の実用データであったり融合体Apollyonの効率的な量産法及び機械獣のコアを保有する人間による操縦データ、小型MNBに月の『UYK』撃退。確かにいずれも大きな成果ではあるが疑念が拭えませんね」

 

 何度も、長喋教授は問いかける。どこまで行っても彼もまた破滅の未来に絶望しその上で立ち上がる者だ。紅葉たちより早く、『革新派』ができる前の『基底崩壊』が起こる段階から研究をしていた人間だからこそなお強く希望が希望であると信じたがっている。紅葉は笑って「明日次第やな」と回答した。

 

 明日は、トーナメントの日である。そして『焦耗戦争』の始まりでもある。

 

「明日頑張る。そして『革新派』を脅迫する。最後に決戦に臨めば終い。道は見えとる。アレはできたんでしょう?」

「……起動条件は限られるが一応は完成していますよ、『逆潜』用のログイン装置は」

「よし、なら大丈夫ですわ、頑張りましょ!」

 

 紅葉が笑顔で話を無理やり締めようとしたところをレイナは肩をすくめながら制した。

 

「勘次から滅茶苦茶メッセージ来てるのスルーしてるよね、『HAO』の真実についての。あと本当に勘次を制御できるとは思えないんだけどな、私は」

 

 レイナの疑問に紅葉は笑顔を固めたまま答えた。その顔には諦めが強く出ていて他二人は何の言葉が出てくるかは大体は想像がついていた。だがそれでも聞かざるをえず、そしてでてきたのはやはり想定通りのものであった。

 

「どっちも知らん!」


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